
今回は、保護施設で暮らしていたヒョウモンガメの出身地域を遺伝子から調べ、本来の生息地に近い場所へ戻した、南アフリカの研究と野生復帰について紹介します。
今回のニュース
南アフリカで、保護施設に収容されていたヒョウモンガメの遺伝情報を調べ、出身地域を推定したうえで野生へ戻す取り組みが行われました。
南アフリカとドイツの研究チームは、野生のヒョウモンガメから集めた遺伝情報を使って地域ごとの特徴をまとめたデータベースを拡張し、保護施設にいた50匹を調査しました。
その結果、故郷と考えられる地域を判断できた個体を段階的に環境へ慣らし、これまでに27匹が南アフリカ各地の野生へ戻されました。研究成果は2026年に学術誌『Conservation Genetics』で発表され、4月9日にゼンケンベルク自然研究協会が紹介しています。
どこの国・地域の話か
国・地域:南アフリカ共和国
調査に関係する地域:クワズール・ナタール州、東ケープ州、北ケープ州、フリーステイト州、リンポポ州など
研究協力地域:エスワティニ
元記事の言語:英語
公開時期:2026年4月9日
情報の種類:リクガメ・遺伝子研究・野生復帰・違法取引対策・保護活動
登場する亀
今回のニュースに登場するのは、ヒョウモンガメです。
学名は Stigmochelys pardalis。英語ではLeopard Tortoiseと呼ばれます。
アフリカ中部から南部に分布し、サバンナ、草原、灌木地などに暮らす大型のリクガメです。鳥羽水族館では、最大甲長が70センチを超える種類として紹介されています。
甲羅には、黄色や黄褐色を基調とした地色に黒や褐色の斑紋が入り、その模様がヒョウを連想させることから、ヒョウモンガメと呼ばれています。
模様や色合いには個体差があり、成長するにつれて幼体の鮮明な模様が変化していくこともあります。
ニュースの要約
保護施設へ収容されるヒョウモンガメの中には、違法に採集された個体、個人によって飼育された後に放棄された個体、飼育場所から逃げ出した個体などが含まれています。
しかし、保護された場所と、そのカメがもともと暮らしていた場所が同じとは限りません。
人間によって何百キロ、場合によってはさらに遠くまで運ばれている可能性があるため、保護された地点だけを手がかりに放流場所を決めると、本来とは異なる地域へ放してしまうおそれがあります。
研究チームは、クワズール・ナタール州とエスワティニの野生個体から得た遺伝情報をデータベースへ加え、保護施設にいた50匹の遺伝子と比較しました。
すると、クワズール・ナタール州の保護施設にいたカメのうち、遺伝的に同地域の個体と判断されたのは、わずか1匹でした。
これは、多くのヒョウモンガメが違法取引や人為的な移動によって、本来の分布地域から遠く離れた場所へ運ばれていた可能性を示しています。
なぜ遺伝子から故郷を調べるのか
見た目が同じ種類のリクガメであっても、地域ごとの個体群には、長い時間をかけて形成された遺伝的な違いがあります。
遠く離れた地域の個体を不用意に混ぜると、その土地に適応してきた遺伝的な特徴が失われたり、地域個体群の構成が変化したりする可能性があります。
また、そのカメが慣れていない気候や植生の地域へ放せば、野生で生き残れないかもしれません。
そのため研究チームは、単に「ヒョウモンガメが暮らしている場所」へ放すのではなく、遺伝情報を使って、各個体がどの地域に近いのかを調べました。
遺伝子は、カメが人間によって運ばれた道筋を記録しているわけではありません。
それでも、どの地域の野生個体と近いのかを比較することで、そのカメが帰るべき場所を考えるための重要な手がかりになります。
野生へ戻す前の6か月
放流対象となったヒョウモンガメは、調査が終わるとすぐに野外へ放されたわけではありません。
まず、将来放す予定の地域に設置された脱走防止用の囲いの中で、およそ6か月間を過ごしました。
これは「ソフトリリース」と呼ばれる方法です。
現地の気温、地面、植物、季節の変化などに段階的に慣らし、健康状態や行動を確認した後、最終的に囲いの外へ放します。
遺伝的な出身地域に応じて、カメたちは別々の場所へ移されました。
一部は東ケープ州の私設保護区へ、ほかの個体は北ケープ州、フリーステイト州、リンポポ州の保護地域へ戻されています。
保護施設で一生暮らせばよいのか
保護されたリクガメを野生へ戻すことには、慎重な判断が必要です。
病気を持ち込む可能性がある。
その地域の個体数を過度に増やすかもしれない。
本来とは異なる個体群を混ぜてしまうかもしれない。
放した後に生き残れるかも分からない。
一方で、すべての個体を保護施設で一生飼育することも簡単ではありません。
ヒョウモンガメは大型で長寿のリクガメです。長期間の飼育には、広い場所、食物、医療、職員、費用が必要になります。
クワズール・ナタール州のある保護施設では、2016年から2025年までに100匹以上を受け入れ、収容場所が足りず、さらに多くのカメの受け入れを断らなければならない状態になりました。ダーバンの別施設でも、同じ期間に300匹を超える個体が記録されています。
だからこそ、安全に野生へ戻せる個体については、故郷を慎重に調べ、帰る準備を整える必要があります。
絶滅危惧種ではなくても守る必要がある
ヒョウモンガメは広い範囲に分布し、現在は種全体として「低懸念」とされています。
しかし、南アフリカでは違法な捕獲や飼育、食用や伝統医療への利用、生息地の破壊、都市化、過放牧、野焼き、電気柵による事故など、さまざまな危険にさらされています。
「絶滅危惧種ではない」という評価は、どの地域の個体群も安全であることを意味しません。
広い地域に分布している種類であっても、ある土地からカメが次々と持ち出されれば、その場所の個体群は弱くなっていきます。
そして、人間によって遠くへ運ばれたカメを戻すときには、「どこでもよい」というわけにはいきません。
亀好きとして注目したいポイント
このニュースで注目したいのは、保護された場所が、そのカメの故郷とは限らないことです。
人間は、カメを見つけた場所をその個体の居場所だと思ってしまうことがあります。
でも、そのカメは誰かに捕まえられ、車に乗せられ、町を越え、州を越えてきたのかもしれない。
自分の意思とは関係なく遠くへ運ばれ、そこで放棄されたのかもしれない。
カメは、自分がどこから来たのかを人間の言葉で説明できません。
けれど、体の中に残された遺伝情報が、その個体の故郷へつながる小さな手がかりになる。
保護とは、ただ命を助けることだけではなく、その命が本来属していた場所を探すことでもあるのだと思います。
湯川亀吉の一言
俺も生き物飼ってるから言えるけど、生き物飼ってる人間は全員クズだからな。でも、「保護」する奴らも同じクズさ。
出典
Senckenberg Nature Research
「Return to Nature: 27 Leopard Tortoises Released into the Wild in South Africa」
鳥羽水族館・生きもの図鑑
「ヒョウモンガメ」