
今回は、中米ベリーズから、
一匹のカメを守るために、
国全体でこれから何をするのかを決めたニュースを紹介します。
主役は、
メキシコカワガメ。
学名は、
Dermatemys mawii。
英語では、
Central American River Turtle。
そしてベリーズでは、
Hicatee(ヒカティー)
という名前で親しまれています。
2026年8月。
ベリーズ水産局は、このヒカティーを絶滅から守るための
Central American River Turtle (Hicatee) Conservation Action Plan 2026
を正式に承認しました。
そこに並んでいる具体的な行動は、
58項目。
密猟対策。
法律。
教育。
飼育下繁殖。
野生復帰。
研究。
生息地保全。
それらを一つの計画にまとめ、
これから実際に動かしていきます。
今回のニュース
Turtle Survival Alliance(TSA)が2026年8月31日に発表したところによると、ベリーズのMinistry of Blue Economy & Marine Conservation傘下のFisheries Departmentが、ヒカティーの新しい保全行動計画を承認しました。
計画作りを中心となって進めたのは、
Belize Foundation for Research and Environmental Education(BFREE)。
そこへ、
Belize Fisheries Department。
Turtle Survival Alliance。
Zoo New England。
研究者。
大学。
保全団体。
行政。
そして、
実際にヒカティーを捕ってきた伝統的な漁業地域の人々
まで参加しました。
計画づくりそのものは2020年から始まり、オンライン・対面のワークショップや戦略会議を何年も重ねてきました。
そして2026年8月24日。
ベリーズのNational Climate Weekで正式に発表。
ようやく、
「ヒカティーを守りたい」
という段階から、
「誰が、何を、どう進めるのか」
という実行段階へ移ります。
どこの国・地域の話か
国:ベリーズ
地域:中米
対象種:メキシコカワガメ
現地名:Hicatee
学名:Dermatemys mawii
英名:Central American River Turtle
発表:2026年8月24日
TSA発表:2026年8月31日
情報の種類:淡水ガメ・国家保全計画・飼育下繁殖・野生復帰・密猟対策・生息地保全
メキシコカワガメは、
ベリーズだけのカメではありません。
現在の自然分布は、
ベリーズ。
グアテマラ。
メキシコ南部。
この3地域に限られています。
登場する亀
今回の主役、
Dermatemys mawii。
日本ではメキシコカワガメという名前が使われています。
そして、このカメには、
とても大きな特徴があります。
ものすごく水棲傾向が強い。
川。
湖。
三日月湖。
冠水林。
そうした淡水環境の中で生活します。
さらに、
大型の淡水ガメでありながら、
ほぼ完全な植物食。
水中や川沿いの植物を利用します。
見た目もかなり独特です。
甲羅は一般的なカメのようにゴツゴツと高く盛り上がらず、
比較的滑らか。
頭は丸みがあり、
鼻先は少し突き出しています。
完全に、
「川を泳ぐためのカメ」
という感じです。
この一匹しか残っていない「科」
ここが、
僕が今回一番驚いたところです。
メキシコカワガメが所属するのは、
Dermatemydidae。
現在、
この科に生きている種類は、
Dermatemys mawiiだけ。
一種類です。
WCS Belizeによると、
その最も近い親戚たちは、
現在では化石でしか知られていません。
さらに、
この系統は他の現生カメ類から、
およそ8,000万年前に分岐したとされています。
8,000万年前。
恐竜がいた時代です。
つまり、
メキシコカワガメが絶滅するということは、
一種類がいなくなるだけではありません。
8,000万年以上続いてきた一本の系統そのものが、現代で途切れる
ということになります。
でも、人間が食べてきたカメでもある
そして、
このカメの保全を難しくしている理由があります。
ヒカティーは、
ベリーズの人々にとって、
単なる珍しい野生動物ではありません。
長い間、
食文化とも結びついてきたカメです。
そのため、
捕獲されてきました。
そして、
捕獲量が個体群の回復能力を上回るようになった。
TSAやBFREEは、
現在の大きな減少原因として、
食用目的の過剰捕獲
を挙げています。
だから今回の計画も、
単純に、
「捕るな」
だけではありません。
文化。
地域住民。
法律。
教育。
研究。
野生個体群。
全部を一緒に考えています。
現在も細かい捕獲規制がある
ベリーズでは現在、
ヒカティーの売買は禁止されています。
さらに、
所持できる数。
車両で運べる数。
雌の捕獲に関するサイズ制限。
5月1日から31日までの禁漁期。
などの規制があります。
ここからも、
このカメと人間との関係の複雑さが分かります。
完全に、
人間から切り離された野生動物ではない。
でも、
今までと同じように捕り続ければ、
いなくなる。
だから、
「利用」と「存続」をどう両立させるのか
まで考えなければなりません。
58の行動
今回決められた計画には、
58の具体的な行動が設定されています。
大きく分けると、
法執行。
法律・規制。
地域教育。
飼育個体群管理。
野生復帰。
研究。
野生個体群そのものの保全。
生息地の回復と保護。
などです。
つまり、
「繁殖させればいい」
ではありません。
密猟を減らす。
子どもたちへ伝える。
川を残す。
野生の数を調べる。
飼育個体の血統を管理する。
カメを戻す。
そして、
戻した場所を守る。
全部必要です。
2010年から続いてきた
もちろん、
2026年に突然始まった活動ではありません。
BFREEとTSAが本格的にヒカティー保全へ協力し始めたのは、
2010年。
翌2011年には、
Hicatee Conservation & Research Center
が設立されました。
そこで、
飼育下繁殖。
ヘッドスタート。
野生個体群調査。
生態研究。
教育。
再導入。
さまざまな活動が進められてきました。
15年以上の実践を経て、
今回、
それらを国の正式なロードマップにまとめたわけです。
1,000匹以上を野生へ
そして、
すでに結果も出始めています。
TSAによると、
これまでに、
1,000匹以上のヘッドスタート個体が野生へ放されています。
つまり、
飼育施設で増やすだけではない。
育てる。
野生で生きられるサイズにする。
そして、
川へ戻す。
すでにそこまで進んでいます。
30,000エーカーを守った
さらに2021年。
TSA、BFREEなどの保全パートナーは、
約30,000エーカー
の土地の保全につなげました。
その中には、
重要なヒカティー生息地であるCox Lagoonも含まれます。
Cox Lagoonは、
Belize Riverとつながる重要な淡水環境です。
1,000匹カメを育てる。
でも、
川がなくなったら意味がない。
だから、
カメだけでなく、
カメが帰る場所そのものを確保する。
ここでも、
同じ考え方が出てきます。
学校でも「ヒカティー」を伝える
保全活動のもう一つの柱が、
教育です。
TSAによると、
これまでにヒカティーを題材とした教育・普及活動へ、
数千人のベリーズの子どもたち
が参加しています。
学校では、
ヒカティーをテーマにしたバナーなども作られてきました。
これは、
かなり重要だと思います。
今、
川にいる大人のカメを守る。
でも、
20年後に、
そのカメを捕るか、
守るかを決めるのは、
今の子どもたちかもしれない。
カメの寿命は、
人間の政策より長い。
だから、
次の世代まで含めて保全する必要があります。
「ベリーズが最後の希望」
BFREEのJacob Marlin氏は、
ヒカティーについて、
ベリーズがこの種の長期的な存続にとって最後の希望だ
という強い表現を使っています。
もちろん、
メキシコやグアテマラにも本種は残っています。
でも、
多くの地域ですでに個体群は大幅に減少し、
場所によっては姿を消しました。
だからこそ、
比較的個体群が残っているベリーズで、
今止められるかどうかが重要になります。
「計画を作った」で終わらせない
そして今回、
一番大事なのはここです。
58項目を決めた。
立派な冊子を作った。
政府が承認した。
それだけでは、
カメは一匹も増えません。
BFREE自身も、
保全団体だけではヒカティーを救えない
と明言しています。
最終的に、
ヒカティーがベリーズで十分な数を維持できるかどうかを決めるのは、
ベリーズの人々です。
だから今回の発表は、
完成ではありません。
むしろ、
スタートラインです。
亀好きとして注目したいポイント
今回のニュースで僕が一番面白いと思うのは、
やっぱり、
「一種類を失うことと、一つの進化の枝を失うことは同じではない」
というところです。
ヒカティーが絶滅する。
すると、
Dermatemys mawiiがいなくなる。
でも、
それだけじゃない。
Dermatemydidaeというグループから、
生きている動物が、
一匹もいなくなる。
何千万年も続いた系統が、
そこで終わる。
恐竜が歩いていた頃から、
祖先が形を変えながら、
ずっと命をつないできた。
気候が変わった。
大陸が変わった。
他の動物が絶滅した。
それでも、
この一本だけは、
2026年まで来た。
だったら、
ここで終わらせたくない。
今回の58項目は、
その一本の線を、
未来へもう少し伸ばすための計画なんだと思います。
湯川亀吉の一言
ベリーズって国があるということを知らなかった!
出典
Belize Fisheries Department
「Central American River Turtle (Hicatee) Conservation Action Plan 2026」
ベリーズ政府が正式に公開している保全行動計画。58の戦略的行動と長期的な保全方針について。
Belize Fisheries Departmentの公式資料ページを見る
Turtle Survival Alliance
「Belize Approves Conservation and Action Plan for Critically Endangered Hicatee」
2026年8月31日。計画の承認、58項目、15年以上の保全活動、1,000匹以上の野生復帰、30,000エーカーの生息地保全について。
TSAの記事を読む
Belize Foundation for Research and Environmental Education(BFREE)
「Hope for the Hicatee」
2026年8月24日。計画作成の経緯、地域住民・研究者・行政などの参加、Climate Weekでの発表について。
BFREEの記事を読む
Wildlife Conservation Society Belize
「Central American River Turtle」
本種がDermatemydidae唯一の現生種であること、約8,000万年前に他の現生カメ類から分岐した非常に古い系統であること、分布・食性・脅威について。
WCS Belizeの種紹介を見る
IUCN/SSC Tortoise and Freshwater Turtle Specialist Group
「Dermatemys mawii – Central American River Turtle」
分類、分布、生態、植物食、保全状況について。
TFTSGの種アカウントを見る






