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  • 【世界の亀ニュース】100年ぶりに再発見されたカメを「未来の湿地」へ 気候変動から救うオーストラリアの移住計画

    【世界の亀ニュース】100年ぶりに再発見されたカメを「未来の湿地」へ 気候変動から救うオーストラリアの移住計画

    今回は、オーストラリア西部に生息する、世界でも特に希少な淡水ガメの保全活動を紹介します。

    学名は、

    Pseudemydura umbrina

    日本の法令では、

    オーストラリアヌマガメモドキ

    という和名が使われています。

    一方、日本の爬虫類関連資料などでは、

    クビカシゲガメ

    という名前も使われています。

    このカメは、

    一度は絶滅したと思われました。

    再発見された。

    繁殖に成功した。

    1,000匹以上を野生へ戻した。

    普通なら、

    ここまででも大成功です。

    でも、

    問題が一つ残っていました。

    カメが暮らしてきた湿地そのものが、だんだん乾いている。

    そこで研究者たちは、

    過去にこのカメが生息していなかった、

    もっと南の、

    もっと涼しく、

    もっと長く水が残る湿地へ、

    カメを移し始めました。

    今回のニュース

    大きな転換点の一つが、2016年です。

    西オーストラリア州政府、Perth Zoo、University of Western Australiaなどの保全チームは、飼育下で繁殖した24匹のオーストラリアヌマガメモドキを、西オーストラリア州南西部の新しい候補地へ移しました。

    重要なのは、

    そこが単なる「別の放流場所」ではなかったことです。

    本来このカメが知られていた歴史的な分布域よりも、

    さらに南側。

    将来の気候変動を考え、

    より涼しく、

    より湿潤な環境を探して選ばれました。

    この方法は、

    assisted colonisation

    と呼ばれます。

    日本語なら、

    「人為的移住」

    「保全的移住」

    あるいは、

    「分布域外への計画的移送」

    に近い考え方です。

    どこの国・地域の話か

    国:オーストラリア
    州:西オーストラリア州
    従来の主な生息地域:パース近郊・スワン沿岸平野
    新たな移住候補地:西オーストラリア州南西部
    対象種:オーストラリアヌマガメモドキ
    学名:Pseudemydura umbrina
    英名:Western Swamp Tortoise / Western Swamp Turtle
    情報の種類:淡水ガメ・飼育下繁殖・野生復帰・気候変動・保全的移住

    現在、オーストラリア政府も本種の重要な保全策として、気候変動下でも生息可能な場所へ新しい個体群を作ることを挙げています。

    登場する亀

    オーストラリアヌマガメモドキは、

    ヘビクビガメ科に属する非常に小型の淡水ガメです。

    成体でも甲長はおよそ11〜13cm程度。

    体重は300〜450gほど。

    首は短く、

    頭頂部には大きな一枚の鱗板があります。

    足には水かきがあり、

    各足に5本の爪を持ちます。

    見た目は、

    派手ではありません。

    巨大でもない。

    奇抜な模様もない。

    茶色。

    黒。

    泥や湿地に溶け込むような小さなカメです。

    でも、

    進化的には非常に独特な存在です。

    Pseudemydura属で現在生きているのは、この一種だけ。

    オーストラリア政府の回復計画では、近縁のカメとは大きく異なる遺存的な系統であることが紹介されています。

    1839年、一匹だけ見つかった

    このカメの科学的な物語は、

    1839年に始まります。

    オーストリア人の博物学者Ludwig Preissが、西オーストラリアで一匹の標本を採集。

    その標本は、

    ウィーン自然史博物館へ送られました。

    しかし、

    その後が続きません。

    一匹も見つからない。

    何十年経っても、

    見つからない。

    1901年、

    博物館に保存されていた標本をもとに、

    Pseudemydura umbrina

    として正式に記載されます。

    でも、

    生きたカメが見つからない状態は続きました。

    100年以上、誰も見つけられなかった

    1839年から、

    1953年まで。

    114年間。

    新しい標本は確認されませんでした。

    そのため、

    このカメは絶滅したのではないかと考えられていました。

    そして1953年。

    物語が突然動きます。

    見つけたのは少年だった

    西オーストラリア州Upper Swan。

    そこで一匹の小さなカメを見つけたのは、

    Robert Boydという少年でした。

    彼はそのカメを、

    Western Australian Naturalists’ Clubの野生動物展示会へ持っていきます。

    そこで、

    「これは普通のカメではない」

    と気付かれました。

    100年以上、

    科学者にも見つからなかったカメ。

    その再発見のきっかけを作ったのは、

    一人の少年でした。

    探してみると、二つの小さな個体群があった

    再発見後、

    周辺で調査が行われます。

    そして、

    パース北東部に、

    二つの小さな生息地が見つかりました。

    現在の、

    Ellen Brook Nature Reserve。

    Twin Swamps Nature Reserve。

    この二つです。

    1962年には、

    残された生息環境を守るため、

    自然保護区が設けられました。

    一度は絶滅したと思われたカメに、

    ようやく保護区ができました。

    でも、生息地そのものが消えていった

    問題は、

    カメを捕る人だけではありませんでした。

    このカメが暮らしていたスワンバレー周辺は、

    パース都市圏に近い場所です。

    農業。

    宅地開発。

    道路。

    粘土採掘。

    排水。

    かつて湿地だった土地の多くが、

    別の用途へ変わっていきました。

    オーストラリア政府によると、本来利用していた粘土質の湿地の大部分は、現在では都市化・農業利用・粘土採掘などによって失われています。

    1980年代、30匹未満

    保護区まで作った。

    それでも、

    減少は止まりませんでした。

    1980年代。

    野生に残った個体は、

    30匹未満。

    Perth Zooは、

    この時期を本種が絶滅寸前まで追い詰められた時代として紹介しています。

    100年ぶりに見つかった。

    そのわずか30年後、

    今度は本当に消えそうになりました。

    1989年、動物園で繁殖を始める

    そこで、

    Perth Zooを中心とした飼育下繁殖プログラムが本格化します。

    開始は1989年。

    親ガメを繁殖させる。

    卵を見つける。

    掘り出す。

    孵卵器へ移す。

    孵化させる。

    子ガメを育てる。

    そして、

    十分に成長してから野生へ戻す。

    現在、Perth Zooでは、子ガメがおよそ100g、約3歳になった頃を一つの目安として野生復帰させています。

    1,300匹以上が生まれた

    その積み重ねは、

    大きな数字になりました。

    Perth Zooによると、

    1989年以降、

    1,300匹以上のオーストラリアヌマガメモドキが同園で繁殖。

    2024年6月時点で、

    そのうち1,125匹が野生環境へ放されています。

    30匹未満まで減ったカメです。

    そこから、

    1,000匹を超えるカメを、

    再び自然へ送り出せるところまで来ました。

    だったら、もう安心?

    ここまで読むと、

    保全は成功したように見えます。

    でも、

    新しい問題が出てきました。

    雨が減っている。

    このカメは、

    一年中水の中にいるわけではありません。

    冬から春。

    雨によって一時的な湿地に水がたまる。

    カメはそこで活動します。

    餌を食べる。

    成長する。

    繁殖に必要なエネルギーを蓄える。

    そして夏。

    湿地が乾くと、

    地面の穴や深い落ち葉の中へ入り、

    活動を抑えて暑い時期を乗り切ります。

    つまり、

    一定期間、湿地に水が残ること

    が非常に重要です。

    ところが、水のある期間が短くなっている

    気候が暖かく、

    乾燥するようになる。

    雨が減る。

    湿地が早く乾く。

    すると、

    カメが水中で餌を取れる期間が短くなります。

    昔は半年近く使えた湿地でも、

    水が残る期間が数か月まで短くなる可能性がある。

    そうなると、

    カメは十分に食べられません。

    成長できない。

    繁殖できない。

    つまり、

    保護区そのものは残っていても、カメが暮らせなくなる

    可能性があります。

    そこで発想を逆にした

    普通の保全なら、

    「本来の生息地を守ろう」

    と考えます。

    それはもちろん重要です。

    でも、

    本来の場所の気候そのものが変わってしまったら?

    そこで研究者たちは、

    違う問いを立てました。

    カメを守る場所を、もっと南へ作れないか。

    西オーストラリア州南西部。

    パース周辺より、

    涼しい。

    雨が多い。

    湿地に長く水が残る。

    将来、

    現在の生息地が暑く乾燥したとき、

    そこがカメの避難場所になる可能性があります。

    2016年、歴史的分布域の外へ

    2016年。

    24匹の飼育下繁殖個体が、

    Meerup周辺とAugusta東部の保全地域へ試験的に放されました。

    西オーストラリア州政府は当時、この試みを、

    将来の気候変動に備えて脊椎動物を歴史的分布域外へ移す試み

    として紹介しました。

    カメを、

    「昔いた場所」

    へ戻すのではない。

    「未来でも生きられそうな場所」へ移す。

    保全の考え方そのものが変わっています。

    「カメがいなかった場所へ放していいのか」

    でも、

    これは簡単な問題ではありません。

    ある生き物を、

    本来いなかった地域へ持ち込む。

    人間は過去、

    これを何度もやっています。

    そして、

    外来生物問題を起こしてきました。

    だから、

    assisted colonisationには議論があります。

    移したカメが、

    新しい生態系へ悪影響を与えないか。

    他の希少種と競合しないか。

    病気を持ち込まないか。

    新しい場所で本当に繁殖できるか。

    気候だけでは決められません。

    コンピューターまで使って「未来の湿地」を探す

    そこで研究者たちは、

    現在の生息地だけを見ません。

    気温。

    降水量。

    湿地に水が残る期間。

    カメの活動。

    卵の発生。

    将来の気候予測。

    さまざまな条件をモデル化し、

    これから先もカメが暮らせそうな場所

    を探しました。

    University of Western Australiaの研究者たちは、

    この理想的な場所を、

    “Goldilocks wetlands”

    と表現しています。

    暑すぎない。

    寒すぎない。

    乾きすぎない。

    カメにとって、

    「ちょうどいい湿地」です。

    2021年、さらに73匹

    試験は続きます。

    2021年には、

    Perth Zooで繁殖した73匹が、

    西オーストラリア州南西部の二つの場所へ放されました。

    Augusta東部へ16匹。

    Scott National Parkへ57匹。

    このうち48匹には、

    無線発信器やデータロガーが装着されました。

    見るのは、

    単に生死だけではありません。

    どこへ移動するか。

    いつ活動するか。

    体温はどう変化するか。

    どれくらい成長するか。

    新しい環境で、

    カメが本当に「普通に暮らせるか」を調べます。

    2022年、191匹を一度に放流

    翌2022年。

    さらに大きな放流が行われました。

    合計、

    191匹。

    44匹がScott National Park。

    147匹がMoore River Nature Reserve。

    飼育下繁殖プログラム開始以来、

    当時最大規模の放流でした。

    Scott National Parkの個体群は特に、

    気候変動への避難先として新しい個体群を作れるか

    を確かめる重要な試みになっています。

    2024年、さらに20匹

    保全は現在も続いています。

    2024年には、

    Perth ZooとAdelaide Zooで育った20匹が、

    Moore River近郊へ放されました。

    年齢は、

    2歳から13歳。

    放流前には無線発信器が取り付けられ、

    既にその場所で暮らしている個体と行動を比較する研究も始まりました。

    同発表時点で、

    Perth Zooでは1,300匹以上が繁殖し、

    1,145匹が野生へ放された

    とされています。

    「元の場所へ戻す」だけが保全ではなくなった

    これまで、

    野生復帰という言葉には、

    一つの分かりやすい形がありました。

    捕まえられた場所へ戻す。

    昔いた場所へ戻す。

    本来の生息地へ戻す。

    でも、

    気候変動は、

    その考え方を難しくしています。

    場所は残っている。

    保護区にもなっている。

    密猟者もいない。

    それでも、

    気候だけが昔とは違う。

    だったら、

    カメを過去へ戻すのではなく、

    未来へ移す必要があるのかもしれない。

    オーストラリアヌマガメモドキの保全は、

    その難しい問いを、

    実際のカメを使って考えているプロジェクトです。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回の話で僕が一番面白いと思うのは、

    「生息地とは何なのか」

    というところです。

    カメが昔からいた場所。

    それが生息地。

    普通はそう考えます。

    でも、

    気温が変わる。

    雨が減る。

    湿地が乾く。

    すると、

    地図上では同じ場所でも、

    カメにとっては、

    もう同じ場所ではない。

    逆に、

    昔はカメがいなかった南の湿地が、

    50年後には、

    カメにとって一番暮らしやすい場所になるかもしれない。

    保全というのは、

    昔の状態をそのまま保存する仕事だと思っていたけれど、

    このカメを見ていると、

    そうではないのかもしれない。

    変わっていく世界の中で、生き物が生き続けられる場所を探す仕事

    でもあるのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    他人が持っていない亀って、なんで欲しくなるんでしょうね?

    僕の性格が捻くれてるせいかな?

    欲しいなぁ〜オーストラリアヌマガメモドキ

    出典

    Perth Zoo
    「Western Swamp Tortoise Breeding Program」
    再発見、1980年代の個体数、繁殖プログラム、現在の繁殖・放流実績、気候変動に対応した新しい放流地について。
    URL:Perth Zooの保全プログラムを見る

    Western Australia Department of Biodiversity, Conservation and Attractions
    「Record release for critically endangered Western Swamp Tortoise」
    2022年。44匹と147匹、合計191匹の記録的な放流について。
    URL:DBCAの記事を読む

    National Environmental Science Program – Threatened Species Recovery Hub
    「Western swamp tortoises move to a cool new home」
    2016年。気候変動に備えて24匹を歴史的分布域外へ移した初期のassisted colonisationについて。
    URL:2016年の移住計画を見る

    The University of Western Australia
    「Bold plan to find ‘Goldilocks’ wetlands for Western Swamp Tortoise」
    2022年9月7日。気候変動に耐えられる新しい湿地を探す研究について。
    URL:UWAの記事を読む

    Australian Government – DCCEEW
    「Western swamp tortoise」
    本種の脅威と、気候変動避難地への新個体群創出を含む現在の保全方針。
    URL:オーストラリア政府の種情報を見る

    e-Gov 法令検索
    Pseudemydura umbrinaの日本語名「オーストラリアヌマガメモドキ」の確認。
    URL:e-Govの法令情報を見る

  • 【世界の亀ニュース】育てて放したブランディングガメが母に 20年越しの次世代が湿地へ

    今回は、アメリカ・マサチューセッツ州で続けられてきた淡水ガメの保護活動が、約20年を経て大きな節目を迎えたニュースを紹介します。

    今回のニュース

    2026年6月25日、アメリカ・マサチューセッツ州のグレート・メドウズ国立野生生物保護区で、2匹の若いブランディングガメが湿地へ放されました。

    今回の放流が特別だったのは、この2匹の母親もまた、幼いころに人間の手で育てられ、同じ湿地へ戻されたカメだったことです。

    保護活動で育てられたカメが成長し、野生で繁殖し、その子どもが再び湿地へ帰る。

    2003年に始まった保護事業で、初めて確認された「二代目」の野生復帰です。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:アメリカ合衆国、マサチューセッツ州
    場所:コンコード、グレート・メドウズ国立野生生物保護区と周辺湿地
    放流日:2026年6月25日
    発表時期:2026年6月29日〜7月7日
    情報の種類:新着ニュース・淡水ガメ・野生復帰・繁殖・保護活動

    グレート・メドウズ周辺では、アメリカ魚類野生生物局、マサチューセッツ州野生生物局、ズー・ニューイングランド、学校、地域住民などが協力し、ブランディングガメの保護を続けています。

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、ブランディングガメです。

    学名は Emydoidea blandingii。英語ではBlanding’s Turtleと呼ばれます。

    北米に分布する半水棲の淡水ガメで、浅く流れの緩やかな湿地や、水草の多い池などを利用します。暗く滑らかなドーム状の背甲と、明るい黄色の顎から喉が特徴です。成体の甲長はおよそ16〜22センチになります。

    水中だけで一生を過ごすわけではありません。

    餌場、越冬場所、繁殖に使う水域、産卵場所の間を移動し、1マイル以上も陸上を歩くことがあります。そのため、湿地の分断や道路上での事故の影響を受けやすいカメです。

    ニュースの要約

    今回放された2匹は、生後約9か月のブランディングガメです。

    孵化後の最初の冬をストーン動物園で過ごし、十分に成長してから湿地へ戻されました。

    野生で冬を越した子ガメは、春になっても硬貨ほどの小ささであることが多く、捕食者に襲われる危険があります。一方、暖かい飼育環境で十分な餌を与えられた子ガメは、短期間で体を大きくし、野生で生き残れる可能性を高められます。

    この保護方法は、ヘッドスタートと呼ばれます。

    カメを一生飼育するのではありません。

    命を落としやすい幼少期だけを人間が預かり、ある程度成長した段階で本来の生息地へ戻します。

    母ガメ「アイビー」の物語

    2匹の母親は、個体番号144番、愛称をアイビーといいます。

    アイビーの物語は、2010年に始まりました。

    一匹の母ガメがグレート・メドウズの湿地を離れ、1マイル以上を移動して、近くのオフィス街の植え込みに巣を作りました。

    その巣から生まれた11匹の中に、体重わずか7グラムの雌の子ガメがいました。それがアイビーです。

    アイビーはストーン動物園で約10か月間育てられ、2011年に湿地へ放されました。

    甲羅には、将来再発見したときに識別できる小さな印が付けられていました。

    しかし、その後アイビーは10年以上、人間の前から姿を消します。

    湿地のどこかで生きているのか。
    事故に遭ったのか。
    捕食されたのか。

    人間には分からないまま、時間だけが過ぎていきました。

    10年以上ぶりの再発見

    2023年、野外調査を行っていたスタッフが、成長したアイビーを再発見しました。

    硬貨ほどの子ガメだったアイビーは、繁殖可能な大きさの成体になっていました。

    スタッフは甲羅に無線発信器を取り付け、その後の移動を追跡しました。

    そして2025年6月25日の深夜、アイビーが湿地から産卵場所へ向かっていることを発信器が知らせました。

    保護スタッフが追跡すると、アイビーは保全されている野生の花畑を選び、午前2時30分ごろから8個の卵を産みました。

    そのうち7個が無事に孵化しました。

    保護されたカメが、自分で次の世代を残した

    ヘッドスタートでは、放した子ガメの数が成果として注目されることがあります。

    しかし、本当の目的は、放したカメが大人になることです。

    さらに、その成体が人間の助けを受けずに野生で相手を見つけ、産卵し、次の世代を残すことです。

    アイビーの産卵は、この保護活動が「子ガメを放す段階」から、野生の個体群が自分たちで世代をつなぐ段階へ進み始めたことを示しています。

    2003年に活動が始まってから、グレート・メドウズと周辺湿地では800匹以上のヘッドスタート個体が放されてきました。

    ズー・ニューイングランドのHATCHプログラム全体では、1,400匹以上のブランディングガメが育てられています。

    学校の教室で育てられる子ガメ

    この活動に参加しているのは、動物園や研究施設だけではありません。

    地元の学校では、子どもたちが教室に設置された水槽で、ブランディングガメの子ガメをひと冬育てます。

    暖かい水槽の中で餌を与え、体重や甲羅の長さを記録し、春になると湿地へ戻します。

    2009年以降、この活動にはマサチューセッツ州の学校から2万2,000人以上の児童・生徒が参加しています。

    アイビーが産んだ7匹のうち、今回の式典で放された2匹以外の子ガメも、地域の学校で育てられ、生徒たちによって野生へ戻されました。

    一匹の母ガメから生まれた子どもたちが、複数の教室で冬を越し、それぞれの生徒に見送られて湿地へ帰ったことになります。

    なぜ回復に20年以上かかるのか

    ブランディングガメは、とても長く生きるカメです。

    保護された環境では70〜80年以上生きる可能性があります。

    一方で、繁殖を始めるまでには長い時間がかかり、一般に成熟するのは十数年から20年以上経ってからです。

    卵を孵化させ、子ガメを育て、放流するだけなら、一年以内に行えます。

    しかし、そのカメが無事に成長し、自分の卵を産んだことを確認するには、さらに十年以上待たなければなりません。

    保護活動の結果を確かめるためには、人間の年度や計画期間ではなく、カメの一生に合わせて待つ必要があります

    カメが移動できる地域を守る

    ブランディングガメを守るには、巣や一つの池だけを囲えばよいわけではありません。

    カメたちは複数の湿地を利用し、その間にある森林や草地、住宅地の近くを歩きます。

    アイビーの母親はオフィス街へ産卵に向かい、アイビー自身は保護された花畑に卵を産みました。

    人間が利用する土地と、カメが利用する土地は、完全には分かれていません。

    道路、住宅地、学校、企業、保護区を含む地域全体で協力しなければ、移動するカメを守ることはできません。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、一度放したカメを、人間が完全には見守れないことです。

    アイビーは湿地へ帰ったあと、10年以上姿を見せませんでした。

    保護した人たちは、その間に何が起きているのか知ることができなかった。

    それでも、アイビーは生きていた。

    水の中で餌を探し、冬を越し、少しずつ体を大きくしていた。

    そして、再び見つかったときには、次の世代を残せる母ガメになっていました。

    保護活動は、すべてを管理することではありません。

    人間の手から離れたあと、カメが自分の時間を生きられるようにすること。

    アイビーの子どもたちは、今度は自分たちの姿を湿地の中へ消していきます。

    次に人間と出会うのは、何年後になるのでしょうか。

    湯川亀吉の一言

    亀の累代繁殖やりたいよね。

    出典

    U.S. Fish and Wildlife Service
    「Partners release second generation of “headstarted” turtles at Great Meadows National Wildlife Refuge」

    Massachusetts Division of Fisheries and Wildlife
    「Historic win for Blanding’s turtles」

    Zoo New England
    「Zoo New England, MassWildlife, and U.S. Fish & Wildlife Service release historic second-generation Blanding’s turtles」

    U.S. Fish and Wildlife Service
    「Blanding’s Turtle(Emydoidea blandingii)」

  • 【世界の亀ニュース】絶滅寸前だったキタブチイシガメ37匹、35年続く保護活動で湿地へ

    【世界の亀ニュース】絶滅寸前だったキタブチイシガメ37匹、35年続く保護活動で湿地へ

    今回は、アメリカ・ワシントン州で報じられた、希少な淡水ガメの野生復帰に関するニュースを紹介します。

    今回のニュース

    2026年7月、アメリカ・ワシントン州で、37匹の若いキタブチイシガメが保護された湿地へ放されました。

    この放流は、ワシントン州魚類野生生物局とウッドランドパーク動物園が協力して進める「Western Pond Turtle Recovery Project」の一環です。

    プロジェクトは2026年で開始から35年を迎えました。絶滅寸前だったカメを守るため、卵や子ガメを一時的に安全な環境で育て、野生で生き残りやすい大きさになってから湿地へ戻す活動が続けられています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:アメリカ、ワシントン州
    元記事の言語:英語
    公開時期:2026年7月10日
    情報の種類:新着ニュース・淡水ガメ・野生復帰・保護活動

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、キタブチイシガメです。

    学名は Actinemys marmorata。英語ではWestern Pond TurtleやNorthern Pacific Pond Turtleと呼ばれています。分類や日本語資料によっては、単に「ブチイシガメ」と表記されることもありますが、この記事ではキタブチイシガメとします。

    キタブチイシガメは、池や湿地、流れの緩やかな水辺などに暮らす北米原産の淡水ガメです。

    ワシントン州では個体数が激減し、1990年の時点で残っていたのは、二つの個体群に合計約150匹だけでした。絶滅を防ぐため、1991年に動物園と州当局による本格的な回復事業が始まり、1993年には州の絶滅危惧種に指定されました。

    ニュースの要約

    キタブチイシガメの保護活動では、野生の巣から卵や孵化したばかりの子ガメを集め、ウッドランドパーク動物園やオレゴン動物園で一時的に育てます。

    孵化直後の子ガメは、硬貨ほどの小ささです。

    そのまま野生へ出ると、外来種のウシガエルをはじめとする捕食者に食べられる危険性が高いため、動物園で冬を越しながら、魚やミミズなどを与えて成長させます。

    目標となるのは、体重がおよそ2〜3オンス、約57〜85グラムに達することです。

    この大きさまで育つと、子ガメはウシガエルの口に入りにくくなり、野生で生き残れる可能性が高まります。

    健康状態を確認した後、カメたちは保護された湿地へ戻されます。放流後も、州の生物学者たちが生存状況や移動を追跡します。

    小さなカメに「先行時間」を与える

    この方法は、英語で「ヘッドスタート」と呼ばれています。

    野生動物を一生飼育するのではなく、最も命を落としやすい幼少期だけを安全な環境で過ごさせ、ある程度成長してから本来の生息地へ戻す方法です。

    キタブチイシガメは、性成熟するまでに約10〜12年かかります。孵化した子ガメが成体となり、次の世代を残すまでには、長い時間が必要です。

    だからこそ、最初の数か月を生き延びられるかどうかが、何十年後の個体群に大きく影響します。

    動物園で過ごす一度の冬は、このカメたちにとって、野生へ帰る前に与えられた「先行時間」なのかもしれません。

    35年間で2,300匹以上を野生へ

    35年間にわたる共同事業によって、これまでに2,300匹以上のキタブチイシガメがヘッドスタートを経て野生へ戻されました。

    その結果、ピュージェット湾地域とコロンビア川峡谷では、再び個体群が形成されています。調査では、ヘッドスタート個体と野生で生まれた個体を合わせ、約800匹が生き残っていると推定されています。

    1996年に最初の16匹が放されたワシントン州南部の回復地では、長年の放流によって個体数が200匹を超えるまでに回復した記録もあります。

    約150匹まで減ったカメを、何十年もかけて少しずつ増やしてきた。

    今回放された37匹も、その長い回復の物語につながる新しい世代です。

    回復を脅かす甲羅の病気

    保護活動には、大きな課題も残されています。

    野生個体群では、甲羅に病変が現れる深刻な病気が広がっており、野生個体の80%以上に影響が確認されていると報告されています。

    症状が重くなると、健康状態や生存に影響する可能性があります。現在、シェッド水族館やイリノイ大学の研究者たちが、微生物や環境との関係を含めて病気の原因を調べています。

    外来種から子ガメを守り、生息地を整え、野生へ戻す。

    それだけでも長い時間がかかります。

    さらに、新しく現れた病気にも対応しながら、保護活動を次の世代まで続けなければなりません。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、亀を守る活動そのものも、亀のようにゆっくり進んでいることです。

    1991年に始まった活動が、2026年で35年。

    卵を見つけ、孵化させ、冬のあいだ育て、湿地へ戻す。
    それを毎年繰り返す。

    放した子ガメが成長し、繁殖できるようになるまでには、さらに10年以上かかります。

    一度の放流だけで、絶滅危惧種が回復するわけではありません。

    今日放された37匹が大人になり、その子どもが生まれ、さらに次の世代へ命がつながるまで、保護する人たちは待ち続けます。

    亀は遅い。

    でも、亀を守る活動もまた、急ぐことのできない仕事なのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    孵化したばかりの子ガメは、硬貨ほどの大きさしかない。

    その小さな甲羅では、ウシガエルの口から逃げることも難しい。

    だから人間は、一度だけその命を預かる。

    冬のあいだ食べ物を与え、少しだけ大きく育てて、また湿地へ返す。

    守り続けるのではない。
    野生で生きられるところまで、一緒に時間を進める。

    35年間で2,300匹以上。

    一匹ずつを見れば、小さなカメだ。
    でも、その小さな甲羅を一つずつ湿地へ戻してきた時間は、とても大きい。

    亀はゆっくり育つ。
    だから、人間も急がずに守り続けなければならない。

    今回放された37匹が、いつか泥の岸辺で卵を産む日まで。

    この保護活動は、まだ終わらないのだと思います。

    出典

    Woodland Park Zoo
    「Endangered turtles released to the wild」

    Washington Department of Fish and Wildlife
    「South Puget Sound Wildlife Area Management Plan」

    The Reptile Database
    「Actinemys marmorata」

  • 【世界の亀ニュース】18,000個超の卵を救う ガイアナの先住民が川岸で守る淡水ガメの未来

    【世界の亀ニュース】18,000個超の卵を救う ガイアナの先住民が川岸で守る淡水ガメの未来

    今回は、南米ガイアナのルプヌニ地方で、地域住民が中心となって淡水ガメの産卵地を守り、1万8,000個を超える卵を孵化させた保護活動を紹介します。

    今回のニュース

    ガイアナ南部のルプヌニ地方で、2021年から2025年までの間に、18,000個を超える淡水ガメの卵が保護され、孵化しました

    活動には、Sustainable Wildlife Management Programme、South Rupununi Conservation Society、Caiman House、そして地域の先住民コミュニティが参加しています。保全活動全体では26の先住民コミュニティと連携し、カメの現地活動では123人のレンジャーが関わり、5つの地域コミュニティで131か所の砂浜を見守ってきました。

    成果は2026年5月、Sustainable Use of Wild Species Transformative Partnership Platformによって紹介されました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:ガイアナ共和国
    地域:ルプヌニ地方
    対象環境:河川、湿地、砂浜、氾濫原
    活動期間:2021〜2025年
    発表時期:2026年5月
    情報の種類:淡水ガメ・産卵地保全・孵化・地域保全・先住民コミュニティ

    ルプヌニはガイアナ南西部に位置し、森林、サバンナ、河川、湿地が入り組む地域です。地域では魚や野生動物が食文化や生活と深く結びついており、保全と持続可能な利用を同時に考える取り組みが進められています。

    登場する亀

    ルプヌニ地方では、6種類の淡水ガメが確認されています。

    その中でも今回の保全活動で特に重要なのが、モンキヨコクビガメオオヨコクビガメです。研究では、ルプヌニにはモンキヨコクビガメ(Podocnemis unifilis)、オオヨコクビガメ(Podocnemis expansa)のほか、Rhinoclemmys punctularia、マタマタ、Platemys platycephalaMesoclemmys gibbaが生息すると報告されています。

    モンキヨコクビガメ

    学名は Podocnemis unifilis

    英語ではYellow-spotted River Turtleと呼ばれます。

    日本の環境省も「モンキヨコクビガメ」という和名を使用しており、南米のアマゾン川・オリノコ川流域などに広く分布する一方、生息地の減少や卵・成体の過剰利用によって多くの地域で個体数が減少しているとしています。

    幼体では頭部に黄色い斑紋があり、これがこのカメを見分ける大きな特徴です。成長すると模様は薄くなりますが、雄では残る場合があります。

    オオヨコクビガメ

    学名は Podocnemis expansa

    南米最大級の淡水ガメで、アマゾン川、オリノコ川、エセキボ川などの大河川流域に生息します。大型の雌では甲長60センチを大きく超えることがあります。

    今回の活動地域であるガイアナも、本種の自然分布域に含まれています。

    ニュースの要約

    ルプヌニ地方では、淡水ガメの個体群が、卵や成体の過剰利用、ペット取引、洪水などによって減少してきました。

    そこで地域住民が河川の砂浜を巡回し、産卵された巣を確認。

    浸水や捕食などの危険が高い場合には卵を安全な場所へ移し、孵化するまで保護します。孵化した子ガメは、その後ふたたび自然の河川へ戻されます。

    2021年から2025年までの活動で、保護・孵化された卵は1万8,000個を超えました。

    131か所の砂浜を見守る

    この活動で印象的なのは、一つの巨大な保護施設でカメを増やしているわけではないことです。

    保全の現場は、カメが実際に卵を産む川岸です。

    活動では123人のレンジャーが参加し、5つの地域コミュニティにまたがる131か所の砂浜が対象になりました。

    川岸を歩く。

    足跡を探す。

    巣を見つける。

    水位を見る。

    卵が安全な場所にあるか判断する。

    必要な場合だけ、人間が手を加える。

    広い河川を守るには、毎年その川を見て暮らしている地域住民の存在が欠かせません。

    カメの繁殖は「川の水位」とつながっている

    モンキヨコクビガメの繁殖は、川の水位変化と強く結びついています。

    雌は水位が下がり始める乾季に産卵場所へ移動し、砂浜などに卵を産みます。

    つまり、人間から見ればただの川岸でも、カメにとっては期間限定の産卵場所です。

    雨季には水の下にある。

    乾季になると砂浜が現れる。

    そこへ母ガメが上がる。

    そして卵を残す。

    ところが、予想より早く水位が上昇すれば、砂の中の卵は水没します。

    そのため、レンジャーたちは卵だけを見るのではなく、川そのものの変化を観察する必要があります

    卵を動かすべきか、動かさないべきか

    すべての卵を回収して人工的に孵化させるわけではありません。

    2025年にまとめられた「Rupununi Freshwater Turtle Management Plan」では、現地で巣をそのまま守る方法、危険な巣の移動、ヘッドスタート、研究、環境教育、住民への啓発、地域ルールの整備など、複数の方法を組み合わせる方針が示されています。

    重要なのは、

    「人間が全部育てればいい」

    という考え方ではありません。

    安全な巣は、そのまま自然に任せる。

    洪水や捕食の危険が高い巣だけを助ける。

    カメが本来自分たちで繁殖できる状態を残しながら、人間が必要な場所だけ補助する考え方です。

    カメは食料でもある

    ルプヌニ地方での保護が難しい理由の一つに、淡水ガメが地域の食文化や生活と深く関係していることがあります。

    特にモンキヨコクビガメは、南米の多くの地域で長く食料として利用されてきました。

    2025年に発表された研究では、ルプヌニにおいてカメと卵の利用実態を調べながら、地域社会による保全と伝統的利用をどう両立させるかが検討されています。

    「食べる人間」と「守る人間」を単純に分けることはできません。

    同じ地域の人が、昔からカメを利用してきた一方で、今は巣を守るレンジャーにもなっています。

    保護と利用を一緒に考える

    このプロジェクトの目的は、地域住民から野生動物の利用を完全に切り離すことではありません。

    SWM Programmeは、野生動物の個体群と生態系を維持しながら、先住民や農村地域の食料、文化、生活も守ることを目的としています。ガイアナでは、39の先住民コミュニティ、約2万4,000人の生活を含む地域管理の仕組みづくりが進められています。

    カメを守るために人を森や川から追い出すのではない。

    その土地で暮らしてきた人たち自身が、

    「どれだけ利用できるのか」

    「どこは守るべきなのか」

    を考える。

    このニュースの大きな特徴は、そこにあります。

    子どもたちにもカメを伝える

    この活動では、卵や子ガメを守るだけでなく、環境教育も行われています。

    子どもや若者たちに淡水ガメの生態や保全について伝え、次の世代が地域のカメを知る機会を作っています。

    2025年に作られた管理計画でも、環境教育と意識の変化は、巣の保護や研究と並ぶ重要な柱として位置づけられています。

    卵を一つ守れば、その年の子ガメを救えるかもしれない。

    でも、人の考え方が次の世代へ伝われば、その先の何十年も川を守れる可能性があります。

    18,000という数字の向こう側

    18,000個。

    数字だけを見ると、とても大きな成果です。

    でも、実際の保全活動では、一度に18,000個の卵を守ったわけではありません。

    一つの砂浜で、一つの巣を見つける。

    別の日に、また別の巣を見つける。

    水位を確認する。

    孵化を待つ。

    子ガメを川へ戻す。

    それを何年も続けた結果が、18,000という数字になりました。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで注目したいのは、人間がカメを「増やしている」のではなく、カメが自分で増えられる時間を守っていることです。

    卵を産んだのは母ガメです。

    砂の中で育ったのも卵自身です。

    殻を破ったのも子ガメです。

    川へ泳いでいくのもカメです。

    人間がやったことは、

    洪水が来そうなら卵を移す。

    巣を荒らされそうなら見守る。

    子ガメが生まれるまで時間を作る。

    それだけです。

    でも、自然の中では、その「それだけ」がなければ消えてしまう命がたくさんあります。

    湯川亀吉の一言

    南米の亀も買えるうちに買っておこう。

    出典

    Sustainable Use of Wild Species Transformative Partnership Platform
    「Over 18,000 freshwater turtle eggs hatched in Guyana」

    Sustainable Wildlife Management Programme / CIFOR-ICRAF
    「SWM Programme – Guyana」

    Frontiers in Ecology and Evolution
    「Balancing conservation and traditional use of yellow-spotted river turtle Podocnemis unifilis in Southern Rupununi, Guyana」

    環境省
    「モンキヨコクビガメ Podocnemis unifilis