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  • 【世界の亀ニュース】150年前から知られていたカメが「新種」に!? 孤島の Kinosternon mariamadre をめぐる分類論争

    【世界の亀ニュース】150年前から知られていたカメが「新種」に!? 孤島の Kinosternon mariamadre をめぐる分類論争

    今回は、

    「今まで誰も見たことがなかったカメが、ジャングルの奥から発見された」

    というニュースではありません。

    むしろ、

    その逆です。

    人間は、

    このカメを約150年前から知っていました。

    博物館にも標本がある。

    研究者も調べている。

    学術文献にも登場している。

    どこに暮らしているのかも分かっている。

    それなのに2025年、

    研究者たちは、

    「このカメ、今まで考えられていた種類とは違うのではないか」

    と結論しました。

    そして、

    Kinosternon mariamadre

    という新しい学名を付けました。

    でも、

    話はそこで終わりません。

    2026年現在、

    主要な爬虫類データベースでは、

    K. mariamadreを独立種としてではなく、

    Kinosternon integrumの同物異名

    として扱っています。

    新種なのか。

    それとも、

    同じ種類の島嶼個体群なのか。

    今回は、

    カメの「名前」が決まるまでの世界

    を見てみます。

    今回のニュース

    2025年7月3日。

    カメ類専門の学術誌Chelonological Contributionsに、

    「New Species of Mud Turtle (Testudines: Kinosternidae) from the Tres Marías Islands, Nayarit, Mexico」

    という論文が発表されました。

    著者は、

    Mehdi Joseph-Ouni氏、Paul Vander Schouw氏、Jay Frewer氏、Dennis Uhrig氏、William P. McCord氏。

    研究チームは、メキシコ・ナヤリット州沖のトレス・マリアス諸島に生息するドロガメを、

    Kinosternon mariamadre

    という独立した新種として記載しました。

    英語名として論文では、

    Tres Marías Mud Turtle

    が使われています。

    日本語の標準和名は確認できないため、この記事では基本的に、

    Kinosternon mariamadre

    または、

    マリア・マドレ島のドロガメ

    と表記します。

    どこの国・地域の話か

    国:メキシコ
    州:ナヤリット州
    島:Isla María Madre(マリア・マドレ島)
    島嶼群:Islas Tres Marías(トレス・マリアス諸島)
    新種記載:2025年7月3日
    提唱された学名:Kinosternon mariamadre
    科:ドロガメ科 Kinosternidae
    属:ドロガメ属 Kinosternon
    情報の種類:新種記載・分類学・島嶼生物・形態研究

    トレス・マリアス諸島には主要な島が4つあります。

    しかし論文によると、このドロガメが確認されているのは、

    マリア・マドレ島だけ。

    残る主要3島には、このカメが利用できる適切な淡水環境がないとされています。

    つまり、

    もし本当に独立種なら、

    世界でこの一つの島だけに暮らすカメ

    ということになります。

    でも、このカメは2025年に見つかったわけではない

    ここが今回の話の面白いところです。

    新種として記載されたのは、

    2025年。

    でも、

    このカメが初めて人間に知られたのは、

    それよりはるか昔です。

    論文によれば、

    マリア・マドレ島のドロガメ標本は、

    1881年にAlphonse Forrerによって採集されていました。

    その標本をもとに、

    英国の動物学者Albert Güntherが1885年にこの島のドロガメについて記録しています。

    2025年から数えれば、

    およそ144年前。

    つまり、

    「新種を発見した」

    というより、

    「144年前から目の前にいたカメを、新しい目で見直した」

    という方が近いんです。

    1897年にも採集されていた

    さらに、

    1897年。

    Nelson and Goldmanによるメキシコ生物調査の際にも、

    マリア・マドレ島から複数のドロガメが採集されました。

    2025年の新種記載では、

    そのうち4成体と1幼体が、

    新種を定義するためのパラタイプ標本として指定されています。

    つまり、

    100年以上前に博物館へ収められた標本が、

    2025年になって、

    「新種を説明する証拠」

    として再び使われたことになります。

    1925年のカメもいる

    1925年には、

    California Academy of Sciencesの調査隊が、

    マリア・マドレ島のArroyo Hondoで一匹の雄を採集しました。

    その個体は、

    古い切り株の下の泥へ半分埋まった状態で見つかったと記録されています。

    現在、この標本もK. mariamadreのパラタイプとして扱われています。

    正確に測り直された甲長は、

    144.6mm。

    15cmにも満たない、

    小さなドロガメです。

    1957年の一匹が「基準」になった

    そして、

    1957年4月7日。

    Richard G. Zweifel氏が、

    同じくArroyo Hondoで一匹の成体雄を採集しました。

    この個体は、

    2025年に新種が記載された際、

    ホロタイプ

    に指定されました。

    ホロタイプというのは、

    簡単に言えば、

    「この新種とは、まずこの個体を基準に考えてください」

    という基準標本です。

    新種の名前は、

    単なるアイデアではありません。

    世界中の研究者があとから検証できるように、

    実物の標本が残されます。

    生きていたときの色まで記録されていた

    1957年に採集されたホロタイプには、

    生きていたときの色彩記録まで残っています。

    記録では、

    頭頂部。

    甲羅。

    四肢。

    尾。

    これらは、

    ほぼ模様のない暗い黒色。

    一方、

    顎や頭部側面には黄色い斑。

    腹甲は黄色で、

    甲板の境界に沿って濃褐色の模様があったとされています。

    100年近く前の標本だけでは、

    色が退色してしまいます。

    だから、

    こうした古いフィールドノートも、

    分類を考える重要な情報になります。

    ずっと「何ガメなのか」が揺れていた

    この島のカメが、

    今まで研究されていなかったわけではありません。

    むしろ、

    研究されていたのに、分類が定まらなかった。

    論文によると、

    約1世紀にわたって、

    Kinosternon integrum

    なのか、

    Kinosternon hirtipes

    なのか、

    分類上の扱いが揺れ動いてきました。

    つまり研究者たちは、

    ずっと同じカメを見ながら、

    「これはあの種類だ」

    「いや、こっちの種類だ」

    と考え直してきたわけです。

    2025年、「どちらでもない」と考えた研究者たち

    そして2025年。

    Joseph-Ouni氏らは、

    もう一つの可能性を提示しました。

    Kinosternon integrumでも、

    Kinosternon hirtipesでもない。

    島独自の別種ではないか。

    研究チームは、

    甲羅。

    頭部。

    体の比率。

    色彩。

    その他多数の形態的特徴を比較。

    その組み合わせが既知のK. integrumとは異なるとして、

    独立種を提唱しました。

    ここで大事なのは、

    「一か所だけ違うから新種」

    ではないことです。

    一つ一つの差ではなく、

    複数の特徴をまとめて比較する。

    それが分類の材料になります。

    名前は「mariamadre」

    新しく提唱された種小名は、

    mariamadre

    由来はとてもシンプルです。

    このカメが暮らす、

    María Madre Island。

    島の名前そのものから付けられました。

    だから、

    Kinosternon mariamadre

    直訳すれば、

    「マリア・マドレのドロガメ」

    というような名前です。

    なぜ島にだけ違うカメがいるのか

    論文では、

    このカメが人間によって島へ持ち込まれた証拠は確認されておらず、

    島が地理的に隔離された歴史の中で独自化した可能性を考えています。

    島は、

    進化を考えるうえで非常に面白い場所です。

    海によって隔離される。

    本土の仲間と交わらなくなる。

    何千年。

    何万年。

    もっと長い時間。

    別々の環境で暮らす。

    その結果、

    同じ祖先から始まっても、

    少しずつ違う特徴を持つようになることがあります。

    でも――「新種記載=分類確定」ではない

    ここからが、

    今回の記事で一番重要です。

    論文が、

    K. mariamadreを新種として記載した。

    だったら、

    今日から世界中で新種として確定。

    ――ではありません。

    分類学では、

    新しい研究が発表されると、

    他の研究者がその証拠を検討します。

    賛成する研究者もいる。

    別の分析をする研究者もいる。

    もっとDNAを調べる必要があると考える人もいる。

    そして、

    結論が変わることもあります。

    2026年現在、独立種として扱わない資料もある

    実際、

    爬虫類分類の主要なデータベースであるThe Reptile Databaseでは、

    2026年現在、

    Kinosternon mariamadreK. integrumの同物異名

    として扱っています。

    同じ2025年に記載されたK. iversoniも、

    同様にK. integrum側へまとめられています。

    つまり現在、

    二つの見方があります。

    2025年の新種記載論文:

    「マリア・マドレ島の個体群は独立種 K. mariamadre

    一方、現在の主要分類整理:

    「独立種とするには至らず、K. integrumとして扱う」

    という状況です。

    世界のカメ分類は、まだ動いている

    IUCN SSCのTortoise and Freshwater Turtle Specialist Groupが2025年に公表した、

    Turtles of the World 第10版

    には、

    現生カメ類として364種が掲載されています。

    そして、このチェックリスト自身が、

    近年提唱された分類変更や、

    まだ議論が続いている分類を継続的に整理しています。

    カメの種類数は、

    永久に固定された数字ではありません。

    新種が記載される。

    一つだった種が分かれる。

    逆に、

    二種だと思われていたものが一種へ戻される。

    亜種が種になる。

    種が亜種になる。

    「カメとは何種類いるのか」という問い自体が、現在進行形なんです。

    DNAを読めば全部解決するのか?

    ここも面白いところです。

    今回のK. mariamadreの新種記載は、

    主に、

    形態・計測値・色彩

    を使った分類研究です。

    では、

    DNAを調べれば一発で答えが出るのか。

    必ずしも、

    そう単純でもありません。

    遺伝的にどれだけ離れれば別種なのか。

    形態差はどの程度重要なのか。

    交雑できるか。

    地理的に隔離されているか。

    進化的に独立した系統なのか。

    「種とは何か」そのものに、

    複数の考え方があります。

    だから、

    DNAも、

    形も、

    分布も、

    生態も、

    全部が証拠になります。

    そもそも「種」って何だろう

    普段、

    僕たちは、

    ミシシッピアカミミガメ。

    クサガメ。

    ニホンイシガメ。

    というように、

    種類が最初から決まっているものだと思っています。

    でも、

    自然の中には、

    「ここから先が別種です」

    という線は引かれていません。

    人間が、

    違いを観察する。

    比較する。

    進化の歴史を考える。

    そして、

    名前を付ける。

    分類とは、

    自然界に貼られているラベルを読む仕事ではなく、人間が自然の違いをどう理解するかという仕事

    でもあるんですね。

    新種は「見つける」だけではない

    今回のニュースを見ていると、

    「新種発見」

    という言葉の印象も少し変わります。

    新種と聞くと、

    探検家がジャングルへ入る。

    変なカメが出てくる。

    誰も見たことがない。

    新種だ!

    そんなイメージがあります。

    でも、

    K. mariamadreは違います。

    1881年には、

    標本があった。

    1885年には、

    論文に登場した。

    1897年にも採集された。

    1925年にも。

    1957年にも。

    人間は、

    ずっと知っていました。

    そして、

    2025年。

    知っていたものを見直した結果、「別のものかもしれない」と気付いた。

    新種は、

    必ずしも、

    新しく見つかった生物ではないんですね。

    博物館の標本は「過去」ではない

    僕が今回かなり面白いと思ったのが、

    博物館標本の存在です。

    100年以上前に採集されたカメ。

    普通に考えれば、

    昔の資料です。

    でも、

    分類研究では、

    その標本が2025年になって再び主役になる。

    測り直す。

    別の標本と比較する。

    採集記録を見る。

    生前の色彩記録を読む。

    新しい研究方法で、

    古い標本へもう一度質問する。

    標本は、

    「昔のカメを保存している」

    だけじゃない。

    未来の研究者が、まだ思いついていない質問に答える資料

    でもあるんですね。

    一匹の名前が変わると、地図も変わる

    もし、

    K. mariamadreが独立種として認められるなら、

    世界のカメ分布図にも、

    新しい一点が加わります。

    メキシコ。

    太平洋。

    トレス・マリアス諸島。

    マリア・マドレ島。

    そこだけに、

    一種類のカメがいる。

    一方、

    K. integrumの一地域個体群として扱うなら、

    もっと広く分布する種類の、

    孤立した島嶼個体群になります。

    カメそのものは、

    昨日も今日も同じです。

    でも、

    人間の理解が変わると、

    そのカメが世界の中で占める意味まで変わります。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番面白いと思うのは、

    「まだ答えが決まっていない」

    ことです。

    新種です。

    終わり。

    ではない。

    新種として記載された。

    別の研究者が見る。

    本当に違うのか。

    標本を見る。

    DNAを見る。

    形を見る。

    昔の論文を見る。

    また議論する。

    もしかすると、

    数年後には、

    K. mariamadreが広く独立種として認められているかもしれない。

    逆に、

    K. integrumとして定着しているかもしれない。

    今、

    僕たちは、

    カメの名前が決まっていく途中を見ている。

    それが、

    すごく面白い。

    保護されたカメ。

    放流されたカメ。

    繁殖したカメ。

    それだけじゃない。

    「お前は一体、何というカメなんだ?」

    というニュースも、

    世界にはあるんですね。

    湯川亀吉の一言

    新種見つけてみたいね〜

    出典

    Chelonological Contributions / theTurtleRoom
    Joseph-Ouni, M. et al.
    「New Species of Mud Turtle (Testudines: Kinosternidae) from the Tres Marías Islands, Nayarit, Mexico」
    2025年7月3日。Kinosternon mariamadreの新種記載、標本、分布、命名、分類史について。
    新種記載論文の紹介ページを見る

    Chelonological Contributions 原著論文PDF
    ホロタイプ、パラタイプ、1881年以降の標本記録、María Madre島のみという分布情報など。
    原著論文PDFを見る

    The Reptile Database
    Kinosternon integrum
    2026年現在、K. mariamadreK. iversoniK. integrumの同物異名として整理。
    現在の分類上の扱いを見る

    IUCN SSC Tortoise and Freshwater Turtle Specialist Group / Turtle Taxonomy Working Group
    「Turtles of the World: Annotated Checklist and Atlas of Taxonomy, Synonymy, Distribution, and Conservation Status, 10th Edition」
    2025年。世界の現生カメ類の最新分類・分類変更・論争を整理したチェックリスト。
    Turtles of the World 第10版を見る

  • 【世界の亀ニュース】砂漠の泉に残るソノイタドロガメ約250匹 国境壁建設を前に緊急避難を検討

    【世界の亀ニュース】砂漠の泉に残るソノイタドロガメ約250匹 国境壁建設を前に緊急避難を検討

    今回は、アメリカとメキシコの国境近くにある砂漠のオアシスで暮らす、絶滅危惧の淡水ガメに関するニュースを紹介します。

    今回のニュース

    アメリカ・アリゾナ州のソノラ砂漠にあるキトバキート・スプリングスで、絶滅危惧のソノイタヒゲナガドロガメを緊急避難させる計画が検討されています。

    キトバキート・スプリングスは、オルガンパイプ・カクタス国定公園内にある小さな泉と池です。アメリカ国内でソノイタヒゲナガドロガメが自然に生息している場所は、ここ一か所しかありません。

    この泉の近くでは、既存の国境壁に加えて、高さ約30フィートの二重目の壁を建設する計画が進められています。

    研究者や保護関係者は、工事に伴う地下水の利用、重機の移動、地形の改変などによって泉や池が維持できなくなる可能性を懸念し、最悪の場合に備えてカメを人工環境へ移す準備を進めています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:アメリカ合衆国、アリゾナ州
    場所:オルガンパイプ・カクタス国定公園、キトバキート・スプリングス
    元記事の言語:英語
    元記事の公開時期:2026年7月24日
    情報の種類:新着ニュース・淡水ガメ・生息地保全・絶滅危惧種

    キトバキート・スプリングスは、アメリカとメキシコの国境近くにある砂漠のオアシスです。

    周囲約100マイルの範囲でも数少ない安定した水源の一つで、淡水ガメだけでなく、魚や巻き貝、鳥類、哺乳類など、多くの生き物にとって重要な場所になっています。

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、英語でSonoyta mud turtleと呼ばれる淡水ガメです。

    学名は Kinosternon sonoriense longifemorale。ソノラドロガメの亜種で、日本語の標準的な呼称が広く定着しているとは確認できなかったため、この記事では「ソノイタヒゲナガドロガメ」と表記します。

    成体の甲長は最大約13.5センチ。背甲はオリーブ色から暗褐色で、頭部や首には網目状の模様があります。前後に蝶番を持つ腹甲と、指の間にある水かきも特徴です。

    アメリカでは、2017年に絶滅危惧種として保護対象になりました。

    現在確認されている生息地は、アリゾナ州のキトバキート・スプリングスにある一個体群と、メキシコ・ソノラ州のソノイタ川流域に残る複数の個体群です。

    ニュースの要約

    報道によると、現在キトバキートの池には、およそ250匹のソノイタヒゲナガドロガメが生息していると推定されています。

    研究者たちは、池の水が失われたり、堤が損傷したりする最悪の事態を想定し、可能な限り多くのカメを捕獲して、一時的に人工の飼育環境へ移す方法を検討しています。

    アリゾナ・ソノラ砂漠博物館では、野生個体群に何かが起きた場合に備え、すでに約20匹のソノイタヒゲナガドロガメを飼育しています。

    同館は、緊急時にはさらに最大50匹を受け入れる意向を示しています。フェニックス動物園も、カメの受け入れに協力する可能性があります。

    しかし、カメを施設へ移せば問題が解決するわけではありません。

    保護関係者が最も心配しているのは、一時的に避難させたカメを、将来戻せる生息地が残っているかどうかです。人工環境は命をつなぐ場所にはなっても、泉そのものの代わりにはなりません。

    砂漠にある、小さな淡水の世界

    ソノイタヒゲナガドロガメは、砂漠に暮らす淡水ガメです。

    広大な乾燥地帯に大きな川が流れているわけではありません。

    地下から湧き出す水が短い水路を流れ、小さな池を満たす。その限られた水の中で、カメたちは餌を探し、身を隠し、世代をつないできました。

    キトバキート・スプリングスは、ソノイタヒゲナガドロガメだけの生息地ではありません。

    世界でこの泉にしか野生個体が残っていないキトバキート・パプフィッシュや、非常に小さな泉性の巻き貝も生息しています。

    一つの小さな泉が失われれば、複数の生き物が同時に野生の生息地を失う可能性があります。

    なぜ国境壁が泉へ影響するのか

    今回計画されている二重目の国境壁は、既存の壁から約90〜150フィート離れた位置に建設される可能性があります。

    壁そのものだけでなく、工事用道路、資材置き場、重機の通行、地下水の利用などが、泉を支える地下水系や周辺環境へ影響することが懸念されています。

    2020年に行われた最初の国境壁建設でも、コンクリート製造のための地下水利用が問題になりました。

    アメリカ魚類野生生物局が2025年にまとめた状況評価でも、国境壁建設に使われる地下水のくみ上げが、キトバキート・スプリングスを支える水系への新たな負荷として挙げられています。

    一方、アメリカ税関・国境警備局は、キトバキート・スプリングスを避け、希少な自然資源への影響を最小限にするため、魚類野生生物局や国立公園局と協力していると説明しています。

    また、泉から5マイル以内では地下水をくみ上げない方針を示していますが、研究者からは、それだけで泉を守れるかを判断する十分な情報がないとの懸念も出ています。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、約250匹のカメが、一つの小さな泉に生存を託していることです。

    250匹という数字だけを見れば、決して一匹や二匹ではありません。

    けれど、そのすべてが同じ池で暮らしている。

    泉の水が止まれば、逃げ込める別の川はない。
    池が失われれば、歩いて隣の湿地へ移ることもできない。

    砂漠の中では、水がある場所そのものが、生き物の世界です。

    カメを捕まえて施設へ運ぶことはできるかもしれない。

    でも、そのカメたちが何世代も生きてきた水、泥、岸辺、季節まで運ぶことはできません。

    絶滅危惧種を守るということは、個体を生かすだけではなく、その個体がカメとして暮らせる場所を残すことなのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    ソノイタヒゲナガドロガメ。

    僕はこの記事を読むまで知らない亀だった。

    この世界には、知らない亀がたくさんいるにちがいない。

    少なくとも僕は、知らない亀と出会うことを生き甲斐にしている。

    僕のような人たちはたくさんいるだろうし、これからもたくさん出てくるだろう。

    まだ見ぬ亀ファンの楽しみを奪うのはナンセンスである。

    どうにかしっかりした保全を行なって欲しいものです。

    余談ですが、僕の故郷の川ではギギやアカザといった魚がたくさん棲んでいました。

    しかし、上流のダム工事があり、今ではすっかり見られなくなってしまいました。

    僕はちょっと寂しいです。

     

    へへ、湿っぽい話しちまったな。

    出典

    The Guardian
    「This desert oasis is a biological wonderland. Trump’s border wall threatens to destroy it」

    U.S. Fish and Wildlife Service
    「Sonoyta Mud Turtle」

    U.S. Fish and Wildlife Service
    「Draft Recovery Plan for Endangered Sonoyta Mud Turtle Available」

    National Park Service
    「Quitobaquito Springs」

  • 【世界の亀ニュース】メキシコで野生ガメ2,000匹超を押収 世界最小のバジャルタドロガメも密輸被害に

    【世界の亀ニュース】メキシコで野生ガメ2,000匹超を押収 世界最小のバジャルタドロガメも密輸被害に

    今回は、メキシコで発覚した大規模なカメの違法取引と、その中に含まれていた絶滅寸前の小さな淡水ガメについて紹介します。

    今回のニュース

    2025年9月、メキシコ・ハリスコ州で行われた摘発によって、野生から捕獲された2,000匹を超える淡水ガメが押収されました。

    カメたちは、ナマコやフカヒレなど、ほかの野生生物由来の品とともに隠されていました。

    押収されたカメには、メキシコ原産のドロガメ類6種とハコガメ類1種が含まれ、その中には、絶滅の危機が極めて高い**バジャルタドロガメ(Kinosternon vogti)**も数十匹含まれていました。

    しかし、すべてのカメが無事だったわけではありません。

    密輸の過程で劣悪な環境に置かれていたため、押収後までに数百匹が死亡したとTurtle Survival Allianceは報告しています。生き残った個体はグアダラハラ動物園へ運ばれ、治療、検疫、感染症検査などを受けました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:メキシコ
    主な場所:ハリスコ州、グアダラハラ
    摘発:2025年9月
    Turtle Survival Alliance発表:2025年10月10日
    情報の種類:淡水ガメ・密輸・違法取引・絶滅危惧種・救護・保護活動

    メキシコ当局のPROFEPAとSEMARNATは9月26日、大規模な摘発後にグアダラハラ動物園へカメの緊急収容を要請しました。その後、獣医師や飼育スタッフが大量の個体を一匹ずつ確認し、隔離と治療を開始しています。

    登場する亀

    今回とくに注目したいのが、バジャルタドロガメです。

    学名は Kinosternon vogti

    日本の公的資料では「キノステルノン・ヴォグティ」と表記され、関連する登録資料では「フォークトドロガメ、バジャルタドロガメ」という名称も確認できます。この記事では、国内の爬虫類愛好家の間でも使われている「バジャルタドロガメ」で統一します。

    このカメが新種として記載されたのは、わずか2018年です。

    そして現在、世界で知られているカメの中でも最小の種とされています。

    雄の平均甲長は約7.6センチ、雌は約7.8センチ。大きな個体でも、雄は9センチ、雌は10センチを超えることがほとんどありません。

    世界最小のカメが暮らす場所

    バジャルタドロガメは、メキシコ西部のハリスコ州とナヤリット州にまたがるバンデラス湾周辺だけに分布する固有種です。

    歴史的な分布域は約263平方キロと推定されていますが、現在実際に利用できる生息域は非常に小さく、推定占有面積は0.3平方キロ未満とされています。

    池、湿地、流れの緩やかな小川などで暮らし、乾季には土中へ潜って数か月間休眠することがあります。

    繁殖は雨季に行われ、雌は一度に1〜5個ほどの卵を産みます。孵化した子ガメの甲長は、わずか19〜23ミリほどです。

    成体ですら手のひらに収まるほど小さい。

    その小さなカメが、生きられる湿地そのものも、非常に小さな範囲しか残っていません。

    2,000匹以上が一度に押収された

    今回の事件では、バジャルタドロガメだけが狙われていたわけではありません。

    押収されたのは、6種類のドロガメと1種類のハコガメを含む2,000匹以上のカメでした。

    これらは野生から捕獲されたとされ、国際市場を対象とした組織的な野生生物取引ネットワークの一部だったと報告されています。メキシコ当局は関係が疑われる3人を起訴しました。

    野生生物やその加工品は、グアダラハラを拠点とする企業を通じて、アメリカ、中国、その他のアジア市場などへ送られることが疑われています。

    一匹の珍しいカメが密かに持ち出された事件ではありません。

    何千匹という単位で野生動物を集め、商品として移動させる仕組みが存在していた可能性があります。

    数百匹は救出まで生き残れなかった

    カメは、見た目以上に過酷な環境へ耐えることがあります。

    長期間餌を食べなくても生きる種類もいる。

    狭い場所で動かず耐えることもできる。

    しかし、その性質は密輸業者にとって「運びやすい動物」として利用されることがあります。

    今回の押収個体も、多数のカメが密集した状態で扱われていたとみられ、数百匹がすでに死亡していました。残った個体の中にも、弱ったカメや病気の疑いがあるカメが確認されています。

    救出したカメを、すぐ野生へ戻せない理由

    違法取引から救出された野生動物を見ると、

    「元いた場所へ放せばいい」

    と思うかもしれません。

    しかし、2,000匹を超えるカメが複数種混ざった状態で運ばれていた場合、それほど簡単ではありません。

    どの個体がどこから捕獲されたのか。

    感染症を持っていないか。

    異なる地域個体群が混ざっていないか。

    長期間の輸送によって健康状態が悪化していないか。

    一つずつ確認する必要があります。

    今回もグアダラハラ動物園では、感染症の拡大を防ぐため、種類や状態に応じた隔離と検査が行われました。とくにカメ類で重大な問題となるラナウイルスについて、慎重な検査が必要だとされています。

    バジャルタドロガメは400匹未満とも

    Turtle Survival Allianceは、野生に残るバジャルタドロガメを400匹未満としています。

    一方、専門家による2025年の種解説では、実際に利用されている生息地が極めて小さいこと、野生個体群が都市開発、道路、違法採集などの圧力を強く受けていることが示されています。IUCNでは「Critically Endangered=深刻な危機」と評価されています。

    数千匹いる種類から数十匹が捕られるのと、

    野生に数百匹しかいない可能性のある種類から数十匹が消えるのとでは、意味が違います。

    密猟者が一度採集しただけでも、地域個体群へ大きな影響を与える可能性があります。

    2025年には保全施設からもカメが盗まれていた

    さらに深刻なのは、野生個体だけが狙われているわけではないことです。

    2025年1月には、プエルト・バジャルタでバジャルタドロガメの保全・繁殖を行っていた施設へ何者かが侵入し、飼育されていた個体が盗まれる事件も発生しました。

    その後、施設には電気柵、高性能の鍵、モーションセンサー、警報装置などが追加されています。

    絶滅から守るために集められたカメが、

    「珍しいから」

    という理由で再び狙われる。

    希少性そのものが、保全活動を難しくしています。

    それでも繁殖は始まっている

    バジャルタドロガメには希望もあります。

    2023年には、オーストリアのTurtle Islandで世界初となる飼育下繁殖に成功しました。

    さらにメキシコでは2024年、バジャルタドロガメを保護・繁殖するための専用保全施設が完成しています。

    グアダラハラ動物園でも繁殖技術の開発が進み、メキシコ国内で初めて飼育下孵化に成功しています。

    つまり、人間にはこの小さなカメを増やす技術が少しずつでき始めています。

    しかし、増やしたカメを帰す湿地が失われれば、飼育下繁殖だけでは問題は解決しません。

    生息地の99%以上が失われた可能性

    Turtle Islandによる現地保全プロジェクトでは、バンデラス湾周辺の都市化によって、バジャルタドロガメが利用してきた湿地環境の99%以上が失われたと報告されています。

    現在知られている生息地は、わずか数か所にまで減っています。

    プエルト・バジャルタ周辺は観光開発が盛んな地域です。

    ホテル。

    道路。

    住宅。

    商業施設。

    人間にとって便利な土地へ変わるほど、小さな湿地は地図から消えていきます。

    世界最小のカメが必要としている場所は、大きなジャングルではありません。

    人間から見れば、埋め立てても大きな変化には見えない、小さな水辺なのです。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番気になるのは、カメの「希少価値」が、そのカメを危険にしてしまうことです。

    新種だった。

    世界最小だった。

    分布域が狭かった。

    絶滅寸前だった。

    本来なら、これらは

    「だから守ろう」

    という理由になるはずです。

    でも、違法なペット市場では、

    「だから欲しい」

    という理由にもなってしまう。

    珍しくなればなるほど値段が上がり、値段が上がるほど野生から持ち出す人間が現れる。

    絶滅へ近づくほど商品価値が高くなるという、ものすごく危険な循環です。

    湯川亀吉の一言

    珍しいから欲しい・高価だから欲しい。

    そんな考えに取り憑かれていた時期が、俺にもありました。

    出典

    Turtle Survival Alliance
    「Over 2,000 Wild Turtles Seized in Mexico; Conservationists Race to Save Survivors」

    IUCN SSC Tortoise and Freshwater Turtle Specialist Group
    「Kinosternon vogti – Vallarta Mud Turtle」

    Turtle Island
    「The Vallarta Mud Turtle | Mexico」

    Mongabay
    メキシコの大規模なカメ密輸摘発に関する報道。