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  • 【世界の亀ニュース】8,000万年の系統を絶やすな ベリーズがメキシコカワガメ「ヒカティー」を救う58項目の国家計画を承認

    【世界の亀ニュース】8,000万年の系統を絶やすな ベリーズがメキシコカワガメ「ヒカティー」を救う58項目の国家計画を承認

    今回は、中米ベリーズから、

    一匹のカメを守るために、

    国全体でこれから何をするのかを決めたニュースを紹介します。

    主役は、

    メキシコカワガメ。

    学名は、

    Dermatemys mawii

    英語では、

    Central American River Turtle

    そしてベリーズでは、

    Hicatee(ヒカティー)

    という名前で親しまれています。

    2026年8月。

    ベリーズ水産局は、このヒカティーを絶滅から守るための

    Central American River Turtle (Hicatee) Conservation Action Plan 2026

    を正式に承認しました。

    そこに並んでいる具体的な行動は、

    58項目。

    密猟対策。

    法律。

    教育。

    飼育下繁殖。

    野生復帰。

    研究。

    生息地保全。

    それらを一つの計画にまとめ、

    これから実際に動かしていきます。

    今回のニュース

    Turtle Survival Alliance(TSA)が2026年8月31日に発表したところによると、ベリーズのMinistry of Blue Economy & Marine Conservation傘下のFisheries Departmentが、ヒカティーの新しい保全行動計画を承認しました。

    計画作りを中心となって進めたのは、

    Belize Foundation for Research and Environmental Education(BFREE)

    そこへ、

    Belize Fisheries Department。

    Turtle Survival Alliance。

    Zoo New England。

    研究者。

    大学。

    保全団体。

    行政。

    そして、

    実際にヒカティーを捕ってきた伝統的な漁業地域の人々

    まで参加しました。

    計画づくりそのものは2020年から始まり、オンライン・対面のワークショップや戦略会議を何年も重ねてきました。

    そして2026年8月24日。

    ベリーズのNational Climate Weekで正式に発表。

    ようやく、

    「ヒカティーを守りたい」

    という段階から、

    「誰が、何を、どう進めるのか」

    という実行段階へ移ります。

    どこの国・地域の話か

    国:ベリーズ
    地域:中米
    対象種:メキシコカワガメ
    現地名:Hicatee
    学名:Dermatemys mawii
    英名:Central American River Turtle
    発表:2026年8月24日
    TSA発表:2026年8月31日
    情報の種類:淡水ガメ・国家保全計画・飼育下繁殖・野生復帰・密猟対策・生息地保全

    メキシコカワガメは、

    ベリーズだけのカメではありません。

    現在の自然分布は、

    ベリーズ。

    グアテマラ。

    メキシコ南部。

    この3地域に限られています。

    登場する亀

    今回の主役、

    Dermatemys mawii

    日本ではメキシコカワガメという名前が使われています。

    そして、このカメには、

    とても大きな特徴があります。

    ものすごく水棲傾向が強い。

    川。

    湖。

    三日月湖。

    冠水林。

    そうした淡水環境の中で生活します。

    さらに、

    大型の淡水ガメでありながら、

    ほぼ完全な植物食。

    水中や川沿いの植物を利用します。

    見た目もかなり独特です。

    甲羅は一般的なカメのようにゴツゴツと高く盛り上がらず、

    比較的滑らか。

    頭は丸みがあり、

    鼻先は少し突き出しています。

    完全に、

    「川を泳ぐためのカメ」

    という感じです。

    この一匹しか残っていない「科」

    ここが、

    僕が今回一番驚いたところです。

    メキシコカワガメが所属するのは、

    Dermatemydidae。

    現在、

    この科に生きている種類は、

    Dermatemys mawiiだけ。

    一種類です。

    WCS Belizeによると、

    その最も近い親戚たちは、

    現在では化石でしか知られていません。

    さらに、

    この系統は他の現生カメ類から、

    およそ8,000万年前に分岐したとされています。

    8,000万年前。

    恐竜がいた時代です。

    つまり、

    メキシコカワガメが絶滅するということは、

    一種類がいなくなるだけではありません。

    8,000万年以上続いてきた一本の系統そのものが、現代で途切れる

    ということになります。

    でも、人間が食べてきたカメでもある

    そして、

    このカメの保全を難しくしている理由があります。

    ヒカティーは、

    ベリーズの人々にとって、

    単なる珍しい野生動物ではありません。

    長い間、

    食文化とも結びついてきたカメです。

    そのため、

    捕獲されてきました。

    そして、

    捕獲量が個体群の回復能力を上回るようになった。

    TSAやBFREEは、

    現在の大きな減少原因として、

    食用目的の過剰捕獲

    を挙げています。

    だから今回の計画も、

    単純に、

    「捕るな」

    だけではありません。

    文化。

    地域住民。

    法律。

    教育。

    研究。

    野生個体群。

    全部を一緒に考えています。

    現在も細かい捕獲規制がある

    ベリーズでは現在、

    ヒカティーの売買は禁止されています。

    さらに、

    所持できる数。

    車両で運べる数。

    雌の捕獲に関するサイズ制限。

    5月1日から31日までの禁漁期。

    などの規制があります。

    ここからも、

    このカメと人間との関係の複雑さが分かります。

    完全に、

    人間から切り離された野生動物ではない。

    でも、

    今までと同じように捕り続ければ、

    いなくなる。

    だから、

    「利用」と「存続」をどう両立させるのか

    まで考えなければなりません。

    58の行動

    今回決められた計画には、

    58の具体的な行動が設定されています。

    大きく分けると、

    法執行。

    法律・規制。

    地域教育。

    飼育個体群管理。

    野生復帰。

    研究。

    野生個体群そのものの保全。

    生息地の回復と保護。

    などです。

    つまり、

    「繁殖させればいい」

    ではありません。

    密猟を減らす。

    子どもたちへ伝える。

    川を残す。

    野生の数を調べる。

    飼育個体の血統を管理する。

    カメを戻す。

    そして、

    戻した場所を守る。

    全部必要です。

    2010年から続いてきた

    もちろん、

    2026年に突然始まった活動ではありません。

    BFREEとTSAが本格的にヒカティー保全へ協力し始めたのは、

    2010年。

    翌2011年には、

    Hicatee Conservation & Research Center

    が設立されました。

    そこで、

    飼育下繁殖。

    ヘッドスタート。

    野生個体群調査。

    生態研究。

    教育。

    再導入。

    さまざまな活動が進められてきました。

    15年以上の実践を経て、

    今回、

    それらを国の正式なロードマップにまとめたわけです。

    1,000匹以上を野生へ

    そして、

    すでに結果も出始めています。

    TSAによると、

    これまでに、

    1,000匹以上のヘッドスタート個体が野生へ放されています。

    つまり、

    飼育施設で増やすだけではない。

    育てる。

    野生で生きられるサイズにする。

    そして、

    川へ戻す。

    すでにそこまで進んでいます。

    30,000エーカーを守った

    さらに2021年。

    TSA、BFREEなどの保全パートナーは、

    約30,000エーカー

    の土地の保全につなげました。

    その中には、

    重要なヒカティー生息地であるCox Lagoonも含まれます。

    Cox Lagoonは、

    Belize Riverとつながる重要な淡水環境です。

    1,000匹カメを育てる。

    でも、

    川がなくなったら意味がない。

    だから、

    カメだけでなく、

    カメが帰る場所そのものを確保する。

    ここでも、

    同じ考え方が出てきます。

    学校でも「ヒカティー」を伝える

    保全活動のもう一つの柱が、

    教育です。

    TSAによると、

    これまでにヒカティーを題材とした教育・普及活動へ、

    数千人のベリーズの子どもたち

    が参加しています。

    学校では、

    ヒカティーをテーマにしたバナーなども作られてきました。

    これは、

    かなり重要だと思います。

    今、

    川にいる大人のカメを守る。

    でも、

    20年後に、

    そのカメを捕るか、

    守るかを決めるのは、

    今の子どもたちかもしれない。

    カメの寿命は、

    人間の政策より長い。

    だから、

    次の世代まで含めて保全する必要があります。

    「ベリーズが最後の希望」

    BFREEのJacob Marlin氏は、

    ヒカティーについて、

    ベリーズがこの種の長期的な存続にとって最後の希望だ

    という強い表現を使っています。

    もちろん、

    メキシコやグアテマラにも本種は残っています。

    でも、

    多くの地域ですでに個体群は大幅に減少し、

    場所によっては姿を消しました。

    だからこそ、

    比較的個体群が残っているベリーズで、

    今止められるかどうかが重要になります。

    「計画を作った」で終わらせない

    そして今回、

    一番大事なのはここです。

    58項目を決めた。

    立派な冊子を作った。

    政府が承認した。

    それだけでは、

    カメは一匹も増えません。

    BFREE自身も、

    保全団体だけではヒカティーを救えない

    と明言しています。

    最終的に、

    ヒカティーがベリーズで十分な数を維持できるかどうかを決めるのは、

    ベリーズの人々です。

    だから今回の発表は、

    完成ではありません。

    むしろ、

    スタートラインです。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番面白いと思うのは、

    やっぱり、

    「一種類を失うことと、一つの進化の枝を失うことは同じではない」

    というところです。

    ヒカティーが絶滅する。

    すると、

    Dermatemys mawiiがいなくなる。

    でも、

    それだけじゃない。

    Dermatemydidaeというグループから、

    生きている動物が、

    一匹もいなくなる。

    何千万年も続いた系統が、

    そこで終わる。

    恐竜が歩いていた頃から、

    祖先が形を変えながら、

    ずっと命をつないできた。

    気候が変わった。

    大陸が変わった。

    他の動物が絶滅した。

    それでも、

    この一本だけは、

    2026年まで来た。

    だったら、

    ここで終わらせたくない。

    今回の58項目は、

    その一本の線を、

    未来へもう少し伸ばすための計画なんだと思います。

    湯川亀吉の一言

    ベリーズって国があるということを知らなかった!

    出典

    Belize Fisheries Department
    「Central American River Turtle (Hicatee) Conservation Action Plan 2026」
    ベリーズ政府が正式に公開している保全行動計画。58の戦略的行動と長期的な保全方針について。
    Belize Fisheries Departmentの公式資料ページを見る

    Turtle Survival Alliance
    「Belize Approves Conservation and Action Plan for Critically Endangered Hicatee」
    2026年8月31日。計画の承認、58項目、15年以上の保全活動、1,000匹以上の野生復帰、30,000エーカーの生息地保全について。
    TSAの記事を読む

    Belize Foundation for Research and Environmental Education(BFREE)
    「Hope for the Hicatee」
    2026年8月24日。計画作成の経緯、地域住民・研究者・行政などの参加、Climate Weekでの発表について。
    BFREEの記事を読む

    Wildlife Conservation Society Belize
    「Central American River Turtle」
    本種がDermatemydidae唯一の現生種であること、約8,000万年前に他の現生カメ類から分岐した非常に古い系統であること、分布・食性・脅威について。
    WCS Belizeの種紹介を見る

    IUCN/SSC Tortoise and Freshwater Turtle Specialist Group
    Dermatemys mawii – Central American River Turtle」
    分類、分布、生態、植物食、保全状況について。
    TFTSGの種アカウントを見る

  • 【世界の亀ニュース】かつて狩った森で守る側へ インドの若者たちがエミスムツアシガメを追跡

    【世界の亀ニュース】かつて狩った森で守る側へ インドの若者たちがエミスムツアシガメを追跡

    今回は、インド北東部のナガランド州で進められている、エミスムツアシガメの繁殖と野生復帰について紹介します。

    今回のニュース

    インド北東部のナガランド州では、絶滅の危機にあるエミスムツアシガメを地域の森へ戻し、住民自身がその後の暮らしを見守る保護活動が進められています。

    2025年8月には、ナガランド動物園で繁殖・育成された10匹が、ペレン県のゼリアン・コミュニティ保護区へ移されました。

    放されたカメを追跡しているのは、外部から派遣された研究者だけではありません。地域で暮らす若者たちが「Tortoise Guardian=リクガメの守り手」となり、森を歩いてカメの痕跡を探しています。活動の様子は2026年5月に海外メディアで紹介されました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:インド共和国、ナガランド州
    主な場所:ペレン県、ゼリアン・コミュニティ保護区
    繁殖施設:ナガランド動物園
    野生復帰:2025年8月
    記事公開:2026年5月
    情報の種類:リクガメ・飼育下繁殖・野生復帰・地域保全

    ナガランド州では、森林の多くが行政ではなく、村や部族などの地域社会によって所有・管理されています。そのため、リクガメを野生へ戻した後も守り続けるには、地域住民の協力が欠かせません。

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、エミスムツアシガメです。

    学名は Manouria emys。日本動物園水族館協会では「ムツアシガメ」という和名も使われています。

    今回ナガランド州で保護されているのは、主に北方の亜種 Manouria emys phayreiとみられ、ビルマムツアシガメと呼ばれることもあります。

    英語ではAsian Giant TortoiseやAsian Forest Tortoiseと呼ばれます。

    アジア大陸に生息する最大級のリクガメで、熱帯・亜熱帯の湿潤な常緑樹林を利用します。暗褐色から黒褐色の甲羅と、大きく頑丈な体が特徴です。

    ニュースの要約

    ナガランド動物園の繁殖計画は、13匹のエミスムツツアシガメから始まりました。

    内訳は雄6匹、雌7匹です。

    市場で食用として販売される前に保護された個体や、住民の家で飼育されていた個体が繁殖計画に加わりました。

    その後、地域住民が自宅で飼っていたカメを自発的に提供するようになり、13匹の親から合計114匹の子どもが誕生したと報告されています。

    これまでに100匹を超える個体が、ナガランド州内の地域管理型保護区へ移されました。

    単に森へ放すだけではなく、若者たちが森へ入り、食べられた植物、地面に残った足跡、休息した場所などを探しながら、放逐後の状態を確認しています。

    いきなり森へ放さない「ソフトリリース」

    2025年8月に移された10匹は、すぐに広い森へ解放されたわけではありません。

    まず保護区内に設置された囲いで一定期間を過ごし、気温、湿度、植物、地面など、現地の環境へ段階的に慣らされました。

    この方法は「ソフトリリース」と呼ばれます。

    飼育施設から突然野生へ移すのではなく、実際に暮らす森の中で新しい環境へ慣れる時間を作ります。

    エミスムツアシガメが暮らす森では、湿った土、落ち葉、低木、日陰などが重要です。

    野生復帰では、カメを放すことだけでなく、そのカメが隠れ、食べ、休める森を残す必要があります。

    「Tortoise Guardian」と呼ばれる若者たち

    地域で追跡を担当する若者たちは、「Tortoise Guardian」と書かれたシャツを着て、毎朝森へ入ります。

    カメそのものが見つからなくても、食べられた葉や、体の重みで沈んだ地面を確認することで、その個体がどこで活動していたのかを推測します。

    住民が一匹ずつに近い距離で関わることで、放されたカメは、単なる行政上の個体番号ではなくなります。

    今日は姿を確認できたのか。

    餌を食べているのか。

    森の奥へ移動したのか。

    放した後の生活まで地域の人が気にかけることが、この計画の大きな特徴です。

    かつて捕獲していた地域が、保護の中心になった

    エミスムツアシガメは、肉を目的とした捕獲、ペット取引、生息地の破壊などによって減少してきました。

    Turtle Survival Allianceによると、野生個体群は減少を続け、過去の個体数から80%以上減ったと推定されています。

    ナガランド州でも、かつては森で見つけたカメを食用として捕獲することがありました。

    しかし、保護活動が始まると、一部の住民は飼っていたカメを繁殖計画へ提供し、若者たちは野生復帰個体を守る活動へ参加するようになりました。

    かつてカメを利用していた地域社会を、保護活動から排除するのではありません。

    その土地とカメを最もよく知る人たちが、今度は保護の中心へ入っています。

    落ち葉の山を作って産卵するリクガメ

    エミスムツアシガメには、ほかの多くのリクガメとは異なる産卵方法があります。

    雌は地面へ卵を埋めるだけではなく、落ち葉や植物を集めて大きな塚を作り、その中へ卵を産みます。

    報道では、落ち葉の塚が高さ約60センチから2メートル以上になることもあると紹介されています。

    雌は前肢と後肢を使って植物を集め、塚を整えます。

    森の落ち葉が積もり、湿度と温度が保たれる環境そのものが、卵を育てる孵卵器の役割を果たします。

    このリクガメを守るには、成体だけでなく、落ち葉が積もる豊かな林床まで守らなければなりません。

    動物園と森をつなぐ繁殖計画

    ナガランド動物園は、地域に生息する絶滅危惧種の飼育下繁殖を担う施設です。

    繁殖施設で個体数を増やし、野生へ戻せる年齢まで育てたうえで、森林局や保全団体、地域住民と協力して放逐しています。

    飼育下繁殖だけでは、野生個体群を回復させることはできません。

    一方、森だけを残しても、そこへ戻す個体がいなければ、失われた個体群は戻りません。

    動物園で命をつなぐこと。

    野生で暮らせる森を残すこと。

    放した後を地域の人が見守ること。

    三つの働きがつながることで、野生復帰が成立します。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、カメを見つけることより、カメが見えない日にも森へ入ることです。

    リクガメは毎日、人間の前へ姿を現すわけではありません。

    落ち葉の下で休んでいるかもしれない。

    低木の奥で餌を食べているかもしれない。

    雨を避けて、動かずにいるかもしれない。

    保護活動では、カメが見つかった瞬間の写真が注目されます。

    でも、その一匹が野生で生き続けるためには、何も見つからない日も森を歩く人が必要です。

    食べられた葉を見る。

    地面のへこみを見る。

    今日もどこかで生きている可能性を探す。

    地域の若者たちは、カメを飼育しているのではありません。

    カメが人間の手を離れて生きていることを、静かに確認しているのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    エミスムツアシガメかっこいいよね!!

    出典

    Good News Network
    「Passionate ‘Tortoise Guardians’ Help Critically-Endangered Giant Tortoise Slowly Return to India」

    Turtle Survival Alliance
    「Asian Giant Tortoise」

    Nagaland Department of Forest
    「Nagaland Zoological Park」

    Responsible Herpetoculture Foundation
    「Largest Asian Tortoise Species Reintroduced Into Nagaland Reserve」

  • 【世界の亀ニュース】メキシコで野生ガメ2,000匹超を押収 世界最小のバジャルタドロガメも密輸被害に

    【世界の亀ニュース】メキシコで野生ガメ2,000匹超を押収 世界最小のバジャルタドロガメも密輸被害に

    今回は、メキシコで発覚した大規模なカメの違法取引と、その中に含まれていた絶滅寸前の小さな淡水ガメについて紹介します。

    今回のニュース

    2025年9月、メキシコ・ハリスコ州で行われた摘発によって、野生から捕獲された2,000匹を超える淡水ガメが押収されました。

    カメたちは、ナマコやフカヒレなど、ほかの野生生物由来の品とともに隠されていました。

    押収されたカメには、メキシコ原産のドロガメ類6種とハコガメ類1種が含まれ、その中には、絶滅の危機が極めて高い**バジャルタドロガメ(Kinosternon vogti)**も数十匹含まれていました。

    しかし、すべてのカメが無事だったわけではありません。

    密輸の過程で劣悪な環境に置かれていたため、押収後までに数百匹が死亡したとTurtle Survival Allianceは報告しています。生き残った個体はグアダラハラ動物園へ運ばれ、治療、検疫、感染症検査などを受けました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:メキシコ
    主な場所:ハリスコ州、グアダラハラ
    摘発:2025年9月
    Turtle Survival Alliance発表:2025年10月10日
    情報の種類:淡水ガメ・密輸・違法取引・絶滅危惧種・救護・保護活動

    メキシコ当局のPROFEPAとSEMARNATは9月26日、大規模な摘発後にグアダラハラ動物園へカメの緊急収容を要請しました。その後、獣医師や飼育スタッフが大量の個体を一匹ずつ確認し、隔離と治療を開始しています。

    登場する亀

    今回とくに注目したいのが、バジャルタドロガメです。

    学名は Kinosternon vogti

    日本の公的資料では「キノステルノン・ヴォグティ」と表記され、関連する登録資料では「フォークトドロガメ、バジャルタドロガメ」という名称も確認できます。この記事では、国内の爬虫類愛好家の間でも使われている「バジャルタドロガメ」で統一します。

    このカメが新種として記載されたのは、わずか2018年です。

    そして現在、世界で知られているカメの中でも最小の種とされています。

    雄の平均甲長は約7.6センチ、雌は約7.8センチ。大きな個体でも、雄は9センチ、雌は10センチを超えることがほとんどありません。

    世界最小のカメが暮らす場所

    バジャルタドロガメは、メキシコ西部のハリスコ州とナヤリット州にまたがるバンデラス湾周辺だけに分布する固有種です。

    歴史的な分布域は約263平方キロと推定されていますが、現在実際に利用できる生息域は非常に小さく、推定占有面積は0.3平方キロ未満とされています。

    池、湿地、流れの緩やかな小川などで暮らし、乾季には土中へ潜って数か月間休眠することがあります。

    繁殖は雨季に行われ、雌は一度に1〜5個ほどの卵を産みます。孵化した子ガメの甲長は、わずか19〜23ミリほどです。

    成体ですら手のひらに収まるほど小さい。

    その小さなカメが、生きられる湿地そのものも、非常に小さな範囲しか残っていません。

    2,000匹以上が一度に押収された

    今回の事件では、バジャルタドロガメだけが狙われていたわけではありません。

    押収されたのは、6種類のドロガメと1種類のハコガメを含む2,000匹以上のカメでした。

    これらは野生から捕獲されたとされ、国際市場を対象とした組織的な野生生物取引ネットワークの一部だったと報告されています。メキシコ当局は関係が疑われる3人を起訴しました。

    野生生物やその加工品は、グアダラハラを拠点とする企業を通じて、アメリカ、中国、その他のアジア市場などへ送られることが疑われています。

    一匹の珍しいカメが密かに持ち出された事件ではありません。

    何千匹という単位で野生動物を集め、商品として移動させる仕組みが存在していた可能性があります。

    数百匹は救出まで生き残れなかった

    カメは、見た目以上に過酷な環境へ耐えることがあります。

    長期間餌を食べなくても生きる種類もいる。

    狭い場所で動かず耐えることもできる。

    しかし、その性質は密輸業者にとって「運びやすい動物」として利用されることがあります。

    今回の押収個体も、多数のカメが密集した状態で扱われていたとみられ、数百匹がすでに死亡していました。残った個体の中にも、弱ったカメや病気の疑いがあるカメが確認されています。

    救出したカメを、すぐ野生へ戻せない理由

    違法取引から救出された野生動物を見ると、

    「元いた場所へ放せばいい」

    と思うかもしれません。

    しかし、2,000匹を超えるカメが複数種混ざった状態で運ばれていた場合、それほど簡単ではありません。

    どの個体がどこから捕獲されたのか。

    感染症を持っていないか。

    異なる地域個体群が混ざっていないか。

    長期間の輸送によって健康状態が悪化していないか。

    一つずつ確認する必要があります。

    今回もグアダラハラ動物園では、感染症の拡大を防ぐため、種類や状態に応じた隔離と検査が行われました。とくにカメ類で重大な問題となるラナウイルスについて、慎重な検査が必要だとされています。

    バジャルタドロガメは400匹未満とも

    Turtle Survival Allianceは、野生に残るバジャルタドロガメを400匹未満としています。

    一方、専門家による2025年の種解説では、実際に利用されている生息地が極めて小さいこと、野生個体群が都市開発、道路、違法採集などの圧力を強く受けていることが示されています。IUCNでは「Critically Endangered=深刻な危機」と評価されています。

    数千匹いる種類から数十匹が捕られるのと、

    野生に数百匹しかいない可能性のある種類から数十匹が消えるのとでは、意味が違います。

    密猟者が一度採集しただけでも、地域個体群へ大きな影響を与える可能性があります。

    2025年には保全施設からもカメが盗まれていた

    さらに深刻なのは、野生個体だけが狙われているわけではないことです。

    2025年1月には、プエルト・バジャルタでバジャルタドロガメの保全・繁殖を行っていた施設へ何者かが侵入し、飼育されていた個体が盗まれる事件も発生しました。

    その後、施設には電気柵、高性能の鍵、モーションセンサー、警報装置などが追加されています。

    絶滅から守るために集められたカメが、

    「珍しいから」

    という理由で再び狙われる。

    希少性そのものが、保全活動を難しくしています。

    それでも繁殖は始まっている

    バジャルタドロガメには希望もあります。

    2023年には、オーストリアのTurtle Islandで世界初となる飼育下繁殖に成功しました。

    さらにメキシコでは2024年、バジャルタドロガメを保護・繁殖するための専用保全施設が完成しています。

    グアダラハラ動物園でも繁殖技術の開発が進み、メキシコ国内で初めて飼育下孵化に成功しています。

    つまり、人間にはこの小さなカメを増やす技術が少しずつでき始めています。

    しかし、増やしたカメを帰す湿地が失われれば、飼育下繁殖だけでは問題は解決しません。

    生息地の99%以上が失われた可能性

    Turtle Islandによる現地保全プロジェクトでは、バンデラス湾周辺の都市化によって、バジャルタドロガメが利用してきた湿地環境の99%以上が失われたと報告されています。

    現在知られている生息地は、わずか数か所にまで減っています。

    プエルト・バジャルタ周辺は観光開発が盛んな地域です。

    ホテル。

    道路。

    住宅。

    商業施設。

    人間にとって便利な土地へ変わるほど、小さな湿地は地図から消えていきます。

    世界最小のカメが必要としている場所は、大きなジャングルではありません。

    人間から見れば、埋め立てても大きな変化には見えない、小さな水辺なのです。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番気になるのは、カメの「希少価値」が、そのカメを危険にしてしまうことです。

    新種だった。

    世界最小だった。

    分布域が狭かった。

    絶滅寸前だった。

    本来なら、これらは

    「だから守ろう」

    という理由になるはずです。

    でも、違法なペット市場では、

    「だから欲しい」

    という理由にもなってしまう。

    珍しくなればなるほど値段が上がり、値段が上がるほど野生から持ち出す人間が現れる。

    絶滅へ近づくほど商品価値が高くなるという、ものすごく危険な循環です。

    湯川亀吉の一言

    珍しいから欲しい・高価だから欲しい。

    そんな考えに取り憑かれていた時期が、俺にもありました。

    出典

    Turtle Survival Alliance
    「Over 2,000 Wild Turtles Seized in Mexico; Conservationists Race to Save Survivors」

    IUCN SSC Tortoise and Freshwater Turtle Specialist Group
    「Kinosternon vogti – Vallarta Mud Turtle」

    Turtle Island
    「The Vallarta Mud Turtle | Mexico」

    Mongabay
    メキシコの大規模なカメ密輸摘発に関する報道。

  • 【世界の亀ニュース】絶滅寸前のビルマオオセタカガメ 20匹のオスを川へ戻したら、孤独だった雌から14匹が誕生

    【世界の亀ニュース】絶滅寸前のビルマオオセタカガメ 20匹のオスを川へ戻したら、孤独だった雌から14匹が誕生

    今回は、ミャンマーの大河川に生息する希少な淡水ガメ「ビルマオオセタカガメ」の保全活動を紹介します。

    かつては、

    絶滅したのではないか

    とまで考えられていたカメです。

    しかし、生き残ったわずかな個体を見つけ、卵を守り、子ガメを育て、川へ戻す活動が始まりました。

    そして2018年。

    保全施設で育った若いオス20匹が、チンドウィン川へ放されます。

    その約1年半後。

    長年、無精卵しか産めなかった一匹の野生の雌が19個の卵を産み、

    14匹が孵化しました。

    人間が川へ戻したオスが、

    野生に残っていた雌を見つけた可能性が高いと考えられています。

    今回のニュース

    2020年5月22日、Wildlife Conservation Society(WCS)とTurtle Survival Alliance(TSA)は、ミャンマー北部を流れるチンドウィン川で、ビルマオオセタカガメの繁殖に大きな進展があったと発表しました。

    そこには一匹の野生の雌がいました。

    しかし、その雌は長い間、繁殖相手となる雄と出会えていなかったと考えられています。

    過去に産んだ卵は孵化しませんでした。

    ところが2020年。

    19個の卵を産み、

    そのうち14個が孵化しました。

    研究者たちが考えたのは、

    2018年に放流した若い雄たちです。

    そのときチンドウィン川へ戻されたのは、

    20匹の飼育下育ちの雄。

    そのうち少なくとも一匹が野生の雌と出会い、交尾したと考えられました。

    どこの国・地域の話か

    国:ミャンマー
    主な河川:チンドウィン川
    対象種:ビルマオオセタカガメ
    学名:Batagur trivittata
    英名:Burmese Roofed Turtle
    情報の種類:淡水ガメ・絶滅危惧種・繁殖・ヘッドスタート・野生復帰

    ビルマオオセタカガメはミャンマー固有の大型淡水ガメで、かつてはエーヤワディー川、チンドウィン川、シッタン川、サルウィン川などの大きな河川に広く分布していました。

    日本の経済産業省が公開しているワシントン条約対象種の資料でも、Batagur trivittataには**「ビルマオオセタカガメ」**という和名が使われています。

    登場する亀

    ビルマオオセタカガメは、イシガメ科バタグールガメ属の淡水ガメです。

    大きな川とその支流を主な生息環境とし、河川沿いの砂州を産卵場所として利用します。

    そして、このカメにはとても面白い特徴があります。

    成熟した雄の外見が繁殖期に大きく変わることで知られるカメです。

    名前の「trivittata」も、ラテン語で「3本の帯を持つ」といった意味に由来すると考えられています。

    一度は「絶滅した」と思われた

    ビルマオオセタカガメは、昔から珍しいカメだったわけではありません。

    かつてはミャンマーの大河川で普通に見られたとされています。

    しかし、

    卵の大量採取。

    成体の捕獲。

    漁網への混獲。

    産卵砂州の消失。

    金採掘。

    河川環境の改変。

    こうしたものが重なり、個体数が急激に減少しました。

    1970年代にはすでに、

    「絶滅したのではないか」

    と考えられるようになります。

    2001年、「甲羅」が見つかった

    転機は2001年でした。

    WCSの調査チームがミャンマーで別の希少なカメを探していたとき、

    ある村で、

    最近殺されたと思われるビルマオオセタカガメの甲羅

    を発見しました。

    生きた個体ではありません。

    でも、

    「最近まで生きていたカメの甲羅」がある。

    つまり、

    絶滅していない可能性があります。

    そこから調査が進みました。

    寺院の池に、生き残りがいた

    その後、

    マンダレーの寺院の池で、

    生きたビルマオオセタカガメが発見されます。

    さらにチンドウィン川上流では、

    わずかながら野生で繁殖を続けている個体群も見つかりました。

    絶滅していなかった。

    でも、

    安心できる数ではありません。

    WCSが2020年に発表した時点でも、野生に残る繁殖可能な雌は5匹未満とされていました。

    TSAの現在の種情報では、野生個体群は99%以上減少し、確認される野生の成体雌はさらに少数とされています。

    まず卵を守る

    そこで始まったのが、

    チンドウィン川の産卵地を直接守る活動です。

    毎年2月から3月。

    残された雌が砂州へ上がり、

    卵を産みます。

    保全チームはその卵を探します。

    そして、

    人や動物に掘り返される前に保護します。

    保護された卵は、チンドウィン川沿いの村に設けられた安全な場所で孵化まで管理されます。

    5月から6月。

    子ガメが生まれます。

    でも、

    すぐには川へ戻しません。

    5〜6年間育ててから川へ戻す

    孵化したばかりの子ガメは小さい。

    捕食されやすい。

    漁具にも弱い。

    そこで、

    5〜6年間、人間の管理下で育てます。

    ある程度大きくなり、野外で生存できる可能性が高くなってから川へ戻します。

    いわゆる、

    ヘッドスタート

    です。

    卵を守る。

    孵化させる。

    数年間育てる。

    そして、

    元の川へ返す。

    この循環を何年も続けました。

    飼育個体群は1,000匹近くまで増えた

    保全活動は野生の卵だけではありません。

    マンダレーのYadanabon Zooをはじめ、複数の場所に保全繁殖個体群=assurance colonyが作られました。

    もし野生個体群が完全に消えても、

    種そのものが失われないようにするためです。

    そして繁殖に成功します。

    2020年には、WCSは飼育下個体群が1,000匹近くまで増えたと報告しました。

    数十年前には、

    絶滅したと思われていたカメです。

    それが、

    人間の管理下とはいえ、

    1,000匹近くまで増えました。

    でも、飼育下で1,000匹いても十分ではない

    ここは、

    これまで紹介してきた亀たちにも共通します。

    飼育下で増えた。

    だから成功。

    ではありません。

    このカメは、

    川のカメです。

    大きな川を泳ぐ。

    砂州へ上がる。

    卵を産む。

    流れの中で餌を探す。

    そういう生活をして初めて、

    ビルマオオセタカガメという種が野生に存在していることになります。

    だから、

    増やしたカメをもう一度川へ戻さなければなりません。

    2018年、若い雄20匹を放す

    そこで2018年。

    保全施設で育てた若い雄20匹が、チンドウィン川へ放されました。

    この放流には、

    特別な意味がありました。

    川には雌が残っている。

    でも、

    雄がほとんどいない。

    雌は毎年卵を産んでも、

    受精しない。

    だったら、

    雄を戻す。

    とても単純に聞こえます。

    でも、

    野生復帰というのは、

    「カメの数を増やす」ことだけではない。

    野生に足りなくなった繁殖相手を戻す

    ことでもあります。

    そして一匹の雌が19個の卵を産んだ

    2020年。

    チンドウィン川上流にいた一匹の雌が、

    19個の卵を産みます。

    そして、

    14匹が孵化しました。

    それまで、

    その雌が産んだ卵は受精していませんでした。

    しかし、

    雄を川へ戻したあと、

    初めて子ガメが生まれた。

    もちろん、

    どの雄が父親なのかは、

    このニュースだけでは分かりません。

    それでもWCSとTSAは、

    2018年に放した雄との交尾によって受精した可能性が高いと考えました。

    14匹という数字以上の意味

    14匹。

    飼育施設なら、

    もっとたくさん生まれているかもしれません。

    でも、

    この14匹は意味が違います。

    母親は、

    野生で生き残った雌。

    父親はおそらく、

    人間が育てて野生へ返した雄。

    そこで生まれた子どもです。

    つまり、

    飼育下個体群と野生個体群が、

    もう一度つながった。

    保全施設が、

    単なる避難場所ではなく、

    野生を補強するための場所として機能した瞬間

    だと思います。

    さらに60匹が川へ戻った

    その後も再導入は続きました。

    Turtle Survival Allianceは、ヘッドスタートされた60匹のビルマオオセタカガメをミャンマー西部の2つの河川へ再導入した取り組みを報告しています。

    一度、

    ほとんどカメがいなくなった川。

    そこへ、

    少しずつ戻す。

    20匹。

    60匹。

    また次の世代。

    一度に昔の状態へ戻すことはできません。

    川には、まだ危険がある

    しかし、

    放流すれば終わりではありません。

    川には今も、

    漁網があります。

    産卵砂州の消失があります。

    人による卵の採取があります。

    河川環境の変化があります。

    飼育下で100匹増やしても、

    川で100匹失われれば、

    個体群は復活しません。

    だから、

    カメを育てることと、

    カメが戻れる川を残すこと。

    この二つを同時に進める必要があります。

    卵を集めることが、永遠に続いてはいけない

    現在の保全方法では、

    野生の雌が産んだ卵を人間が保護し、

    子ガメを育てています。

    これは今、

    非常に重要な方法です。

    でも、

    最終的な理想は、

    人間が毎年卵を拾わなくてもいい状態でしょう。

    雌が自分で砂州を選ぶ。

    卵を産む。

    孵化する。

    子ガメが川へ入る。

    成長する。

    そして、

    また繁殖する。

    その循環が、

    人間の手を借りずに続くこと。

    そこまで戻れば、

    本当の意味で野生個体群が復活したと言えるのだと思います。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回の話で僕が一番好きなのは、

    「雄を放したら、雌の卵から子ガメが生まれた」

    というところです。

    保全活動というと、

    とにかく数を増やすことを想像します。

    100匹育てる。

    200匹放す。

    1,000匹まで増やす。

    もちろん、それも大事です。

    でも、

    野生に残っていた一匹の雌に必要だったのは、

    100匹のカメではなかったのかもしれない。

    たった一匹の雄だったかもしれない。

    ずっと同じ川で生きていた。

    毎年卵を産んだ。

    でも、

    相手がいなかった。

    そこへ、

    人間が育てた雄が泳いでくる。

    どこかで出会う。

    そして、

    次の年。

    卵から子ガメが出てくる。

    保全って、

    「たくさん増やす」だけじゃないんだね。

    途切れてしまった生き物同士のつながりを、

    もう一度つなぐ仕事でもあるんだと思います。

    湯川亀吉の一言

    バタグール飼ってみたいね〜

    出典

    Wildlife Conservation Society(WCS)
    「Isolated Female Burmese Roofed Turtle Surprises Conservationists by Laying Fertile Eggs」
    2020年5月22日。野生の雌が19個の卵を産み、14匹が孵化したこと、2018年に雄20匹を放流したことについて。

    Wildlife Conservation Society Myanmar Program
    「Burmese Roofed Turtle Conservation」
    過去の分布、減少、再発見、チンドウィン川での卵保護・ヘッドスタートなどについて。

    Wildlife Conservation Society(WCS)
    「The Turtle that Almost Went Extinct, Now Ready for Its Close-up」
    2020年8月25日。飼育下個体群が約1,000匹まで増加したことなどについて。

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「Burmese Roofed Turtle」
    現在の保全状況、脅威、ヘッドスタート・個体群補強について。

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「Burmese Roofed Turtles Return to the Wild」
    ヘッドスタートされた60匹の野生復帰について。

  • 【世界の亀ニュース】一軒の家から10,976匹 密輸から救われたホウシャガメを、もう一度マダガスカルの森へ

    【世界の亀ニュース】一軒の家から10,976匹 密輸から救われたホウシャガメを、もう一度マダガスカルの森へ

    今回は、マダガスカルにしか生息しない美しいリクガメ、ホウシャガメをめぐる大規模な救護と野生復帰のニュースを紹介します。

    2018年4月。

    マダガスカル南西部のトゥリアラで、一軒の民家から発見されたホウシャガメは、

    10,976匹。

    数十匹でも、

    数百匹でもありません。

    一万匹を超えるカメが、一つの建物に集められていました。

    そこから始まったのは、

    カメを押収して終わる保護活動ではありませんでした。

    救護する。

    健康を取り戻す。

    何年も育てる。

    野生へ戻せる個体を選ぶ。

    帰る森を確保する。

    地域住民と一緒にその場所を守る。

    そして、

    もう一度、人間の手から離す。

    長い時間をかけた「密輸から野生復帰へ」の計画です。

    今回のニュース

    2018年4月10日、マダガスカル南西部の都市トゥリアラで、警察と環境当局が一軒の住宅を捜索しました。

    そこで確認されたのが、

    10,976匹のホウシャガメでした。

    発見されたカメの多くは若い個体で、十分な水や餌を得られない状態に置かれていました。

    Turtle Survival Alliance(TSA)を中心に、マダガスカル国内外の動物園、獣医師、飼育スタッフなどが救護に参加。

    生き残った個体は、トゥリアラから北へ約29km離れたIfatyの保護施設へ移され、健康確認や水分補給、治療、個体識別などが進められました。

    この事件は、

    TSAがそれまで経験した中でも最大規模のリクガメ救護の一つとなりました。

    どこの国・地域の話か

    国:マダガスカル
    最初の大量押収:トゥリアラ周辺
    発見日:2018年4月10日
    対象種:ホウシャガメ
    学名:Astrochelys radiata
    英名:Radiated Tortoise
    情報の種類:リクガメ・密輸・違法取引・救護・野生復帰・地域保全

    ホウシャガメは、マダガスカル南部から南西部にのみ自然分布する固有種です。

    乾燥した低木林、トゲの多いスパイニーフォレストなどに暮らしています。

    登場する亀

    今回の主役は、

    ホウシャガメ

    学名は、

    Astrochelys radiata

    英語ではRadiated Tortoiseと呼ばれます。

    京都市動物園でも「ホウシャガメ」という和名が使われており、最大甲長は約40cmと紹介されています。

    名前の由来は、

    甲羅です。

    黒っぽい甲板の中心から、

    黄色い線が外側へ向かって伸びる。

    まるで光が放射しているように見えます。

    Smithsonian’s National Zooは、この放射模様について、インドホシガメなど他の星模様を持つリクガメよりも細かく複雑であることを特徴として挙げています。

    世界で最も美しいカメの一つ

    ホウシャガメは、その甲羅の美しさから、

    「世界で最も美しいリクガメの一つ」

    として紹介されることがあります。

    美しい。

    珍しい。

    欲しい。

    その評価が、

    このカメを追い詰める理由にもなりました。

    野生個体は国際的なペット取引のために捕獲され、さらにマダガスカル国内では食用目的の捕獲も続いてきました。

    生息地そのものも、農地化や炭づくりなどによって失われています。

    昔は「触ってはいけないカメ」だった

    マダガスカル南部の一部地域には、

    ホウシャガメを傷つけたり食べたりすることを禁じる伝統的な**「fady(ファディ)」**があります。

    祖先と結び付けて考えられる地域もあり、

    長い間、

    文化そのものがホウシャガメを守ってきました。

    しかし、

    地域外から人が入る。

    価値の高いカメとして売買される。

    伝統的な禁忌を共有しない人が捕る。

    その結果、

    文化だけでは個体群を守れなくなっていきました。

    2018年4月、一軒の家に10,976匹

    そして2018年4月10日。

    トゥリアラの住宅で、

    10,976匹。

    とてつもない数のホウシャガメが発見されました。

    普通に考えれば、

    一日や二日で集められる数ではありません。

    一匹。

    また一匹。

    別の場所からも一匹。

    それが積み重なって、

    一万匹を超えた。

    その数だけ、

    野生の森からホウシャガメが消えていたことになります。

    そして半年後、また数千匹

    さらに同じ2018年10月にも、大規模な押収が発生しました。

    TSAによると、2018年だけで保護下へ入ったホウシャガメは17,000匹を超えました。

    つまり、

    4月の事件は、

    一度だけ起きた異常な出来事ではありませんでした。

    それだけ大規模な捕獲と違法取引が、

    このカメを取り巻いていたということです。

    保護した瞬間から、別の問題が始まる

    密輸されるカメを見つけた。

    押収した。

    助かった。

    そう思いたくなります。

    でも、

    一万匹を保護した瞬間、

    今度は人間が一万匹を生かさなければなりません。

    水。

    餌。

    飼育場所。

    病気の確認。

    衛生管理。

    個体識別。

    獣医療。

    スタッフ。

    そして、

    何年間も続く費用。

    TSAはマダガスカルに複数の保全施設を整備し、押収されたホウシャガメの大規模な飼育体制を作りました。現在のTSAのマダガスカル事業でも、違法取引から救出したホウシャガメの救護、長期飼育、野生復帰が主要活動になっています。

    でも、ずっと飼うことが目的ではない

    何万匹も保護している。

    だったら、

    大きな保護施設を作って、

    そこで一生飼えばいい。

    そう考えることもできます。

    でも、

    ホウシャガメは本来、

    飼育施設にいる動物ではありません。

    マダガスカル南部の森を歩くリクガメです。

    そこでTSAは、

    Confiscation to Reintroduction Strategy

    という考え方を進めました。

    日本語にすると、

    「押収から再導入へ」。

    密輸から救出したカメを、

    可能な限り、

    もう一度野生へ戻していく計画です。

    ただ森へ置けばいいわけではない

    一度長期間飼育したカメを、

    空いている森へ置けばいい。

    そんな単純な話でもありません。

    その地域に病気を持ち込まないか。

    健康状態は十分か。

    野生で餌を取れるか。

    その森に十分な食物があるか。

    再び密猟されないか。

    地域の人々が保護に協力してくれるか。

    一つずつ確認する必要があります。

    そのため、放流候補となった個体には獣医師による健康検査が行われています。

    感染症検査も含め、

    「放しても大丈夫なカメか」

    を確認します。

    2021年、最初の1,000匹

    そして2021年。

    大きな転換点が来ます。

    TSAは、

    1,000匹のホウシャガメを、マダガスカル南部の地域住民が保護する森林へ移しました。

    違法取引から救出され、

    何年間も人間の管理下で暮らしてきたカメたちです。

    ただし、

    いきなり森全体へ自由にしたわけではありません。

    まず約6ヘクタールの順応エリアに入り、

    その土地で生活する期間が設けられました。

    そして2022年3月、

    囲いが開かれ、

    カメたちは周囲のスパイニーフォレストへ自由に移動できるようになりました。

    「ソフトリリース」という考え方

    これは、

    soft release(ソフトリリース)

    と呼ばれる方法です。

    人間の管理下から、

    いきなり完全な野生へ移すのではない。

    まず、

    これから暮らす場所に慣れてもらう。

    気温。

    植物。

    地面。

    匂い。

    雨。

    その土地そのものを覚える。

    そして、

    囲いを開ける。

    カメは、

    自分の意思で外へ歩いていきます。

    カメに発信器を付ける

    放したら、

    それで終わりではありません。

    再導入個体の一部には、

    VHF無線発信器やGPSロガーが装着されました。

    どこへ歩くのか。

    どのくらい移動するのか。

    生き残っているのか。

    どの環境を利用するのか。

    そうした情報を調べます。

    人間の視界から消える。

    でも、

    完全には見失わない。

    それが、

    次に何千匹ものカメを戻すためのデータになります。

    2024年、さらに1,000匹

    取り組みは、

    最初の1,000匹で終わりませんでした。

    2024年5月23日。

    World Turtle Day。

    TSAは、

    さらに1,000匹のホウシャガメを、マダガスカル南西部の地域保護林へ放しました。

    この個体たちも、放流前に健康評価を受け、

    6か月間の隔離期間を経ています。

    2018年に押収された膨大な数のカメたちが、

    少しずつ、

    森へ帰り始めています。

    最終目標は2万匹以上

    TSAは、

    保護下にいるホウシャガメのうち、

    2万匹以上を将来的に野生へ戻す

    という大規模な計画を掲げています。

    2万匹。

    想像するのも難しい数です。

    でも、

    そもそもそれほど多くのカメが、

    人間によって森から持ち出されました。

    だから、

    今度は逆の流れを作ろうとしています。

    森から人間へ。

    ではなく、

    人間から森へ。

    カメだけ戻しても意味がない

    ただし、

    森が安全でなければ、

    2万匹戻しても意味がありません。

    もう一度捕られるかもしれない。

    生息地が失われるかもしれない。

    だから再導入地は、

    地域住民自身が管理する保護林

    として整備されています。

    カメを運ぶだけではない。

    森を守る。

    地域住民と話す。

    監視する人を育てる。

    地域の暮らしと保全を両立させる。

    そこまで作ってから、

    カメを戻します。

    人間がいるから減った。でも、人間がいるから戻せる

    今回のニュースには、

    少し不思議なところがあります。

    ホウシャガメを減らした大きな原因の一つは、

    人間です。

    人間が捕った。

    人間が売った。

    人間が森を変えた。

    でも、

    今ホウシャガメを戻しているのも、

    人間です。

    警察。

    獣医師。

    飼育スタッフ。

    研究者。

    地域住民。

    政府。

    動物園。

    世界中の人が関わっています。

    人間が原因だから、

    人間は何もしないほうがいい。

    ではない。

    壊した側だからこそ、戻す仕事もできる。

    そんな例だと思います。

    京都市動物園にも「密輸から救われたホウシャガメ」がいる

    この話は、

    遠いマダガスカルだけの話でもありません。

    京都市動物園が飼育しているホウシャガメの中にも、

    日本へ密輸される途中、空港で摘発されて保護された個体がいます。

    日本にも、

    違法取引の終着点になった歴史があります。

    「珍しいカメを飼いたい」

    という需要は、

    地球の反対側の野生個体群につながっています。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番注目したいのは、

    保護されたカメを、ずっと「保護されたカメ」のままにしないことです。

    10,976匹。

    押収する。

    助ける。

    それだけでも、

    とてつもない仕事です。

    でも、

    そこで終わらなかった。

    何年も育てる。

    健康を戻す。

    森を探す。

    地域住民と一緒に守る仕組みを作る。

    順応させる。

    囲いを開ける。

    そして、

    一匹ずつ歩いていく。

    人間から遠ざかっていく。

    僕は、

    そこがすごくいいと思います。

    カメを救った証拠は、

    人間の飼育施設に何万匹いることではない。

    人間がどこにいるのか分からなくなるくらい、森へ散らばっていくこと。

    それが最終的な成功なんじゃないかな。

    湯川亀吉の一言

    人間はクズってことだな。
    密猟するやつも、保護するやつも、同じクズだ。

    出典

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「Radiated Tortoise Press Release 2018」
    2018年4月の10,976匹の大量押収と救護活動について。
    URL:
    https://shop.turtlesurvival.org/blogs/news/radiated-tortoise-press-release-2018/

    San Diego Zoo Wildlife Alliance
    「Turtle Survival Alliance Leads Rescue Mission to Save 10,976 Critically Endangered Radiated Tortoises Discovered in Massive Poaching Bust」
    2018年4月19日。
    URL:
    https://sandiegozoowildlifealliance.org/story-hub/2018/04/19/turtle-survival-alliance-leads-rescue-mission-to-save-10976-critically

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「1,000 Radiated Tortoises Return to the Wild」
    2021年8月9日。最初の大規模野生復帰計画について。
    URL:
    https://shop.turtlesurvival.org/blogs/news/1000-radiated-tortoises-return-to-the-wild

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「1,000 Radiated Tortoises Released on World Turtle Day®」
    2024年6月4日。2回目の1,000匹規模の放流について。
    URL:
    https://turtlesurvival.org/1000-radiated-tortoises-released-on-world-turtle-day/

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「Species Spotlight: Radiated Tortoise」
    大量押収、保全繁殖、野生復帰について。
    URL:
    https://turtlesurvival.org/turtleoftheweek-radiated-tortoise/

    Smithsonian’s National Zoo and Conservation Biology Institute
    「Radiated tortoise」
    形態、生息地、食性、保全状況について。
    URL:
    https://nationalzoo.si.edu/animals/radiated-tortoise

    京都市動物園
    「ホウシャガメ/Radiated Tortoise」
    和名、分布、形態について。
    URL:
    https://zoo.city.kyoto.lg.jp/zoo/animals/g_radiata

  • 【世界の亀ニュース】175匹から1万4,000匹へ 野生絶滅寸前のビルマホシガメを救った13年間

    【世界の亀ニュース】175匹から1万4,000匹へ 野生絶滅寸前のビルマホシガメを救った13年間

    今回は、ミャンマーだけに生息する絶滅危惧種「ビルマホシガメ」が、違法取引によって野生からほとんど姿を消したあと、飼育下繁殖と野生復帰によって劇的な回復を遂げたニュースを紹介します。

    最初に保全繁殖の基礎となったのは、

    およそ175匹。

    その多くは、違法な野生生物取引から押収されたカメでした。

    それから13年。

    2017年には、保全下にあるビルマホシガメの数は1万4,000匹を超えました。

    今回のニュース

    2017年10月11日、Wildlife Conservation Society(WCS)は、ミャンマーで進められてきたビルマホシガメの保全繁殖によって、個体数が1万4,000匹以上まで回復したと発表しました。

    2000年代初頭には数百匹程度しか残っていないと推定され、野生では繁殖可能な個体群を確認できないほど減少していました。

    ところが2004年から本格的な保全繁殖が始まり、その後、繁殖施設では年間約37%という勢いで個体数が増加。

    2017年の発表時点では、約750匹がすでに保護区内の野生環境へ戻されていました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:ミャンマー
    主な地域:ミャンマー中央部の乾燥地帯
    主な保護区:Minzontaung Wildlife Sanctuary、Shwe Settaw Wildlife Sanctuaryなど
    WCS発表日:2017年10月11日
    対象種:ビルマホシガメ
    情報の種類:リクガメ・絶滅危惧種・飼育下繁殖・密猟・野生復帰・長期保全

    ビルマホシガメは、ミャンマー中央部の乾燥地帯だけに自然分布する固有種です。乾燥した落葉樹林や草原などに生息します。

    登場する亀

    今回の主役は、ビルマホシガメです。

    学名は Geochelone platynota

    英語ではBurmese Star Tortoiseと呼ばれます。

    黒っぽい甲羅に黄色い放射状の線が入り、それが星のように見えることから「ホシガメ」と呼ばれます。福岡市動物園によると、甲長は20〜30cmほどで、大型個体では体重5kgを超えます。

    現在もIUCNレッドリストでは**Critically Endangered(CR/深刻な危機)**に分類され、ワシントン条約では附属書Iに掲載されています。

    1990年代、突然いなくなった

    ビルマホシガメが急激に減少した大きな原因の一つが、野生生物取引でした。

    WCSによると、1990年代半ばから中国南部の市場で食用や伝統医療用途として需要が高まり、その後は国際的なペット市場からも狙われるようになりました。

    もともと生息地の限られたカメです。

    そこから大量の個体が捕獲される。

    成体が消える。

    繁殖できる雌が減る。

    新しい子ガメが生まれなくなる。

    そして短期間のうちに、野生で繁殖可能な個体群を確認することが難しくなりました。

    「生態学的絶滅」と呼ばれる状態へ

    ビルマホシガメについて、当時使われた言葉が、

    ecologically extinct

    です。

    「世界から一匹残らず絶滅した」という意味ではありません。

    どこかに少数個体が残っていた可能性はあります。

    しかし、

    自然の中で個体群を維持できるだけのカメが確認できない。

    つまり、野生生態系の中では実質的に機能できなくなっている状態です。

    WCSは、2000年代初頭にはビルマホシガメがそのような状態まで追い詰められていたと説明しています。

    2004年、175匹から始める

    2004年。

    ミャンマー政府の自然保護部門とWCS、Turtle Survival Alliance(TSA)は、ビルマホシガメを絶滅から守るため、3か所に**「assurance colony(保全繁殖個体群)」**を設けました。

    スタート時の個体数は、

    推定約175匹。

    しかも、その多くは違法な野生生物取引から押収された個体でした。

    普通なら、

    「密輸から救出されたカメ」

    としてそこで話が終わるかもしれません。

    しかし、この175匹は違いました。

    ここから、

    もう一度、野生個体群を作るための親ガメ

    になりました。

    最初は飼い方から調べなければならなかった

    希少なカメを集めれば、すぐ繁殖できるわけではありません。

    何を食べるのか。

    どのくらい与えるのか。

    どのような環境で繁殖するのか。

    卵をどう管理するのか。

    孵化した子ガメをどう育てるのか。

    保全チームは、ビルマホシガメの飼育方法そのものを確立する必要がありました。

    WCSのBronx Zooの爬虫類専門家も施設設計や飼育技術に協力し、獣医師や分子生物学者は感染症の検査にも参加しました。

    そして、爆発的に増え始めた

    繁殖方法が確立されると、状況が変わります。

    繁殖施設では多数の子ガメが生まれるようになりました。

    WCSの記録では、2014〜2015年の繁殖シーズンだけでも、約3,000匹の子ガメが誕生しています。

    2017年には、繁殖施設の個体群は年間約37%というペースで増加。

    そして保全開始から約13年で、

    1万4,000匹以上。

    175匹から始まった個体群が、80倍近い規模まで増えました。

    でも「1万4,000匹飼うこと」が目的ではない

    ここが、このニュースでとても重要なところです。

    絶滅危惧種を飼育下で1万匹まで増やした。

    それだけでも巨大な成果です。

    でも、

    飼育施設の中だけで増え続けても、野生復帰にはなりません。

    WCS自身も、保全繁殖個体群をただ蓄積することが目的ではなく、最終的には自然の中で機能する野生個体群を復元しなければならないと説明しています。

    そこで2013年、

    次の段階が始まりました。

    2013年、野生へ戻す計画が始まった

    最初の本格的な野生復帰場所として選ばれたのが、

    Minzontaung Wildlife Sanctuaryです。

    いきなりカメを放すわけではありません。

    まず周囲13村で地域住民への啓発活動を実施。

    そのうえで、保全繁殖された亜成体150匹が選ばれました。

    感染症検査を行う。

    識別番号を付ける。

    マイクロチップを入れる。

    そしてカメたちは、保護区内に作られた約1ヘクタールの順応用エリアへ移されました。

    すぐに放さず、6〜18か月待つ

    順応期間は、

    6か月。

    12か月。

    18か月。

    グループによって変えられました。

    目的は、飼育施設から突然野生へ放すのではなく、その土地の気候や環境に慣れてもらうことです。

    さらに重要なのが、

    放流直後に遠くまで移動してしまうことを抑える

    という目的でした。

    保護区の外には農地があります。

    カメが人間の生活圏へ出れば、再び密猟される危険があります。

    2014年、最初のカメが森へ

    最初のグループが野生環境へ出されたのは2014年5月。

    続いて2014年11月。

    そして2015年5月。

    放された個体には小型の無線発信器が取り付けられ、森林局のスタッフが約2週間ごとに位置を確認しました。

    結果は良好でした。

    初期の再導入個体では、失われたカメは10匹未満。

    多くは順応施設から1km以内に留まりました。

    さらに、

    放された雌の一部は野生環境で産卵を始めました。

    中には放流後わずか数日で巣を作った雌も確認されています。

    カメが「野生のカメ」に戻り始めた

    この違いは大きいと思います。

    施設で生まれた。

    施設で育った。

    人間から餌をもらった。

    それでも、

    森へ出れば自分で歩く。

    自分で餌を探す。

    自分で場所を選ぶ。

    そして自分で卵を産む。

    そこで初めて、

    「飼育下で増やしたカメ」が、

    野生個体群の一員へ変わり始めます。

    2017年のWCS発表時点では、約750匹が野生環境へ戻されていました。

    成功しても、密猟は消えなかった

    ただし、この物語は一直線の成功ではありません。

    2015年。

    Minzontaung Wildlife Sanctuaryの順応施設から、複数のビルマホシガメが盗まれました。

    カメは違法取引業者へ売られ、その一部はわずか2週間ほど後に、タイの高級ペット市場向けウェブサイトへ現れました。

    保全のために増やしたカメが、

    また「珍しいペット」として狙われる。

    WCS、TSA、ミャンマー森林局、タイ当局による捜査が行われ、タイでは野生生物取引に関わった人物が逮捕されています。

    増えれば終わり、ではない

    1万4,000匹まで増えた。

    それでもWCSは、大規模な野生復帰には社会的・政治的な課題が残ると指摘していました。

    理由は単純です。

    森へ戻したカメが、また捕られれば意味がないからです。

    飼育施設で100匹増やす。

    野生へ放す。

    100匹捕られる。

    それでは野生個体群は戻りません。

    だから必要になるのが、

    繁殖技術だけではなく、

    密猟対策。

    地域住民との協力。

    保護区の管理。

    教育。

    監視。

    そして野生生物取引そのものを減らす取り組みです。

    周辺36村へ保全活動を広げる

    次の野生復帰先となったShwe Settaw Wildlife Sanctuaryでは、周囲にある36の村を対象に啓発活動が行われました。

    学校の子どもたち。

    地域住民。

    村のリーダー。

    保全チームが直接地域へ入り、ビルマホシガメを野生へ戻す理由を説明しました。

    さらに地域住民からCommunity Conservation Volunteersが選ばれ、

    カメの追跡。

    密猟情報の提供。

    保護活動。

    などへ参加する仕組みも作られました。

    「外から来た研究者がカメを守る」

    だけではない。

    その土地に住む人たちと一緒にカメを戻す。

    そこまで含めて再導入計画でした。

    現在も絶滅危惧種である

    1万4,000匹という数字を見ると、

    「もう絶滅危惧種ではないのでは?」

    と思うかもしれません。

    しかし、そうではありません。

    現在もビルマホシガメはIUCNレッドリストで**Critically Endangered(CR)**に分類されています。

    人工的な保全繁殖で多数の個体を確保できたことと、

    野生で安定した個体群が完全に復元されたことは、

    別の話です。

    それでも現在のIUCN情報では個体数傾向がIncreasing=増加と示されています。

    一度ほとんど消えたカメが、

    少なくとも再び増える方向へ動き始めています。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番面白いと思うのは、

    最初の175匹の意味です。

    その175匹の多くは、

    密輸されようとしていたカメでした。

    人間に捕まった。

    商品として運ばれた。

    そして途中で押収された。

    本来なら、

    その一匹一匹は野生個体群から失われた存在です。

    でも、

    そこで終わらなかった。

    そのカメたちを集める。

    繁殖させる。

    子どもが生まれる。

    その子どもがまた繁殖する。

    何世代も重ねる。

    そして、

    今度はその子孫を森へ返す。

    野生から奪われたカメが、野生を再建する親になった。

    僕はそこが、このニュースの一番すごいところだと思います。

    湯川亀吉の一言

    ビルマホシガメ欲しかったな〜。

    希少価値がある亀や高額な亀って、なんであんなに魅力的なんだろう?

    出典

    Wildlife Conservation Society(WCS)
    「Star Tortoise Makes Meteoric Comeback」
    2017年10月11日。ビルマホシガメが1万4,000匹以上まで回復したこと、保全繁殖開始時の約175匹、野生復帰数などの主要情報。

    Wildlife Conservation Society Myanmar Program
    「Turtle and Tortoise / Burmese Star Tortoise Conservation」
    保全繁殖、順応施設、無線追跡、地域住民との協力、密猟事件など、野生復帰計画の詳細。

    IUCN Red List of Threatened Species
    「Burmese Star Tortoise – Geochelone platynota
    現在の保全評価はCritically Endangered。個体数傾向はIncreasing。

    福岡市動物園
    「ビルマホシガメ」
    和名、生息地、体格、食性、繁殖、CITES・IUCNの保全情報。