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  • 【世界の亀ニュース】8,000万年の系統を絶やすな ベリーズがメキシコカワガメ「ヒカティー」を救う58項目の国家計画を承認

    【世界の亀ニュース】8,000万年の系統を絶やすな ベリーズがメキシコカワガメ「ヒカティー」を救う58項目の国家計画を承認

    今回は、中米ベリーズから、

    一匹のカメを守るために、

    国全体でこれから何をするのかを決めたニュースを紹介します。

    主役は、

    メキシコカワガメ。

    学名は、

    Dermatemys mawii

    英語では、

    Central American River Turtle

    そしてベリーズでは、

    Hicatee(ヒカティー)

    という名前で親しまれています。

    2026年8月。

    ベリーズ水産局は、このヒカティーを絶滅から守るための

    Central American River Turtle (Hicatee) Conservation Action Plan 2026

    を正式に承認しました。

    そこに並んでいる具体的な行動は、

    58項目。

    密猟対策。

    法律。

    教育。

    飼育下繁殖。

    野生復帰。

    研究。

    生息地保全。

    それらを一つの計画にまとめ、

    これから実際に動かしていきます。

    今回のニュース

    Turtle Survival Alliance(TSA)が2026年8月31日に発表したところによると、ベリーズのMinistry of Blue Economy & Marine Conservation傘下のFisheries Departmentが、ヒカティーの新しい保全行動計画を承認しました。

    計画作りを中心となって進めたのは、

    Belize Foundation for Research and Environmental Education(BFREE)

    そこへ、

    Belize Fisheries Department。

    Turtle Survival Alliance。

    Zoo New England。

    研究者。

    大学。

    保全団体。

    行政。

    そして、

    実際にヒカティーを捕ってきた伝統的な漁業地域の人々

    まで参加しました。

    計画づくりそのものは2020年から始まり、オンライン・対面のワークショップや戦略会議を何年も重ねてきました。

    そして2026年8月24日。

    ベリーズのNational Climate Weekで正式に発表。

    ようやく、

    「ヒカティーを守りたい」

    という段階から、

    「誰が、何を、どう進めるのか」

    という実行段階へ移ります。

    どこの国・地域の話か

    国:ベリーズ
    地域:中米
    対象種:メキシコカワガメ
    現地名:Hicatee
    学名:Dermatemys mawii
    英名:Central American River Turtle
    発表:2026年8月24日
    TSA発表:2026年8月31日
    情報の種類:淡水ガメ・国家保全計画・飼育下繁殖・野生復帰・密猟対策・生息地保全

    メキシコカワガメは、

    ベリーズだけのカメではありません。

    現在の自然分布は、

    ベリーズ。

    グアテマラ。

    メキシコ南部。

    この3地域に限られています。

    登場する亀

    今回の主役、

    Dermatemys mawii

    日本ではメキシコカワガメという名前が使われています。

    そして、このカメには、

    とても大きな特徴があります。

    ものすごく水棲傾向が強い。

    川。

    湖。

    三日月湖。

    冠水林。

    そうした淡水環境の中で生活します。

    さらに、

    大型の淡水ガメでありながら、

    ほぼ完全な植物食。

    水中や川沿いの植物を利用します。

    見た目もかなり独特です。

    甲羅は一般的なカメのようにゴツゴツと高く盛り上がらず、

    比較的滑らか。

    頭は丸みがあり、

    鼻先は少し突き出しています。

    完全に、

    「川を泳ぐためのカメ」

    という感じです。

    この一匹しか残っていない「科」

    ここが、

    僕が今回一番驚いたところです。

    メキシコカワガメが所属するのは、

    Dermatemydidae。

    現在、

    この科に生きている種類は、

    Dermatemys mawiiだけ。

    一種類です。

    WCS Belizeによると、

    その最も近い親戚たちは、

    現在では化石でしか知られていません。

    さらに、

    この系統は他の現生カメ類から、

    およそ8,000万年前に分岐したとされています。

    8,000万年前。

    恐竜がいた時代です。

    つまり、

    メキシコカワガメが絶滅するということは、

    一種類がいなくなるだけではありません。

    8,000万年以上続いてきた一本の系統そのものが、現代で途切れる

    ということになります。

    でも、人間が食べてきたカメでもある

    そして、

    このカメの保全を難しくしている理由があります。

    ヒカティーは、

    ベリーズの人々にとって、

    単なる珍しい野生動物ではありません。

    長い間、

    食文化とも結びついてきたカメです。

    そのため、

    捕獲されてきました。

    そして、

    捕獲量が個体群の回復能力を上回るようになった。

    TSAやBFREEは、

    現在の大きな減少原因として、

    食用目的の過剰捕獲

    を挙げています。

    だから今回の計画も、

    単純に、

    「捕るな」

    だけではありません。

    文化。

    地域住民。

    法律。

    教育。

    研究。

    野生個体群。

    全部を一緒に考えています。

    現在も細かい捕獲規制がある

    ベリーズでは現在、

    ヒカティーの売買は禁止されています。

    さらに、

    所持できる数。

    車両で運べる数。

    雌の捕獲に関するサイズ制限。

    5月1日から31日までの禁漁期。

    などの規制があります。

    ここからも、

    このカメと人間との関係の複雑さが分かります。

    完全に、

    人間から切り離された野生動物ではない。

    でも、

    今までと同じように捕り続ければ、

    いなくなる。

    だから、

    「利用」と「存続」をどう両立させるのか

    まで考えなければなりません。

    58の行動

    今回決められた計画には、

    58の具体的な行動が設定されています。

    大きく分けると、

    法執行。

    法律・規制。

    地域教育。

    飼育個体群管理。

    野生復帰。

    研究。

    野生個体群そのものの保全。

    生息地の回復と保護。

    などです。

    つまり、

    「繁殖させればいい」

    ではありません。

    密猟を減らす。

    子どもたちへ伝える。

    川を残す。

    野生の数を調べる。

    飼育個体の血統を管理する。

    カメを戻す。

    そして、

    戻した場所を守る。

    全部必要です。

    2010年から続いてきた

    もちろん、

    2026年に突然始まった活動ではありません。

    BFREEとTSAが本格的にヒカティー保全へ協力し始めたのは、

    2010年。

    翌2011年には、

    Hicatee Conservation & Research Center

    が設立されました。

    そこで、

    飼育下繁殖。

    ヘッドスタート。

    野生個体群調査。

    生態研究。

    教育。

    再導入。

    さまざまな活動が進められてきました。

    15年以上の実践を経て、

    今回、

    それらを国の正式なロードマップにまとめたわけです。

    1,000匹以上を野生へ

    そして、

    すでに結果も出始めています。

    TSAによると、

    これまでに、

    1,000匹以上のヘッドスタート個体が野生へ放されています。

    つまり、

    飼育施設で増やすだけではない。

    育てる。

    野生で生きられるサイズにする。

    そして、

    川へ戻す。

    すでにそこまで進んでいます。

    30,000エーカーを守った

    さらに2021年。

    TSA、BFREEなどの保全パートナーは、

    約30,000エーカー

    の土地の保全につなげました。

    その中には、

    重要なヒカティー生息地であるCox Lagoonも含まれます。

    Cox Lagoonは、

    Belize Riverとつながる重要な淡水環境です。

    1,000匹カメを育てる。

    でも、

    川がなくなったら意味がない。

    だから、

    カメだけでなく、

    カメが帰る場所そのものを確保する。

    ここでも、

    同じ考え方が出てきます。

    学校でも「ヒカティー」を伝える

    保全活動のもう一つの柱が、

    教育です。

    TSAによると、

    これまでにヒカティーを題材とした教育・普及活動へ、

    数千人のベリーズの子どもたち

    が参加しています。

    学校では、

    ヒカティーをテーマにしたバナーなども作られてきました。

    これは、

    かなり重要だと思います。

    今、

    川にいる大人のカメを守る。

    でも、

    20年後に、

    そのカメを捕るか、

    守るかを決めるのは、

    今の子どもたちかもしれない。

    カメの寿命は、

    人間の政策より長い。

    だから、

    次の世代まで含めて保全する必要があります。

    「ベリーズが最後の希望」

    BFREEのJacob Marlin氏は、

    ヒカティーについて、

    ベリーズがこの種の長期的な存続にとって最後の希望だ

    という強い表現を使っています。

    もちろん、

    メキシコやグアテマラにも本種は残っています。

    でも、

    多くの地域ですでに個体群は大幅に減少し、

    場所によっては姿を消しました。

    だからこそ、

    比較的個体群が残っているベリーズで、

    今止められるかどうかが重要になります。

    「計画を作った」で終わらせない

    そして今回、

    一番大事なのはここです。

    58項目を決めた。

    立派な冊子を作った。

    政府が承認した。

    それだけでは、

    カメは一匹も増えません。

    BFREE自身も、

    保全団体だけではヒカティーを救えない

    と明言しています。

    最終的に、

    ヒカティーがベリーズで十分な数を維持できるかどうかを決めるのは、

    ベリーズの人々です。

    だから今回の発表は、

    完成ではありません。

    むしろ、

    スタートラインです。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番面白いと思うのは、

    やっぱり、

    「一種類を失うことと、一つの進化の枝を失うことは同じではない」

    というところです。

    ヒカティーが絶滅する。

    すると、

    Dermatemys mawiiがいなくなる。

    でも、

    それだけじゃない。

    Dermatemydidaeというグループから、

    生きている動物が、

    一匹もいなくなる。

    何千万年も続いた系統が、

    そこで終わる。

    恐竜が歩いていた頃から、

    祖先が形を変えながら、

    ずっと命をつないできた。

    気候が変わった。

    大陸が変わった。

    他の動物が絶滅した。

    それでも、

    この一本だけは、

    2026年まで来た。

    だったら、

    ここで終わらせたくない。

    今回の58項目は、

    その一本の線を、

    未来へもう少し伸ばすための計画なんだと思います。

    湯川亀吉の一言

    ベリーズって国があるということを知らなかった!

    出典

    Belize Fisheries Department
    「Central American River Turtle (Hicatee) Conservation Action Plan 2026」
    ベリーズ政府が正式に公開している保全行動計画。58の戦略的行動と長期的な保全方針について。
    Belize Fisheries Departmentの公式資料ページを見る

    Turtle Survival Alliance
    「Belize Approves Conservation and Action Plan for Critically Endangered Hicatee」
    2026年8月31日。計画の承認、58項目、15年以上の保全活動、1,000匹以上の野生復帰、30,000エーカーの生息地保全について。
    TSAの記事を読む

    Belize Foundation for Research and Environmental Education(BFREE)
    「Hope for the Hicatee」
    2026年8月24日。計画作成の経緯、地域住民・研究者・行政などの参加、Climate Weekでの発表について。
    BFREEの記事を読む

    Wildlife Conservation Society Belize
    「Central American River Turtle」
    本種がDermatemydidae唯一の現生種であること、約8,000万年前に他の現生カメ類から分岐した非常に古い系統であること、分布・食性・脅威について。
    WCS Belizeの種紹介を見る

    IUCN/SSC Tortoise and Freshwater Turtle Specialist Group
    Dermatemys mawii – Central American River Turtle」
    分類、分布、生態、植物食、保全状況について。
    TFTSGの種アカウントを見る

  • 【世界の亀ニュース】100年ぶりに再発見されたカメを「未来の湿地」へ 気候変動から救うオーストラリアの移住計画

    【世界の亀ニュース】100年ぶりに再発見されたカメを「未来の湿地」へ 気候変動から救うオーストラリアの移住計画

    今回は、オーストラリア西部に生息する、世界でも特に希少な淡水ガメの保全活動を紹介します。

    学名は、

    Pseudemydura umbrina

    日本の法令では、

    オーストラリアヌマガメモドキ

    という和名が使われています。

    一方、日本の爬虫類関連資料などでは、

    クビカシゲガメ

    という名前も使われています。

    このカメは、

    一度は絶滅したと思われました。

    再発見された。

    繁殖に成功した。

    1,000匹以上を野生へ戻した。

    普通なら、

    ここまででも大成功です。

    でも、

    問題が一つ残っていました。

    カメが暮らしてきた湿地そのものが、だんだん乾いている。

    そこで研究者たちは、

    過去にこのカメが生息していなかった、

    もっと南の、

    もっと涼しく、

    もっと長く水が残る湿地へ、

    カメを移し始めました。

    今回のニュース

    大きな転換点の一つが、2016年です。

    西オーストラリア州政府、Perth Zoo、University of Western Australiaなどの保全チームは、飼育下で繁殖した24匹のオーストラリアヌマガメモドキを、西オーストラリア州南西部の新しい候補地へ移しました。

    重要なのは、

    そこが単なる「別の放流場所」ではなかったことです。

    本来このカメが知られていた歴史的な分布域よりも、

    さらに南側。

    将来の気候変動を考え、

    より涼しく、

    より湿潤な環境を探して選ばれました。

    この方法は、

    assisted colonisation

    と呼ばれます。

    日本語なら、

    「人為的移住」

    「保全的移住」

    あるいは、

    「分布域外への計画的移送」

    に近い考え方です。

    どこの国・地域の話か

    国:オーストラリア
    州:西オーストラリア州
    従来の主な生息地域:パース近郊・スワン沿岸平野
    新たな移住候補地:西オーストラリア州南西部
    対象種:オーストラリアヌマガメモドキ
    学名:Pseudemydura umbrina
    英名:Western Swamp Tortoise / Western Swamp Turtle
    情報の種類:淡水ガメ・飼育下繁殖・野生復帰・気候変動・保全的移住

    現在、オーストラリア政府も本種の重要な保全策として、気候変動下でも生息可能な場所へ新しい個体群を作ることを挙げています。

    登場する亀

    オーストラリアヌマガメモドキは、

    ヘビクビガメ科に属する非常に小型の淡水ガメです。

    成体でも甲長はおよそ11〜13cm程度。

    体重は300〜450gほど。

    首は短く、

    頭頂部には大きな一枚の鱗板があります。

    足には水かきがあり、

    各足に5本の爪を持ちます。

    見た目は、

    派手ではありません。

    巨大でもない。

    奇抜な模様もない。

    茶色。

    黒。

    泥や湿地に溶け込むような小さなカメです。

    でも、

    進化的には非常に独特な存在です。

    Pseudemydura属で現在生きているのは、この一種だけ。

    オーストラリア政府の回復計画では、近縁のカメとは大きく異なる遺存的な系統であることが紹介されています。

    1839年、一匹だけ見つかった

    このカメの科学的な物語は、

    1839年に始まります。

    オーストリア人の博物学者Ludwig Preissが、西オーストラリアで一匹の標本を採集。

    その標本は、

    ウィーン自然史博物館へ送られました。

    しかし、

    その後が続きません。

    一匹も見つからない。

    何十年経っても、

    見つからない。

    1901年、

    博物館に保存されていた標本をもとに、

    Pseudemydura umbrina

    として正式に記載されます。

    でも、

    生きたカメが見つからない状態は続きました。

    100年以上、誰も見つけられなかった

    1839年から、

    1953年まで。

    114年間。

    新しい標本は確認されませんでした。

    そのため、

    このカメは絶滅したのではないかと考えられていました。

    そして1953年。

    物語が突然動きます。

    見つけたのは少年だった

    西オーストラリア州Upper Swan。

    そこで一匹の小さなカメを見つけたのは、

    Robert Boydという少年でした。

    彼はそのカメを、

    Western Australian Naturalists’ Clubの野生動物展示会へ持っていきます。

    そこで、

    「これは普通のカメではない」

    と気付かれました。

    100年以上、

    科学者にも見つからなかったカメ。

    その再発見のきっかけを作ったのは、

    一人の少年でした。

    探してみると、二つの小さな個体群があった

    再発見後、

    周辺で調査が行われます。

    そして、

    パース北東部に、

    二つの小さな生息地が見つかりました。

    現在の、

    Ellen Brook Nature Reserve。

    Twin Swamps Nature Reserve。

    この二つです。

    1962年には、

    残された生息環境を守るため、

    自然保護区が設けられました。

    一度は絶滅したと思われたカメに、

    ようやく保護区ができました。

    でも、生息地そのものが消えていった

    問題は、

    カメを捕る人だけではありませんでした。

    このカメが暮らしていたスワンバレー周辺は、

    パース都市圏に近い場所です。

    農業。

    宅地開発。

    道路。

    粘土採掘。

    排水。

    かつて湿地だった土地の多くが、

    別の用途へ変わっていきました。

    オーストラリア政府によると、本来利用していた粘土質の湿地の大部分は、現在では都市化・農業利用・粘土採掘などによって失われています。

    1980年代、30匹未満

    保護区まで作った。

    それでも、

    減少は止まりませんでした。

    1980年代。

    野生に残った個体は、

    30匹未満。

    Perth Zooは、

    この時期を本種が絶滅寸前まで追い詰められた時代として紹介しています。

    100年ぶりに見つかった。

    そのわずか30年後、

    今度は本当に消えそうになりました。

    1989年、動物園で繁殖を始める

    そこで、

    Perth Zooを中心とした飼育下繁殖プログラムが本格化します。

    開始は1989年。

    親ガメを繁殖させる。

    卵を見つける。

    掘り出す。

    孵卵器へ移す。

    孵化させる。

    子ガメを育てる。

    そして、

    十分に成長してから野生へ戻す。

    現在、Perth Zooでは、子ガメがおよそ100g、約3歳になった頃を一つの目安として野生復帰させています。

    1,300匹以上が生まれた

    その積み重ねは、

    大きな数字になりました。

    Perth Zooによると、

    1989年以降、

    1,300匹以上のオーストラリアヌマガメモドキが同園で繁殖。

    2024年6月時点で、

    そのうち1,125匹が野生環境へ放されています。

    30匹未満まで減ったカメです。

    そこから、

    1,000匹を超えるカメを、

    再び自然へ送り出せるところまで来ました。

    だったら、もう安心?

    ここまで読むと、

    保全は成功したように見えます。

    でも、

    新しい問題が出てきました。

    雨が減っている。

    このカメは、

    一年中水の中にいるわけではありません。

    冬から春。

    雨によって一時的な湿地に水がたまる。

    カメはそこで活動します。

    餌を食べる。

    成長する。

    繁殖に必要なエネルギーを蓄える。

    そして夏。

    湿地が乾くと、

    地面の穴や深い落ち葉の中へ入り、

    活動を抑えて暑い時期を乗り切ります。

    つまり、

    一定期間、湿地に水が残ること

    が非常に重要です。

    ところが、水のある期間が短くなっている

    気候が暖かく、

    乾燥するようになる。

    雨が減る。

    湿地が早く乾く。

    すると、

    カメが水中で餌を取れる期間が短くなります。

    昔は半年近く使えた湿地でも、

    水が残る期間が数か月まで短くなる可能性がある。

    そうなると、

    カメは十分に食べられません。

    成長できない。

    繁殖できない。

    つまり、

    保護区そのものは残っていても、カメが暮らせなくなる

    可能性があります。

    そこで発想を逆にした

    普通の保全なら、

    「本来の生息地を守ろう」

    と考えます。

    それはもちろん重要です。

    でも、

    本来の場所の気候そのものが変わってしまったら?

    そこで研究者たちは、

    違う問いを立てました。

    カメを守る場所を、もっと南へ作れないか。

    西オーストラリア州南西部。

    パース周辺より、

    涼しい。

    雨が多い。

    湿地に長く水が残る。

    将来、

    現在の生息地が暑く乾燥したとき、

    そこがカメの避難場所になる可能性があります。

    2016年、歴史的分布域の外へ

    2016年。

    24匹の飼育下繁殖個体が、

    Meerup周辺とAugusta東部の保全地域へ試験的に放されました。

    西オーストラリア州政府は当時、この試みを、

    将来の気候変動に備えて脊椎動物を歴史的分布域外へ移す試み

    として紹介しました。

    カメを、

    「昔いた場所」

    へ戻すのではない。

    「未来でも生きられそうな場所」へ移す。

    保全の考え方そのものが変わっています。

    「カメがいなかった場所へ放していいのか」

    でも、

    これは簡単な問題ではありません。

    ある生き物を、

    本来いなかった地域へ持ち込む。

    人間は過去、

    これを何度もやっています。

    そして、

    外来生物問題を起こしてきました。

    だから、

    assisted colonisationには議論があります。

    移したカメが、

    新しい生態系へ悪影響を与えないか。

    他の希少種と競合しないか。

    病気を持ち込まないか。

    新しい場所で本当に繁殖できるか。

    気候だけでは決められません。

    コンピューターまで使って「未来の湿地」を探す

    そこで研究者たちは、

    現在の生息地だけを見ません。

    気温。

    降水量。

    湿地に水が残る期間。

    カメの活動。

    卵の発生。

    将来の気候予測。

    さまざまな条件をモデル化し、

    これから先もカメが暮らせそうな場所

    を探しました。

    University of Western Australiaの研究者たちは、

    この理想的な場所を、

    “Goldilocks wetlands”

    と表現しています。

    暑すぎない。

    寒すぎない。

    乾きすぎない。

    カメにとって、

    「ちょうどいい湿地」です。

    2021年、さらに73匹

    試験は続きます。

    2021年には、

    Perth Zooで繁殖した73匹が、

    西オーストラリア州南西部の二つの場所へ放されました。

    Augusta東部へ16匹。

    Scott National Parkへ57匹。

    このうち48匹には、

    無線発信器やデータロガーが装着されました。

    見るのは、

    単に生死だけではありません。

    どこへ移動するか。

    いつ活動するか。

    体温はどう変化するか。

    どれくらい成長するか。

    新しい環境で、

    カメが本当に「普通に暮らせるか」を調べます。

    2022年、191匹を一度に放流

    翌2022年。

    さらに大きな放流が行われました。

    合計、

    191匹。

    44匹がScott National Park。

    147匹がMoore River Nature Reserve。

    飼育下繁殖プログラム開始以来、

    当時最大規模の放流でした。

    Scott National Parkの個体群は特に、

    気候変動への避難先として新しい個体群を作れるか

    を確かめる重要な試みになっています。

    2024年、さらに20匹

    保全は現在も続いています。

    2024年には、

    Perth ZooとAdelaide Zooで育った20匹が、

    Moore River近郊へ放されました。

    年齢は、

    2歳から13歳。

    放流前には無線発信器が取り付けられ、

    既にその場所で暮らしている個体と行動を比較する研究も始まりました。

    同発表時点で、

    Perth Zooでは1,300匹以上が繁殖し、

    1,145匹が野生へ放された

    とされています。

    「元の場所へ戻す」だけが保全ではなくなった

    これまで、

    野生復帰という言葉には、

    一つの分かりやすい形がありました。

    捕まえられた場所へ戻す。

    昔いた場所へ戻す。

    本来の生息地へ戻す。

    でも、

    気候変動は、

    その考え方を難しくしています。

    場所は残っている。

    保護区にもなっている。

    密猟者もいない。

    それでも、

    気候だけが昔とは違う。

    だったら、

    カメを過去へ戻すのではなく、

    未来へ移す必要があるのかもしれない。

    オーストラリアヌマガメモドキの保全は、

    その難しい問いを、

    実際のカメを使って考えているプロジェクトです。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回の話で僕が一番面白いと思うのは、

    「生息地とは何なのか」

    というところです。

    カメが昔からいた場所。

    それが生息地。

    普通はそう考えます。

    でも、

    気温が変わる。

    雨が減る。

    湿地が乾く。

    すると、

    地図上では同じ場所でも、

    カメにとっては、

    もう同じ場所ではない。

    逆に、

    昔はカメがいなかった南の湿地が、

    50年後には、

    カメにとって一番暮らしやすい場所になるかもしれない。

    保全というのは、

    昔の状態をそのまま保存する仕事だと思っていたけれど、

    このカメを見ていると、

    そうではないのかもしれない。

    変わっていく世界の中で、生き物が生き続けられる場所を探す仕事

    でもあるのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    他人が持っていない亀って、なんで欲しくなるんでしょうね?

    僕の性格が捻くれてるせいかな?

    欲しいなぁ〜オーストラリアヌマガメモドキ

    出典

    Perth Zoo
    「Western Swamp Tortoise Breeding Program」
    再発見、1980年代の個体数、繁殖プログラム、現在の繁殖・放流実績、気候変動に対応した新しい放流地について。
    URL:Perth Zooの保全プログラムを見る

    Western Australia Department of Biodiversity, Conservation and Attractions
    「Record release for critically endangered Western Swamp Tortoise」
    2022年。44匹と147匹、合計191匹の記録的な放流について。
    URL:DBCAの記事を読む

    National Environmental Science Program – Threatened Species Recovery Hub
    「Western swamp tortoises move to a cool new home」
    2016年。気候変動に備えて24匹を歴史的分布域外へ移した初期のassisted colonisationについて。
    URL:2016年の移住計画を見る

    The University of Western Australia
    「Bold plan to find ‘Goldilocks’ wetlands for Western Swamp Tortoise」
    2022年9月7日。気候変動に耐えられる新しい湿地を探す研究について。
    URL:UWAの記事を読む

    Australian Government – DCCEEW
    「Western swamp tortoise」
    本種の脅威と、気候変動避難地への新個体群創出を含む現在の保全方針。
    URL:オーストラリア政府の種情報を見る

    e-Gov 法令検索
    Pseudemydura umbrinaの日本語名「オーストラリアヌマガメモドキ」の確認。
    URL:e-Govの法令情報を見る

  • 【世界の亀ニュース】ウェールズから8,000km ケンプヒメウミガメ「Rhossi」が2年8か月かけてテキサスへ

    【世界の亀ニュース】ウェールズから8,000km ケンプヒメウミガメ「Rhossi」が2年8か月かけてテキサスへ

    今回は、本来の生息地から約8,000kmも離れたイギリス・ウェールズの海岸で発見されたケンプヒメウミガメが、約2年8か月の治療を経てアメリカ・テキサス州まで戻ってきたニュースを紹介します。

    名前は、

    Rhossi(ロッシ)。

    メキシコ湾へ帰るまで、あと少し。

    しかし最後の健康診断で、もう一つ乗り越えなければならない問題が見つかりました。

    今回のニュース

    2026年8月10日、ケンプヒメウミガメのRhossiが、イギリス・ウェールズからアメリカ・テキサス州へ到着しました。

    Rhossiが発見されたのは2023年12月。

    場所はウェールズ北西部、アングルシー島のRhosneigr周辺の海岸です。

    本来ケンプヒメウミガメが主に暮らすメキシコ湾から、およそ5,000マイル、約8,000km離れた場所でした。

    発見時のRhossiは、冷たい海水によって体の機能が低下する**「コールドスタン(cold-stunning)」**の状態でした。

    体重はわずか約2ポンド、約0.9kg。

    その後、Anglesey Sea Zooで長期間の治療とリハビリを受け、2026年には約46ポンド、約21kgまで成長しました。

    そして約2年8か月後。

    Rhossiはついに大西洋を渡り、メキシコ湾への野生復帰を目指してテキサスへ戻ってきました。

    どこの国・地域の話か

    発見地:イギリス・ウェールズ、アングルシー島
    保護施設:Anglesey Sea Zoo
    移送先:アメリカ合衆国・テキサス州、Houston Zoo
    到着日:2026年8月10日
    Houston Zoo発表:2026年8月14日
    対象種:ケンプヒメウミガメ
    情報の種類:ウミガメ・救助・リハビリ・国際移送・野生復帰

    今回の移送には、Anglesey Sea Zoo、Houston Zoo、Texas State Aquarium、NOAA、U.S. Fish & Wildlife Serviceなど、イギリスとアメリカの複数の機関が関わっています。

    一匹のカメを野生へ戻すために、二つの国と複数の組織が動きました。

    登場する亀

    今回の主役は、ケンプヒメウミガメです。

    学名は Lepidochelys kempii

    英語ではKemp’s Ridley Sea Turtleと呼ばれます。

    NOAA Fisheriesによると、ケンプヒメウミガメは世界で最も小型のウミガメです。

    成体でも甲長はおよそ2フィート、約60cm。

    体重はおよそ70〜100ポンド、約32〜45kgです。

    成体の甲羅は灰緑色を帯び、腹側は淡い黄色。

    頭部は三角形に近く、少し鉤状になった嘴を持っています。

    ケンプヒメウミガメの中心はメキシコ湾

    ケンプヒメウミガメの主な生息地はメキシコ湾です。

    特に繁殖地はメキシコ北東部へ集中しています。

    NOAAによると、世界のケンプヒメウミガメの産卵の約95%がメキシコ・タマウリパス州で確認されています。

    Rancho Nuevo。

    Tepehuajes。

    Barra del Tordo。

    こうした海岸が、世界に残るケンプヒメウミガメにとって極めて重要な場所になっています。

    テキサスでも産卵は確認されますが、中心となる繁殖地はメキシコ側です。

    それなのに、なぜウェールズにいたのか

    ケンプヒメウミガメの幼体は、メキシコ湾だけで一生を過ごすわけではありません。

    孵化した子ガメの一部は海流に乗り、フロリダ周辺から大西洋へ出ます。

    若い個体はアメリカ東海岸を北上することがあり、カナダのノバスコシア付近まで確認されています。

    さらに少数ですが、アゾレス諸島、イギリス周辺、地中海など、大西洋東部まで到達した記録もあります。

    つまり、

    ウェールズで見つかったこと自体は、

    「絶対にあり得ない」

    というわけではありません。

    問題は、その海の温度です。

    冷たい海で動けなくなる「コールドスタン」

    ウミガメは外部の温度によって体温が大きく左右されます。

    水温が急激に低下すると、体の働きも低下します。

    泳げなくなる。

    餌を食べられなくなる。

    水面へ呼吸に上がることさえ難しくなる。

    こうした状態が「コールドスタン」です。

    Anglesey Sea Zooは、冷たい海に入り込んだウミガメでは代謝機能が低下し、そのまま海流に流され、海岸へ打ち上げられることがあると説明しています。

    Rhossiも、まさにその状態で見つかりました。

    見つけたのは、一匹の犬だった

    2023年12月。

    アングルシー島の海岸で、Rhossiを最初に発見したのは地元の人と一緒に歩いていた犬でした。

    海岸へ打ち上げられた小さなウミガメ。

    体重は約0.9kg。

    冷たい北大西洋の海水によって衰弱していました。

    もし誰にも見つからなければ、

    そのまま波打ち際に残されていたかもしれません。

    でも、一匹の犬が立ち止まった。

    そこからRhossiの帰還計画が始まりました。

    体温は急に上げればいいわけではない

    冷え切ったカメを見つけると、

    すぐ暖かくしてあげたくなります。

    しかし、Anglesey Sea Zooによれば、コールドスタンしたウミガメの体温を急激に上げることには危険があります。

    体への負担を避けるため、

    少しずつ。

    慎重に。

    状態を確認しながら体温を戻していく必要があります。

    食べられるようになるまで体を回復させる。

    泳げるようにする。

    体力を戻す。

    それを何日、何週間、何か月と続ける。

    Rhossiはそのままウェールズで約2年8か月を過ごしました。

    0.9kgから21kgへ

    発見時は約0.9kgだったRhossi。

    2026年にテキサスへ渡る頃には、約21kgまで成長していました。

    海岸で犬に発見された小さな幼体から、

    両手で簡単には抱えられない大きさへ。

    治療だけではありません。

    食べる。

    泳ぐ。

    成長する。

    毎日その状態を確認する。

    Anglesey Sea Zooで過ごした時間そのものが、Rhossiの成長期でもありました。

    でも、イギリスの海へは放せない

    元気になった。

    泳げるようになった。

    だからウェールズの海へ戻そう。

    とはいきません。

    ケンプヒメウミガメが本来暮らす中心的な環境は、暖かいメキシコ湾です。

    Rhossiがウェールズへ到達したのは、

    そこで暮らすためではありません。

    海流によって、本来の生活圏から遠く離れた場所まで運ばれた結果です。

    だから野生復帰させるなら、

    ただ海へ放すのではなく、

    そのカメが生きていける海へ戻さなければならない。

    ここから問題になるのが、国境です。

    カメ一匹が国境を越える

    野生動物を国から国へ移動させることは、

    航空券を買って乗せれば終わり、

    という話ではありません。

    ケンプヒメウミガメは保護対象の野生動物です。

    輸送。

    輸出入。

    野生復帰。

    それぞれに許可と調整が必要になります。

    Anglesey Sea Zooは過去にも、同じケンプヒメウミガメの「Tally」をウェールズからテキサスへ戻しています。

    そのときは救助から放流まで20か月を要しました。

    Rhossiについても、帰還のための許可と体制が整うまで長い時間が必要になりました。

    ヘリコプターから大西洋横断便へ

    2026年8月。

    ついにRhossiの移送が始まりました。

    ウェールズからロンドン・ヒースロー空港まではヘリコプター。

    そこから航空機で大西洋を横断。

    そしてテキサスへ。

    総移動距離はおよそ5,000マイル、約8,000kmです。

    海流に流されて何千kmも移動したカメが、

    今度は人間の手によって、

    空を飛んで元の海へ近づいていきました。

    8月10日、テキサスへ到着

    8月10日。

    Rhossiはテキサスへ到着しました。

    空港ではHouston Zooのウミガメ担当スタッフと獣医師が健康状態を確認。

    その後、Houston Zooへ移動し、深い水槽へ入れられました。

    長時間の輸送直後です。

    すぐに放すのではなく、

    まず泳ぎ方。

    呼吸。

    反応。

    食欲。

    新しい環境への適応。

    そうした状態を観察します。

    最後の健康診断

    そして、野生復帰前の詳しい健康診断が行われました。

    担当したのはHouston Zooの獣医チーム。

    検査では、

    臓器。

    眼。

    口。

    甲羅。

    ヒレ。

    などを確認。

    さらにX線撮影とCTスキャンを行い、肺の状態まで調べました。

    外から見れば、

    Rhossiは元気でした。

    活発に動く。

    泳ぐ。

    反応する。

    Houston Zooも「healthy, active and vigorous」と表現しています。

    しかし、

    CT画像には別のものが写っていました。

    肺炎の痕跡

    Rhossiの肺には、

    まだ肺炎が残っている可能性を示す所見

    が確認されました。

    海へ帰る寸前でした。

    2年以上治療した。

    8,000km飛んできた。

    テキサスまで戻った。

    あと少し。

    それでも、

    放さなかった。

    Houston Zooは追加の観察と必要な治療を続けることを決めました。

    「元気そう」と「野生へ戻せる」は違う

    今回のニュースで、とても重要なのがここだと思います。

    Rhossiは、

    見た目には元気です。

    泳げる。

    食べられる。

    大きくなった。

    でも、

    野生へ戻せるかどうかは、それだけでは決められない。

    飼育施設なら、

    具合が悪くなれば人間が気づけます。

    餌もあります。

    治療もできます。

    ところが海へ入れば、

    そこから先はカメ自身です。

    泳ぐ。

    餌を捕る。

    潮流に逆らう。

    長距離を移動する。

    一度海へ返したあと、

    「やっぱり肺炎が悪化したから捕まえよう」

    ということは簡単にはできません。

    だから、

    最後の最後で立ち止まりました。

    放流延期は「失敗」ではない

    Houston Zooは、Rhossiのメキシコ湾への帰還について、

    当初想定していたより少し時間がかかるとしています。

    でも、

    これは失敗ではありません。

    むしろ、

    野生復帰を成功させるための判断です。

    海へ返したというニュースを早く作ることより、

    海へ返したあと、そのカメが生きられること

    のほうが重要です。

    世界最小のウミガメ

    Rhossiが属するケンプヒメウミガメには、もう一つ大きな特徴があります。

    世界で最も小型のウミガメです。

    成体でも甲長約60cm。

    大きなオサガメなどと比べれば、かなり小柄です。

    しかし、その生活史は壮大です。

    子ガメは海へ入り、

    海流へ乗り、

    何年も海を移動し、

    およそ13歳で成熟すると考えられています。

    そして雌は、

    自分たちの重要な繁殖地へ戻ってきます。

    昼間に集団産卵する珍しいウミガメ

    ケンプヒメウミガメは、

    「アリバダ」と呼ばれる集団産卵を行うことで知られています。

    多数の雌が同じ時期に海岸へ集まり、

    一斉に産卵します。

    さらにケンプヒメウミガメは、ウミガメの中でも珍しく主に昼間に産卵する種です。

    何百、何千という雌が砂浜へ上がる。

    卵を産む。

    数週間後、

    大量の子ガメが海へ向かう。

    その巨大な生命の流れの一匹が、

    海流に乗って大西洋を渡り、

    ウェールズまで到達した。

    それがRhossiです。

    一度は大きく減少したケンプヒメウミガメ

    現在、ケンプヒメウミガメはアメリカのEndangered Species Actで絶滅危惧種として保護されています。

    1947年にはメキシコのRancho Nuevoで、一日に数万匹規模の雌が産卵する様子が記録されていました。

    しかし20世紀後半に個体数は急減。

    1985年には年間702巣まで落ち込みました。

    その後、産卵地保護や漁業対策などによって回復が進みましたが、2010年以降は増加傾向が止まり、巣数は変動しています。

    だからこそ、

    一匹を野生へ返す意味も小さくありません。

    一匹を返すために、国を越えて人がつながった

    今回Rhossiに関わったのは、一つの水族館だけではありません。

    Anglesey Sea Zoo。

    Houston Zoo。

    Texas State Aquarium。

    NOAA。

    U.S. Fish & Wildlife Service。

    そのほか複数の関係者。

    二つの大陸にまたがる協力によって、Rhossiはテキサスまで戻ってきました。

    一匹のカメが、

    人間の組織を国境の向こう側までつなげたことになります。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番注目したいのは、

    「あと少しなのに、放さなかった」

    というところです。

    2年以上育てた。

    許可も取った。

    飛行機も飛ばした。

    8,000km運んだ。

    メキシコ湾はもう目の前。

    普通なら、

    ここまで来たら海へ返したくなる。

    物語としても、

    「ついに故郷の海へ!」

    で終わったほうがきれいです。

    でも、

    CTを撮った。

    肺を見た。

    まだ心配がある。

    だから止めた。

    ニュースとしてきれいに終わることより、

    一匹のカメが生きることを優先した。

    僕は、

    そこが今回の保護活動で一番大事なところだと思います。

    湯川亀吉の一言

    亀はけっこう肺炎になるんだよね〜。

    僕も、昔飼ってた亀が肺炎にかかってしまって、治療費が10万円くらいかかったよ。

    出典

    Houston Zoo
    「Rhossi’s Road Home: One More Step Toward the Gulf」
    2026年8月14日。

    Anglesey Sea Zoo
    「Turtle Rescue & Rehab – Rhossi the Kemp’s Ridley」
    Rhossiの救助・リハビリ・帰還計画について。

    NOAA Fisheries
    「Kemp’s Ridley Turtle」
    ケンプヒメウミガメの分布、生態、繁殖、個体群、保全状況について。

    The Guardian
    「Rhossi, a rare sea turtle, recovers after 5,000-mile trek from Wales to Texas」
    2026年8月17日。

  • 【世界の亀ニュース】エロンガータリクガメ201匹が誕生 カンボジアの保全繁殖で過去最高記録

    【世界の亀ニュース】エロンガータリクガメ201匹が誕生 カンボジアの保全繁殖で過去最高記録

    今回は、カンボジアで絶滅の危機にあるエロンガータリクガメの子どもが、2026年だけで201匹誕生したニュースを紹介します。

    今回のニュース

    2026年8月、カンボジアのアンコール生物多様性保全センター(Angkor Centre for Conservation of Biodiversity:ACCB)は、今年の繁殖シーズンにエロンガータリクガメ201匹の孵化に成功したと発表しました。

    これは、ACCBが行ってきたエロンガータリクガメの保全繁殖プログラムとして過去最高の記録です。

    これまでの最高記録は2024年の169匹。

    2026年は8月時点ですでに201匹に達し、前回の記録を約19%上回りました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:カンボジア
    施設:アンコール生物多様性保全センター(ACCB)
    地域:シェムリアップ州
    発表:2026年8月8日
    報道:2026年8月10日
    情報の種類:リクガメ・飼育下繁殖・孵化・野生復帰・絶滅危惧種

    ACCBはカンボジアの絶滅危惧動物を対象に、救護、飼育下繁殖、野生復帰、放逐後の追跡などを行う保全施設です。

    登場する亀

    今回の主役は、エロンガータリクガメです。

    学名は Indotestudo elongata

    英語ではElongated Tortoiseと呼ばれています。

    日本の動物園でも「エロンガータリクガメ」という和名が使われています。背甲はやや扁平で、上から見ると前後に細長い形をしています。最大甲長は30センチ前後から、大型個体では約36センチに達します。

    インド北東部からネパール、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、カンボジア、ラオス、ベトナム、マレー半島、中国南部など、南アジアから東南アジアにかけて分布しています。

    201匹という新記録

    ACCBでは、2026年に入ってから201匹のエロンガータリクガメが孵化しました。

    2024年の年間記録169匹を、8月の段階ですでに超えています。

    ACCBは2026年を、この繁殖プログラムにとってこれまでで最も成功した年としています。

    201匹の子ガメたちは現在、ACCBの施設内で育てられています。

    すぐに野生へ放すわけではありません。

    捕食者に簡単に襲われない大きさまで成長させ、その後、条件が整った個体から野生復帰を目指します。

    世界最大規模の飼育個体群

    ACCBは、エロンガータリクガメについて世界最大の飼育下個体群を維持する施設としています。

    2025年にACCBの担当者が紹介した内容では、同センターでは約600匹のエロンガータリクガメが飼育されていました。

    これは単に「たくさん飼っている」という意味ではありません。

    野生個体群が大きく減少している種類について、遺伝的な多様性をできるだけ維持しながら繁殖させ、将来的に野生個体群を補強するための個体群です。

    こうした個体群は、野生で何か大きな問題が起きたときに種そのものが失われることを防ぐ、いわば保険のような役割も持っています。

    90年間で80%以上減少

    エロンガータリクガメは、広い範囲に分布しているカメです。

    しかし、

    「広く分布している=安全」

    ではありません。

    ACCBによる保全活動の紹介では、違法な食用捕獲、国際的な野生生物取引、生息地の劣化と分断などによって、過去約90年間で個体数が少なくとも80%減少したとされています。

    現在はIUCNレッドリストで「Critically Endangered」、つまり「深刻な危機」に分類されています。

    一見すると普通に見える中型のリクガメが、実際には世界的な絶滅危惧種になっています。

    森の中で暮らすリクガメ

    エロンガータリクガメは、乾燥した砂漠を歩くタイプのリクガメではありません。

    東南アジアの落葉広葉樹林など、比較的湿度のある森林環境を利用します。

    植物の葉。

    果実。

    花。

    キノコ。

    タケノコ。

    そして、ときにはカタツムリなどの小動物や動物の死骸も利用する、植物食傾向の強い雑食性のカメです。

    森の中で落ちた果実を食べ、別の場所へ移動し、糞と一緒に種子を運びます。

    ACCBの保全担当者は、エロンガータリクガメが種子散布に関わり、森林の再生にも役割を持つと説明しています。

    リクガメを戻すことは、森の機能を戻すこと

    リクガメが一匹いなくなる。

    それだけを見ると、生態系への影響は分かりにくいかもしれません。

    しかし、森の中で果実を食べる大型の動物が減れば、植物の種が運ばれる距離も変わります。

    土を掘る動物が減れば、地面の状態も変わります。

    ACCBは、エロンガータリクガメが種子を運ぶだけでなく、土を掘る行動によって土壌へ空気を送り込み、小さな生物が利用する環境を作ることにもつながると説明しています。

    つまり、リクガメを森へ戻すことは、

    「カメの数を増やす」

    だけの活動ではありません。

    森の中から失われつつある機能を、一つずつ戻す活動でもあります。

    すでに100匹を森へ戻す計画が始まっている

    ACCBでは繁殖だけでなく、実際の野生復帰も進めています。

    2023年4月、飼育下で育てられた100匹のエロンガータリクガメが、カンボジア北部の保護地域へ移されました。

    しかし、到着したその日に放されたわけではありません。

    まず約1ヘクタールの順応用エリアへ入れられ、野生の気温、植物、地面、雨、餌などに慣れる期間が設けられました。

    そして約8か月後。

    2024年1月12日、囲いが開放されました。

    100匹のリクガメは、そこから自分の意思で森の中へ散らばっていきました。

    「放して終わり」ではない

    野生復帰で難しいのは、

    カメを森へ置くことではありません。

    そのあと、本当に生きていけるのかを確かめることです。

    ACCBでは放された個体の一部に、GPSとVHF発信器を取り付けています。

    どこへ移動するのか。

    どんな場所で休むのか。

    どれくらい広い範囲を利用するのか。

    健康状態は維持できているのか。

    そうした情報を収集しています。

    放したカメが森の中へ消えてしまえば、

    「野生復帰成功」

    と考えたくなります。

    でも、本当の答えはその先にあります。

    森を歩く「Tortoise Guardians」

    放されたカメを追跡するために、現地では3人のTortoise Guardians=リクガメの守り手が訓練されました。

    彼らは実際にその森で暮らしている地域住民です。

    発信器の信号を追い、

    カメの位置を確認し、

    行動や環境データを集めます。

    ACCBのスタッフも定期的に森へ入り、GPSデータを回収したり、発信器を交換したりしています。

    さらに半年ごとに獣医師が健康状態を確認します。

    飼育施設で生まれたカメが、

    森へ入る。

    人間の視界から消える。

    でも遠くから、その生活を少しだけ見守る。

    繁殖施設と野生の森が、そこでつながっています。

    201匹は、まだ「成果の途中」

    201匹が孵化した。

    それだけでも大きなニュースです。

    でも、保全という視点では、この201匹はまだスタート地点に立ったばかりです。

    成長する。

    健康を維持する。

    野生へ戻せる大きさになる。

    新しい環境へ慣れる。

    森へ放される。

    野生の餌を見つける。

    雨季と乾季を越える。

    そして何年も生き、成長し、最終的には自分たちで繁殖する。

    そこまで到達して初めて、人間が育てた一世代が、野生の個体群へ本当に加わったと言えるのだと思います。

    飼育下繁殖はゴールではない

    動物園や保全施設で絶滅危惧種がたくさん生まれると、

    「もう大丈夫なのでは?」

    と思うことがあります。

    しかし、野生の森そのものが失われれば、帰る場所はありません。

    エロンガータリクガメが減少してきた背景には、捕獲だけではなく、森林の劣化や分断もあります。

    だからACCBでは、

    飼育下繁殖。

    野生復帰。

    放逐後の追跡。

    地域住民との協力。

    生息地の保全。

    それらを一つの流れとして進めています。

    201匹の子ガメを育てることと、

    その201匹が帰れる森を残すこと。

    どちらか一方だけでは成立しません。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が特に注目したいのは、

    「たくさん生まれた」というニュースの先に、森があることです。

    201匹。

    数字として見ると、とても分かりやすい成果です。

    でも、本当に重要なのは、

    その201匹を水槽の中で増やし続けることではない。

    いつか、

    人間が餌を与えなくても、

    人間が温度を管理しなくても、

    人間が毎日姿を確認しなくても、

    森の中で勝手に生きていること。

    そして、

    そのカメ自身が次の卵を産むこと。

    飼育下繁殖が成功するほど、

    次に問われるのは、

    「帰る場所を残せているか」

    なのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    エロンガータかっこいいよね!

    家にスペースがあったら飼育してみたいな〜

    出典

    Angkor Centre for Conservation of Biodiversity(ACCB)
    2026年エロンガータリクガメ繁殖記録。

    Cambodianess
    「Over 200 Hatchlings of Tortoises Show Successful Breeding Year」
    2026年8月10日。

    British and Irish Association of Zoos and Aquariums(BIAZA)
    「The Long (but Slow) Walk Home – Restoring Elongated Tortoise Populations in Cambodia’s Forests」

    京都市動物園
    「エロンガータリクガメ/Elongated Tortoise」

  • 【世界の亀ニュース】遺伝子が示した本当の故郷 保護されたヒョウモンガメ27匹が南アフリカの野生へ

    【世界の亀ニュース】遺伝子が示した本当の故郷 保護されたヒョウモンガメ27匹が南アフリカの野生へ

    今回は、保護施設で暮らしていたヒョウモンガメの出身地域を遺伝子から調べ、本来の生息地に近い場所へ戻した、南アフリカの研究と野生復帰について紹介します。

    今回のニュース

    南アフリカで、保護施設に収容されていたヒョウモンガメの遺伝情報を調べ、出身地域を推定したうえで野生へ戻す取り組みが行われました。

    南アフリカとドイツの研究チームは、野生のヒョウモンガメから集めた遺伝情報を使って地域ごとの特徴をまとめたデータベースを拡張し、保護施設にいた50匹を調査しました。

    その結果、故郷と考えられる地域を判断できた個体を段階的に環境へ慣らし、これまでに27匹が南アフリカ各地の野生へ戻されました。研究成果は2026年に学術誌『Conservation Genetics』で発表され、4月9日にゼンケンベルク自然研究協会が紹介しています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:南アフリカ共和国
    調査に関係する地域:クワズール・ナタール州、東ケープ州、北ケープ州、フリーステイト州、リンポポ州など
    研究協力地域:エスワティニ
    元記事の言語:英語
    公開時期:2026年4月9日
    情報の種類:リクガメ・遺伝子研究・野生復帰・違法取引対策・保護活動

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、ヒョウモンガメです。

    学名は Stigmochelys pardalis。英語ではLeopard Tortoiseと呼ばれます。

    アフリカ中部から南部に分布し、サバンナ、草原、灌木地などに暮らす大型のリクガメです。鳥羽水族館では、最大甲長が70センチを超える種類として紹介されています。

    甲羅には、黄色や黄褐色を基調とした地色に黒や褐色の斑紋が入り、その模様がヒョウを連想させることから、ヒョウモンガメと呼ばれています。

    模様や色合いには個体差があり、成長するにつれて幼体の鮮明な模様が変化していくこともあります。

    ニュースの要約

    保護施設へ収容されるヒョウモンガメの中には、違法に採集された個体、個人によって飼育された後に放棄された個体、飼育場所から逃げ出した個体などが含まれています。

    しかし、保護された場所と、そのカメがもともと暮らしていた場所が同じとは限りません。

    人間によって何百キロ、場合によってはさらに遠くまで運ばれている可能性があるため、保護された地点だけを手がかりに放流場所を決めると、本来とは異なる地域へ放してしまうおそれがあります。

    研究チームは、クワズール・ナタール州とエスワティニの野生個体から得た遺伝情報をデータベースへ加え、保護施設にいた50匹の遺伝子と比較しました。

    すると、クワズール・ナタール州の保護施設にいたカメのうち、遺伝的に同地域の個体と判断されたのは、わずか1匹でした。

    これは、多くのヒョウモンガメが違法取引や人為的な移動によって、本来の分布地域から遠く離れた場所へ運ばれていた可能性を示しています。

    なぜ遺伝子から故郷を調べるのか

    見た目が同じ種類のリクガメであっても、地域ごとの個体群には、長い時間をかけて形成された遺伝的な違いがあります。

    遠く離れた地域の個体を不用意に混ぜると、その土地に適応してきた遺伝的な特徴が失われたり、地域個体群の構成が変化したりする可能性があります。

    また、そのカメが慣れていない気候や植生の地域へ放せば、野生で生き残れないかもしれません。

    そのため研究チームは、単に「ヒョウモンガメが暮らしている場所」へ放すのではなく、遺伝情報を使って、各個体がどの地域に近いのかを調べました。

    遺伝子は、カメが人間によって運ばれた道筋を記録しているわけではありません。

    それでも、どの地域の野生個体と近いのかを比較することで、そのカメが帰るべき場所を考えるための重要な手がかりになります。

    野生へ戻す前の6か月

    放流対象となったヒョウモンガメは、調査が終わるとすぐに野外へ放されたわけではありません。

    まず、将来放す予定の地域に設置された脱走防止用の囲いの中で、およそ6か月間を過ごしました。

    これは「ソフトリリース」と呼ばれる方法です。

    現地の気温、地面、植物、季節の変化などに段階的に慣らし、健康状態や行動を確認した後、最終的に囲いの外へ放します。

    遺伝的な出身地域に応じて、カメたちは別々の場所へ移されました。

    一部は東ケープ州の私設保護区へ、ほかの個体は北ケープ州、フリーステイト州、リンポポ州の保護地域へ戻されています。

    保護施設で一生暮らせばよいのか

    保護されたリクガメを野生へ戻すことには、慎重な判断が必要です。

    病気を持ち込む可能性がある。
    その地域の個体数を過度に増やすかもしれない。
    本来とは異なる個体群を混ぜてしまうかもしれない。
    放した後に生き残れるかも分からない。

    一方で、すべての個体を保護施設で一生飼育することも簡単ではありません。

    ヒョウモンガメは大型で長寿のリクガメです。長期間の飼育には、広い場所、食物、医療、職員、費用が必要になります。

    クワズール・ナタール州のある保護施設では、2016年から2025年までに100匹以上を受け入れ、収容場所が足りず、さらに多くのカメの受け入れを断らなければならない状態になりました。ダーバンの別施設でも、同じ期間に300匹を超える個体が記録されています。

    だからこそ、安全に野生へ戻せる個体については、故郷を慎重に調べ、帰る準備を整える必要があります。

    絶滅危惧種ではなくても守る必要がある

    ヒョウモンガメは広い範囲に分布し、現在は種全体として「低懸念」とされています。

    しかし、南アフリカでは違法な捕獲や飼育、食用や伝統医療への利用、生息地の破壊、都市化、過放牧、野焼き、電気柵による事故など、さまざまな危険にさらされています。

    「絶滅危惧種ではない」という評価は、どの地域の個体群も安全であることを意味しません。

    広い地域に分布している種類であっても、ある土地からカメが次々と持ち出されれば、その場所の個体群は弱くなっていきます。

    そして、人間によって遠くへ運ばれたカメを戻すときには、「どこでもよい」というわけにはいきません。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、保護された場所が、そのカメの故郷とは限らないことです。

    人間は、カメを見つけた場所をその個体の居場所だと思ってしまうことがあります。

    でも、そのカメは誰かに捕まえられ、車に乗せられ、町を越え、州を越えてきたのかもしれない。

    自分の意思とは関係なく遠くへ運ばれ、そこで放棄されたのかもしれない。

    カメは、自分がどこから来たのかを人間の言葉で説明できません。

    けれど、体の中に残された遺伝情報が、その個体の故郷へつながる小さな手がかりになる。

    保護とは、ただ命を助けることだけではなく、その命が本来属していた場所を探すことでもあるのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    俺も生き物飼ってるから言えるけど、生き物飼ってる人間は全員クズだからな。でも、「保護」する奴らも同じクズさ。

    出典

    Senckenberg Nature Research
    「Return to Nature: 27 Leopard Tortoises Released into the Wild in South Africa」

    鳥羽水族館・生きもの図鑑
    「ヒョウモンガメ」

  • 【世界の亀ニュース】低体温で瀕死だったケンプヒメウミガメ「パンケーキ」、8か月の治療を終えて大西洋へ

    【世界の亀ニュース】低体温で瀕死だったケンプヒメウミガメ「パンケーキ」、8か月の治療を終えて大西洋へ

    今回は、アメリカで保護されたケンプヒメウミガメが、長期間の治療とリハビリを終え、大西洋へ戻ったニュースを紹介します。

    今回のニュース

    2026年7月23日、絶滅危惧種のケンプヒメウミガメ「パンケーキ」が、アメリカ・ニューヨーク市のコニーアイランドから大西洋へ放されました。

    パンケーキは2025年11月、マサチューセッツ州ケープコッドで、低水温による「コールドスタニング」に陥った状態で発見された若いウミガメです。

    救助後は二つの施設で治療とリハビリを受け、約8か月ぶりに海へ帰ることができました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:アメリカ合衆国
    発見場所:マサチューセッツ州ウェルフリート
    治療・リハビリ:マサチューセッツ州、ニューヨーク州
    放流場所:ニューヨーク市コニーアイランド
    元記事の言語:英語
    公開時期:2026年7月23日
    情報の種類:新着ニュース・ウミガメ・救助・治療・野生復帰

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、ケンプヒメウミガメです。

    学名は Lepidochelys kempii。英語ではKemp’s ridley sea turtleと呼ばれています。

    ケンプヒメウミガメは、現生するウミガメの中で最も小型の種類です。成長すると体重約32〜45キロ、甲長約60センチに達しますが、今回放されたパンケーキは推定2〜5歳の若い個体で、体重は約5キロでした。

    ニュースの要約

    パンケーキが発見されたのは、2025年11月22日です。

    マサチューセッツ州ウェルフリートのダック・ハーバー・ビーチで、低水温によって動けなくなった状態で見つかり、マサチューセッツ・オーデュボン協会によって救助されました。

    その後、ニューイングランド水族館へ運ばれ、緊急の検査と治療を受けました。

    12月3日には、パンケーキを含む25匹のケンプヒメウミガメが、ニューヨーク州ウェストハンプトンビーチにあるAtlantic Marine Conservation Societyの施設へ移され、長期的なリハビリが始まりました。

    パンケーキは治療を続けながら、少しずつ体力を取り戻していきました。

    施設では、しっかり泳げるか、自分で潜れるか、餌を追いかけて食べられるかなどが確認されました。

    パンケーキはエビや貝を積極的に追い、安定した食欲と力強い遊泳を見せるまでに回復したため、野生へ戻せると判断されました。

    コールドスタニングとは

    コールドスタニングとは、ウミガメが低い水温にさらされ、体が極端に弱って動けなくなる状態です。

    ウミガメは周囲の環境によって体温が変化する爬虫類です。水温が急激に下がると、動きが鈍くなり、自力で泳げなくなって水面へ浮かんだり、風や潮によって海岸へ流されたりします。

    長く低温にさらされると、血液循環や臓器、免疫機能にも影響が出て、救助されなければ死亡する可能性があります。

    ケープコッド周辺では、秋から冬にかけて多数のウミガメがコールドスタニングによって漂着することがあります。

    パンケーキも、海水温が下がる前に暖かい海域へ移動できず、動けなくなった一匹でした。

    約8か月ぶりの海

    2026年7月23日、パンケーキはニューヨーク水族館の前にあるコニーアイランドの海岸へ運ばれました。

    海岸には、保護団体、行政関係者、水族館のスタッフや子どもたちなどが集まりました。

    パンケーキは午後1時13分、自分の力で砂浜を進み、大西洋へ戻りました。集まった人たちは、パンケーキの名前を繰り返し呼びながら、その姿を見送りました。

    甲羅には衛星追跡用の発信器が取り付けられています。

    研究者たちは、パンケーキがどの海域を移動し、どのように餌を取りながら暮らしていくのかを、今後も追跡する予定です。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、一匹のウミガメが海へ戻るまでに、多くの人と施設がつながっていることです。

    最初に海岸でパンケーキを発見した人がいる。

    寒さで動けない体を運んだ人がいる。

    緊急治療を行った獣医師や飼育員がいる。

    長いリハビリの間、毎日状態を確認し、餌を与え、泳ぐ力が戻るのを見守った人たちがいる。

    パンケーキが海へ戻ったのは、一つの施設だけの力ではありません。

    マサチューセッツ州からニューヨーク州へ、多くの人が一匹のウミガメの命をつないだ結果です。

    湯川亀吉の一言

    ほんと素敵なエピソードだと思うぜ。

    でも、名前つけるのは嫌いだね。

    あと、俺がパンケーキなら発信機取付けられたくないね。

    恩を着せられて利用される人生なんて真っ平だぜ。

    出典

    Wildlife Conservation Society
    「Endangered Kemp’s Ridley Sea Turtle “Pancake” Returns to the Atlantic After Successful Rescue and Rehab」

    Popular Science
    「Pancake the rescued sea turtle released on Coney Island beach」

    NOAA Fisheries
    「Cold-Stunning and Sea Turtles – Frequently Asked Questions」

  • 【世界の亀ニュース】育てて放したブランディングガメが母に 20年越しの次世代が湿地へ

    今回は、アメリカ・マサチューセッツ州で続けられてきた淡水ガメの保護活動が、約20年を経て大きな節目を迎えたニュースを紹介します。

    今回のニュース

    2026年6月25日、アメリカ・マサチューセッツ州のグレート・メドウズ国立野生生物保護区で、2匹の若いブランディングガメが湿地へ放されました。

    今回の放流が特別だったのは、この2匹の母親もまた、幼いころに人間の手で育てられ、同じ湿地へ戻されたカメだったことです。

    保護活動で育てられたカメが成長し、野生で繁殖し、その子どもが再び湿地へ帰る。

    2003年に始まった保護事業で、初めて確認された「二代目」の野生復帰です。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:アメリカ合衆国、マサチューセッツ州
    場所:コンコード、グレート・メドウズ国立野生生物保護区と周辺湿地
    放流日:2026年6月25日
    発表時期:2026年6月29日〜7月7日
    情報の種類:新着ニュース・淡水ガメ・野生復帰・繁殖・保護活動

    グレート・メドウズ周辺では、アメリカ魚類野生生物局、マサチューセッツ州野生生物局、ズー・ニューイングランド、学校、地域住民などが協力し、ブランディングガメの保護を続けています。

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、ブランディングガメです。

    学名は Emydoidea blandingii。英語ではBlanding’s Turtleと呼ばれます。

    北米に分布する半水棲の淡水ガメで、浅く流れの緩やかな湿地や、水草の多い池などを利用します。暗く滑らかなドーム状の背甲と、明るい黄色の顎から喉が特徴です。成体の甲長はおよそ16〜22センチになります。

    水中だけで一生を過ごすわけではありません。

    餌場、越冬場所、繁殖に使う水域、産卵場所の間を移動し、1マイル以上も陸上を歩くことがあります。そのため、湿地の分断や道路上での事故の影響を受けやすいカメです。

    ニュースの要約

    今回放された2匹は、生後約9か月のブランディングガメです。

    孵化後の最初の冬をストーン動物園で過ごし、十分に成長してから湿地へ戻されました。

    野生で冬を越した子ガメは、春になっても硬貨ほどの小ささであることが多く、捕食者に襲われる危険があります。一方、暖かい飼育環境で十分な餌を与えられた子ガメは、短期間で体を大きくし、野生で生き残れる可能性を高められます。

    この保護方法は、ヘッドスタートと呼ばれます。

    カメを一生飼育するのではありません。

    命を落としやすい幼少期だけを人間が預かり、ある程度成長した段階で本来の生息地へ戻します。

    母ガメ「アイビー」の物語

    2匹の母親は、個体番号144番、愛称をアイビーといいます。

    アイビーの物語は、2010年に始まりました。

    一匹の母ガメがグレート・メドウズの湿地を離れ、1マイル以上を移動して、近くのオフィス街の植え込みに巣を作りました。

    その巣から生まれた11匹の中に、体重わずか7グラムの雌の子ガメがいました。それがアイビーです。

    アイビーはストーン動物園で約10か月間育てられ、2011年に湿地へ放されました。

    甲羅には、将来再発見したときに識別できる小さな印が付けられていました。

    しかし、その後アイビーは10年以上、人間の前から姿を消します。

    湿地のどこかで生きているのか。
    事故に遭ったのか。
    捕食されたのか。

    人間には分からないまま、時間だけが過ぎていきました。

    10年以上ぶりの再発見

    2023年、野外調査を行っていたスタッフが、成長したアイビーを再発見しました。

    硬貨ほどの子ガメだったアイビーは、繁殖可能な大きさの成体になっていました。

    スタッフは甲羅に無線発信器を取り付け、その後の移動を追跡しました。

    そして2025年6月25日の深夜、アイビーが湿地から産卵場所へ向かっていることを発信器が知らせました。

    保護スタッフが追跡すると、アイビーは保全されている野生の花畑を選び、午前2時30分ごろから8個の卵を産みました。

    そのうち7個が無事に孵化しました。

    保護されたカメが、自分で次の世代を残した

    ヘッドスタートでは、放した子ガメの数が成果として注目されることがあります。

    しかし、本当の目的は、放したカメが大人になることです。

    さらに、その成体が人間の助けを受けずに野生で相手を見つけ、産卵し、次の世代を残すことです。

    アイビーの産卵は、この保護活動が「子ガメを放す段階」から、野生の個体群が自分たちで世代をつなぐ段階へ進み始めたことを示しています。

    2003年に活動が始まってから、グレート・メドウズと周辺湿地では800匹以上のヘッドスタート個体が放されてきました。

    ズー・ニューイングランドのHATCHプログラム全体では、1,400匹以上のブランディングガメが育てられています。

    学校の教室で育てられる子ガメ

    この活動に参加しているのは、動物園や研究施設だけではありません。

    地元の学校では、子どもたちが教室に設置された水槽で、ブランディングガメの子ガメをひと冬育てます。

    暖かい水槽の中で餌を与え、体重や甲羅の長さを記録し、春になると湿地へ戻します。

    2009年以降、この活動にはマサチューセッツ州の学校から2万2,000人以上の児童・生徒が参加しています。

    アイビーが産んだ7匹のうち、今回の式典で放された2匹以外の子ガメも、地域の学校で育てられ、生徒たちによって野生へ戻されました。

    一匹の母ガメから生まれた子どもたちが、複数の教室で冬を越し、それぞれの生徒に見送られて湿地へ帰ったことになります。

    なぜ回復に20年以上かかるのか

    ブランディングガメは、とても長く生きるカメです。

    保護された環境では70〜80年以上生きる可能性があります。

    一方で、繁殖を始めるまでには長い時間がかかり、一般に成熟するのは十数年から20年以上経ってからです。

    卵を孵化させ、子ガメを育て、放流するだけなら、一年以内に行えます。

    しかし、そのカメが無事に成長し、自分の卵を産んだことを確認するには、さらに十年以上待たなければなりません。

    保護活動の結果を確かめるためには、人間の年度や計画期間ではなく、カメの一生に合わせて待つ必要があります

    カメが移動できる地域を守る

    ブランディングガメを守るには、巣や一つの池だけを囲えばよいわけではありません。

    カメたちは複数の湿地を利用し、その間にある森林や草地、住宅地の近くを歩きます。

    アイビーの母親はオフィス街へ産卵に向かい、アイビー自身は保護された花畑に卵を産みました。

    人間が利用する土地と、カメが利用する土地は、完全には分かれていません。

    道路、住宅地、学校、企業、保護区を含む地域全体で協力しなければ、移動するカメを守ることはできません。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、一度放したカメを、人間が完全には見守れないことです。

    アイビーは湿地へ帰ったあと、10年以上姿を見せませんでした。

    保護した人たちは、その間に何が起きているのか知ることができなかった。

    それでも、アイビーは生きていた。

    水の中で餌を探し、冬を越し、少しずつ体を大きくしていた。

    そして、再び見つかったときには、次の世代を残せる母ガメになっていました。

    保護活動は、すべてを管理することではありません。

    人間の手から離れたあと、カメが自分の時間を生きられるようにすること。

    アイビーの子どもたちは、今度は自分たちの姿を湿地の中へ消していきます。

    次に人間と出会うのは、何年後になるのでしょうか。

    湯川亀吉の一言

    亀の累代繁殖やりたいよね。

    出典

    U.S. Fish and Wildlife Service
    「Partners release second generation of “headstarted” turtles at Great Meadows National Wildlife Refuge」

    Massachusetts Division of Fisheries and Wildlife
    「Historic win for Blanding’s turtles」

    Zoo New England
    「Zoo New England, MassWildlife, and U.S. Fish & Wildlife Service release historic second-generation Blanding’s turtles」

    U.S. Fish and Wildlife Service
    「Blanding’s Turtle(Emydoidea blandingii)」

  • 【世界の亀ニュース】絶滅寸前だったキタブチイシガメ37匹、35年続く保護活動で湿地へ

    【世界の亀ニュース】絶滅寸前だったキタブチイシガメ37匹、35年続く保護活動で湿地へ

    今回は、アメリカ・ワシントン州で報じられた、希少な淡水ガメの野生復帰に関するニュースを紹介します。

    今回のニュース

    2026年7月、アメリカ・ワシントン州で、37匹の若いキタブチイシガメが保護された湿地へ放されました。

    この放流は、ワシントン州魚類野生生物局とウッドランドパーク動物園が協力して進める「Western Pond Turtle Recovery Project」の一環です。

    プロジェクトは2026年で開始から35年を迎えました。絶滅寸前だったカメを守るため、卵や子ガメを一時的に安全な環境で育て、野生で生き残りやすい大きさになってから湿地へ戻す活動が続けられています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:アメリカ、ワシントン州
    元記事の言語:英語
    公開時期:2026年7月10日
    情報の種類:新着ニュース・淡水ガメ・野生復帰・保護活動

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、キタブチイシガメです。

    学名は Actinemys marmorata。英語ではWestern Pond TurtleやNorthern Pacific Pond Turtleと呼ばれています。分類や日本語資料によっては、単に「ブチイシガメ」と表記されることもありますが、この記事ではキタブチイシガメとします。

    キタブチイシガメは、池や湿地、流れの緩やかな水辺などに暮らす北米原産の淡水ガメです。

    ワシントン州では個体数が激減し、1990年の時点で残っていたのは、二つの個体群に合計約150匹だけでした。絶滅を防ぐため、1991年に動物園と州当局による本格的な回復事業が始まり、1993年には州の絶滅危惧種に指定されました。

    ニュースの要約

    キタブチイシガメの保護活動では、野生の巣から卵や孵化したばかりの子ガメを集め、ウッドランドパーク動物園やオレゴン動物園で一時的に育てます。

    孵化直後の子ガメは、硬貨ほどの小ささです。

    そのまま野生へ出ると、外来種のウシガエルをはじめとする捕食者に食べられる危険性が高いため、動物園で冬を越しながら、魚やミミズなどを与えて成長させます。

    目標となるのは、体重がおよそ2〜3オンス、約57〜85グラムに達することです。

    この大きさまで育つと、子ガメはウシガエルの口に入りにくくなり、野生で生き残れる可能性が高まります。

    健康状態を確認した後、カメたちは保護された湿地へ戻されます。放流後も、州の生物学者たちが生存状況や移動を追跡します。

    小さなカメに「先行時間」を与える

    この方法は、英語で「ヘッドスタート」と呼ばれています。

    野生動物を一生飼育するのではなく、最も命を落としやすい幼少期だけを安全な環境で過ごさせ、ある程度成長してから本来の生息地へ戻す方法です。

    キタブチイシガメは、性成熟するまでに約10〜12年かかります。孵化した子ガメが成体となり、次の世代を残すまでには、長い時間が必要です。

    だからこそ、最初の数か月を生き延びられるかどうかが、何十年後の個体群に大きく影響します。

    動物園で過ごす一度の冬は、このカメたちにとって、野生へ帰る前に与えられた「先行時間」なのかもしれません。

    35年間で2,300匹以上を野生へ

    35年間にわたる共同事業によって、これまでに2,300匹以上のキタブチイシガメがヘッドスタートを経て野生へ戻されました。

    その結果、ピュージェット湾地域とコロンビア川峡谷では、再び個体群が形成されています。調査では、ヘッドスタート個体と野生で生まれた個体を合わせ、約800匹が生き残っていると推定されています。

    1996年に最初の16匹が放されたワシントン州南部の回復地では、長年の放流によって個体数が200匹を超えるまでに回復した記録もあります。

    約150匹まで減ったカメを、何十年もかけて少しずつ増やしてきた。

    今回放された37匹も、その長い回復の物語につながる新しい世代です。

    回復を脅かす甲羅の病気

    保護活動には、大きな課題も残されています。

    野生個体群では、甲羅に病変が現れる深刻な病気が広がっており、野生個体の80%以上に影響が確認されていると報告されています。

    症状が重くなると、健康状態や生存に影響する可能性があります。現在、シェッド水族館やイリノイ大学の研究者たちが、微生物や環境との関係を含めて病気の原因を調べています。

    外来種から子ガメを守り、生息地を整え、野生へ戻す。

    それだけでも長い時間がかかります。

    さらに、新しく現れた病気にも対応しながら、保護活動を次の世代まで続けなければなりません。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、亀を守る活動そのものも、亀のようにゆっくり進んでいることです。

    1991年に始まった活動が、2026年で35年。

    卵を見つけ、孵化させ、冬のあいだ育て、湿地へ戻す。
    それを毎年繰り返す。

    放した子ガメが成長し、繁殖できるようになるまでには、さらに10年以上かかります。

    一度の放流だけで、絶滅危惧種が回復するわけではありません。

    今日放された37匹が大人になり、その子どもが生まれ、さらに次の世代へ命がつながるまで、保護する人たちは待ち続けます。

    亀は遅い。

    でも、亀を守る活動もまた、急ぐことのできない仕事なのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    孵化したばかりの子ガメは、硬貨ほどの大きさしかない。

    その小さな甲羅では、ウシガエルの口から逃げることも難しい。

    だから人間は、一度だけその命を預かる。

    冬のあいだ食べ物を与え、少しだけ大きく育てて、また湿地へ返す。

    守り続けるのではない。
    野生で生きられるところまで、一緒に時間を進める。

    35年間で2,300匹以上。

    一匹ずつを見れば、小さなカメだ。
    でも、その小さな甲羅を一つずつ湿地へ戻してきた時間は、とても大きい。

    亀はゆっくり育つ。
    だから、人間も急がずに守り続けなければならない。

    今回放された37匹が、いつか泥の岸辺で卵を産む日まで。

    この保護活動は、まだ終わらないのだと思います。

    出典

    Woodland Park Zoo
    「Endangered turtles released to the wild」

    Washington Department of Fish and Wildlife
    「South Puget Sound Wildlife Area Management Plan」

    The Reptile Database
    「Actinemys marmorata」

  • 【世界の亀ニュース】ベトナムで希少な「ヨツメイシガメ」が民家の庭に現れる

    【世界の亀ニュース】ベトナムで希少な「ヨツメイシガメ」が民家の庭に現れる

    今回は、ベトナム中部のフエで報じられた、希少な淡水ガメの保護に関するニュースを紹介します。

    今回のニュース

    ベトナム中部のフエで、希少なヨツメイシガメが民家の庭に現れました。

    Vietnam Association for Conservation of Nature and Environmentの記事によると、フエ市ビンディエン地区に住む女性が、自宅の庭に迷い込んできた珍しいカメを発見し、すぐに当局へ引き渡しました。その後、このカメは手続きを経て自然へ戻されたとされています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:ベトナム、フエ市ビンディエン地区
    元記事の言語:英語
    公開時期:2026年6月15日
    情報の種類:新着ニュース・保護活動・野生復帰

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、ヨツメイシガメです。

    英語では Four-eyed turtle と呼ばれるカメで、後頭部付近に「目」のように見える模様があることから、その名前で呼ばれています。Peopleの記事でも、この種は中国、ラオス、ベトナムの森林に覆われた山地の沢などに生息する希少なカメとして紹介されています。

    ニュースの要約

    フエ市ビンディエン地区に住む女性は、自宅の庭で見慣れないカメを発見しました。

    そのカメは希少なヨツメイシガメで、住民はすぐに森林保護当局へ連絡しました。
    当局はカメを引き取り、必要な手続きを行ったうえで、自然環境へ戻したと報じられています。

    Peopleの記事では、ヨツメイシガメは違法なエキゾチックペット取引の影響を受けている種でもあり、IUCNでも絶滅危惧種として扱われていると紹介されています。

    同じ時期には、別のフエ市民がキイロアタマハコガメを自主的に引き渡したことも報じられており、地域住民が希少なカメを見つけたときに保護へつなげる動きが見られます。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、希少なカメが、特別な保護施設ではなく、ふつうの民家の庭に現れたというところです。

    ヨツメイシガメは、名前からして不思議な存在です。
    本当の目は前を見ているのに、後頭部にはもうひとつの目のような模様がある。

    まるで、森の奥で何かを見ているカメのようにも感じます。

    でも、その不思議さや美しさが、違法なペット取引の対象にもなってしまう。
    珍しいから守られるのではなく、珍しいから狙われることもある。

    今回のように、地域の人が見つけて、捕まえて売るのではなく、当局へ連絡する。
    その一つの判断が、カメの未来を変えるのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    ヨツメイシガメ欲しいんだよね〜。

    出典

    元記事:Vietnam Association for Conservation of Nature and Environment
    「Rare four-eyed turtle found wandering into Hue resident’s yard」

    関連報道:People
    「Rare ‘Four-Eyed’ Turtle Wanders Into a Woman’s Yard, She Immediately Knew What to Do」

  • 【世界の亀ニュース】6週間で90%の個体が消えた川 16匹から始まったベリンジャーリバータートル復活計画

    【世界の亀ニュース】6週間で90%の個体が消えた川 16匹から始まったベリンジャーリバータートル復活計画

    今回は、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の一本の川だけに生息する希少な淡水ガメを紹介します。

    学名は、

    Myuchelys georgesi

    英語では、

    Bellinger River Snapping Turtle
    または
    Bellinger River Saw-shelled Turtle

    と呼ばれています。

    日本語で広く定着した標準和名は確認できなかったため、この記事では英名をもとに、

    ベリンジャーリバータートル

    と表記します。

    2015年。

    このカメが暮らす川で、突然カメが死に始めました。

    原因は、それまで科学に知られていなかったウイルス。

    わずか6週間。

    その間に、

    野生個体群のおよそ90%が失われました。

    種そのものが、

    一本の川から消える寸前まで追い込まれました。

    今回のニュース

    今回取り上げるのは、一つの出来事というより、

    2015年から現在まで続いている復活計画そのもの

    です。

    2015年の大量死を受け、ニューサウスウェールズ州政府とTaronga Zooなどは緊急対応を開始。

    病気の影響を受けていない健康なカメを探し、

    16匹を保全繁殖の基礎個体として確保しました。

    そこから繁殖が始まります。

    現在、Taronga Zooでは10回の繁殖シーズンを通じて、

    500匹を超える子ガメが孵化。

    その子孫を使って5回の野生復帰が実施され、

    197匹の若いカメがベリンジャー川へ戻された

    と報告されています。

    16匹。

    そこから、

    500匹以上。

    そして、

    再び川へ。

    でも、

    この物語はまだ終わっていません。

    どこの国・地域の話か

    国:オーストラリア
    州:ニューサウスウェールズ州
    地域:ニューサウスウェールズ州北部
    河川:Bellinger River(ベリンジャー川)
    対象種:Myuchelys georgesi
    英名:Bellinger River Snapping Turtle / Bellinger River Saw-shelled Turtle
    情報の種類:淡水ガメ・感染症・飼育下繁殖・野生復帰・河川保全

    このカメの大きな特徴は、

    世界中を探しても、ほぼこの川にしかいない

    ということです。

    オーストラリア政府によると、生息域はニューサウスウェールズ州北部のベリンジャー川流域に限られています。

    つまり、

    この一本の川で何か起きれば、

    世界中の個体群が同時に危険になります。

    登場する亀

    ベリンジャーリバータートルは、

    ヘビクビガメ科に属する短い首の淡水ガメです。

    成体の背甲は楕円形で暗褐色。

    雌は甲長約25cm、

    雄は約18cmまで成長します。

    顎から首にかけて淡い黄色の線が入る個体が多く、

    顎の下には、

    2本の小さな肉質突起=バーベル

    を持つ個体もいます。

    岩のある澄んだ川を好む

    このカメは、

    泥の多い沼を主な生活場所にするタイプではありません。

    好むのは、

    流れのある透明な川。

    特に、

    深さのある淵。

    岩。

    礫。

    小石。

    そうしたものが川底にある場所を利用します。

    オーストラリア政府は、2mを超える深い淵で確認されることも多いとしています。

    水底では、

    水生昆虫などの大型無脊椎動物。

    植物。

    果実。

    などを食べる雑食性です。

    2015年2月、川で異変が起きた

    2015年2月。

    ベリンジャー川の岸で、

    カメが次々と見つかるようになります。

    しかし、

    普通ではありませんでした。

    病気になっている。

    衰弱している。

    そして、

    死んでいく。

    当初、

    原因は分かりませんでした。

    水質汚染なのか。

    毒物なのか。

    細菌なのか。

    未知の感染症なのか。

    調査が始まります。

    そして後に、この大量死と強く関連すると考えられる新しいウイルスが特定されました。

    現在、

    Bellinger River Virus

    と呼ばれています。

    6週間

    数字だけ見ると、

    この事件の異常さが分かります。

    大量死が起こる前、

    野生個体群はおよそ4,000匹だったと推定されています。

    ところが、

    わずか6週間で約90%が死亡。

    2015年末には、

    推定約400匹。

    さらに2019年頃には、

    約150匹まで減少した可能性があります。

    数千匹いたカメが、

    一つの季節の中で、

    ほとんどいなくなりました。

    カメの「パンデミック」

    Taronga Zooは、この出来事を紹介する際、

    Turtle pandemic

    という表現を使っています。

    まさに、

    カメだけのパンデミックです。

    しかも、

    このカメには逃げ場がありません。

    広いオーストラリア大陸のあちこちに生息しているなら、

    一つの川で病気が起きても、

    別の地域の個体群が残る可能性があります。

    でも、

    ベリンジャーリバータートルは違う。

    ほぼ一本の川だけ。

    病気がその川を進めば、

    種そのものを巻き込む可能性がある。

    そこで16匹を川から出した

    大量死が続く中、

    保全チームは一つの決断をします。

    健康なカメを、

    川から避難させる。

    16匹。

    この個体たちが、

    将来の保全繁殖の基礎になりました。

    これは、

    ある意味では非常に怖い選択だったと思います。

    野生動物を自然から取り上げる。

    でも、

    そのまま川に置いておけば、

    ウイルスに感染して死ぬ可能性もある。

    捕まえるリスクと、

    残すリスク。

    その中で、

    種全体を失わないために、

    人間の管理下へ移しました。

    「保険」としての16匹

    この16匹は、

    ただ救助されたカメではありません。

    もし川の個体群が完全に消えてしまっても、

    種そのものを残すための、

    insurance population=保険個体群

    です。

    つまり、

    世界からこのカメがいなくなるかもしれない状況で、

    最後のバックアップを作ったことになります。

    Taronga Zooで繁殖計画が始まり、

    2017年にはSymbio Wildlife Parkにも第二の繁殖個体群が作られました。

    一か所だけではない。

    もし一つの施設で事故や感染症が起きても、

    別の場所に個体群を残す。

    ここにも、

    「種を失わないための保険」

    という考え方があります。

    そして卵を産んだ

    保全施設へ移されたカメたちは、

    繁殖を始めました。

    最初の繁殖成功時には、

    複数の雌が卵を産み、

    小さな子ガメが孵化しました。

    孵化直後の体重は、

    わずか4〜5グラム程度

    ほぼコインほどの大きさです。

    2018年には、

    その年だけで31匹が孵化。

    前年の22匹と合わせ、

    飼育下個体群が急速に増え始めました。

    現在までに500匹以上が孵化

    そして現在。

    Taronga Zooの保全プログラムでは、

    10回連続の繁殖シーズンで、500匹以上が孵化しました。

    2015年。

    16匹を保護する。

    そこから、

    卵。

    子ガメ。

    また卵。

    また子ガメ。

    何世代もつなぐ。

    一度、

    数百匹規模まで落ちた種を、

    もう一度増やそうとしています。

    でも飼育施設で増やすだけでは意味がない

    この「世界の亀ニュース」で何度も出てくる話だけど、

    ここでも同じです。

    動物園で500匹生まれた。

    それは、

    ものすごい成果です。

    でも、

    ベリンジャーリバータートルは、

    動物園のカメではありません。

    ベリンジャー川のカメです。

    だから、

    最終的には川へ戻さなければなりません。

    2018年、最初の10匹

    最初の試験的な野生復帰は、

    2018年。

    飼育下で生まれ育った若いカメ10匹が、

    ベリンジャー川へ放されました。

    初期の追跡では、

    10匹のうち8匹が生存確認され、

    もう1匹も生きている可能性が高いとされました。

    つまり、

    動物園で生まれたカメでも、川で生活できた。

    この結果が、

    次の放流につながります。

    97匹を一度に川へ

    そして2024年。

    それまでで最大規模となる放流が実施されます。

    数は、

    97匹。

    飼育施設で育てられた若いベリンジャーリバータートルが、

    一度に川へ戻りました。

    この放流によって、

    2018年以降に野生へ戻された数は、

    当時合計179匹になりました。

    その後もプログラムは続き、

    Taronga Zooの現在の情報では、

    197匹が川へ戻された

    とされています。

    放したカメを追いかける

    カメを川へ入れる。

    写真を撮る。

    拍手する。

    それで終わりではありません。

    放流された個体は、

    その後も追跡されます。

    生きているか。

    どこへ移動したか。

    どんな水深を使うか。

    病気になっていないか。

    どんな場所に定着するか。

    そうした情報を集めます。

    野生復帰で本当に知りたいのは、

    「放せたか」ではなく、「放したあと生きられたか」

    だからです。

    そして最大の問題は、まだ川にウイルスがいるかもしれないこと

    ここが、

    この保全プロジェクトの難しいところです。

    原因となったウイルスに対して、

    現在も確立した治療法はありません。

    さらに、

    ウイルスがどのように伝播するのか。

    どこに残っているのか。

    再び大規模な流行が起こる可能性はあるのか。

    完全には解明されていません。

    つまり、

    カメを増やして、

    元の川へ戻す。

    でも、

    その川こそが、かつて大量死が起きた場所。

    そこへ戻さなければ、

    野生復帰にはならない。

    でも、

    戻せば病気に遭遇する可能性がある。

    非常に難しい問題です。

    ワクチンまで研究対象になっている

    オーストラリア政府が挙げている将来の重要な保全策の一つには、

    ニドウイルスに対するワクチン開発

    まで含まれています。

    亀の保全というと、

    巣を守る。

    密猟を防ぐ。

    森を残す。

    そんな活動を想像します。

    でも、

    このカメの場合は、

    ウイルス学。

    獣医学。

    免疫。

    ワクチン。

    そうした分野まで必要になります。

    川そのものを監視する

    さらに、

    病気だけ調べればいいわけではありません。

    水質。

    水生昆虫。

    川岸の植物。

    外来種。

    流域の土地利用。

    全部が、

    カメの生活につながります。

    現在もベリンジャー川では水質調査や大型無脊椎動物の調査が続き、2024〜2025年には病気の監視のため30匹以上のカメが健康診断を受けています。

    河岸では、

    17ヘクタール以上の外来植物除去。

    家畜が川岸へ入り込むのを防ぐ約700mのフェンス設置。

    なども進められています。

    カメを守るというより、

    カメが生きている川全体を診察している

    ようなプロジェクトです。

    卵にも敵がいる

    さらに野生へ戻ったあとには、

    感染症以外の危険もあります。

    雌は晩春になると川岸へ上がり、

    砂や礫のある場所へ、

    10〜15個程度の卵を産みます。

    ところが、

    その卵は、

    キツネ。

    オオトカゲ類。

    などに捕食されます。

    そのため、

    重要な産卵地を守ることも、

    現在の保全計画に含まれています。

    一つ問題を解決すると、

    次の問題が出てきます。

    病気から救う。

    繁殖させる。

    川へ戻す。

    卵を守る。

    川を守る。

    亀一種を守るために、一本の川を見る

    僕は、

    このニュースの面白いところはここだと思います。

    最初は、

    「カメが死んでいる」

    という事件でした。

    だから、

    カメを調べる。

    でも、

    だんだん範囲が広がる。

    ウイルスを調べる。

    水を調べる。

    川底を調べる。

    植物を見る。

    外来種を見る。

    農地を見る。

    人間の暮らしを見る。

    最後には、

    一本の川そのものを理解しなければ、カメを守れない

    というところまで行きます。

    小さなカメ一種から、

    川全体が見えてきます。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番注目したいのは、

    16匹という数字です。

    500匹以上生まれた。

    197匹戻った。

    97匹を一度に放した。

    どれも大きな数字です。

    でも、

    そのすべての始まりは、

    16匹だった。

    ウイルスが川を進んでいる。

    カメが次々死ぬ。

    残っている健康な個体を探す。

    見つける。

    捕まえる。

    隔離する。

    その16匹が、

    今の個体群の未来につながっている。

    もし、

    「あまりにも少ないから意味がない」

    と諦めていたら、

    現在の500匹は存在していなかったかもしれません。

    16匹でも、

    始める。

    僕は、

    そこが一番すごいと思います。

    湯川亀吉の一言

    この亀初めてみた!!

    かっこいいなぁ!!

    出典

    Taronga Conservation Society Australia
    「Bellinger River Turtle」
    現在の繁殖状況、生態、500匹以上の孵化、197匹の野生復帰について。
    Taronga Zoo「Bellinger River Turtle」

    Australian Government – Department of Climate Change, Energy, the Environment and Water
    「Bellinger River snapping turtle」
    分布、形態、2015年の大量死、個体数推定、脅威、現在の保全策について。2026年5月26日更新。
    オーストラリア政府の種情報

    NSW Government / Saving our Species
    「From crisis to conservation: almost 100 Bellinger River snapping turtles in largest release yet」
    2024年4月8日。97匹の放流と2015年以降の回復計画について。
    NSW Governmentの記事

    Taronga Conservation Society Australia
    「From crisis to conservation: almost 100 Bellinger River snapping turtles in largest release yet」
    2024年4月5日。
    Taronga Zooの記事

    NSW Government – North Coast Local Land Services
    「Bellinger River snapping turtle conservation」
    2024〜2025年の水質調査、疾病監視、河岸環境の回復活動について。
    現在の河川保全プロジェクト