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  • 【世界の亀ニュース】ヒラチズガメは「危険な水」を知っている? エリー湖で藻類ブルーム直前に姿を消す季節移動を確認

    【世界の亀ニュース】ヒラチズガメは「危険な水」を知っている? エリー湖で藻類ブルーム直前に姿を消す季節移動を確認

    夏。

    巨大なエリー湖を、

    一匹の雌のヒラチズガメが泳いでいます。

    6月。

    7月。

    湖の沖合まで出る。

    ところが、

    7月下旬。

    亀たちは、

    湖からいなくなりました。

    そして数km離れた支流を、

    上流へ。

    そこで冬を越し、

    翌春になると、

    また元の産卵場所近くへ戻ってきます。

    そのころエリー湖では、

    ある現象が始まります。

    有害藻類ブルーム。

    しばしば毒素を作る藍藻が、

    夏の終わりに大発生します。

    不思議なのは、

    ヒラチズガメが、

    そのピークを迎える前に、

    湖を離れていたことです。

    今回のニュース

    研究を行ったのは、

    アメリカ・オハイオ州のUniversity of Toledo(トレド大学)。

    研究者のDi’Carlo Jackson氏とJeanine M. Refsnider博士は、2022年にエリー湖西部の産卵地で捕獲した雌のヒラチズガメへ発信器を取り付け、

    音響テレメトリー

    と、

    衛星テレメトリー

    という二つの方法を組み合わせて行動を追跡しました。

    研究成果は2026年、『Journal of Great Lakes Research』に掲載されています。

    登場する亀

    今回の主役は、

    ヒラチズガメ。

    学名、

    Graptemys geographica。

    英名は、

    Northern Map Turtle
    または
    Common Map Turtle。

    日本では「ヒラチズガメ」という名称が使われています。

    北米に生息する、

    チズガメ属の淡水ガメです。

    「map turtle=地図ガメ」という名前の通り、

    甲羅には地図の等高線のような細かな模様が入ります。

    種小名のgeographicaも、

    「地理・地図」を意味する言葉に由来します。

    雌は雄の約2倍まで大きくなる

    ヒラチズガメでは、

    雄と雌の体格差がかなり大きいことが知られています。

    雌は雄のほぼ2倍の大きさまで成長することがあり、

    行動範囲も一般に雌の方が広くなります。

    さらに食べるものにも違いがあります。

    大型の雌は、

    硬い殻を持つ貝類などを主に利用。

    小型の雄は、

    より柔らかい水生無脊椎動物を食べます。

    今回研究者が追跡したのも、

    成体の雌。

    産卵のために岸へ上がってきた個体でした。

    10匹の背中に発信器を付けた

    2022年6月。

    研究者たちは、

    エリー湖西部にあるMagee Marshの砂浜で、

    産卵に訪れた雌10匹を捕獲しました。

    そして甲羅へ発信器を装着。

    その後、

    亀を湖へ戻しました。

    10匹のうち2匹については、発信器が早期に外れたと考えられ、十分な追跡データが得られなかったため解析から除外されています。

    残る個体の動きを、

    研究者は長期間追い続けました。

    「音」と「宇宙」の両方から追跡する

    今回面白いのが、

    追跡方法です。

    まず、

    音響テレメトリー。

    亀の発信器から出る音響信号を、

    湖や川に設置された受信機が拾います。

    水中にいる動物の追跡に向いています。

    一方、

    衛星テレメトリーでは、

    発信器の情報を衛星を使って取得します。

    ただし、

    亀が水中深く潜っていると、

    衛星との通信が難しくなります。

    そこで、

    二つを組み合わせました。

    湖の中では、

    音。

    支流などでは、

    衛星。

    片方だけでは見えなかった亀の一年間を、

    二つの技術でつなぎました。

    Refsnider博士は、この組み合わせについて、

    それぞれが異なる状況でうまく機能したと説明しています。

    すると、想像以上に移動していた

    追跡してみると、

    ヒラチズガメの雌は、

    かなり大きな範囲を移動していました。

    研究論文によると、

    湖と支流のデータを合わせた移動範囲は、

    約10〜22km。

    産卵を終えた後、

    6月から7月には、

    エリー湖の沖合を利用します。

    その後、

    支流へ入る。

    そして、

    さらに上流へ数km進んでいきます。

    僕たちがイメージする、

    「近所の池でずっと暮らしている亀」

    とは、

    かなり違います。

    冬になると支流で姿を消す

    上流へ移動した亀たちは、

    その支流周辺で冬を越したと考えられています。

    そして、

    翌春。

    再び下流へ。

    産卵浜のすぐ近くにある支流の河口へ戻ってきました。

    つまり、

    湖。

    川。

    湿地。

    産卵地。

    越冬場所。

    一匹の亀が、

    一年の中で複数の環境を使い分けていたのです。

    そして研究者が気付いた

    追跡データを見ていて、

    研究者たちは、

    あるタイミングに気付きました。

    ヒラチズガメがエリー湖で確認されたのは、

    7月下旬まで。

    それ以降、

    湖では確認されなくなりました。

    そのころ、

    エリー湖西部では、

    毎年ある現象が強くなります。

    cyanobacterial bloom。

    藍藻、

    つまりシアノバクテリアによる、

    大規模な水の華です。

    夏の終わりに湖が緑になる

    エリー湖西部では、

    夏になると大量の藍藻が増殖することがあります。

    特に、

    8月ごろにピークを迎えることが多い。

    種類によっては、

    microcystin(ミクロシスチン)

    と呼ばれる毒素を作ります。

    この毒素は、

    さまざまな動物の肝臓・消化器・生殖器などへ悪影響を与える可能性があります。

    過去の研究では、

    カメ類でも免疫機能への影響が報告されています。

    ところがヒラチズガメは、もういない

    藻類ブルームが本格化する、

    8月。

    その時点で、

    追跡中のヒラチズガメは、

    すでに湖から移動していました。

    Refsnider博士は、

    7月下旬以降エリー湖では個体が確認されず、

    そのころには支流や周辺湿地へ移動していたため、

    ブルームのピーク時には藻類毒素へ曝露されていなかったと考えられる

    と説明しています。

    ここで、

    ものすごく面白い疑問が出てきます。

    亀は「危険」を察知して逃げているのか?

    もしそうなら、

    すごい。

    水の変化を感じる。

    「ここは危ない」

    と判断する。

    川へ移動する。

    そんな行動を想像したくなります。

    でも研究者は、

    そこまでは言っていません。

    むしろ、

    かなり慎重です。

    Refsnider博士自身、

    亀が藻類ブルームを理由に湖を離れているのか、それとも通常の季節移動とブルームの時期が偶然一致しているだけなのかは分からない

    としています。

    ここは、

    今回の記事で一番重要なところです。

    「避けていた」と「避けるために移動した」は違う

    結果だけを見ると、

    亀は藻類ブルームを避けています。

    でも、

    原因は分からない。

    たとえば、

    水温。

    日照時間。

    水位。

    餌。

    繁殖周期。

    越冬準備。

    季節そのもの。

    こうした別の要因をきっかけに、

    毎年7月ごろ支流へ移動しているのかもしれません。

    その結果として、

    たまたま有毒藻類からも逃れることになる。

    これでも、

    十分面白い。

    生物の行動には、

    「この危険を避けよう」と意識的に進化したわけではなくても、

    別の生活パターンが結果的に危険を回避していることがあります。

    そもそも湖に暮らすヒラチズガメは、よく分かっていなかった

    これまでヒラチズガメについて、

    河川での行動研究は比較的多く行われてきました。

    一方、

    巨大な湖に暮らす個体が、

    一年を通じてどこへ移動するのかについては、

    まだ情報が少なかったと研究チームは説明しています。

    理由の一つが、

    単純に、

    追いかけるのが難しいから。

    川なら、

    移動方向は比較的限られます。

    でも、

    エリー湖は巨大です。

    亀が沖へ泳いだら、

    従来の人間による追跡は一気に難しくなります。

    だから今回、

    衛星と水中の音響受信機を組み合わせた方法が有効でした。

    亀の世界は、人間が思っているよりずっと広い

    10km。

    20km。

    人間なら、

    車ですぐです。

    でも、

    甲羅を背負った淡水ガメです。

    泳ぐ。

    川を上る。

    湖へ出る。

    戻る。

    翌年、

    また同じ場所へ来る。

    しかも、

    これを何年も繰り返している可能性があります。

    一匹のヒラチズガメにとって、

    エリー湖とその支流は、

    別々の場所ではないのかもしれません。

    全部まとめて「自分の生活圏」。

    そう考えると、

    亀を見る目が少し変わります。

    名前は「ヒラチズガメ」

    ちなみにこのカメ、

    日本では、

    ヒラチズガメ

    と呼ばれています。

    チズガメ類の中では比較的、

    甲羅が平たいことが名前の由来です。

    チズガメ属には、

    ニセチズガメ。

    フトマユチズガメ。

    ワモンチズガメ。

    クロコブチズガメ。

    など、

    特徴的な種類がたくさんいます。

    その中でも、

    Graptemys geographicaは、

    チズガメ属を代表する種類の一つです。

    「水の中で暮らす亀」をどう追跡するか

    今回のニュースは、

    亀そのものだけでなく、

    研究方法についても面白いと思います。

    昔なら、

    研究者が、

    双眼鏡で見る。

    捕まえる。

    印を付ける。

    また探す。

    それしかありませんでした。

    今は、

    甲羅に小さな装置を付ける。

    水中の受信機が、

    通過した亀を記録する。

    衛星が、

    別の場所に移動した亀を見つける。

    研究者が寝ている間も、

    亀は動く。

    そして、

    機械は記録する。

    その結果、

    人間が直接追いかけていたら見えなかった、

    一匹の亀の一年間

    が見えてきます。

    亀好きとして注目したいポイント

    僕が今回一番面白いと思うのは、

    「亀が毒を避ける能力を持っている」という話ではない

    ところです。

    むしろ、

    まだ分からない。

    そこがいい。

    7月まで、

    湖にいる。

    8月になる前に、

    いなくなる。

    有毒藻類が増える。

    結果として、

    亀はそこにいない。

    これは事実。

    でも、

    なぜ?

    そこから先は、

    まだ分からない。

    亀自身が水質の変化を感知しているのか。

    季節移動なのか。

    何世代にもわたって身についたタイミングなのか。

    別の環境要因なのか。

    今は、

    答えがありません。

    でも、

    「変なことが起きている」

    ということが分かった。

    科学って、

    そこから始まるんだと思います。

    湯川亀吉の一言

    俺は付き合っちゃいけない人間を察することができるよ

    出典

    University of Toledo
    「UToledo Herpetologist Tracks Turtles Amid Harmful Algal Bloom」
    2026年9月10日。追跡研究、藻類ブルームとの時期関係、音響・衛星テレメトリーについて。
    トレド大学の公式記事を読む

    Journal of Great Lakes Research
    Di’Carlo Jackson & Jeanine M. Refsnider
    「Acoustic and satellite telemetry reveal extensive distances traveled in both lake and tributary habitat by female northern map turtles (Graptemys geographica)」
    2026年。10匹への発信器装着、移動距離10〜22km、季節的な湖・支流利用、藍藻ブルームとの関係を扱った原著論文。
    原著論文を見る

    ITIS
    Graptemys geographicaの分類および英名Northern Map Turtle / Common Map Turtleについて。
    ITISの分類情報を見る

  • 【世界の亀ニュース】カナダでニセチズガメ100件超の観察記録 市民の写真から見つかった外来チズガメ

    【世界の亀ニュース】カナダでニセチズガメ100件超の観察記録 市民の写真から見つかった外来チズガメ

    今回は、カナダで本来生息していないチズガメの観察記録が増えているニュースを紹介します。

    きっかけは、一枚のカメの写真でした。

    今回のニュース

    2026年8月6日、Canadian Wildlife Federation(カナダ野生生物連盟)は、カナダ国内でニセチズガメの観察記録が100件を超え、さらにフトマユチズガメも20件以上記録されていると発表しました。

    どちらも本来はアメリカに自然分布する淡水ガメです。

    カナダ野生生物連盟によると、これらの外来チズガメは現在、ブリティッシュコロンビア州、オンタリオ州、ケベック州で観察されています。

    ただし、ここで重要なのは、

    「100件の観察記録=100匹の別個体」ではない

    ということです。

    同じ個体が複数回撮影されている可能性もあります。また、観察例が増えていることだけから、カナダで繁殖して安定した野生個体群を形成していると断定することもできません。

    現時点で分かっているのは、カナダのさまざまな場所で、本来そこにいないチズガメが繰り返し確認されているということです。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:カナダ
    確認地域:ブリティッシュコロンビア州、オンタリオ州、ケベック州
    発表日:2026年8月6日
    情報源:Canadian Wildlife Federation
    情報の種類:淡水ガメ・外来種・市民科学・生息分布調査

    今回の発見には、自然観察情報を投稿する市民科学プラットフォーム「iNaturalist Canada」の写真記録が大きな役割を果たしています。

    登場する亀

    今回のニュースには、よく似た3種類のチズガメが登場します。

    ヒラチズガメ

    学名は Graptemys geographica。

    英語ではNorthern Map Turtle、Common Map Turtleと呼ばれます。

    この3種類の中で、カナダに自然分布しているのがヒラチズガメです。

    カナダでは主にオンタリオ州中部・南部と、ケベック州南西部の一部に分布しています。カナダ国内では保全上「Special Concern(特別な懸念)」に指定されているカメでもあります。

    ニセチズガメ

    学名は Graptemys pseudogeographica。

    英語ではFalse Map Turtleと呼ばれます。

    本来の自然分布域は、アメリカのミシシッピ川やミズーリ川水系などです。日本でも「ニセチズガメ」という和名が使われています。

    カナダ野生生物連盟によると、2021年ごろにはまだ珍しい観察例だったものが、2026年にはiNaturalist上で100件を超える観察記録になりました。

    フトマユチズガメ

    学名は Graptemys ouachitensis。

    英語ではOuachita Map Turtleと呼ばれます。

    日本では「フトマユチズガメ」または「ウォシタチズガメ」という和名が使われています。自然分布はアメリカ中部から南部です。

    こちらもカナダでは本来の自然分布外で、2026年時点で20件を超える観察記録が確認されています。

    始まりは「なんか違う」

    このニュースの面白いところは、最初から外来種を探していたわけではないことです。

    2021年、カナダ野生生物連盟の研究者たちは、ヒラチズガメがモーターボートのプロペラによってどの程度負傷しているのかを調べていました。

    そのために、iNaturalist Canadaへ投稿されていたヒラチズガメの写真を一枚ずつ確認していました。

    研究対象となったのは、1,953件ものヒラチズガメの観察写真です。研究者たちはその中から甲羅の状態を確認できる個体を選び、プロペラによる傷がないか調査しました。

    その作業中、

    一枚の写真に写っていたカメが、

    どうもヒラチズガメらしくない。

    研究者たちは違和感を覚えました。

    少し似ている。

    でも何かが違う。

    そこで写真を保留して後から詳しく調べたところ、そのカメはカナダ在来のヒラチズガメではなく、ニセチズガメだったことが分かりました。

    5年後には100件を超えた

    一枚の写真から始まった発見でした。

    ところが、それから約5年。

    ニセチズガメの観察記録は100件を超えました。

    さらに、別種のフトマユチズガメについても20件以上が報告されています。

    研究者にとって問題なのは、

    「外来チズガメがいる」

    ということだけではありません。

    在来のヒラチズガメと非常によく似ていることです。

    見間違えれば、外来種が増えていても、すべてヒラチズガメとして記録されてしまう可能性があります。

    見分ける鍵は「目の後ろ」

    3種類を見分けるとき、カナダ野生生物連盟が注目しているのが頭部の模様です。

    ヒラチズガメ

    目の後ろに、丸形または三角形に近い斑紋があります。

    個体差はありますが、多くの場合、目と同程度の大きさです。

    ニセチズガメ

    ニセチズガメの一部では、目の後ろに太い黄色の線が「L字型」に走ります。

    上から見ると、その模様がホッケースティックや眉毛のように見えることがあります。

    亜種のミシシッピチズガメでは、その模様がさらに目の周囲から鼻や口方向へ伸びます。

    フトマユチズガメ

    フトマユチズガメでは、目の後ろに比較的大きな長方形状の斑紋があります。

    さらに重要なのが下顎です。

    目のほぼ真下に大きな斑点があり、その幅が目と同じ程度か、それ以上になることが識別ポイントとされています。

    亀の専門家でも間違える

    「模様を見れば簡単に分かる」

    というほど単純ではありません。

    カナダ野生生物連盟自身、

    チズガメの識別は専門家にとっても難しい

    と説明しています。

    模様には個体差があります。

    写真の角度によって見えない部分もあります。

    甲羅だけが水面から出ていて、頭が見えない場合もあります。

    遠くの丸太で日光浴しているカメなら、種類を判断することはさらに難しくなります。

    だからこそ、横から頭部の模様がよく分かる写真が重要になります。

    市民が撮った写真が外来種調査になる

    今回のニュースでもう一つ注目したいのが、市民科学です。

    iNaturalist Canadaには、専門研究者だけでなく、一般の人が自然の中で見つけた動植物の写真を投稿できます。

    2023年に発表されたカナダ野生生物連盟の研究では、iNaturalist Canadaには当時すでに1,000万件以上の生物観察記録があり、そのうちカメだけでも6万件以上が登録されていました。

    研究者がカナダ中の池や川を毎日巡回することはできません。

    でも、

    散歩中の人。

    釣りをしている人。

    カヌーに乗っている人。

    公園を歩いている人。

    そうした何万人もの人が撮影した写真が集まれば、巨大な観測網になります。

    一枚の「亀の写真」が、数年後には外来種の分布を追跡するデータになる可能性があります。

    なぜカナダにいるのか

    カナダ野生生物連盟は、本来の分布域から離れた都市公園や水域にいるチズガメについて、人間によって持ち込まれた可能性を指摘しています。

    淡水ガメは長年、ペットとして世界中で流通してきました。

    しかし、大きくなった。

    飼えなくなった。

    引っ越すことになった。

    そうした理由で自然の池や川へ放されたカメが、外来個体となることがあります。

    もちろん、今回確認された一匹一匹について「元ペットだった」と証明されているわけではありません。

    ただし、本来の自然分布から遠く離れた場所で複数種のチズガメが確認されている以上、人間による移動は重要な問題です。

    「外来種」と「定着」は同じではない

    ここは今回の記事で特に注意したいところです。

    ニセチズガメの観察記録が100件を超えたからといって、

    「カナダで大量繁殖している」

    とまでは、今回の発表から判断できません。

    観察記録は個体数そのものではありません。

    繁殖した子ガメが確認されているのか。

    越冬しているのか。

    同じ場所に何年間も個体群が存在するのか。

    在来種と餌や日光浴場所を奪い合っているのか。

    そうしたことを調べて初めて、外来個体群がどの程度定着しているのかが分かります。

    今回の100件という数字は、

    「今後詳しく調べる必要があるサイン」

    として見るのが適切だと思います。

    在来のヒラチズガメも安心できない

    カナダ在来のヒラチズガメ自体も、すでにさまざまな問題に直面しています。

    カナダ野生生物連盟がiNaturalistの写真1,513件を詳しく分析した研究では、4%にモーターボートのプロペラによるものと考えられる甲羅の傷が確認されました。地域によっては7%に達しています。

    ヒラチズガメは長寿で、成熟まで時間がかかるカメです。

    そのため、繁殖可能な成体が少しずつ失われるだけでも、長期的には個体群に影響する可能性があります。

    そこへ今度は、本来いなかった近縁種まで現れ始めています。

    外来チズガメが在来種へどの程度影響するのかは、これから調べていく必要があります。

    日本でも他人事ではない

    ニセチズガメとフトマユチズガメは、日本でも「生態系被害防止外来種」に関する情報が整理されている種類です。

    国立環境研究所の侵入生物データベースでは、ニセチズガメ、フトマユチズガメともに、日本国内では定着していないとされています。

    しかし、どちらもペットとして流通してきたカメです。

    海外で起きている問題だから、日本には関係ないとは言い切れません。

    飼育しているカメを最後まで飼う。

    自然へ放さない。

    当たり前に見えるこの行動が、外来種問題を作らないためには非常に重要です。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が面白いと思うのは、

    発見の始まりが、「なんか違う」だったことです。

    研究者は外来チズガメを探していたわけではありません。

    ヒラチズガメの甲羅についた傷を調べていた。

    何千枚もの写真を見ていた。

    その中の一匹だけ、

    なんとなく違った。

    その違和感を捨てなかった。

    そして5年後、

    100件を超える観察記録へつながった。

    生き物を観察するというのは、

    珍しいものを見つけることだけではないのだと思います。

    いつものカメを見る。

    また見る。

    何度も見る。

    だから、

    「いつもと違う」

    ことが分かる。

    今回のニュースは、市民科学の話であると同時に、

    生き物をよく見ることの力

    についてのニュースでもあると思います。

    湯川亀吉の一言

    外来種ってそんなに問題なのか?

    出典

    Canadian Wildlife Federation
    「New Turtle Invaders in Canada」

    Seburn, D. C. et al.
    「Assessing Injury Rates in Northern Map Turtles (Graptemys geographica) From Motorboats Using iNaturalist Canada」
    Herpetological Conservation and Biology, 2023.

    https://www.inaturalist.org/places/canada

    国立環境研究所 侵入生物データベース
    「ニセチズガメ Graptemys pseudogeographica」

    国立環境研究所 侵入生物データベース
    「フトマユチズガメ Graptemys ouachitensis」