
今回は、インド北東部のナガランド州で進められている、エミスムツアシガメの繁殖と野生復帰について紹介します。
今回のニュース
インド北東部のナガランド州では、絶滅の危機にあるエミスムツアシガメを地域の森へ戻し、住民自身がその後の暮らしを見守る保護活動が進められています。
2025年8月には、ナガランド動物園で繁殖・育成された10匹が、ペレン県のゼリアン・コミュニティ保護区へ移されました。
放されたカメを追跡しているのは、外部から派遣された研究者だけではありません。地域で暮らす若者たちが「Tortoise Guardian=リクガメの守り手」となり、森を歩いてカメの痕跡を探しています。活動の様子は2026年5月に海外メディアで紹介されました。
どこの国・地域の話か
国・地域:インド共和国、ナガランド州
主な場所:ペレン県、ゼリアン・コミュニティ保護区
繁殖施設:ナガランド動物園
野生復帰:2025年8月
記事公開:2026年5月
情報の種類:リクガメ・飼育下繁殖・野生復帰・地域保全
ナガランド州では、森林の多くが行政ではなく、村や部族などの地域社会によって所有・管理されています。そのため、リクガメを野生へ戻した後も守り続けるには、地域住民の協力が欠かせません。
登場する亀
今回のニュースに登場するのは、エミスムツアシガメです。
学名は Manouria emys。日本動物園水族館協会では「ムツアシガメ」という和名も使われています。
今回ナガランド州で保護されているのは、主に北方の亜種 Manouria emys phayreiとみられ、ビルマムツアシガメと呼ばれることもあります。
英語ではAsian Giant TortoiseやAsian Forest Tortoiseと呼ばれます。
アジア大陸に生息する最大級のリクガメで、熱帯・亜熱帯の湿潤な常緑樹林を利用します。暗褐色から黒褐色の甲羅と、大きく頑丈な体が特徴です。
ニュースの要約
ナガランド動物園の繁殖計画は、13匹のエミスムツツアシガメから始まりました。
内訳は雄6匹、雌7匹です。
市場で食用として販売される前に保護された個体や、住民の家で飼育されていた個体が繁殖計画に加わりました。
その後、地域住民が自宅で飼っていたカメを自発的に提供するようになり、13匹の親から合計114匹の子どもが誕生したと報告されています。
これまでに100匹を超える個体が、ナガランド州内の地域管理型保護区へ移されました。
単に森へ放すだけではなく、若者たちが森へ入り、食べられた植物、地面に残った足跡、休息した場所などを探しながら、放逐後の状態を確認しています。
いきなり森へ放さない「ソフトリリース」
2025年8月に移された10匹は、すぐに広い森へ解放されたわけではありません。
まず保護区内に設置された囲いで一定期間を過ごし、気温、湿度、植物、地面など、現地の環境へ段階的に慣らされました。
この方法は「ソフトリリース」と呼ばれます。
飼育施設から突然野生へ移すのではなく、実際に暮らす森の中で新しい環境へ慣れる時間を作ります。
エミスムツアシガメが暮らす森では、湿った土、落ち葉、低木、日陰などが重要です。
野生復帰では、カメを放すことだけでなく、そのカメが隠れ、食べ、休める森を残す必要があります。
「Tortoise Guardian」と呼ばれる若者たち
地域で追跡を担当する若者たちは、「Tortoise Guardian」と書かれたシャツを着て、毎朝森へ入ります。
カメそのものが見つからなくても、食べられた葉や、体の重みで沈んだ地面を確認することで、その個体がどこで活動していたのかを推測します。
住民が一匹ずつに近い距離で関わることで、放されたカメは、単なる行政上の個体番号ではなくなります。
今日は姿を確認できたのか。
餌を食べているのか。
森の奥へ移動したのか。
放した後の生活まで地域の人が気にかけることが、この計画の大きな特徴です。
かつて捕獲していた地域が、保護の中心になった
エミスムツアシガメは、肉を目的とした捕獲、ペット取引、生息地の破壊などによって減少してきました。
Turtle Survival Allianceによると、野生個体群は減少を続け、過去の個体数から80%以上減ったと推定されています。
ナガランド州でも、かつては森で見つけたカメを食用として捕獲することがありました。
しかし、保護活動が始まると、一部の住民は飼っていたカメを繁殖計画へ提供し、若者たちは野生復帰個体を守る活動へ参加するようになりました。
かつてカメを利用していた地域社会を、保護活動から排除するのではありません。
その土地とカメを最もよく知る人たちが、今度は保護の中心へ入っています。
落ち葉の山を作って産卵するリクガメ
エミスムツアシガメには、ほかの多くのリクガメとは異なる産卵方法があります。
雌は地面へ卵を埋めるだけではなく、落ち葉や植物を集めて大きな塚を作り、その中へ卵を産みます。
報道では、落ち葉の塚が高さ約60センチから2メートル以上になることもあると紹介されています。
雌は前肢と後肢を使って植物を集め、塚を整えます。
森の落ち葉が積もり、湿度と温度が保たれる環境そのものが、卵を育てる孵卵器の役割を果たします。
このリクガメを守るには、成体だけでなく、落ち葉が積もる豊かな林床まで守らなければなりません。
動物園と森をつなぐ繁殖計画
ナガランド動物園は、地域に生息する絶滅危惧種の飼育下繁殖を担う施設です。
繁殖施設で個体数を増やし、野生へ戻せる年齢まで育てたうえで、森林局や保全団体、地域住民と協力して放逐しています。
飼育下繁殖だけでは、野生個体群を回復させることはできません。
一方、森だけを残しても、そこへ戻す個体がいなければ、失われた個体群は戻りません。
動物園で命をつなぐこと。
野生で暮らせる森を残すこと。
放した後を地域の人が見守ること。
三つの働きがつながることで、野生復帰が成立します。
亀好きとして注目したいポイント
このニュースで注目したいのは、カメを見つけることより、カメが見えない日にも森へ入ることです。
リクガメは毎日、人間の前へ姿を現すわけではありません。
落ち葉の下で休んでいるかもしれない。
低木の奥で餌を食べているかもしれない。
雨を避けて、動かずにいるかもしれない。
保護活動では、カメが見つかった瞬間の写真が注目されます。
でも、その一匹が野生で生き続けるためには、何も見つからない日も森を歩く人が必要です。
食べられた葉を見る。
地面のへこみを見る。
今日もどこかで生きている可能性を探す。
地域の若者たちは、カメを飼育しているのではありません。
カメが人間の手を離れて生きていることを、静かに確認しているのだと思います。
湯川亀吉の一言
エミスムツアシガメかっこいいよね!!
出典
Good News Network
「Passionate ‘Tortoise Guardians’ Help Critically-Endangered Giant Tortoise Slowly Return to India」
Turtle Survival Alliance
「Asian Giant Tortoise」
Nagaland Department of Forest
「Nagaland Zoological Park」
Responsible Herpetoculture Foundation
「Largest Asian Tortoise Species Reintroduced Into Nagaland Reserve」