
今回は、南米コロンビアにしか生息していない淡水ガメ、
マグダレナヨコクビガメ
を紹介します。
学名は、
Podocnemis lewyana。
英語では、
Magdalena River Turtle
と呼ばれています。
2026年。
このカメが産卵するシヌー川で、大規模な洪水が発生しました。
本来なら、
水位が下がる。
砂州が現れる。
雌ガメが上陸する。
穴を掘る。
卵を産む。
そんな季節でした。
ところが今年は、
卵を産む砂浜そのものが水の下へ消えてしまった。
それでも地域の人たちは、水位の変化を見ながら残された砂州を歩き、カメの巣を探し続けています。
今回のニュース
2026年6月29日、Turtle Survival Alliance(TSA)は、コロンビア北西部のシヌー川で行われているマグダレナヨコクビガメの保全活動について報告しました。
2026年初頭、北半球から南下した寒冷前線の影響によってコロンビア・カリブ地域で激しい雨が降り、大規模な洪水が発生。
さらにTSAによると、Urrá水力発電ダムの運用に伴うシヌー川流量の異常な増加が洪水を悪化させたとされています。
コルドバ県では10を超える自治体が被害を受けました。
そして、
マグダレナヨコクビガメの重要な繁殖地である**Cotocá Arriba(コトカ・アリバ)**も、大きな被害を受けました。
どこの国・地域の話か
国:コロンビア
県:コルドバ県
地域:Cotocá Arriba
河川:シヌー川
発表:2026年6月29日
対象種:マグダレナヨコクビガメ
学名:Podocnemis lewyana
情報の種類:淡水ガメ・産卵・洪水・巣の保護・地域住民による保全
本種はコロンビア固有種です。
マグダレナ川水系とシヌー川水系を中心に分布し、ナンベイヨコクビガメ属の中でも、アンデス山脈の西側に自然分布する唯一の種類とされています。
日本語では「マグダレナヨコクビガメ」という名称が使われることがあります。
登場する亀
マグダレナヨコクビガメは、
ナンベイヨコクビガメ科の中大型淡水ガメです。
2026年に公開されたIUCN/SSC Tortoise and Freshwater Turtle Specialist Groupの最新種アカウントでは、最大直線甲長は、
雌:約50cm
雄:約42.4cm
とされています。
そして名前の通り、
ヨコクビガメ。
一般的な潜頸類のように首を真っすぐ甲羅の中へ引き込むのではなく、首を横方向へ曲げて収納します。
雌はおよそ5〜7年、雄は3〜4年ほどで性成熟すると考えられています。
世代時間は約10〜12年。
つまり、一度個体群が大きく減ると、
元の数まで戻るのに非常に長い時間がかかるカメです。
年に2回、砂浜へ上がる
マグダレナヨコクビガメは、
一年に二つの主要な繁殖期があります。
12月〜2月。
そして、
7月〜8月。
川の水位が下がると、
普段は水中に隠れている砂州や砂浜が姿を現します。
雌ガメはそこへ上がり、
穴を掘って卵を産みます。
通常は一度に12〜22個程度。
大型の雌では、
最大32個ほどの卵を産むことがあります。
孵化までは平均約61日。
生まれたばかりの子ガメの甲長は、わずか4〜5cmほどです。
カメの巣に必要なのは「水が少ない時間」
ここが今回のニュースを理解するうえで重要です。
川に暮らすカメだから、
水が多いほうが良い。
とは限りません。
成体にとって川は生活場所です。
でも、
卵には水が多すぎると困る。
川の水位が下がる。
砂浜が出る。
雌が産卵する。
約2か月、
卵が土の中で発生する。
子ガメが孵化する。
川へ向かう。
この時間が必要です。
ところが途中で川が増水すれば、
巣が水没します。
卵は正常に発生できなくなり、
孵化できない可能性が高くなります。
2026年、その砂浜が消えた
本来この時期のシヌー川では、
水位が低くなり、
産卵に使える砂浜が現れます。
ところが2026年。
豪雨と河川の増水によって、
その砂浜が水没しました。
川岸だけではありません。
Cotocá Arribaでは、
農作物。
道路。
住宅。
人間の暮らしそのものも洪水の被害を受けました。
つまり、
カメを守っている人たち自身も、
被災者でした。
それでも川へ行く
それでも、
地域住民はカメの巣を探しました。
水が少し引く。
砂浜が少しだけ現れる。
そこへ行く。
足跡を見る。
砂を見る。
巣を探す。
また水が来る前に、
卵を救い出す。
TSAの報告では、住民たちは洪水の波の合間を縫って砂州を巡回したとされています。
卵は「向きを変えない」
巣を見つけると、
すぐ掘り出せばいい。
というわけでもありません。
カメの卵は、
扱い方にも注意が必要です。
住民たちは慎重に卵を掘り出し、
向きを回転させないようにして
運搬用の容器へ入れます。
その後、
安全な施設へ運び、
人工的な環境で孵化まで管理します。
つまり、
自然の巣を別の場所へ移して、
洪水より先に卵を避難させるわけです。
普通なら140巣
数字を見ると、
2026年の異常さが分かります。
通常の繁殖シーズン。
地域住民が救出する巣は、
平均して、
約140巣。
ところが、
2026年6月29日の報告時点で救出できたのは、
5巣。
140。
そして、
5。
産卵できる砂浜がどれほど失われたのかが分かります。
でも、その5巣から孵化が始まった
そして、
小さなニュースがあります。
救出された5巣の卵から、
子ガメが孵化し始めました。
5巣しか救えなかった。
そう考えることもできます。
でも、
もし誰も砂州へ行かなければ、
その5巣も水の下へ消えていたかもしれません。
今年生まれるはずだった一世代の一部が、
人間の手によって洪水を越えました。
この活動は2013年から続いている
今回だけ、
突然カメを助け始めたわけではありません。
Cotocá Arribaの地域住民は、
2013年から
WCS ColombiaやTurtle Survival Allianceと協力して、
シヌー川でカメの巣を守っています。
最初の年に保護した巣は、
9巣。
そこから活動は拡大。
現在では、
15か所の産卵地を監視しています。
そしてこれまでに、
1,000巣以上を保護。
そこから生まれた、
16,000匹以上の子ガメをシヌー川へ放してきました。
9巣から始まった
僕は、
この数字も好きです。
最初から、
巨大な保全プロジェクトだったわけではありません。
2013年。
9巣。
そこから、
毎年川を見る。
雌が来る。
巣を探す。
卵を守る。
子ガメを放す。
また次の年。
それを繰り返す。
13年。
その結果が、
1,000巣。
16,000匹です。
「Sinú Turtles」
Cotocá Arribaで行われているこの取り組みは、
Sinú Turtles
と呼ばれています。
主役は、
地域住民です。
研究者だけが川へ来て調査するのではありません。
川の水位を普段から見ている人。
砂州がどこに出るか知っている人。
カメがいつ来るか知っている人。
その川で暮らしてきた人たち自身が、
巣を探します。
これは、
かなり強い保全方法だと思います。
川にはダムがある
さらに、
シヌー川のカメには難しい問題があります。
上流には、
Urrá水力発電ダム
があります。
ダムは、
人間に電力を供給します。
しかし、
河川の水位変化にも影響します。
WCS Colombiaは、人工的な水位変動によってマグダレナヨコクビガメの巣が浸水する危険性が高まるため、地域住民が毎年産卵地を監視し、必要なら卵を人工孵化施設へ移していると説明しています。
つまり、
昔なら自然の季節変化に合わせていた産卵が、
人間による河川管理の影響も受けるようになっています。
洪水だけが敵ではない
マグダレナヨコクビガメは、
IUCNレッドリストで、
Critically Endangered(CR/深刻な危機)
に分類されています。
CITESでは、
ナンベイヨコクビガメ属として附属書IIに掲載されています。
大きな脅威の一つが、
捕獲です。
成体が食用として捕られる。
卵も採取される。
2024年に発表された12年間の調査では、調査個体群で雌と幼体の割合が時間とともに減少し、残された雌も小型化する傾向が確認されました。
研究者たちは、捕獲圧によって大型の成体雌が選択的に失われている可能性を指摘しています。
雌が減るということ
これは、
カメでは特に大きな問題です。
一匹の大きな雌が、
毎年何十個もの卵を産む。
その雌が捕られる。
すると、
失われるのは一匹だけではありません。
その先、
何年にもわたって産まれるはずだった卵も、
同時に失われます。
しかもマグダレナヨコクビガメの世代時間は、
10〜12年ほど。
大きな雌を失った個体群が、
すぐ次の世代で元に戻ることはできません。
推定16,000〜28,000匹
Turtle Survival Allianceは現在の野生個体数を、
約16,000〜28,000匹
と推定しています。
数字だけを見ると、
「まだたくさんいる」
と思うかもしれません。
でも、
個体数傾向は減少。
そして分布は、
ほぼコロンビアの限られた河川水系だけです。
さらに、
すべての個体が同じではありません。
2026年の研究では、シヌー川とマグダレナ川などの個体群には明確な遺伝的違いがあり、少なくとも3つの異なる保全管理単位として考える必要があることが示されています。
つまり、
別の川にたくさんいるから、
一つの川の個体群が消えても大丈夫、
という話ではありません。
このカメは種を運ぶ
マグダレナヨコクビガメは、
主に植物を食べます。
水生植物。
陸上植物。
果実。
そして、
食べた果実の種子を別の場所へ運びます。
2026年の種アカウントでは、本種が種子散布や発芽を助け、河川生態系の栄養循環にも関わっている可能性が指摘されています。
カメが一匹減る。
それだけでは、
川の変化は見えないかもしれません。
でも、
何千匹、
何万匹と減れば、
植物の種が運ばれる方法まで変わる可能性があります。
16,000匹を「放した」という数字の意味
これまでに放された子ガメは、
16,000匹以上。
ものすごい数字です。
でも、
16,000匹を放せば、
16,000匹の成体になるわけではありません。
子ガメは小さい。
魚。
鳥。
その他の捕食者。
洪水。
乾燥。
さまざまな危険があります。
だから、
たくさん生まれる。
たくさん死ぬ。
その中から、
ごく一部が成体になる。
それが、
カメの自然な生き方です。
保全活動がしていることは、
子ガメを永久に安全な場所で飼うことではありません。
「本来川へ入るはずだった子ガメが、卵の段階で全滅する」という異常を減らしている。
そう考えるほうが近いと思います。
2026年の5巣
だから、
今回の5巣も重要です。
普通なら140巣。
今年は5巣。
数字だけなら、
失敗に見えます。
でも、
洪水の中で、
住宅も農地も被害を受けている人たちが、
それでも砂浜へ行った。
そして、
5つを見つけた。
卵を運んだ。
孵化させた。
その子ガメが、
もうすぐ川へ戻る。
保全の成果は、
毎年右肩上がりになるとは限らないんですね。
自然条件が悪い年もあります。
亀好きとして注目したいポイント
今回のニュースで僕が一番注目したいのは、
「カメを守っている人も、同じ洪水の中にいる」
というところです。
外から来た人が、
カメだけを助けているわけじゃない。
家が水に浸かる。
作物が駄目になる。
道路が通れない。
自分たちの生活にも、
大きな問題が起きている。
それでも、
川を見る。
砂浜が出たら、
カメの巣を探す。
なぜそこまでやるのか。
Cotocá Arribaで巣の救出に参加するJuan Negretteさんは、
このカメを、
シヌー川と地域を象徴する存在
として語っています。
カメを守ることと、
自分たちの川を守ることが、
分かれていないんだと思います。
湯川亀吉の一言
亀ってかっこいいよね。
出典
Turtle Survival Alliance
「Protecting Magdalena River Turtle Nests as Waters Rise」
2026年6月29日。洪水、5巣の救出、2013年からの地域保全、1,000巣以上・16,000匹以上の実績について。
TSAの記事を読む
WCS Colombia
「Magdalena river turtle」
Sinú Turtlesプロジェクト、生態、産卵地の洪水リスク、人工孵化について。
WCS Colombiaの種紹介を見る
IUCN/SSC Tortoise and Freshwater Turtle Specialist Group
「Podocnemis lewyana – Magdalena River Turtle」
2026年8月17日公開。体格、繁殖、生態、分布、遺伝的構造、保全状況についての最新種アカウント。
2026年の種アカウントを見る
Turtle Survival Alliance
「Magdalena River Turtle」
推定野生個体数、主要な脅威、現在の保全活動について。
TSAの種紹介を見る
Environmental Monitoring and Assessment
「Lessons learned during a 12-year monitoring project with the endangered Magdalena River turtle」
2024年8月30日。12年間の調査から、成体雌・幼体の減少と捕獲圧との関係を分析した研究。
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