
今回は、アメリカとメキシコの国境近くにある砂漠のオアシスで暮らす、絶滅危惧の淡水ガメに関するニュースを紹介します。
今回のニュース
アメリカ・アリゾナ州のソノラ砂漠にあるキトバキート・スプリングスで、絶滅危惧のソノイタヒゲナガドロガメを緊急避難させる計画が検討されています。
キトバキート・スプリングスは、オルガンパイプ・カクタス国定公園内にある小さな泉と池です。アメリカ国内でソノイタヒゲナガドロガメが自然に生息している場所は、ここ一か所しかありません。
この泉の近くでは、既存の国境壁に加えて、高さ約30フィートの二重目の壁を建設する計画が進められています。
研究者や保護関係者は、工事に伴う地下水の利用、重機の移動、地形の改変などによって泉や池が維持できなくなる可能性を懸念し、最悪の場合に備えてカメを人工環境へ移す準備を進めています。
どこの国・地域の話か
国・地域:アメリカ合衆国、アリゾナ州
場所:オルガンパイプ・カクタス国定公園、キトバキート・スプリングス
元記事の言語:英語
元記事の公開時期:2026年7月24日
情報の種類:新着ニュース・淡水ガメ・生息地保全・絶滅危惧種
キトバキート・スプリングスは、アメリカとメキシコの国境近くにある砂漠のオアシスです。
周囲約100マイルの範囲でも数少ない安定した水源の一つで、淡水ガメだけでなく、魚や巻き貝、鳥類、哺乳類など、多くの生き物にとって重要な場所になっています。
登場する亀
今回のニュースに登場するのは、英語でSonoyta mud turtleと呼ばれる淡水ガメです。
学名は Kinosternon sonoriense longifemorale。ソノラドロガメの亜種で、日本語の標準的な呼称が広く定着しているとは確認できなかったため、この記事では「ソノイタヒゲナガドロガメ」と表記します。
成体の甲長は最大約13.5センチ。背甲はオリーブ色から暗褐色で、頭部や首には網目状の模様があります。前後に蝶番を持つ腹甲と、指の間にある水かきも特徴です。
アメリカでは、2017年に絶滅危惧種として保護対象になりました。
現在確認されている生息地は、アリゾナ州のキトバキート・スプリングスにある一個体群と、メキシコ・ソノラ州のソノイタ川流域に残る複数の個体群です。
ニュースの要約
報道によると、現在キトバキートの池には、およそ250匹のソノイタヒゲナガドロガメが生息していると推定されています。
研究者たちは、池の水が失われたり、堤が損傷したりする最悪の事態を想定し、可能な限り多くのカメを捕獲して、一時的に人工の飼育環境へ移す方法を検討しています。
アリゾナ・ソノラ砂漠博物館では、野生個体群に何かが起きた場合に備え、すでに約20匹のソノイタヒゲナガドロガメを飼育しています。
同館は、緊急時にはさらに最大50匹を受け入れる意向を示しています。フェニックス動物園も、カメの受け入れに協力する可能性があります。
しかし、カメを施設へ移せば問題が解決するわけではありません。
保護関係者が最も心配しているのは、一時的に避難させたカメを、将来戻せる生息地が残っているかどうかです。人工環境は命をつなぐ場所にはなっても、泉そのものの代わりにはなりません。
砂漠にある、小さな淡水の世界
ソノイタヒゲナガドロガメは、砂漠に暮らす淡水ガメです。
広大な乾燥地帯に大きな川が流れているわけではありません。
地下から湧き出す水が短い水路を流れ、小さな池を満たす。その限られた水の中で、カメたちは餌を探し、身を隠し、世代をつないできました。
キトバキート・スプリングスは、ソノイタヒゲナガドロガメだけの生息地ではありません。
世界でこの泉にしか野生個体が残っていないキトバキート・パプフィッシュや、非常に小さな泉性の巻き貝も生息しています。
一つの小さな泉が失われれば、複数の生き物が同時に野生の生息地を失う可能性があります。
なぜ国境壁が泉へ影響するのか
今回計画されている二重目の国境壁は、既存の壁から約90〜150フィート離れた位置に建設される可能性があります。
壁そのものだけでなく、工事用道路、資材置き場、重機の通行、地下水の利用などが、泉を支える地下水系や周辺環境へ影響することが懸念されています。
2020年に行われた最初の国境壁建設でも、コンクリート製造のための地下水利用が問題になりました。
アメリカ魚類野生生物局が2025年にまとめた状況評価でも、国境壁建設に使われる地下水のくみ上げが、キトバキート・スプリングスを支える水系への新たな負荷として挙げられています。
一方、アメリカ税関・国境警備局は、キトバキート・スプリングスを避け、希少な自然資源への影響を最小限にするため、魚類野生生物局や国立公園局と協力していると説明しています。
また、泉から5マイル以内では地下水をくみ上げない方針を示していますが、研究者からは、それだけで泉を守れるかを判断する十分な情報がないとの懸念も出ています。
亀好きとして注目したいポイント
このニュースで注目したいのは、約250匹のカメが、一つの小さな泉に生存を託していることです。
250匹という数字だけを見れば、決して一匹や二匹ではありません。
けれど、そのすべてが同じ池で暮らしている。
泉の水が止まれば、逃げ込める別の川はない。
池が失われれば、歩いて隣の湿地へ移ることもできない。
砂漠の中では、水がある場所そのものが、生き物の世界です。
カメを捕まえて施設へ運ぶことはできるかもしれない。
でも、そのカメたちが何世代も生きてきた水、泥、岸辺、季節まで運ぶことはできません。
絶滅危惧種を守るということは、個体を生かすだけではなく、その個体がカメとして暮らせる場所を残すことなのだと思います。
湯川亀吉の一言
ソノイタヒゲナガドロガメ。
僕はこの記事を読むまで知らない亀だった。
この世界には、知らない亀がたくさんいるにちがいない。
少なくとも僕は、知らない亀と出会うことを生き甲斐にしている。
僕のような人たちはたくさんいるだろうし、これからもたくさん出てくるだろう。
まだ見ぬ亀ファンの楽しみを奪うのはナンセンスである。
どうにかしっかりした保全を行なって欲しいものです。
余談ですが、僕の故郷の川ではギギやアカザといった魚がたくさん棲んでいました。
しかし、上流のダム工事があり、今ではすっかり見られなくなってしまいました。
僕はちょっと寂しいです。
へへ、湿っぽい話しちまったな。
出典
The Guardian
「This desert oasis is a biological wonderland. Trump’s border wall threatens to destroy it」
U.S. Fish and Wildlife Service
「Sonoyta Mud Turtle」
U.S. Fish and Wildlife Service
「Draft Recovery Plan for Endangered Sonoyta Mud Turtle Available」
National Park Service
「Quitobaquito Springs」