タグ: リクガメ

  • 【世界の亀ニュース】エロンガータリクガメ201匹が誕生 カンボジアの保全繁殖で過去最高記録

    【世界の亀ニュース】エロンガータリクガメ201匹が誕生 カンボジアの保全繁殖で過去最高記録

    今回は、カンボジアで絶滅の危機にあるエロンガータリクガメの子どもが、2026年だけで201匹誕生したニュースを紹介します。

    今回のニュース

    2026年8月、カンボジアのアンコール生物多様性保全センター(Angkor Centre for Conservation of Biodiversity:ACCB)は、今年の繁殖シーズンにエロンガータリクガメ201匹の孵化に成功したと発表しました。

    これは、ACCBが行ってきたエロンガータリクガメの保全繁殖プログラムとして過去最高の記録です。

    これまでの最高記録は2024年の169匹。

    2026年は8月時点ですでに201匹に達し、前回の記録を約19%上回りました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:カンボジア
    施設:アンコール生物多様性保全センター(ACCB)
    地域:シェムリアップ州
    発表:2026年8月8日
    報道:2026年8月10日
    情報の種類:リクガメ・飼育下繁殖・孵化・野生復帰・絶滅危惧種

    ACCBはカンボジアの絶滅危惧動物を対象に、救護、飼育下繁殖、野生復帰、放逐後の追跡などを行う保全施設です。

    登場する亀

    今回の主役は、エロンガータリクガメです。

    学名は Indotestudo elongata

    英語ではElongated Tortoiseと呼ばれています。

    日本の動物園でも「エロンガータリクガメ」という和名が使われています。背甲はやや扁平で、上から見ると前後に細長い形をしています。最大甲長は30センチ前後から、大型個体では約36センチに達します。

    インド北東部からネパール、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、カンボジア、ラオス、ベトナム、マレー半島、中国南部など、南アジアから東南アジアにかけて分布しています。

    201匹という新記録

    ACCBでは、2026年に入ってから201匹のエロンガータリクガメが孵化しました。

    2024年の年間記録169匹を、8月の段階ですでに超えています。

    ACCBは2026年を、この繁殖プログラムにとってこれまでで最も成功した年としています。

    201匹の子ガメたちは現在、ACCBの施設内で育てられています。

    すぐに野生へ放すわけではありません。

    捕食者に簡単に襲われない大きさまで成長させ、その後、条件が整った個体から野生復帰を目指します。

    世界最大規模の飼育個体群

    ACCBは、エロンガータリクガメについて世界最大の飼育下個体群を維持する施設としています。

    2025年にACCBの担当者が紹介した内容では、同センターでは約600匹のエロンガータリクガメが飼育されていました。

    これは単に「たくさん飼っている」という意味ではありません。

    野生個体群が大きく減少している種類について、遺伝的な多様性をできるだけ維持しながら繁殖させ、将来的に野生個体群を補強するための個体群です。

    こうした個体群は、野生で何か大きな問題が起きたときに種そのものが失われることを防ぐ、いわば保険のような役割も持っています。

    90年間で80%以上減少

    エロンガータリクガメは、広い範囲に分布しているカメです。

    しかし、

    「広く分布している=安全」

    ではありません。

    ACCBによる保全活動の紹介では、違法な食用捕獲、国際的な野生生物取引、生息地の劣化と分断などによって、過去約90年間で個体数が少なくとも80%減少したとされています。

    現在はIUCNレッドリストで「Critically Endangered」、つまり「深刻な危機」に分類されています。

    一見すると普通に見える中型のリクガメが、実際には世界的な絶滅危惧種になっています。

    森の中で暮らすリクガメ

    エロンガータリクガメは、乾燥した砂漠を歩くタイプのリクガメではありません。

    東南アジアの落葉広葉樹林など、比較的湿度のある森林環境を利用します。

    植物の葉。

    果実。

    花。

    キノコ。

    タケノコ。

    そして、ときにはカタツムリなどの小動物や動物の死骸も利用する、植物食傾向の強い雑食性のカメです。

    森の中で落ちた果実を食べ、別の場所へ移動し、糞と一緒に種子を運びます。

    ACCBの保全担当者は、エロンガータリクガメが種子散布に関わり、森林の再生にも役割を持つと説明しています。

    リクガメを戻すことは、森の機能を戻すこと

    リクガメが一匹いなくなる。

    それだけを見ると、生態系への影響は分かりにくいかもしれません。

    しかし、森の中で果実を食べる大型の動物が減れば、植物の種が運ばれる距離も変わります。

    土を掘る動物が減れば、地面の状態も変わります。

    ACCBは、エロンガータリクガメが種子を運ぶだけでなく、土を掘る行動によって土壌へ空気を送り込み、小さな生物が利用する環境を作ることにもつながると説明しています。

    つまり、リクガメを森へ戻すことは、

    「カメの数を増やす」

    だけの活動ではありません。

    森の中から失われつつある機能を、一つずつ戻す活動でもあります。

    すでに100匹を森へ戻す計画が始まっている

    ACCBでは繁殖だけでなく、実際の野生復帰も進めています。

    2023年4月、飼育下で育てられた100匹のエロンガータリクガメが、カンボジア北部の保護地域へ移されました。

    しかし、到着したその日に放されたわけではありません。

    まず約1ヘクタールの順応用エリアへ入れられ、野生の気温、植物、地面、雨、餌などに慣れる期間が設けられました。

    そして約8か月後。

    2024年1月12日、囲いが開放されました。

    100匹のリクガメは、そこから自分の意思で森の中へ散らばっていきました。

    「放して終わり」ではない

    野生復帰で難しいのは、

    カメを森へ置くことではありません。

    そのあと、本当に生きていけるのかを確かめることです。

    ACCBでは放された個体の一部に、GPSとVHF発信器を取り付けています。

    どこへ移動するのか。

    どんな場所で休むのか。

    どれくらい広い範囲を利用するのか。

    健康状態は維持できているのか。

    そうした情報を収集しています。

    放したカメが森の中へ消えてしまえば、

    「野生復帰成功」

    と考えたくなります。

    でも、本当の答えはその先にあります。

    森を歩く「Tortoise Guardians」

    放されたカメを追跡するために、現地では3人のTortoise Guardians=リクガメの守り手が訓練されました。

    彼らは実際にその森で暮らしている地域住民です。

    発信器の信号を追い、

    カメの位置を確認し、

    行動や環境データを集めます。

    ACCBのスタッフも定期的に森へ入り、GPSデータを回収したり、発信器を交換したりしています。

    さらに半年ごとに獣医師が健康状態を確認します。

    飼育施設で生まれたカメが、

    森へ入る。

    人間の視界から消える。

    でも遠くから、その生活を少しだけ見守る。

    繁殖施設と野生の森が、そこでつながっています。

    201匹は、まだ「成果の途中」

    201匹が孵化した。

    それだけでも大きなニュースです。

    でも、保全という視点では、この201匹はまだスタート地点に立ったばかりです。

    成長する。

    健康を維持する。

    野生へ戻せる大きさになる。

    新しい環境へ慣れる。

    森へ放される。

    野生の餌を見つける。

    雨季と乾季を越える。

    そして何年も生き、成長し、最終的には自分たちで繁殖する。

    そこまで到達して初めて、人間が育てた一世代が、野生の個体群へ本当に加わったと言えるのだと思います。

    飼育下繁殖はゴールではない

    動物園や保全施設で絶滅危惧種がたくさん生まれると、

    「もう大丈夫なのでは?」

    と思うことがあります。

    しかし、野生の森そのものが失われれば、帰る場所はありません。

    エロンガータリクガメが減少してきた背景には、捕獲だけではなく、森林の劣化や分断もあります。

    だからACCBでは、

    飼育下繁殖。

    野生復帰。

    放逐後の追跡。

    地域住民との協力。

    生息地の保全。

    それらを一つの流れとして進めています。

    201匹の子ガメを育てることと、

    その201匹が帰れる森を残すこと。

    どちらか一方だけでは成立しません。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が特に注目したいのは、

    「たくさん生まれた」というニュースの先に、森があることです。

    201匹。

    数字として見ると、とても分かりやすい成果です。

    でも、本当に重要なのは、

    その201匹を水槽の中で増やし続けることではない。

    いつか、

    人間が餌を与えなくても、

    人間が温度を管理しなくても、

    人間が毎日姿を確認しなくても、

    森の中で勝手に生きていること。

    そして、

    そのカメ自身が次の卵を産むこと。

    飼育下繁殖が成功するほど、

    次に問われるのは、

    「帰る場所を残せているか」

    なのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    エロンガータかっこいいよね!

    家にスペースがあったら飼育してみたいな〜

    出典

    Angkor Centre for Conservation of Biodiversity(ACCB)
    2026年エロンガータリクガメ繁殖記録。

    Cambodianess
    「Over 200 Hatchlings of Tortoises Show Successful Breeding Year」
    2026年8月10日。

    British and Irish Association of Zoos and Aquariums(BIAZA)
    「The Long (but Slow) Walk Home – Restoring Elongated Tortoise Populations in Cambodia’s Forests」

    京都市動物園
    「エロンガータリクガメ/Elongated Tortoise」

  • 【世界の亀ニュース】遺伝子が示した本当の故郷 保護されたヒョウモンガメ27匹が南アフリカの野生へ

    【世界の亀ニュース】遺伝子が示した本当の故郷 保護されたヒョウモンガメ27匹が南アフリカの野生へ

    今回は、保護施設で暮らしていたヒョウモンガメの出身地域を遺伝子から調べ、本来の生息地に近い場所へ戻した、南アフリカの研究と野生復帰について紹介します。

    今回のニュース

    南アフリカで、保護施設に収容されていたヒョウモンガメの遺伝情報を調べ、出身地域を推定したうえで野生へ戻す取り組みが行われました。

    南アフリカとドイツの研究チームは、野生のヒョウモンガメから集めた遺伝情報を使って地域ごとの特徴をまとめたデータベースを拡張し、保護施設にいた50匹を調査しました。

    その結果、故郷と考えられる地域を判断できた個体を段階的に環境へ慣らし、これまでに27匹が南アフリカ各地の野生へ戻されました。研究成果は2026年に学術誌『Conservation Genetics』で発表され、4月9日にゼンケンベルク自然研究協会が紹介しています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:南アフリカ共和国
    調査に関係する地域:クワズール・ナタール州、東ケープ州、北ケープ州、フリーステイト州、リンポポ州など
    研究協力地域:エスワティニ
    元記事の言語:英語
    公開時期:2026年4月9日
    情報の種類:リクガメ・遺伝子研究・野生復帰・違法取引対策・保護活動

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、ヒョウモンガメです。

    学名は Stigmochelys pardalis。英語ではLeopard Tortoiseと呼ばれます。

    アフリカ中部から南部に分布し、サバンナ、草原、灌木地などに暮らす大型のリクガメです。鳥羽水族館では、最大甲長が70センチを超える種類として紹介されています。

    甲羅には、黄色や黄褐色を基調とした地色に黒や褐色の斑紋が入り、その模様がヒョウを連想させることから、ヒョウモンガメと呼ばれています。

    模様や色合いには個体差があり、成長するにつれて幼体の鮮明な模様が変化していくこともあります。

    ニュースの要約

    保護施設へ収容されるヒョウモンガメの中には、違法に採集された個体、個人によって飼育された後に放棄された個体、飼育場所から逃げ出した個体などが含まれています。

    しかし、保護された場所と、そのカメがもともと暮らしていた場所が同じとは限りません。

    人間によって何百キロ、場合によってはさらに遠くまで運ばれている可能性があるため、保護された地点だけを手がかりに放流場所を決めると、本来とは異なる地域へ放してしまうおそれがあります。

    研究チームは、クワズール・ナタール州とエスワティニの野生個体から得た遺伝情報をデータベースへ加え、保護施設にいた50匹の遺伝子と比較しました。

    すると、クワズール・ナタール州の保護施設にいたカメのうち、遺伝的に同地域の個体と判断されたのは、わずか1匹でした。

    これは、多くのヒョウモンガメが違法取引や人為的な移動によって、本来の分布地域から遠く離れた場所へ運ばれていた可能性を示しています。

    なぜ遺伝子から故郷を調べるのか

    見た目が同じ種類のリクガメであっても、地域ごとの個体群には、長い時間をかけて形成された遺伝的な違いがあります。

    遠く離れた地域の個体を不用意に混ぜると、その土地に適応してきた遺伝的な特徴が失われたり、地域個体群の構成が変化したりする可能性があります。

    また、そのカメが慣れていない気候や植生の地域へ放せば、野生で生き残れないかもしれません。

    そのため研究チームは、単に「ヒョウモンガメが暮らしている場所」へ放すのではなく、遺伝情報を使って、各個体がどの地域に近いのかを調べました。

    遺伝子は、カメが人間によって運ばれた道筋を記録しているわけではありません。

    それでも、どの地域の野生個体と近いのかを比較することで、そのカメが帰るべき場所を考えるための重要な手がかりになります。

    野生へ戻す前の6か月

    放流対象となったヒョウモンガメは、調査が終わるとすぐに野外へ放されたわけではありません。

    まず、将来放す予定の地域に設置された脱走防止用の囲いの中で、およそ6か月間を過ごしました。

    これは「ソフトリリース」と呼ばれる方法です。

    現地の気温、地面、植物、季節の変化などに段階的に慣らし、健康状態や行動を確認した後、最終的に囲いの外へ放します。

    遺伝的な出身地域に応じて、カメたちは別々の場所へ移されました。

    一部は東ケープ州の私設保護区へ、ほかの個体は北ケープ州、フリーステイト州、リンポポ州の保護地域へ戻されています。

    保護施設で一生暮らせばよいのか

    保護されたリクガメを野生へ戻すことには、慎重な判断が必要です。

    病気を持ち込む可能性がある。
    その地域の個体数を過度に増やすかもしれない。
    本来とは異なる個体群を混ぜてしまうかもしれない。
    放した後に生き残れるかも分からない。

    一方で、すべての個体を保護施設で一生飼育することも簡単ではありません。

    ヒョウモンガメは大型で長寿のリクガメです。長期間の飼育には、広い場所、食物、医療、職員、費用が必要になります。

    クワズール・ナタール州のある保護施設では、2016年から2025年までに100匹以上を受け入れ、収容場所が足りず、さらに多くのカメの受け入れを断らなければならない状態になりました。ダーバンの別施設でも、同じ期間に300匹を超える個体が記録されています。

    だからこそ、安全に野生へ戻せる個体については、故郷を慎重に調べ、帰る準備を整える必要があります。

    絶滅危惧種ではなくても守る必要がある

    ヒョウモンガメは広い範囲に分布し、現在は種全体として「低懸念」とされています。

    しかし、南アフリカでは違法な捕獲や飼育、食用や伝統医療への利用、生息地の破壊、都市化、過放牧、野焼き、電気柵による事故など、さまざまな危険にさらされています。

    「絶滅危惧種ではない」という評価は、どの地域の個体群も安全であることを意味しません。

    広い地域に分布している種類であっても、ある土地からカメが次々と持ち出されれば、その場所の個体群は弱くなっていきます。

    そして、人間によって遠くへ運ばれたカメを戻すときには、「どこでもよい」というわけにはいきません。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、保護された場所が、そのカメの故郷とは限らないことです。

    人間は、カメを見つけた場所をその個体の居場所だと思ってしまうことがあります。

    でも、そのカメは誰かに捕まえられ、車に乗せられ、町を越え、州を越えてきたのかもしれない。

    自分の意思とは関係なく遠くへ運ばれ、そこで放棄されたのかもしれない。

    カメは、自分がどこから来たのかを人間の言葉で説明できません。

    けれど、体の中に残された遺伝情報が、その個体の故郷へつながる小さな手がかりになる。

    保護とは、ただ命を助けることだけではなく、その命が本来属していた場所を探すことでもあるのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    俺も生き物飼ってるから言えるけど、生き物飼ってる人間は全員クズだからな。でも、「保護」する奴らも同じクズさ。

    出典

    Senckenberg Nature Research
    「Return to Nature: 27 Leopard Tortoises Released into the Wild in South Africa」

    鳥羽水族館・生きもの図鑑
    「ヒョウモンガメ」

  • 【世界の亀ニュース】アフリカの巨大リクガメが掘る穴は、生態系を動かしているのかもしれない

    【世界の亀ニュース】アフリカの巨大リクガメが掘る穴は、生態系を動かしているのかもしれない

    今回は、アフリカのサハラ砂漠南縁からサヘル地域に暮らす、ケヅメリクガメに関するニュースを紹介します。

    今回のニュース

    アフリカ大陸最大のリクガメとして知られるケヅメリクガメが掘る巣穴が、生態系に大きな役割を持っている可能性があると報じられました。

    Times of Indiaの記事では、ケヅメリクガメが暑さを避けるために掘る深い巣穴が、単なる避難場所ではなく、土壌や周囲の環境に影響を与える「生態系エンジニア」としての働きを持つ可能性があると紹介されています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:サハラ砂漠南縁・サヘル地域
    元記事の言語:英語
    公開時期:2026年7月
    情報の種類:新着ニュース・研究/生態系ニュース

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、ケヅメリクガメです。

    ケヅメリクガメは、アフリカ大陸最大のリクガメで、世界でもガラパゴスゾウガメ、アルダブラゾウガメに次いで大きいリクガメとして知られています。記事では、サハラ砂漠とサヘルの厳しい暑さの中で、ケヅメリクガメが深い巣穴を掘って暑さをしのいでいることが紹介されています。

    ニュースの要約

    ケヅメリクガメは、厳しい乾燥地帯で生きるために巣穴を掘ります。

    これまでは、その巣穴は主に「暑さや乾燥から身を守るための場所」として見られてきました。
    しかし、研究者たちは、こうした巣穴が土壌の状態や周囲の小さな生き物たちに影響を与えている可能性にも注目し始めています。

    記事では、ケヅメリクガメが「生態系エンジニア」として見られ始めていることが紹介されています。
    生態系エンジニアとは、自分の行動によって周囲の環境そのものを変えてしまう生き物のことです。たとえば巣穴を掘ることで、土の状態、湿度、他の生き物の隠れ場所、植物の生え方などに影響を与える可能性があります。

    一方で、ケヅメリクガメは絶滅危惧種とされており、もし個体数が減れば、その巣穴が持っていた生態系への働きも失われてしまうかもしれません。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、リクガメが“ただ歩いている生き物”ではなく、環境そのものを動かしているかもしれないという点です。

    亀は動きが遅い。
    だから、人間の目には「何もしていない」ように見えることがあります。

    でも、長い時間で見ると違う。

    のっし、のっしと大地を歩き、硬い土を掘り、巣穴を残し、そこに湿度や影が生まれる。
    その穴を他の生き物が使い、植物が変わり、土が変わる。

    亀の一歩や、亀が掘った穴は、人間が思うよりもずっと大きな意味を持っているのかもしれません。

    湯川亀吉の一言

    ケヅメリクガメはけっこうでかいね。

    出典

    元記事:Times of India「For thousands of years, this giant tortoise has been digging burrows across the Sahara, and scientists now think those tunnels may play a bigger ecological role than anyone realised」

  • 【世界の亀ニュース】かつて狩った森で守る側へ インドの若者たちがエミスムツアシガメを追跡

    【世界の亀ニュース】かつて狩った森で守る側へ インドの若者たちがエミスムツアシガメを追跡

    今回は、インド北東部のナガランド州で進められている、エミスムツアシガメの繁殖と野生復帰について紹介します。

    今回のニュース

    インド北東部のナガランド州では、絶滅の危機にあるエミスムツアシガメを地域の森へ戻し、住民自身がその後の暮らしを見守る保護活動が進められています。

    2025年8月には、ナガランド動物園で繁殖・育成された10匹が、ペレン県のゼリアン・コミュニティ保護区へ移されました。

    放されたカメを追跡しているのは、外部から派遣された研究者だけではありません。地域で暮らす若者たちが「Tortoise Guardian=リクガメの守り手」となり、森を歩いてカメの痕跡を探しています。活動の様子は2026年5月に海外メディアで紹介されました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:インド共和国、ナガランド州
    主な場所:ペレン県、ゼリアン・コミュニティ保護区
    繁殖施設:ナガランド動物園
    野生復帰:2025年8月
    記事公開:2026年5月
    情報の種類:リクガメ・飼育下繁殖・野生復帰・地域保全

    ナガランド州では、森林の多くが行政ではなく、村や部族などの地域社会によって所有・管理されています。そのため、リクガメを野生へ戻した後も守り続けるには、地域住民の協力が欠かせません。

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、エミスムツアシガメです。

    学名は Manouria emys。日本動物園水族館協会では「ムツアシガメ」という和名も使われています。

    今回ナガランド州で保護されているのは、主に北方の亜種 Manouria emys phayreiとみられ、ビルマムツアシガメと呼ばれることもあります。

    英語ではAsian Giant TortoiseやAsian Forest Tortoiseと呼ばれます。

    アジア大陸に生息する最大級のリクガメで、熱帯・亜熱帯の湿潤な常緑樹林を利用します。暗褐色から黒褐色の甲羅と、大きく頑丈な体が特徴です。

    ニュースの要約

    ナガランド動物園の繁殖計画は、13匹のエミスムツツアシガメから始まりました。

    内訳は雄6匹、雌7匹です。

    市場で食用として販売される前に保護された個体や、住民の家で飼育されていた個体が繁殖計画に加わりました。

    その後、地域住民が自宅で飼っていたカメを自発的に提供するようになり、13匹の親から合計114匹の子どもが誕生したと報告されています。

    これまでに100匹を超える個体が、ナガランド州内の地域管理型保護区へ移されました。

    単に森へ放すだけではなく、若者たちが森へ入り、食べられた植物、地面に残った足跡、休息した場所などを探しながら、放逐後の状態を確認しています。

    いきなり森へ放さない「ソフトリリース」

    2025年8月に移された10匹は、すぐに広い森へ解放されたわけではありません。

    まず保護区内に設置された囲いで一定期間を過ごし、気温、湿度、植物、地面など、現地の環境へ段階的に慣らされました。

    この方法は「ソフトリリース」と呼ばれます。

    飼育施設から突然野生へ移すのではなく、実際に暮らす森の中で新しい環境へ慣れる時間を作ります。

    エミスムツアシガメが暮らす森では、湿った土、落ち葉、低木、日陰などが重要です。

    野生復帰では、カメを放すことだけでなく、そのカメが隠れ、食べ、休める森を残す必要があります。

    「Tortoise Guardian」と呼ばれる若者たち

    地域で追跡を担当する若者たちは、「Tortoise Guardian」と書かれたシャツを着て、毎朝森へ入ります。

    カメそのものが見つからなくても、食べられた葉や、体の重みで沈んだ地面を確認することで、その個体がどこで活動していたのかを推測します。

    住民が一匹ずつに近い距離で関わることで、放されたカメは、単なる行政上の個体番号ではなくなります。

    今日は姿を確認できたのか。

    餌を食べているのか。

    森の奥へ移動したのか。

    放した後の生活まで地域の人が気にかけることが、この計画の大きな特徴です。

    かつて捕獲していた地域が、保護の中心になった

    エミスムツアシガメは、肉を目的とした捕獲、ペット取引、生息地の破壊などによって減少してきました。

    Turtle Survival Allianceによると、野生個体群は減少を続け、過去の個体数から80%以上減ったと推定されています。

    ナガランド州でも、かつては森で見つけたカメを食用として捕獲することがありました。

    しかし、保護活動が始まると、一部の住民は飼っていたカメを繁殖計画へ提供し、若者たちは野生復帰個体を守る活動へ参加するようになりました。

    かつてカメを利用していた地域社会を、保護活動から排除するのではありません。

    その土地とカメを最もよく知る人たちが、今度は保護の中心へ入っています。

    落ち葉の山を作って産卵するリクガメ

    エミスムツアシガメには、ほかの多くのリクガメとは異なる産卵方法があります。

    雌は地面へ卵を埋めるだけではなく、落ち葉や植物を集めて大きな塚を作り、その中へ卵を産みます。

    報道では、落ち葉の塚が高さ約60センチから2メートル以上になることもあると紹介されています。

    雌は前肢と後肢を使って植物を集め、塚を整えます。

    森の落ち葉が積もり、湿度と温度が保たれる環境そのものが、卵を育てる孵卵器の役割を果たします。

    このリクガメを守るには、成体だけでなく、落ち葉が積もる豊かな林床まで守らなければなりません。

    動物園と森をつなぐ繁殖計画

    ナガランド動物園は、地域に生息する絶滅危惧種の飼育下繁殖を担う施設です。

    繁殖施設で個体数を増やし、野生へ戻せる年齢まで育てたうえで、森林局や保全団体、地域住民と協力して放逐しています。

    飼育下繁殖だけでは、野生個体群を回復させることはできません。

    一方、森だけを残しても、そこへ戻す個体がいなければ、失われた個体群は戻りません。

    動物園で命をつなぐこと。

    野生で暮らせる森を残すこと。

    放した後を地域の人が見守ること。

    三つの働きがつながることで、野生復帰が成立します。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、カメを見つけることより、カメが見えない日にも森へ入ることです。

    リクガメは毎日、人間の前へ姿を現すわけではありません。

    落ち葉の下で休んでいるかもしれない。

    低木の奥で餌を食べているかもしれない。

    雨を避けて、動かずにいるかもしれない。

    保護活動では、カメが見つかった瞬間の写真が注目されます。

    でも、その一匹が野生で生き続けるためには、何も見つからない日も森を歩く人が必要です。

    食べられた葉を見る。

    地面のへこみを見る。

    今日もどこかで生きている可能性を探す。

    地域の若者たちは、カメを飼育しているのではありません。

    カメが人間の手を離れて生きていることを、静かに確認しているのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    エミスムツアシガメかっこいいよね!!

    出典

    Good News Network
    「Passionate ‘Tortoise Guardians’ Help Critically-Endangered Giant Tortoise Slowly Return to India」

    Turtle Survival Alliance
    「Asian Giant Tortoise」

    Nagaland Department of Forest
    「Nagaland Zoological Park」

    Responsible Herpetoculture Foundation
    「Largest Asian Tortoise Species Reintroduced Into Nagaland Reserve」

  • 【世界の亀ニュース】180年ぶりにゾウガメがフロレアナ島へ 失われた血統を受け継ぐ158匹が帰還

    【世界の亀ニュース】180年ぶりにゾウガメがフロレアナ島へ 失われた血統を受け継ぐ158匹が帰還

    今回は、ガラパゴス諸島のフロレアナ島に、約180年ぶりにゾウガメが戻った歴史的なニュースを紹介します。

    今回のニュース

    2026年2月20日、エクアドルのガラパゴス諸島にあるフロレアナ島へ、フロレアナゾウガメの血統を受け継ぐ若いゾウガメ158匹が放されました。

    フロレアナ島では、19世紀半ばに固有のゾウガメが姿を消して以来、約180年間にわたってゾウガメが生息していませんでした。

    今回の放逐によって、失われていたゾウガメの生態的な役割が、島へ戻り始めることになります。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:エクアドル共和国
    場所:ガラパゴス諸島・フロレアナ島
    元記事の言語:英語・スペイン語
    放逐日:2026年2月20日
    情報の種類:リクガメ・野生復帰・遺伝子研究・生態系再生・保護活動

    フロレアナ島は、ガラパゴス諸島の中でも早い時期から人間が暮らし始めた島です。現在は約160人が生活しており、自然環境の再生と島民の暮らしを両立させる大規模な復元事業が進められています。

    登場する亀

    このニュースの中心となるのは、フロレアナゾウガメの血統を受け継ぐゾウガメです。

    フロレアナ島にかつて生息していたゾウガメの学名は、Chelonoidis niger nigerです。

    ただし、今回島へ放された158匹を、かつてのフロレアナゾウガメと完全に同じ純粋な個体として扱うことはできません。

    現在、純粋なフロレアナゾウガメとして確認されている生存個体はいません。今回放されたのは、絶滅したフロレアナゾウガメと、イサベラ島のウォルフ火山に生息するゾウガメの血を受け継ぐ交雑個体の子孫です。

    ニュースの要約

    今回放された158匹は、サンタクルス島にある繁殖施設で育てられた、12歳から14歳の若いゾウガメです。

    一般的に、ガラパゴスゾウガメは5歳から7歳ほどまで成長すると、外来動物などの危険に耐えられる可能性が高くなるとされています。今回の個体たちはその年齢を十分に超え、野生で暮らせる大きさになるまで慎重に育てられました。

    放逐は、フロレアナ島で植物が豊富になり、季節的な水場も現れる雨季に合わせて行われました。

    島へ戻った直後から食物や水を確保しやすくすることで、新しい環境へ定着できる可能性を高めています。

    絶滅したはずの血統は、別の島に残っていた

    フロレアナゾウガメは、捕鯨船や航海者による大量捕獲、そして人間が持ち込んだ外来生物などの影響を受け、19世紀半ばまでにフロレアナ島から姿を消しました。

    長い間、その血統は完全に失われたと考えられていました。

    しかし2000年、フロレアナ島から離れたイサベラ島のウォルフ火山で、周囲の個体とは甲羅の形が異なるゾウガメが発見されました。

    遺伝子を調べた結果、その個体たちはフロレアナゾウガメの血統を受け継いだ交雑個体であることが分かりました。

    かつて捕鯨船の乗組員たちは、食料としてゾウガメを船へ積み込み、航海の都合によって別の島へ置いていくことがありました。

    フロレアナ島から運び出されたゾウガメの一部がイサベラ島に残され、現地のゾウガメと交雑したことで、その遺伝的な血統が約180年間残った可能性があります。

    遺伝子から血統をつなぎ直す

    研究者とガラパゴス国立公園のスタッフは、フロレアナゾウガメの血を濃く受け継ぐ個体をウォルフ火山から選び出し、繁殖施設へ移しました。

    2015年と2020年には、繁殖計画に使用する成体が新たに施設へ運ばれ、遺伝子情報をもとに交配の組み合わせが検討されました。

    目的は、絶滅したフロレアナゾウガメを完全に再現することではありません。

    それは不可能だと、計画を進める研究者自身が説明しています。

    目指しているのは、残された遺伝的な血統をできるだけ多く受け継ぎ、かつてフロレアナゾウガメが島で果たしていた生態的な役割を、再び担うことのできる個体群を作ることです。

    158匹すべてをGPSで追跡

    フロレアナ島へ放された158匹には、軽量のGPS発信器が取り付けられています。

    研究チームは、ゾウガメが島のどこを歩き、どの場所で餌を食べ、どの環境を好んで利用するのかを継続的に記録します。異常な移動や健康上の問題が見つかった場合には、早い段階で対応することもできます。

    繁殖に使われている成体は、今後も施設に残ります。

    新しい世代が十分な大きさへ成長するたびに、年間およそ25匹から100匹をフロレアナ島へ追加放逐し、何十年もかけて自立した個体群を形成する計画です。

    ゾウガメは、島を作り変える存在

    ゾウガメは、ただ島の植物を食べて暮らすだけの動物ではありません。

    植物を食べながら島内を移動し、糞と一緒に種を遠くへ運びます。

    大きな体で草や低木の間を進むことで道を作り、地面を踏み、植物が密集しすぎない開けた環境を維持します。水や泥のある場所では、ほかの生き物も利用できる小さなくぼみを作ることがあります。

    こうした働きから、ゾウガメは「生態系エンジニア」や「キーストーン種」と呼ばれます。

    フロレアナ島からゾウガメが姿を消したことで、植物の広がり方や種子の移動、開けた生息環境の維持といった働きも失われました。

    158匹の帰還は、ゾウガメという一種類を戻すだけではなく、約180年間止まっていた島の仕組みを、再び動かし始める試みです。

    12種類の生き物を島へ戻す計画

    今回のゾウガメは、フロレアナ島へ戻される予定の12種類の生き物の第一段階です。

    将来的には、現在フロレアナ島本島では見られなくなっているフロレアナマネシツグミや、固有のヘビ、フィンチ類などについても、環境が整い次第、再導入が検討されます。

    そのためには、ネズミや野生化したネコなどの外来哺乳類を減らし、島の植物や生息環境を回復させなければなりません。

    ゾウガメの帰還は、フロレアナ島全体を再生する長期計画の始まりでもあります。

    「絶滅種が復活した」とは言い切れない

    今回のニュースは、「絶滅したフロレアナゾウガメが復活した」と紹介されることがあります。

    しかし、正確には少し違います。

    かつてフロレアナ島に生息していた純粋なゾウガメと、まったく同じ遺伝子を持つ個体が復活したわけではありません。

    今回戻ったのは、絶滅した血統の一部を受け継ぐ交雑個体の子孫です。

    それでも、その価値が小さくなるわけではありません。

    かつて島から運び出されたゾウガメが、別の島で血統を残していた。

    人間はその遺伝的な痕跡を見つけ、何十年もかけて子孫を育て、再び祖先の島へ戻した。

    完全に失われたものを元通りにすることはできなくても、残されているものから、新しい未来を作ることはできます。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、人間が運び出したゾウガメの血統を、人間が再び故郷へ運んだことです。

    約200年前、ゾウガメは食料として島から連れ出されました。

    船の都合で別の島へ置き去りにされ、その場所でほかのゾウガメと交雑した。

    当時の人間に、その血統を未来へ残そうという意思はなかったはずです。

    それでも、ゾウガメは生きた。

    子孫を残し、体の中にフロレアナ島へつながる遺伝子を持ち続けた。

    そして現代の人間が、その小さな痕跡を見つけました。

    今回の158匹は、絶滅した過去をそのまま再現した存在ではありません。

    でも、失われた血統と、これから再生していく島をつなぐ、新しいゾウガメなのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    偉いね。

    出典

    Galápagos National Park Directorate
    「Un regreso a casa para Floreana」

    Galápagos Conservancy
    「A Homecoming for Floreana」

    Galápagos Conservancy
    「From the Desk of Dr. James Gibbs: On the Return of the Floreana Giant Tortoise」

    Charles Darwin Foundation
    「158 Endangered Tortoises Released onto Floreana Island, Galápagos for First Time in over 180 Years」

  • 【世界の亀ニュース】ガラパゴスの島に巨大リクガメが約180年ぶりに戻る

    【世界の亀ニュース】ガラパゴスの島に巨大リクガメが約180年ぶりに戻る

    今回は、エクアドル・ガラパゴス諸島で報じられた、巨大リクガメの再導入に関するニュースを紹介します。

    今回のニュース

    ガラパゴス諸島のフロレアナ島に、158頭の若い巨大リクガメが放たれました。

    Charles Darwin Foundationによると、フロレアナ島に巨大リクガメが戻るのは180年以上ぶりで、島の生態系回復にとって歴史的な節目とされています。放たれたのは、フロレアナ系統の血を引く若い巨大リクガメたちです。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:エクアドル、ガラパゴス諸島、フロレアナ島
    元記事の言語:英語
    公開時期:2026年2月20日
    情報の種類:新着ニュース・再導入・生態系回復

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、フロレアナ系統の巨大リクガメです。

    フロレアナ島にもともといた巨大リクガメは、過去の人間活動などにより島から姿を消しました。報道では、1800年代以降、長いあいだフロレアナ島に巨大リクガメがいない状態が続いていたと紹介されています。

    ニュースの要約

    今回放たれた158頭の若いリクガメは、フロレアナ島の失われた巨大リクガメの系統を回復するための長期プロジェクトの一部です。

    AP通信によると、これらの個体は8〜13歳で、絶滅したとされるフロレアナ島のリクガメの遺伝的要素を持つ個体として育てられてきました。今回の放流は、将来的に合計700頭を島へ戻す計画の第一歩とされています。

    また、Charles Darwin Foundationは、この再導入をフロレアナ島の生態系回復にとって重要な出来事と位置付けています。巨大リクガメは、草を食べ、種を運び、地形や植生に影響を与える存在であり、単に「一種類の動物が戻った」というだけではなく、島全体の自然の流れを取り戻す意味を持っています。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、巨大リクガメが“島をつくる存在”として見られていることです。

    リクガメは、ただのんびり歩いているだけの生き物ではありません。
    植物を食べ、種を運び、土を踏み、道を作り、何十年もかけて島の風景に影響を与えていきます。

    人間の時間では「歩みが遅い」と感じる亀も、島の時間で見れば、風景を変えていく力を持っている。

    約180年ぶりに巨大リクガメがフロレアナ島を歩くというのは、単なる保護ニュースではなく、失われた島のリズムをもう一度動かし始める出来事なのかもしれません。

    湯川亀吉の一言

    いつかガラパゴス諸島に行ってみたいな〜。

    出典

    元記事:Charles Darwin Foundation「158 endangered tortoises released onto Floreana Island, Galapagos, for first time in over 180 years」

    関連報道:AP News「Galápagos park releases 158 juvenile hybrid tortoises on Floreana to restore the ecosystem」

  • 【世界の亀ニュース】マダガスカルで洪水に流された絶滅危惧のリクガメたちを救助

    【世界の亀ニュース】マダガスカルで洪水に流された絶滅危惧のリクガメたちを救助

    今回のニュース

    2025年1月、マダガスカル南部で、絶滅危惧種のリクガメたちが洪水に巻き込まれ、大規模な救助活動が行われました。

    AP通信によると、サイクロン「Dikeledi」の影響で、Lavavolo Tortoise Centerが洪水に見舞われ、保護されていたホウシャガメやクモノスガメなど約12,000匹が流される事態になりました。これらのリクガメの多くは、もともと違法取引から保護された個体だったと報じられています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:マダガスカル南部
    元記事の言語:英語
    元記事の公開時期:2025年1月
    情報の種類:過去アーカイブ・救助・保護活動・災害

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、主にホウシャガメクモノスガメです。

    ホウシャガメは、黒い甲羅に黄色い放射状の模様を持つ美しいリクガメとして知られています。AP通信の記事では、ホウシャガメは100年以上生きることもある長寿のリクガメであり、マダガスカルでは生息地破壊や密猟、違法ペット取引などにより深刻な危機にあると紹介されています。

    ニュースの要約

    Lavavolo Tortoise Centerには、約12,000匹のホウシャガメやクモノスガメが保護されていました。

    しかし、サイクロンによる洪水で施設が浸水し、多くのリクガメたちが流されてしまいました。
    記事によると、施設スタッフ、地域住民、警察官たちが協力し、水の中を歩きながら容器を使ってリクガメを集めたり、壊れた建物の一部を即席のいかだのように使ったりして救助にあたったとされています。

    Turtle Survival Allianceのマダガスカル責任者は、10,000匹以上を救えた可能性があるとしつつも、約700匹の死亡も確認されたと報じられています。多くの個体は施設に戻されましたが、洪水によって保護施設そのものにも大きな被害が出ました。

    なぜ今、このニュースを紹介するのか

    このニュースは2025年の記事ですが、「亀を守る」ということを考えるうえで、とても重要な記録だと思います。

    これらのリクガメたちは、違法取引から救われたあと、保護施設で守られていました。
    けれど、その保護施設もまた、自然災害によって危機にさらされる。

    亀を守るということは、密猟や違法取引と戦うだけではありません。
    保護したあとの場所をどう守るのか。
    災害が起きたとき、どう救うのか。
    地域の人たちとどう協力するのか。

    そういう現実まで含めて、亀の保護なのだと感じます。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、地域の人たちがリクガメを救うために動いたことです。

    水に流された何千匹ものリクガメを見つけ、集め、運び、戻す。
    それは簡単なことではありません。

    しかも相手は、ただの「数」ではない。
    一匹一匹が、長い時間を生きるリクガメです。

    25歳から50歳くらいの個体でも、リクガメの世界ではまだ若い個体として表現されています。人間の感覚とはまったく違う時間を生きる生き物たちが、洪水の中で必死に生き延びようとしていた。そう思うと、このニュースは単なる災害救助ではなく、亀たちの時間を守るための出来事に見えてきます。

    湯川亀吉の一言

    なるほど。

    出典

    元記事:AP News「Thousands of endangered tortoises are rescued in Madagascar after their sanctuary is flooded」

  • 【世界の亀ニュース】一軒の家から10,976匹 密輸から救われたホウシャガメを、もう一度マダガスカルの森へ

    【世界の亀ニュース】一軒の家から10,976匹 密輸から救われたホウシャガメを、もう一度マダガスカルの森へ

    今回は、マダガスカルにしか生息しない美しいリクガメ、ホウシャガメをめぐる大規模な救護と野生復帰のニュースを紹介します。

    2018年4月。

    マダガスカル南西部のトゥリアラで、一軒の民家から発見されたホウシャガメは、

    10,976匹。

    数十匹でも、

    数百匹でもありません。

    一万匹を超えるカメが、一つの建物に集められていました。

    そこから始まったのは、

    カメを押収して終わる保護活動ではありませんでした。

    救護する。

    健康を取り戻す。

    何年も育てる。

    野生へ戻せる個体を選ぶ。

    帰る森を確保する。

    地域住民と一緒にその場所を守る。

    そして、

    もう一度、人間の手から離す。

    長い時間をかけた「密輸から野生復帰へ」の計画です。

    今回のニュース

    2018年4月10日、マダガスカル南西部の都市トゥリアラで、警察と環境当局が一軒の住宅を捜索しました。

    そこで確認されたのが、

    10,976匹のホウシャガメでした。

    発見されたカメの多くは若い個体で、十分な水や餌を得られない状態に置かれていました。

    Turtle Survival Alliance(TSA)を中心に、マダガスカル国内外の動物園、獣医師、飼育スタッフなどが救護に参加。

    生き残った個体は、トゥリアラから北へ約29km離れたIfatyの保護施設へ移され、健康確認や水分補給、治療、個体識別などが進められました。

    この事件は、

    TSAがそれまで経験した中でも最大規模のリクガメ救護の一つとなりました。

    どこの国・地域の話か

    国:マダガスカル
    最初の大量押収:トゥリアラ周辺
    発見日:2018年4月10日
    対象種:ホウシャガメ
    学名:Astrochelys radiata
    英名:Radiated Tortoise
    情報の種類:リクガメ・密輸・違法取引・救護・野生復帰・地域保全

    ホウシャガメは、マダガスカル南部から南西部にのみ自然分布する固有種です。

    乾燥した低木林、トゲの多いスパイニーフォレストなどに暮らしています。

    登場する亀

    今回の主役は、

    ホウシャガメ

    学名は、

    Astrochelys radiata

    英語ではRadiated Tortoiseと呼ばれます。

    京都市動物園でも「ホウシャガメ」という和名が使われており、最大甲長は約40cmと紹介されています。

    名前の由来は、

    甲羅です。

    黒っぽい甲板の中心から、

    黄色い線が外側へ向かって伸びる。

    まるで光が放射しているように見えます。

    Smithsonian’s National Zooは、この放射模様について、インドホシガメなど他の星模様を持つリクガメよりも細かく複雑であることを特徴として挙げています。

    世界で最も美しいカメの一つ

    ホウシャガメは、その甲羅の美しさから、

    「世界で最も美しいリクガメの一つ」

    として紹介されることがあります。

    美しい。

    珍しい。

    欲しい。

    その評価が、

    このカメを追い詰める理由にもなりました。

    野生個体は国際的なペット取引のために捕獲され、さらにマダガスカル国内では食用目的の捕獲も続いてきました。

    生息地そのものも、農地化や炭づくりなどによって失われています。

    昔は「触ってはいけないカメ」だった

    マダガスカル南部の一部地域には、

    ホウシャガメを傷つけたり食べたりすることを禁じる伝統的な**「fady(ファディ)」**があります。

    祖先と結び付けて考えられる地域もあり、

    長い間、

    文化そのものがホウシャガメを守ってきました。

    しかし、

    地域外から人が入る。

    価値の高いカメとして売買される。

    伝統的な禁忌を共有しない人が捕る。

    その結果、

    文化だけでは個体群を守れなくなっていきました。

    2018年4月、一軒の家に10,976匹

    そして2018年4月10日。

    トゥリアラの住宅で、

    10,976匹。

    とてつもない数のホウシャガメが発見されました。

    普通に考えれば、

    一日や二日で集められる数ではありません。

    一匹。

    また一匹。

    別の場所からも一匹。

    それが積み重なって、

    一万匹を超えた。

    その数だけ、

    野生の森からホウシャガメが消えていたことになります。

    そして半年後、また数千匹

    さらに同じ2018年10月にも、大規模な押収が発生しました。

    TSAによると、2018年だけで保護下へ入ったホウシャガメは17,000匹を超えました。

    つまり、

    4月の事件は、

    一度だけ起きた異常な出来事ではありませんでした。

    それだけ大規模な捕獲と違法取引が、

    このカメを取り巻いていたということです。

    保護した瞬間から、別の問題が始まる

    密輸されるカメを見つけた。

    押収した。

    助かった。

    そう思いたくなります。

    でも、

    一万匹を保護した瞬間、

    今度は人間が一万匹を生かさなければなりません。

    水。

    餌。

    飼育場所。

    病気の確認。

    衛生管理。

    個体識別。

    獣医療。

    スタッフ。

    そして、

    何年間も続く費用。

    TSAはマダガスカルに複数の保全施設を整備し、押収されたホウシャガメの大規模な飼育体制を作りました。現在のTSAのマダガスカル事業でも、違法取引から救出したホウシャガメの救護、長期飼育、野生復帰が主要活動になっています。

    でも、ずっと飼うことが目的ではない

    何万匹も保護している。

    だったら、

    大きな保護施設を作って、

    そこで一生飼えばいい。

    そう考えることもできます。

    でも、

    ホウシャガメは本来、

    飼育施設にいる動物ではありません。

    マダガスカル南部の森を歩くリクガメです。

    そこでTSAは、

    Confiscation to Reintroduction Strategy

    という考え方を進めました。

    日本語にすると、

    「押収から再導入へ」。

    密輸から救出したカメを、

    可能な限り、

    もう一度野生へ戻していく計画です。

    ただ森へ置けばいいわけではない

    一度長期間飼育したカメを、

    空いている森へ置けばいい。

    そんな単純な話でもありません。

    その地域に病気を持ち込まないか。

    健康状態は十分か。

    野生で餌を取れるか。

    その森に十分な食物があるか。

    再び密猟されないか。

    地域の人々が保護に協力してくれるか。

    一つずつ確認する必要があります。

    そのため、放流候補となった個体には獣医師による健康検査が行われています。

    感染症検査も含め、

    「放しても大丈夫なカメか」

    を確認します。

    2021年、最初の1,000匹

    そして2021年。

    大きな転換点が来ます。

    TSAは、

    1,000匹のホウシャガメを、マダガスカル南部の地域住民が保護する森林へ移しました。

    違法取引から救出され、

    何年間も人間の管理下で暮らしてきたカメたちです。

    ただし、

    いきなり森全体へ自由にしたわけではありません。

    まず約6ヘクタールの順応エリアに入り、

    その土地で生活する期間が設けられました。

    そして2022年3月、

    囲いが開かれ、

    カメたちは周囲のスパイニーフォレストへ自由に移動できるようになりました。

    「ソフトリリース」という考え方

    これは、

    soft release(ソフトリリース)

    と呼ばれる方法です。

    人間の管理下から、

    いきなり完全な野生へ移すのではない。

    まず、

    これから暮らす場所に慣れてもらう。

    気温。

    植物。

    地面。

    匂い。

    雨。

    その土地そのものを覚える。

    そして、

    囲いを開ける。

    カメは、

    自分の意思で外へ歩いていきます。

    カメに発信器を付ける

    放したら、

    それで終わりではありません。

    再導入個体の一部には、

    VHF無線発信器やGPSロガーが装着されました。

    どこへ歩くのか。

    どのくらい移動するのか。

    生き残っているのか。

    どの環境を利用するのか。

    そうした情報を調べます。

    人間の視界から消える。

    でも、

    完全には見失わない。

    それが、

    次に何千匹ものカメを戻すためのデータになります。

    2024年、さらに1,000匹

    取り組みは、

    最初の1,000匹で終わりませんでした。

    2024年5月23日。

    World Turtle Day。

    TSAは、

    さらに1,000匹のホウシャガメを、マダガスカル南西部の地域保護林へ放しました。

    この個体たちも、放流前に健康評価を受け、

    6か月間の隔離期間を経ています。

    2018年に押収された膨大な数のカメたちが、

    少しずつ、

    森へ帰り始めています。

    最終目標は2万匹以上

    TSAは、

    保護下にいるホウシャガメのうち、

    2万匹以上を将来的に野生へ戻す

    という大規模な計画を掲げています。

    2万匹。

    想像するのも難しい数です。

    でも、

    そもそもそれほど多くのカメが、

    人間によって森から持ち出されました。

    だから、

    今度は逆の流れを作ろうとしています。

    森から人間へ。

    ではなく、

    人間から森へ。

    カメだけ戻しても意味がない

    ただし、

    森が安全でなければ、

    2万匹戻しても意味がありません。

    もう一度捕られるかもしれない。

    生息地が失われるかもしれない。

    だから再導入地は、

    地域住民自身が管理する保護林

    として整備されています。

    カメを運ぶだけではない。

    森を守る。

    地域住民と話す。

    監視する人を育てる。

    地域の暮らしと保全を両立させる。

    そこまで作ってから、

    カメを戻します。

    人間がいるから減った。でも、人間がいるから戻せる

    今回のニュースには、

    少し不思議なところがあります。

    ホウシャガメを減らした大きな原因の一つは、

    人間です。

    人間が捕った。

    人間が売った。

    人間が森を変えた。

    でも、

    今ホウシャガメを戻しているのも、

    人間です。

    警察。

    獣医師。

    飼育スタッフ。

    研究者。

    地域住民。

    政府。

    動物園。

    世界中の人が関わっています。

    人間が原因だから、

    人間は何もしないほうがいい。

    ではない。

    壊した側だからこそ、戻す仕事もできる。

    そんな例だと思います。

    京都市動物園にも「密輸から救われたホウシャガメ」がいる

    この話は、

    遠いマダガスカルだけの話でもありません。

    京都市動物園が飼育しているホウシャガメの中にも、

    日本へ密輸される途中、空港で摘発されて保護された個体がいます。

    日本にも、

    違法取引の終着点になった歴史があります。

    「珍しいカメを飼いたい」

    という需要は、

    地球の反対側の野生個体群につながっています。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番注目したいのは、

    保護されたカメを、ずっと「保護されたカメ」のままにしないことです。

    10,976匹。

    押収する。

    助ける。

    それだけでも、

    とてつもない仕事です。

    でも、

    そこで終わらなかった。

    何年も育てる。

    健康を戻す。

    森を探す。

    地域住民と一緒に守る仕組みを作る。

    順応させる。

    囲いを開ける。

    そして、

    一匹ずつ歩いていく。

    人間から遠ざかっていく。

    僕は、

    そこがすごくいいと思います。

    カメを救った証拠は、

    人間の飼育施設に何万匹いることではない。

    人間がどこにいるのか分からなくなるくらい、森へ散らばっていくこと。

    それが最終的な成功なんじゃないかな。

    湯川亀吉の一言

    人間はクズってことだな。
    密猟するやつも、保護するやつも、同じクズだ。

    出典

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「Radiated Tortoise Press Release 2018」
    2018年4月の10,976匹の大量押収と救護活動について。
    URL:
    https://shop.turtlesurvival.org/blogs/news/radiated-tortoise-press-release-2018/

    San Diego Zoo Wildlife Alliance
    「Turtle Survival Alliance Leads Rescue Mission to Save 10,976 Critically Endangered Radiated Tortoises Discovered in Massive Poaching Bust」
    2018年4月19日。
    URL:
    https://sandiegozoowildlifealliance.org/story-hub/2018/04/19/turtle-survival-alliance-leads-rescue-mission-to-save-10976-critically

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「1,000 Radiated Tortoises Return to the Wild」
    2021年8月9日。最初の大規模野生復帰計画について。
    URL:
    https://shop.turtlesurvival.org/blogs/news/1000-radiated-tortoises-return-to-the-wild

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「1,000 Radiated Tortoises Released on World Turtle Day®」
    2024年6月4日。2回目の1,000匹規模の放流について。
    URL:
    https://turtlesurvival.org/1000-radiated-tortoises-released-on-world-turtle-day/

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「Species Spotlight: Radiated Tortoise」
    大量押収、保全繁殖、野生復帰について。
    URL:
    https://turtlesurvival.org/turtleoftheweek-radiated-tortoise/

    Smithsonian’s National Zoo and Conservation Biology Institute
    「Radiated tortoise」
    形態、生息地、食性、保全状況について。
    URL:
    https://nationalzoo.si.edu/animals/radiated-tortoise

    京都市動物園
    「ホウシャガメ/Radiated Tortoise」
    和名、分布、形態について。
    URL:
    https://zoo.city.kyoto.lg.jp/zoo/animals/g_radiata

  • 【世界の亀ニュース】112年ぶりに現れた幻のゾウガメ 絶滅したと思われたフェルナンディナゾウガメ「フェルナンダ」

    【世界の亀ニュース】112年ぶりに現れた幻のゾウガメ 絶滅したと思われたフェルナンディナゾウガメ「フェルナンダ」

    今回は、エクアドル・ガラパゴス諸島で、100年以上絶滅したと考えられていたフェルナンディナゾウガメが再発見されたニュースを紹介します。

    一匹の雌。

    名前は、

    Fernanda(フェルナンダ)。

    2019年に見つかったこの一匹によって、

    「すでに絶滅した」

    と思われていた種の歴史が、もう一度動き始めました。

    今回のニュース

    2019年2月、ガラパゴス諸島のフェルナンディナ島で、一匹の雌の巨大なリクガメが発見されました。

    発見したのは、ガラパゴス国立公園とGalápagos Conservancyの調査チームです。

    フェルナンディナ島で、その島固有のゾウガメが最後に正式に確認されたのは1906年

    つまり、

    112年以上にわたって、生きた個体が確認されていなかった場所で見つかった一匹でした。

    しかし、発見しただけでは、

    「フェルナンディナゾウガメが生き残っていた」

    とは断定できませんでした。

    なぜなら、

    その一匹の姿が、1906年に採集された唯一の標本とかなり違っていたからです。

    どこの国・地域の話か

    国:エクアドル
    地域:ガラパゴス諸島
    島:フェルナンディナ島
    再発見:2019年2月
    遺伝学的な確認:2021〜2022年
    対象種:フェルナンディナゾウガメ
    学名:Chelonoidis phantasticus
    情報の種類:リクガメ・再発見・遺伝子解析・絶滅危惧種・保全

    フェルナンディナ島は、ガラパゴス諸島西部に位置する火山島です。

    島の中心には活火山があり、溶岩地帯が広がる非常に厳しい環境です。科学論文では、フェルナンディナ島は地球上でも特に原始的な自然が残された大きな島の一つとして紹介されています。

    登場する亀

    今回の主役は、

    フェルナンディナゾウガメ

    学名は、

    Chelonoidis phantasticus

    英語ではFernandina Giant Tortoise、Fernandina Island Galápagos Tortoiseなどと呼ばれています。

    日本でも「フェルナンディナゾウガメ」という和名が使われています。

    ガラパゴスゾウガメの仲間ですが、フェルナンディナ島だけに成立した独自の系統です。

    すべては1906年の一匹から始まった

    この種について科学者が持っていた証拠は、長い間ほとんど一つしかありませんでした。

    1906年。

    California Academy of Sciencesの探検隊に参加していたRollo Beckが、フェルナンディナ島で一匹の雄のゾウガメを採集します。

    その個体が、

    フェルナンディナゾウガメとして知られる唯一の確実な標本

    になりました。

    その雄は非常に特徴的な甲羅を持っていました。

    甲羅前方が大きく持ち上がった、

    いわゆる鞍型(サドルバック型)

    さらに縁甲板も大きく張り出していました。

    科学論文では、その形態は他のガラパゴスゾウガメと比較しても非常に特徴的だったとされています。

    ところが、

    その後、同じカメが見つからない。

    100年以上、姿を見せなかった

    1906年以降、生きたフェルナンディナゾウガメが正式に確認されることはありませんでした。

    ただし、

    完全に何の証拠もなかったわけではありません。

    その後の調査では、

    ゾウガメらしい糞。

    歩いた跡。

    植物を食べた痕跡。

    などが何度か見つかっていました。

    つまり、

    「もしかしたら、まだいるのではないか」

    という疑いは残っていた。

    でも、

    カメそのものが見つからない。

    フェルナンディナ島には広大な溶岩地帯があります。

    足場は悪い。

    気温は高い。

    植生の濃い場所もある。

    人間が島全体をくまなく探すことは簡単ではありません。

    2019年、一匹の雌が現れた

    そして2019年。

    調査チームがフェルナンディナ島へ入りました。

    その中で、

    Washington Tapia氏とガラパゴス国立公園レンジャーのJeffreys Málaga氏らが、一匹の雌のゾウガメを発見します。

    100年以上見つからなかった島で、

    本当にゾウガメがいた。

    巨大なニュースでした。

    この雌には、島の名前Fernandinaから、

    Fernanda

    という愛称が付けられました。

    でも、姿が違った

    ところが問題があります。

    フェルナンダは、

    1906年の雄とあまり似ていませんでした。

    1906年の標本は、非常に強いサドルバック型。

    一方のフェルナンダは、

    それほど極端な形をしていません。

    さらに体も比較的小さい。

    そのため、

    別のガラパゴスゾウガメが過去に人間によってフェルナンディナ島へ運ばれ、その子孫が残っていた可能性も否定できませんでした。

    つまり、

    島で見つかったからといって、

    フェルナンディナゾウガメとは限らなかった。

    113年前の標本とDNAを比較する

    そこで科学者が使ったのが、

    DNAです。

    フェルナンダから遺伝情報を取得する。

    そして比較対象にしたのが、

    1906年に採集された雄の博物館標本でした。

    100年以上前のカメと、

    今生きているカメ。

    そのゲノムを比較します。

    さらに、他のガラパゴスゾウガメ各系統のゲノムとも比較しました。

    結果は「同じ系統」

    2022年6月9日。

    科学誌Communications Biologyに論文が発表されました。

    タイトルは、

    “The Galapagos giant tortoise Chelonoidis phantasticus is not extinct”

    つまり、

    「フェルナンディナゾウガメは絶滅していない」

    です。

    ゲノム解析の結果、

    フェルナンダと1906年の雄は、

    同じフェルナンディナ島固有の系統に属することが確認されました。

    しかも、その系統は他のガラパゴスゾウガメとは遺伝的に区別されていました。

    一匹のカメによって、

    100年以上前に止まっていた種の記録がつながりました。

    見た目が違っても、同じ種だった

    この結果はとても面白いと思います。

    1906年の雄とフェルナンダ。

    甲羅の形はかなり違う。

    でもDNAでは、

    同じ系統だった。

    つまり、

    一匹の標本だけを見て、

    「この種類は必ずこの形」

    と考えることには危険があります。

    性別。

    年齢。

    生活環境。

    栄養状態。

    個体差。

    さまざまな要因によって、生き物の形は変化します。

    実際、研究者はフェルナンダが比較的小さい理由について、島の限られた植生環境によって成長が抑えられた可能性も指摘しています。

    「一匹見つかった」は復活ではない

    ここで終われば、

    「絶滅したカメが復活した!」

    という、とても明るい話になります。

    でも、

    実際にはもっと厳しい。

    フェルナンダは、

    確認されている唯一の生きたフェルナンディナゾウガメです。

    一匹だけでは、

    次の世代を作れません。

    必要なのは、

    もう一匹。

    特に繁殖可能な雄です。

    島中で仲間を探す

    フェルナンダが見つかったあと、ガラパゴス国立公園とGalápagos Conservancyは、何度もフェルナンディナ島へ調査隊を送りました。

    目的はただ一つ。

    フェルナンダの仲間を探すこと。

    2022年の大規模調査では18人のチームが島へ入り、約65平方キロメートルを捜索しました。

    火山島。

    溶岩。

    暑さ。

    険しい地形。

    そこを歩きながら、

    カメを探します。

    「いる」痕跡はある

    興味深いことに、

    フェルナンダ以外のカメがいる可能性を示す痕跡は見つかっています。

    歩いた跡。

    糞。

    カメが休んだような場所。

    Galápagos ConservancyのWashington Tapia氏は、こうした痕跡から少なくとも数匹が島にいる可能性を考えていました。

    しかし、

    実物が見つからない。

    痕跡はある。

    でもカメがいない。

    フェルナンディナ島は、

    今でも答えを簡単には見せてくれません。

    2023年になっても、仲間は見つからなかった

    2023年12月、Galápagos Conservancyはフェルナンダについて改めて報告しています。

    それまで実施された大規模な調査でも、

    新たなフェルナンディナゾウガメは確認できませんでした。

    そのためフェルナンダが、この種の最後の一匹、いわゆるendlingである可能性も現実味を帯びています。

    かつてピンタゾウガメの最後の一匹、

    「ロンサム・ジョージ」

    が歩いた道と重なります。

    「絶滅していなかった」と「助かった」は違う

    今回のニュースで重要なのは、

    この二つを分けることだと思います。

    絶滅していなかった。

    これは事実です。

    でも、

    種が救われた。

    これはまだ言えません。

    一匹見つかっただけだからです。

    もしフェルナンダ以外の個体が本当にいなければ、

    彼女がどれだけ長く生きても、

    その先で系統は途切れます。

    だから、

    再発見はゴールではない。

    むしろ、

    そこから保全が始まります。

    博物館の一匹が、100年後に役立った

    もう一つ注目したいのが、

    1906年の標本です。

    100年以上前、

    一匹の雄が採集されました。

    その個体はもう生きていません。

    でも、

    標本として残っていた。

    そのDNAがあったから、

    2019年に見つかったフェルナンダの正体を確かめることができました。

    昔の博物館資料が、

    100年以上後の絶滅危惧種保全に使われたことになります。

    標本は、

    ただ昔の生き物を展示するものではない。

    未来の科学者がまだ想像していない方法で、

    情報を取り出せる「記録」でもあります。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番面白いと思うのは、

    「見つからない」と「いない」は同じではない

    というところです。

    1906年。

    一匹見つかる。

    それから100年以上、

    見つからない。

    普通なら、

    もういないと思う。

    それでも、

    糞がある。

    足跡がある。

    何かがおかしい。

    そして2019年。

    本当に一匹出てきた。

    亀という動物は、

    人間が思っている以上に、

    見つからないまま生きることができるのかもしれません。

    しかも舞台は、

    巨大な火山島。

    もしかすると、

    今この瞬間も、

    人間がまだ見つけていないフェルナンディナゾウガメが、

    溶岩の向こう側を歩いているのかもしれません。

    その可能性がゼロではない。

    僕はそこに、このニュースの魅力を感じます。

    湯川亀吉の一言

    人間の本質はクソだってことがよくわかったよ。

    ま、俺が世界で一番クソだけどね。

    出典

    Communications Biology / Nature
    「The Galapagos giant tortoise Chelonoidis phantasticus is not extinct」
    2022年6月9日。フェルナンダと1906年標本の全ゲノム解析を行った科学論文。

    Galápagos Conservancy
    「Breaking: Female Tortoise Found on Fernandina Island」
    2019年2月19日。フェルナンダ発見時の公式発表。

    Galápagos Conservancy
    「Publication Confirms Fernanda as Fernandina Giant Tortoise」
    DNA解析によってフェルナンダの種が確認されたことを紹介。

    Princeton University
    「’Fantastic giant tortoise,’ believed extinct, confirmed alive in the Galápagos」
    2022年6月9日。ゲノム研究とフェルナンダの再発見について。

    Galápagos Conservancy
    「The Enigma Of Fernanda – A Lone Survivor In Galápagos」
    2023年12月19日。仲間を探す調査とフェルナンダの状況について。

  • 【亀ニュースアーカイブ】絶滅したと思われたフェルナンディナゾウガメ、100年以上ぶりに発見

    【亀ニュースアーカイブ】絶滅したと思われたフェルナンディナゾウガメ、100年以上ぶりに発見

    2019年2月、エクアドルのガラパゴス諸島にあるフェルナンディナ島で、一匹の雌のゾウガメが発見されました。

    この島に固有のフェルナンディナゾウガメは、1906年に一匹の雄が採集されて以来、100年以上も生きた個体が確認されず、絶滅したと考えられていました。発見された雌は、島の名前にちなんで「フェルナンダ」と名付けられました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:エクアドル、ガラパゴス諸島、フェルナンディナ島
    元記事の言語:英語
    発見時期:2019年2月
    遺伝的確認:2022年
    情報の種類:過去アーカイブ・再発見・研究・絶滅危惧種

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、フェルナンディナゾウガメです。

    学名はChelonoidis phantasticus。フェルナンディナ島だけに生息していたとされるガラパゴスゾウガメの一種です。

    長いあいだ科学的に知られていたのは、1906年に採集され、博物館に保存された雄の標本一匹だけでした。

    ニュースの要約

    2019年の調査で発見されたフェルナンダは、サンタクルス島にあるガラパゴス国立公園の繁殖施設へ移され、血液や遺伝情報の調査が行われました。

    しかし、フェルナンダの姿は、1906年に採集された雄の標本とは大きく異なっていました。

    雄の標本は、甲羅の前方が大きく持ち上がった、非常に特徴的な鞍型の甲羅を持っていました。一方、フェルナンダは体が小さく、甲羅も比較的なめらかだったため、本当に同じ種類なのか疑問視する研究者もいました。限られた植物しかない火山島で成長したため、発育が抑えられた可能性も考えられています。

    研究チームは、フェルナンダと1906年の標本から得たゲノムを比較しました。

    その結果、二匹は同じ系統に属し、ほかのガラパゴスゾウガメとは遺伝的に異なることが確認されました。フェルナンディナゾウガメは、絶滅していなかったのです。

    たった一匹なのか

    フェルナンディナ島では、ゾウガメらしい足跡や糞など、ほかの個体が存在する可能性を示す痕跡も報告されました。けれど、その後も生きた別個体は確認されていません。2025年時点でも、フェルナンダはこの種で唯一確認されている生存個体です。

    フェルナンディナ島は、広大な溶岩原が広がる火山島です。鋭い溶岩が島の内部への移動を妨げるため、調査は非常に困難です。人間がまだ到達できていない場所に、別のゾウガメが生きている可能性も完全には否定できません。

    なぜ今、このニュースを紹介するのか

    このニュースが発生したのは2019年ですが、絶滅と再発見について考えるうえで、とても重要な記録です。

    人間が「絶滅した」と判断したあとも、フェルナンダは火山島のどこかで生き続けていました。

    誰にも見つからず、仲間がいるかどうかもわからない場所で、何十年もの時間を生きていた。

    存在を確認できないことと、存在していないことは、同じではありません。

    世界のどこかには、僕たちが失ったと思い込んでいるだけで、今も静かに生きている亀がいるのかもしれません。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、一匹の亀が、種の絶滅という判断を覆したことです。

    1906年の標本と、2019年に発見されたフェルナンダ。

    科学的に確認されているのは、わずか二匹です。しかも二匹が生きていた時代は重なっていません。

    それでも、博物館に残された100年以上前の標本と、現代の一匹の遺伝情報を比較することで、失われたと思われていた種の存在が証明されました。

    古い標本も、現在を生きる一匹も、未来の保護につながる重要な記録なのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    絶滅したと思われていた亀が、火山島の奥で見つかった。

    ロマンが溢れてやがるぜ。

    出典

    Galápagos Conservancy「Breaking: Female Tortoise Found on Fernandina Island」

    Princeton University「“Fantastic giant tortoise,” believed extinct, confirmed alive in the Galápagos」

    Galápagos Conservancy「Publication Confirms Fernanda as Fernandina Giant Tortoise