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  • 【世界の亀ニュース】ウェールズから8,000km ケンプヒメウミガメ「Rhossi」が2年8か月かけてテキサスへ

    【世界の亀ニュース】ウェールズから8,000km ケンプヒメウミガメ「Rhossi」が2年8か月かけてテキサスへ

    今回は、本来の生息地から約8,000kmも離れたイギリス・ウェールズの海岸で発見されたケンプヒメウミガメが、約2年8か月の治療を経てアメリカ・テキサス州まで戻ってきたニュースを紹介します。

    名前は、

    Rhossi(ロッシ)。

    メキシコ湾へ帰るまで、あと少し。

    しかし最後の健康診断で、もう一つ乗り越えなければならない問題が見つかりました。

    今回のニュース

    2026年8月10日、ケンプヒメウミガメのRhossiが、イギリス・ウェールズからアメリカ・テキサス州へ到着しました。

    Rhossiが発見されたのは2023年12月。

    場所はウェールズ北西部、アングルシー島のRhosneigr周辺の海岸です。

    本来ケンプヒメウミガメが主に暮らすメキシコ湾から、およそ5,000マイル、約8,000km離れた場所でした。

    発見時のRhossiは、冷たい海水によって体の機能が低下する**「コールドスタン(cold-stunning)」**の状態でした。

    体重はわずか約2ポンド、約0.9kg。

    その後、Anglesey Sea Zooで長期間の治療とリハビリを受け、2026年には約46ポンド、約21kgまで成長しました。

    そして約2年8か月後。

    Rhossiはついに大西洋を渡り、メキシコ湾への野生復帰を目指してテキサスへ戻ってきました。

    どこの国・地域の話か

    発見地:イギリス・ウェールズ、アングルシー島
    保護施設:Anglesey Sea Zoo
    移送先:アメリカ合衆国・テキサス州、Houston Zoo
    到着日:2026年8月10日
    Houston Zoo発表:2026年8月14日
    対象種:ケンプヒメウミガメ
    情報の種類:ウミガメ・救助・リハビリ・国際移送・野生復帰

    今回の移送には、Anglesey Sea Zoo、Houston Zoo、Texas State Aquarium、NOAA、U.S. Fish & Wildlife Serviceなど、イギリスとアメリカの複数の機関が関わっています。

    一匹のカメを野生へ戻すために、二つの国と複数の組織が動きました。

    登場する亀

    今回の主役は、ケンプヒメウミガメです。

    学名は Lepidochelys kempii

    英語ではKemp’s Ridley Sea Turtleと呼ばれます。

    NOAA Fisheriesによると、ケンプヒメウミガメは世界で最も小型のウミガメです。

    成体でも甲長はおよそ2フィート、約60cm。

    体重はおよそ70〜100ポンド、約32〜45kgです。

    成体の甲羅は灰緑色を帯び、腹側は淡い黄色。

    頭部は三角形に近く、少し鉤状になった嘴を持っています。

    ケンプヒメウミガメの中心はメキシコ湾

    ケンプヒメウミガメの主な生息地はメキシコ湾です。

    特に繁殖地はメキシコ北東部へ集中しています。

    NOAAによると、世界のケンプヒメウミガメの産卵の約95%がメキシコ・タマウリパス州で確認されています。

    Rancho Nuevo。

    Tepehuajes。

    Barra del Tordo。

    こうした海岸が、世界に残るケンプヒメウミガメにとって極めて重要な場所になっています。

    テキサスでも産卵は確認されますが、中心となる繁殖地はメキシコ側です。

    それなのに、なぜウェールズにいたのか

    ケンプヒメウミガメの幼体は、メキシコ湾だけで一生を過ごすわけではありません。

    孵化した子ガメの一部は海流に乗り、フロリダ周辺から大西洋へ出ます。

    若い個体はアメリカ東海岸を北上することがあり、カナダのノバスコシア付近まで確認されています。

    さらに少数ですが、アゾレス諸島、イギリス周辺、地中海など、大西洋東部まで到達した記録もあります。

    つまり、

    ウェールズで見つかったこと自体は、

    「絶対にあり得ない」

    というわけではありません。

    問題は、その海の温度です。

    冷たい海で動けなくなる「コールドスタン」

    ウミガメは外部の温度によって体温が大きく左右されます。

    水温が急激に低下すると、体の働きも低下します。

    泳げなくなる。

    餌を食べられなくなる。

    水面へ呼吸に上がることさえ難しくなる。

    こうした状態が「コールドスタン」です。

    Anglesey Sea Zooは、冷たい海に入り込んだウミガメでは代謝機能が低下し、そのまま海流に流され、海岸へ打ち上げられることがあると説明しています。

    Rhossiも、まさにその状態で見つかりました。

    見つけたのは、一匹の犬だった

    2023年12月。

    アングルシー島の海岸で、Rhossiを最初に発見したのは地元の人と一緒に歩いていた犬でした。

    海岸へ打ち上げられた小さなウミガメ。

    体重は約0.9kg。

    冷たい北大西洋の海水によって衰弱していました。

    もし誰にも見つからなければ、

    そのまま波打ち際に残されていたかもしれません。

    でも、一匹の犬が立ち止まった。

    そこからRhossiの帰還計画が始まりました。

    体温は急に上げればいいわけではない

    冷え切ったカメを見つけると、

    すぐ暖かくしてあげたくなります。

    しかし、Anglesey Sea Zooによれば、コールドスタンしたウミガメの体温を急激に上げることには危険があります。

    体への負担を避けるため、

    少しずつ。

    慎重に。

    状態を確認しながら体温を戻していく必要があります。

    食べられるようになるまで体を回復させる。

    泳げるようにする。

    体力を戻す。

    それを何日、何週間、何か月と続ける。

    Rhossiはそのままウェールズで約2年8か月を過ごしました。

    0.9kgから21kgへ

    発見時は約0.9kgだったRhossi。

    2026年にテキサスへ渡る頃には、約21kgまで成長していました。

    海岸で犬に発見された小さな幼体から、

    両手で簡単には抱えられない大きさへ。

    治療だけではありません。

    食べる。

    泳ぐ。

    成長する。

    毎日その状態を確認する。

    Anglesey Sea Zooで過ごした時間そのものが、Rhossiの成長期でもありました。

    でも、イギリスの海へは放せない

    元気になった。

    泳げるようになった。

    だからウェールズの海へ戻そう。

    とはいきません。

    ケンプヒメウミガメが本来暮らす中心的な環境は、暖かいメキシコ湾です。

    Rhossiがウェールズへ到達したのは、

    そこで暮らすためではありません。

    海流によって、本来の生活圏から遠く離れた場所まで運ばれた結果です。

    だから野生復帰させるなら、

    ただ海へ放すのではなく、

    そのカメが生きていける海へ戻さなければならない。

    ここから問題になるのが、国境です。

    カメ一匹が国境を越える

    野生動物を国から国へ移動させることは、

    航空券を買って乗せれば終わり、

    という話ではありません。

    ケンプヒメウミガメは保護対象の野生動物です。

    輸送。

    輸出入。

    野生復帰。

    それぞれに許可と調整が必要になります。

    Anglesey Sea Zooは過去にも、同じケンプヒメウミガメの「Tally」をウェールズからテキサスへ戻しています。

    そのときは救助から放流まで20か月を要しました。

    Rhossiについても、帰還のための許可と体制が整うまで長い時間が必要になりました。

    ヘリコプターから大西洋横断便へ

    2026年8月。

    ついにRhossiの移送が始まりました。

    ウェールズからロンドン・ヒースロー空港まではヘリコプター。

    そこから航空機で大西洋を横断。

    そしてテキサスへ。

    総移動距離はおよそ5,000マイル、約8,000kmです。

    海流に流されて何千kmも移動したカメが、

    今度は人間の手によって、

    空を飛んで元の海へ近づいていきました。

    8月10日、テキサスへ到着

    8月10日。

    Rhossiはテキサスへ到着しました。

    空港ではHouston Zooのウミガメ担当スタッフと獣医師が健康状態を確認。

    その後、Houston Zooへ移動し、深い水槽へ入れられました。

    長時間の輸送直後です。

    すぐに放すのではなく、

    まず泳ぎ方。

    呼吸。

    反応。

    食欲。

    新しい環境への適応。

    そうした状態を観察します。

    最後の健康診断

    そして、野生復帰前の詳しい健康診断が行われました。

    担当したのはHouston Zooの獣医チーム。

    検査では、

    臓器。

    眼。

    口。

    甲羅。

    ヒレ。

    などを確認。

    さらにX線撮影とCTスキャンを行い、肺の状態まで調べました。

    外から見れば、

    Rhossiは元気でした。

    活発に動く。

    泳ぐ。

    反応する。

    Houston Zooも「healthy, active and vigorous」と表現しています。

    しかし、

    CT画像には別のものが写っていました。

    肺炎の痕跡

    Rhossiの肺には、

    まだ肺炎が残っている可能性を示す所見

    が確認されました。

    海へ帰る寸前でした。

    2年以上治療した。

    8,000km飛んできた。

    テキサスまで戻った。

    あと少し。

    それでも、

    放さなかった。

    Houston Zooは追加の観察と必要な治療を続けることを決めました。

    「元気そう」と「野生へ戻せる」は違う

    今回のニュースで、とても重要なのがここだと思います。

    Rhossiは、

    見た目には元気です。

    泳げる。

    食べられる。

    大きくなった。

    でも、

    野生へ戻せるかどうかは、それだけでは決められない。

    飼育施設なら、

    具合が悪くなれば人間が気づけます。

    餌もあります。

    治療もできます。

    ところが海へ入れば、

    そこから先はカメ自身です。

    泳ぐ。

    餌を捕る。

    潮流に逆らう。

    長距離を移動する。

    一度海へ返したあと、

    「やっぱり肺炎が悪化したから捕まえよう」

    ということは簡単にはできません。

    だから、

    最後の最後で立ち止まりました。

    放流延期は「失敗」ではない

    Houston Zooは、Rhossiのメキシコ湾への帰還について、

    当初想定していたより少し時間がかかるとしています。

    でも、

    これは失敗ではありません。

    むしろ、

    野生復帰を成功させるための判断です。

    海へ返したというニュースを早く作ることより、

    海へ返したあと、そのカメが生きられること

    のほうが重要です。

    世界最小のウミガメ

    Rhossiが属するケンプヒメウミガメには、もう一つ大きな特徴があります。

    世界で最も小型のウミガメです。

    成体でも甲長約60cm。

    大きなオサガメなどと比べれば、かなり小柄です。

    しかし、その生活史は壮大です。

    子ガメは海へ入り、

    海流へ乗り、

    何年も海を移動し、

    およそ13歳で成熟すると考えられています。

    そして雌は、

    自分たちの重要な繁殖地へ戻ってきます。

    昼間に集団産卵する珍しいウミガメ

    ケンプヒメウミガメは、

    「アリバダ」と呼ばれる集団産卵を行うことで知られています。

    多数の雌が同じ時期に海岸へ集まり、

    一斉に産卵します。

    さらにケンプヒメウミガメは、ウミガメの中でも珍しく主に昼間に産卵する種です。

    何百、何千という雌が砂浜へ上がる。

    卵を産む。

    数週間後、

    大量の子ガメが海へ向かう。

    その巨大な生命の流れの一匹が、

    海流に乗って大西洋を渡り、

    ウェールズまで到達した。

    それがRhossiです。

    一度は大きく減少したケンプヒメウミガメ

    現在、ケンプヒメウミガメはアメリカのEndangered Species Actで絶滅危惧種として保護されています。

    1947年にはメキシコのRancho Nuevoで、一日に数万匹規模の雌が産卵する様子が記録されていました。

    しかし20世紀後半に個体数は急減。

    1985年には年間702巣まで落ち込みました。

    その後、産卵地保護や漁業対策などによって回復が進みましたが、2010年以降は増加傾向が止まり、巣数は変動しています。

    だからこそ、

    一匹を野生へ返す意味も小さくありません。

    一匹を返すために、国を越えて人がつながった

    今回Rhossiに関わったのは、一つの水族館だけではありません。

    Anglesey Sea Zoo。

    Houston Zoo。

    Texas State Aquarium。

    NOAA。

    U.S. Fish & Wildlife Service。

    そのほか複数の関係者。

    二つの大陸にまたがる協力によって、Rhossiはテキサスまで戻ってきました。

    一匹のカメが、

    人間の組織を国境の向こう側までつなげたことになります。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番注目したいのは、

    「あと少しなのに、放さなかった」

    というところです。

    2年以上育てた。

    許可も取った。

    飛行機も飛ばした。

    8,000km運んだ。

    メキシコ湾はもう目の前。

    普通なら、

    ここまで来たら海へ返したくなる。

    物語としても、

    「ついに故郷の海へ!」

    で終わったほうがきれいです。

    でも、

    CTを撮った。

    肺を見た。

    まだ心配がある。

    だから止めた。

    ニュースとしてきれいに終わることより、

    一匹のカメが生きることを優先した。

    僕は、

    そこが今回の保護活動で一番大事なところだと思います。

    湯川亀吉の一言

    亀はけっこう肺炎になるんだよね〜。

    僕も、昔飼ってた亀が肺炎にかかってしまって、治療費が10万円くらいかかったよ。

    出典

    Houston Zoo
    「Rhossi’s Road Home: One More Step Toward the Gulf」
    2026年8月14日。

    Anglesey Sea Zoo
    「Turtle Rescue & Rehab – Rhossi the Kemp’s Ridley」
    Rhossiの救助・リハビリ・帰還計画について。

    NOAA Fisheries
    「Kemp’s Ridley Turtle」
    ケンプヒメウミガメの分布、生態、繁殖、個体群、保全状況について。

    The Guardian
    「Rhossi, a rare sea turtle, recovers after 5,000-mile trek from Wales to Texas」
    2026年8月17日。

  • 【世界の亀ニュース】16巣中13巣が捕食 X線と216ヤードの糸で追うトウブハコガメの産卵

    【世界の亀ニュース】16巣中13巣が捕食 X線と216ヤードの糸で追うトウブハコガメの産卵

    今回は、アメリカ・バージニア州で進められている、トウブハコガメの巣を探し出して孵化までの生存率を調べる研究を紹介します。

    使われているのは、

    X線装置。

    GPS。

    無線発信器。

    自動撮影カメラ。

    そして、

    プラスチックのカップと、細い糸。

    最新技術と驚くほど単純な道具を組み合わせながら、人間にはなかなか見つけることのできない「カメの巣」を追いかけています。

    今回のニュース

    2026年8月14日、Smithsonian’s National Zoo and Conservation Biology Institute(スミソニアン国立動物園・保全生物学研究所)は、バージニア州で進めているトウブハコガメの繁殖調査について発表しました。

    研究チームは約8週間、ほぼ毎日のように野外調査を行い、16か所のトウブハコガメの巣を発見しました。

    しかし、そのうち13巣が産卵後わずか数時間ほどで掘り返され、卵を食べられていました。

    主な捕食者として確認されたのは、アライグマやスカンクです。自動撮影カメラには、アライグマが巣の卵を食べる姿も記録されました。

    16巣中13巣。

    今回確認された巣の約81%が失われたことになります。

    過去の研究でも、ハコガメ類の巣では捕食率が90%に達する場合があるとされており、今回の結果もそれと一致する高い捕食圧を示しました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:アメリカ合衆国
    州:バージニア州
    研究機関:Smithsonian’s National Zoo and Conservation Biology Institute
    研究チーム:Turtle Conservation Ecology Lab
    発表日:2026年8月14日
    対象:トウブハコガメ
    情報の種類:陸生ガメ・繁殖・産卵・捕食・野外研究・保全

    スミソニアンのTurtle Conservation Ecology Labは、2022年からバージニア州に生息するハコガメの移動、繁殖行動、生息地利用などを調べています。

    今回新たに始めたのが、

    「母ガメがどこへ卵を産み、その卵がどのくらい生き残るのか」

    を調べる研究です。

    登場する亀

    今回の主役は、トウブハコガメです。

    学名は Terrapene carolina carolina

    英語ではEastern Box Turtleと広く呼ばれてきましたが、バージニア州野生生物資源局では現在、Woodland Box Turtleという名称を使用しています。

    トウブハコガメは、バージニア州全域に自然分布する陸生傾向の強いカメです。

    甲長はおよそ11〜20センチ。

    背甲は高く盛り上がり、褐色から黒色の地色に、黄色やオレンジ色の斑点、線、まだら模様が入ります。

    模様には非常に大きな個体差があります。

    名前の由来は「箱」

    ハコガメという名前の大きな理由が、腹甲です。

    トウブハコガメの腹甲には可動する蝶番のような構造があります。

    危険を感じると頭や手足を甲羅の中へ完全に引っ込め、腹甲を閉じることで、まるで箱のような状態になります。

    成熟した個体では、とても頑丈な防御です。

    でも、

    卵にはその甲羅がありません。

    そして孵化したばかりの子ガメにも、大人と同じ防御力はありません。

    今回の研究は、

    頑丈な「箱」を持つようになるずっと前に、どれほど多くの命が失われているのか

    を調べる研究でもあります。

    まず、母ガメを探す

    巣を調べるには、当然ながら最初に巣を見つけなければなりません。

    これが簡単ではありません。

    研究チームが調査している5か所には、無線発信器とGPSタグを装着した56匹のハコガメがいます。

    研究者はVHF受信機を使い、それぞれの個体に割り当てられた電波を探します。

    信号が強くなる方向へ進む。

    草をかき分ける。

    落ち葉を見る。

    そしてようやく、模様によって森の地面へ溶け込んでいる小さな甲羅を見つけます。

    発信器が付いていても見つけるのが難しいほど、ハコガメは森の中へ隠れるのが上手です。

    次にX線を撮る

    母ガメを発見したら、

    今度はその個体が卵を持っているかを調べます。

    雌のハコガメは、形成された卵を体内におよそ30〜60日間保持します。

    バージニア州でこの状態になるのは、主に5月下旬から7月上旬です。

    研究者はまず、後脚付近を慎重に触って硬い卵があるか確認します。

    ただし、触診だけでは確実ではありません。

    そこで登場するのが、

    携帯型X線装置です。

    プラスチックカップが研究器具になる

    野外に大きな病院設備を持ち込むことはできません。

    研究者は車の後ろに簡易的なフィールドステーションを作り、

    携帯型X線装置。

    タブレット。

    無線受信機。

    体重計。

    自動撮影カメラ。

    などを並べます。

    そしてX線を撮るときに使われる、非常に重要な道具があります。

    プラスチックカップです。

    カメを鉛で保護されたプレートとカップの上へ一時的に乗せます。

    カップは、撮影中にカメが歩いてどこかへ行ってしまわない高さになっています。

    その状態で短時間だけX線撮影を行うと、

    体内に卵があるかどうかが、その場で確認できます。

    高度なX線装置と、

    どこにでもありそうなプラスチックカップ。

    この組み合わせで野生の母ガメを調べています。

    卵があったら「糸」を付ける

    X線で卵が確認されたら、

    次に登場するのが糸です。

    研究者は母ガメの甲羅に、重さわずか約2グラムの小さな糸巻きを慎重に取り付けます。

    そしてカメを発見した場所へ戻します。

    糸巻きには、

    216ヤード、約198メートル

    もの糸が巻かれています。

    母ガメが森を歩く。

    その後ろに、細い糸が伸びていく。

    研究者は翌日、その糸をたどります。

    母ガメは簡単には産まない

    卵を持っているからといって、

    すぐにその場所へ産卵するわけではありません。

    ハコガメの雌は、巣を作る場所を何時間、ときには何日もかけて探します。

    土の状態。

    日当たり。

    温度。

    周囲の環境。

    さまざまな条件を確かめながら歩きます。

    研究者が、

    「ここに産むだろう」

    と思った場所から離れ、

    翌朝には約1.5マイル、約2.4キロ離れた山の上で巣を掘っていることさえあると報告されています。

    カメはゆっくり歩きます。

    でも、

    ゆっくりだから移動しないわけではありません。

    時間をかければ、人間が想像する以上の距離を移動します。

    糸をたどれば、巣が見つかる

    翌日。

    研究者は再び母ガメを探します。

    そして体重を測ります。

    もし体重が前日と変わっていなければ、

    まだ産卵していない可能性が高い。

    ところが、

    20〜80グラムほど軽くなっていたら、卵を産んだ可能性があります。

    そこで研究者は、

    母ガメの後ろに残された細い糸を逆方向へたどります。

    草の中。

    落ち葉の中。

    牧草地。

    森。

    何十メートル、場合によっては100メートル以上。

    糸を追っていく。

    そして、

    新しく土が掘り返された場所と糸が交差していれば、

    そこが巣である可能性があります。

    見つけたら、触らない

    巣を発見しても、

    研究者は卵を掘り出して確認するわけではありません。

    可能な限り巣をそのままの状態にします。

    位置を記録し、

    小さな目印を付け、

    自動撮影カメラを設置する。

    そして、

    その後何が起こるのかを見守ります。

    母ガメが選んだ場所を、

    できるだけ母ガメが残した状態のまま観察する。

    そのための研究です。

    20匹の母ガメから16巣を発見

    2026年の調査では、

    研究対象のうち20匹の雌が卵を持っていることが確認されました。

    そのうち研究チームが見つけることができた巣は16か所。

    3匹は研究者が立ち入れない私有地で産卵。

    残る1匹については、最終的に巣を発見できませんでした。

    ここまでは、

    かなり高い精度で母ガメを追跡できています。

    しかし、

    本当に厳しい結果は、その後でした。

    16巣中13巣が失われた

    約8週間の調査で見つかった16巣。

    そのうち13巣が、

    アライグマやスカンクなどによって掘り返されました。

    しかも一部は、

    産卵からわずか数時間後です。

    母ガメが穴を掘る。

    卵を産む。

    土を戻す。

    その日のうちに、

    別の動物がその場所を見つける。

    掘り返す。

    卵を食べる。

    子ガメになる前に、

    そこで命が途切れます。

    カメの最大の敵は「道路」だけではない

    陸生のカメについて考えるとき、

    人間には分かりやすい危険があります。

    道路。

    自動車。

    草刈り機。

    農薬。

    森林開発。

    実際、スミソニアンのこれまでの調査でも、道路、気候の変化、芝刈り機、住宅地周辺の捕食動物などがハコガメ減少に関係している可能性が示されています。

    しかし今回の研究が見せているのは、

    甲羅を持ったカメとして地上へ出てくる前にも、大きな壁がある

    ということです。

    卵の段階です。

    成熟まで10〜20年

    トウブハコガメは、たくさんの子どもを短期間で増やす動物ではありません。

    バージニア州野生生物資源局によると、性成熟までには10〜20年かかります。

    雌が一年に産む卵も、およそ2〜7個です。

    そして今回の調査では、

    その数少ない卵の多くが、孵化する前に捕食されました。

    一匹の雌が10年以上かけて大人になる。

    その雌が数個の卵を産む。

    その多くが孵化前に失われる。

    さらに孵化した子ガメも、捕食、道路、生息地の変化などを越えなければならない。

    ハコガメが個体数を回復するのに時間がかかる理由が見えてきます。

    100年で約32%減少

    バージニア州野生生物資源局は、州内のWoodland Box Turtleについて、過去100年間で個体数がおよそ32%減少したと推定しています。

    生息地の分断や都市化、野生個体の違法なペット取引などが主要な脅威として挙げられています。

    一方で今回の研究は、

    「生まれたカメがなぜ減るのか」

    だけでなく、

    「そもそも、何匹が生まれるところまで到達できているのか」

    という段階へ調査を広げています。

    捕食者を悪者にすればいいのか

    13巣を失った。

    原因はアライグマやスカンク。

    だから捕食動物を排除すればいい。

    そう単純な話でもありません。

    アライグマやスカンクも、その生態系の中で生きている動物です。

    今回の研究の目的も、

    ただ捕食者を見つけることではありません。

    どんな場所に作られた巣が生き残るのか。

    土壌温度はどう違うのか。

    周囲の植生はどうなっているのか。

    巣の微気候はどうなっているのか。

    そうした条件を調べ、

    ハコガメが繁殖できる環境そのものを理解すること

    が目的です。

    来年は「生き残る巣」の条件を調べる

    研究チームは2027年も調査を続ける予定です。

    次の段階では、

    土壌温度。

    巣の位置。

    巣周辺の微気候。

    そのほかの環境条件。

    など、より詳しいデータを集めます。

    「捕食された巣」だけを見るのではありません。

    生き残った巣と比べる。

    そこに何が違うのかを探す。

    もし、

    生き残りやすい巣の条件が分かれば、

    将来、生息地管理や巣の保護方法を考える材料になります。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番面白いと思うのは、

    人間が母ガメに巣の場所を教えてもらっていることです。

    人間が地図を広げて、

    「ここに産むだろう」

    と決めるのではない。

    まずカメを探す。

    卵を持っているか確認する。

    そして、

    カメを元の場所へ戻す。

    そこから先は、

    母ガメに好きなところへ歩いてもらう。

    人間は後ろに残された一本の糸をたどる。

    森の中で、

    細い糸の先にある答えを探す。

    最新のX線装置があっても、

    GPSがあっても、

    最後に必要なのは、

    カメ自身がどこへ行くのかを見ること。

    この研究は、

    人間がカメに正解を教える研究ではありません。

    カメが選んだ場所から、

    人間が正解を教えてもらう研究なのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    亀は成熟に時間がかかるよね!

    僕は熱帯魚や金魚の繁殖をしていたから、亀の繁殖にもそれと同じ感覚で取り組んでしまいました。

    亀の繁殖にはめちゃめちゃ時間がかかる。

    それに、失敗もつきものである。

    プロのブリーダーさんたちの努力・研究には本当に敬服する。

    この記事にはあまり関係ないコメントになってしまったね。

    出典

    Smithsonian’s National Zoo and Conservation Biology Institute
    「How X-Rays, Plastic Cups and Spools of String Help National Zoo Researchers Find Wild Box Turtle Nests」

    Virginia Department of Wildlife Resources
    「Woodland Box Turtle」

    IUCN Red List of Threatened Species
    「Eastern Box Turtle – Terrapene carolina」

  • 【世界の亀ニュース】アカウミガメ922巣で過去最多 サニベル島。しかし4分の1の巣がコヨーテ被害

    今回は、アメリカ・フロリダ州のサニベル島で、アカウミガメの産卵巣が観測史上最多を更新したニュースを紹介します。

    数字だけを見ると、とても嬉しいニュースです。

    しかし、その砂浜では同時に、別の問題も大きくなっていました。

    今回のニュース

    2026年8月12日、Sanibel-Captiva Conservation Foundation(SCCF)は、フロリダ州サニベル島で確認されたアカウミガメの巣が922か所に達し、過去最高記録を更新したと発表しました。

    これまでの最高記録は2023年の878巣。

    2026年は産卵シーズンが完全に終了する前の段階で、それをすでに44巣上回っています。

    しかし、同じ発表にはもう一つ重要な数字があります。

    サニベル島では、922か所のアカウミガメの巣のうち、211か所がコヨーテによる捕食被害を受けました。

    被害率は22.6%。

    隣接するキャプティバ島では、241巣のうち82巣が被害を受け、被害率は33.7%に達しています。

    両島を合わせると、アカウミガメの巣1,163か所のうち293か所、およそ4巣に1巣がコヨーテの被害を受けていることになります。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:アメリカ合衆国・フロリダ州
    場所:サニベル島、キャプティバ島
    発表日:2026年8月12日
    対象種:アカウミガメ
    情報の種類:ウミガメ・産卵・繁殖・捕食・保護活動

    サニベル島とキャプティバ島では、SCCFが毎日砂浜を巡回し、ウミガメの巣を記録・監視しています。

    この地域のウミガメ調査は1959年に始まっており、フロリダ州でも最も長く継続されているウミガメのモニタリング活動の一つです。

    登場する亀

    今回の主役は、アカウミガメです。

    学名は Caretta caretta

    英語ではLoggerhead Sea Turtleと呼ばれています。

    アカウミガメは世界の温帯から亜熱帯の海に広く分布しており、フロリダ州の砂浜は世界的にも非常に重要な産卵地です。

    フロリダ州魚類野生生物保護委員会(FWC)によると、北西大西洋のアカウミガメ繁殖集団は世界最大規模とされ、その巣のおよそ90%がフロリダ州に集中しています。

    一匹の母ガメが何度も砂浜へ戻る

    922巣あるからといって、922匹の母ガメが来たという意味ではありません。

    一匹の雌は同じ繁殖シーズンに何度も産卵します。

    FWCによると、アカウミガメの雌は繁殖年に約4〜7回巣を作り、およそ14日間隔で再び砂浜へ上陸します。ひとつの巣には約100〜126個の卵が入り、孵化までには約60日かかります。

    つまり砂浜で数えられている「巣」は、

    母ガメが海から上がり、

    砂を掘り、

    卵を産み、

    再び海へ戻った、

    一回一回の繁殖行動の記録です。

    1959年から見続けてきた砂浜

    サニベル島のウミガメ調査は1959年に始まりました。

    当初は研究者Charles LeBuffとCaretta Researchが調査を行い、1992年からSCCFが引き継いでいます。

    2026年の922巣は、67年近く続く記録の中で最も多いアカウミガメの巣数です。

    一つのシーズンだけを見れば、

    「今年は多かった」

    で終わります。

    しかし、半世紀以上同じ砂浜を見続けているからこそ、

    昔と比べて増えたのか。

    減ったのか。

    どの場所へ産卵するようになったのか。

    何が変化しているのか。

    ということが分かります。

    過去最高なのに、安心できない

    2026年の巣数は記録的です。

    しかしSCCFは、巣の数だけを見て今シーズンを成功と判断することには慎重です。

    理由が、コヨーテによる卵の捕食です。

    サニベル島では211巣。

    キャプティバ島では82巣。

    合計293巣が被害を受けています。

    SCCFが引用している連邦政府のアカウミガメ回復計画では、捕食被害率10%が管理上の一つの目安とされています。

    ところがサニベル島では22.6%。

    キャプティバ島では33.7%。

    サニベル島西端のFar West地区では、**42.6%**に達しました。

    ほぼ2巣に1巣です。

    コヨーテが悪いのか

    この話を見ると、

    「コヨーテがウミガメを襲っている」

    と考えてしまいます。

    でも、野生動物の世界を単純に善悪で分けることはできません。

    コヨーテも生きるために餌を探しています。

    砂浜に大量の卵が埋まっていれば、それを見つける個体が現れること自体は不思議ではありません。

    問題なのは、

    現在の捕食圧が、ウミガメ個体群にとって許容できる範囲を超えている可能性があること

    です。

    そこでSCCFでは、一部の巣へ金網状の保護スクリーンを設置し、コヨーテなどが掘り返すことを防ぎながら、孵化した子ガメ自身は網目から外へ出られる仕組みを使っています。

    巣が多くても、子ガメが多いとは限らない

    ここが今回のニュースで、とても重要なところです。

    922巣。

    これは間違いなく大きな記録です。

    でも、

    巣の数と、海へ到達する子ガメの数は同じではありません。

    卵が捕食される。

    高潮で巣が流される。

    孵化しない卵がある。

    生まれても砂から出られない個体がいる。

    人工照明によって海とは反対方向へ進んでしまう場合もあります。

    SCCFも、2026年シーズンの本当の結果は、残っている巣がすべて孵化または失敗し、最終的な子ガメの脱出数が集計されるまで分からないとしています。

    2023年にも同じことが起きていた

    実は、これは初めて起きた問題ではありません。

    2023年も、サニベル島とキャプティバ島ではアカウミガメの巣が過去最高水準を記録しました。

    しかし同時に、両島では約43%の巣が捕食被害を受けました。

    その結果、その年に砂浜から出てきた子ガメの数は、当時として2016年以来最も少なくなりました。

    つまり、

    母ガメがたくさん産卵した。

    だから安心。

    とは言えません。

    卵が孵化して、

    子ガメが砂から出て、

    海へ入って、

    初めて次の段階へ進みます。

    アカウミガメは大人になるまで約35年

    海へ入った子ガメが、すぐ次の世代を作るわけでもありません。

    FWCによると、アカウミガメが性成熟するまでには、およそ35年かかります。

    2026年にサニベル島から海へ入る子ガメが、

    大西洋を泳ぎ、

    成長し、

    さまざまな危険を越え、

    繁殖できる母ガメとなるのは、

    2060年前後になる可能性があります。

    そして雌は、成熟すると自分が生まれた地域に近い砂浜へ戻り、次の卵を産みます。

    今砂浜で見えている母ガメたちは、何十年も前の保護活動の結果でもあります。

    922巣は「今年だけ」の数字ではない

    SCCFは、近年の巣数増加について、過去に行われてきた保全活動の成果が現れている可能性を指摘しています。

    海亀の保護には時間がかかります。

    今日卵を守る。

    明日結果が出る。

    というものではありません。

    数十年前に守られた子ガメが大人になり、

    今、

    砂浜へ戻っている。

    2026年の922巣には、そんな長い時間が含まれています。

    フロリダは世界最大級の産卵地

    フロリダ州は、アカウミガメにとって世界でも特に重要な場所です。

    FWCによると、北西大西洋の繁殖集団のおよそ90%の巣がフロリダ州にあります。

    つまり、フロリダの一つの砂浜で起きていることは、

    その地域だけの話ではありません。

    大西洋を回遊するアカウミガメ個体群全体につながっています。

    人間にもできることがある

    SCCFは、観光客や住民に対して、産卵シーズン中の砂浜でいくつかの行動を呼びかけています。

    夜間は照明を落とす。

    砂浜に掘った穴を埋める。

    ビーチチェアやテント、玩具を夜まで残さない。

    ゴミや釣り糸を放置しない。

    産卵中の母ガメへ近づかない。

    保護用のスクリーンへ触らない。

    どれも巨大な保護施設を作るような活動ではありません。

    でも、一匹の母ガメが安心して卵を産み、

    一匹の子ガメが海まで歩くためには、

    そういう小さなことが重要になります。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番面白いと思うのは、

    「過去最多」という数字の先を見なければならないことです。

    922巣。

    ニュースのタイトルとしては、とても分かりやすい。

    記録更新。

    保護活動成功。

    アカウミガメ復活。

    そう書きたくなる。

    でも砂を掘ってみれば、

    卵がない巣がある。

    コヨーテに食べられた巣がある。

    水に流された巣がある。

    まだ孵化していない巣がある。

    一つの数字だけでは、生き物の状態は分からない。

    たくさん産んだのか。

    何匹生まれたのか。

    何匹海へ入ったのか。

    何匹大人になったのか。

    全部違う数字です。

    だから、

    922という数字を喜びながら、

    その先も見続ける必要がある。

    今回のニュースは、

    「増えた」ということと、「守れた」ということは同じではない

    と教えてくれている気がします。

    湯川亀吉の一言

    ウミガメって、意外とでかいよね。

    出典

    Sanibel-Captiva Conservation Foundation(SCCF)
    「Record-Breaking Loggerhead Nesting on Sanibel Continues to Rise」
    2026年8月12日
    https://sccf.org/2026/08/12/record-breaking-loggerhead-nesting-on-sanibel-continues-to-rise/

    Sanibel-Captiva Conservation Foundation(SCCF)
    「Record-Breaking Loggerhead Nesting Season on Sanibel」
    2026年7月29日
    https://sccf.org/2026/07/29/record-breaking-loggerhead-nesting-season-on-sanibel/

    Florida Fish and Wildlife Conservation Commission(FWC)
    「Loggerhead Nesting in Florida」
    https://myfwc.com/research/wildlife/sea-turtles/nesting/loggerhead/

    Florida Fish and Wildlife Conservation Commission(FWC)
    「Loggerhead Sea Turtle」
    https://myfwc.com/wildlifehabitats/profiles/reptiles/sea-turtles/loggerhead-turtle/

    NOAA Fisheries
    「Loggerhead Turtle」
    https://www.fisheries.noaa.gov/species/loggerhead-turtle

  • 【世界の亀ニュース】エロンガータリクガメ201匹が誕生 カンボジアの保全繁殖で過去最高記録

    【世界の亀ニュース】エロンガータリクガメ201匹が誕生 カンボジアの保全繁殖で過去最高記録

    今回は、カンボジアで絶滅の危機にあるエロンガータリクガメの子どもが、2026年だけで201匹誕生したニュースを紹介します。

    今回のニュース

    2026年8月、カンボジアのアンコール生物多様性保全センター(Angkor Centre for Conservation of Biodiversity:ACCB)は、今年の繁殖シーズンにエロンガータリクガメ201匹の孵化に成功したと発表しました。

    これは、ACCBが行ってきたエロンガータリクガメの保全繁殖プログラムとして過去最高の記録です。

    これまでの最高記録は2024年の169匹。

    2026年は8月時点ですでに201匹に達し、前回の記録を約19%上回りました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:カンボジア
    施設:アンコール生物多様性保全センター(ACCB)
    地域:シェムリアップ州
    発表:2026年8月8日
    報道:2026年8月10日
    情報の種類:リクガメ・飼育下繁殖・孵化・野生復帰・絶滅危惧種

    ACCBはカンボジアの絶滅危惧動物を対象に、救護、飼育下繁殖、野生復帰、放逐後の追跡などを行う保全施設です。

    登場する亀

    今回の主役は、エロンガータリクガメです。

    学名は Indotestudo elongata

    英語ではElongated Tortoiseと呼ばれています。

    日本の動物園でも「エロンガータリクガメ」という和名が使われています。背甲はやや扁平で、上から見ると前後に細長い形をしています。最大甲長は30センチ前後から、大型個体では約36センチに達します。

    インド北東部からネパール、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、カンボジア、ラオス、ベトナム、マレー半島、中国南部など、南アジアから東南アジアにかけて分布しています。

    201匹という新記録

    ACCBでは、2026年に入ってから201匹のエロンガータリクガメが孵化しました。

    2024年の年間記録169匹を、8月の段階ですでに超えています。

    ACCBは2026年を、この繁殖プログラムにとってこれまでで最も成功した年としています。

    201匹の子ガメたちは現在、ACCBの施設内で育てられています。

    すぐに野生へ放すわけではありません。

    捕食者に簡単に襲われない大きさまで成長させ、その後、条件が整った個体から野生復帰を目指します。

    世界最大規模の飼育個体群

    ACCBは、エロンガータリクガメについて世界最大の飼育下個体群を維持する施設としています。

    2025年にACCBの担当者が紹介した内容では、同センターでは約600匹のエロンガータリクガメが飼育されていました。

    これは単に「たくさん飼っている」という意味ではありません。

    野生個体群が大きく減少している種類について、遺伝的な多様性をできるだけ維持しながら繁殖させ、将来的に野生個体群を補強するための個体群です。

    こうした個体群は、野生で何か大きな問題が起きたときに種そのものが失われることを防ぐ、いわば保険のような役割も持っています。

    90年間で80%以上減少

    エロンガータリクガメは、広い範囲に分布しているカメです。

    しかし、

    「広く分布している=安全」

    ではありません。

    ACCBによる保全活動の紹介では、違法な食用捕獲、国際的な野生生物取引、生息地の劣化と分断などによって、過去約90年間で個体数が少なくとも80%減少したとされています。

    現在はIUCNレッドリストで「Critically Endangered」、つまり「深刻な危機」に分類されています。

    一見すると普通に見える中型のリクガメが、実際には世界的な絶滅危惧種になっています。

    森の中で暮らすリクガメ

    エロンガータリクガメは、乾燥した砂漠を歩くタイプのリクガメではありません。

    東南アジアの落葉広葉樹林など、比較的湿度のある森林環境を利用します。

    植物の葉。

    果実。

    花。

    キノコ。

    タケノコ。

    そして、ときにはカタツムリなどの小動物や動物の死骸も利用する、植物食傾向の強い雑食性のカメです。

    森の中で落ちた果実を食べ、別の場所へ移動し、糞と一緒に種子を運びます。

    ACCBの保全担当者は、エロンガータリクガメが種子散布に関わり、森林の再生にも役割を持つと説明しています。

    リクガメを戻すことは、森の機能を戻すこと

    リクガメが一匹いなくなる。

    それだけを見ると、生態系への影響は分かりにくいかもしれません。

    しかし、森の中で果実を食べる大型の動物が減れば、植物の種が運ばれる距離も変わります。

    土を掘る動物が減れば、地面の状態も変わります。

    ACCBは、エロンガータリクガメが種子を運ぶだけでなく、土を掘る行動によって土壌へ空気を送り込み、小さな生物が利用する環境を作ることにもつながると説明しています。

    つまり、リクガメを森へ戻すことは、

    「カメの数を増やす」

    だけの活動ではありません。

    森の中から失われつつある機能を、一つずつ戻す活動でもあります。

    すでに100匹を森へ戻す計画が始まっている

    ACCBでは繁殖だけでなく、実際の野生復帰も進めています。

    2023年4月、飼育下で育てられた100匹のエロンガータリクガメが、カンボジア北部の保護地域へ移されました。

    しかし、到着したその日に放されたわけではありません。

    まず約1ヘクタールの順応用エリアへ入れられ、野生の気温、植物、地面、雨、餌などに慣れる期間が設けられました。

    そして約8か月後。

    2024年1月12日、囲いが開放されました。

    100匹のリクガメは、そこから自分の意思で森の中へ散らばっていきました。

    「放して終わり」ではない

    野生復帰で難しいのは、

    カメを森へ置くことではありません。

    そのあと、本当に生きていけるのかを確かめることです。

    ACCBでは放された個体の一部に、GPSとVHF発信器を取り付けています。

    どこへ移動するのか。

    どんな場所で休むのか。

    どれくらい広い範囲を利用するのか。

    健康状態は維持できているのか。

    そうした情報を収集しています。

    放したカメが森の中へ消えてしまえば、

    「野生復帰成功」

    と考えたくなります。

    でも、本当の答えはその先にあります。

    森を歩く「Tortoise Guardians」

    放されたカメを追跡するために、現地では3人のTortoise Guardians=リクガメの守り手が訓練されました。

    彼らは実際にその森で暮らしている地域住民です。

    発信器の信号を追い、

    カメの位置を確認し、

    行動や環境データを集めます。

    ACCBのスタッフも定期的に森へ入り、GPSデータを回収したり、発信器を交換したりしています。

    さらに半年ごとに獣医師が健康状態を確認します。

    飼育施設で生まれたカメが、

    森へ入る。

    人間の視界から消える。

    でも遠くから、その生活を少しだけ見守る。

    繁殖施設と野生の森が、そこでつながっています。

    201匹は、まだ「成果の途中」

    201匹が孵化した。

    それだけでも大きなニュースです。

    でも、保全という視点では、この201匹はまだスタート地点に立ったばかりです。

    成長する。

    健康を維持する。

    野生へ戻せる大きさになる。

    新しい環境へ慣れる。

    森へ放される。

    野生の餌を見つける。

    雨季と乾季を越える。

    そして何年も生き、成長し、最終的には自分たちで繁殖する。

    そこまで到達して初めて、人間が育てた一世代が、野生の個体群へ本当に加わったと言えるのだと思います。

    飼育下繁殖はゴールではない

    動物園や保全施設で絶滅危惧種がたくさん生まれると、

    「もう大丈夫なのでは?」

    と思うことがあります。

    しかし、野生の森そのものが失われれば、帰る場所はありません。

    エロンガータリクガメが減少してきた背景には、捕獲だけではなく、森林の劣化や分断もあります。

    だからACCBでは、

    飼育下繁殖。

    野生復帰。

    放逐後の追跡。

    地域住民との協力。

    生息地の保全。

    それらを一つの流れとして進めています。

    201匹の子ガメを育てることと、

    その201匹が帰れる森を残すこと。

    どちらか一方だけでは成立しません。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が特に注目したいのは、

    「たくさん生まれた」というニュースの先に、森があることです。

    201匹。

    数字として見ると、とても分かりやすい成果です。

    でも、本当に重要なのは、

    その201匹を水槽の中で増やし続けることではない。

    いつか、

    人間が餌を与えなくても、

    人間が温度を管理しなくても、

    人間が毎日姿を確認しなくても、

    森の中で勝手に生きていること。

    そして、

    そのカメ自身が次の卵を産むこと。

    飼育下繁殖が成功するほど、

    次に問われるのは、

    「帰る場所を残せているか」

    なのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    エロンガータかっこいいよね!

    家にスペースがあったら飼育してみたいな〜

    出典

    Angkor Centre for Conservation of Biodiversity(ACCB)
    2026年エロンガータリクガメ繁殖記録。

    Cambodianess
    「Over 200 Hatchlings of Tortoises Show Successful Breeding Year」
    2026年8月10日。

    British and Irish Association of Zoos and Aquariums(BIAZA)
    「The Long (but Slow) Walk Home – Restoring Elongated Tortoise Populations in Cambodia’s Forests」

    京都市動物園
    「エロンガータリクガメ/Elongated Tortoise」

  • 【世界の亀ニュース】カナダでニセチズガメ100件超の観察記録 市民の写真から見つかった外来チズガメ

    【世界の亀ニュース】カナダでニセチズガメ100件超の観察記録 市民の写真から見つかった外来チズガメ

    今回は、カナダで本来生息していないチズガメの観察記録が増えているニュースを紹介します。

    きっかけは、一枚のカメの写真でした。

    今回のニュース

    2026年8月6日、Canadian Wildlife Federation(カナダ野生生物連盟)は、カナダ国内でニセチズガメの観察記録が100件を超え、さらにフトマユチズガメも20件以上記録されていると発表しました。

    どちらも本来はアメリカに自然分布する淡水ガメです。

    カナダ野生生物連盟によると、これらの外来チズガメは現在、ブリティッシュコロンビア州、オンタリオ州、ケベック州で観察されています。

    ただし、ここで重要なのは、

    「100件の観察記録=100匹の別個体」ではない

    ということです。

    同じ個体が複数回撮影されている可能性もあります。また、観察例が増えていることだけから、カナダで繁殖して安定した野生個体群を形成していると断定することもできません。

    現時点で分かっているのは、カナダのさまざまな場所で、本来そこにいないチズガメが繰り返し確認されているということです。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:カナダ
    確認地域:ブリティッシュコロンビア州、オンタリオ州、ケベック州
    発表日:2026年8月6日
    情報源:Canadian Wildlife Federation
    情報の種類:淡水ガメ・外来種・市民科学・生息分布調査

    今回の発見には、自然観察情報を投稿する市民科学プラットフォーム「iNaturalist Canada」の写真記録が大きな役割を果たしています。

    登場する亀

    今回のニュースには、よく似た3種類のチズガメが登場します。

    ヒラチズガメ

    学名は Graptemys geographica

    英語ではNorthern Map Turtle、Common Map Turtleと呼ばれます。

    この3種類の中で、カナダに自然分布しているのがヒラチズガメです。

    カナダでは主にオンタリオ州中部・南部と、ケベック州南西部の一部に分布しています。カナダ国内では保全上「Special Concern(特別な懸念)」に指定されているカメでもあります。

    ニセチズガメ

    学名は Graptemys pseudogeographica

    英語ではFalse Map Turtleと呼ばれます。

    本来の自然分布域は、アメリカのミシシッピ川やミズーリ川水系などです。日本でも「ニセチズガメ」という和名が使われています。

    カナダ野生生物連盟によると、2021年ごろにはまだ珍しい観察例だったものが、2026年にはiNaturalist上で100件を超える観察記録になりました。

    フトマユチズガメ

    学名は Graptemys ouachitensis

    英語ではOuachita Map Turtleと呼ばれます。

    日本では「フトマユチズガメ」または「ウォシタチズガメ」という和名が使われています。自然分布はアメリカ中部から南部です。

    こちらもカナダでは本来の自然分布外で、2026年時点で20件を超える観察記録が確認されています。

    始まりは「なんか違う」

    このニュースの面白いところは、最初から外来種を探していたわけではないことです。

    2021年、カナダ野生生物連盟の研究者たちは、ヒラチズガメがモーターボートのプロペラによってどの程度負傷しているのかを調べていました。

    そのために、iNaturalist Canadaへ投稿されていたヒラチズガメの写真を一枚ずつ確認していました。

    研究対象となったのは、1,953件ものヒラチズガメの観察写真です。研究者たちはその中から甲羅の状態を確認できる個体を選び、プロペラによる傷がないか調査しました。

    その作業中、

    一枚の写真に写っていたカメが、

    どうもヒラチズガメらしくない。

    研究者たちは違和感を覚えました。

    少し似ている。

    でも何かが違う。

    そこで写真を保留して後から詳しく調べたところ、そのカメはカナダ在来のヒラチズガメではなく、ニセチズガメだったことが分かりました。

    5年後には100件を超えた

    一枚の写真から始まった発見でした。

    ところが、それから約5年。

    ニセチズガメの観察記録は100件を超えました。

    さらに、別種のフトマユチズガメについても20件以上が報告されています。

    研究者にとって問題なのは、

    「外来チズガメがいる」

    ということだけではありません。

    在来のヒラチズガメと非常によく似ていることです。

    見間違えれば、外来種が増えていても、すべてヒラチズガメとして記録されてしまう可能性があります。

    見分ける鍵は「目の後ろ」

    3種類を見分けるとき、カナダ野生生物連盟が注目しているのが頭部の模様です。

    ヒラチズガメ

    目の後ろに、丸形または三角形に近い斑紋があります。

    個体差はありますが、多くの場合、目と同程度の大きさです。

    ニセチズガメ

    ニセチズガメの一部では、目の後ろに太い黄色の線が「L字型」に走ります。

    上から見ると、その模様がホッケースティックや眉毛のように見えることがあります。

    亜種のミシシッピチズガメでは、その模様がさらに目の周囲から鼻や口方向へ伸びます。

    フトマユチズガメ

    フトマユチズガメでは、目の後ろに比較的大きな長方形状の斑紋があります。

    さらに重要なのが下顎です。

    目のほぼ真下に大きな斑点があり、その幅が目と同じ程度か、それ以上になることが識別ポイントとされています。

    亀の専門家でも間違える

    「模様を見れば簡単に分かる」

    というほど単純ではありません。

    カナダ野生生物連盟自身、

    チズガメの識別は専門家にとっても難しい

    と説明しています。

    模様には個体差があります。

    写真の角度によって見えない部分もあります。

    甲羅だけが水面から出ていて、頭が見えない場合もあります。

    遠くの丸太で日光浴しているカメなら、種類を判断することはさらに難しくなります。

    だからこそ、横から頭部の模様がよく分かる写真が重要になります。

    市民が撮った写真が外来種調査になる

    今回のニュースでもう一つ注目したいのが、市民科学です。

    iNaturalist Canadaには、専門研究者だけでなく、一般の人が自然の中で見つけた動植物の写真を投稿できます。

    2023年に発表されたカナダ野生生物連盟の研究では、iNaturalist Canadaには当時すでに1,000万件以上の生物観察記録があり、そのうちカメだけでも6万件以上が登録されていました。

    研究者がカナダ中の池や川を毎日巡回することはできません。

    でも、

    散歩中の人。

    釣りをしている人。

    カヌーに乗っている人。

    公園を歩いている人。

    そうした何万人もの人が撮影した写真が集まれば、巨大な観測網になります。

    一枚の「亀の写真」が、数年後には外来種の分布を追跡するデータになる可能性があります。

    なぜカナダにいるのか

    カナダ野生生物連盟は、本来の分布域から離れた都市公園や水域にいるチズガメについて、人間によって持ち込まれた可能性を指摘しています。

    淡水ガメは長年、ペットとして世界中で流通してきました。

    しかし、大きくなった。

    飼えなくなった。

    引っ越すことになった。

    そうした理由で自然の池や川へ放されたカメが、外来個体となることがあります。

    もちろん、今回確認された一匹一匹について「元ペットだった」と証明されているわけではありません。

    ただし、本来の自然分布から遠く離れた場所で複数種のチズガメが確認されている以上、人間による移動は重要な問題です。

    「外来種」と「定着」は同じではない

    ここは今回の記事で特に注意したいところです。

    ニセチズガメの観察記録が100件を超えたからといって、

    「カナダで大量繁殖している」

    とまでは、今回の発表から判断できません。

    観察記録は個体数そのものではありません。

    繁殖した子ガメが確認されているのか。

    越冬しているのか。

    同じ場所に何年間も個体群が存在するのか。

    在来種と餌や日光浴場所を奪い合っているのか。

    そうしたことを調べて初めて、外来個体群がどの程度定着しているのかが分かります。

    今回の100件という数字は、

    「今後詳しく調べる必要があるサイン」

    として見るのが適切だと思います。

    在来のヒラチズガメも安心できない

    カナダ在来のヒラチズガメ自体も、すでにさまざまな問題に直面しています。

    カナダ野生生物連盟がiNaturalistの写真1,513件を詳しく分析した研究では、4%にモーターボートのプロペラによるものと考えられる甲羅の傷が確認されました。地域によっては7%に達しています。

    ヒラチズガメは長寿で、成熟まで時間がかかるカメです。

    そのため、繁殖可能な成体が少しずつ失われるだけでも、長期的には個体群に影響する可能性があります。

    そこへ今度は、本来いなかった近縁種まで現れ始めています。

    外来チズガメが在来種へどの程度影響するのかは、これから調べていく必要があります。

    日本でも他人事ではない

    ニセチズガメとフトマユチズガメは、日本でも「生態系被害防止外来種」に関する情報が整理されている種類です。

    国立環境研究所の侵入生物データベースでは、ニセチズガメ、フトマユチズガメともに、日本国内では定着していないとされています。

    しかし、どちらもペットとして流通してきたカメです。

    海外で起きている問題だから、日本には関係ないとは言い切れません。

    飼育しているカメを最後まで飼う。

    自然へ放さない。

    当たり前に見えるこの行動が、外来種問題を作らないためには非常に重要です。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が面白いと思うのは、

    発見の始まりが、「なんか違う」だったことです。

    研究者は外来チズガメを探していたわけではありません。

    ヒラチズガメの甲羅についた傷を調べていた。

    何千枚もの写真を見ていた。

    その中の一匹だけ、

    なんとなく違った。

    その違和感を捨てなかった。

    そして5年後、

    100件を超える観察記録へつながった。

    生き物を観察するというのは、

    珍しいものを見つけることだけではないのだと思います。

    いつものカメを見る。

    また見る。

    何度も見る。

    だから、

    「いつもと違う」

    ことが分かる。

    今回のニュースは、市民科学の話であると同時に、

    生き物をよく見ることの力

    についてのニュースでもあると思います。

    湯川亀吉の一言

    外来種ってそんなに問題なのか?

    出典

    Canadian Wildlife Federation
    「New Turtle Invaders in Canada」

    Seburn, D. C. et al.
    「Assessing Injury Rates in Northern Map Turtles (Graptemys geographica) From Motorboats Using iNaturalist Canada」
    Herpetological Conservation and Biology, 2023.

    https://www.inaturalist.org/places/canada

    国立環境研究所 侵入生物データベース
    「ニセチズガメ Graptemys pseudogeographica

    国立環境研究所 侵入生物データベース
    「フトマユチズガメ Graptemys ouachitensis

  • 【世界の亀ニュース】絶滅危惧種を含む5種7匹の子ガメが誕生 テネシー水族館で淡水ガメのベビーブーム

    【世界の亀ニュース】絶滅危惧種を含む5種7匹の子ガメが誕生 テネシー水族館で淡水ガメのベビーブーム

    今回は、アメリカのテネシー水族館で、5種類の淡水ガメの子どもが相次いで誕生したニュースを紹介します。

    今回のニュース

    アメリカ・テネシー州チャタヌーガにあるテネシー水族館で、2026年5月中旬以降、5種類、合計7匹の淡水ガメが孵化しました。

    誕生したのは、ヨツメイシガメ3匹、ジャノメイシガメ1匹、キボシイシガメ1匹、ワモンチズガメ1匹、ヒラリーカエルガメ1匹です。

    このうち多くは、絶滅の危機に直面している種類です。さらに水族館の孵卵器では、別のワモンチズガメやモリイシガメ類などの卵も発生を続けています。テネシー水族館が7月7日に発表し、アメリカ動物園水族館協会が7月31日に改めて紹介しました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:アメリカ合衆国、テネシー州
    場所:チャタヌーガ、テネシー水族館
    元記事の言語:英語
    水族館による発表:2026年7月7日
    アメリカ動物園水族館協会による紹介:2026年7月31日
    情報の種類:新着ニュース・淡水ガメ・繁殖・孵化・動物園・絶滅危惧種

    テネシー水族館は、一般公開されているものとしては北米最大規模の淡水ガメコレクションを持つ施設です。1992年の開館から今回の発表までに、56種類・亜種、合計1,166匹のカメを孵化させてきました。

    誕生した5種類のカメ

    今回孵化したのは、次の5種類です。

    ヨツメイシガメ 3匹

    学名は Sacalia quadriocellata

    頭部の左右にある眼状斑によって、本物の目と合わせて四つの目があるように見えることが、和名の由来です。今回誕生した種類の中では最も多い3匹が孵化しました。

    ジャノメイシガメ 1匹

    学名は Sacalia bealei

    英語ではBeal’s four-eyed turtle、またはBeal’s eyed turtleと呼ばれます。ヨツメイシガメと同じSacalia属ですが、甲羅や頭部の模様に違いがあります。日本では「ジャノメイシガメ」という和名が使われています。

    キボシイシガメ 1匹

    学名は Clemmys guttata

    黒い甲羅や皮膚に黄色い斑点が散らばる、小型の北米産淡水ガメです。英語ではSpotted turtleと呼ばれています。

    ワモンチズガメ 1匹

    学名は Graptemys oculifera

    甲羅に輪のような模様が現れるチズガメの仲間で、英語名はRinged map turtleです。アメリカ南部の限られた水系に分布する種類です。

    ヒラリーカエルガメ 1匹

    学名は Phrynops hilarii

    南米に分布するヨコクビガメ類の一種です。首を甲羅へまっすぐ引き込むのではなく、横へ曲げて収納します。顎にある2本のヒゲ状突起も特徴です。

    ニュースの要約

    今回の孵化では、ヨツメイシガメが3匹、そのほかの4種類が1匹ずつ誕生しました。

    テネシー水族館の記事では、ヨツメイシガメは「深刻な絶滅危機」、ジャノメイシガメ、キボシイシガメ、ワモンチズガメは「絶滅危惧」と紹介されています。

    ヒラリーカエルガメは同じ評価対象には含まれていませんが、異なる大陸や環境で進化した5種類が、同じ時期に一つの水族館で孵化したことになります。

    水族館の孵卵器では、さらに2匹のワモンチズガメが孵化直前とみられています。

    また、チュウオウアメリカモリイシガメとキボシチズガメの卵も、順調な発生を示していると報告されました。ワモンチズガメがテネシー水族館で孵化したのは、1998年以来です。

    孵卵器の中に季節を作る

    カメの卵を孵化させるには、温度を一定に保つだけでは十分ではありません。

    土や砂などの床材、水分量、空気の温度、湿度といった条件を、その種類が野生で経験する環境に近づける必要があります。

    飼育下での繁殖例が少ない種類では、どの条件が適しているのか、まだ十分に分かっていない場合もあります。飼育担当者は、卵の状態を観察しながら、野生の季節変化を孵卵器の中で再現します。

    特に複雑だったのが、ヒラリーカエルガメの孵化です。

    このカメが生息する南米では、卵が産み落とされる時期と、子ガメが安全に活動できる雨季との間に時間があります。

    卵の発生や孵化はすぐに進むのではなく、条件が整うまで遅らせられることがあります。雨季の嵐や水位上昇などの環境変化が、子ガメにとって外へ出る合図になります。

    テネシー水族館では、最初に卵を低温・低湿度に近い条件で管理しました。

    その後、少しずつ温度を上げ、時折水を吹きかけることで、乾季から雨季へ移り変わる環境を再現しました。

    つまり、飼育員は孵卵器の中で南米の季節を進め、子ガメが卵から出る時期を待ったのです。

    2007年から続くヨツメイシガメの繁殖

    テネシー水族館は、ヨツメイシガメの繁殖で特に大きな成果を残してきました。

    同館では2007年、飼育下では世界初とされたヨツメイシガメの孵化に成功しました。それ以降、今回の3匹を含め、飼育下個体群へ加わったヨツメイシガメは合計72匹になりました。

    水族館で誕生した個体の一部は、ブロンクス動物園、ノックスビル動物園、キャメロンパーク動物園など、アメリカ動物園水族館協会に加盟する別の施設へ移されています。

    一つの施設だけで個体を抱えるのではなく、複数の施設で分散して飼育・繁殖することで、災害や病気などによって一度に個体群を失う危険を減らせます。

    飼育下で残す「もう一つの個体群」

    今回誕生した子ガメが、すぐに野生へ放されるわけではありません。

    動物園や水族館で維持される希少種の個体群には、野生の個体群がさらに減少した場合に備える「保険」のような役割があります。

    適切な血統管理を行いながら繁殖を続けることで、その種類そのものと、飼育・繁殖に必要な知識を将来へ残します。テネシー水族館は、こうした個体群を野生絶滅への備えとなる「assurance population」と説明しています。

    ただし、水族館で繁殖できることと、野生のカメを守ることは同じではありません。

    川や湿地そのものが失われれば、帰る場所はなくなります。

    飼育下繁殖は野生環境の代わりではなく、野生の個体群と生息地を守る活動を支える、もう一つの方法なのだと思います。

    飼育技術も次の施設へ受け継がれる

    テネシー水族館では、繁殖に成功した方法を施設内だけの秘密にはしていません。

    卵を管理した温度、湿度、床材、孵化までの変化などを、ほかの動物園や水族館の専門家と共有しています。

    以前は飼育下での孵化が難しかった種類でも、複数の施設が知識を共有することで、繁殖例を増やせる可能性があります。

    一匹の子ガメが誕生するまでに得られた知識は、その一匹だけのものではありません。

    次の卵を孵化させる人へ伝わり、別の水族館へ伝わり、その種類全体を守るための技術へ変わっていきます。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、5種類のカメが、それぞれ違う季節と環境を卵の中に持っていることです。

    同じ孵卵器へ入れて、同じ温度にすれば孵化するわけではありません。

    アジアの山地に暮らすカメ。

    北米の湿地に暮らすカメ。

    南米の乾季と雨季を生きるカメ。

    卵は小さく、外から見ればよく似ています。

    でも、その卵が待っている雨や温度、湿度、孵化の時期は、それぞれ違います。

    飼育員は卵を見ながら、その中にある遠い川や森の季節を想像します。

    カメを増やすというより、カメが何百万年もかけて身につけた時間の進み方を、人間が少しずつ学んでいるのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    繁殖は楽しいよね!

    出典

    Tennessee Aquarium
    「Hatching bonanza adds 7 adorable baby turtles from 5 species to Aquarium」

    Association of Zoos and Aquariums
    「Tennessee Aquarium Welcomes Seven Baby Turtles From Five Species」

  • 【世界の亀ニュース】アカウミガメの巣4,100個超 米ジョージア州で過去最多を更新

    【世界の亀ニュース】アカウミガメの巣4,100個超 米ジョージア州で過去最多を更新

    今回は、アメリカ・ジョージア州の海岸で、アカウミガメの巣が過去最多を更新したニュースを紹介します。

    今回のニュース

    2026年、アメリカ・ジョージア州で確認されたアカウミガメの巣が、これまでの記録を上回りました。

    ジョージア州自然資源局が参加するウミガメ巣穴監視システムによると、8月2日時点で州内の海岸から報告されたウミガメの巣は暫定4,169個。そのうち、4,107個がアカウミガメの巣です。

    これまでの最多記録は、2022年に確認された4,071個でした。2026年の産卵シーズンはまだ完全には終わっておらず、最終的な数はさらに増える可能性があります。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:アメリカ合衆国、ジョージア州
    主な地域:大西洋沿岸の島々と砂浜
    元記事の言語:英語
    集計時期:2026年8月2日時点
    情報の種類:新着ニュース・ウミガメ・産卵・繁殖・保護活動

    ジョージア州では、カンバーランド島、オサボー島、セントキャサリンズ島、ジキル島、タイビー島など、多数の海岸でウミガメの産卵調査が行われています。

    州の沿岸約150キロを対象に、ボランティア、研究者、行政職員らが巣を探し、保護し、孵化状況を記録しています。

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、アカウミガメです。

    学名は Caretta caretta。英語ではLoggerhead Sea Turtleと呼ばれます。

    名前のとおり、ほかのウミガメと比べて大きく頑丈な頭を持っています。強い顎でカニや貝などの硬い獲物をかみ砕き、大西洋、太平洋、インド洋などの広い海域を移動します。

    アメリカのジョージア州では、海岸へ産卵に来るウミガメの大部分をアカウミガメが占めています。アメリカでは保護対象となっており、ジョージア州のウミガメ保護活動でも中心となる種です。

    ニュースの要約

    2026年の産卵シーズンに、ジョージア州で最初のアカウミガメの巣が確認されたのは5月5日でした。

    それから約3か月の間に、州内の各地で次々と巣が発見されました。

    8月2日時点の暫定集計では、アカウミガメの巣が4,107個、アオウミガメの巣が5個、ケンプヒメウミガメの巣が4個、種を確定できていない巣が53個確認されています。

    産み落とされた卵の推定数は、すでに16万個を超えています。

    一部の巣では孵化も始まり、同日の集計では約5万6,800匹の子ガメが巣から出たと記録されています。ただし、これらは産卵・孵化シーズン途中の暫定値であり、今後も更新されます。

    2022年の記録を超えた

    ジョージア州では、1989年に州内の主要な海岸を対象とした本格的な調査が始まりました。

    それ以降の最多記録は、2022年の4,071個でした。2022年には、26万匹を超えるアカウミガメの子どもが海へ向かったとされています。

    2026年は、産卵シーズンが始まる前から、巣の多い年になると予測されていました。

    6月22日の時点ですでに2,366個の巣が確認され、その後も急速に数が増えました。そして8月初め、アカウミガメだけで4,100個を超え、2022年の記録を更新しました。

    なぜ今年は巣が多いのか

    アカウミガメの雌は、毎年必ず産卵するわけではありません。

    一度の産卵シーズンに複数回の巣を作ったあと、次の産卵まで2年から3年ほど間を空ける個体もいます。

    そのため、巣の数は毎年一定ではなく、数年おきに大きく増えることがあります。ジョージア州の研究者たちは、2026年がそうした「多くの雌が同じ年に戻ってくる年」になると予測していました。

    ただし、2026年には、例年より多くの雌が同じ時期に集中して産卵する「波」のような動きも確認されています。

    なぜ産卵の時期がこれほど重なったのかは、まだ完全には分かっていません。研究者たちは卵から採取したDNAや産卵記録を調べ、その原因を探っています。

    タイビー島でも島の記録を更新

    観光地として知られるタイビー島でも、2026年は過去最多の産卵シーズンとなりました。

    これまでの島の最多記録は2022年の35個でしたが、7月15日の時点ですでに49個へ到達。その後も増え続け、8月2日時点の監視記録では、53個のアカウミガメの巣が報告されています。

    タイビー島では毎朝、訓練を受けたボランティアが海岸を歩き、前夜に残された母ガメの足跡を探しています。

    巣が見つかると場所を特定し、印を付けて保護します。高潮による浸水の危険が高い場所では、許可を受けた担当者が卵を安全な位置へ移すこともあります。

    数が増えても、すべての卵が孵化するわけではない

    巣の数が過去最多になったことは、大きな希望です。

    しかし、産み落とされた卵がすべて子ガメになるわけではありません。

    高潮や嵐で巣が浸水することもあります。捕食者に卵を食べられることもあります。砂浜に残された深い穴や椅子、テント、ゴミが、母ガメや子ガメの進路を塞ぐこともあります。

    さらに、海岸沿いの人工照明は、子ガメが進む方向を狂わせます。子ガメは本来、暗い砂浜から海側の明るい地平線へ向かいますが、建物や道路の光に引き寄せられると、海とは反対側へ進んでしまうことがあります。

    タイビー島の保護関係者は、海岸を「平らに、きれいに、暗く」保つよう呼びかけています。

    砂の穴を埋める。
    砂の城を崩す。
    ゴミや道具を持ち帰る。
    夜は海岸に向けた照明を消す。

    一つひとつは小さな行動ですが、母ガメが巣を作り、子ガメが海へ向かうためには重要なことです。

    長い保護活動が数字になって現れた

    ジョージア州では、1990年代初めにウミガメ保護活動が本格化して以降、アカウミガメの巣が平均して年間約4%ずつ増加してきたとされています。

    毎朝、海岸を歩く。

    足跡を見つける。

    砂の下の卵を確認する。

    巣を囲い、嵐や捕食者、人間の活動から守る。

    そして、子ガメが海へ向かったあと、巣を調査して結果を記録する。

    2026年の4,100個を超える巣は、突然現れた数字ではありません。

    何十年も前から続けられてきた調査と保護の結果が、長い時間を経て現れ始めたものだと考えられます。

    記録更新でも、保護は終わらない

    巣が過去最多になったからといって、アカウミガメが完全に安全になったわけではありません。

    アカウミガメは現在も保護対象であり、海岸の開発、人工照明、漁業による混獲、海洋ごみ、生息環境の変化など、さまざまな危険にさらされています。

    また、巣が増えたことと、海で暮らすアカウミガメ全体の個体数が同じ割合で回復したことは、必ずしも同じではありません。

    子ガメが海へ入り、成長し、再び産卵できる年齢になるまでには長い時間がかかります。

    2026年に生まれた子ガメたちが、いつか同じ砂浜へ戻ってくる。その未来まで保護が続いて、初めて今回の記録が次の世代へつながるのだと思います。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、4,100個を超える巣の一つひとつに、一匹の母ガメの移動があることです。

    海の中から砂浜へ上がる。

    重い体を前肢で引きずりながら、波の届きにくい場所まで進む。

    砂を掘り、卵を産み、穴を埋める。

    そして、再び大西洋へ帰っていく。

    人間が記録するのは「巣の数」です。

    でも、その数字の中には、夜の砂浜を進んだ母ガメたちの時間が積み重なっています。

    4,107という数字は、4,107個の穴があったというだけではない。

    何千回もの上陸と産卵が、同じ海岸で繰り返されたということです。

    湯川亀吉の一言

    良かったね。

    出典

    Georgia DNR Sea Turtle Conservation Program
    「Sea Turtle Nest Monitoring System」

    Georgia Public Broadcasting
    「Georgia is on track for a record-high turtle nesting season. What’s behind the good news」

    Tybee Island Marine Science Center
    「Sea Turtle Nesting Season Updates」

    NOAA Fisheries
    「Loggerhead Turtle: Science」

  • 【世界の亀ニュース】砂漠の泉に残るソノイタドロガメ約250匹 国境壁建設を前に緊急避難を検討

    【世界の亀ニュース】砂漠の泉に残るソノイタドロガメ約250匹 国境壁建設を前に緊急避難を検討

    今回は、アメリカとメキシコの国境近くにある砂漠のオアシスで暮らす、絶滅危惧の淡水ガメに関するニュースを紹介します。

    今回のニュース

    アメリカ・アリゾナ州のソノラ砂漠にあるキトバキート・スプリングスで、絶滅危惧のソノイタヒゲナガドロガメを緊急避難させる計画が検討されています。

    キトバキート・スプリングスは、オルガンパイプ・カクタス国定公園内にある小さな泉と池です。アメリカ国内でソノイタヒゲナガドロガメが自然に生息している場所は、ここ一か所しかありません。

    この泉の近くでは、既存の国境壁に加えて、高さ約30フィートの二重目の壁を建設する計画が進められています。

    研究者や保護関係者は、工事に伴う地下水の利用、重機の移動、地形の改変などによって泉や池が維持できなくなる可能性を懸念し、最悪の場合に備えてカメを人工環境へ移す準備を進めています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:アメリカ合衆国、アリゾナ州
    場所:オルガンパイプ・カクタス国定公園、キトバキート・スプリングス
    元記事の言語:英語
    元記事の公開時期:2026年7月24日
    情報の種類:新着ニュース・淡水ガメ・生息地保全・絶滅危惧種

    キトバキート・スプリングスは、アメリカとメキシコの国境近くにある砂漠のオアシスです。

    周囲約100マイルの範囲でも数少ない安定した水源の一つで、淡水ガメだけでなく、魚や巻き貝、鳥類、哺乳類など、多くの生き物にとって重要な場所になっています。

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、英語でSonoyta mud turtleと呼ばれる淡水ガメです。

    学名は Kinosternon sonoriense longifemorale。ソノラドロガメの亜種で、日本語の標準的な呼称が広く定着しているとは確認できなかったため、この記事では「ソノイタヒゲナガドロガメ」と表記します。

    成体の甲長は最大約13.5センチ。背甲はオリーブ色から暗褐色で、頭部や首には網目状の模様があります。前後に蝶番を持つ腹甲と、指の間にある水かきも特徴です。

    アメリカでは、2017年に絶滅危惧種として保護対象になりました。

    現在確認されている生息地は、アリゾナ州のキトバキート・スプリングスにある一個体群と、メキシコ・ソノラ州のソノイタ川流域に残る複数の個体群です。

    ニュースの要約

    報道によると、現在キトバキートの池には、およそ250匹のソノイタヒゲナガドロガメが生息していると推定されています。

    研究者たちは、池の水が失われたり、堤が損傷したりする最悪の事態を想定し、可能な限り多くのカメを捕獲して、一時的に人工の飼育環境へ移す方法を検討しています。

    アリゾナ・ソノラ砂漠博物館では、野生個体群に何かが起きた場合に備え、すでに約20匹のソノイタヒゲナガドロガメを飼育しています。

    同館は、緊急時にはさらに最大50匹を受け入れる意向を示しています。フェニックス動物園も、カメの受け入れに協力する可能性があります。

    しかし、カメを施設へ移せば問題が解決するわけではありません。

    保護関係者が最も心配しているのは、一時的に避難させたカメを、将来戻せる生息地が残っているかどうかです。人工環境は命をつなぐ場所にはなっても、泉そのものの代わりにはなりません。

    砂漠にある、小さな淡水の世界

    ソノイタヒゲナガドロガメは、砂漠に暮らす淡水ガメです。

    広大な乾燥地帯に大きな川が流れているわけではありません。

    地下から湧き出す水が短い水路を流れ、小さな池を満たす。その限られた水の中で、カメたちは餌を探し、身を隠し、世代をつないできました。

    キトバキート・スプリングスは、ソノイタヒゲナガドロガメだけの生息地ではありません。

    世界でこの泉にしか野生個体が残っていないキトバキート・パプフィッシュや、非常に小さな泉性の巻き貝も生息しています。

    一つの小さな泉が失われれば、複数の生き物が同時に野生の生息地を失う可能性があります。

    なぜ国境壁が泉へ影響するのか

    今回計画されている二重目の国境壁は、既存の壁から約90〜150フィート離れた位置に建設される可能性があります。

    壁そのものだけでなく、工事用道路、資材置き場、重機の通行、地下水の利用などが、泉を支える地下水系や周辺環境へ影響することが懸念されています。

    2020年に行われた最初の国境壁建設でも、コンクリート製造のための地下水利用が問題になりました。

    アメリカ魚類野生生物局が2025年にまとめた状況評価でも、国境壁建設に使われる地下水のくみ上げが、キトバキート・スプリングスを支える水系への新たな負荷として挙げられています。

    一方、アメリカ税関・国境警備局は、キトバキート・スプリングスを避け、希少な自然資源への影響を最小限にするため、魚類野生生物局や国立公園局と協力していると説明しています。

    また、泉から5マイル以内では地下水をくみ上げない方針を示していますが、研究者からは、それだけで泉を守れるかを判断する十分な情報がないとの懸念も出ています。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、約250匹のカメが、一つの小さな泉に生存を託していることです。

    250匹という数字だけを見れば、決して一匹や二匹ではありません。

    けれど、そのすべてが同じ池で暮らしている。

    泉の水が止まれば、逃げ込める別の川はない。
    池が失われれば、歩いて隣の湿地へ移ることもできない。

    砂漠の中では、水がある場所そのものが、生き物の世界です。

    カメを捕まえて施設へ運ぶことはできるかもしれない。

    でも、そのカメたちが何世代も生きてきた水、泥、岸辺、季節まで運ぶことはできません。

    絶滅危惧種を守るということは、個体を生かすだけではなく、その個体がカメとして暮らせる場所を残すことなのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    ソノイタヒゲナガドロガメ。

    僕はこの記事を読むまで知らない亀だった。

    この世界には、知らない亀がたくさんいるにちがいない。

    少なくとも僕は、知らない亀と出会うことを生き甲斐にしている。

    僕のような人たちはたくさんいるだろうし、これからもたくさん出てくるだろう。

    まだ見ぬ亀ファンの楽しみを奪うのはナンセンスである。

    どうにかしっかりした保全を行なって欲しいものです。

    余談ですが、僕の故郷の川ではギギやアカザといった魚がたくさん棲んでいました。

    しかし、上流のダム工事があり、今ではすっかり見られなくなってしまいました。

    僕はちょっと寂しいです。

     

    へへ、湿っぽい話しちまったな。

    出典

    The Guardian
    「This desert oasis is a biological wonderland. Trump’s border wall threatens to destroy it」

    U.S. Fish and Wildlife Service
    「Sonoyta Mud Turtle」

    U.S. Fish and Wildlife Service
    「Draft Recovery Plan for Endangered Sonoyta Mud Turtle Available」

    National Park Service
    「Quitobaquito Springs」

  • 【世界の亀ニュース】アマゾンで白いモンキヨコクビガメが誕生 ボリビアの保護区で確認

    【世界の亀ニュース】アマゾンで白いモンキヨコクビガメが誕生 ボリビアの保護区で確認

    今回は、ボリビアのアマゾンにある自然保護区で確認された、アルビノのモンキヨコクビガメに関するニュースを紹介します。

    今回のニュース

    ボリビア北部・パンド県にあるマヌリピ・アマゾン野生生物国立保護区で、通常とは大きく異なる白く淡い体色を持つ、小さな川ガメが誕生しました。

    確認されたのは、現地で「ペタ・デ・リオ」と呼ばれるモンキヨコクビガメです。

    学名は Podocnemis unifilis。体や甲羅の色素が少なく、白色から淡い黄色に見えることから、アルビノ個体として報告されました。

    ボリビア国営通信社ABIによると、この個体の存在はボリビア国立保護区局によって公表され、マヌリピ保護区で続けられている野生動物の監視と保全にとって、特に価値のある記録だとされています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:ボリビア、パンド県
    発見場所:マヌリピ・アマゾン野生生物国立保護区
    元記事の言語:スペイン語
    公表時期:2026年6月13日
    報道時期:2026年7月9日
    情報の種類:新着ニュース・淡水ガメ・希少個体・保護活動

    マヌリピ保護区は、ペルーとブラジルに近いボリビア北部のアマゾン地域にあります。保護区内では、マヌリピ川流域に生息する淡水ガメの産卵地を監視し、卵や子ガメを密猟や捕食などから守る活動が行われています。

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、モンキヨコクビガメです。

    学名は Podocnemis unifilis。英語ではYellow-spotted River Turtleと呼ばれています。

    日本動物園水族館協会や鳥羽水族館でも、Podocnemis unifilisの和名として「モンキヨコクビガメ」が使われています。別名として、テレケイヨコクビガメと呼ばれることもあります。

    幼体の頭部には、通常、黄色い斑点や模様があります。この模様は成長するにつれて薄くなり、成体の雌ではほとんど見えなくなることがあります。

    南米の河川、湖沼、雨季に水没する森林などに生息し、日光浴や産卵を除けば、水中で過ごす時間の長い淡水ガメです。

    ニュースの要約

    今回誕生した子ガメは、本来のモンキヨコクビガメに見られる濃い灰色や緑褐色の色素が少なく、甲羅と皮膚が白色から淡い黄色に見えます。

    報道では、色素の減少によるアルビノ個体とされており、自然環境では非常に珍しい記録として紹介されています。

    アルビノのカメは、その白い体によって周囲の環境から目立ちやすくなります。

    暗い水や泥、落ち葉の中では、通常の体色が身を隠す役割を果たします。しかし、白く淡い体では捕食者に発見されやすくなる可能性があります。

    そのため、珍しく美しい個体である一方、野生で生き残るうえでは、不利な特徴になることも考えられます。

    マヌリピ保護区で続くカメの保護

    マヌリピ保護区では、モンキヨコクビガメの卵や成体が食用・販売目的で採取されることを防ぐため、産卵地の監視や巣の保護が行われています。

    保護活動には、保護区職員だけでなく、大学、地域行政、保全団体なども参加しています。

    2026年4月には、保護活動によって育てられた2,500匹以上のモンキヨコクビガメが、マヌリピ川へ放されました。

    この活動では、前年から個体数調査、卵の管理、地域住民による巣の監視などが続けられていました。

    今回の白い子ガメも、そうした継続的な監視の中で確認された一匹です。

    ただ珍しいカメが偶然見つかったのではなく、川辺を歩き、巣を守り、孵化した子ガメを確認する人たちがいたからこそ、記録として残されたのだと思います。

    珍しい個体をどう見るか

    アルビノのカメは、とても目立ちます。

    通常とは違う体色を持つため、写真を見た人の記憶にも強く残ります。

    しかし、この子ガメが生きていくうえで本当に必要なのは、珍しさを称賛されることではありません。

    隠れられる水辺があること。
    食べ物があること。
    捕獲されないこと。
    そして、成長できる川が残されていること。

    珍しい個体だから特別に命が重いのではなく、普通の体色で生まれた何千匹もの子ガメと同じように、この一匹にも生きる時間があります。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、アマゾンの濁った川の中に、僕たちがまだ知らない個体が生まれていることです。

    同じ種類のカメでも、すべてが同じ姿で生まれるわけではありません。

    甲羅の形や模様、体の大きさ、色。

    一匹ずつに違いがあり、ときには今回のように、見た瞬間に誰もが驚くような個体も現れます。

    その違いは、人間に見せるために生まれたものではありません。

    白いカメも、普通の色のカメも、ただモンキヨコクビガメとして川へ向かおうとしている。

    その姿を記録し、川と一緒に守っていくことが大切なのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    モンキヨコクビガメってでかくなるしかっこいいよね〜🐢

    出典

    Agencia Boliviana de Información
    「Una pequeña peta de río albina nace en Manuripi y vuelve a maravillar a la amazonia boliviana」

    Servicio Nacional de Áreas Protegidas
    「El SERNAP libera más de 2.500 tortugas de agua dulce en la Reserva Manuripi para fortalecer la biodiversidad amazónica」

    IRFA Bolivia
    「Reserva Manuripi pone en marcha programa para conservación y repoblamiento de la peta de río」

    鳥羽水族館・生きもの図鑑
    「モンキヨコクビガメ」

  • 【世界の亀ニュース】バージニア州でオサガメが初産卵 世界最大のウミガメが軍施設の海岸へ

    【世界の亀ニュース】バージニア州でオサガメが初産卵 世界最大のウミガメが軍施設の海岸へ

    今回は、アメリカ・バージニア州で初めて確認された、オサガメの歴史的な営巣に関するニュースを紹介します。

    今回のニュース

    アメリカ・バージニア州の海岸で、オサガメの巣が記録上初めて確認されました

    巣が見つかったのは、バージニアビーチにあるアメリカ海軍航空基地オシアナの施設、ダムネック・アネックスの海岸です。

    海岸に残された大きな足跡を自然資源管理チームが確認し、調査した結果、オサガメが卵を産んだ巣であることが判明しました。

    発見後、巣の周囲には柵が設置され、卵が安全に孵化できるよう保護と監視が始まっています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:アメリカ合衆国、バージニア州バージニアビーチ
    発見場所:海軍航空基地オシアナ・ダムネック・アネックス
    元記事の言語:英語
    公開時期:2026年7月23日
    情報の種類:新着ニュース・ウミガメ・産卵・繁殖・保護活動

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、オサガメです。

    学名は Dermochelys coriacea。英語ではLeatherback Turtleと呼ばれます。

    オサガメは、現生するカメの中で最大の種類です。一般的なウミガメのような硬い鱗板のある甲羅を持たず、背中は厚く弾力のある皮膚で覆われています。

    背中には前後へ伸びる7本の隆起があり、大きな前肢を使って外洋を長距離移動します。個体によっては、産卵地と餌場の間を年間1万マイル以上移動することもあります。

    ニュースの要約

    今回確認された巣は、バージニア州で記録された最初のオサガメの営巣です。

    バージニア州では、オサガメが海を泳ぐ姿は以前から確認されていました。しかし、2025年にまとめられた州のウミガメ保全計画には、それまで州内でオサガメの営巣は一度も記録されていないと明記されていました。

    オサガメは主に、フロリダ州、カリブ海地域などの熱帯・亜熱帯の砂浜で産卵します。

    それより北に位置するバージニア州で巣が確認されたことは、州のウミガメ観測史に残る出来事です。

    巣が見つかったダムネック・アネックスには、約3.2マイルにわたる大西洋沿岸の海岸があります。

    軍事施設であるため一般の人が自由に立ち入れる場所ではなく、観光客の往来や夜間照明などの影響を受けにくい環境です。今回の巣も、発見後すぐに周囲を囲って保護されました。

    軍事施設の海岸で始まった保護

    今回の保護活動には、海軍航空基地オシアナの自然資源管理チームだけでなく、バージニア水族館、バージニア州野生生物資源局、バックベイ国立野生生物保護区などが協力しています。族館、バージニア州野生生[object Object],[object Object],[object Object][object Object],[object Object],[object Object]の発見以前から海岸環境を守る活動が行われていました。

    2026年4月には、海岸の清掃と砂丘の修復作業が実施され、592本の使用済みクリスマスツリーが約1,097フィートにわたって配置されました。木によって砂を受け止め。

    作業では、産卵するウミガメの通り道を妨げないよう、木の配置にも注意が払われていました。citeturn897331search17

    その数か月後、同じ海岸にオサガメが現れた。

    今回の営巣が砂丘修復の直接的な成果だったと断定することはできません。

    それでも、人間が海岸を守ろうとしてきた場所に、世界最大のウミガメが卵を残したという事実には、大きな意味があるように感じます。

    卵が孵化するまで

    オサガメの雌は夜の砂浜へ上がり、体全体が入るほどの大きなくぼみと、深い産卵穴を掘って卵を産みます。

    一度に産む卵はおよそ100個で、通常はから12日ほどの間隔を空けて複数回産卵することがあります。citeturn490649search0turn490649search1

    ただし、卵が無事に産み落とされたからといって、必ず孵化できるわけではありません。

    高潮や嵐による浸水、砂浜の温度、捕食者、人間の光や活動など、孵化までには多くの危険があります。

    今回の巣が無事に孵化し、バージニア州で初めてのオサガメの子どもたちが大西洋へ向かえるかどうか、関係者による監視が続きます。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、オサガメが、それまで産卵記録のなかった場所へ現れたことです。

    一匹の雌が、暗い海からバージニア州の砂浜へ上がった。

    砂を掘り、卵を産み、また大西洋へ帰っていった。

    その行動によって、バージニア州のウミガメの記録が書き換えられました。

    なぜ今回、この海岸が選ばれたのか。

    母ガメがさらに北へ移動するようになったのか。
    海や砂浜の環境に変化があったのか。
    それとも、これまでも人間が見つけられなかっただけなのか。

    一つの巣だけでは、理由を決めることはできません。

    それでも、これまで存在しなかった記録が生まれたということは、海の中で何かが動いていることを感じさせます。

    湯川亀吉の一言

    オサガメ見たことないんです。

    見てみたいな〜♡

    出典

    FOX Weather
    「World’s largest ss in Virginia for first time in recorded history」citeturn755526view0

    WTKR News 3
    「Leatherback sea turtle lay Dam Neck Annex — the first recorded in Virginia」citeturn755526view2

    Virginia Departmees
    「Virginia Sea Turtle Conservation 26view4

    NOAA Fisheries
    「Leatherback Turtle」citeturn490649search0