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  • 【世界の亀ニュース】8,000万年の系統を絶やすな ベリーズがメキシコカワガメ「ヒカティー」を救う58項目の国家計画を承認

    【世界の亀ニュース】8,000万年の系統を絶やすな ベリーズがメキシコカワガメ「ヒカティー」を救う58項目の国家計画を承認

    今回は、中米ベリーズから、

    一匹のカメを守るために、

    国全体でこれから何をするのかを決めたニュースを紹介します。

    主役は、

    メキシコカワガメ。

    学名は、

    Dermatemys mawii

    英語では、

    Central American River Turtle

    そしてベリーズでは、

    Hicatee(ヒカティー)

    という名前で親しまれています。

    2026年8月。

    ベリーズ水産局は、このヒカティーを絶滅から守るための

    Central American River Turtle (Hicatee) Conservation Action Plan 2026

    を正式に承認しました。

    そこに並んでいる具体的な行動は、

    58項目。

    密猟対策。

    法律。

    教育。

    飼育下繁殖。

    野生復帰。

    研究。

    生息地保全。

    それらを一つの計画にまとめ、

    これから実際に動かしていきます。

    今回のニュース

    Turtle Survival Alliance(TSA)が2026年8月31日に発表したところによると、ベリーズのMinistry of Blue Economy & Marine Conservation傘下のFisheries Departmentが、ヒカティーの新しい保全行動計画を承認しました。

    計画作りを中心となって進めたのは、

    Belize Foundation for Research and Environmental Education(BFREE)

    そこへ、

    Belize Fisheries Department。

    Turtle Survival Alliance。

    Zoo New England。

    研究者。

    大学。

    保全団体。

    行政。

    そして、

    実際にヒカティーを捕ってきた伝統的な漁業地域の人々

    まで参加しました。

    計画づくりそのものは2020年から始まり、オンライン・対面のワークショップや戦略会議を何年も重ねてきました。

    そして2026年8月24日。

    ベリーズのNational Climate Weekで正式に発表。

    ようやく、

    「ヒカティーを守りたい」

    という段階から、

    「誰が、何を、どう進めるのか」

    という実行段階へ移ります。

    どこの国・地域の話か

    国:ベリーズ
    地域:中米
    対象種:メキシコカワガメ
    現地名:Hicatee
    学名:Dermatemys mawii
    英名:Central American River Turtle
    発表:2026年8月24日
    TSA発表:2026年8月31日
    情報の種類:淡水ガメ・国家保全計画・飼育下繁殖・野生復帰・密猟対策・生息地保全

    メキシコカワガメは、

    ベリーズだけのカメではありません。

    現在の自然分布は、

    ベリーズ。

    グアテマラ。

    メキシコ南部。

    この3地域に限られています。

    登場する亀

    今回の主役、

    Dermatemys mawii

    日本ではメキシコカワガメという名前が使われています。

    そして、このカメには、

    とても大きな特徴があります。

    ものすごく水棲傾向が強い。

    川。

    湖。

    三日月湖。

    冠水林。

    そうした淡水環境の中で生活します。

    さらに、

    大型の淡水ガメでありながら、

    ほぼ完全な植物食。

    水中や川沿いの植物を利用します。

    見た目もかなり独特です。

    甲羅は一般的なカメのようにゴツゴツと高く盛り上がらず、

    比較的滑らか。

    頭は丸みがあり、

    鼻先は少し突き出しています。

    完全に、

    「川を泳ぐためのカメ」

    という感じです。

    この一匹しか残っていない「科」

    ここが、

    僕が今回一番驚いたところです。

    メキシコカワガメが所属するのは、

    Dermatemydidae。

    現在、

    この科に生きている種類は、

    Dermatemys mawiiだけ。

    一種類です。

    WCS Belizeによると、

    その最も近い親戚たちは、

    現在では化石でしか知られていません。

    さらに、

    この系統は他の現生カメ類から、

    およそ8,000万年前に分岐したとされています。

    8,000万年前。

    恐竜がいた時代です。

    つまり、

    メキシコカワガメが絶滅するということは、

    一種類がいなくなるだけではありません。

    8,000万年以上続いてきた一本の系統そのものが、現代で途切れる

    ということになります。

    でも、人間が食べてきたカメでもある

    そして、

    このカメの保全を難しくしている理由があります。

    ヒカティーは、

    ベリーズの人々にとって、

    単なる珍しい野生動物ではありません。

    長い間、

    食文化とも結びついてきたカメです。

    そのため、

    捕獲されてきました。

    そして、

    捕獲量が個体群の回復能力を上回るようになった。

    TSAやBFREEは、

    現在の大きな減少原因として、

    食用目的の過剰捕獲

    を挙げています。

    だから今回の計画も、

    単純に、

    「捕るな」

    だけではありません。

    文化。

    地域住民。

    法律。

    教育。

    研究。

    野生個体群。

    全部を一緒に考えています。

    現在も細かい捕獲規制がある

    ベリーズでは現在、

    ヒカティーの売買は禁止されています。

    さらに、

    所持できる数。

    車両で運べる数。

    雌の捕獲に関するサイズ制限。

    5月1日から31日までの禁漁期。

    などの規制があります。

    ここからも、

    このカメと人間との関係の複雑さが分かります。

    完全に、

    人間から切り離された野生動物ではない。

    でも、

    今までと同じように捕り続ければ、

    いなくなる。

    だから、

    「利用」と「存続」をどう両立させるのか

    まで考えなければなりません。

    58の行動

    今回決められた計画には、

    58の具体的な行動が設定されています。

    大きく分けると、

    法執行。

    法律・規制。

    地域教育。

    飼育個体群管理。

    野生復帰。

    研究。

    野生個体群そのものの保全。

    生息地の回復と保護。

    などです。

    つまり、

    「繁殖させればいい」

    ではありません。

    密猟を減らす。

    子どもたちへ伝える。

    川を残す。

    野生の数を調べる。

    飼育個体の血統を管理する。

    カメを戻す。

    そして、

    戻した場所を守る。

    全部必要です。

    2010年から続いてきた

    もちろん、

    2026年に突然始まった活動ではありません。

    BFREEとTSAが本格的にヒカティー保全へ協力し始めたのは、

    2010年。

    翌2011年には、

    Hicatee Conservation & Research Center

    が設立されました。

    そこで、

    飼育下繁殖。

    ヘッドスタート。

    野生個体群調査。

    生態研究。

    教育。

    再導入。

    さまざまな活動が進められてきました。

    15年以上の実践を経て、

    今回、

    それらを国の正式なロードマップにまとめたわけです。

    1,000匹以上を野生へ

    そして、

    すでに結果も出始めています。

    TSAによると、

    これまでに、

    1,000匹以上のヘッドスタート個体が野生へ放されています。

    つまり、

    飼育施設で増やすだけではない。

    育てる。

    野生で生きられるサイズにする。

    そして、

    川へ戻す。

    すでにそこまで進んでいます。

    30,000エーカーを守った

    さらに2021年。

    TSA、BFREEなどの保全パートナーは、

    約30,000エーカー

    の土地の保全につなげました。

    その中には、

    重要なヒカティー生息地であるCox Lagoonも含まれます。

    Cox Lagoonは、

    Belize Riverとつながる重要な淡水環境です。

    1,000匹カメを育てる。

    でも、

    川がなくなったら意味がない。

    だから、

    カメだけでなく、

    カメが帰る場所そのものを確保する。

    ここでも、

    同じ考え方が出てきます。

    学校でも「ヒカティー」を伝える

    保全活動のもう一つの柱が、

    教育です。

    TSAによると、

    これまでにヒカティーを題材とした教育・普及活動へ、

    数千人のベリーズの子どもたち

    が参加しています。

    学校では、

    ヒカティーをテーマにしたバナーなども作られてきました。

    これは、

    かなり重要だと思います。

    今、

    川にいる大人のカメを守る。

    でも、

    20年後に、

    そのカメを捕るか、

    守るかを決めるのは、

    今の子どもたちかもしれない。

    カメの寿命は、

    人間の政策より長い。

    だから、

    次の世代まで含めて保全する必要があります。

    「ベリーズが最後の希望」

    BFREEのJacob Marlin氏は、

    ヒカティーについて、

    ベリーズがこの種の長期的な存続にとって最後の希望だ

    という強い表現を使っています。

    もちろん、

    メキシコやグアテマラにも本種は残っています。

    でも、

    多くの地域ですでに個体群は大幅に減少し、

    場所によっては姿を消しました。

    だからこそ、

    比較的個体群が残っているベリーズで、

    今止められるかどうかが重要になります。

    「計画を作った」で終わらせない

    そして今回、

    一番大事なのはここです。

    58項目を決めた。

    立派な冊子を作った。

    政府が承認した。

    それだけでは、

    カメは一匹も増えません。

    BFREE自身も、

    保全団体だけではヒカティーを救えない

    と明言しています。

    最終的に、

    ヒカティーがベリーズで十分な数を維持できるかどうかを決めるのは、

    ベリーズの人々です。

    だから今回の発表は、

    完成ではありません。

    むしろ、

    スタートラインです。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番面白いと思うのは、

    やっぱり、

    「一種類を失うことと、一つの進化の枝を失うことは同じではない」

    というところです。

    ヒカティーが絶滅する。

    すると、

    Dermatemys mawiiがいなくなる。

    でも、

    それだけじゃない。

    Dermatemydidaeというグループから、

    生きている動物が、

    一匹もいなくなる。

    何千万年も続いた系統が、

    そこで終わる。

    恐竜が歩いていた頃から、

    祖先が形を変えながら、

    ずっと命をつないできた。

    気候が変わった。

    大陸が変わった。

    他の動物が絶滅した。

    それでも、

    この一本だけは、

    2026年まで来た。

    だったら、

    ここで終わらせたくない。

    今回の58項目は、

    その一本の線を、

    未来へもう少し伸ばすための計画なんだと思います。

    湯川亀吉の一言

    ベリーズって国があるということを知らなかった!

    出典

    Belize Fisheries Department
    「Central American River Turtle (Hicatee) Conservation Action Plan 2026」
    ベリーズ政府が正式に公開している保全行動計画。58の戦略的行動と長期的な保全方針について。
    Belize Fisheries Departmentの公式資料ページを見る

    Turtle Survival Alliance
    「Belize Approves Conservation and Action Plan for Critically Endangered Hicatee」
    2026年8月31日。計画の承認、58項目、15年以上の保全活動、1,000匹以上の野生復帰、30,000エーカーの生息地保全について。
    TSAの記事を読む

    Belize Foundation for Research and Environmental Education(BFREE)
    「Hope for the Hicatee」
    2026年8月24日。計画作成の経緯、地域住民・研究者・行政などの参加、Climate Weekでの発表について。
    BFREEの記事を読む

    Wildlife Conservation Society Belize
    「Central American River Turtle」
    本種がDermatemydidae唯一の現生種であること、約8,000万年前に他の現生カメ類から分岐した非常に古い系統であること、分布・食性・脅威について。
    WCS Belizeの種紹介を見る

    IUCN/SSC Tortoise and Freshwater Turtle Specialist Group
    Dermatemys mawii – Central American River Turtle」
    分類、分布、生態、植物食、保全状況について。
    TFTSGの種アカウントを見る

  • 【世界の亀ニュース】100年ぶりに再発見されたカメを「未来の湿地」へ 気候変動から救うオーストラリアの移住計画

    【世界の亀ニュース】100年ぶりに再発見されたカメを「未来の湿地」へ 気候変動から救うオーストラリアの移住計画

    今回は、オーストラリア西部に生息する、世界でも特に希少な淡水ガメの保全活動を紹介します。

    学名は、

    Pseudemydura umbrina

    日本の法令では、

    オーストラリアヌマガメモドキ

    という和名が使われています。

    一方、日本の爬虫類関連資料などでは、

    クビカシゲガメ

    という名前も使われています。

    このカメは、

    一度は絶滅したと思われました。

    再発見された。

    繁殖に成功した。

    1,000匹以上を野生へ戻した。

    普通なら、

    ここまででも大成功です。

    でも、

    問題が一つ残っていました。

    カメが暮らしてきた湿地そのものが、だんだん乾いている。

    そこで研究者たちは、

    過去にこのカメが生息していなかった、

    もっと南の、

    もっと涼しく、

    もっと長く水が残る湿地へ、

    カメを移し始めました。

    今回のニュース

    大きな転換点の一つが、2016年です。

    西オーストラリア州政府、Perth Zoo、University of Western Australiaなどの保全チームは、飼育下で繁殖した24匹のオーストラリアヌマガメモドキを、西オーストラリア州南西部の新しい候補地へ移しました。

    重要なのは、

    そこが単なる「別の放流場所」ではなかったことです。

    本来このカメが知られていた歴史的な分布域よりも、

    さらに南側。

    将来の気候変動を考え、

    より涼しく、

    より湿潤な環境を探して選ばれました。

    この方法は、

    assisted colonisation

    と呼ばれます。

    日本語なら、

    「人為的移住」

    「保全的移住」

    あるいは、

    「分布域外への計画的移送」

    に近い考え方です。

    どこの国・地域の話か

    国:オーストラリア
    州:西オーストラリア州
    従来の主な生息地域:パース近郊・スワン沿岸平野
    新たな移住候補地:西オーストラリア州南西部
    対象種:オーストラリアヌマガメモドキ
    学名:Pseudemydura umbrina
    英名:Western Swamp Tortoise / Western Swamp Turtle
    情報の種類:淡水ガメ・飼育下繁殖・野生復帰・気候変動・保全的移住

    現在、オーストラリア政府も本種の重要な保全策として、気候変動下でも生息可能な場所へ新しい個体群を作ることを挙げています。

    登場する亀

    オーストラリアヌマガメモドキは、

    ヘビクビガメ科に属する非常に小型の淡水ガメです。

    成体でも甲長はおよそ11〜13cm程度。

    体重は300〜450gほど。

    首は短く、

    頭頂部には大きな一枚の鱗板があります。

    足には水かきがあり、

    各足に5本の爪を持ちます。

    見た目は、

    派手ではありません。

    巨大でもない。

    奇抜な模様もない。

    茶色。

    黒。

    泥や湿地に溶け込むような小さなカメです。

    でも、

    進化的には非常に独特な存在です。

    Pseudemydura属で現在生きているのは、この一種だけ。

    オーストラリア政府の回復計画では、近縁のカメとは大きく異なる遺存的な系統であることが紹介されています。

    1839年、一匹だけ見つかった

    このカメの科学的な物語は、

    1839年に始まります。

    オーストリア人の博物学者Ludwig Preissが、西オーストラリアで一匹の標本を採集。

    その標本は、

    ウィーン自然史博物館へ送られました。

    しかし、

    その後が続きません。

    一匹も見つからない。

    何十年経っても、

    見つからない。

    1901年、

    博物館に保存されていた標本をもとに、

    Pseudemydura umbrina

    として正式に記載されます。

    でも、

    生きたカメが見つからない状態は続きました。

    100年以上、誰も見つけられなかった

    1839年から、

    1953年まで。

    114年間。

    新しい標本は確認されませんでした。

    そのため、

    このカメは絶滅したのではないかと考えられていました。

    そして1953年。

    物語が突然動きます。

    見つけたのは少年だった

    西オーストラリア州Upper Swan。

    そこで一匹の小さなカメを見つけたのは、

    Robert Boydという少年でした。

    彼はそのカメを、

    Western Australian Naturalists’ Clubの野生動物展示会へ持っていきます。

    そこで、

    「これは普通のカメではない」

    と気付かれました。

    100年以上、

    科学者にも見つからなかったカメ。

    その再発見のきっかけを作ったのは、

    一人の少年でした。

    探してみると、二つの小さな個体群があった

    再発見後、

    周辺で調査が行われます。

    そして、

    パース北東部に、

    二つの小さな生息地が見つかりました。

    現在の、

    Ellen Brook Nature Reserve。

    Twin Swamps Nature Reserve。

    この二つです。

    1962年には、

    残された生息環境を守るため、

    自然保護区が設けられました。

    一度は絶滅したと思われたカメに、

    ようやく保護区ができました。

    でも、生息地そのものが消えていった

    問題は、

    カメを捕る人だけではありませんでした。

    このカメが暮らしていたスワンバレー周辺は、

    パース都市圏に近い場所です。

    農業。

    宅地開発。

    道路。

    粘土採掘。

    排水。

    かつて湿地だった土地の多くが、

    別の用途へ変わっていきました。

    オーストラリア政府によると、本来利用していた粘土質の湿地の大部分は、現在では都市化・農業利用・粘土採掘などによって失われています。

    1980年代、30匹未満

    保護区まで作った。

    それでも、

    減少は止まりませんでした。

    1980年代。

    野生に残った個体は、

    30匹未満。

    Perth Zooは、

    この時期を本種が絶滅寸前まで追い詰められた時代として紹介しています。

    100年ぶりに見つかった。

    そのわずか30年後、

    今度は本当に消えそうになりました。

    1989年、動物園で繁殖を始める

    そこで、

    Perth Zooを中心とした飼育下繁殖プログラムが本格化します。

    開始は1989年。

    親ガメを繁殖させる。

    卵を見つける。

    掘り出す。

    孵卵器へ移す。

    孵化させる。

    子ガメを育てる。

    そして、

    十分に成長してから野生へ戻す。

    現在、Perth Zooでは、子ガメがおよそ100g、約3歳になった頃を一つの目安として野生復帰させています。

    1,300匹以上が生まれた

    その積み重ねは、

    大きな数字になりました。

    Perth Zooによると、

    1989年以降、

    1,300匹以上のオーストラリアヌマガメモドキが同園で繁殖。

    2024年6月時点で、

    そのうち1,125匹が野生環境へ放されています。

    30匹未満まで減ったカメです。

    そこから、

    1,000匹を超えるカメを、

    再び自然へ送り出せるところまで来ました。

    だったら、もう安心?

    ここまで読むと、

    保全は成功したように見えます。

    でも、

    新しい問題が出てきました。

    雨が減っている。

    このカメは、

    一年中水の中にいるわけではありません。

    冬から春。

    雨によって一時的な湿地に水がたまる。

    カメはそこで活動します。

    餌を食べる。

    成長する。

    繁殖に必要なエネルギーを蓄える。

    そして夏。

    湿地が乾くと、

    地面の穴や深い落ち葉の中へ入り、

    活動を抑えて暑い時期を乗り切ります。

    つまり、

    一定期間、湿地に水が残ること

    が非常に重要です。

    ところが、水のある期間が短くなっている

    気候が暖かく、

    乾燥するようになる。

    雨が減る。

    湿地が早く乾く。

    すると、

    カメが水中で餌を取れる期間が短くなります。

    昔は半年近く使えた湿地でも、

    水が残る期間が数か月まで短くなる可能性がある。

    そうなると、

    カメは十分に食べられません。

    成長できない。

    繁殖できない。

    つまり、

    保護区そのものは残っていても、カメが暮らせなくなる

    可能性があります。

    そこで発想を逆にした

    普通の保全なら、

    「本来の生息地を守ろう」

    と考えます。

    それはもちろん重要です。

    でも、

    本来の場所の気候そのものが変わってしまったら?

    そこで研究者たちは、

    違う問いを立てました。

    カメを守る場所を、もっと南へ作れないか。

    西オーストラリア州南西部。

    パース周辺より、

    涼しい。

    雨が多い。

    湿地に長く水が残る。

    将来、

    現在の生息地が暑く乾燥したとき、

    そこがカメの避難場所になる可能性があります。

    2016年、歴史的分布域の外へ

    2016年。

    24匹の飼育下繁殖個体が、

    Meerup周辺とAugusta東部の保全地域へ試験的に放されました。

    西オーストラリア州政府は当時、この試みを、

    将来の気候変動に備えて脊椎動物を歴史的分布域外へ移す試み

    として紹介しました。

    カメを、

    「昔いた場所」

    へ戻すのではない。

    「未来でも生きられそうな場所」へ移す。

    保全の考え方そのものが変わっています。

    「カメがいなかった場所へ放していいのか」

    でも、

    これは簡単な問題ではありません。

    ある生き物を、

    本来いなかった地域へ持ち込む。

    人間は過去、

    これを何度もやっています。

    そして、

    外来生物問題を起こしてきました。

    だから、

    assisted colonisationには議論があります。

    移したカメが、

    新しい生態系へ悪影響を与えないか。

    他の希少種と競合しないか。

    病気を持ち込まないか。

    新しい場所で本当に繁殖できるか。

    気候だけでは決められません。

    コンピューターまで使って「未来の湿地」を探す

    そこで研究者たちは、

    現在の生息地だけを見ません。

    気温。

    降水量。

    湿地に水が残る期間。

    カメの活動。

    卵の発生。

    将来の気候予測。

    さまざまな条件をモデル化し、

    これから先もカメが暮らせそうな場所

    を探しました。

    University of Western Australiaの研究者たちは、

    この理想的な場所を、

    “Goldilocks wetlands”

    と表現しています。

    暑すぎない。

    寒すぎない。

    乾きすぎない。

    カメにとって、

    「ちょうどいい湿地」です。

    2021年、さらに73匹

    試験は続きます。

    2021年には、

    Perth Zooで繁殖した73匹が、

    西オーストラリア州南西部の二つの場所へ放されました。

    Augusta東部へ16匹。

    Scott National Parkへ57匹。

    このうち48匹には、

    無線発信器やデータロガーが装着されました。

    見るのは、

    単に生死だけではありません。

    どこへ移動するか。

    いつ活動するか。

    体温はどう変化するか。

    どれくらい成長するか。

    新しい環境で、

    カメが本当に「普通に暮らせるか」を調べます。

    2022年、191匹を一度に放流

    翌2022年。

    さらに大きな放流が行われました。

    合計、

    191匹。

    44匹がScott National Park。

    147匹がMoore River Nature Reserve。

    飼育下繁殖プログラム開始以来、

    当時最大規模の放流でした。

    Scott National Parkの個体群は特に、

    気候変動への避難先として新しい個体群を作れるか

    を確かめる重要な試みになっています。

    2024年、さらに20匹

    保全は現在も続いています。

    2024年には、

    Perth ZooとAdelaide Zooで育った20匹が、

    Moore River近郊へ放されました。

    年齢は、

    2歳から13歳。

    放流前には無線発信器が取り付けられ、

    既にその場所で暮らしている個体と行動を比較する研究も始まりました。

    同発表時点で、

    Perth Zooでは1,300匹以上が繁殖し、

    1,145匹が野生へ放された

    とされています。

    「元の場所へ戻す」だけが保全ではなくなった

    これまで、

    野生復帰という言葉には、

    一つの分かりやすい形がありました。

    捕まえられた場所へ戻す。

    昔いた場所へ戻す。

    本来の生息地へ戻す。

    でも、

    気候変動は、

    その考え方を難しくしています。

    場所は残っている。

    保護区にもなっている。

    密猟者もいない。

    それでも、

    気候だけが昔とは違う。

    だったら、

    カメを過去へ戻すのではなく、

    未来へ移す必要があるのかもしれない。

    オーストラリアヌマガメモドキの保全は、

    その難しい問いを、

    実際のカメを使って考えているプロジェクトです。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回の話で僕が一番面白いと思うのは、

    「生息地とは何なのか」

    というところです。

    カメが昔からいた場所。

    それが生息地。

    普通はそう考えます。

    でも、

    気温が変わる。

    雨が減る。

    湿地が乾く。

    すると、

    地図上では同じ場所でも、

    カメにとっては、

    もう同じ場所ではない。

    逆に、

    昔はカメがいなかった南の湿地が、

    50年後には、

    カメにとって一番暮らしやすい場所になるかもしれない。

    保全というのは、

    昔の状態をそのまま保存する仕事だと思っていたけれど、

    このカメを見ていると、

    そうではないのかもしれない。

    変わっていく世界の中で、生き物が生き続けられる場所を探す仕事

    でもあるのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    他人が持っていない亀って、なんで欲しくなるんでしょうね?

    僕の性格が捻くれてるせいかな?

    欲しいなぁ〜オーストラリアヌマガメモドキ

    出典

    Perth Zoo
    「Western Swamp Tortoise Breeding Program」
    再発見、1980年代の個体数、繁殖プログラム、現在の繁殖・放流実績、気候変動に対応した新しい放流地について。
    URL:Perth Zooの保全プログラムを見る

    Western Australia Department of Biodiversity, Conservation and Attractions
    「Record release for critically endangered Western Swamp Tortoise」
    2022年。44匹と147匹、合計191匹の記録的な放流について。
    URL:DBCAの記事を読む

    National Environmental Science Program – Threatened Species Recovery Hub
    「Western swamp tortoises move to a cool new home」
    2016年。気候変動に備えて24匹を歴史的分布域外へ移した初期のassisted colonisationについて。
    URL:2016年の移住計画を見る

    The University of Western Australia
    「Bold plan to find ‘Goldilocks’ wetlands for Western Swamp Tortoise」
    2022年9月7日。気候変動に耐えられる新しい湿地を探す研究について。
    URL:UWAの記事を読む

    Australian Government – DCCEEW
    「Western swamp tortoise」
    本種の脅威と、気候変動避難地への新個体群創出を含む現在の保全方針。
    URL:オーストラリア政府の種情報を見る

    e-Gov 法令検索
    Pseudemydura umbrinaの日本語名「オーストラリアヌマガメモドキ」の確認。
    URL:e-Govの法令情報を見る

  • 【世界の亀ニュース】ウェールズから8,000km ケンプヒメウミガメ「Rhossi」が2年8か月かけてテキサスへ

    【世界の亀ニュース】ウェールズから8,000km ケンプヒメウミガメ「Rhossi」が2年8か月かけてテキサスへ

    今回は、本来の生息地から約8,000kmも離れたイギリス・ウェールズの海岸で発見されたケンプヒメウミガメが、約2年8か月の治療を経てアメリカ・テキサス州まで戻ってきたニュースを紹介します。

    名前は、

    Rhossi(ロッシ)。

    メキシコ湾へ帰るまで、あと少し。

    しかし最後の健康診断で、もう一つ乗り越えなければならない問題が見つかりました。

    今回のニュース

    2026年8月10日、ケンプヒメウミガメのRhossiが、イギリス・ウェールズからアメリカ・テキサス州へ到着しました。

    Rhossiが発見されたのは2023年12月。

    場所はウェールズ北西部、アングルシー島のRhosneigr周辺の海岸です。

    本来ケンプヒメウミガメが主に暮らすメキシコ湾から、およそ5,000マイル、約8,000km離れた場所でした。

    発見時のRhossiは、冷たい海水によって体の機能が低下する**「コールドスタン(cold-stunning)」**の状態でした。

    体重はわずか約2ポンド、約0.9kg。

    その後、Anglesey Sea Zooで長期間の治療とリハビリを受け、2026年には約46ポンド、約21kgまで成長しました。

    そして約2年8か月後。

    Rhossiはついに大西洋を渡り、メキシコ湾への野生復帰を目指してテキサスへ戻ってきました。

    どこの国・地域の話か

    発見地:イギリス・ウェールズ、アングルシー島
    保護施設:Anglesey Sea Zoo
    移送先:アメリカ合衆国・テキサス州、Houston Zoo
    到着日:2026年8月10日
    Houston Zoo発表:2026年8月14日
    対象種:ケンプヒメウミガメ
    情報の種類:ウミガメ・救助・リハビリ・国際移送・野生復帰

    今回の移送には、Anglesey Sea Zoo、Houston Zoo、Texas State Aquarium、NOAA、U.S. Fish & Wildlife Serviceなど、イギリスとアメリカの複数の機関が関わっています。

    一匹のカメを野生へ戻すために、二つの国と複数の組織が動きました。

    登場する亀

    今回の主役は、ケンプヒメウミガメです。

    学名は Lepidochelys kempii

    英語ではKemp’s Ridley Sea Turtleと呼ばれます。

    NOAA Fisheriesによると、ケンプヒメウミガメは世界で最も小型のウミガメです。

    成体でも甲長はおよそ2フィート、約60cm。

    体重はおよそ70〜100ポンド、約32〜45kgです。

    成体の甲羅は灰緑色を帯び、腹側は淡い黄色。

    頭部は三角形に近く、少し鉤状になった嘴を持っています。

    ケンプヒメウミガメの中心はメキシコ湾

    ケンプヒメウミガメの主な生息地はメキシコ湾です。

    特に繁殖地はメキシコ北東部へ集中しています。

    NOAAによると、世界のケンプヒメウミガメの産卵の約95%がメキシコ・タマウリパス州で確認されています。

    Rancho Nuevo。

    Tepehuajes。

    Barra del Tordo。

    こうした海岸が、世界に残るケンプヒメウミガメにとって極めて重要な場所になっています。

    テキサスでも産卵は確認されますが、中心となる繁殖地はメキシコ側です。

    それなのに、なぜウェールズにいたのか

    ケンプヒメウミガメの幼体は、メキシコ湾だけで一生を過ごすわけではありません。

    孵化した子ガメの一部は海流に乗り、フロリダ周辺から大西洋へ出ます。

    若い個体はアメリカ東海岸を北上することがあり、カナダのノバスコシア付近まで確認されています。

    さらに少数ですが、アゾレス諸島、イギリス周辺、地中海など、大西洋東部まで到達した記録もあります。

    つまり、

    ウェールズで見つかったこと自体は、

    「絶対にあり得ない」

    というわけではありません。

    問題は、その海の温度です。

    冷たい海で動けなくなる「コールドスタン」

    ウミガメは外部の温度によって体温が大きく左右されます。

    水温が急激に低下すると、体の働きも低下します。

    泳げなくなる。

    餌を食べられなくなる。

    水面へ呼吸に上がることさえ難しくなる。

    こうした状態が「コールドスタン」です。

    Anglesey Sea Zooは、冷たい海に入り込んだウミガメでは代謝機能が低下し、そのまま海流に流され、海岸へ打ち上げられることがあると説明しています。

    Rhossiも、まさにその状態で見つかりました。

    見つけたのは、一匹の犬だった

    2023年12月。

    アングルシー島の海岸で、Rhossiを最初に発見したのは地元の人と一緒に歩いていた犬でした。

    海岸へ打ち上げられた小さなウミガメ。

    体重は約0.9kg。

    冷たい北大西洋の海水によって衰弱していました。

    もし誰にも見つからなければ、

    そのまま波打ち際に残されていたかもしれません。

    でも、一匹の犬が立ち止まった。

    そこからRhossiの帰還計画が始まりました。

    体温は急に上げればいいわけではない

    冷え切ったカメを見つけると、

    すぐ暖かくしてあげたくなります。

    しかし、Anglesey Sea Zooによれば、コールドスタンしたウミガメの体温を急激に上げることには危険があります。

    体への負担を避けるため、

    少しずつ。

    慎重に。

    状態を確認しながら体温を戻していく必要があります。

    食べられるようになるまで体を回復させる。

    泳げるようにする。

    体力を戻す。

    それを何日、何週間、何か月と続ける。

    Rhossiはそのままウェールズで約2年8か月を過ごしました。

    0.9kgから21kgへ

    発見時は約0.9kgだったRhossi。

    2026年にテキサスへ渡る頃には、約21kgまで成長していました。

    海岸で犬に発見された小さな幼体から、

    両手で簡単には抱えられない大きさへ。

    治療だけではありません。

    食べる。

    泳ぐ。

    成長する。

    毎日その状態を確認する。

    Anglesey Sea Zooで過ごした時間そのものが、Rhossiの成長期でもありました。

    でも、イギリスの海へは放せない

    元気になった。

    泳げるようになった。

    だからウェールズの海へ戻そう。

    とはいきません。

    ケンプヒメウミガメが本来暮らす中心的な環境は、暖かいメキシコ湾です。

    Rhossiがウェールズへ到達したのは、

    そこで暮らすためではありません。

    海流によって、本来の生活圏から遠く離れた場所まで運ばれた結果です。

    だから野生復帰させるなら、

    ただ海へ放すのではなく、

    そのカメが生きていける海へ戻さなければならない。

    ここから問題になるのが、国境です。

    カメ一匹が国境を越える

    野生動物を国から国へ移動させることは、

    航空券を買って乗せれば終わり、

    という話ではありません。

    ケンプヒメウミガメは保護対象の野生動物です。

    輸送。

    輸出入。

    野生復帰。

    それぞれに許可と調整が必要になります。

    Anglesey Sea Zooは過去にも、同じケンプヒメウミガメの「Tally」をウェールズからテキサスへ戻しています。

    そのときは救助から放流まで20か月を要しました。

    Rhossiについても、帰還のための許可と体制が整うまで長い時間が必要になりました。

    ヘリコプターから大西洋横断便へ

    2026年8月。

    ついにRhossiの移送が始まりました。

    ウェールズからロンドン・ヒースロー空港まではヘリコプター。

    そこから航空機で大西洋を横断。

    そしてテキサスへ。

    総移動距離はおよそ5,000マイル、約8,000kmです。

    海流に流されて何千kmも移動したカメが、

    今度は人間の手によって、

    空を飛んで元の海へ近づいていきました。

    8月10日、テキサスへ到着

    8月10日。

    Rhossiはテキサスへ到着しました。

    空港ではHouston Zooのウミガメ担当スタッフと獣医師が健康状態を確認。

    その後、Houston Zooへ移動し、深い水槽へ入れられました。

    長時間の輸送直後です。

    すぐに放すのではなく、

    まず泳ぎ方。

    呼吸。

    反応。

    食欲。

    新しい環境への適応。

    そうした状態を観察します。

    最後の健康診断

    そして、野生復帰前の詳しい健康診断が行われました。

    担当したのはHouston Zooの獣医チーム。

    検査では、

    臓器。

    眼。

    口。

    甲羅。

    ヒレ。

    などを確認。

    さらにX線撮影とCTスキャンを行い、肺の状態まで調べました。

    外から見れば、

    Rhossiは元気でした。

    活発に動く。

    泳ぐ。

    反応する。

    Houston Zooも「healthy, active and vigorous」と表現しています。

    しかし、

    CT画像には別のものが写っていました。

    肺炎の痕跡

    Rhossiの肺には、

    まだ肺炎が残っている可能性を示す所見

    が確認されました。

    海へ帰る寸前でした。

    2年以上治療した。

    8,000km飛んできた。

    テキサスまで戻った。

    あと少し。

    それでも、

    放さなかった。

    Houston Zooは追加の観察と必要な治療を続けることを決めました。

    「元気そう」と「野生へ戻せる」は違う

    今回のニュースで、とても重要なのがここだと思います。

    Rhossiは、

    見た目には元気です。

    泳げる。

    食べられる。

    大きくなった。

    でも、

    野生へ戻せるかどうかは、それだけでは決められない。

    飼育施設なら、

    具合が悪くなれば人間が気づけます。

    餌もあります。

    治療もできます。

    ところが海へ入れば、

    そこから先はカメ自身です。

    泳ぐ。

    餌を捕る。

    潮流に逆らう。

    長距離を移動する。

    一度海へ返したあと、

    「やっぱり肺炎が悪化したから捕まえよう」

    ということは簡単にはできません。

    だから、

    最後の最後で立ち止まりました。

    放流延期は「失敗」ではない

    Houston Zooは、Rhossiのメキシコ湾への帰還について、

    当初想定していたより少し時間がかかるとしています。

    でも、

    これは失敗ではありません。

    むしろ、

    野生復帰を成功させるための判断です。

    海へ返したというニュースを早く作ることより、

    海へ返したあと、そのカメが生きられること

    のほうが重要です。

    世界最小のウミガメ

    Rhossiが属するケンプヒメウミガメには、もう一つ大きな特徴があります。

    世界で最も小型のウミガメです。

    成体でも甲長約60cm。

    大きなオサガメなどと比べれば、かなり小柄です。

    しかし、その生活史は壮大です。

    子ガメは海へ入り、

    海流へ乗り、

    何年も海を移動し、

    およそ13歳で成熟すると考えられています。

    そして雌は、

    自分たちの重要な繁殖地へ戻ってきます。

    昼間に集団産卵する珍しいウミガメ

    ケンプヒメウミガメは、

    「アリバダ」と呼ばれる集団産卵を行うことで知られています。

    多数の雌が同じ時期に海岸へ集まり、

    一斉に産卵します。

    さらにケンプヒメウミガメは、ウミガメの中でも珍しく主に昼間に産卵する種です。

    何百、何千という雌が砂浜へ上がる。

    卵を産む。

    数週間後、

    大量の子ガメが海へ向かう。

    その巨大な生命の流れの一匹が、

    海流に乗って大西洋を渡り、

    ウェールズまで到達した。

    それがRhossiです。

    一度は大きく減少したケンプヒメウミガメ

    現在、ケンプヒメウミガメはアメリカのEndangered Species Actで絶滅危惧種として保護されています。

    1947年にはメキシコのRancho Nuevoで、一日に数万匹規模の雌が産卵する様子が記録されていました。

    しかし20世紀後半に個体数は急減。

    1985年には年間702巣まで落ち込みました。

    その後、産卵地保護や漁業対策などによって回復が進みましたが、2010年以降は増加傾向が止まり、巣数は変動しています。

    だからこそ、

    一匹を野生へ返す意味も小さくありません。

    一匹を返すために、国を越えて人がつながった

    今回Rhossiに関わったのは、一つの水族館だけではありません。

    Anglesey Sea Zoo。

    Houston Zoo。

    Texas State Aquarium。

    NOAA。

    U.S. Fish & Wildlife Service。

    そのほか複数の関係者。

    二つの大陸にまたがる協力によって、Rhossiはテキサスまで戻ってきました。

    一匹のカメが、

    人間の組織を国境の向こう側までつなげたことになります。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番注目したいのは、

    「あと少しなのに、放さなかった」

    というところです。

    2年以上育てた。

    許可も取った。

    飛行機も飛ばした。

    8,000km運んだ。

    メキシコ湾はもう目の前。

    普通なら、

    ここまで来たら海へ返したくなる。

    物語としても、

    「ついに故郷の海へ!」

    で終わったほうがきれいです。

    でも、

    CTを撮った。

    肺を見た。

    まだ心配がある。

    だから止めた。

    ニュースとしてきれいに終わることより、

    一匹のカメが生きることを優先した。

    僕は、

    そこが今回の保護活動で一番大事なところだと思います。

    湯川亀吉の一言

    亀はけっこう肺炎になるんだよね〜。

    僕も、昔飼ってた亀が肺炎にかかってしまって、治療費が10万円くらいかかったよ。

    出典

    Houston Zoo
    「Rhossi’s Road Home: One More Step Toward the Gulf」
    2026年8月14日。

    Anglesey Sea Zoo
    「Turtle Rescue & Rehab – Rhossi the Kemp’s Ridley」
    Rhossiの救助・リハビリ・帰還計画について。

    NOAA Fisheries
    「Kemp’s Ridley Turtle」
    ケンプヒメウミガメの分布、生態、繁殖、個体群、保全状況について。

    The Guardian
    「Rhossi, a rare sea turtle, recovers after 5,000-mile trek from Wales to Texas」
    2026年8月17日。

  • 【世界の亀ニュース】16巣中13巣が捕食 X線と216ヤードの糸で追うトウブハコガメの産卵

    【世界の亀ニュース】16巣中13巣が捕食 X線と216ヤードの糸で追うトウブハコガメの産卵

    今回は、アメリカ・バージニア州で進められている、トウブハコガメの巣を探し出して孵化までの生存率を調べる研究を紹介します。

    使われているのは、

    X線装置。

    GPS。

    無線発信器。

    自動撮影カメラ。

    そして、

    プラスチックのカップと、細い糸。

    最新技術と驚くほど単純な道具を組み合わせながら、人間にはなかなか見つけることのできない「カメの巣」を追いかけています。

    今回のニュース

    2026年8月14日、Smithsonian’s National Zoo and Conservation Biology Institute(スミソニアン国立動物園・保全生物学研究所)は、バージニア州で進めているトウブハコガメの繁殖調査について発表しました。

    研究チームは約8週間、ほぼ毎日のように野外調査を行い、16か所のトウブハコガメの巣を発見しました。

    しかし、そのうち13巣が産卵後わずか数時間ほどで掘り返され、卵を食べられていました。

    主な捕食者として確認されたのは、アライグマやスカンクです。自動撮影カメラには、アライグマが巣の卵を食べる姿も記録されました。

    16巣中13巣。

    今回確認された巣の約81%が失われたことになります。

    過去の研究でも、ハコガメ類の巣では捕食率が90%に達する場合があるとされており、今回の結果もそれと一致する高い捕食圧を示しました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:アメリカ合衆国
    州:バージニア州
    研究機関:Smithsonian’s National Zoo and Conservation Biology Institute
    研究チーム:Turtle Conservation Ecology Lab
    発表日:2026年8月14日
    対象:トウブハコガメ
    情報の種類:陸生ガメ・繁殖・産卵・捕食・野外研究・保全

    スミソニアンのTurtle Conservation Ecology Labは、2022年からバージニア州に生息するハコガメの移動、繁殖行動、生息地利用などを調べています。

    今回新たに始めたのが、

    「母ガメがどこへ卵を産み、その卵がどのくらい生き残るのか」

    を調べる研究です。

    登場する亀

    今回の主役は、トウブハコガメです。

    学名は Terrapene carolina carolina

    英語ではEastern Box Turtleと広く呼ばれてきましたが、バージニア州野生生物資源局では現在、Woodland Box Turtleという名称を使用しています。

    トウブハコガメは、バージニア州全域に自然分布する陸生傾向の強いカメです。

    甲長はおよそ11〜20センチ。

    背甲は高く盛り上がり、褐色から黒色の地色に、黄色やオレンジ色の斑点、線、まだら模様が入ります。

    模様には非常に大きな個体差があります。

    名前の由来は「箱」

    ハコガメという名前の大きな理由が、腹甲です。

    トウブハコガメの腹甲には可動する蝶番のような構造があります。

    危険を感じると頭や手足を甲羅の中へ完全に引っ込め、腹甲を閉じることで、まるで箱のような状態になります。

    成熟した個体では、とても頑丈な防御です。

    でも、

    卵にはその甲羅がありません。

    そして孵化したばかりの子ガメにも、大人と同じ防御力はありません。

    今回の研究は、

    頑丈な「箱」を持つようになるずっと前に、どれほど多くの命が失われているのか

    を調べる研究でもあります。

    まず、母ガメを探す

    巣を調べるには、当然ながら最初に巣を見つけなければなりません。

    これが簡単ではありません。

    研究チームが調査している5か所には、無線発信器とGPSタグを装着した56匹のハコガメがいます。

    研究者はVHF受信機を使い、それぞれの個体に割り当てられた電波を探します。

    信号が強くなる方向へ進む。

    草をかき分ける。

    落ち葉を見る。

    そしてようやく、模様によって森の地面へ溶け込んでいる小さな甲羅を見つけます。

    発信器が付いていても見つけるのが難しいほど、ハコガメは森の中へ隠れるのが上手です。

    次にX線を撮る

    母ガメを発見したら、

    今度はその個体が卵を持っているかを調べます。

    雌のハコガメは、形成された卵を体内におよそ30〜60日間保持します。

    バージニア州でこの状態になるのは、主に5月下旬から7月上旬です。

    研究者はまず、後脚付近を慎重に触って硬い卵があるか確認します。

    ただし、触診だけでは確実ではありません。

    そこで登場するのが、

    携帯型X線装置です。

    プラスチックカップが研究器具になる

    野外に大きな病院設備を持ち込むことはできません。

    研究者は車の後ろに簡易的なフィールドステーションを作り、

    携帯型X線装置。

    タブレット。

    無線受信機。

    体重計。

    自動撮影カメラ。

    などを並べます。

    そしてX線を撮るときに使われる、非常に重要な道具があります。

    プラスチックカップです。

    カメを鉛で保護されたプレートとカップの上へ一時的に乗せます。

    カップは、撮影中にカメが歩いてどこかへ行ってしまわない高さになっています。

    その状態で短時間だけX線撮影を行うと、

    体内に卵があるかどうかが、その場で確認できます。

    高度なX線装置と、

    どこにでもありそうなプラスチックカップ。

    この組み合わせで野生の母ガメを調べています。

    卵があったら「糸」を付ける

    X線で卵が確認されたら、

    次に登場するのが糸です。

    研究者は母ガメの甲羅に、重さわずか約2グラムの小さな糸巻きを慎重に取り付けます。

    そしてカメを発見した場所へ戻します。

    糸巻きには、

    216ヤード、約198メートル

    もの糸が巻かれています。

    母ガメが森を歩く。

    その後ろに、細い糸が伸びていく。

    研究者は翌日、その糸をたどります。

    母ガメは簡単には産まない

    卵を持っているからといって、

    すぐにその場所へ産卵するわけではありません。

    ハコガメの雌は、巣を作る場所を何時間、ときには何日もかけて探します。

    土の状態。

    日当たり。

    温度。

    周囲の環境。

    さまざまな条件を確かめながら歩きます。

    研究者が、

    「ここに産むだろう」

    と思った場所から離れ、

    翌朝には約1.5マイル、約2.4キロ離れた山の上で巣を掘っていることさえあると報告されています。

    カメはゆっくり歩きます。

    でも、

    ゆっくりだから移動しないわけではありません。

    時間をかければ、人間が想像する以上の距離を移動します。

    糸をたどれば、巣が見つかる

    翌日。

    研究者は再び母ガメを探します。

    そして体重を測ります。

    もし体重が前日と変わっていなければ、

    まだ産卵していない可能性が高い。

    ところが、

    20〜80グラムほど軽くなっていたら、卵を産んだ可能性があります。

    そこで研究者は、

    母ガメの後ろに残された細い糸を逆方向へたどります。

    草の中。

    落ち葉の中。

    牧草地。

    森。

    何十メートル、場合によっては100メートル以上。

    糸を追っていく。

    そして、

    新しく土が掘り返された場所と糸が交差していれば、

    そこが巣である可能性があります。

    見つけたら、触らない

    巣を発見しても、

    研究者は卵を掘り出して確認するわけではありません。

    可能な限り巣をそのままの状態にします。

    位置を記録し、

    小さな目印を付け、

    自動撮影カメラを設置する。

    そして、

    その後何が起こるのかを見守ります。

    母ガメが選んだ場所を、

    できるだけ母ガメが残した状態のまま観察する。

    そのための研究です。

    20匹の母ガメから16巣を発見

    2026年の調査では、

    研究対象のうち20匹の雌が卵を持っていることが確認されました。

    そのうち研究チームが見つけることができた巣は16か所。

    3匹は研究者が立ち入れない私有地で産卵。

    残る1匹については、最終的に巣を発見できませんでした。

    ここまでは、

    かなり高い精度で母ガメを追跡できています。

    しかし、

    本当に厳しい結果は、その後でした。

    16巣中13巣が失われた

    約8週間の調査で見つかった16巣。

    そのうち13巣が、

    アライグマやスカンクなどによって掘り返されました。

    しかも一部は、

    産卵からわずか数時間後です。

    母ガメが穴を掘る。

    卵を産む。

    土を戻す。

    その日のうちに、

    別の動物がその場所を見つける。

    掘り返す。

    卵を食べる。

    子ガメになる前に、

    そこで命が途切れます。

    カメの最大の敵は「道路」だけではない

    陸生のカメについて考えるとき、

    人間には分かりやすい危険があります。

    道路。

    自動車。

    草刈り機。

    農薬。

    森林開発。

    実際、スミソニアンのこれまでの調査でも、道路、気候の変化、芝刈り機、住宅地周辺の捕食動物などがハコガメ減少に関係している可能性が示されています。

    しかし今回の研究が見せているのは、

    甲羅を持ったカメとして地上へ出てくる前にも、大きな壁がある

    ということです。

    卵の段階です。

    成熟まで10〜20年

    トウブハコガメは、たくさんの子どもを短期間で増やす動物ではありません。

    バージニア州野生生物資源局によると、性成熟までには10〜20年かかります。

    雌が一年に産む卵も、およそ2〜7個です。

    そして今回の調査では、

    その数少ない卵の多くが、孵化する前に捕食されました。

    一匹の雌が10年以上かけて大人になる。

    その雌が数個の卵を産む。

    その多くが孵化前に失われる。

    さらに孵化した子ガメも、捕食、道路、生息地の変化などを越えなければならない。

    ハコガメが個体数を回復するのに時間がかかる理由が見えてきます。

    100年で約32%減少

    バージニア州野生生物資源局は、州内のWoodland Box Turtleについて、過去100年間で個体数がおよそ32%減少したと推定しています。

    生息地の分断や都市化、野生個体の違法なペット取引などが主要な脅威として挙げられています。

    一方で今回の研究は、

    「生まれたカメがなぜ減るのか」

    だけでなく、

    「そもそも、何匹が生まれるところまで到達できているのか」

    という段階へ調査を広げています。

    捕食者を悪者にすればいいのか

    13巣を失った。

    原因はアライグマやスカンク。

    だから捕食動物を排除すればいい。

    そう単純な話でもありません。

    アライグマやスカンクも、その生態系の中で生きている動物です。

    今回の研究の目的も、

    ただ捕食者を見つけることではありません。

    どんな場所に作られた巣が生き残るのか。

    土壌温度はどう違うのか。

    周囲の植生はどうなっているのか。

    巣の微気候はどうなっているのか。

    そうした条件を調べ、

    ハコガメが繁殖できる環境そのものを理解すること

    が目的です。

    来年は「生き残る巣」の条件を調べる

    研究チームは2027年も調査を続ける予定です。

    次の段階では、

    土壌温度。

    巣の位置。

    巣周辺の微気候。

    そのほかの環境条件。

    など、より詳しいデータを集めます。

    「捕食された巣」だけを見るのではありません。

    生き残った巣と比べる。

    そこに何が違うのかを探す。

    もし、

    生き残りやすい巣の条件が分かれば、

    将来、生息地管理や巣の保護方法を考える材料になります。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番面白いと思うのは、

    人間が母ガメに巣の場所を教えてもらっていることです。

    人間が地図を広げて、

    「ここに産むだろう」

    と決めるのではない。

    まずカメを探す。

    卵を持っているか確認する。

    そして、

    カメを元の場所へ戻す。

    そこから先は、

    母ガメに好きなところへ歩いてもらう。

    人間は後ろに残された一本の糸をたどる。

    森の中で、

    細い糸の先にある答えを探す。

    最新のX線装置があっても、

    GPSがあっても、

    最後に必要なのは、

    カメ自身がどこへ行くのかを見ること。

    この研究は、

    人間がカメに正解を教える研究ではありません。

    カメが選んだ場所から、

    人間が正解を教えてもらう研究なのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    亀は成熟に時間がかかるよね!

    僕は熱帯魚や金魚の繁殖をしていたから、亀の繁殖にもそれと同じ感覚で取り組んでしまいました。

    亀の繁殖にはめちゃめちゃ時間がかかる。

    それに、失敗もつきものである。

    プロのブリーダーさんたちの努力・研究には本当に敬服する。

    この記事にはあまり関係ないコメントになってしまったね。

    出典

    Smithsonian’s National Zoo and Conservation Biology Institute
    「How X-Rays, Plastic Cups and Spools of String Help National Zoo Researchers Find Wild Box Turtle Nests」

    Virginia Department of Wildlife Resources
    「Woodland Box Turtle」

    IUCN Red List of Threatened Species
    「Eastern Box Turtle – Terrapene carolina」

  • 【世界の亀ニュース】アカウミガメ922巣で過去最多 サニベル島。しかし4分の1の巣がコヨーテ被害

    今回は、アメリカ・フロリダ州のサニベル島で、アカウミガメの産卵巣が観測史上最多を更新したニュースを紹介します。

    数字だけを見ると、とても嬉しいニュースです。

    しかし、その砂浜では同時に、別の問題も大きくなっていました。

    今回のニュース

    2026年8月12日、Sanibel-Captiva Conservation Foundation(SCCF)は、フロリダ州サニベル島で確認されたアカウミガメの巣が922か所に達し、過去最高記録を更新したと発表しました。

    これまでの最高記録は2023年の878巣。

    2026年は産卵シーズンが完全に終了する前の段階で、それをすでに44巣上回っています。

    しかし、同じ発表にはもう一つ重要な数字があります。

    サニベル島では、922か所のアカウミガメの巣のうち、211か所がコヨーテによる捕食被害を受けました。

    被害率は22.6%。

    隣接するキャプティバ島では、241巣のうち82巣が被害を受け、被害率は33.7%に達しています。

    両島を合わせると、アカウミガメの巣1,163か所のうち293か所、およそ4巣に1巣がコヨーテの被害を受けていることになります。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:アメリカ合衆国・フロリダ州
    場所:サニベル島、キャプティバ島
    発表日:2026年8月12日
    対象種:アカウミガメ
    情報の種類:ウミガメ・産卵・繁殖・捕食・保護活動

    サニベル島とキャプティバ島では、SCCFが毎日砂浜を巡回し、ウミガメの巣を記録・監視しています。

    この地域のウミガメ調査は1959年に始まっており、フロリダ州でも最も長く継続されているウミガメのモニタリング活動の一つです。

    登場する亀

    今回の主役は、アカウミガメです。

    学名は Caretta caretta

    英語ではLoggerhead Sea Turtleと呼ばれています。

    アカウミガメは世界の温帯から亜熱帯の海に広く分布しており、フロリダ州の砂浜は世界的にも非常に重要な産卵地です。

    フロリダ州魚類野生生物保護委員会(FWC)によると、北西大西洋のアカウミガメ繁殖集団は世界最大規模とされ、その巣のおよそ90%がフロリダ州に集中しています。

    一匹の母ガメが何度も砂浜へ戻る

    922巣あるからといって、922匹の母ガメが来たという意味ではありません。

    一匹の雌は同じ繁殖シーズンに何度も産卵します。

    FWCによると、アカウミガメの雌は繁殖年に約4〜7回巣を作り、およそ14日間隔で再び砂浜へ上陸します。ひとつの巣には約100〜126個の卵が入り、孵化までには約60日かかります。

    つまり砂浜で数えられている「巣」は、

    母ガメが海から上がり、

    砂を掘り、

    卵を産み、

    再び海へ戻った、

    一回一回の繁殖行動の記録です。

    1959年から見続けてきた砂浜

    サニベル島のウミガメ調査は1959年に始まりました。

    当初は研究者Charles LeBuffとCaretta Researchが調査を行い、1992年からSCCFが引き継いでいます。

    2026年の922巣は、67年近く続く記録の中で最も多いアカウミガメの巣数です。

    一つのシーズンだけを見れば、

    「今年は多かった」

    で終わります。

    しかし、半世紀以上同じ砂浜を見続けているからこそ、

    昔と比べて増えたのか。

    減ったのか。

    どの場所へ産卵するようになったのか。

    何が変化しているのか。

    ということが分かります。

    過去最高なのに、安心できない

    2026年の巣数は記録的です。

    しかしSCCFは、巣の数だけを見て今シーズンを成功と判断することには慎重です。

    理由が、コヨーテによる卵の捕食です。

    サニベル島では211巣。

    キャプティバ島では82巣。

    合計293巣が被害を受けています。

    SCCFが引用している連邦政府のアカウミガメ回復計画では、捕食被害率10%が管理上の一つの目安とされています。

    ところがサニベル島では22.6%。

    キャプティバ島では33.7%。

    サニベル島西端のFar West地区では、**42.6%**に達しました。

    ほぼ2巣に1巣です。

    コヨーテが悪いのか

    この話を見ると、

    「コヨーテがウミガメを襲っている」

    と考えてしまいます。

    でも、野生動物の世界を単純に善悪で分けることはできません。

    コヨーテも生きるために餌を探しています。

    砂浜に大量の卵が埋まっていれば、それを見つける個体が現れること自体は不思議ではありません。

    問題なのは、

    現在の捕食圧が、ウミガメ個体群にとって許容できる範囲を超えている可能性があること

    です。

    そこでSCCFでは、一部の巣へ金網状の保護スクリーンを設置し、コヨーテなどが掘り返すことを防ぎながら、孵化した子ガメ自身は網目から外へ出られる仕組みを使っています。

    巣が多くても、子ガメが多いとは限らない

    ここが今回のニュースで、とても重要なところです。

    922巣。

    これは間違いなく大きな記録です。

    でも、

    巣の数と、海へ到達する子ガメの数は同じではありません。

    卵が捕食される。

    高潮で巣が流される。

    孵化しない卵がある。

    生まれても砂から出られない個体がいる。

    人工照明によって海とは反対方向へ進んでしまう場合もあります。

    SCCFも、2026年シーズンの本当の結果は、残っている巣がすべて孵化または失敗し、最終的な子ガメの脱出数が集計されるまで分からないとしています。

    2023年にも同じことが起きていた

    実は、これは初めて起きた問題ではありません。

    2023年も、サニベル島とキャプティバ島ではアカウミガメの巣が過去最高水準を記録しました。

    しかし同時に、両島では約43%の巣が捕食被害を受けました。

    その結果、その年に砂浜から出てきた子ガメの数は、当時として2016年以来最も少なくなりました。

    つまり、

    母ガメがたくさん産卵した。

    だから安心。

    とは言えません。

    卵が孵化して、

    子ガメが砂から出て、

    海へ入って、

    初めて次の段階へ進みます。

    アカウミガメは大人になるまで約35年

    海へ入った子ガメが、すぐ次の世代を作るわけでもありません。

    FWCによると、アカウミガメが性成熟するまでには、およそ35年かかります。

    2026年にサニベル島から海へ入る子ガメが、

    大西洋を泳ぎ、

    成長し、

    さまざまな危険を越え、

    繁殖できる母ガメとなるのは、

    2060年前後になる可能性があります。

    そして雌は、成熟すると自分が生まれた地域に近い砂浜へ戻り、次の卵を産みます。

    今砂浜で見えている母ガメたちは、何十年も前の保護活動の結果でもあります。

    922巣は「今年だけ」の数字ではない

    SCCFは、近年の巣数増加について、過去に行われてきた保全活動の成果が現れている可能性を指摘しています。

    海亀の保護には時間がかかります。

    今日卵を守る。

    明日結果が出る。

    というものではありません。

    数十年前に守られた子ガメが大人になり、

    今、

    砂浜へ戻っている。

    2026年の922巣には、そんな長い時間が含まれています。

    フロリダは世界最大級の産卵地

    フロリダ州は、アカウミガメにとって世界でも特に重要な場所です。

    FWCによると、北西大西洋の繁殖集団のおよそ90%の巣がフロリダ州にあります。

    つまり、フロリダの一つの砂浜で起きていることは、

    その地域だけの話ではありません。

    大西洋を回遊するアカウミガメ個体群全体につながっています。

    人間にもできることがある

    SCCFは、観光客や住民に対して、産卵シーズン中の砂浜でいくつかの行動を呼びかけています。

    夜間は照明を落とす。

    砂浜に掘った穴を埋める。

    ビーチチェアやテント、玩具を夜まで残さない。

    ゴミや釣り糸を放置しない。

    産卵中の母ガメへ近づかない。

    保護用のスクリーンへ触らない。

    どれも巨大な保護施設を作るような活動ではありません。

    でも、一匹の母ガメが安心して卵を産み、

    一匹の子ガメが海まで歩くためには、

    そういう小さなことが重要になります。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番面白いと思うのは、

    「過去最多」という数字の先を見なければならないことです。

    922巣。

    ニュースのタイトルとしては、とても分かりやすい。

    記録更新。

    保護活動成功。

    アカウミガメ復活。

    そう書きたくなる。

    でも砂を掘ってみれば、

    卵がない巣がある。

    コヨーテに食べられた巣がある。

    水に流された巣がある。

    まだ孵化していない巣がある。

    一つの数字だけでは、生き物の状態は分からない。

    たくさん産んだのか。

    何匹生まれたのか。

    何匹海へ入ったのか。

    何匹大人になったのか。

    全部違う数字です。

    だから、

    922という数字を喜びながら、

    その先も見続ける必要がある。

    今回のニュースは、

    「増えた」ということと、「守れた」ということは同じではない

    と教えてくれている気がします。

    湯川亀吉の一言

    ウミガメって、意外とでかいよね。

    出典

    Sanibel-Captiva Conservation Foundation(SCCF)
    「Record-Breaking Loggerhead Nesting on Sanibel Continues to Rise」
    2026年8月12日
    https://sccf.org/2026/08/12/record-breaking-loggerhead-nesting-on-sanibel-continues-to-rise/

    Sanibel-Captiva Conservation Foundation(SCCF)
    「Record-Breaking Loggerhead Nesting Season on Sanibel」
    2026年7月29日
    https://sccf.org/2026/07/29/record-breaking-loggerhead-nesting-season-on-sanibel/

    Florida Fish and Wildlife Conservation Commission(FWC)
    「Loggerhead Nesting in Florida」
    https://myfwc.com/research/wildlife/sea-turtles/nesting/loggerhead/

    Florida Fish and Wildlife Conservation Commission(FWC)
    「Loggerhead Sea Turtle」
    https://myfwc.com/wildlifehabitats/profiles/reptiles/sea-turtles/loggerhead-turtle/

    NOAA Fisheries
    「Loggerhead Turtle」
    https://www.fisheries.noaa.gov/species/loggerhead-turtle

  • 【世界の亀ニュース】エロンガータリクガメ201匹が誕生 カンボジアの保全繁殖で過去最高記録

    【世界の亀ニュース】エロンガータリクガメ201匹が誕生 カンボジアの保全繁殖で過去最高記録

    今回は、カンボジアで絶滅の危機にあるエロンガータリクガメの子どもが、2026年だけで201匹誕生したニュースを紹介します。

    今回のニュース

    2026年8月、カンボジアのアンコール生物多様性保全センター(Angkor Centre for Conservation of Biodiversity:ACCB)は、今年の繁殖シーズンにエロンガータリクガメ201匹の孵化に成功したと発表しました。

    これは、ACCBが行ってきたエロンガータリクガメの保全繁殖プログラムとして過去最高の記録です。

    これまでの最高記録は2024年の169匹。

    2026年は8月時点ですでに201匹に達し、前回の記録を約19%上回りました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:カンボジア
    施設:アンコール生物多様性保全センター(ACCB)
    地域:シェムリアップ州
    発表:2026年8月8日
    報道:2026年8月10日
    情報の種類:リクガメ・飼育下繁殖・孵化・野生復帰・絶滅危惧種

    ACCBはカンボジアの絶滅危惧動物を対象に、救護、飼育下繁殖、野生復帰、放逐後の追跡などを行う保全施設です。

    登場する亀

    今回の主役は、エロンガータリクガメです。

    学名は Indotestudo elongata

    英語ではElongated Tortoiseと呼ばれています。

    日本の動物園でも「エロンガータリクガメ」という和名が使われています。背甲はやや扁平で、上から見ると前後に細長い形をしています。最大甲長は30センチ前後から、大型個体では約36センチに達します。

    インド北東部からネパール、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、カンボジア、ラオス、ベトナム、マレー半島、中国南部など、南アジアから東南アジアにかけて分布しています。

    201匹という新記録

    ACCBでは、2026年に入ってから201匹のエロンガータリクガメが孵化しました。

    2024年の年間記録169匹を、8月の段階ですでに超えています。

    ACCBは2026年を、この繁殖プログラムにとってこれまでで最も成功した年としています。

    201匹の子ガメたちは現在、ACCBの施設内で育てられています。

    すぐに野生へ放すわけではありません。

    捕食者に簡単に襲われない大きさまで成長させ、その後、条件が整った個体から野生復帰を目指します。

    世界最大規模の飼育個体群

    ACCBは、エロンガータリクガメについて世界最大の飼育下個体群を維持する施設としています。

    2025年にACCBの担当者が紹介した内容では、同センターでは約600匹のエロンガータリクガメが飼育されていました。

    これは単に「たくさん飼っている」という意味ではありません。

    野生個体群が大きく減少している種類について、遺伝的な多様性をできるだけ維持しながら繁殖させ、将来的に野生個体群を補強するための個体群です。

    こうした個体群は、野生で何か大きな問題が起きたときに種そのものが失われることを防ぐ、いわば保険のような役割も持っています。

    90年間で80%以上減少

    エロンガータリクガメは、広い範囲に分布しているカメです。

    しかし、

    「広く分布している=安全」

    ではありません。

    ACCBによる保全活動の紹介では、違法な食用捕獲、国際的な野生生物取引、生息地の劣化と分断などによって、過去約90年間で個体数が少なくとも80%減少したとされています。

    現在はIUCNレッドリストで「Critically Endangered」、つまり「深刻な危機」に分類されています。

    一見すると普通に見える中型のリクガメが、実際には世界的な絶滅危惧種になっています。

    森の中で暮らすリクガメ

    エロンガータリクガメは、乾燥した砂漠を歩くタイプのリクガメではありません。

    東南アジアの落葉広葉樹林など、比較的湿度のある森林環境を利用します。

    植物の葉。

    果実。

    花。

    キノコ。

    タケノコ。

    そして、ときにはカタツムリなどの小動物や動物の死骸も利用する、植物食傾向の強い雑食性のカメです。

    森の中で落ちた果実を食べ、別の場所へ移動し、糞と一緒に種子を運びます。

    ACCBの保全担当者は、エロンガータリクガメが種子散布に関わり、森林の再生にも役割を持つと説明しています。

    リクガメを戻すことは、森の機能を戻すこと

    リクガメが一匹いなくなる。

    それだけを見ると、生態系への影響は分かりにくいかもしれません。

    しかし、森の中で果実を食べる大型の動物が減れば、植物の種が運ばれる距離も変わります。

    土を掘る動物が減れば、地面の状態も変わります。

    ACCBは、エロンガータリクガメが種子を運ぶだけでなく、土を掘る行動によって土壌へ空気を送り込み、小さな生物が利用する環境を作ることにもつながると説明しています。

    つまり、リクガメを森へ戻すことは、

    「カメの数を増やす」

    だけの活動ではありません。

    森の中から失われつつある機能を、一つずつ戻す活動でもあります。

    すでに100匹を森へ戻す計画が始まっている

    ACCBでは繁殖だけでなく、実際の野生復帰も進めています。

    2023年4月、飼育下で育てられた100匹のエロンガータリクガメが、カンボジア北部の保護地域へ移されました。

    しかし、到着したその日に放されたわけではありません。

    まず約1ヘクタールの順応用エリアへ入れられ、野生の気温、植物、地面、雨、餌などに慣れる期間が設けられました。

    そして約8か月後。

    2024年1月12日、囲いが開放されました。

    100匹のリクガメは、そこから自分の意思で森の中へ散らばっていきました。

    「放して終わり」ではない

    野生復帰で難しいのは、

    カメを森へ置くことではありません。

    そのあと、本当に生きていけるのかを確かめることです。

    ACCBでは放された個体の一部に、GPSとVHF発信器を取り付けています。

    どこへ移動するのか。

    どんな場所で休むのか。

    どれくらい広い範囲を利用するのか。

    健康状態は維持できているのか。

    そうした情報を収集しています。

    放したカメが森の中へ消えてしまえば、

    「野生復帰成功」

    と考えたくなります。

    でも、本当の答えはその先にあります。

    森を歩く「Tortoise Guardians」

    放されたカメを追跡するために、現地では3人のTortoise Guardians=リクガメの守り手が訓練されました。

    彼らは実際にその森で暮らしている地域住民です。

    発信器の信号を追い、

    カメの位置を確認し、

    行動や環境データを集めます。

    ACCBのスタッフも定期的に森へ入り、GPSデータを回収したり、発信器を交換したりしています。

    さらに半年ごとに獣医師が健康状態を確認します。

    飼育施設で生まれたカメが、

    森へ入る。

    人間の視界から消える。

    でも遠くから、その生活を少しだけ見守る。

    繁殖施設と野生の森が、そこでつながっています。

    201匹は、まだ「成果の途中」

    201匹が孵化した。

    それだけでも大きなニュースです。

    でも、保全という視点では、この201匹はまだスタート地点に立ったばかりです。

    成長する。

    健康を維持する。

    野生へ戻せる大きさになる。

    新しい環境へ慣れる。

    森へ放される。

    野生の餌を見つける。

    雨季と乾季を越える。

    そして何年も生き、成長し、最終的には自分たちで繁殖する。

    そこまで到達して初めて、人間が育てた一世代が、野生の個体群へ本当に加わったと言えるのだと思います。

    飼育下繁殖はゴールではない

    動物園や保全施設で絶滅危惧種がたくさん生まれると、

    「もう大丈夫なのでは?」

    と思うことがあります。

    しかし、野生の森そのものが失われれば、帰る場所はありません。

    エロンガータリクガメが減少してきた背景には、捕獲だけではなく、森林の劣化や分断もあります。

    だからACCBでは、

    飼育下繁殖。

    野生復帰。

    放逐後の追跡。

    地域住民との協力。

    生息地の保全。

    それらを一つの流れとして進めています。

    201匹の子ガメを育てることと、

    その201匹が帰れる森を残すこと。

    どちらか一方だけでは成立しません。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が特に注目したいのは、

    「たくさん生まれた」というニュースの先に、森があることです。

    201匹。

    数字として見ると、とても分かりやすい成果です。

    でも、本当に重要なのは、

    その201匹を水槽の中で増やし続けることではない。

    いつか、

    人間が餌を与えなくても、

    人間が温度を管理しなくても、

    人間が毎日姿を確認しなくても、

    森の中で勝手に生きていること。

    そして、

    そのカメ自身が次の卵を産むこと。

    飼育下繁殖が成功するほど、

    次に問われるのは、

    「帰る場所を残せているか」

    なのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    エロンガータかっこいいよね!

    家にスペースがあったら飼育してみたいな〜

    出典

    Angkor Centre for Conservation of Biodiversity(ACCB)
    2026年エロンガータリクガメ繁殖記録。

    Cambodianess
    「Over 200 Hatchlings of Tortoises Show Successful Breeding Year」
    2026年8月10日。

    British and Irish Association of Zoos and Aquariums(BIAZA)
    「The Long (but Slow) Walk Home – Restoring Elongated Tortoise Populations in Cambodia’s Forests」

    京都市動物園
    「エロンガータリクガメ/Elongated Tortoise」

  • 【世界の亀ニュース】カナダでニセチズガメ100件超の観察記録 市民の写真から見つかった外来チズガメ

    【世界の亀ニュース】カナダでニセチズガメ100件超の観察記録 市民の写真から見つかった外来チズガメ

    今回は、カナダで本来生息していないチズガメの観察記録が増えているニュースを紹介します。

    きっかけは、一枚のカメの写真でした。

    今回のニュース

    2026年8月6日、Canadian Wildlife Federation(カナダ野生生物連盟)は、カナダ国内でニセチズガメの観察記録が100件を超え、さらにフトマユチズガメも20件以上記録されていると発表しました。

    どちらも本来はアメリカに自然分布する淡水ガメです。

    カナダ野生生物連盟によると、これらの外来チズガメは現在、ブリティッシュコロンビア州、オンタリオ州、ケベック州で観察されています。

    ただし、ここで重要なのは、

    「100件の観察記録=100匹の別個体」ではない

    ということです。

    同じ個体が複数回撮影されている可能性もあります。また、観察例が増えていることだけから、カナダで繁殖して安定した野生個体群を形成していると断定することもできません。

    現時点で分かっているのは、カナダのさまざまな場所で、本来そこにいないチズガメが繰り返し確認されているということです。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:カナダ
    確認地域:ブリティッシュコロンビア州、オンタリオ州、ケベック州
    発表日:2026年8月6日
    情報源:Canadian Wildlife Federation
    情報の種類:淡水ガメ・外来種・市民科学・生息分布調査

    今回の発見には、自然観察情報を投稿する市民科学プラットフォーム「iNaturalist Canada」の写真記録が大きな役割を果たしています。

    登場する亀

    今回のニュースには、よく似た3種類のチズガメが登場します。

    ヒラチズガメ

    学名は Graptemys geographica

    英語ではNorthern Map Turtle、Common Map Turtleと呼ばれます。

    この3種類の中で、カナダに自然分布しているのがヒラチズガメです。

    カナダでは主にオンタリオ州中部・南部と、ケベック州南西部の一部に分布しています。カナダ国内では保全上「Special Concern(特別な懸念)」に指定されているカメでもあります。

    ニセチズガメ

    学名は Graptemys pseudogeographica

    英語ではFalse Map Turtleと呼ばれます。

    本来の自然分布域は、アメリカのミシシッピ川やミズーリ川水系などです。日本でも「ニセチズガメ」という和名が使われています。

    カナダ野生生物連盟によると、2021年ごろにはまだ珍しい観察例だったものが、2026年にはiNaturalist上で100件を超える観察記録になりました。

    フトマユチズガメ

    学名は Graptemys ouachitensis

    英語ではOuachita Map Turtleと呼ばれます。

    日本では「フトマユチズガメ」または「ウォシタチズガメ」という和名が使われています。自然分布はアメリカ中部から南部です。

    こちらもカナダでは本来の自然分布外で、2026年時点で20件を超える観察記録が確認されています。

    始まりは「なんか違う」

    このニュースの面白いところは、最初から外来種を探していたわけではないことです。

    2021年、カナダ野生生物連盟の研究者たちは、ヒラチズガメがモーターボートのプロペラによってどの程度負傷しているのかを調べていました。

    そのために、iNaturalist Canadaへ投稿されていたヒラチズガメの写真を一枚ずつ確認していました。

    研究対象となったのは、1,953件ものヒラチズガメの観察写真です。研究者たちはその中から甲羅の状態を確認できる個体を選び、プロペラによる傷がないか調査しました。

    その作業中、

    一枚の写真に写っていたカメが、

    どうもヒラチズガメらしくない。

    研究者たちは違和感を覚えました。

    少し似ている。

    でも何かが違う。

    そこで写真を保留して後から詳しく調べたところ、そのカメはカナダ在来のヒラチズガメではなく、ニセチズガメだったことが分かりました。

    5年後には100件を超えた

    一枚の写真から始まった発見でした。

    ところが、それから約5年。

    ニセチズガメの観察記録は100件を超えました。

    さらに、別種のフトマユチズガメについても20件以上が報告されています。

    研究者にとって問題なのは、

    「外来チズガメがいる」

    ということだけではありません。

    在来のヒラチズガメと非常によく似ていることです。

    見間違えれば、外来種が増えていても、すべてヒラチズガメとして記録されてしまう可能性があります。

    見分ける鍵は「目の後ろ」

    3種類を見分けるとき、カナダ野生生物連盟が注目しているのが頭部の模様です。

    ヒラチズガメ

    目の後ろに、丸形または三角形に近い斑紋があります。

    個体差はありますが、多くの場合、目と同程度の大きさです。

    ニセチズガメ

    ニセチズガメの一部では、目の後ろに太い黄色の線が「L字型」に走ります。

    上から見ると、その模様がホッケースティックや眉毛のように見えることがあります。

    亜種のミシシッピチズガメでは、その模様がさらに目の周囲から鼻や口方向へ伸びます。

    フトマユチズガメ

    フトマユチズガメでは、目の後ろに比較的大きな長方形状の斑紋があります。

    さらに重要なのが下顎です。

    目のほぼ真下に大きな斑点があり、その幅が目と同じ程度か、それ以上になることが識別ポイントとされています。

    亀の専門家でも間違える

    「模様を見れば簡単に分かる」

    というほど単純ではありません。

    カナダ野生生物連盟自身、

    チズガメの識別は専門家にとっても難しい

    と説明しています。

    模様には個体差があります。

    写真の角度によって見えない部分もあります。

    甲羅だけが水面から出ていて、頭が見えない場合もあります。

    遠くの丸太で日光浴しているカメなら、種類を判断することはさらに難しくなります。

    だからこそ、横から頭部の模様がよく分かる写真が重要になります。

    市民が撮った写真が外来種調査になる

    今回のニュースでもう一つ注目したいのが、市民科学です。

    iNaturalist Canadaには、専門研究者だけでなく、一般の人が自然の中で見つけた動植物の写真を投稿できます。

    2023年に発表されたカナダ野生生物連盟の研究では、iNaturalist Canadaには当時すでに1,000万件以上の生物観察記録があり、そのうちカメだけでも6万件以上が登録されていました。

    研究者がカナダ中の池や川を毎日巡回することはできません。

    でも、

    散歩中の人。

    釣りをしている人。

    カヌーに乗っている人。

    公園を歩いている人。

    そうした何万人もの人が撮影した写真が集まれば、巨大な観測網になります。

    一枚の「亀の写真」が、数年後には外来種の分布を追跡するデータになる可能性があります。

    なぜカナダにいるのか

    カナダ野生生物連盟は、本来の分布域から離れた都市公園や水域にいるチズガメについて、人間によって持ち込まれた可能性を指摘しています。

    淡水ガメは長年、ペットとして世界中で流通してきました。

    しかし、大きくなった。

    飼えなくなった。

    引っ越すことになった。

    そうした理由で自然の池や川へ放されたカメが、外来個体となることがあります。

    もちろん、今回確認された一匹一匹について「元ペットだった」と証明されているわけではありません。

    ただし、本来の自然分布から遠く離れた場所で複数種のチズガメが確認されている以上、人間による移動は重要な問題です。

    「外来種」と「定着」は同じではない

    ここは今回の記事で特に注意したいところです。

    ニセチズガメの観察記録が100件を超えたからといって、

    「カナダで大量繁殖している」

    とまでは、今回の発表から判断できません。

    観察記録は個体数そのものではありません。

    繁殖した子ガメが確認されているのか。

    越冬しているのか。

    同じ場所に何年間も個体群が存在するのか。

    在来種と餌や日光浴場所を奪い合っているのか。

    そうしたことを調べて初めて、外来個体群がどの程度定着しているのかが分かります。

    今回の100件という数字は、

    「今後詳しく調べる必要があるサイン」

    として見るのが適切だと思います。

    在来のヒラチズガメも安心できない

    カナダ在来のヒラチズガメ自体も、すでにさまざまな問題に直面しています。

    カナダ野生生物連盟がiNaturalistの写真1,513件を詳しく分析した研究では、4%にモーターボートのプロペラによるものと考えられる甲羅の傷が確認されました。地域によっては7%に達しています。

    ヒラチズガメは長寿で、成熟まで時間がかかるカメです。

    そのため、繁殖可能な成体が少しずつ失われるだけでも、長期的には個体群に影響する可能性があります。

    そこへ今度は、本来いなかった近縁種まで現れ始めています。

    外来チズガメが在来種へどの程度影響するのかは、これから調べていく必要があります。

    日本でも他人事ではない

    ニセチズガメとフトマユチズガメは、日本でも「生態系被害防止外来種」に関する情報が整理されている種類です。

    国立環境研究所の侵入生物データベースでは、ニセチズガメ、フトマユチズガメともに、日本国内では定着していないとされています。

    しかし、どちらもペットとして流通してきたカメです。

    海外で起きている問題だから、日本には関係ないとは言い切れません。

    飼育しているカメを最後まで飼う。

    自然へ放さない。

    当たり前に見えるこの行動が、外来種問題を作らないためには非常に重要です。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が面白いと思うのは、

    発見の始まりが、「なんか違う」だったことです。

    研究者は外来チズガメを探していたわけではありません。

    ヒラチズガメの甲羅についた傷を調べていた。

    何千枚もの写真を見ていた。

    その中の一匹だけ、

    なんとなく違った。

    その違和感を捨てなかった。

    そして5年後、

    100件を超える観察記録へつながった。

    生き物を観察するというのは、

    珍しいものを見つけることだけではないのだと思います。

    いつものカメを見る。

    また見る。

    何度も見る。

    だから、

    「いつもと違う」

    ことが分かる。

    今回のニュースは、市民科学の話であると同時に、

    生き物をよく見ることの力

    についてのニュースでもあると思います。

    湯川亀吉の一言

    外来種ってそんなに問題なのか?

    出典

    Canadian Wildlife Federation
    「New Turtle Invaders in Canada」

    Seburn, D. C. et al.
    「Assessing Injury Rates in Northern Map Turtles (Graptemys geographica) From Motorboats Using iNaturalist Canada」
    Herpetological Conservation and Biology, 2023.

    https://www.inaturalist.org/places/canada

    国立環境研究所 侵入生物データベース
    「ニセチズガメ Graptemys pseudogeographica

    国立環境研究所 侵入生物データベース
    「フトマユチズガメ Graptemys ouachitensis

  • 【世界の亀ニュース】絶滅危惧種を含む5種7匹の子ガメが誕生 テネシー水族館で淡水ガメのベビーブーム

    【世界の亀ニュース】絶滅危惧種を含む5種7匹の子ガメが誕生 テネシー水族館で淡水ガメのベビーブーム

    今回は、アメリカのテネシー水族館で、5種類の淡水ガメの子どもが相次いで誕生したニュースを紹介します。

    今回のニュース

    アメリカ・テネシー州チャタヌーガにあるテネシー水族館で、2026年5月中旬以降、5種類、合計7匹の淡水ガメが孵化しました。

    誕生したのは、ヨツメイシガメ3匹、ジャノメイシガメ1匹、キボシイシガメ1匹、ワモンチズガメ1匹、ヒラリーカエルガメ1匹です。

    このうち多くは、絶滅の危機に直面している種類です。さらに水族館の孵卵器では、別のワモンチズガメやモリイシガメ類などの卵も発生を続けています。テネシー水族館が7月7日に発表し、アメリカ動物園水族館協会が7月31日に改めて紹介しました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:アメリカ合衆国、テネシー州
    場所:チャタヌーガ、テネシー水族館
    元記事の言語:英語
    水族館による発表:2026年7月7日
    アメリカ動物園水族館協会による紹介:2026年7月31日
    情報の種類:新着ニュース・淡水ガメ・繁殖・孵化・動物園・絶滅危惧種

    テネシー水族館は、一般公開されているものとしては北米最大規模の淡水ガメコレクションを持つ施設です。1992年の開館から今回の発表までに、56種類・亜種、合計1,166匹のカメを孵化させてきました。

    誕生した5種類のカメ

    今回孵化したのは、次の5種類です。

    ヨツメイシガメ 3匹

    学名は Sacalia quadriocellata

    頭部の左右にある眼状斑によって、本物の目と合わせて四つの目があるように見えることが、和名の由来です。今回誕生した種類の中では最も多い3匹が孵化しました。

    ジャノメイシガメ 1匹

    学名は Sacalia bealei

    英語ではBeal’s four-eyed turtle、またはBeal’s eyed turtleと呼ばれます。ヨツメイシガメと同じSacalia属ですが、甲羅や頭部の模様に違いがあります。日本では「ジャノメイシガメ」という和名が使われています。

    キボシイシガメ 1匹

    学名は Clemmys guttata

    黒い甲羅や皮膚に黄色い斑点が散らばる、小型の北米産淡水ガメです。英語ではSpotted turtleと呼ばれています。

    ワモンチズガメ 1匹

    学名は Graptemys oculifera

    甲羅に輪のような模様が現れるチズガメの仲間で、英語名はRinged map turtleです。アメリカ南部の限られた水系に分布する種類です。

    ヒラリーカエルガメ 1匹

    学名は Phrynops hilarii

    南米に分布するヨコクビガメ類の一種です。首を甲羅へまっすぐ引き込むのではなく、横へ曲げて収納します。顎にある2本のヒゲ状突起も特徴です。

    ニュースの要約

    今回の孵化では、ヨツメイシガメが3匹、そのほかの4種類が1匹ずつ誕生しました。

    テネシー水族館の記事では、ヨツメイシガメは「深刻な絶滅危機」、ジャノメイシガメ、キボシイシガメ、ワモンチズガメは「絶滅危惧」と紹介されています。

    ヒラリーカエルガメは同じ評価対象には含まれていませんが、異なる大陸や環境で進化した5種類が、同じ時期に一つの水族館で孵化したことになります。

    水族館の孵卵器では、さらに2匹のワモンチズガメが孵化直前とみられています。

    また、チュウオウアメリカモリイシガメとキボシチズガメの卵も、順調な発生を示していると報告されました。ワモンチズガメがテネシー水族館で孵化したのは、1998年以来です。

    孵卵器の中に季節を作る

    カメの卵を孵化させるには、温度を一定に保つだけでは十分ではありません。

    土や砂などの床材、水分量、空気の温度、湿度といった条件を、その種類が野生で経験する環境に近づける必要があります。

    飼育下での繁殖例が少ない種類では、どの条件が適しているのか、まだ十分に分かっていない場合もあります。飼育担当者は、卵の状態を観察しながら、野生の季節変化を孵卵器の中で再現します。

    特に複雑だったのが、ヒラリーカエルガメの孵化です。

    このカメが生息する南米では、卵が産み落とされる時期と、子ガメが安全に活動できる雨季との間に時間があります。

    卵の発生や孵化はすぐに進むのではなく、条件が整うまで遅らせられることがあります。雨季の嵐や水位上昇などの環境変化が、子ガメにとって外へ出る合図になります。

    テネシー水族館では、最初に卵を低温・低湿度に近い条件で管理しました。

    その後、少しずつ温度を上げ、時折水を吹きかけることで、乾季から雨季へ移り変わる環境を再現しました。

    つまり、飼育員は孵卵器の中で南米の季節を進め、子ガメが卵から出る時期を待ったのです。

    2007年から続くヨツメイシガメの繁殖

    テネシー水族館は、ヨツメイシガメの繁殖で特に大きな成果を残してきました。

    同館では2007年、飼育下では世界初とされたヨツメイシガメの孵化に成功しました。それ以降、今回の3匹を含め、飼育下個体群へ加わったヨツメイシガメは合計72匹になりました。

    水族館で誕生した個体の一部は、ブロンクス動物園、ノックスビル動物園、キャメロンパーク動物園など、アメリカ動物園水族館協会に加盟する別の施設へ移されています。

    一つの施設だけで個体を抱えるのではなく、複数の施設で分散して飼育・繁殖することで、災害や病気などによって一度に個体群を失う危険を減らせます。

    飼育下で残す「もう一つの個体群」

    今回誕生した子ガメが、すぐに野生へ放されるわけではありません。

    動物園や水族館で維持される希少種の個体群には、野生の個体群がさらに減少した場合に備える「保険」のような役割があります。

    適切な血統管理を行いながら繁殖を続けることで、その種類そのものと、飼育・繁殖に必要な知識を将来へ残します。テネシー水族館は、こうした個体群を野生絶滅への備えとなる「assurance population」と説明しています。

    ただし、水族館で繁殖できることと、野生のカメを守ることは同じではありません。

    川や湿地そのものが失われれば、帰る場所はなくなります。

    飼育下繁殖は野生環境の代わりではなく、野生の個体群と生息地を守る活動を支える、もう一つの方法なのだと思います。

    飼育技術も次の施設へ受け継がれる

    テネシー水族館では、繁殖に成功した方法を施設内だけの秘密にはしていません。

    卵を管理した温度、湿度、床材、孵化までの変化などを、ほかの動物園や水族館の専門家と共有しています。

    以前は飼育下での孵化が難しかった種類でも、複数の施設が知識を共有することで、繁殖例を増やせる可能性があります。

    一匹の子ガメが誕生するまでに得られた知識は、その一匹だけのものではありません。

    次の卵を孵化させる人へ伝わり、別の水族館へ伝わり、その種類全体を守るための技術へ変わっていきます。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、5種類のカメが、それぞれ違う季節と環境を卵の中に持っていることです。

    同じ孵卵器へ入れて、同じ温度にすれば孵化するわけではありません。

    アジアの山地に暮らすカメ。

    北米の湿地に暮らすカメ。

    南米の乾季と雨季を生きるカメ。

    卵は小さく、外から見ればよく似ています。

    でも、その卵が待っている雨や温度、湿度、孵化の時期は、それぞれ違います。

    飼育員は卵を見ながら、その中にある遠い川や森の季節を想像します。

    カメを増やすというより、カメが何百万年もかけて身につけた時間の進み方を、人間が少しずつ学んでいるのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    繁殖は楽しいよね!

    出典

    Tennessee Aquarium
    「Hatching bonanza adds 7 adorable baby turtles from 5 species to Aquarium」

    Association of Zoos and Aquariums
    「Tennessee Aquarium Welcomes Seven Baby Turtles From Five Species」

  • 【世界の亀ニュース】アカウミガメの巣4,100個超 米ジョージア州で過去最多を更新

    【世界の亀ニュース】アカウミガメの巣4,100個超 米ジョージア州で過去最多を更新

    今回は、アメリカ・ジョージア州の海岸で、アカウミガメの巣が過去最多を更新したニュースを紹介します。

    今回のニュース

    2026年、アメリカ・ジョージア州で確認されたアカウミガメの巣が、これまでの記録を上回りました。

    ジョージア州自然資源局が参加するウミガメ巣穴監視システムによると、8月2日時点で州内の海岸から報告されたウミガメの巣は暫定4,169個。そのうち、4,107個がアカウミガメの巣です。

    これまでの最多記録は、2022年に確認された4,071個でした。2026年の産卵シーズンはまだ完全には終わっておらず、最終的な数はさらに増える可能性があります。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:アメリカ合衆国、ジョージア州
    主な地域:大西洋沿岸の島々と砂浜
    元記事の言語:英語
    集計時期:2026年8月2日時点
    情報の種類:新着ニュース・ウミガメ・産卵・繁殖・保護活動

    ジョージア州では、カンバーランド島、オサボー島、セントキャサリンズ島、ジキル島、タイビー島など、多数の海岸でウミガメの産卵調査が行われています。

    州の沿岸約150キロを対象に、ボランティア、研究者、行政職員らが巣を探し、保護し、孵化状況を記録しています。

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、アカウミガメです。

    学名は Caretta caretta。英語ではLoggerhead Sea Turtleと呼ばれます。

    名前のとおり、ほかのウミガメと比べて大きく頑丈な頭を持っています。強い顎でカニや貝などの硬い獲物をかみ砕き、大西洋、太平洋、インド洋などの広い海域を移動します。

    アメリカのジョージア州では、海岸へ産卵に来るウミガメの大部分をアカウミガメが占めています。アメリカでは保護対象となっており、ジョージア州のウミガメ保護活動でも中心となる種です。

    ニュースの要約

    2026年の産卵シーズンに、ジョージア州で最初のアカウミガメの巣が確認されたのは5月5日でした。

    それから約3か月の間に、州内の各地で次々と巣が発見されました。

    8月2日時点の暫定集計では、アカウミガメの巣が4,107個、アオウミガメの巣が5個、ケンプヒメウミガメの巣が4個、種を確定できていない巣が53個確認されています。

    産み落とされた卵の推定数は、すでに16万個を超えています。

    一部の巣では孵化も始まり、同日の集計では約5万6,800匹の子ガメが巣から出たと記録されています。ただし、これらは産卵・孵化シーズン途中の暫定値であり、今後も更新されます。

    2022年の記録を超えた

    ジョージア州では、1989年に州内の主要な海岸を対象とした本格的な調査が始まりました。

    それ以降の最多記録は、2022年の4,071個でした。2022年には、26万匹を超えるアカウミガメの子どもが海へ向かったとされています。

    2026年は、産卵シーズンが始まる前から、巣の多い年になると予測されていました。

    6月22日の時点ですでに2,366個の巣が確認され、その後も急速に数が増えました。そして8月初め、アカウミガメだけで4,100個を超え、2022年の記録を更新しました。

    なぜ今年は巣が多いのか

    アカウミガメの雌は、毎年必ず産卵するわけではありません。

    一度の産卵シーズンに複数回の巣を作ったあと、次の産卵まで2年から3年ほど間を空ける個体もいます。

    そのため、巣の数は毎年一定ではなく、数年おきに大きく増えることがあります。ジョージア州の研究者たちは、2026年がそうした「多くの雌が同じ年に戻ってくる年」になると予測していました。

    ただし、2026年には、例年より多くの雌が同じ時期に集中して産卵する「波」のような動きも確認されています。

    なぜ産卵の時期がこれほど重なったのかは、まだ完全には分かっていません。研究者たちは卵から採取したDNAや産卵記録を調べ、その原因を探っています。

    タイビー島でも島の記録を更新

    観光地として知られるタイビー島でも、2026年は過去最多の産卵シーズンとなりました。

    これまでの島の最多記録は2022年の35個でしたが、7月15日の時点ですでに49個へ到達。その後も増え続け、8月2日時点の監視記録では、53個のアカウミガメの巣が報告されています。

    タイビー島では毎朝、訓練を受けたボランティアが海岸を歩き、前夜に残された母ガメの足跡を探しています。

    巣が見つかると場所を特定し、印を付けて保護します。高潮による浸水の危険が高い場所では、許可を受けた担当者が卵を安全な位置へ移すこともあります。

    数が増えても、すべての卵が孵化するわけではない

    巣の数が過去最多になったことは、大きな希望です。

    しかし、産み落とされた卵がすべて子ガメになるわけではありません。

    高潮や嵐で巣が浸水することもあります。捕食者に卵を食べられることもあります。砂浜に残された深い穴や椅子、テント、ゴミが、母ガメや子ガメの進路を塞ぐこともあります。

    さらに、海岸沿いの人工照明は、子ガメが進む方向を狂わせます。子ガメは本来、暗い砂浜から海側の明るい地平線へ向かいますが、建物や道路の光に引き寄せられると、海とは反対側へ進んでしまうことがあります。

    タイビー島の保護関係者は、海岸を「平らに、きれいに、暗く」保つよう呼びかけています。

    砂の穴を埋める。
    砂の城を崩す。
    ゴミや道具を持ち帰る。
    夜は海岸に向けた照明を消す。

    一つひとつは小さな行動ですが、母ガメが巣を作り、子ガメが海へ向かうためには重要なことです。

    長い保護活動が数字になって現れた

    ジョージア州では、1990年代初めにウミガメ保護活動が本格化して以降、アカウミガメの巣が平均して年間約4%ずつ増加してきたとされています。

    毎朝、海岸を歩く。

    足跡を見つける。

    砂の下の卵を確認する。

    巣を囲い、嵐や捕食者、人間の活動から守る。

    そして、子ガメが海へ向かったあと、巣を調査して結果を記録する。

    2026年の4,100個を超える巣は、突然現れた数字ではありません。

    何十年も前から続けられてきた調査と保護の結果が、長い時間を経て現れ始めたものだと考えられます。

    記録更新でも、保護は終わらない

    巣が過去最多になったからといって、アカウミガメが完全に安全になったわけではありません。

    アカウミガメは現在も保護対象であり、海岸の開発、人工照明、漁業による混獲、海洋ごみ、生息環境の変化など、さまざまな危険にさらされています。

    また、巣が増えたことと、海で暮らすアカウミガメ全体の個体数が同じ割合で回復したことは、必ずしも同じではありません。

    子ガメが海へ入り、成長し、再び産卵できる年齢になるまでには長い時間がかかります。

    2026年に生まれた子ガメたちが、いつか同じ砂浜へ戻ってくる。その未来まで保護が続いて、初めて今回の記録が次の世代へつながるのだと思います。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、4,100個を超える巣の一つひとつに、一匹の母ガメの移動があることです。

    海の中から砂浜へ上がる。

    重い体を前肢で引きずりながら、波の届きにくい場所まで進む。

    砂を掘り、卵を産み、穴を埋める。

    そして、再び大西洋へ帰っていく。

    人間が記録するのは「巣の数」です。

    でも、その数字の中には、夜の砂浜を進んだ母ガメたちの時間が積み重なっています。

    4,107という数字は、4,107個の穴があったというだけではない。

    何千回もの上陸と産卵が、同じ海岸で繰り返されたということです。

    湯川亀吉の一言

    良かったね。

    出典

    Georgia DNR Sea Turtle Conservation Program
    「Sea Turtle Nest Monitoring System」

    Georgia Public Broadcasting
    「Georgia is on track for a record-high turtle nesting season. What’s behind the good news」

    Tybee Island Marine Science Center
    「Sea Turtle Nesting Season Updates」

    NOAA Fisheries
    「Loggerhead Turtle: Science」

  • 【世界の亀ニュース】遺伝子が示した本当の故郷 保護されたヒョウモンガメ27匹が南アフリカの野生へ

    【世界の亀ニュース】遺伝子が示した本当の故郷 保護されたヒョウモンガメ27匹が南アフリカの野生へ

    今回は、保護施設で暮らしていたヒョウモンガメの出身地域を遺伝子から調べ、本来の生息地に近い場所へ戻した、南アフリカの研究と野生復帰について紹介します。

    今回のニュース

    南アフリカで、保護施設に収容されていたヒョウモンガメの遺伝情報を調べ、出身地域を推定したうえで野生へ戻す取り組みが行われました。

    南アフリカとドイツの研究チームは、野生のヒョウモンガメから集めた遺伝情報を使って地域ごとの特徴をまとめたデータベースを拡張し、保護施設にいた50匹を調査しました。

    その結果、故郷と考えられる地域を判断できた個体を段階的に環境へ慣らし、これまでに27匹が南アフリカ各地の野生へ戻されました。研究成果は2026年に学術誌『Conservation Genetics』で発表され、4月9日にゼンケンベルク自然研究協会が紹介しています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:南アフリカ共和国
    調査に関係する地域:クワズール・ナタール州、東ケープ州、北ケープ州、フリーステイト州、リンポポ州など
    研究協力地域:エスワティニ
    元記事の言語:英語
    公開時期:2026年4月9日
    情報の種類:リクガメ・遺伝子研究・野生復帰・違法取引対策・保護活動

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、ヒョウモンガメです。

    学名は Stigmochelys pardalis。英語ではLeopard Tortoiseと呼ばれます。

    アフリカ中部から南部に分布し、サバンナ、草原、灌木地などに暮らす大型のリクガメです。鳥羽水族館では、最大甲長が70センチを超える種類として紹介されています。

    甲羅には、黄色や黄褐色を基調とした地色に黒や褐色の斑紋が入り、その模様がヒョウを連想させることから、ヒョウモンガメと呼ばれています。

    模様や色合いには個体差があり、成長するにつれて幼体の鮮明な模様が変化していくこともあります。

    ニュースの要約

    保護施設へ収容されるヒョウモンガメの中には、違法に採集された個体、個人によって飼育された後に放棄された個体、飼育場所から逃げ出した個体などが含まれています。

    しかし、保護された場所と、そのカメがもともと暮らしていた場所が同じとは限りません。

    人間によって何百キロ、場合によってはさらに遠くまで運ばれている可能性があるため、保護された地点だけを手がかりに放流場所を決めると、本来とは異なる地域へ放してしまうおそれがあります。

    研究チームは、クワズール・ナタール州とエスワティニの野生個体から得た遺伝情報をデータベースへ加え、保護施設にいた50匹の遺伝子と比較しました。

    すると、クワズール・ナタール州の保護施設にいたカメのうち、遺伝的に同地域の個体と判断されたのは、わずか1匹でした。

    これは、多くのヒョウモンガメが違法取引や人為的な移動によって、本来の分布地域から遠く離れた場所へ運ばれていた可能性を示しています。

    なぜ遺伝子から故郷を調べるのか

    見た目が同じ種類のリクガメであっても、地域ごとの個体群には、長い時間をかけて形成された遺伝的な違いがあります。

    遠く離れた地域の個体を不用意に混ぜると、その土地に適応してきた遺伝的な特徴が失われたり、地域個体群の構成が変化したりする可能性があります。

    また、そのカメが慣れていない気候や植生の地域へ放せば、野生で生き残れないかもしれません。

    そのため研究チームは、単に「ヒョウモンガメが暮らしている場所」へ放すのではなく、遺伝情報を使って、各個体がどの地域に近いのかを調べました。

    遺伝子は、カメが人間によって運ばれた道筋を記録しているわけではありません。

    それでも、どの地域の野生個体と近いのかを比較することで、そのカメが帰るべき場所を考えるための重要な手がかりになります。

    野生へ戻す前の6か月

    放流対象となったヒョウモンガメは、調査が終わるとすぐに野外へ放されたわけではありません。

    まず、将来放す予定の地域に設置された脱走防止用の囲いの中で、およそ6か月間を過ごしました。

    これは「ソフトリリース」と呼ばれる方法です。

    現地の気温、地面、植物、季節の変化などに段階的に慣らし、健康状態や行動を確認した後、最終的に囲いの外へ放します。

    遺伝的な出身地域に応じて、カメたちは別々の場所へ移されました。

    一部は東ケープ州の私設保護区へ、ほかの個体は北ケープ州、フリーステイト州、リンポポ州の保護地域へ戻されています。

    保護施設で一生暮らせばよいのか

    保護されたリクガメを野生へ戻すことには、慎重な判断が必要です。

    病気を持ち込む可能性がある。
    その地域の個体数を過度に増やすかもしれない。
    本来とは異なる個体群を混ぜてしまうかもしれない。
    放した後に生き残れるかも分からない。

    一方で、すべての個体を保護施設で一生飼育することも簡単ではありません。

    ヒョウモンガメは大型で長寿のリクガメです。長期間の飼育には、広い場所、食物、医療、職員、費用が必要になります。

    クワズール・ナタール州のある保護施設では、2016年から2025年までに100匹以上を受け入れ、収容場所が足りず、さらに多くのカメの受け入れを断らなければならない状態になりました。ダーバンの別施設でも、同じ期間に300匹を超える個体が記録されています。

    だからこそ、安全に野生へ戻せる個体については、故郷を慎重に調べ、帰る準備を整える必要があります。

    絶滅危惧種ではなくても守る必要がある

    ヒョウモンガメは広い範囲に分布し、現在は種全体として「低懸念」とされています。

    しかし、南アフリカでは違法な捕獲や飼育、食用や伝統医療への利用、生息地の破壊、都市化、過放牧、野焼き、電気柵による事故など、さまざまな危険にさらされています。

    「絶滅危惧種ではない」という評価は、どの地域の個体群も安全であることを意味しません。

    広い地域に分布している種類であっても、ある土地からカメが次々と持ち出されれば、その場所の個体群は弱くなっていきます。

    そして、人間によって遠くへ運ばれたカメを戻すときには、「どこでもよい」というわけにはいきません。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、保護された場所が、そのカメの故郷とは限らないことです。

    人間は、カメを見つけた場所をその個体の居場所だと思ってしまうことがあります。

    でも、そのカメは誰かに捕まえられ、車に乗せられ、町を越え、州を越えてきたのかもしれない。

    自分の意思とは関係なく遠くへ運ばれ、そこで放棄されたのかもしれない。

    カメは、自分がどこから来たのかを人間の言葉で説明できません。

    けれど、体の中に残された遺伝情報が、その個体の故郷へつながる小さな手がかりになる。

    保護とは、ただ命を助けることだけではなく、その命が本来属していた場所を探すことでもあるのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    俺も生き物飼ってるから言えるけど、生き物飼ってる人間は全員クズだからな。でも、「保護」する奴らも同じクズさ。

    出典

    Senckenberg Nature Research
    「Return to Nature: 27 Leopard Tortoises Released into the Wild in South Africa」

    鳥羽水族館・生きもの図鑑
    「ヒョウモンガメ」