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  • 【世界の亀ニュース】犬や嵐からヒメウミガメの巣を守る パラワン島で地域住民が夜の浜を巡回

    【世界の亀ニュース】犬や嵐からヒメウミガメの巣を守る パラワン島で地域住民が夜の浜を巡回

    今回は、フィリピン・パラワン島の砂浜で、地域住民と研究者が協力してヒメウミガメの巣を守っているニュースを紹介します。

    今回のニュース

    フィリピン西部のパラワン島にあるサン・ビセンテでは、ヒメウミガメの産卵期になると、地域住民と研究者が夜通し砂浜を巡回しています。

    活動の中心となっているのは、フィリピンの海洋保全団体Large Marine Vertebrates Research Institute Philippines、通称LAMAVEと、海岸沿いの村で暮らす地域住民です。

    母ガメの上陸を確認し、産卵を見守り、犬や高潮などの危険がある巣は保護用の孵化場へ移します。卵から出てきた子ガメが無事に海へ向かうまで、地域全体で見守る活動が続けられています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:フィリピン共和国、パラワン州
    場所:サン・ビセンテ、サント・ニーニョ村など
    元記事の言語:英語
    公開時期:2026年7月17日
    情報の種類:新着ニュース・ウミガメ・産卵・孵化・地域保全

    サン・ビセンテは農業と漁業が行われている町で、その海岸はアジアに残る重要なヒメウミガメの産卵地の一つです。町には約284キロに及ぶ砂浜や小さな入り江があり、例年11月中旬から3月ごろにかけて、多数のヒメウミガメが夜の海岸へ上がります。

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、ヒメウミガメです。

    学名は Lepidochelys olivacea。英語ではOlive Ridley Sea Turtleと呼ばれ、日本語では「オリーブヒメウミガメ」と表記されることもあります。

    ヒメウミガメは小型のウミガメで、甲長と甲幅の差が少なく、上から見ると甲羅の外周が円形に近く見えるのが特徴です。世界の熱帯・亜熱帯の海域に広く分布し、フィリピンの海岸でも産卵します。

    ニュースの要約

    産卵期のサン・ビセンテでは、地域の巡回員やボランティア、LAMAVEの研究者たちが交代で夜の砂浜を歩きます。

    最も忙しい時期には、一晩から早朝にかけて五つの時間帯に分かれ、合計5マイル、約8キロ以上の海岸を巡回します。

    母ガメを見つけても、すぐには近づきません。

    産卵が終わるまで静かに待ち、犬が近づけば追い払い、母ガメが海へ戻る前に甲羅の大きさを測ります。さらに、頭部にある鱗の模様を写真に記録し、将来同じ個体が戻ってきたときに識別できるようにします。遺伝子調査のため、ひれから小さな試料を採取する場合もあります。

    卵を動かさなければならない巣

    母ガメが選んだ場所であっても、すべての巣をそのまま残せるとは限りません。

    波に近すぎる場所では、高潮や嵐によって巣が浸水する可能性があります。人や車が頻繁に通る場所では、砂が踏み固められたり、卵が傷つけられたりする危険もあります。

    安全に孵化できないと判断された巣では、卵の向きを大きく変えないよう慎重に掘り出し、保護用の孵化場へ移します。孵化場では、巣の位置や卵の数、移動した日時などを記録しながら、子ガメが出てくる日を待ちます。

    卵を移すこと自体にも危険があります。

    移動方法や砂の深さ、温度などが適切でなければ、孵化率を下げてしまう可能性があるからです。

    そのためLAMAVEは、地域の巡回員に産卵調査、巣の移動、孵化場の管理、子ガメの放流などの技術を伝え、地域の人たち自身が長期的に海岸を守れる仕組みづくりを進めています。

    巣を襲う犬

    サン・ビセンテで現在、最も身近な脅威とされているのが、海岸を歩き回る犬です。

    犬は砂の中にある卵の匂いを見つけ、巣を掘り返します。孵化したばかりの子ガメが砂から出た直後に襲われることもあります。

    巡回員たちは母ガメの産卵中だけでなく、巣の周辺や子ガメの放流時にも犬が近づかないよう見守っています。

    これは犬を悪者にするという話ではありません。どんなときも、悪いのは人間です。

    放し飼いや野良犬の増加など、人間の暮らし方によって生まれた問題です。

    海岸のウミガメを守るためには、巣に柵を設置するだけでなく、地域の飼い犬の管理や住民への理解を広げる必要があります。

    気候変動と観光開発

    ヒメウミガメの巣を脅かしているのは、犬だけではありません。

    海面上昇、高潮、海岸浸食、激しい嵐によって、これまで安全だった産卵場所が水につかる可能性が高まっています。また、砂の温度は子ガメの性別や発生にも関係するため、海岸の高温化も重要な問題です。

    パラワン島では、観光開発も進んでいます。

    道路、宿泊施設、海岸照明、人や車の往来が増えれば、母ガメが上陸を諦めたり、子ガメが海とは反対側の光へ向かったりする可能性があります。

    自然豊かな海岸が観光地として注目されることと、ウミガメが産卵できる暗く静かな砂浜を残すこと。その二つをどう両立させるかが、これからの大きな課題です。

    卵で遊んでいた少年が、巣を守る側へ

    今回のニュースで紹介された地域巡回員の一人が、ジェラルド・マフサイさんです。

    マフサイさんは子どものころ、海岸でウミガメの卵をよく見つけていました。しかし、その卵がなぜ大切なのかを知らず、友人たちと遊びに使っていたと振り返っています。

    2023年、マフサイさんはLAMAVEの地域巡回員として働き始めました。そして現在は、巡回チームの責任者と、ウミガメ調査の研究助手を務めています。

    かつて卵の意味を知らなかった少年が、今では夜の浜を歩き、母ガメを記録し、同じ卵を犬や嵐から守っている。

    この変化は、一人の考えが変わったというだけではありません。

    地域に知識と仕事が生まれ、海岸で暮らしてきた人が保護活動の中心になったことを示しています。

    地域の人が守る意味

    遠くから研究者がやって来て、数年間だけ調査することはできます。

    しかし、ヒメウミガメは毎年同じ地域へ戻り、夜中や嵐の前後にも産卵します。

    海岸の変化を毎日見ているのは、そこで暮らす人たちです。

    どの場所に犬が多いのか。
    どの浜が高潮で削られるのか。
    どの時間帯に母ガメが上がりやすいのか。

    地域住民が持つ経験と、研究者が持つ調査技術を組み合わせることで、広い海岸を長期間見守れるようになります。LAMAVEの活動は、ウミガメだけを保護するのではなく、地域の人が自分たちの海岸を守り続けられる体制を作ることも目的としています。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、ウミガメを守っているのが、特別な施設の中ではなく、人が暮らしている普通の砂浜だということです。

    母ガメが上陸する浜の近くには、家がある。

    漁へ出る船がある。

    犬が歩き、子どもが遊び、これから観光施設が建つかもしれない。

    人間の暮らしとウミガメの産卵地は、離れた二つの世界ではありません。

    同じ砂浜を使っています。

    だからこそ、ウミガメを守るには、その土地で暮らす人を保護活動の外側に置くことはできません。

    夜の浜を歩く地域巡回員の存在は、人間と亀が同じ場所で生きていくための、小さくても重要な接点なのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    人がいる限り難しい問題だね。
    人が悪だってことじゃないよ。
    良いだの悪いだの、正しいだの間違っているだのの判断軸を持っている人間がいることがクソなのさ。

    出典

    Mongabay
    「How a community is helping sea turtles hatch in the Philippines」

    Large Marine Vertebrates Research Institute Philippines
    「Marine Turtle Nesting Beach Monitoring and Conservation Project: An Overview」

    Island Innovation
    「How a Community is Helping Sea Turtles Hatch in the Philippines’ Palawan」

    World Wildlife Fund
    「Constructing climate-resilient hatcheries for endangered sea turtles in the Philippines」

    沖縄美ら海水族館
    「ヒメウミガメ」

  • 【世界の亀ニュース】かつて狩った森で守る側へ インドの若者たちがエミスムツアシガメを追跡

    【世界の亀ニュース】かつて狩った森で守る側へ インドの若者たちがエミスムツアシガメを追跡

    今回は、インド北東部のナガランド州で進められている、エミスムツアシガメの繁殖と野生復帰について紹介します。

    今回のニュース

    インド北東部のナガランド州では、絶滅の危機にあるエミスムツアシガメを地域の森へ戻し、住民自身がその後の暮らしを見守る保護活動が進められています。

    2025年8月には、ナガランド動物園で繁殖・育成された10匹が、ペレン県のゼリアン・コミュニティ保護区へ移されました。

    放されたカメを追跡しているのは、外部から派遣された研究者だけではありません。地域で暮らす若者たちが「Tortoise Guardian=リクガメの守り手」となり、森を歩いてカメの痕跡を探しています。活動の様子は2026年5月に海外メディアで紹介されました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:インド共和国、ナガランド州
    主な場所:ペレン県、ゼリアン・コミュニティ保護区
    繁殖施設:ナガランド動物園
    野生復帰:2025年8月
    記事公開:2026年5月
    情報の種類:リクガメ・飼育下繁殖・野生復帰・地域保全

    ナガランド州では、森林の多くが行政ではなく、村や部族などの地域社会によって所有・管理されています。そのため、リクガメを野生へ戻した後も守り続けるには、地域住民の協力が欠かせません。

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、エミスムツアシガメです。

    学名は Manouria emys。日本動物園水族館協会では「ムツアシガメ」という和名も使われています。

    今回ナガランド州で保護されているのは、主に北方の亜種 Manouria emys phayreiとみられ、ビルマムツアシガメと呼ばれることもあります。

    英語ではAsian Giant TortoiseやAsian Forest Tortoiseと呼ばれます。

    アジア大陸に生息する最大級のリクガメで、熱帯・亜熱帯の湿潤な常緑樹林を利用します。暗褐色から黒褐色の甲羅と、大きく頑丈な体が特徴です。

    ニュースの要約

    ナガランド動物園の繁殖計画は、13匹のエミスムツツアシガメから始まりました。

    内訳は雄6匹、雌7匹です。

    市場で食用として販売される前に保護された個体や、住民の家で飼育されていた個体が繁殖計画に加わりました。

    その後、地域住民が自宅で飼っていたカメを自発的に提供するようになり、13匹の親から合計114匹の子どもが誕生したと報告されています。

    これまでに100匹を超える個体が、ナガランド州内の地域管理型保護区へ移されました。

    単に森へ放すだけではなく、若者たちが森へ入り、食べられた植物、地面に残った足跡、休息した場所などを探しながら、放逐後の状態を確認しています。

    いきなり森へ放さない「ソフトリリース」

    2025年8月に移された10匹は、すぐに広い森へ解放されたわけではありません。

    まず保護区内に設置された囲いで一定期間を過ごし、気温、湿度、植物、地面など、現地の環境へ段階的に慣らされました。

    この方法は「ソフトリリース」と呼ばれます。

    飼育施設から突然野生へ移すのではなく、実際に暮らす森の中で新しい環境へ慣れる時間を作ります。

    エミスムツアシガメが暮らす森では、湿った土、落ち葉、低木、日陰などが重要です。

    野生復帰では、カメを放すことだけでなく、そのカメが隠れ、食べ、休める森を残す必要があります。

    「Tortoise Guardian」と呼ばれる若者たち

    地域で追跡を担当する若者たちは、「Tortoise Guardian」と書かれたシャツを着て、毎朝森へ入ります。

    カメそのものが見つからなくても、食べられた葉や、体の重みで沈んだ地面を確認することで、その個体がどこで活動していたのかを推測します。

    住民が一匹ずつに近い距離で関わることで、放されたカメは、単なる行政上の個体番号ではなくなります。

    今日は姿を確認できたのか。

    餌を食べているのか。

    森の奥へ移動したのか。

    放した後の生活まで地域の人が気にかけることが、この計画の大きな特徴です。

    かつて捕獲していた地域が、保護の中心になった

    エミスムツアシガメは、肉を目的とした捕獲、ペット取引、生息地の破壊などによって減少してきました。

    Turtle Survival Allianceによると、野生個体群は減少を続け、過去の個体数から80%以上減ったと推定されています。

    ナガランド州でも、かつては森で見つけたカメを食用として捕獲することがありました。

    しかし、保護活動が始まると、一部の住民は飼っていたカメを繁殖計画へ提供し、若者たちは野生復帰個体を守る活動へ参加するようになりました。

    かつてカメを利用していた地域社会を、保護活動から排除するのではありません。

    その土地とカメを最もよく知る人たちが、今度は保護の中心へ入っています。

    落ち葉の山を作って産卵するリクガメ

    エミスムツアシガメには、ほかの多くのリクガメとは異なる産卵方法があります。

    雌は地面へ卵を埋めるだけではなく、落ち葉や植物を集めて大きな塚を作り、その中へ卵を産みます。

    報道では、落ち葉の塚が高さ約60センチから2メートル以上になることもあると紹介されています。

    雌は前肢と後肢を使って植物を集め、塚を整えます。

    森の落ち葉が積もり、湿度と温度が保たれる環境そのものが、卵を育てる孵卵器の役割を果たします。

    このリクガメを守るには、成体だけでなく、落ち葉が積もる豊かな林床まで守らなければなりません。

    動物園と森をつなぐ繁殖計画

    ナガランド動物園は、地域に生息する絶滅危惧種の飼育下繁殖を担う施設です。

    繁殖施設で個体数を増やし、野生へ戻せる年齢まで育てたうえで、森林局や保全団体、地域住民と協力して放逐しています。

    飼育下繁殖だけでは、野生個体群を回復させることはできません。

    一方、森だけを残しても、そこへ戻す個体がいなければ、失われた個体群は戻りません。

    動物園で命をつなぐこと。

    野生で暮らせる森を残すこと。

    放した後を地域の人が見守ること。

    三つの働きがつながることで、野生復帰が成立します。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、カメを見つけることより、カメが見えない日にも森へ入ることです。

    リクガメは毎日、人間の前へ姿を現すわけではありません。

    落ち葉の下で休んでいるかもしれない。

    低木の奥で餌を食べているかもしれない。

    雨を避けて、動かずにいるかもしれない。

    保護活動では、カメが見つかった瞬間の写真が注目されます。

    でも、その一匹が野生で生き続けるためには、何も見つからない日も森を歩く人が必要です。

    食べられた葉を見る。

    地面のへこみを見る。

    今日もどこかで生きている可能性を探す。

    地域の若者たちは、カメを飼育しているのではありません。

    カメが人間の手を離れて生きていることを、静かに確認しているのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    エミスムツアシガメかっこいいよね!!

    出典

    Good News Network
    「Passionate ‘Tortoise Guardians’ Help Critically-Endangered Giant Tortoise Slowly Return to India」

    Turtle Survival Alliance
    「Asian Giant Tortoise」

    Nagaland Department of Forest
    「Nagaland Zoological Park」

    Responsible Herpetoculture Foundation
    「Largest Asian Tortoise Species Reintroduced Into Nagaland Reserve」

  • 【世界の亀ニュース】一軒の家から10,976匹 密輸から救われたホウシャガメを、もう一度マダガスカルの森へ

    【世界の亀ニュース】一軒の家から10,976匹 密輸から救われたホウシャガメを、もう一度マダガスカルの森へ

    今回は、マダガスカルにしか生息しない美しいリクガメ、ホウシャガメをめぐる大規模な救護と野生復帰のニュースを紹介します。

    2018年4月。

    マダガスカル南西部のトゥリアラで、一軒の民家から発見されたホウシャガメは、

    10,976匹。

    数十匹でも、

    数百匹でもありません。

    一万匹を超えるカメが、一つの建物に集められていました。

    そこから始まったのは、

    カメを押収して終わる保護活動ではありませんでした。

    救護する。

    健康を取り戻す。

    何年も育てる。

    野生へ戻せる個体を選ぶ。

    帰る森を確保する。

    地域住民と一緒にその場所を守る。

    そして、

    もう一度、人間の手から離す。

    長い時間をかけた「密輸から野生復帰へ」の計画です。

    今回のニュース

    2018年4月10日、マダガスカル南西部の都市トゥリアラで、警察と環境当局が一軒の住宅を捜索しました。

    そこで確認されたのが、

    10,976匹のホウシャガメでした。

    発見されたカメの多くは若い個体で、十分な水や餌を得られない状態に置かれていました。

    Turtle Survival Alliance(TSA)を中心に、マダガスカル国内外の動物園、獣医師、飼育スタッフなどが救護に参加。

    生き残った個体は、トゥリアラから北へ約29km離れたIfatyの保護施設へ移され、健康確認や水分補給、治療、個体識別などが進められました。

    この事件は、

    TSAがそれまで経験した中でも最大規模のリクガメ救護の一つとなりました。

    どこの国・地域の話か

    国:マダガスカル
    最初の大量押収:トゥリアラ周辺
    発見日:2018年4月10日
    対象種:ホウシャガメ
    学名:Astrochelys radiata
    英名:Radiated Tortoise
    情報の種類:リクガメ・密輸・違法取引・救護・野生復帰・地域保全

    ホウシャガメは、マダガスカル南部から南西部にのみ自然分布する固有種です。

    乾燥した低木林、トゲの多いスパイニーフォレストなどに暮らしています。

    登場する亀

    今回の主役は、

    ホウシャガメ

    学名は、

    Astrochelys radiata

    英語ではRadiated Tortoiseと呼ばれます。

    京都市動物園でも「ホウシャガメ」という和名が使われており、最大甲長は約40cmと紹介されています。

    名前の由来は、

    甲羅です。

    黒っぽい甲板の中心から、

    黄色い線が外側へ向かって伸びる。

    まるで光が放射しているように見えます。

    Smithsonian’s National Zooは、この放射模様について、インドホシガメなど他の星模様を持つリクガメよりも細かく複雑であることを特徴として挙げています。

    世界で最も美しいカメの一つ

    ホウシャガメは、その甲羅の美しさから、

    「世界で最も美しいリクガメの一つ」

    として紹介されることがあります。

    美しい。

    珍しい。

    欲しい。

    その評価が、

    このカメを追い詰める理由にもなりました。

    野生個体は国際的なペット取引のために捕獲され、さらにマダガスカル国内では食用目的の捕獲も続いてきました。

    生息地そのものも、農地化や炭づくりなどによって失われています。

    昔は「触ってはいけないカメ」だった

    マダガスカル南部の一部地域には、

    ホウシャガメを傷つけたり食べたりすることを禁じる伝統的な**「fady(ファディ)」**があります。

    祖先と結び付けて考えられる地域もあり、

    長い間、

    文化そのものがホウシャガメを守ってきました。

    しかし、

    地域外から人が入る。

    価値の高いカメとして売買される。

    伝統的な禁忌を共有しない人が捕る。

    その結果、

    文化だけでは個体群を守れなくなっていきました。

    2018年4月、一軒の家に10,976匹

    そして2018年4月10日。

    トゥリアラの住宅で、

    10,976匹。

    とてつもない数のホウシャガメが発見されました。

    普通に考えれば、

    一日や二日で集められる数ではありません。

    一匹。

    また一匹。

    別の場所からも一匹。

    それが積み重なって、

    一万匹を超えた。

    その数だけ、

    野生の森からホウシャガメが消えていたことになります。

    そして半年後、また数千匹

    さらに同じ2018年10月にも、大規模な押収が発生しました。

    TSAによると、2018年だけで保護下へ入ったホウシャガメは17,000匹を超えました。

    つまり、

    4月の事件は、

    一度だけ起きた異常な出来事ではありませんでした。

    それだけ大規模な捕獲と違法取引が、

    このカメを取り巻いていたということです。

    保護した瞬間から、別の問題が始まる

    密輸されるカメを見つけた。

    押収した。

    助かった。

    そう思いたくなります。

    でも、

    一万匹を保護した瞬間、

    今度は人間が一万匹を生かさなければなりません。

    水。

    餌。

    飼育場所。

    病気の確認。

    衛生管理。

    個体識別。

    獣医療。

    スタッフ。

    そして、

    何年間も続く費用。

    TSAはマダガスカルに複数の保全施設を整備し、押収されたホウシャガメの大規模な飼育体制を作りました。現在のTSAのマダガスカル事業でも、違法取引から救出したホウシャガメの救護、長期飼育、野生復帰が主要活動になっています。

    でも、ずっと飼うことが目的ではない

    何万匹も保護している。

    だったら、

    大きな保護施設を作って、

    そこで一生飼えばいい。

    そう考えることもできます。

    でも、

    ホウシャガメは本来、

    飼育施設にいる動物ではありません。

    マダガスカル南部の森を歩くリクガメです。

    そこでTSAは、

    Confiscation to Reintroduction Strategy

    という考え方を進めました。

    日本語にすると、

    「押収から再導入へ」。

    密輸から救出したカメを、

    可能な限り、

    もう一度野生へ戻していく計画です。

    ただ森へ置けばいいわけではない

    一度長期間飼育したカメを、

    空いている森へ置けばいい。

    そんな単純な話でもありません。

    その地域に病気を持ち込まないか。

    健康状態は十分か。

    野生で餌を取れるか。

    その森に十分な食物があるか。

    再び密猟されないか。

    地域の人々が保護に協力してくれるか。

    一つずつ確認する必要があります。

    そのため、放流候補となった個体には獣医師による健康検査が行われています。

    感染症検査も含め、

    「放しても大丈夫なカメか」

    を確認します。

    2021年、最初の1,000匹

    そして2021年。

    大きな転換点が来ます。

    TSAは、

    1,000匹のホウシャガメを、マダガスカル南部の地域住民が保護する森林へ移しました。

    違法取引から救出され、

    何年間も人間の管理下で暮らしてきたカメたちです。

    ただし、

    いきなり森全体へ自由にしたわけではありません。

    まず約6ヘクタールの順応エリアに入り、

    その土地で生活する期間が設けられました。

    そして2022年3月、

    囲いが開かれ、

    カメたちは周囲のスパイニーフォレストへ自由に移動できるようになりました。

    「ソフトリリース」という考え方

    これは、

    soft release(ソフトリリース)

    と呼ばれる方法です。

    人間の管理下から、

    いきなり完全な野生へ移すのではない。

    まず、

    これから暮らす場所に慣れてもらう。

    気温。

    植物。

    地面。

    匂い。

    雨。

    その土地そのものを覚える。

    そして、

    囲いを開ける。

    カメは、

    自分の意思で外へ歩いていきます。

    カメに発信器を付ける

    放したら、

    それで終わりではありません。

    再導入個体の一部には、

    VHF無線発信器やGPSロガーが装着されました。

    どこへ歩くのか。

    どのくらい移動するのか。

    生き残っているのか。

    どの環境を利用するのか。

    そうした情報を調べます。

    人間の視界から消える。

    でも、

    完全には見失わない。

    それが、

    次に何千匹ものカメを戻すためのデータになります。

    2024年、さらに1,000匹

    取り組みは、

    最初の1,000匹で終わりませんでした。

    2024年5月23日。

    World Turtle Day。

    TSAは、

    さらに1,000匹のホウシャガメを、マダガスカル南西部の地域保護林へ放しました。

    この個体たちも、放流前に健康評価を受け、

    6か月間の隔離期間を経ています。

    2018年に押収された膨大な数のカメたちが、

    少しずつ、

    森へ帰り始めています。

    最終目標は2万匹以上

    TSAは、

    保護下にいるホウシャガメのうち、

    2万匹以上を将来的に野生へ戻す

    という大規模な計画を掲げています。

    2万匹。

    想像するのも難しい数です。

    でも、

    そもそもそれほど多くのカメが、

    人間によって森から持ち出されました。

    だから、

    今度は逆の流れを作ろうとしています。

    森から人間へ。

    ではなく、

    人間から森へ。

    カメだけ戻しても意味がない

    ただし、

    森が安全でなければ、

    2万匹戻しても意味がありません。

    もう一度捕られるかもしれない。

    生息地が失われるかもしれない。

    だから再導入地は、

    地域住民自身が管理する保護林

    として整備されています。

    カメを運ぶだけではない。

    森を守る。

    地域住民と話す。

    監視する人を育てる。

    地域の暮らしと保全を両立させる。

    そこまで作ってから、

    カメを戻します。

    人間がいるから減った。でも、人間がいるから戻せる

    今回のニュースには、

    少し不思議なところがあります。

    ホウシャガメを減らした大きな原因の一つは、

    人間です。

    人間が捕った。

    人間が売った。

    人間が森を変えた。

    でも、

    今ホウシャガメを戻しているのも、

    人間です。

    警察。

    獣医師。

    飼育スタッフ。

    研究者。

    地域住民。

    政府。

    動物園。

    世界中の人が関わっています。

    人間が原因だから、

    人間は何もしないほうがいい。

    ではない。

    壊した側だからこそ、戻す仕事もできる。

    そんな例だと思います。

    京都市動物園にも「密輸から救われたホウシャガメ」がいる

    この話は、

    遠いマダガスカルだけの話でもありません。

    京都市動物園が飼育しているホウシャガメの中にも、

    日本へ密輸される途中、空港で摘発されて保護された個体がいます。

    日本にも、

    違法取引の終着点になった歴史があります。

    「珍しいカメを飼いたい」

    という需要は、

    地球の反対側の野生個体群につながっています。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番注目したいのは、

    保護されたカメを、ずっと「保護されたカメ」のままにしないことです。

    10,976匹。

    押収する。

    助ける。

    それだけでも、

    とてつもない仕事です。

    でも、

    そこで終わらなかった。

    何年も育てる。

    健康を戻す。

    森を探す。

    地域住民と一緒に守る仕組みを作る。

    順応させる。

    囲いを開ける。

    そして、

    一匹ずつ歩いていく。

    人間から遠ざかっていく。

    僕は、

    そこがすごくいいと思います。

    カメを救った証拠は、

    人間の飼育施設に何万匹いることではない。

    人間がどこにいるのか分からなくなるくらい、森へ散らばっていくこと。

    それが最終的な成功なんじゃないかな。

    湯川亀吉の一言

    人間はクズってことだな。
    密猟するやつも、保護するやつも、同じクズだ。

    出典

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「Radiated Tortoise Press Release 2018」
    2018年4月の10,976匹の大量押収と救護活動について。
    URL:
    https://shop.turtlesurvival.org/blogs/news/radiated-tortoise-press-release-2018/

    San Diego Zoo Wildlife Alliance
    「Turtle Survival Alliance Leads Rescue Mission to Save 10,976 Critically Endangered Radiated Tortoises Discovered in Massive Poaching Bust」
    2018年4月19日。
    URL:
    https://sandiegozoowildlifealliance.org/story-hub/2018/04/19/turtle-survival-alliance-leads-rescue-mission-to-save-10976-critically

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「1,000 Radiated Tortoises Return to the Wild」
    2021年8月9日。最初の大規模野生復帰計画について。
    URL:
    https://shop.turtlesurvival.org/blogs/news/1000-radiated-tortoises-return-to-the-wild

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「1,000 Radiated Tortoises Released on World Turtle Day®」
    2024年6月4日。2回目の1,000匹規模の放流について。
    URL:
    https://turtlesurvival.org/1000-radiated-tortoises-released-on-world-turtle-day/

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「Species Spotlight: Radiated Tortoise」
    大量押収、保全繁殖、野生復帰について。
    URL:
    https://turtlesurvival.org/turtleoftheweek-radiated-tortoise/

    Smithsonian’s National Zoo and Conservation Biology Institute
    「Radiated tortoise」
    形態、生息地、食性、保全状況について。
    URL:
    https://nationalzoo.si.edu/animals/radiated-tortoise

    京都市動物園
    「ホウシャガメ/Radiated Tortoise」
    和名、分布、形態について。
    URL:
    https://zoo.city.kyoto.lg.jp/zoo/animals/g_radiata