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  • 【世界の亀ニュース】大西洋を渡るオサガメを守るため、新たな国際連携が始動

    【世界の亀ニュース】大西洋を渡るオサガメを守るため、新たな国際連携が始動

    今回は、大西洋に生きるオサガメを守るために始まった、新しい国際連携に関するニュースを紹介します。

    今回のニュース

    2026年6月16日の「世界ウミガメの日」に合わせて、大西洋のオサガメを守るための新しい国際連携が発表されました。

    この取り組みは、Wilkes Atlantic Leatherback Turtle Allianceという名前で、イギリスのエクセター大学が主導し、大西洋周辺25か国の50以上の団体が参加する保全ネットワークとして紹介されています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:大西洋周辺、ヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカ
    元記事の言語:英語
    公開時期:2026年6月16日
    情報の種類:新着ニュース・保護活動・国際連携・研究ニュース

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、オサガメです。

    オサガメは、現生するウミガメの中でも特に巨大な種類として知られています。今回の記事では、オサガメはIUCNレッドリストで世界的には「危急」とされていますが、大西洋内の地域個体群では、北西大西洋が「絶滅危惧」、南西大西洋が「近絶滅」、南東大西洋が「情報不足」とされ、地域ごとの状況把握が急がれていると紹介されています。

    ニュースの要約

    新しく立ち上がったWilkes Atlantic Leatherback Turtle Allianceは、大西洋のオサガメを守るために、広い海をまたいだ調査と保全方針づくりを進めようとしています。

    具体的には、オサガメの産卵状況を更新して評価すること、漁業による混獲の証拠を大西洋全域で整理すること、そしてどの地域や問題に優先的に取り組むべきかを明らかにすることが目的とされています。

    記事では、オサガメが直面する主な脅威として、漁具による混獲、産卵地の劣化、沿岸開発、成体や卵の採取、気候変動、船舶との衝突、海洋汚染などが挙げられています。

    つまり、オサガメを守るには、一つの国や一つの浜辺だけを見ていては足りないということです。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、オサガメという存在のスケールの大きさです。

    オサガメは、ひとつの海岸だけで完結する生き物ではありません。
    産卵地があり、回遊ルートがあり、餌場があり、漁業と重なる場所がある。
    その一生は、国境を軽々と越えていきます。

    だから、守る側も国境を越えなければならない。

    1匹のオサガメを守るということは、海そのものをつなげて考えることなのかもしれません。

    大きな甲羅ではなく、革のような背中を持ち、深い海を渡っていくオサガメ。
    その姿を想像すると、亀というより、海に残された古代の影のようにも見えてきます。

    湯川亀吉の一言

    オサガメはマジでかっこいい。マジで好き。

    一緒に泳いでみたい。

    出典

    元記事:Phys.org / University of Exeter
    「New alliance to protect Atlantic’s leatherback turtles launched on World Sea Turtle Day」

  • 【世界の亀ニュース】ベトナムで希少な「ヨツメイシガメ」が民家の庭に現れる

    【世界の亀ニュース】ベトナムで希少な「ヨツメイシガメ」が民家の庭に現れる

    今回は、ベトナム中部のフエで報じられた、希少な淡水ガメの保護に関するニュースを紹介します。

    今回のニュース

    ベトナム中部のフエで、希少なヨツメイシガメが民家の庭に現れました。

    Vietnam Association for Conservation of Nature and Environmentの記事によると、フエ市ビンディエン地区に住む女性が、自宅の庭に迷い込んできた珍しいカメを発見し、すぐに当局へ引き渡しました。その後、このカメは手続きを経て自然へ戻されたとされています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:ベトナム、フエ市ビンディエン地区
    元記事の言語:英語
    公開時期:2026年6月15日
    情報の種類:新着ニュース・保護活動・野生復帰

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、ヨツメイシガメです。

    英語では Four-eyed turtle と呼ばれるカメで、後頭部付近に「目」のように見える模様があることから、その名前で呼ばれています。Peopleの記事でも、この種は中国、ラオス、ベトナムの森林に覆われた山地の沢などに生息する希少なカメとして紹介されています。

    ニュースの要約

    フエ市ビンディエン地区に住む女性は、自宅の庭で見慣れないカメを発見しました。

    そのカメは希少なヨツメイシガメで、住民はすぐに森林保護当局へ連絡しました。
    当局はカメを引き取り、必要な手続きを行ったうえで、自然環境へ戻したと報じられています。

    Peopleの記事では、ヨツメイシガメは違法なエキゾチックペット取引の影響を受けている種でもあり、IUCNでも絶滅危惧種として扱われていると紹介されています。

    同じ時期には、別のフエ市民がキイロアタマハコガメを自主的に引き渡したことも報じられており、地域住民が希少なカメを見つけたときに保護へつなげる動きが見られます。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、希少なカメが、特別な保護施設ではなく、ふつうの民家の庭に現れたというところです。

    ヨツメイシガメは、名前からして不思議な存在です。
    本当の目は前を見ているのに、後頭部にはもうひとつの目のような模様がある。

    まるで、森の奥で何かを見ているカメのようにも感じます。

    でも、その不思議さや美しさが、違法なペット取引の対象にもなってしまう。
    珍しいから守られるのではなく、珍しいから狙われることもある。

    今回のように、地域の人が見つけて、捕まえて売るのではなく、当局へ連絡する。
    その一つの判断が、カメの未来を変えるのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    ヨツメイシガメ欲しいんだよね〜。

    出典

    元記事:Vietnam Association for Conservation of Nature and Environment
    「Rare four-eyed turtle found wandering into Hue resident’s yard」

    関連報道:People
    「Rare ‘Four-Eyed’ Turtle Wanders Into a Woman’s Yard, She Immediately Knew What to Do」

  • 【世界の亀ニュース】かつて狩った森で守る側へ インドの若者たちがエミスムツアシガメを追跡

    【世界の亀ニュース】かつて狩った森で守る側へ インドの若者たちがエミスムツアシガメを追跡

    今回は、インド北東部のナガランド州で進められている、エミスムツアシガメの繁殖と野生復帰について紹介します。

    今回のニュース

    インド北東部のナガランド州では、絶滅の危機にあるエミスムツアシガメを地域の森へ戻し、住民自身がその後の暮らしを見守る保護活動が進められています。

    2025年8月には、ナガランド動物園で繁殖・育成された10匹が、ペレン県のゼリアン・コミュニティ保護区へ移されました。

    放されたカメを追跡しているのは、外部から派遣された研究者だけではありません。地域で暮らす若者たちが「Tortoise Guardian=リクガメの守り手」となり、森を歩いてカメの痕跡を探しています。活動の様子は2026年5月に海外メディアで紹介されました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:インド共和国、ナガランド州
    主な場所:ペレン県、ゼリアン・コミュニティ保護区
    繁殖施設:ナガランド動物園
    野生復帰:2025年8月
    記事公開:2026年5月
    情報の種類:リクガメ・飼育下繁殖・野生復帰・地域保全

    ナガランド州では、森林の多くが行政ではなく、村や部族などの地域社会によって所有・管理されています。そのため、リクガメを野生へ戻した後も守り続けるには、地域住民の協力が欠かせません。

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、エミスムツアシガメです。

    学名は Manouria emys。日本動物園水族館協会では「ムツアシガメ」という和名も使われています。

    今回ナガランド州で保護されているのは、主に北方の亜種 Manouria emys phayreiとみられ、ビルマムツアシガメと呼ばれることもあります。

    英語ではAsian Giant TortoiseやAsian Forest Tortoiseと呼ばれます。

    アジア大陸に生息する最大級のリクガメで、熱帯・亜熱帯の湿潤な常緑樹林を利用します。暗褐色から黒褐色の甲羅と、大きく頑丈な体が特徴です。

    ニュースの要約

    ナガランド動物園の繁殖計画は、13匹のエミスムツツアシガメから始まりました。

    内訳は雄6匹、雌7匹です。

    市場で食用として販売される前に保護された個体や、住民の家で飼育されていた個体が繁殖計画に加わりました。

    その後、地域住民が自宅で飼っていたカメを自発的に提供するようになり、13匹の親から合計114匹の子どもが誕生したと報告されています。

    これまでに100匹を超える個体が、ナガランド州内の地域管理型保護区へ移されました。

    単に森へ放すだけではなく、若者たちが森へ入り、食べられた植物、地面に残った足跡、休息した場所などを探しながら、放逐後の状態を確認しています。

    いきなり森へ放さない「ソフトリリース」

    2025年8月に移された10匹は、すぐに広い森へ解放されたわけではありません。

    まず保護区内に設置された囲いで一定期間を過ごし、気温、湿度、植物、地面など、現地の環境へ段階的に慣らされました。

    この方法は「ソフトリリース」と呼ばれます。

    飼育施設から突然野生へ移すのではなく、実際に暮らす森の中で新しい環境へ慣れる時間を作ります。

    エミスムツアシガメが暮らす森では、湿った土、落ち葉、低木、日陰などが重要です。

    野生復帰では、カメを放すことだけでなく、そのカメが隠れ、食べ、休める森を残す必要があります。

    「Tortoise Guardian」と呼ばれる若者たち

    地域で追跡を担当する若者たちは、「Tortoise Guardian」と書かれたシャツを着て、毎朝森へ入ります。

    カメそのものが見つからなくても、食べられた葉や、体の重みで沈んだ地面を確認することで、その個体がどこで活動していたのかを推測します。

    住民が一匹ずつに近い距離で関わることで、放されたカメは、単なる行政上の個体番号ではなくなります。

    今日は姿を確認できたのか。

    餌を食べているのか。

    森の奥へ移動したのか。

    放した後の生活まで地域の人が気にかけることが、この計画の大きな特徴です。

    かつて捕獲していた地域が、保護の中心になった

    エミスムツアシガメは、肉を目的とした捕獲、ペット取引、生息地の破壊などによって減少してきました。

    Turtle Survival Allianceによると、野生個体群は減少を続け、過去の個体数から80%以上減ったと推定されています。

    ナガランド州でも、かつては森で見つけたカメを食用として捕獲することがありました。

    しかし、保護活動が始まると、一部の住民は飼っていたカメを繁殖計画へ提供し、若者たちは野生復帰個体を守る活動へ参加するようになりました。

    かつてカメを利用していた地域社会を、保護活動から排除するのではありません。

    その土地とカメを最もよく知る人たちが、今度は保護の中心へ入っています。

    落ち葉の山を作って産卵するリクガメ

    エミスムツアシガメには、ほかの多くのリクガメとは異なる産卵方法があります。

    雌は地面へ卵を埋めるだけではなく、落ち葉や植物を集めて大きな塚を作り、その中へ卵を産みます。

    報道では、落ち葉の塚が高さ約60センチから2メートル以上になることもあると紹介されています。

    雌は前肢と後肢を使って植物を集め、塚を整えます。

    森の落ち葉が積もり、湿度と温度が保たれる環境そのものが、卵を育てる孵卵器の役割を果たします。

    このリクガメを守るには、成体だけでなく、落ち葉が積もる豊かな林床まで守らなければなりません。

    動物園と森をつなぐ繁殖計画

    ナガランド動物園は、地域に生息する絶滅危惧種の飼育下繁殖を担う施設です。

    繁殖施設で個体数を増やし、野生へ戻せる年齢まで育てたうえで、森林局や保全団体、地域住民と協力して放逐しています。

    飼育下繁殖だけでは、野生個体群を回復させることはできません。

    一方、森だけを残しても、そこへ戻す個体がいなければ、失われた個体群は戻りません。

    動物園で命をつなぐこと。

    野生で暮らせる森を残すこと。

    放した後を地域の人が見守ること。

    三つの働きがつながることで、野生復帰が成立します。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、カメを見つけることより、カメが見えない日にも森へ入ることです。

    リクガメは毎日、人間の前へ姿を現すわけではありません。

    落ち葉の下で休んでいるかもしれない。

    低木の奥で餌を食べているかもしれない。

    雨を避けて、動かずにいるかもしれない。

    保護活動では、カメが見つかった瞬間の写真が注目されます。

    でも、その一匹が野生で生き続けるためには、何も見つからない日も森を歩く人が必要です。

    食べられた葉を見る。

    地面のへこみを見る。

    今日もどこかで生きている可能性を探す。

    地域の若者たちは、カメを飼育しているのではありません。

    カメが人間の手を離れて生きていることを、静かに確認しているのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    エミスムツアシガメかっこいいよね!!

    出典

    Good News Network
    「Passionate ‘Tortoise Guardians’ Help Critically-Endangered Giant Tortoise Slowly Return to India」

    Turtle Survival Alliance
    「Asian Giant Tortoise」

    Nagaland Department of Forest
    「Nagaland Zoological Park」

    Responsible Herpetoculture Foundation
    「Largest Asian Tortoise Species Reintroduced Into Nagaland Reserve」

  • 【世界の亀ニュース】ガンジススッポンを衛星で追う インド初の個体がブラマプトラ川へ帰還

    【世界の亀ニュース】ガンジススッポンを衛星で追う インド初の個体がブラマプトラ川へ帰還

    今回は、インド北東部のカジランガ国立公園で、絶滅危惧種のガンジススッポンに衛星発信器を装着し、その行動を追跡する取り組みが始まったニュースを紹介します。

    今回のニュース

    2026年5月15日、インド・アッサム州のカジランガ国立公園・トラ保護区で、衛星発信器を装着したガンジススッポン1匹が野生へ戻されました

    ガンジススッポンを衛星追跡する試みとしては、インド初と報じられています。

    健康な成体を捕獲し、獣医師の監督のもとで発信器を取り付けた後、ブラマプトラ川北岸の本来の生息環境へ放しました。今後は衛星から位置情報を取得し、このカメが季節ごとにどこへ移動するのか、どれほどの範囲を利用するのか、どこを繁殖や産卵に使うのかを調べます。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:インド共和国、アッサム州
    場所:カジランガ国立公園・トラ保護区、ブラマプトラ川流域
    放流日:2026年5月15日
    元記事の言語:英語
    情報の種類:淡水ガメ・スッポン・衛星追跡・研究・保護活動

    この調査は、インド環境・森林・気候変動省の取り組みとして、Wildlife Institute of India、カジランガ国立公園、アッサム州森林局が協力して実施し、National Geographic Societyが資金面で支援しています。

    登場する亀

    今回の主役は、ガンジススッポンです。

    学名は Nilssonia gangetica

    日本では「ガンジススッポン」または「インドスッポン」という名称が使われています。経済産業省のワシントン条約関連資料でも、Nilssonia gangeticaに対して「ガンジススッポン(インドスッポン)」という和名が記載されています。

    英語ではGanges Softshell TurtleやIndian Softshell Turtleと呼ばれます。

    一般的なカメのような硬い甲板に覆われた甲羅ではなく、平たく柔らかな甲羅を持つスッポンの仲間です。

    頭部には特徴的な模様があり、報道では頭頂部に見られる矢じりのような模様が、ほかの河川性のスッポンと見分ける特徴の一つとして紹介されています。

    ニュースの要約

    衛星発信器を取り付けられたガンジススッポンは、カジランガ周辺のブラマプトラ川へ戻されました。

    研究チームが特に知りたいのは、

    季節によってどこへ移動するのか。

    一匹がどのくらい広い範囲を利用するのか。

    どの場所で餌を探すのか。

    どこで繁殖するのか。

    そして、どこに重要な産卵場所があるのか。

    ということです。

    Wildlife Institute of Indiaの研究者Abhijit Das氏は、季節的な移動、行動圏、繁殖・産卵に重要な場所を把握することが、ブラマプトラ川流域のスッポン保全に役立つと説明しています。

    川にカメがいることと、カメが川のどこを使っているかは違う

    ガンジススッポンがブラマプトラ川に生息していること自体は、以前から知られています。

    しかし、「いる」という情報だけでは、川のどの部分を守ればよいのかまでは分かりません。

    例えば、一年のほとんどを深い水域で過ごしていても、繁殖期だけ特定の浅瀬へ移動する可能性があります。

    普段は広い川を利用しながら、産卵するときだけ特定の砂州へ上がるかもしれません。

    雨季の増水に合わせて、支流や湿地へ移動する可能性もあります。

    重要な場所が一年中同じとは限りません。

    衛星追跡を行うことで、これまで人間が水面から見ているだけでは分からなかった「一匹のカメが使っている川の地図」が少しずつ見えてきます。

    ブラマプトラ川という巨大な世界

    ブラマプトラ川は、ヒマラヤからインド北東部を通り、バングラデシュ方面へ流れる巨大な河川です。

    カジランガ周辺では、本流だけでなく、砂州、支流、湿地、氾濫原などが複雑につながっています。

    川は毎年同じ形をしているわけではありません。

    増水すれば水域が広がる。

    水が引けば砂州が現れる。

    流路そのものが変わることもあります。

    ガンジススッポンは、そんな動き続ける環境の中で暮らしています。

    研究者が知ろうとしているのは、単に「カメが何メートル移動したか」ではありません。

    変化し続ける川の中で、カメがどの場所を選びながら生きているのかということなのだと思います。

    アッサム州は淡水ガメの重要地域

    アッサム州は、アジアでも淡水ガメの多様性が高い地域の一つです。

    報道によると、州内では21種類のカメが確認されており、インドに生息する8種類のスッポン類のうち、5種類がカジランガで確認されています。

    サイやトラで有名なカジランガですが、その保護区を流れる水の中には、多くのカメやスッポンも暮らしています。

    しかし、大型哺乳類と比べると、水中で暮らすカメは姿を確認することさえ難しい。

    だからこそ、一匹に発信器を付けて追跡することには大きな意味があります。

    ガンジススッポンは川の掃除屋でもある

    ガンジススッポンは、魚類や水生動物などを食べる捕食者である一方、死んだ動物や腐敗した有機物も利用します。

    そのため、河川の食物網の中で捕食者として働くだけでなく、死骸を処理する存在としても重要な役割を持っています。

    大きなスッポンが一匹減ることは、単にカメが一匹いなくなることではありません。

    長い時間をかけて川の中で担ってきた役割も、一緒に失われます。

    広く分布していても安全とは限らない

    ガンジススッポンは、インドの複数の大河川や湖、貯水池などに分布しています。

    しかし、分布範囲が広いからといって安全な種というわけではありません。

    現在、絶滅の危険がある種として扱われており、インドではWildlife Protection ActのSchedule Iに掲載され、厳重な保護対象となっています。

    河川環境の変化、水質汚染、捕獲、砂州の消失など、淡水ガメが直面する問題は一つではありません。

    そして、対策を行うためにはまず、

    「どこを守るべきなのか」

    を知らなければなりません。

    今回の衛星追跡は、その問いへ答えるための調査です。

    一匹の背中から送られてくる位置情報

    今回の計画で興味深いのは、調査対象がまず一匹のカメだということです。

    巨大なブラマプトラ川に、一匹のガンジススッポンがいる。

    その背中に、小さな発信器が付いている。

    カメが動けば、点が動く。

    昨日いた場所から今日の場所へ。

    乾季から雨季へ。

    川の本流から、別の水域へ。

    一つひとつはただの座標です。

    でも、それを何か月、何年と重ねていけば、そのカメが必要としている川の形が見えてくるかもしれません。

    衛星追跡は「監視」ではない

    発信器を取り付けるというと、人間がカメをずっと監視しているようにも感じます。

    しかし、この研究の目的はカメの行動を管理することではありません。

    むしろ逆です。

    人間には分からない場所へ自由に泳いでいくカメを、そのまま泳がせる。

    人間は遠くから位置情報を受け取り、

    「この場所を使っていたのか」

    と後から知る。

    カメの行動に合わせて、人間の保護計画の方を変えていくための技術です。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、一匹のカメに川のことを教えてもらう研究だということです。

    人間が地図を広げて、

    「ここが重要な場所だろう」

    と決めるのではありません。

    まずカメを川へ戻す。

    そして待つ。

    どこへ泳ぐのかを見る。

    どこで止まるのかを見る。

    どの季節に移動するのかを見る。

    カメ自身が、自分に必要な場所を移動によって示していく。

    研究者は、その後ろから地図を描いていきます。

    この順番が、とても面白いと思います。

    湯川亀吉の一言

    とてもいいですね!

    まず事実を確かめること・把握することはとても大きな意味があると思います。

    自分の妄想や思い込みだけで行動するような豚野郎にはなりたくないもんだぜ。

    出典

    The New Indian Express
    「India’s first satellite-tagged Ganges softshell turtle released in Kaziranga」

    The Sentinel Assam
    「First-ever satellite tagging of Ganges softshell turtle in Kaziranga National Park」

    The Times of India
    「Satellite-tagged Ganges softshell turtle released in Kaziranga」

    経済産業省
    「ワシントン条約附属書掲載種・動物」

  • 【世界の亀ニュース】絶滅したと思われた「ロイヤルタートル」20匹がカンボジアの川へ

    【世界の亀ニュース】絶滅したと思われた「ロイヤルタートル」20匹がカンボジアの川へ

    今回は、カンボジアで報じられた、世界でも特に絶滅の危機が深刻な淡水ガメの野生復帰に関するニュースを紹介します。

    今回のニュース

    2026年4月29日、カンボジアのスレアンベル川水系に、20匹のロイヤルタートルが放流されました。

    このカメは、英語でSouthern river terrapinと呼ばれるBatagur affinisです。カンボジア国内で現在も野生個体が生息し、繁殖していることが確認されている場所は、スレアンベル川水系だけだとされています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:カンボジア、スレアンベル川水系
    元記事の言語:英語
    公開時期:2026年4月29日
    情報の種類:新着ニュース・淡水ガメ・野生復帰・保護活動

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、ロイヤルタートルです。

    学名はBatagur affinis。河川や河口付近の水域に暮らす淡水・汽水性のカメで、世界でも特に絶滅の危機が深刻なカメのひとつとされています。

    カンボジアでは2005年に「国の爬虫類」に指定されましたが、かつては国内で絶滅したのではないかと考えられていました。その後、2000年代初頭に再発見され、長期的な保護活動が続けられています。

    ニュースの要約

    今回放流された20匹は、カンボジア水産局や地域行政、Wildlife Conservation Societyなどが進めてきた、長期的な回復事業の一環として川へ戻されました。

    この活動では、野生の巣を守るだけでなく、子ガメをある程度の大きさまで育ててから放流し、その後の行動を追跡する取り組みも行われています。

    さらに、違法漁業、砂の採掘、生息地の消失などから、川全体を守る活動も進められています。過去10年間で、200匹以上のロイヤルタートルが野生へ戻されました。

    回復の兆しも見え始めています。

    2024年には、過去に放流されたメスが野生で産卵したことが初めて確認されました。2025年には巣が確認されませんでしたが、2026年の初めにはスレアンベル川で3つの巣が見つかっています。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、かつて卵を採っていた地域の人たちが、現在は巣を守る側になっていることです。

    保護活動では、カメだけを遠くから監視しているわけではありません。

    以前は卵を採集していた人たちが、巣を探し、産卵場所を見守り、卵が無事に孵化できるように守っています。今回の放流式では、25年以上にわたってロイヤルタートルの巣を守ってきた地域の家族も表彰されました。

    人間がカメを減らす側から、守る側へ変わる。

    その変化がなければ、ロイヤルタートルは今も「絶滅したカメ」のままだったかもしれません。

    ただカメを育てて放すだけでは、野生復帰は完成しません。

    産卵できる砂州が残り、川が守られ、地域の人たちが巣を見つけ、次の世代が生まれる。そのすべてがつながって、ようやく野生の個体群が戻っていくのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    ロイヤルタートルの実物を見てみたいぜ。

    出典

    元記事:Wildlife Conservation Society Cambodia
    「Cambodia releases critically endangered royal turtles in Sre Ambel」

  • 【世界の亀ニュース】メキシコで野生ガメ2,000匹超を押収 世界最小のバジャルタドロガメも密輸被害に

    【世界の亀ニュース】メキシコで野生ガメ2,000匹超を押収 世界最小のバジャルタドロガメも密輸被害に

    今回は、メキシコで発覚した大規模なカメの違法取引と、その中に含まれていた絶滅寸前の小さな淡水ガメについて紹介します。

    今回のニュース

    2025年9月、メキシコ・ハリスコ州で行われた摘発によって、野生から捕獲された2,000匹を超える淡水ガメが押収されました。

    カメたちは、ナマコやフカヒレなど、ほかの野生生物由来の品とともに隠されていました。

    押収されたカメには、メキシコ原産のドロガメ類6種とハコガメ類1種が含まれ、その中には、絶滅の危機が極めて高い**バジャルタドロガメ(Kinosternon vogti)**も数十匹含まれていました。

    しかし、すべてのカメが無事だったわけではありません。

    密輸の過程で劣悪な環境に置かれていたため、押収後までに数百匹が死亡したとTurtle Survival Allianceは報告しています。生き残った個体はグアダラハラ動物園へ運ばれ、治療、検疫、感染症検査などを受けました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:メキシコ
    主な場所:ハリスコ州、グアダラハラ
    摘発:2025年9月
    Turtle Survival Alliance発表:2025年10月10日
    情報の種類:淡水ガメ・密輸・違法取引・絶滅危惧種・救護・保護活動

    メキシコ当局のPROFEPAとSEMARNATは9月26日、大規模な摘発後にグアダラハラ動物園へカメの緊急収容を要請しました。その後、獣医師や飼育スタッフが大量の個体を一匹ずつ確認し、隔離と治療を開始しています。

    登場する亀

    今回とくに注目したいのが、バジャルタドロガメです。

    学名は Kinosternon vogti

    日本の公的資料では「キノステルノン・ヴォグティ」と表記され、関連する登録資料では「フォークトドロガメ、バジャルタドロガメ」という名称も確認できます。この記事では、国内の爬虫類愛好家の間でも使われている「バジャルタドロガメ」で統一します。

    このカメが新種として記載されたのは、わずか2018年です。

    そして現在、世界で知られているカメの中でも最小の種とされています。

    雄の平均甲長は約7.6センチ、雌は約7.8センチ。大きな個体でも、雄は9センチ、雌は10センチを超えることがほとんどありません。

    世界最小のカメが暮らす場所

    バジャルタドロガメは、メキシコ西部のハリスコ州とナヤリット州にまたがるバンデラス湾周辺だけに分布する固有種です。

    歴史的な分布域は約263平方キロと推定されていますが、現在実際に利用できる生息域は非常に小さく、推定占有面積は0.3平方キロ未満とされています。

    池、湿地、流れの緩やかな小川などで暮らし、乾季には土中へ潜って数か月間休眠することがあります。

    繁殖は雨季に行われ、雌は一度に1〜5個ほどの卵を産みます。孵化した子ガメの甲長は、わずか19〜23ミリほどです。

    成体ですら手のひらに収まるほど小さい。

    その小さなカメが、生きられる湿地そのものも、非常に小さな範囲しか残っていません。

    2,000匹以上が一度に押収された

    今回の事件では、バジャルタドロガメだけが狙われていたわけではありません。

    押収されたのは、6種類のドロガメと1種類のハコガメを含む2,000匹以上のカメでした。

    これらは野生から捕獲されたとされ、国際市場を対象とした組織的な野生生物取引ネットワークの一部だったと報告されています。メキシコ当局は関係が疑われる3人を起訴しました。

    野生生物やその加工品は、グアダラハラを拠点とする企業を通じて、アメリカ、中国、その他のアジア市場などへ送られることが疑われています。

    一匹の珍しいカメが密かに持ち出された事件ではありません。

    何千匹という単位で野生動物を集め、商品として移動させる仕組みが存在していた可能性があります。

    数百匹は救出まで生き残れなかった

    カメは、見た目以上に過酷な環境へ耐えることがあります。

    長期間餌を食べなくても生きる種類もいる。

    狭い場所で動かず耐えることもできる。

    しかし、その性質は密輸業者にとって「運びやすい動物」として利用されることがあります。

    今回の押収個体も、多数のカメが密集した状態で扱われていたとみられ、数百匹がすでに死亡していました。残った個体の中にも、弱ったカメや病気の疑いがあるカメが確認されています。

    救出したカメを、すぐ野生へ戻せない理由

    違法取引から救出された野生動物を見ると、

    「元いた場所へ放せばいい」

    と思うかもしれません。

    しかし、2,000匹を超えるカメが複数種混ざった状態で運ばれていた場合、それほど簡単ではありません。

    どの個体がどこから捕獲されたのか。

    感染症を持っていないか。

    異なる地域個体群が混ざっていないか。

    長期間の輸送によって健康状態が悪化していないか。

    一つずつ確認する必要があります。

    今回もグアダラハラ動物園では、感染症の拡大を防ぐため、種類や状態に応じた隔離と検査が行われました。とくにカメ類で重大な問題となるラナウイルスについて、慎重な検査が必要だとされています。

    バジャルタドロガメは400匹未満とも

    Turtle Survival Allianceは、野生に残るバジャルタドロガメを400匹未満としています。

    一方、専門家による2025年の種解説では、実際に利用されている生息地が極めて小さいこと、野生個体群が都市開発、道路、違法採集などの圧力を強く受けていることが示されています。IUCNでは「Critically Endangered=深刻な危機」と評価されています。

    数千匹いる種類から数十匹が捕られるのと、

    野生に数百匹しかいない可能性のある種類から数十匹が消えるのとでは、意味が違います。

    密猟者が一度採集しただけでも、地域個体群へ大きな影響を与える可能性があります。

    2025年には保全施設からもカメが盗まれていた

    さらに深刻なのは、野生個体だけが狙われているわけではないことです。

    2025年1月には、プエルト・バジャルタでバジャルタドロガメの保全・繁殖を行っていた施設へ何者かが侵入し、飼育されていた個体が盗まれる事件も発生しました。

    その後、施設には電気柵、高性能の鍵、モーションセンサー、警報装置などが追加されています。

    絶滅から守るために集められたカメが、

    「珍しいから」

    という理由で再び狙われる。

    希少性そのものが、保全活動を難しくしています。

    それでも繁殖は始まっている

    バジャルタドロガメには希望もあります。

    2023年には、オーストリアのTurtle Islandで世界初となる飼育下繁殖に成功しました。

    さらにメキシコでは2024年、バジャルタドロガメを保護・繁殖するための専用保全施設が完成しています。

    グアダラハラ動物園でも繁殖技術の開発が進み、メキシコ国内で初めて飼育下孵化に成功しています。

    つまり、人間にはこの小さなカメを増やす技術が少しずつでき始めています。

    しかし、増やしたカメを帰す湿地が失われれば、飼育下繁殖だけでは問題は解決しません。

    生息地の99%以上が失われた可能性

    Turtle Islandによる現地保全プロジェクトでは、バンデラス湾周辺の都市化によって、バジャルタドロガメが利用してきた湿地環境の99%以上が失われたと報告されています。

    現在知られている生息地は、わずか数か所にまで減っています。

    プエルト・バジャルタ周辺は観光開発が盛んな地域です。

    ホテル。

    道路。

    住宅。

    商業施設。

    人間にとって便利な土地へ変わるほど、小さな湿地は地図から消えていきます。

    世界最小のカメが必要としている場所は、大きなジャングルではありません。

    人間から見れば、埋め立てても大きな変化には見えない、小さな水辺なのです。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番気になるのは、カメの「希少価値」が、そのカメを危険にしてしまうことです。

    新種だった。

    世界最小だった。

    分布域が狭かった。

    絶滅寸前だった。

    本来なら、これらは

    「だから守ろう」

    という理由になるはずです。

    でも、違法なペット市場では、

    「だから欲しい」

    という理由にもなってしまう。

    珍しくなればなるほど値段が上がり、値段が上がるほど野生から持ち出す人間が現れる。

    絶滅へ近づくほど商品価値が高くなるという、ものすごく危険な循環です。

    湯川亀吉の一言

    珍しいから欲しい・高価だから欲しい。

    そんな考えに取り憑かれていた時期が、俺にもありました。

    出典

    Turtle Survival Alliance
    「Over 2,000 Wild Turtles Seized in Mexico; Conservationists Race to Save Survivors」

    IUCN SSC Tortoise and Freshwater Turtle Specialist Group
    「Kinosternon vogti – Vallarta Mud Turtle」

    Turtle Island
    「The Vallarta Mud Turtle | Mexico」

    Mongabay
    メキシコの大規模なカメ密輸摘発に関する報道。

  • 【世界の亀ニュース】絶滅寸前のビルマオオセタカガメ 20匹のオスを川へ戻したら、孤独だった雌から14匹が誕生

    【世界の亀ニュース】絶滅寸前のビルマオオセタカガメ 20匹のオスを川へ戻したら、孤独だった雌から14匹が誕生

    今回は、ミャンマーの大河川に生息する希少な淡水ガメ「ビルマオオセタカガメ」の保全活動を紹介します。

    かつては、

    絶滅したのではないか

    とまで考えられていたカメです。

    しかし、生き残ったわずかな個体を見つけ、卵を守り、子ガメを育て、川へ戻す活動が始まりました。

    そして2018年。

    保全施設で育った若いオス20匹が、チンドウィン川へ放されます。

    その約1年半後。

    長年、無精卵しか産めなかった一匹の野生の雌が19個の卵を産み、

    14匹が孵化しました。

    人間が川へ戻したオスが、

    野生に残っていた雌を見つけた可能性が高いと考えられています。

    今回のニュース

    2020年5月22日、Wildlife Conservation Society(WCS)とTurtle Survival Alliance(TSA)は、ミャンマー北部を流れるチンドウィン川で、ビルマオオセタカガメの繁殖に大きな進展があったと発表しました。

    そこには一匹の野生の雌がいました。

    しかし、その雌は長い間、繁殖相手となる雄と出会えていなかったと考えられています。

    過去に産んだ卵は孵化しませんでした。

    ところが2020年。

    19個の卵を産み、

    そのうち14個が孵化しました。

    研究者たちが考えたのは、

    2018年に放流した若い雄たちです。

    そのときチンドウィン川へ戻されたのは、

    20匹の飼育下育ちの雄。

    そのうち少なくとも一匹が野生の雌と出会い、交尾したと考えられました。

    どこの国・地域の話か

    国:ミャンマー
    主な河川:チンドウィン川
    対象種:ビルマオオセタカガメ
    学名:Batagur trivittata
    英名:Burmese Roofed Turtle
    情報の種類:淡水ガメ・絶滅危惧種・繁殖・ヘッドスタート・野生復帰

    ビルマオオセタカガメはミャンマー固有の大型淡水ガメで、かつてはエーヤワディー川、チンドウィン川、シッタン川、サルウィン川などの大きな河川に広く分布していました。

    日本の経済産業省が公開しているワシントン条約対象種の資料でも、Batagur trivittataには**「ビルマオオセタカガメ」**という和名が使われています。

    登場する亀

    ビルマオオセタカガメは、イシガメ科バタグールガメ属の淡水ガメです。

    大きな川とその支流を主な生息環境とし、河川沿いの砂州を産卵場所として利用します。

    そして、このカメにはとても面白い特徴があります。

    成熟した雄の外見が繁殖期に大きく変わることで知られるカメです。

    名前の「trivittata」も、ラテン語で「3本の帯を持つ」といった意味に由来すると考えられています。

    一度は「絶滅した」と思われた

    ビルマオオセタカガメは、昔から珍しいカメだったわけではありません。

    かつてはミャンマーの大河川で普通に見られたとされています。

    しかし、

    卵の大量採取。

    成体の捕獲。

    漁網への混獲。

    産卵砂州の消失。

    金採掘。

    河川環境の改変。

    こうしたものが重なり、個体数が急激に減少しました。

    1970年代にはすでに、

    「絶滅したのではないか」

    と考えられるようになります。

    2001年、「甲羅」が見つかった

    転機は2001年でした。

    WCSの調査チームがミャンマーで別の希少なカメを探していたとき、

    ある村で、

    最近殺されたと思われるビルマオオセタカガメの甲羅

    を発見しました。

    生きた個体ではありません。

    でも、

    「最近まで生きていたカメの甲羅」がある。

    つまり、

    絶滅していない可能性があります。

    そこから調査が進みました。

    寺院の池に、生き残りがいた

    その後、

    マンダレーの寺院の池で、

    生きたビルマオオセタカガメが発見されます。

    さらにチンドウィン川上流では、

    わずかながら野生で繁殖を続けている個体群も見つかりました。

    絶滅していなかった。

    でも、

    安心できる数ではありません。

    WCSが2020年に発表した時点でも、野生に残る繁殖可能な雌は5匹未満とされていました。

    TSAの現在の種情報では、野生個体群は99%以上減少し、確認される野生の成体雌はさらに少数とされています。

    まず卵を守る

    そこで始まったのが、

    チンドウィン川の産卵地を直接守る活動です。

    毎年2月から3月。

    残された雌が砂州へ上がり、

    卵を産みます。

    保全チームはその卵を探します。

    そして、

    人や動物に掘り返される前に保護します。

    保護された卵は、チンドウィン川沿いの村に設けられた安全な場所で孵化まで管理されます。

    5月から6月。

    子ガメが生まれます。

    でも、

    すぐには川へ戻しません。

    5〜6年間育ててから川へ戻す

    孵化したばかりの子ガメは小さい。

    捕食されやすい。

    漁具にも弱い。

    そこで、

    5〜6年間、人間の管理下で育てます。

    ある程度大きくなり、野外で生存できる可能性が高くなってから川へ戻します。

    いわゆる、

    ヘッドスタート

    です。

    卵を守る。

    孵化させる。

    数年間育てる。

    そして、

    元の川へ返す。

    この循環を何年も続けました。

    飼育個体群は1,000匹近くまで増えた

    保全活動は野生の卵だけではありません。

    マンダレーのYadanabon Zooをはじめ、複数の場所に保全繁殖個体群=assurance colonyが作られました。

    もし野生個体群が完全に消えても、

    種そのものが失われないようにするためです。

    そして繁殖に成功します。

    2020年には、WCSは飼育下個体群が1,000匹近くまで増えたと報告しました。

    数十年前には、

    絶滅したと思われていたカメです。

    それが、

    人間の管理下とはいえ、

    1,000匹近くまで増えました。

    でも、飼育下で1,000匹いても十分ではない

    ここは、

    これまで紹介してきた亀たちにも共通します。

    飼育下で増えた。

    だから成功。

    ではありません。

    このカメは、

    川のカメです。

    大きな川を泳ぐ。

    砂州へ上がる。

    卵を産む。

    流れの中で餌を探す。

    そういう生活をして初めて、

    ビルマオオセタカガメという種が野生に存在していることになります。

    だから、

    増やしたカメをもう一度川へ戻さなければなりません。

    2018年、若い雄20匹を放す

    そこで2018年。

    保全施設で育てた若い雄20匹が、チンドウィン川へ放されました。

    この放流には、

    特別な意味がありました。

    川には雌が残っている。

    でも、

    雄がほとんどいない。

    雌は毎年卵を産んでも、

    受精しない。

    だったら、

    雄を戻す。

    とても単純に聞こえます。

    でも、

    野生復帰というのは、

    「カメの数を増やす」ことだけではない。

    野生に足りなくなった繁殖相手を戻す

    ことでもあります。

    そして一匹の雌が19個の卵を産んだ

    2020年。

    チンドウィン川上流にいた一匹の雌が、

    19個の卵を産みます。

    そして、

    14匹が孵化しました。

    それまで、

    その雌が産んだ卵は受精していませんでした。

    しかし、

    雄を川へ戻したあと、

    初めて子ガメが生まれた。

    もちろん、

    どの雄が父親なのかは、

    このニュースだけでは分かりません。

    それでもWCSとTSAは、

    2018年に放した雄との交尾によって受精した可能性が高いと考えました。

    14匹という数字以上の意味

    14匹。

    飼育施設なら、

    もっとたくさん生まれているかもしれません。

    でも、

    この14匹は意味が違います。

    母親は、

    野生で生き残った雌。

    父親はおそらく、

    人間が育てて野生へ返した雄。

    そこで生まれた子どもです。

    つまり、

    飼育下個体群と野生個体群が、

    もう一度つながった。

    保全施設が、

    単なる避難場所ではなく、

    野生を補強するための場所として機能した瞬間

    だと思います。

    さらに60匹が川へ戻った

    その後も再導入は続きました。

    Turtle Survival Allianceは、ヘッドスタートされた60匹のビルマオオセタカガメをミャンマー西部の2つの河川へ再導入した取り組みを報告しています。

    一度、

    ほとんどカメがいなくなった川。

    そこへ、

    少しずつ戻す。

    20匹。

    60匹。

    また次の世代。

    一度に昔の状態へ戻すことはできません。

    川には、まだ危険がある

    しかし、

    放流すれば終わりではありません。

    川には今も、

    漁網があります。

    産卵砂州の消失があります。

    人による卵の採取があります。

    河川環境の変化があります。

    飼育下で100匹増やしても、

    川で100匹失われれば、

    個体群は復活しません。

    だから、

    カメを育てることと、

    カメが戻れる川を残すこと。

    この二つを同時に進める必要があります。

    卵を集めることが、永遠に続いてはいけない

    現在の保全方法では、

    野生の雌が産んだ卵を人間が保護し、

    子ガメを育てています。

    これは今、

    非常に重要な方法です。

    でも、

    最終的な理想は、

    人間が毎年卵を拾わなくてもいい状態でしょう。

    雌が自分で砂州を選ぶ。

    卵を産む。

    孵化する。

    子ガメが川へ入る。

    成長する。

    そして、

    また繁殖する。

    その循環が、

    人間の手を借りずに続くこと。

    そこまで戻れば、

    本当の意味で野生個体群が復活したと言えるのだと思います。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回の話で僕が一番好きなのは、

    「雄を放したら、雌の卵から子ガメが生まれた」

    というところです。

    保全活動というと、

    とにかく数を増やすことを想像します。

    100匹育てる。

    200匹放す。

    1,000匹まで増やす。

    もちろん、それも大事です。

    でも、

    野生に残っていた一匹の雌に必要だったのは、

    100匹のカメではなかったのかもしれない。

    たった一匹の雄だったかもしれない。

    ずっと同じ川で生きていた。

    毎年卵を産んだ。

    でも、

    相手がいなかった。

    そこへ、

    人間が育てた雄が泳いでくる。

    どこかで出会う。

    そして、

    次の年。

    卵から子ガメが出てくる。

    保全って、

    「たくさん増やす」だけじゃないんだね。

    途切れてしまった生き物同士のつながりを、

    もう一度つなぐ仕事でもあるんだと思います。

    湯川亀吉の一言

    バタグール飼ってみたいね〜

    出典

    Wildlife Conservation Society(WCS)
    「Isolated Female Burmese Roofed Turtle Surprises Conservationists by Laying Fertile Eggs」
    2020年5月22日。野生の雌が19個の卵を産み、14匹が孵化したこと、2018年に雄20匹を放流したことについて。

    Wildlife Conservation Society Myanmar Program
    「Burmese Roofed Turtle Conservation」
    過去の分布、減少、再発見、チンドウィン川での卵保護・ヘッドスタートなどについて。

    Wildlife Conservation Society(WCS)
    「The Turtle that Almost Went Extinct, Now Ready for Its Close-up」
    2020年8月25日。飼育下個体群が約1,000匹まで増加したことなどについて。

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「Burmese Roofed Turtle」
    現在の保全状況、脅威、ヘッドスタート・個体群補強について。

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「Burmese Roofed Turtles Return to the Wild」
    ヘッドスタートされた60匹の野生復帰について。

  • 【世界の亀ニュース】マダガスカルで洪水に流された絶滅危惧のリクガメたちを救助

    【世界の亀ニュース】マダガスカルで洪水に流された絶滅危惧のリクガメたちを救助

    今回のニュース

    2025年1月、マダガスカル南部で、絶滅危惧種のリクガメたちが洪水に巻き込まれ、大規模な救助活動が行われました。

    AP通信によると、サイクロン「Dikeledi」の影響で、Lavavolo Tortoise Centerが洪水に見舞われ、保護されていたホウシャガメやクモノスガメなど約12,000匹が流される事態になりました。これらのリクガメの多くは、もともと違法取引から保護された個体だったと報じられています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:マダガスカル南部
    元記事の言語:英語
    元記事の公開時期:2025年1月
    情報の種類:過去アーカイブ・救助・保護活動・災害

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、主にホウシャガメクモノスガメです。

    ホウシャガメは、黒い甲羅に黄色い放射状の模様を持つ美しいリクガメとして知られています。AP通信の記事では、ホウシャガメは100年以上生きることもある長寿のリクガメであり、マダガスカルでは生息地破壊や密猟、違法ペット取引などにより深刻な危機にあると紹介されています。

    ニュースの要約

    Lavavolo Tortoise Centerには、約12,000匹のホウシャガメやクモノスガメが保護されていました。

    しかし、サイクロンによる洪水で施設が浸水し、多くのリクガメたちが流されてしまいました。
    記事によると、施設スタッフ、地域住民、警察官たちが協力し、水の中を歩きながら容器を使ってリクガメを集めたり、壊れた建物の一部を即席のいかだのように使ったりして救助にあたったとされています。

    Turtle Survival Allianceのマダガスカル責任者は、10,000匹以上を救えた可能性があるとしつつも、約700匹の死亡も確認されたと報じられています。多くの個体は施設に戻されましたが、洪水によって保護施設そのものにも大きな被害が出ました。

    なぜ今、このニュースを紹介するのか

    このニュースは2025年の記事ですが、「亀を守る」ということを考えるうえで、とても重要な記録だと思います。

    これらのリクガメたちは、違法取引から救われたあと、保護施設で守られていました。
    けれど、その保護施設もまた、自然災害によって危機にさらされる。

    亀を守るということは、密猟や違法取引と戦うだけではありません。
    保護したあとの場所をどう守るのか。
    災害が起きたとき、どう救うのか。
    地域の人たちとどう協力するのか。

    そういう現実まで含めて、亀の保護なのだと感じます。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、地域の人たちがリクガメを救うために動いたことです。

    水に流された何千匹ものリクガメを見つけ、集め、運び、戻す。
    それは簡単なことではありません。

    しかも相手は、ただの「数」ではない。
    一匹一匹が、長い時間を生きるリクガメです。

    25歳から50歳くらいの個体でも、リクガメの世界ではまだ若い個体として表現されています。人間の感覚とはまったく違う時間を生きる生き物たちが、洪水の中で必死に生き延びようとしていた。そう思うと、このニュースは単なる災害救助ではなく、亀たちの時間を守るための出来事に見えてきます。

    湯川亀吉の一言

    なるほど。

    出典

    元記事:AP News「Thousands of endangered tortoises are rescued in Madagascar after their sanctuary is flooded」

  • 【世界の亀ニュース】湖の水から世界最希少のカメを探す――シャンハイハナスッポンの環境DNA調査

    【世界の亀ニュース】湖の水から世界最希少のカメを探す――シャンハイハナスッポンの環境DNA調査

    今回のニュース

    2025年1月、世界で最も希少なカメの一つとされるシャンハイハナスッポンを探すため、現地へ持ち運べる新しい環境DNA検査が開発されたと発表されました。

    この検査は、湖や貯水池から採取した水を調べ、そこにシャンハイハナスッポンのDNAが含まれているかを現場で判定するものです。目視だけでは発見が難しい巨大な湖でも、カメが存在する可能性を調べられるようになります。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:ベトナム北部
    主な調査地:ハノイ近郊のドンモ湖など
    元記事の言語:英語
    元記事の公開時期:2025年1月15日
    情報の種類:過去アーカイブ・淡水ガメ・環境DNA・保護研究

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、シャンハイハナスッポンです。

    学名はRafetus swinhoei。中国南部とベトナムに分布していた巨大なスッポンの仲間で、英語ではSwinhoe’s Softshell TurtleやYangtze Giant Softshell Turtleなどと呼ばれています。河川や湖などの淡水域に生息し、現存する淡水ガメの中でも特に大型になる種類です。

    甲羅には一般的なカメのような硬い鱗板がなく、皮膚で覆われた平たい体をしています。

    鼻先は管のように伸び、水面へ顔全体を出さなくても呼吸しやすい形になっています。巨大な体でありながら、深い湖の濁った水中に潜れば、人間が姿を確認することは簡単ではありません。

    ニュースの要約

    環境DNAとは、生き物が水中へ残した皮膚の細胞、排泄物などに含まれるDNAのことです。

    カメの姿を直接見つけられなくても、水を採取して分析すれば、その場所に対象種が存在した可能性を調べられます。今回の検査では、対象となるDNAを増幅して検出するqPCRという技術が利用されています。

    従来の環境DNA調査では、採取した水や試料を専門的な研究施設へ運び、結果が出るまで長い時間がかかることがありました。

    今回開発された装置は現地へ持ち運ぶことができるため、研究者や保護関係者が湖の近くで検査を進められます。国外の研究施設へ試料を輸送する必要も減り、調査結果を早く保護活動へ反映できる可能性があります。

    開発チームは、約1,260ヘクタールに及ぶベトナムのドンモ湖で検査を実施し、非常に広い水域でもシャンハイハナスッポンのDNAを検出できることを示しました。

    複数地点から採取した水をまとめて調べる方法も検討され、限られた検査回数で広い範囲を調査するための工夫が行われています。

    なぜこのカメを探しているのか

    シャンハイハナスッポンは、絶滅寸前まで減少しています。

    2025年の発表時点では、中国の蘇州動物園で飼育されている高齢の雄と、ベトナムの湖に存在すると考えられていた野生個体が紹介されていました。新たな個体、特に繁殖可能な雌を見つけられなければ、種を将来へ残すことは極めて難しい状況です。

    その後も状況は非常に厳しく、2026年の保全情報では、確実に生存が確認されている個体は中国で飼育されている雄一匹とされています。

    一方、ベトナム北部では未確認個体の存在を示す情報や、別の湖で撮影された候補個体も報告されており、保護団体は環境DNA、聞き取り調査、ドローン、カメラなどを使った捜索を続けています。

    姿が見えなくても、存在を探せる

    巨大なカメが湖にいるなら、簡単に見つけられそうにも思えます。

    でも、湖は広く、水は濁り、カメは長時間水中へ潜っています。

    湖面に鼻先だけを出して呼吸し、再び水中へ沈んでしまえば、遠くから見つけるのはほとんど不可能です。

    環境DNA調査の重要なところは、カメそのものを目撃できなくても、そのカメが水中へ残した痕跡を探せることです。

    一滴の水の中に、まだ人間が出会っていない一匹の存在が残されているかもしれません。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、一匹を探すために、巨大な湖そのものを調べていることです。

    普通の生物調査では、ある程度まとまった個体数がいることを前提にする場合があります。

    でも、シャンハイハナスッポンの場合は違います。

    探しているのは、群れではない。
    何十匹でもない。

    世界のどこかに残っているかもしれない、たった一匹です。

    その一匹が雄なのか雌なのかによって、種の未来が変わる可能性があります。

    だから研究者たちは、水をすくい、その中に残された目に見えない痕跡を調べています。

    湯川亀吉の一言

    そういえば、4年前にホアンキエム湖に行ったな!!

    でかいシャンハイハナスッポンのオブジェを見ましたよ🐢

    写真撮っておけばよかった。

    行商のお姉さんから買ったライチが超美味しかった。

    出典

    Wildlife Conservation Society
    「Scientists Develop First Portable eDNA Test Which Is Able to Detect One of the Rarest of the Rare Wildlife Species, a Swinhoe’s Softshell Turtle, in a Massive Body of Water」

    The Reptile Database
    「Rafetus swinhoei」

    Turtle Survival Alliance
    「Swinhoe’s Giant Softshell Turtle」

  • 【世界の亀ニュース】一軒の家から10,976匹 密輸から救われたホウシャガメを、もう一度マダガスカルの森へ

    【世界の亀ニュース】一軒の家から10,976匹 密輸から救われたホウシャガメを、もう一度マダガスカルの森へ

    今回は、マダガスカルにしか生息しない美しいリクガメ、ホウシャガメをめぐる大規模な救護と野生復帰のニュースを紹介します。

    2018年4月。

    マダガスカル南西部のトゥリアラで、一軒の民家から発見されたホウシャガメは、

    10,976匹。

    数十匹でも、

    数百匹でもありません。

    一万匹を超えるカメが、一つの建物に集められていました。

    そこから始まったのは、

    カメを押収して終わる保護活動ではありませんでした。

    救護する。

    健康を取り戻す。

    何年も育てる。

    野生へ戻せる個体を選ぶ。

    帰る森を確保する。

    地域住民と一緒にその場所を守る。

    そして、

    もう一度、人間の手から離す。

    長い時間をかけた「密輸から野生復帰へ」の計画です。

    今回のニュース

    2018年4月10日、マダガスカル南西部の都市トゥリアラで、警察と環境当局が一軒の住宅を捜索しました。

    そこで確認されたのが、

    10,976匹のホウシャガメでした。

    発見されたカメの多くは若い個体で、十分な水や餌を得られない状態に置かれていました。

    Turtle Survival Alliance(TSA)を中心に、マダガスカル国内外の動物園、獣医師、飼育スタッフなどが救護に参加。

    生き残った個体は、トゥリアラから北へ約29km離れたIfatyの保護施設へ移され、健康確認や水分補給、治療、個体識別などが進められました。

    この事件は、

    TSAがそれまで経験した中でも最大規模のリクガメ救護の一つとなりました。

    どこの国・地域の話か

    国:マダガスカル
    最初の大量押収:トゥリアラ周辺
    発見日:2018年4月10日
    対象種:ホウシャガメ
    学名:Astrochelys radiata
    英名:Radiated Tortoise
    情報の種類:リクガメ・密輸・違法取引・救護・野生復帰・地域保全

    ホウシャガメは、マダガスカル南部から南西部にのみ自然分布する固有種です。

    乾燥した低木林、トゲの多いスパイニーフォレストなどに暮らしています。

    登場する亀

    今回の主役は、

    ホウシャガメ

    学名は、

    Astrochelys radiata

    英語ではRadiated Tortoiseと呼ばれます。

    京都市動物園でも「ホウシャガメ」という和名が使われており、最大甲長は約40cmと紹介されています。

    名前の由来は、

    甲羅です。

    黒っぽい甲板の中心から、

    黄色い線が外側へ向かって伸びる。

    まるで光が放射しているように見えます。

    Smithsonian’s National Zooは、この放射模様について、インドホシガメなど他の星模様を持つリクガメよりも細かく複雑であることを特徴として挙げています。

    世界で最も美しいカメの一つ

    ホウシャガメは、その甲羅の美しさから、

    「世界で最も美しいリクガメの一つ」

    として紹介されることがあります。

    美しい。

    珍しい。

    欲しい。

    その評価が、

    このカメを追い詰める理由にもなりました。

    野生個体は国際的なペット取引のために捕獲され、さらにマダガスカル国内では食用目的の捕獲も続いてきました。

    生息地そのものも、農地化や炭づくりなどによって失われています。

    昔は「触ってはいけないカメ」だった

    マダガスカル南部の一部地域には、

    ホウシャガメを傷つけたり食べたりすることを禁じる伝統的な**「fady(ファディ)」**があります。

    祖先と結び付けて考えられる地域もあり、

    長い間、

    文化そのものがホウシャガメを守ってきました。

    しかし、

    地域外から人が入る。

    価値の高いカメとして売買される。

    伝統的な禁忌を共有しない人が捕る。

    その結果、

    文化だけでは個体群を守れなくなっていきました。

    2018年4月、一軒の家に10,976匹

    そして2018年4月10日。

    トゥリアラの住宅で、

    10,976匹。

    とてつもない数のホウシャガメが発見されました。

    普通に考えれば、

    一日や二日で集められる数ではありません。

    一匹。

    また一匹。

    別の場所からも一匹。

    それが積み重なって、

    一万匹を超えた。

    その数だけ、

    野生の森からホウシャガメが消えていたことになります。

    そして半年後、また数千匹

    さらに同じ2018年10月にも、大規模な押収が発生しました。

    TSAによると、2018年だけで保護下へ入ったホウシャガメは17,000匹を超えました。

    つまり、

    4月の事件は、

    一度だけ起きた異常な出来事ではありませんでした。

    それだけ大規模な捕獲と違法取引が、

    このカメを取り巻いていたということです。

    保護した瞬間から、別の問題が始まる

    密輸されるカメを見つけた。

    押収した。

    助かった。

    そう思いたくなります。

    でも、

    一万匹を保護した瞬間、

    今度は人間が一万匹を生かさなければなりません。

    水。

    餌。

    飼育場所。

    病気の確認。

    衛生管理。

    個体識別。

    獣医療。

    スタッフ。

    そして、

    何年間も続く費用。

    TSAはマダガスカルに複数の保全施設を整備し、押収されたホウシャガメの大規模な飼育体制を作りました。現在のTSAのマダガスカル事業でも、違法取引から救出したホウシャガメの救護、長期飼育、野生復帰が主要活動になっています。

    でも、ずっと飼うことが目的ではない

    何万匹も保護している。

    だったら、

    大きな保護施設を作って、

    そこで一生飼えばいい。

    そう考えることもできます。

    でも、

    ホウシャガメは本来、

    飼育施設にいる動物ではありません。

    マダガスカル南部の森を歩くリクガメです。

    そこでTSAは、

    Confiscation to Reintroduction Strategy

    という考え方を進めました。

    日本語にすると、

    「押収から再導入へ」。

    密輸から救出したカメを、

    可能な限り、

    もう一度野生へ戻していく計画です。

    ただ森へ置けばいいわけではない

    一度長期間飼育したカメを、

    空いている森へ置けばいい。

    そんな単純な話でもありません。

    その地域に病気を持ち込まないか。

    健康状態は十分か。

    野生で餌を取れるか。

    その森に十分な食物があるか。

    再び密猟されないか。

    地域の人々が保護に協力してくれるか。

    一つずつ確認する必要があります。

    そのため、放流候補となった個体には獣医師による健康検査が行われています。

    感染症検査も含め、

    「放しても大丈夫なカメか」

    を確認します。

    2021年、最初の1,000匹

    そして2021年。

    大きな転換点が来ます。

    TSAは、

    1,000匹のホウシャガメを、マダガスカル南部の地域住民が保護する森林へ移しました。

    違法取引から救出され、

    何年間も人間の管理下で暮らしてきたカメたちです。

    ただし、

    いきなり森全体へ自由にしたわけではありません。

    まず約6ヘクタールの順応エリアに入り、

    その土地で生活する期間が設けられました。

    そして2022年3月、

    囲いが開かれ、

    カメたちは周囲のスパイニーフォレストへ自由に移動できるようになりました。

    「ソフトリリース」という考え方

    これは、

    soft release(ソフトリリース)

    と呼ばれる方法です。

    人間の管理下から、

    いきなり完全な野生へ移すのではない。

    まず、

    これから暮らす場所に慣れてもらう。

    気温。

    植物。

    地面。

    匂い。

    雨。

    その土地そのものを覚える。

    そして、

    囲いを開ける。

    カメは、

    自分の意思で外へ歩いていきます。

    カメに発信器を付ける

    放したら、

    それで終わりではありません。

    再導入個体の一部には、

    VHF無線発信器やGPSロガーが装着されました。

    どこへ歩くのか。

    どのくらい移動するのか。

    生き残っているのか。

    どの環境を利用するのか。

    そうした情報を調べます。

    人間の視界から消える。

    でも、

    完全には見失わない。

    それが、

    次に何千匹ものカメを戻すためのデータになります。

    2024年、さらに1,000匹

    取り組みは、

    最初の1,000匹で終わりませんでした。

    2024年5月23日。

    World Turtle Day。

    TSAは、

    さらに1,000匹のホウシャガメを、マダガスカル南西部の地域保護林へ放しました。

    この個体たちも、放流前に健康評価を受け、

    6か月間の隔離期間を経ています。

    2018年に押収された膨大な数のカメたちが、

    少しずつ、

    森へ帰り始めています。

    最終目標は2万匹以上

    TSAは、

    保護下にいるホウシャガメのうち、

    2万匹以上を将来的に野生へ戻す

    という大規模な計画を掲げています。

    2万匹。

    想像するのも難しい数です。

    でも、

    そもそもそれほど多くのカメが、

    人間によって森から持ち出されました。

    だから、

    今度は逆の流れを作ろうとしています。

    森から人間へ。

    ではなく、

    人間から森へ。

    カメだけ戻しても意味がない

    ただし、

    森が安全でなければ、

    2万匹戻しても意味がありません。

    もう一度捕られるかもしれない。

    生息地が失われるかもしれない。

    だから再導入地は、

    地域住民自身が管理する保護林

    として整備されています。

    カメを運ぶだけではない。

    森を守る。

    地域住民と話す。

    監視する人を育てる。

    地域の暮らしと保全を両立させる。

    そこまで作ってから、

    カメを戻します。

    人間がいるから減った。でも、人間がいるから戻せる

    今回のニュースには、

    少し不思議なところがあります。

    ホウシャガメを減らした大きな原因の一つは、

    人間です。

    人間が捕った。

    人間が売った。

    人間が森を変えた。

    でも、

    今ホウシャガメを戻しているのも、

    人間です。

    警察。

    獣医師。

    飼育スタッフ。

    研究者。

    地域住民。

    政府。

    動物園。

    世界中の人が関わっています。

    人間が原因だから、

    人間は何もしないほうがいい。

    ではない。

    壊した側だからこそ、戻す仕事もできる。

    そんな例だと思います。

    京都市動物園にも「密輸から救われたホウシャガメ」がいる

    この話は、

    遠いマダガスカルだけの話でもありません。

    京都市動物園が飼育しているホウシャガメの中にも、

    日本へ密輸される途中、空港で摘発されて保護された個体がいます。

    日本にも、

    違法取引の終着点になった歴史があります。

    「珍しいカメを飼いたい」

    という需要は、

    地球の反対側の野生個体群につながっています。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番注目したいのは、

    保護されたカメを、ずっと「保護されたカメ」のままにしないことです。

    10,976匹。

    押収する。

    助ける。

    それだけでも、

    とてつもない仕事です。

    でも、

    そこで終わらなかった。

    何年も育てる。

    健康を戻す。

    森を探す。

    地域住民と一緒に守る仕組みを作る。

    順応させる。

    囲いを開ける。

    そして、

    一匹ずつ歩いていく。

    人間から遠ざかっていく。

    僕は、

    そこがすごくいいと思います。

    カメを救った証拠は、

    人間の飼育施設に何万匹いることではない。

    人間がどこにいるのか分からなくなるくらい、森へ散らばっていくこと。

    それが最終的な成功なんじゃないかな。

    湯川亀吉の一言

    人間はクズってことだな。
    密猟するやつも、保護するやつも、同じクズだ。

    出典

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「Radiated Tortoise Press Release 2018」
    2018年4月の10,976匹の大量押収と救護活動について。
    URL:
    https://shop.turtlesurvival.org/blogs/news/radiated-tortoise-press-release-2018/

    San Diego Zoo Wildlife Alliance
    「Turtle Survival Alliance Leads Rescue Mission to Save 10,976 Critically Endangered Radiated Tortoises Discovered in Massive Poaching Bust」
    2018年4月19日。
    URL:
    https://sandiegozoowildlifealliance.org/story-hub/2018/04/19/turtle-survival-alliance-leads-rescue-mission-to-save-10976-critically

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「1,000 Radiated Tortoises Return to the Wild」
    2021年8月9日。最初の大規模野生復帰計画について。
    URL:
    https://shop.turtlesurvival.org/blogs/news/1000-radiated-tortoises-return-to-the-wild

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「1,000 Radiated Tortoises Released on World Turtle Day®」
    2024年6月4日。2回目の1,000匹規模の放流について。
    URL:
    https://turtlesurvival.org/1000-radiated-tortoises-released-on-world-turtle-day/

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「Species Spotlight: Radiated Tortoise」
    大量押収、保全繁殖、野生復帰について。
    URL:
    https://turtlesurvival.org/turtleoftheweek-radiated-tortoise/

    Smithsonian’s National Zoo and Conservation Biology Institute
    「Radiated tortoise」
    形態、生息地、食性、保全状況について。
    URL:
    https://nationalzoo.si.edu/animals/radiated-tortoise

    京都市動物園
    「ホウシャガメ/Radiated Tortoise」
    和名、分布、形態について。
    URL:
    https://zoo.city.kyoto.lg.jp/zoo/animals/g_radiata