【世界の亀ニュース】カナダでニセチズガメ100件超の観察記録 市民の写真から見つかった外来チズガメ

今回は、カナダで本来生息していないチズガメの観察記録が増えているニュースを紹介します。

きっかけは、一枚のカメの写真でした。

今回のニュース

2026年8月6日、Canadian Wildlife Federation(カナダ野生生物連盟)は、カナダ国内でニセチズガメの観察記録が100件を超え、さらにフトマユチズガメも20件以上記録されていると発表しました。

どちらも本来はアメリカに自然分布する淡水ガメです。

カナダ野生生物連盟によると、これらの外来チズガメは現在、ブリティッシュコロンビア州、オンタリオ州、ケベック州で観察されています。

ただし、ここで重要なのは、

「100件の観察記録=100匹の別個体」ではない

ということです。

同じ個体が複数回撮影されている可能性もあります。また、観察例が増えていることだけから、カナダで繁殖して安定した野生個体群を形成していると断定することもできません。

現時点で分かっているのは、カナダのさまざまな場所で、本来そこにいないチズガメが繰り返し確認されているということです。

どこの国・地域の話か

国・地域:カナダ
確認地域:ブリティッシュコロンビア州、オンタリオ州、ケベック州
発表日:2026年8月6日
情報源:Canadian Wildlife Federation
情報の種類:淡水ガメ・外来種・市民科学・生息分布調査

今回の発見には、自然観察情報を投稿する市民科学プラットフォーム「iNaturalist Canada」の写真記録が大きな役割を果たしています。

登場する亀

今回のニュースには、よく似た3種類のチズガメが登場します。

ヒラチズガメ

学名は Graptemys geographica

英語ではNorthern Map Turtle、Common Map Turtleと呼ばれます。

この3種類の中で、カナダに自然分布しているのがヒラチズガメです。

カナダでは主にオンタリオ州中部・南部と、ケベック州南西部の一部に分布しています。カナダ国内では保全上「Special Concern(特別な懸念)」に指定されているカメでもあります。

ニセチズガメ

学名は Graptemys pseudogeographica

英語ではFalse Map Turtleと呼ばれます。

本来の自然分布域は、アメリカのミシシッピ川やミズーリ川水系などです。日本でも「ニセチズガメ」という和名が使われています。

カナダ野生生物連盟によると、2021年ごろにはまだ珍しい観察例だったものが、2026年にはiNaturalist上で100件を超える観察記録になりました。

フトマユチズガメ

学名は Graptemys ouachitensis

英語ではOuachita Map Turtleと呼ばれます。

日本では「フトマユチズガメ」または「ウォシタチズガメ」という和名が使われています。自然分布はアメリカ中部から南部です。

こちらもカナダでは本来の自然分布外で、2026年時点で20件を超える観察記録が確認されています。

始まりは「なんか違う」

このニュースの面白いところは、最初から外来種を探していたわけではないことです。

2021年、カナダ野生生物連盟の研究者たちは、ヒラチズガメがモーターボートのプロペラによってどの程度負傷しているのかを調べていました。

そのために、iNaturalist Canadaへ投稿されていたヒラチズガメの写真を一枚ずつ確認していました。

研究対象となったのは、1,953件ものヒラチズガメの観察写真です。研究者たちはその中から甲羅の状態を確認できる個体を選び、プロペラによる傷がないか調査しました。

その作業中、

一枚の写真に写っていたカメが、

どうもヒラチズガメらしくない。

研究者たちは違和感を覚えました。

少し似ている。

でも何かが違う。

そこで写真を保留して後から詳しく調べたところ、そのカメはカナダ在来のヒラチズガメではなく、ニセチズガメだったことが分かりました。

5年後には100件を超えた

一枚の写真から始まった発見でした。

ところが、それから約5年。

ニセチズガメの観察記録は100件を超えました。

さらに、別種のフトマユチズガメについても20件以上が報告されています。

研究者にとって問題なのは、

「外来チズガメがいる」

ということだけではありません。

在来のヒラチズガメと非常によく似ていることです。

見間違えれば、外来種が増えていても、すべてヒラチズガメとして記録されてしまう可能性があります。

見分ける鍵は「目の後ろ」

3種類を見分けるとき、カナダ野生生物連盟が注目しているのが頭部の模様です。

ヒラチズガメ

目の後ろに、丸形または三角形に近い斑紋があります。

個体差はありますが、多くの場合、目と同程度の大きさです。

ニセチズガメ

ニセチズガメの一部では、目の後ろに太い黄色の線が「L字型」に走ります。

上から見ると、その模様がホッケースティックや眉毛のように見えることがあります。

亜種のミシシッピチズガメでは、その模様がさらに目の周囲から鼻や口方向へ伸びます。

フトマユチズガメ

フトマユチズガメでは、目の後ろに比較的大きな長方形状の斑紋があります。

さらに重要なのが下顎です。

目のほぼ真下に大きな斑点があり、その幅が目と同じ程度か、それ以上になることが識別ポイントとされています。

亀の専門家でも間違える

「模様を見れば簡単に分かる」

というほど単純ではありません。

カナダ野生生物連盟自身、

チズガメの識別は専門家にとっても難しい

と説明しています。

模様には個体差があります。

写真の角度によって見えない部分もあります。

甲羅だけが水面から出ていて、頭が見えない場合もあります。

遠くの丸太で日光浴しているカメなら、種類を判断することはさらに難しくなります。

だからこそ、横から頭部の模様がよく分かる写真が重要になります。

市民が撮った写真が外来種調査になる

今回のニュースでもう一つ注目したいのが、市民科学です。

iNaturalist Canadaには、専門研究者だけでなく、一般の人が自然の中で見つけた動植物の写真を投稿できます。

2023年に発表されたカナダ野生生物連盟の研究では、iNaturalist Canadaには当時すでに1,000万件以上の生物観察記録があり、そのうちカメだけでも6万件以上が登録されていました。

研究者がカナダ中の池や川を毎日巡回することはできません。

でも、

散歩中の人。

釣りをしている人。

カヌーに乗っている人。

公園を歩いている人。

そうした何万人もの人が撮影した写真が集まれば、巨大な観測網になります。

一枚の「亀の写真」が、数年後には外来種の分布を追跡するデータになる可能性があります。

なぜカナダにいるのか

カナダ野生生物連盟は、本来の分布域から離れた都市公園や水域にいるチズガメについて、人間によって持ち込まれた可能性を指摘しています。

淡水ガメは長年、ペットとして世界中で流通してきました。

しかし、大きくなった。

飼えなくなった。

引っ越すことになった。

そうした理由で自然の池や川へ放されたカメが、外来個体となることがあります。

もちろん、今回確認された一匹一匹について「元ペットだった」と証明されているわけではありません。

ただし、本来の自然分布から遠く離れた場所で複数種のチズガメが確認されている以上、人間による移動は重要な問題です。

「外来種」と「定着」は同じではない

ここは今回の記事で特に注意したいところです。

ニセチズガメの観察記録が100件を超えたからといって、

「カナダで大量繁殖している」

とまでは、今回の発表から判断できません。

観察記録は個体数そのものではありません。

繁殖した子ガメが確認されているのか。

越冬しているのか。

同じ場所に何年間も個体群が存在するのか。

在来種と餌や日光浴場所を奪い合っているのか。

そうしたことを調べて初めて、外来個体群がどの程度定着しているのかが分かります。

今回の100件という数字は、

「今後詳しく調べる必要があるサイン」

として見るのが適切だと思います。

在来のヒラチズガメも安心できない

カナダ在来のヒラチズガメ自体も、すでにさまざまな問題に直面しています。

カナダ野生生物連盟がiNaturalistの写真1,513件を詳しく分析した研究では、4%にモーターボートのプロペラによるものと考えられる甲羅の傷が確認されました。地域によっては7%に達しています。

ヒラチズガメは長寿で、成熟まで時間がかかるカメです。

そのため、繁殖可能な成体が少しずつ失われるだけでも、長期的には個体群に影響する可能性があります。

そこへ今度は、本来いなかった近縁種まで現れ始めています。

外来チズガメが在来種へどの程度影響するのかは、これから調べていく必要があります。

日本でも他人事ではない

ニセチズガメとフトマユチズガメは、日本でも「生態系被害防止外来種」に関する情報が整理されている種類です。

国立環境研究所の侵入生物データベースでは、ニセチズガメ、フトマユチズガメともに、日本国内では定着していないとされています。

しかし、どちらもペットとして流通してきたカメです。

海外で起きている問題だから、日本には関係ないとは言い切れません。

飼育しているカメを最後まで飼う。

自然へ放さない。

当たり前に見えるこの行動が、外来種問題を作らないためには非常に重要です。

亀好きとして注目したいポイント

今回のニュースで僕が面白いと思うのは、

発見の始まりが、「なんか違う」だったことです。

研究者は外来チズガメを探していたわけではありません。

ヒラチズガメの甲羅についた傷を調べていた。

何千枚もの写真を見ていた。

その中の一匹だけ、

なんとなく違った。

その違和感を捨てなかった。

そして5年後、

100件を超える観察記録へつながった。

生き物を観察するというのは、

珍しいものを見つけることだけではないのだと思います。

いつものカメを見る。

また見る。

何度も見る。

だから、

「いつもと違う」

ことが分かる。

今回のニュースは、市民科学の話であると同時に、

生き物をよく見ることの力

についてのニュースでもあると思います。

湯川亀吉の一言

外来種ってそんなに問題なのか?

出典

Canadian Wildlife Federation
「New Turtle Invaders in Canada」

Seburn, D. C. et al.
「Assessing Injury Rates in Northern Map Turtles (Graptemys geographica) From Motorboats Using iNaturalist Canada」
Herpetological Conservation and Biology, 2023.

https://www.inaturalist.org/places/canada

国立環境研究所 侵入生物データベース
「ニセチズガメ Graptemys pseudogeographica

国立環境研究所 侵入生物データベース
「フトマユチズガメ Graptemys ouachitensis