
今回は、アメリカのテネシー水族館で、5種類の淡水ガメの子どもが相次いで誕生したニュースを紹介します。
今回のニュース
アメリカ・テネシー州チャタヌーガにあるテネシー水族館で、2026年5月中旬以降、5種類、合計7匹の淡水ガメが孵化しました。
誕生したのは、ヨツメイシガメ3匹、ジャノメイシガメ1匹、キボシイシガメ1匹、ワモンチズガメ1匹、ヒラリーカエルガメ1匹です。
このうち多くは、絶滅の危機に直面している種類です。さらに水族館の孵卵器では、別のワモンチズガメやモリイシガメ類などの卵も発生を続けています。テネシー水族館が7月7日に発表し、アメリカ動物園水族館協会が7月31日に改めて紹介しました。
どこの国・地域の話か
国・地域:アメリカ合衆国、テネシー州
場所:チャタヌーガ、テネシー水族館
元記事の言語:英語
水族館による発表:2026年7月7日
アメリカ動物園水族館協会による紹介:2026年7月31日
情報の種類:新着ニュース・淡水ガメ・繁殖・孵化・動物園・絶滅危惧種
テネシー水族館は、一般公開されているものとしては北米最大規模の淡水ガメコレクションを持つ施設です。1992年の開館から今回の発表までに、56種類・亜種、合計1,166匹のカメを孵化させてきました。
誕生した5種類のカメ
今回孵化したのは、次の5種類です。
ヨツメイシガメ 3匹
学名は Sacalia quadriocellata。
頭部の左右にある眼状斑によって、本物の目と合わせて四つの目があるように見えることが、和名の由来です。今回誕生した種類の中では最も多い3匹が孵化しました。
ジャノメイシガメ 1匹
学名は Sacalia bealei。
英語ではBeal’s four-eyed turtle、またはBeal’s eyed turtleと呼ばれます。ヨツメイシガメと同じSacalia属ですが、甲羅や頭部の模様に違いがあります。日本では「ジャノメイシガメ」という和名が使われています。
キボシイシガメ 1匹
学名は Clemmys guttata。
黒い甲羅や皮膚に黄色い斑点が散らばる、小型の北米産淡水ガメです。英語ではSpotted turtleと呼ばれています。
ワモンチズガメ 1匹
学名は Graptemys oculifera。
甲羅に輪のような模様が現れるチズガメの仲間で、英語名はRinged map turtleです。アメリカ南部の限られた水系に分布する種類です。
ヒラリーカエルガメ 1匹
学名は Phrynops hilarii。
南米に分布するヨコクビガメ類の一種です。首を甲羅へまっすぐ引き込むのではなく、横へ曲げて収納します。顎にある2本のヒゲ状突起も特徴です。
ニュースの要約
今回の孵化では、ヨツメイシガメが3匹、そのほかの4種類が1匹ずつ誕生しました。
テネシー水族館の記事では、ヨツメイシガメは「深刻な絶滅危機」、ジャノメイシガメ、キボシイシガメ、ワモンチズガメは「絶滅危惧」と紹介されています。
ヒラリーカエルガメは同じ評価対象には含まれていませんが、異なる大陸や環境で進化した5種類が、同じ時期に一つの水族館で孵化したことになります。
水族館の孵卵器では、さらに2匹のワモンチズガメが孵化直前とみられています。
また、チュウオウアメリカモリイシガメとキボシチズガメの卵も、順調な発生を示していると報告されました。ワモンチズガメがテネシー水族館で孵化したのは、1998年以来です。
孵卵器の中に季節を作る
カメの卵を孵化させるには、温度を一定に保つだけでは十分ではありません。
土や砂などの床材、水分量、空気の温度、湿度といった条件を、その種類が野生で経験する環境に近づける必要があります。
飼育下での繁殖例が少ない種類では、どの条件が適しているのか、まだ十分に分かっていない場合もあります。飼育担当者は、卵の状態を観察しながら、野生の季節変化を孵卵器の中で再現します。
特に複雑だったのが、ヒラリーカエルガメの孵化です。
このカメが生息する南米では、卵が産み落とされる時期と、子ガメが安全に活動できる雨季との間に時間があります。
卵の発生や孵化はすぐに進むのではなく、条件が整うまで遅らせられることがあります。雨季の嵐や水位上昇などの環境変化が、子ガメにとって外へ出る合図になります。
テネシー水族館では、最初に卵を低温・低湿度に近い条件で管理しました。
その後、少しずつ温度を上げ、時折水を吹きかけることで、乾季から雨季へ移り変わる環境を再現しました。
つまり、飼育員は孵卵器の中で南米の季節を進め、子ガメが卵から出る時期を待ったのです。
2007年から続くヨツメイシガメの繁殖
テネシー水族館は、ヨツメイシガメの繁殖で特に大きな成果を残してきました。
同館では2007年、飼育下では世界初とされたヨツメイシガメの孵化に成功しました。それ以降、今回の3匹を含め、飼育下個体群へ加わったヨツメイシガメは合計72匹になりました。
水族館で誕生した個体の一部は、ブロンクス動物園、ノックスビル動物園、キャメロンパーク動物園など、アメリカ動物園水族館協会に加盟する別の施設へ移されています。
一つの施設だけで個体を抱えるのではなく、複数の施設で分散して飼育・繁殖することで、災害や病気などによって一度に個体群を失う危険を減らせます。
飼育下で残す「もう一つの個体群」
今回誕生した子ガメが、すぐに野生へ放されるわけではありません。
動物園や水族館で維持される希少種の個体群には、野生の個体群がさらに減少した場合に備える「保険」のような役割があります。
適切な血統管理を行いながら繁殖を続けることで、その種類そのものと、飼育・繁殖に必要な知識を将来へ残します。テネシー水族館は、こうした個体群を野生絶滅への備えとなる「assurance population」と説明しています。
ただし、水族館で繁殖できることと、野生のカメを守ることは同じではありません。
川や湿地そのものが失われれば、帰る場所はなくなります。
飼育下繁殖は野生環境の代わりではなく、野生の個体群と生息地を守る活動を支える、もう一つの方法なのだと思います。
飼育技術も次の施設へ受け継がれる
テネシー水族館では、繁殖に成功した方法を施設内だけの秘密にはしていません。
卵を管理した温度、湿度、床材、孵化までの変化などを、ほかの動物園や水族館の専門家と共有しています。
以前は飼育下での孵化が難しかった種類でも、複数の施設が知識を共有することで、繁殖例を増やせる可能性があります。
一匹の子ガメが誕生するまでに得られた知識は、その一匹だけのものではありません。
次の卵を孵化させる人へ伝わり、別の水族館へ伝わり、その種類全体を守るための技術へ変わっていきます。
亀好きとして注目したいポイント
このニュースで注目したいのは、5種類のカメが、それぞれ違う季節と環境を卵の中に持っていることです。
同じ孵卵器へ入れて、同じ温度にすれば孵化するわけではありません。
アジアの山地に暮らすカメ。
北米の湿地に暮らすカメ。
南米の乾季と雨季を生きるカメ。
卵は小さく、外から見ればよく似ています。
でも、その卵が待っている雨や温度、湿度、孵化の時期は、それぞれ違います。
飼育員は卵を見ながら、その中にある遠い川や森の季節を想像します。
カメを増やすというより、カメが何百万年もかけて身につけた時間の進み方を、人間が少しずつ学んでいるのだと思います。
湯川亀吉の一言
繁殖は楽しいよね!
出典
Tennessee Aquarium
「Hatching bonanza adds 7 adorable baby turtles from 5 species to Aquarium」
Association of Zoos and Aquariums
「Tennessee Aquarium Welcomes Seven Baby Turtles From Five Species」