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  • 【世界の亀ニュース】湖の水から世界最希少のカメを探す――シャンハイハナスッポンの環境DNA調査

    【世界の亀ニュース】湖の水から世界最希少のカメを探す――シャンハイハナスッポンの環境DNA調査

    今回のニュース

    2025年1月、世界で最も希少なカメの一つとされるシャンハイハナスッポンを探すため、現地へ持ち運べる新しい環境DNA検査が開発されたと発表されました。

    この検査は、湖や貯水池から採取した水を調べ、そこにシャンハイハナスッポンのDNAが含まれているかを現場で判定するものです。目視だけでは発見が難しい巨大な湖でも、カメが存在する可能性を調べられるようになります。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:ベトナム北部
    主な調査地:ハノイ近郊のドンモ湖など
    元記事の言語:英語
    元記事の公開時期:2025年1月15日
    情報の種類:過去アーカイブ・淡水ガメ・環境DNA・保護研究

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、シャンハイハナスッポンです。

    学名はRafetus swinhoei。中国南部とベトナムに分布していた巨大なスッポンの仲間で、英語ではSwinhoe’s Softshell TurtleやYangtze Giant Softshell Turtleなどと呼ばれています。河川や湖などの淡水域に生息し、現存する淡水ガメの中でも特に大型になる種類です。

    甲羅には一般的なカメのような硬い鱗板がなく、皮膚で覆われた平たい体をしています。

    鼻先は管のように伸び、水面へ顔全体を出さなくても呼吸しやすい形になっています。巨大な体でありながら、深い湖の濁った水中に潜れば、人間が姿を確認することは簡単ではありません。

    ニュースの要約

    環境DNAとは、生き物が水中へ残した皮膚の細胞、排泄物などに含まれるDNAのことです。

    カメの姿を直接見つけられなくても、水を採取して分析すれば、その場所に対象種が存在した可能性を調べられます。今回の検査では、対象となるDNAを増幅して検出するqPCRという技術が利用されています。

    従来の環境DNA調査では、採取した水や試料を専門的な研究施設へ運び、結果が出るまで長い時間がかかることがありました。

    今回開発された装置は現地へ持ち運ぶことができるため、研究者や保護関係者が湖の近くで検査を進められます。国外の研究施設へ試料を輸送する必要も減り、調査結果を早く保護活動へ反映できる可能性があります。

    開発チームは、約1,260ヘクタールに及ぶベトナムのドンモ湖で検査を実施し、非常に広い水域でもシャンハイハナスッポンのDNAを検出できることを示しました。

    複数地点から採取した水をまとめて調べる方法も検討され、限られた検査回数で広い範囲を調査するための工夫が行われています。

    なぜこのカメを探しているのか

    シャンハイハナスッポンは、絶滅寸前まで減少しています。

    2025年の発表時点では、中国の蘇州動物園で飼育されている高齢の雄と、ベトナムの湖に存在すると考えられていた野生個体が紹介されていました。新たな個体、特に繁殖可能な雌を見つけられなければ、種を将来へ残すことは極めて難しい状況です。

    その後も状況は非常に厳しく、2026年の保全情報では、確実に生存が確認されている個体は中国で飼育されている雄一匹とされています。

    一方、ベトナム北部では未確認個体の存在を示す情報や、別の湖で撮影された候補個体も報告されており、保護団体は環境DNA、聞き取り調査、ドローン、カメラなどを使った捜索を続けています。

    姿が見えなくても、存在を探せる

    巨大なカメが湖にいるなら、簡単に見つけられそうにも思えます。

    でも、湖は広く、水は濁り、カメは長時間水中へ潜っています。

    湖面に鼻先だけを出して呼吸し、再び水中へ沈んでしまえば、遠くから見つけるのはほとんど不可能です。

    環境DNA調査の重要なところは、カメそのものを目撃できなくても、そのカメが水中へ残した痕跡を探せることです。

    一滴の水の中に、まだ人間が出会っていない一匹の存在が残されているかもしれません。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、一匹を探すために、巨大な湖そのものを調べていることです。

    普通の生物調査では、ある程度まとまった個体数がいることを前提にする場合があります。

    でも、シャンハイハナスッポンの場合は違います。

    探しているのは、群れではない。
    何十匹でもない。

    世界のどこかに残っているかもしれない、たった一匹です。

    その一匹が雄なのか雌なのかによって、種の未来が変わる可能性があります。

    だから研究者たちは、水をすくい、その中に残された目に見えない痕跡を調べています。

    湯川亀吉の一言

    そういえば、4年前にホアンキエム湖に行ったな!!

    でかいシャンハイハナスッポンのオブジェを見ましたよ🐢

    写真撮っておけばよかった。

    行商のお姉さんから買ったライチが超美味しかった。

    出典

    Wildlife Conservation Society
    「Scientists Develop First Portable eDNA Test Which Is Able to Detect One of the Rarest of the Rare Wildlife Species, a Swinhoe’s Softshell Turtle, in a Massive Body of Water」

    The Reptile Database
    「Rafetus swinhoei」

    Turtle Survival Alliance
    「Swinhoe’s Giant Softshell Turtle」

  • 【世界の亀ニュース】一軒の家から10,976匹 密輸から救われたホウシャガメを、もう一度マダガスカルの森へ

    【世界の亀ニュース】一軒の家から10,976匹 密輸から救われたホウシャガメを、もう一度マダガスカルの森へ

    今回は、マダガスカルにしか生息しない美しいリクガメ、ホウシャガメをめぐる大規模な救護と野生復帰のニュースを紹介します。

    2018年4月。

    マダガスカル南西部のトゥリアラで、一軒の民家から発見されたホウシャガメは、

    10,976匹。

    数十匹でも、

    数百匹でもありません。

    一万匹を超えるカメが、一つの建物に集められていました。

    そこから始まったのは、

    カメを押収して終わる保護活動ではありませんでした。

    救護する。

    健康を取り戻す。

    何年も育てる。

    野生へ戻せる個体を選ぶ。

    帰る森を確保する。

    地域住民と一緒にその場所を守る。

    そして、

    もう一度、人間の手から離す。

    長い時間をかけた「密輸から野生復帰へ」の計画です。

    今回のニュース

    2018年4月10日、マダガスカル南西部の都市トゥリアラで、警察と環境当局が一軒の住宅を捜索しました。

    そこで確認されたのが、

    10,976匹のホウシャガメでした。

    発見されたカメの多くは若い個体で、十分な水や餌を得られない状態に置かれていました。

    Turtle Survival Alliance(TSA)を中心に、マダガスカル国内外の動物園、獣医師、飼育スタッフなどが救護に参加。

    生き残った個体は、トゥリアラから北へ約29km離れたIfatyの保護施設へ移され、健康確認や水分補給、治療、個体識別などが進められました。

    この事件は、

    TSAがそれまで経験した中でも最大規模のリクガメ救護の一つとなりました。

    どこの国・地域の話か

    国:マダガスカル
    最初の大量押収:トゥリアラ周辺
    発見日:2018年4月10日
    対象種:ホウシャガメ
    学名:Astrochelys radiata
    英名:Radiated Tortoise
    情報の種類:リクガメ・密輸・違法取引・救護・野生復帰・地域保全

    ホウシャガメは、マダガスカル南部から南西部にのみ自然分布する固有種です。

    乾燥した低木林、トゲの多いスパイニーフォレストなどに暮らしています。

    登場する亀

    今回の主役は、

    ホウシャガメ

    学名は、

    Astrochelys radiata

    英語ではRadiated Tortoiseと呼ばれます。

    京都市動物園でも「ホウシャガメ」という和名が使われており、最大甲長は約40cmと紹介されています。

    名前の由来は、

    甲羅です。

    黒っぽい甲板の中心から、

    黄色い線が外側へ向かって伸びる。

    まるで光が放射しているように見えます。

    Smithsonian’s National Zooは、この放射模様について、インドホシガメなど他の星模様を持つリクガメよりも細かく複雑であることを特徴として挙げています。

    世界で最も美しいカメの一つ

    ホウシャガメは、その甲羅の美しさから、

    「世界で最も美しいリクガメの一つ」

    として紹介されることがあります。

    美しい。

    珍しい。

    欲しい。

    その評価が、

    このカメを追い詰める理由にもなりました。

    野生個体は国際的なペット取引のために捕獲され、さらにマダガスカル国内では食用目的の捕獲も続いてきました。

    生息地そのものも、農地化や炭づくりなどによって失われています。

    昔は「触ってはいけないカメ」だった

    マダガスカル南部の一部地域には、

    ホウシャガメを傷つけたり食べたりすることを禁じる伝統的な**「fady(ファディ)」**があります。

    祖先と結び付けて考えられる地域もあり、

    長い間、

    文化そのものがホウシャガメを守ってきました。

    しかし、

    地域外から人が入る。

    価値の高いカメとして売買される。

    伝統的な禁忌を共有しない人が捕る。

    その結果、

    文化だけでは個体群を守れなくなっていきました。

    2018年4月、一軒の家に10,976匹

    そして2018年4月10日。

    トゥリアラの住宅で、

    10,976匹。

    とてつもない数のホウシャガメが発見されました。

    普通に考えれば、

    一日や二日で集められる数ではありません。

    一匹。

    また一匹。

    別の場所からも一匹。

    それが積み重なって、

    一万匹を超えた。

    その数だけ、

    野生の森からホウシャガメが消えていたことになります。

    そして半年後、また数千匹

    さらに同じ2018年10月にも、大規模な押収が発生しました。

    TSAによると、2018年だけで保護下へ入ったホウシャガメは17,000匹を超えました。

    つまり、

    4月の事件は、

    一度だけ起きた異常な出来事ではありませんでした。

    それだけ大規模な捕獲と違法取引が、

    このカメを取り巻いていたということです。

    保護した瞬間から、別の問題が始まる

    密輸されるカメを見つけた。

    押収した。

    助かった。

    そう思いたくなります。

    でも、

    一万匹を保護した瞬間、

    今度は人間が一万匹を生かさなければなりません。

    水。

    餌。

    飼育場所。

    病気の確認。

    衛生管理。

    個体識別。

    獣医療。

    スタッフ。

    そして、

    何年間も続く費用。

    TSAはマダガスカルに複数の保全施設を整備し、押収されたホウシャガメの大規模な飼育体制を作りました。現在のTSAのマダガスカル事業でも、違法取引から救出したホウシャガメの救護、長期飼育、野生復帰が主要活動になっています。

    でも、ずっと飼うことが目的ではない

    何万匹も保護している。

    だったら、

    大きな保護施設を作って、

    そこで一生飼えばいい。

    そう考えることもできます。

    でも、

    ホウシャガメは本来、

    飼育施設にいる動物ではありません。

    マダガスカル南部の森を歩くリクガメです。

    そこでTSAは、

    Confiscation to Reintroduction Strategy

    という考え方を進めました。

    日本語にすると、

    「押収から再導入へ」。

    密輸から救出したカメを、

    可能な限り、

    もう一度野生へ戻していく計画です。

    ただ森へ置けばいいわけではない

    一度長期間飼育したカメを、

    空いている森へ置けばいい。

    そんな単純な話でもありません。

    その地域に病気を持ち込まないか。

    健康状態は十分か。

    野生で餌を取れるか。

    その森に十分な食物があるか。

    再び密猟されないか。

    地域の人々が保護に協力してくれるか。

    一つずつ確認する必要があります。

    そのため、放流候補となった個体には獣医師による健康検査が行われています。

    感染症検査も含め、

    「放しても大丈夫なカメか」

    を確認します。

    2021年、最初の1,000匹

    そして2021年。

    大きな転換点が来ます。

    TSAは、

    1,000匹のホウシャガメを、マダガスカル南部の地域住民が保護する森林へ移しました。

    違法取引から救出され、

    何年間も人間の管理下で暮らしてきたカメたちです。

    ただし、

    いきなり森全体へ自由にしたわけではありません。

    まず約6ヘクタールの順応エリアに入り、

    その土地で生活する期間が設けられました。

    そして2022年3月、

    囲いが開かれ、

    カメたちは周囲のスパイニーフォレストへ自由に移動できるようになりました。

    「ソフトリリース」という考え方

    これは、

    soft release(ソフトリリース)

    と呼ばれる方法です。

    人間の管理下から、

    いきなり完全な野生へ移すのではない。

    まず、

    これから暮らす場所に慣れてもらう。

    気温。

    植物。

    地面。

    匂い。

    雨。

    その土地そのものを覚える。

    そして、

    囲いを開ける。

    カメは、

    自分の意思で外へ歩いていきます。

    カメに発信器を付ける

    放したら、

    それで終わりではありません。

    再導入個体の一部には、

    VHF無線発信器やGPSロガーが装着されました。

    どこへ歩くのか。

    どのくらい移動するのか。

    生き残っているのか。

    どの環境を利用するのか。

    そうした情報を調べます。

    人間の視界から消える。

    でも、

    完全には見失わない。

    それが、

    次に何千匹ものカメを戻すためのデータになります。

    2024年、さらに1,000匹

    取り組みは、

    最初の1,000匹で終わりませんでした。

    2024年5月23日。

    World Turtle Day。

    TSAは、

    さらに1,000匹のホウシャガメを、マダガスカル南西部の地域保護林へ放しました。

    この個体たちも、放流前に健康評価を受け、

    6か月間の隔離期間を経ています。

    2018年に押収された膨大な数のカメたちが、

    少しずつ、

    森へ帰り始めています。

    最終目標は2万匹以上

    TSAは、

    保護下にいるホウシャガメのうち、

    2万匹以上を将来的に野生へ戻す

    という大規模な計画を掲げています。

    2万匹。

    想像するのも難しい数です。

    でも、

    そもそもそれほど多くのカメが、

    人間によって森から持ち出されました。

    だから、

    今度は逆の流れを作ろうとしています。

    森から人間へ。

    ではなく、

    人間から森へ。

    カメだけ戻しても意味がない

    ただし、

    森が安全でなければ、

    2万匹戻しても意味がありません。

    もう一度捕られるかもしれない。

    生息地が失われるかもしれない。

    だから再導入地は、

    地域住民自身が管理する保護林

    として整備されています。

    カメを運ぶだけではない。

    森を守る。

    地域住民と話す。

    監視する人を育てる。

    地域の暮らしと保全を両立させる。

    そこまで作ってから、

    カメを戻します。

    人間がいるから減った。でも、人間がいるから戻せる

    今回のニュースには、

    少し不思議なところがあります。

    ホウシャガメを減らした大きな原因の一つは、

    人間です。

    人間が捕った。

    人間が売った。

    人間が森を変えた。

    でも、

    今ホウシャガメを戻しているのも、

    人間です。

    警察。

    獣医師。

    飼育スタッフ。

    研究者。

    地域住民。

    政府。

    動物園。

    世界中の人が関わっています。

    人間が原因だから、

    人間は何もしないほうがいい。

    ではない。

    壊した側だからこそ、戻す仕事もできる。

    そんな例だと思います。

    京都市動物園にも「密輸から救われたホウシャガメ」がいる

    この話は、

    遠いマダガスカルだけの話でもありません。

    京都市動物園が飼育しているホウシャガメの中にも、

    日本へ密輸される途中、空港で摘発されて保護された個体がいます。

    日本にも、

    違法取引の終着点になった歴史があります。

    「珍しいカメを飼いたい」

    という需要は、

    地球の反対側の野生個体群につながっています。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番注目したいのは、

    保護されたカメを、ずっと「保護されたカメ」のままにしないことです。

    10,976匹。

    押収する。

    助ける。

    それだけでも、

    とてつもない仕事です。

    でも、

    そこで終わらなかった。

    何年も育てる。

    健康を戻す。

    森を探す。

    地域住民と一緒に守る仕組みを作る。

    順応させる。

    囲いを開ける。

    そして、

    一匹ずつ歩いていく。

    人間から遠ざかっていく。

    僕は、

    そこがすごくいいと思います。

    カメを救った証拠は、

    人間の飼育施設に何万匹いることではない。

    人間がどこにいるのか分からなくなるくらい、森へ散らばっていくこと。

    それが最終的な成功なんじゃないかな。

    湯川亀吉の一言

    人間はクズってことだな。
    密猟するやつも、保護するやつも、同じクズだ。

    出典

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「Radiated Tortoise Press Release 2018」
    2018年4月の10,976匹の大量押収と救護活動について。
    URL:
    https://shop.turtlesurvival.org/blogs/news/radiated-tortoise-press-release-2018/

    San Diego Zoo Wildlife Alliance
    「Turtle Survival Alliance Leads Rescue Mission to Save 10,976 Critically Endangered Radiated Tortoises Discovered in Massive Poaching Bust」
    2018年4月19日。
    URL:
    https://sandiegozoowildlifealliance.org/story-hub/2018/04/19/turtle-survival-alliance-leads-rescue-mission-to-save-10976-critically

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「1,000 Radiated Tortoises Return to the Wild」
    2021年8月9日。最初の大規模野生復帰計画について。
    URL:
    https://shop.turtlesurvival.org/blogs/news/1000-radiated-tortoises-return-to-the-wild

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「1,000 Radiated Tortoises Released on World Turtle Day®」
    2024年6月4日。2回目の1,000匹規模の放流について。
    URL:
    https://turtlesurvival.org/1000-radiated-tortoises-released-on-world-turtle-day/

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「Species Spotlight: Radiated Tortoise」
    大量押収、保全繁殖、野生復帰について。
    URL:
    https://turtlesurvival.org/turtleoftheweek-radiated-tortoise/

    Smithsonian’s National Zoo and Conservation Biology Institute
    「Radiated tortoise」
    形態、生息地、食性、保全状況について。
    URL:
    https://nationalzoo.si.edu/animals/radiated-tortoise

    京都市動物園
    「ホウシャガメ/Radiated Tortoise」
    和名、分布、形態について。
    URL:
    https://zoo.city.kyoto.lg.jp/zoo/animals/g_radiata

  • 【世界の亀ニュース】112年ぶりに現れた幻のゾウガメ 絶滅したと思われたフェルナンディナゾウガメ「フェルナンダ」

    【世界の亀ニュース】112年ぶりに現れた幻のゾウガメ 絶滅したと思われたフェルナンディナゾウガメ「フェルナンダ」

    今回は、エクアドル・ガラパゴス諸島で、100年以上絶滅したと考えられていたフェルナンディナゾウガメが再発見されたニュースを紹介します。

    一匹の雌。

    名前は、

    Fernanda(フェルナンダ)。

    2019年に見つかったこの一匹によって、

    「すでに絶滅した」

    と思われていた種の歴史が、もう一度動き始めました。

    今回のニュース

    2019年2月、ガラパゴス諸島のフェルナンディナ島で、一匹の雌の巨大なリクガメが発見されました。

    発見したのは、ガラパゴス国立公園とGalápagos Conservancyの調査チームです。

    フェルナンディナ島で、その島固有のゾウガメが最後に正式に確認されたのは1906年

    つまり、

    112年以上にわたって、生きた個体が確認されていなかった場所で見つかった一匹でした。

    しかし、発見しただけでは、

    「フェルナンディナゾウガメが生き残っていた」

    とは断定できませんでした。

    なぜなら、

    その一匹の姿が、1906年に採集された唯一の標本とかなり違っていたからです。

    どこの国・地域の話か

    国:エクアドル
    地域:ガラパゴス諸島
    島:フェルナンディナ島
    再発見:2019年2月
    遺伝学的な確認:2021〜2022年
    対象種:フェルナンディナゾウガメ
    学名:Chelonoidis phantasticus
    情報の種類:リクガメ・再発見・遺伝子解析・絶滅危惧種・保全

    フェルナンディナ島は、ガラパゴス諸島西部に位置する火山島です。

    島の中心には活火山があり、溶岩地帯が広がる非常に厳しい環境です。科学論文では、フェルナンディナ島は地球上でも特に原始的な自然が残された大きな島の一つとして紹介されています。

    登場する亀

    今回の主役は、

    フェルナンディナゾウガメ

    学名は、

    Chelonoidis phantasticus

    英語ではFernandina Giant Tortoise、Fernandina Island Galápagos Tortoiseなどと呼ばれています。

    日本でも「フェルナンディナゾウガメ」という和名が使われています。

    ガラパゴスゾウガメの仲間ですが、フェルナンディナ島だけに成立した独自の系統です。

    すべては1906年の一匹から始まった

    この種について科学者が持っていた証拠は、長い間ほとんど一つしかありませんでした。

    1906年。

    California Academy of Sciencesの探検隊に参加していたRollo Beckが、フェルナンディナ島で一匹の雄のゾウガメを採集します。

    その個体が、

    フェルナンディナゾウガメとして知られる唯一の確実な標本

    になりました。

    その雄は非常に特徴的な甲羅を持っていました。

    甲羅前方が大きく持ち上がった、

    いわゆる鞍型(サドルバック型)

    さらに縁甲板も大きく張り出していました。

    科学論文では、その形態は他のガラパゴスゾウガメと比較しても非常に特徴的だったとされています。

    ところが、

    その後、同じカメが見つからない。

    100年以上、姿を見せなかった

    1906年以降、生きたフェルナンディナゾウガメが正式に確認されることはありませんでした。

    ただし、

    完全に何の証拠もなかったわけではありません。

    その後の調査では、

    ゾウガメらしい糞。

    歩いた跡。

    植物を食べた痕跡。

    などが何度か見つかっていました。

    つまり、

    「もしかしたら、まだいるのではないか」

    という疑いは残っていた。

    でも、

    カメそのものが見つからない。

    フェルナンディナ島には広大な溶岩地帯があります。

    足場は悪い。

    気温は高い。

    植生の濃い場所もある。

    人間が島全体をくまなく探すことは簡単ではありません。

    2019年、一匹の雌が現れた

    そして2019年。

    調査チームがフェルナンディナ島へ入りました。

    その中で、

    Washington Tapia氏とガラパゴス国立公園レンジャーのJeffreys Málaga氏らが、一匹の雌のゾウガメを発見します。

    100年以上見つからなかった島で、

    本当にゾウガメがいた。

    巨大なニュースでした。

    この雌には、島の名前Fernandinaから、

    Fernanda

    という愛称が付けられました。

    でも、姿が違った

    ところが問題があります。

    フェルナンダは、

    1906年の雄とあまり似ていませんでした。

    1906年の標本は、非常に強いサドルバック型。

    一方のフェルナンダは、

    それほど極端な形をしていません。

    さらに体も比較的小さい。

    そのため、

    別のガラパゴスゾウガメが過去に人間によってフェルナンディナ島へ運ばれ、その子孫が残っていた可能性も否定できませんでした。

    つまり、

    島で見つかったからといって、

    フェルナンディナゾウガメとは限らなかった。

    113年前の標本とDNAを比較する

    そこで科学者が使ったのが、

    DNAです。

    フェルナンダから遺伝情報を取得する。

    そして比較対象にしたのが、

    1906年に採集された雄の博物館標本でした。

    100年以上前のカメと、

    今生きているカメ。

    そのゲノムを比較します。

    さらに、他のガラパゴスゾウガメ各系統のゲノムとも比較しました。

    結果は「同じ系統」

    2022年6月9日。

    科学誌Communications Biologyに論文が発表されました。

    タイトルは、

    “The Galapagos giant tortoise Chelonoidis phantasticus is not extinct”

    つまり、

    「フェルナンディナゾウガメは絶滅していない」

    です。

    ゲノム解析の結果、

    フェルナンダと1906年の雄は、

    同じフェルナンディナ島固有の系統に属することが確認されました。

    しかも、その系統は他のガラパゴスゾウガメとは遺伝的に区別されていました。

    一匹のカメによって、

    100年以上前に止まっていた種の記録がつながりました。

    見た目が違っても、同じ種だった

    この結果はとても面白いと思います。

    1906年の雄とフェルナンダ。

    甲羅の形はかなり違う。

    でもDNAでは、

    同じ系統だった。

    つまり、

    一匹の標本だけを見て、

    「この種類は必ずこの形」

    と考えることには危険があります。

    性別。

    年齢。

    生活環境。

    栄養状態。

    個体差。

    さまざまな要因によって、生き物の形は変化します。

    実際、研究者はフェルナンダが比較的小さい理由について、島の限られた植生環境によって成長が抑えられた可能性も指摘しています。

    「一匹見つかった」は復活ではない

    ここで終われば、

    「絶滅したカメが復活した!」

    という、とても明るい話になります。

    でも、

    実際にはもっと厳しい。

    フェルナンダは、

    確認されている唯一の生きたフェルナンディナゾウガメです。

    一匹だけでは、

    次の世代を作れません。

    必要なのは、

    もう一匹。

    特に繁殖可能な雄です。

    島中で仲間を探す

    フェルナンダが見つかったあと、ガラパゴス国立公園とGalápagos Conservancyは、何度もフェルナンディナ島へ調査隊を送りました。

    目的はただ一つ。

    フェルナンダの仲間を探すこと。

    2022年の大規模調査では18人のチームが島へ入り、約65平方キロメートルを捜索しました。

    火山島。

    溶岩。

    暑さ。

    険しい地形。

    そこを歩きながら、

    カメを探します。

    「いる」痕跡はある

    興味深いことに、

    フェルナンダ以外のカメがいる可能性を示す痕跡は見つかっています。

    歩いた跡。

    糞。

    カメが休んだような場所。

    Galápagos ConservancyのWashington Tapia氏は、こうした痕跡から少なくとも数匹が島にいる可能性を考えていました。

    しかし、

    実物が見つからない。

    痕跡はある。

    でもカメがいない。

    フェルナンディナ島は、

    今でも答えを簡単には見せてくれません。

    2023年になっても、仲間は見つからなかった

    2023年12月、Galápagos Conservancyはフェルナンダについて改めて報告しています。

    それまで実施された大規模な調査でも、

    新たなフェルナンディナゾウガメは確認できませんでした。

    そのためフェルナンダが、この種の最後の一匹、いわゆるendlingである可能性も現実味を帯びています。

    かつてピンタゾウガメの最後の一匹、

    「ロンサム・ジョージ」

    が歩いた道と重なります。

    「絶滅していなかった」と「助かった」は違う

    今回のニュースで重要なのは、

    この二つを分けることだと思います。

    絶滅していなかった。

    これは事実です。

    でも、

    種が救われた。

    これはまだ言えません。

    一匹見つかっただけだからです。

    もしフェルナンダ以外の個体が本当にいなければ、

    彼女がどれだけ長く生きても、

    その先で系統は途切れます。

    だから、

    再発見はゴールではない。

    むしろ、

    そこから保全が始まります。

    博物館の一匹が、100年後に役立った

    もう一つ注目したいのが、

    1906年の標本です。

    100年以上前、

    一匹の雄が採集されました。

    その個体はもう生きていません。

    でも、

    標本として残っていた。

    そのDNAがあったから、

    2019年に見つかったフェルナンダの正体を確かめることができました。

    昔の博物館資料が、

    100年以上後の絶滅危惧種保全に使われたことになります。

    標本は、

    ただ昔の生き物を展示するものではない。

    未来の科学者がまだ想像していない方法で、

    情報を取り出せる「記録」でもあります。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番面白いと思うのは、

    「見つからない」と「いない」は同じではない

    というところです。

    1906年。

    一匹見つかる。

    それから100年以上、

    見つからない。

    普通なら、

    もういないと思う。

    それでも、

    糞がある。

    足跡がある。

    何かがおかしい。

    そして2019年。

    本当に一匹出てきた。

    亀という動物は、

    人間が思っている以上に、

    見つからないまま生きることができるのかもしれません。

    しかも舞台は、

    巨大な火山島。

    もしかすると、

    今この瞬間も、

    人間がまだ見つけていないフェルナンディナゾウガメが、

    溶岩の向こう側を歩いているのかもしれません。

    その可能性がゼロではない。

    僕はそこに、このニュースの魅力を感じます。

    湯川亀吉の一言

    人間の本質はクソだってことがよくわかったよ。

    ま、俺が世界で一番クソだけどね。

    出典

    Communications Biology / Nature
    「The Galapagos giant tortoise Chelonoidis phantasticus is not extinct」
    2022年6月9日。フェルナンダと1906年標本の全ゲノム解析を行った科学論文。

    Galápagos Conservancy
    「Breaking: Female Tortoise Found on Fernandina Island」
    2019年2月19日。フェルナンダ発見時の公式発表。

    Galápagos Conservancy
    「Publication Confirms Fernanda as Fernandina Giant Tortoise」
    DNA解析によってフェルナンダの種が確認されたことを紹介。

    Princeton University
    「’Fantastic giant tortoise,’ believed extinct, confirmed alive in the Galápagos」
    2022年6月9日。ゲノム研究とフェルナンダの再発見について。

    Galápagos Conservancy
    「The Enigma Of Fernanda – A Lone Survivor In Galápagos」
    2023年12月19日。仲間を探す調査とフェルナンダの状況について。

  • 【亀ニュースアーカイブ】絶滅したと思われたフェルナンディナゾウガメ、100年以上ぶりに発見

    【亀ニュースアーカイブ】絶滅したと思われたフェルナンディナゾウガメ、100年以上ぶりに発見

    2019年2月、エクアドルのガラパゴス諸島にあるフェルナンディナ島で、一匹の雌のゾウガメが発見されました。

    この島に固有のフェルナンディナゾウガメは、1906年に一匹の雄が採集されて以来、100年以上も生きた個体が確認されず、絶滅したと考えられていました。発見された雌は、島の名前にちなんで「フェルナンダ」と名付けられました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:エクアドル、ガラパゴス諸島、フェルナンディナ島
    元記事の言語:英語
    発見時期:2019年2月
    遺伝的確認:2022年
    情報の種類:過去アーカイブ・再発見・研究・絶滅危惧種

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、フェルナンディナゾウガメです。

    学名はChelonoidis phantasticus。フェルナンディナ島だけに生息していたとされるガラパゴスゾウガメの一種です。

    長いあいだ科学的に知られていたのは、1906年に採集され、博物館に保存された雄の標本一匹だけでした。

    ニュースの要約

    2019年の調査で発見されたフェルナンダは、サンタクルス島にあるガラパゴス国立公園の繁殖施設へ移され、血液や遺伝情報の調査が行われました。

    しかし、フェルナンダの姿は、1906年に採集された雄の標本とは大きく異なっていました。

    雄の標本は、甲羅の前方が大きく持ち上がった、非常に特徴的な鞍型の甲羅を持っていました。一方、フェルナンダは体が小さく、甲羅も比較的なめらかだったため、本当に同じ種類なのか疑問視する研究者もいました。限られた植物しかない火山島で成長したため、発育が抑えられた可能性も考えられています。

    研究チームは、フェルナンダと1906年の標本から得たゲノムを比較しました。

    その結果、二匹は同じ系統に属し、ほかのガラパゴスゾウガメとは遺伝的に異なることが確認されました。フェルナンディナゾウガメは、絶滅していなかったのです。

    たった一匹なのか

    フェルナンディナ島では、ゾウガメらしい足跡や糞など、ほかの個体が存在する可能性を示す痕跡も報告されました。けれど、その後も生きた別個体は確認されていません。2025年時点でも、フェルナンダはこの種で唯一確認されている生存個体です。

    フェルナンディナ島は、広大な溶岩原が広がる火山島です。鋭い溶岩が島の内部への移動を妨げるため、調査は非常に困難です。人間がまだ到達できていない場所に、別のゾウガメが生きている可能性も完全には否定できません。

    なぜ今、このニュースを紹介するのか

    このニュースが発生したのは2019年ですが、絶滅と再発見について考えるうえで、とても重要な記録です。

    人間が「絶滅した」と判断したあとも、フェルナンダは火山島のどこかで生き続けていました。

    誰にも見つからず、仲間がいるかどうかもわからない場所で、何十年もの時間を生きていた。

    存在を確認できないことと、存在していないことは、同じではありません。

    世界のどこかには、僕たちが失ったと思い込んでいるだけで、今も静かに生きている亀がいるのかもしれません。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、一匹の亀が、種の絶滅という判断を覆したことです。

    1906年の標本と、2019年に発見されたフェルナンダ。

    科学的に確認されているのは、わずか二匹です。しかも二匹が生きていた時代は重なっていません。

    それでも、博物館に残された100年以上前の標本と、現代の一匹の遺伝情報を比較することで、失われたと思われていた種の存在が証明されました。

    古い標本も、現在を生きる一匹も、未来の保護につながる重要な記録なのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    絶滅したと思われていた亀が、火山島の奥で見つかった。

    ロマンが溢れてやがるぜ。

    出典

    Galápagos Conservancy「Breaking: Female Tortoise Found on Fernandina Island」

    Princeton University「“Fantastic giant tortoise,” believed extinct, confirmed alive in the Galápagos」

    Galápagos Conservancy「Publication Confirms Fernanda as Fernandina Giant Tortoise

  • 【世界の亀ニュース】175匹から1万4,000匹へ 野生絶滅寸前のビルマホシガメを救った13年間

    【世界の亀ニュース】175匹から1万4,000匹へ 野生絶滅寸前のビルマホシガメを救った13年間

    今回は、ミャンマーだけに生息する絶滅危惧種「ビルマホシガメ」が、違法取引によって野生からほとんど姿を消したあと、飼育下繁殖と野生復帰によって劇的な回復を遂げたニュースを紹介します。

    最初に保全繁殖の基礎となったのは、

    およそ175匹。

    その多くは、違法な野生生物取引から押収されたカメでした。

    それから13年。

    2017年には、保全下にあるビルマホシガメの数は1万4,000匹を超えました。

    今回のニュース

    2017年10月11日、Wildlife Conservation Society(WCS)は、ミャンマーで進められてきたビルマホシガメの保全繁殖によって、個体数が1万4,000匹以上まで回復したと発表しました。

    2000年代初頭には数百匹程度しか残っていないと推定され、野生では繁殖可能な個体群を確認できないほど減少していました。

    ところが2004年から本格的な保全繁殖が始まり、その後、繁殖施設では年間約37%という勢いで個体数が増加。

    2017年の発表時点では、約750匹がすでに保護区内の野生環境へ戻されていました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:ミャンマー
    主な地域:ミャンマー中央部の乾燥地帯
    主な保護区:Minzontaung Wildlife Sanctuary、Shwe Settaw Wildlife Sanctuaryなど
    WCS発表日:2017年10月11日
    対象種:ビルマホシガメ
    情報の種類:リクガメ・絶滅危惧種・飼育下繁殖・密猟・野生復帰・長期保全

    ビルマホシガメは、ミャンマー中央部の乾燥地帯だけに自然分布する固有種です。乾燥した落葉樹林や草原などに生息します。

    登場する亀

    今回の主役は、ビルマホシガメです。

    学名は Geochelone platynota

    英語ではBurmese Star Tortoiseと呼ばれます。

    黒っぽい甲羅に黄色い放射状の線が入り、それが星のように見えることから「ホシガメ」と呼ばれます。福岡市動物園によると、甲長は20〜30cmほどで、大型個体では体重5kgを超えます。

    現在もIUCNレッドリストでは**Critically Endangered(CR/深刻な危機)**に分類され、ワシントン条約では附属書Iに掲載されています。

    1990年代、突然いなくなった

    ビルマホシガメが急激に減少した大きな原因の一つが、野生生物取引でした。

    WCSによると、1990年代半ばから中国南部の市場で食用や伝統医療用途として需要が高まり、その後は国際的なペット市場からも狙われるようになりました。

    もともと生息地の限られたカメです。

    そこから大量の個体が捕獲される。

    成体が消える。

    繁殖できる雌が減る。

    新しい子ガメが生まれなくなる。

    そして短期間のうちに、野生で繁殖可能な個体群を確認することが難しくなりました。

    「生態学的絶滅」と呼ばれる状態へ

    ビルマホシガメについて、当時使われた言葉が、

    ecologically extinct

    です。

    「世界から一匹残らず絶滅した」という意味ではありません。

    どこかに少数個体が残っていた可能性はあります。

    しかし、

    自然の中で個体群を維持できるだけのカメが確認できない。

    つまり、野生生態系の中では実質的に機能できなくなっている状態です。

    WCSは、2000年代初頭にはビルマホシガメがそのような状態まで追い詰められていたと説明しています。

    2004年、175匹から始める

    2004年。

    ミャンマー政府の自然保護部門とWCS、Turtle Survival Alliance(TSA)は、ビルマホシガメを絶滅から守るため、3か所に**「assurance colony(保全繁殖個体群)」**を設けました。

    スタート時の個体数は、

    推定約175匹。

    しかも、その多くは違法な野生生物取引から押収された個体でした。

    普通なら、

    「密輸から救出されたカメ」

    としてそこで話が終わるかもしれません。

    しかし、この175匹は違いました。

    ここから、

    もう一度、野生個体群を作るための親ガメ

    になりました。

    最初は飼い方から調べなければならなかった

    希少なカメを集めれば、すぐ繁殖できるわけではありません。

    何を食べるのか。

    どのくらい与えるのか。

    どのような環境で繁殖するのか。

    卵をどう管理するのか。

    孵化した子ガメをどう育てるのか。

    保全チームは、ビルマホシガメの飼育方法そのものを確立する必要がありました。

    WCSのBronx Zooの爬虫類専門家も施設設計や飼育技術に協力し、獣医師や分子生物学者は感染症の検査にも参加しました。

    そして、爆発的に増え始めた

    繁殖方法が確立されると、状況が変わります。

    繁殖施設では多数の子ガメが生まれるようになりました。

    WCSの記録では、2014〜2015年の繁殖シーズンだけでも、約3,000匹の子ガメが誕生しています。

    2017年には、繁殖施設の個体群は年間約37%というペースで増加。

    そして保全開始から約13年で、

    1万4,000匹以上。

    175匹から始まった個体群が、80倍近い規模まで増えました。

    でも「1万4,000匹飼うこと」が目的ではない

    ここが、このニュースでとても重要なところです。

    絶滅危惧種を飼育下で1万匹まで増やした。

    それだけでも巨大な成果です。

    でも、

    飼育施設の中だけで増え続けても、野生復帰にはなりません。

    WCS自身も、保全繁殖個体群をただ蓄積することが目的ではなく、最終的には自然の中で機能する野生個体群を復元しなければならないと説明しています。

    そこで2013年、

    次の段階が始まりました。

    2013年、野生へ戻す計画が始まった

    最初の本格的な野生復帰場所として選ばれたのが、

    Minzontaung Wildlife Sanctuaryです。

    いきなりカメを放すわけではありません。

    まず周囲13村で地域住民への啓発活動を実施。

    そのうえで、保全繁殖された亜成体150匹が選ばれました。

    感染症検査を行う。

    識別番号を付ける。

    マイクロチップを入れる。

    そしてカメたちは、保護区内に作られた約1ヘクタールの順応用エリアへ移されました。

    すぐに放さず、6〜18か月待つ

    順応期間は、

    6か月。

    12か月。

    18か月。

    グループによって変えられました。

    目的は、飼育施設から突然野生へ放すのではなく、その土地の気候や環境に慣れてもらうことです。

    さらに重要なのが、

    放流直後に遠くまで移動してしまうことを抑える

    という目的でした。

    保護区の外には農地があります。

    カメが人間の生活圏へ出れば、再び密猟される危険があります。

    2014年、最初のカメが森へ

    最初のグループが野生環境へ出されたのは2014年5月。

    続いて2014年11月。

    そして2015年5月。

    放された個体には小型の無線発信器が取り付けられ、森林局のスタッフが約2週間ごとに位置を確認しました。

    結果は良好でした。

    初期の再導入個体では、失われたカメは10匹未満。

    多くは順応施設から1km以内に留まりました。

    さらに、

    放された雌の一部は野生環境で産卵を始めました。

    中には放流後わずか数日で巣を作った雌も確認されています。

    カメが「野生のカメ」に戻り始めた

    この違いは大きいと思います。

    施設で生まれた。

    施設で育った。

    人間から餌をもらった。

    それでも、

    森へ出れば自分で歩く。

    自分で餌を探す。

    自分で場所を選ぶ。

    そして自分で卵を産む。

    そこで初めて、

    「飼育下で増やしたカメ」が、

    野生個体群の一員へ変わり始めます。

    2017年のWCS発表時点では、約750匹が野生環境へ戻されていました。

    成功しても、密猟は消えなかった

    ただし、この物語は一直線の成功ではありません。

    2015年。

    Minzontaung Wildlife Sanctuaryの順応施設から、複数のビルマホシガメが盗まれました。

    カメは違法取引業者へ売られ、その一部はわずか2週間ほど後に、タイの高級ペット市場向けウェブサイトへ現れました。

    保全のために増やしたカメが、

    また「珍しいペット」として狙われる。

    WCS、TSA、ミャンマー森林局、タイ当局による捜査が行われ、タイでは野生生物取引に関わった人物が逮捕されています。

    増えれば終わり、ではない

    1万4,000匹まで増えた。

    それでもWCSは、大規模な野生復帰には社会的・政治的な課題が残ると指摘していました。

    理由は単純です。

    森へ戻したカメが、また捕られれば意味がないからです。

    飼育施設で100匹増やす。

    野生へ放す。

    100匹捕られる。

    それでは野生個体群は戻りません。

    だから必要になるのが、

    繁殖技術だけではなく、

    密猟対策。

    地域住民との協力。

    保護区の管理。

    教育。

    監視。

    そして野生生物取引そのものを減らす取り組みです。

    周辺36村へ保全活動を広げる

    次の野生復帰先となったShwe Settaw Wildlife Sanctuaryでは、周囲にある36の村を対象に啓発活動が行われました。

    学校の子どもたち。

    地域住民。

    村のリーダー。

    保全チームが直接地域へ入り、ビルマホシガメを野生へ戻す理由を説明しました。

    さらに地域住民からCommunity Conservation Volunteersが選ばれ、

    カメの追跡。

    密猟情報の提供。

    保護活動。

    などへ参加する仕組みも作られました。

    「外から来た研究者がカメを守る」

    だけではない。

    その土地に住む人たちと一緒にカメを戻す。

    そこまで含めて再導入計画でした。

    現在も絶滅危惧種である

    1万4,000匹という数字を見ると、

    「もう絶滅危惧種ではないのでは?」

    と思うかもしれません。

    しかし、そうではありません。

    現在もビルマホシガメはIUCNレッドリストで**Critically Endangered(CR)**に分類されています。

    人工的な保全繁殖で多数の個体を確保できたことと、

    野生で安定した個体群が完全に復元されたことは、

    別の話です。

    それでも現在のIUCN情報では個体数傾向がIncreasing=増加と示されています。

    一度ほとんど消えたカメが、

    少なくとも再び増える方向へ動き始めています。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番面白いと思うのは、

    最初の175匹の意味です。

    その175匹の多くは、

    密輸されようとしていたカメでした。

    人間に捕まった。

    商品として運ばれた。

    そして途中で押収された。

    本来なら、

    その一匹一匹は野生個体群から失われた存在です。

    でも、

    そこで終わらなかった。

    そのカメたちを集める。

    繁殖させる。

    子どもが生まれる。

    その子どもがまた繁殖する。

    何世代も重ねる。

    そして、

    今度はその子孫を森へ返す。

    野生から奪われたカメが、野生を再建する親になった。

    僕はそこが、このニュースの一番すごいところだと思います。

    湯川亀吉の一言

    ビルマホシガメ欲しかったな〜。

    希少価値がある亀や高額な亀って、なんであんなに魅力的なんだろう?

    出典

    Wildlife Conservation Society(WCS)
    「Star Tortoise Makes Meteoric Comeback」
    2017年10月11日。ビルマホシガメが1万4,000匹以上まで回復したこと、保全繁殖開始時の約175匹、野生復帰数などの主要情報。

    Wildlife Conservation Society Myanmar Program
    「Turtle and Tortoise / Burmese Star Tortoise Conservation」
    保全繁殖、順応施設、無線追跡、地域住民との協力、密猟事件など、野生復帰計画の詳細。

    IUCN Red List of Threatened Species
    「Burmese Star Tortoise – Geochelone platynota
    現在の保全評価はCritically Endangered。個体数傾向はIncreasing。

    福岡市動物園
    「ビルマホシガメ」
    和名、生息地、体格、食性、繁殖、CITES・IUCNの保全情報。