
今回は、アメリカ・マサチューセッツ州で続けられてきた淡水ガメの保護活動が、約20年を経て大きな節目を迎えたニュースを紹介します。
今回のニュース
2026年6月25日、アメリカ・マサチューセッツ州のグレート・メドウズ国立野生生物保護区で、2匹の若いブランディングガメが湿地へ放されました。
今回の放流が特別だったのは、この2匹の母親もまた、幼いころに人間の手で育てられ、同じ湿地へ戻されたカメだったことです。
保護活動で育てられたカメが成長し、野生で繁殖し、その子どもが再び湿地へ帰る。
2003年に始まった保護事業で、初めて確認された「二代目」の野生復帰です。
どこの国・地域の話か
国・地域:アメリカ合衆国、マサチューセッツ州
場所:コンコード、グレート・メドウズ国立野生生物保護区と周辺湿地
放流日:2026年6月25日
発表時期:2026年6月29日〜7月7日
情報の種類:新着ニュース・淡水ガメ・野生復帰・繁殖・保護活動
グレート・メドウズ周辺では、アメリカ魚類野生生物局、マサチューセッツ州野生生物局、ズー・ニューイングランド、学校、地域住民などが協力し、ブランディングガメの保護を続けています。
登場する亀
今回のニュースに登場するのは、ブランディングガメです。
学名は Emydoidea blandingii。英語ではBlanding’s Turtleと呼ばれます。
北米に分布する半水棲の淡水ガメで、浅く流れの緩やかな湿地や、水草の多い池などを利用します。暗く滑らかなドーム状の背甲と、明るい黄色の顎から喉が特徴です。成体の甲長はおよそ16〜22センチになります。
水中だけで一生を過ごすわけではありません。
餌場、越冬場所、繁殖に使う水域、産卵場所の間を移動し、1マイル以上も陸上を歩くことがあります。そのため、湿地の分断や道路上での事故の影響を受けやすいカメです。
ニュースの要約
今回放された2匹は、生後約9か月のブランディングガメです。
孵化後の最初の冬をストーン動物園で過ごし、十分に成長してから湿地へ戻されました。
野生で冬を越した子ガメは、春になっても硬貨ほどの小ささであることが多く、捕食者に襲われる危険があります。一方、暖かい飼育環境で十分な餌を与えられた子ガメは、短期間で体を大きくし、野生で生き残れる可能性を高められます。
この保護方法は、ヘッドスタートと呼ばれます。
カメを一生飼育するのではありません。
命を落としやすい幼少期だけを人間が預かり、ある程度成長した段階で本来の生息地へ戻します。
母ガメ「アイビー」の物語
2匹の母親は、個体番号144番、愛称をアイビーといいます。
アイビーの物語は、2010年に始まりました。
一匹の母ガメがグレート・メドウズの湿地を離れ、1マイル以上を移動して、近くのオフィス街の植え込みに巣を作りました。
その巣から生まれた11匹の中に、体重わずか7グラムの雌の子ガメがいました。それがアイビーです。
アイビーはストーン動物園で約10か月間育てられ、2011年に湿地へ放されました。
甲羅には、将来再発見したときに識別できる小さな印が付けられていました。
しかし、その後アイビーは10年以上、人間の前から姿を消します。
湿地のどこかで生きているのか。
事故に遭ったのか。
捕食されたのか。
人間には分からないまま、時間だけが過ぎていきました。
10年以上ぶりの再発見
2023年、野外調査を行っていたスタッフが、成長したアイビーを再発見しました。
硬貨ほどの子ガメだったアイビーは、繁殖可能な大きさの成体になっていました。
スタッフは甲羅に無線発信器を取り付け、その後の移動を追跡しました。
そして2025年6月25日の深夜、アイビーが湿地から産卵場所へ向かっていることを発信器が知らせました。
保護スタッフが追跡すると、アイビーは保全されている野生の花畑を選び、午前2時30分ごろから8個の卵を産みました。
そのうち7個が無事に孵化しました。
保護されたカメが、自分で次の世代を残した
ヘッドスタートでは、放した子ガメの数が成果として注目されることがあります。
しかし、本当の目的は、放したカメが大人になることです。
さらに、その成体が人間の助けを受けずに野生で相手を見つけ、産卵し、次の世代を残すことです。
アイビーの産卵は、この保護活動が「子ガメを放す段階」から、野生の個体群が自分たちで世代をつなぐ段階へ進み始めたことを示しています。
2003年に活動が始まってから、グレート・メドウズと周辺湿地では800匹以上のヘッドスタート個体が放されてきました。
ズー・ニューイングランドのHATCHプログラム全体では、1,400匹以上のブランディングガメが育てられています。
学校の教室で育てられる子ガメ
この活動に参加しているのは、動物園や研究施設だけではありません。
地元の学校では、子どもたちが教室に設置された水槽で、ブランディングガメの子ガメをひと冬育てます。
暖かい水槽の中で餌を与え、体重や甲羅の長さを記録し、春になると湿地へ戻します。
2009年以降、この活動にはマサチューセッツ州の学校から2万2,000人以上の児童・生徒が参加しています。
アイビーが産んだ7匹のうち、今回の式典で放された2匹以外の子ガメも、地域の学校で育てられ、生徒たちによって野生へ戻されました。
一匹の母ガメから生まれた子どもたちが、複数の教室で冬を越し、それぞれの生徒に見送られて湿地へ帰ったことになります。
なぜ回復に20年以上かかるのか
ブランディングガメは、とても長く生きるカメです。
保護された環境では70〜80年以上生きる可能性があります。
一方で、繁殖を始めるまでには長い時間がかかり、一般に成熟するのは十数年から20年以上経ってからです。
卵を孵化させ、子ガメを育て、放流するだけなら、一年以内に行えます。
しかし、そのカメが無事に成長し、自分の卵を産んだことを確認するには、さらに十年以上待たなければなりません。
保護活動の結果を確かめるためには、人間の年度や計画期間ではなく、カメの一生に合わせて待つ必要があります。
カメが移動できる地域を守る
ブランディングガメを守るには、巣や一つの池だけを囲えばよいわけではありません。
カメたちは複数の湿地を利用し、その間にある森林や草地、住宅地の近くを歩きます。
アイビーの母親はオフィス街へ産卵に向かい、アイビー自身は保護された花畑に卵を産みました。
人間が利用する土地と、カメが利用する土地は、完全には分かれていません。
道路、住宅地、学校、企業、保護区を含む地域全体で協力しなければ、移動するカメを守ることはできません。
亀好きとして注目したいポイント
このニュースで注目したいのは、一度放したカメを、人間が完全には見守れないことです。
アイビーは湿地へ帰ったあと、10年以上姿を見せませんでした。
保護した人たちは、その間に何が起きているのか知ることができなかった。
それでも、アイビーは生きていた。
水の中で餌を探し、冬を越し、少しずつ体を大きくしていた。
そして、再び見つかったときには、次の世代を残せる母ガメになっていました。
保護活動は、すべてを管理することではありません。
人間の手から離れたあと、カメが自分の時間を生きられるようにすること。
アイビーの子どもたちは、今度は自分たちの姿を湿地の中へ消していきます。
次に人間と出会うのは、何年後になるのでしょうか。
湯川亀吉の一言
亀の累代繁殖やりたいよね。
出典
U.S. Fish and Wildlife Service
「Partners release second generation of “headstarted” turtles at Great Meadows National Wildlife Refuge」
Massachusetts Division of Fisheries and Wildlife
「Historic win for Blanding’s turtles」
Zoo New England
「Zoo New England, MassWildlife, and U.S. Fish & Wildlife Service release historic second-generation Blanding’s turtles」
U.S. Fish and Wildlife Service
「Blanding’s Turtle(Emydoidea blandingii)」

