【世界の亀ニュース】絶滅寸前のビルマオオセタカガメ 20匹のオスを川へ戻したら、孤独だった雌から14匹が誕生

今回は、ミャンマーの大河川に生息する希少な淡水ガメ「ビルマオオセタカガメ」の保全活動を紹介します。

かつては、

絶滅したのではないか

とまで考えられていたカメです。

しかし、生き残ったわずかな個体を見つけ、卵を守り、子ガメを育て、川へ戻す活動が始まりました。

そして2018年。

保全施設で育った若いオス20匹が、チンドウィン川へ放されます。

その約1年半後。

長年、無精卵しか産めなかった一匹の野生の雌が19個の卵を産み、

14匹が孵化しました。

人間が川へ戻したオスが、

野生に残っていた雌を見つけた可能性が高いと考えられています。

今回のニュース

2020年5月22日、Wildlife Conservation Society(WCS)とTurtle Survival Alliance(TSA)は、ミャンマー北部を流れるチンドウィン川で、ビルマオオセタカガメの繁殖に大きな進展があったと発表しました。

そこには一匹の野生の雌がいました。

しかし、その雌は長い間、繁殖相手となる雄と出会えていなかったと考えられています。

過去に産んだ卵は孵化しませんでした。

ところが2020年。

19個の卵を産み、

そのうち14個が孵化しました。

研究者たちが考えたのは、

2018年に放流した若い雄たちです。

そのときチンドウィン川へ戻されたのは、

20匹の飼育下育ちの雄。

そのうち少なくとも一匹が野生の雌と出会い、交尾したと考えられました。

どこの国・地域の話か

国:ミャンマー
主な河川:チンドウィン川
対象種:ビルマオオセタカガメ
学名:Batagur trivittata
英名:Burmese Roofed Turtle
情報の種類:淡水ガメ・絶滅危惧種・繁殖・ヘッドスタート・野生復帰

ビルマオオセタカガメはミャンマー固有の大型淡水ガメで、かつてはエーヤワディー川、チンドウィン川、シッタン川、サルウィン川などの大きな河川に広く分布していました。

日本の経済産業省が公開しているワシントン条約対象種の資料でも、Batagur trivittataには**「ビルマオオセタカガメ」**という和名が使われています。

登場する亀

ビルマオオセタカガメは、イシガメ科バタグールガメ属の淡水ガメです。

大きな川とその支流を主な生息環境とし、河川沿いの砂州を産卵場所として利用します。

そして、このカメにはとても面白い特徴があります。

成熟した雄の外見が繁殖期に大きく変わることで知られるカメです。

名前の「trivittata」も、ラテン語で「3本の帯を持つ」といった意味に由来すると考えられています。

一度は「絶滅した」と思われた

ビルマオオセタカガメは、昔から珍しいカメだったわけではありません。

かつてはミャンマーの大河川で普通に見られたとされています。

しかし、

卵の大量採取。

成体の捕獲。

漁網への混獲。

産卵砂州の消失。

金採掘。

河川環境の改変。

こうしたものが重なり、個体数が急激に減少しました。

1970年代にはすでに、

「絶滅したのではないか」

と考えられるようになります。

2001年、「甲羅」が見つかった

転機は2001年でした。

WCSの調査チームがミャンマーで別の希少なカメを探していたとき、

ある村で、

最近殺されたと思われるビルマオオセタカガメの甲羅

を発見しました。

生きた個体ではありません。

でも、

「最近まで生きていたカメの甲羅」がある。

つまり、

絶滅していない可能性があります。

そこから調査が進みました。

寺院の池に、生き残りがいた

その後、

マンダレーの寺院の池で、

生きたビルマオオセタカガメが発見されます。

さらにチンドウィン川上流では、

わずかながら野生で繁殖を続けている個体群も見つかりました。

絶滅していなかった。

でも、

安心できる数ではありません。

WCSが2020年に発表した時点でも、野生に残る繁殖可能な雌は5匹未満とされていました。

TSAの現在の種情報では、野生個体群は99%以上減少し、確認される野生の成体雌はさらに少数とされています。

まず卵を守る

そこで始まったのが、

チンドウィン川の産卵地を直接守る活動です。

毎年2月から3月。

残された雌が砂州へ上がり、

卵を産みます。

保全チームはその卵を探します。

そして、

人や動物に掘り返される前に保護します。

保護された卵は、チンドウィン川沿いの村に設けられた安全な場所で孵化まで管理されます。

5月から6月。

子ガメが生まれます。

でも、

すぐには川へ戻しません。

5〜6年間育ててから川へ戻す

孵化したばかりの子ガメは小さい。

捕食されやすい。

漁具にも弱い。

そこで、

5〜6年間、人間の管理下で育てます。

ある程度大きくなり、野外で生存できる可能性が高くなってから川へ戻します。

いわゆる、

ヘッドスタート

です。

卵を守る。

孵化させる。

数年間育てる。

そして、

元の川へ返す。

この循環を何年も続けました。

飼育個体群は1,000匹近くまで増えた

保全活動は野生の卵だけではありません。

マンダレーのYadanabon Zooをはじめ、複数の場所に保全繁殖個体群=assurance colonyが作られました。

もし野生個体群が完全に消えても、

種そのものが失われないようにするためです。

そして繁殖に成功します。

2020年には、WCSは飼育下個体群が1,000匹近くまで増えたと報告しました。

数十年前には、

絶滅したと思われていたカメです。

それが、

人間の管理下とはいえ、

1,000匹近くまで増えました。

でも、飼育下で1,000匹いても十分ではない

ここは、

これまで紹介してきた亀たちにも共通します。

飼育下で増えた。

だから成功。

ではありません。

このカメは、

川のカメです。

大きな川を泳ぐ。

砂州へ上がる。

卵を産む。

流れの中で餌を探す。

そういう生活をして初めて、

ビルマオオセタカガメという種が野生に存在していることになります。

だから、

増やしたカメをもう一度川へ戻さなければなりません。

2018年、若い雄20匹を放す

そこで2018年。

保全施設で育てた若い雄20匹が、チンドウィン川へ放されました。

この放流には、

特別な意味がありました。

川には雌が残っている。

でも、

雄がほとんどいない。

雌は毎年卵を産んでも、

受精しない。

だったら、

雄を戻す。

とても単純に聞こえます。

でも、

野生復帰というのは、

「カメの数を増やす」ことだけではない。

野生に足りなくなった繁殖相手を戻す

ことでもあります。

そして一匹の雌が19個の卵を産んだ

2020年。

チンドウィン川上流にいた一匹の雌が、

19個の卵を産みます。

そして、

14匹が孵化しました。

それまで、

その雌が産んだ卵は受精していませんでした。

しかし、

雄を川へ戻したあと、

初めて子ガメが生まれた。

もちろん、

どの雄が父親なのかは、

このニュースだけでは分かりません。

それでもWCSとTSAは、

2018年に放した雄との交尾によって受精した可能性が高いと考えました。

14匹という数字以上の意味

14匹。

飼育施設なら、

もっとたくさん生まれているかもしれません。

でも、

この14匹は意味が違います。

母親は、

野生で生き残った雌。

父親はおそらく、

人間が育てて野生へ返した雄。

そこで生まれた子どもです。

つまり、

飼育下個体群と野生個体群が、

もう一度つながった。

保全施設が、

単なる避難場所ではなく、

野生を補強するための場所として機能した瞬間

だと思います。

さらに60匹が川へ戻った

その後も再導入は続きました。

Turtle Survival Allianceは、ヘッドスタートされた60匹のビルマオオセタカガメをミャンマー西部の2つの河川へ再導入した取り組みを報告しています。

一度、

ほとんどカメがいなくなった川。

そこへ、

少しずつ戻す。

20匹。

60匹。

また次の世代。

一度に昔の状態へ戻すことはできません。

川には、まだ危険がある

しかし、

放流すれば終わりではありません。

川には今も、

漁網があります。

産卵砂州の消失があります。

人による卵の採取があります。

河川環境の変化があります。

飼育下で100匹増やしても、

川で100匹失われれば、

個体群は復活しません。

だから、

カメを育てることと、

カメが戻れる川を残すこと。

この二つを同時に進める必要があります。

卵を集めることが、永遠に続いてはいけない

現在の保全方法では、

野生の雌が産んだ卵を人間が保護し、

子ガメを育てています。

これは今、

非常に重要な方法です。

でも、

最終的な理想は、

人間が毎年卵を拾わなくてもいい状態でしょう。

雌が自分で砂州を選ぶ。

卵を産む。

孵化する。

子ガメが川へ入る。

成長する。

そして、

また繁殖する。

その循環が、

人間の手を借りずに続くこと。

そこまで戻れば、

本当の意味で野生個体群が復活したと言えるのだと思います。

亀好きとして注目したいポイント

今回の話で僕が一番好きなのは、

「雄を放したら、雌の卵から子ガメが生まれた」

というところです。

保全活動というと、

とにかく数を増やすことを想像します。

100匹育てる。

200匹放す。

1,000匹まで増やす。

もちろん、それも大事です。

でも、

野生に残っていた一匹の雌に必要だったのは、

100匹のカメではなかったのかもしれない。

たった一匹の雄だったかもしれない。

ずっと同じ川で生きていた。

毎年卵を産んだ。

でも、

相手がいなかった。

そこへ、

人間が育てた雄が泳いでくる。

どこかで出会う。

そして、

次の年。

卵から子ガメが出てくる。

保全って、

「たくさん増やす」だけじゃないんだね。

途切れてしまった生き物同士のつながりを、

もう一度つなぐ仕事でもあるんだと思います。

湯川亀吉の一言

バタグール飼ってみたいね〜

出典

Wildlife Conservation Society(WCS)
「Isolated Female Burmese Roofed Turtle Surprises Conservationists by Laying Fertile Eggs」
2020年5月22日。野生の雌が19個の卵を産み、14匹が孵化したこと、2018年に雄20匹を放流したことについて。

Wildlife Conservation Society Myanmar Program
「Burmese Roofed Turtle Conservation」
過去の分布、減少、再発見、チンドウィン川での卵保護・ヘッドスタートなどについて。

Wildlife Conservation Society(WCS)
「The Turtle that Almost Went Extinct, Now Ready for Its Close-up」
2020年8月25日。飼育下個体群が約1,000匹まで増加したことなどについて。

Turtle Survival Alliance(TSA)
「Burmese Roofed Turtle」
現在の保全状況、脅威、ヘッドスタート・個体群補強について。

Turtle Survival Alliance(TSA)
「Burmese Roofed Turtles Return to the Wild」
ヘッドスタートされた60匹の野生復帰について。