
今回は、アメリカ・フロリダ州のサニベル島で、アカウミガメの産卵巣が観測史上最多を更新したニュースを紹介します。
数字だけを見ると、とても嬉しいニュースです。
しかし、その砂浜では同時に、別の問題も大きくなっていました。
今回のニュース
2026年8月12日、Sanibel-Captiva Conservation Foundation(SCCF)は、フロリダ州サニベル島で確認されたアカウミガメの巣が922か所に達し、過去最高記録を更新したと発表しました。
これまでの最高記録は2023年の878巣。
2026年は産卵シーズンが完全に終了する前の段階で、それをすでに44巣上回っています。
しかし、同じ発表にはもう一つ重要な数字があります。
サニベル島では、922か所のアカウミガメの巣のうち、211か所がコヨーテによる捕食被害を受けました。
被害率は22.6%。
隣接するキャプティバ島では、241巣のうち82巣が被害を受け、被害率は33.7%に達しています。
両島を合わせると、アカウミガメの巣1,163か所のうち293か所、およそ4巣に1巣がコヨーテの被害を受けていることになります。
どこの国・地域の話か
国・地域:アメリカ合衆国・フロリダ州
場所:サニベル島、キャプティバ島
発表日:2026年8月12日
対象種:アカウミガメ
情報の種類:ウミガメ・産卵・繁殖・捕食・保護活動
サニベル島とキャプティバ島では、SCCFが毎日砂浜を巡回し、ウミガメの巣を記録・監視しています。
この地域のウミガメ調査は1959年に始まっており、フロリダ州でも最も長く継続されているウミガメのモニタリング活動の一つです。
登場する亀
今回の主役は、アカウミガメです。
学名は Caretta caretta。
英語ではLoggerhead Sea Turtleと呼ばれています。
アカウミガメは世界の温帯から亜熱帯の海に広く分布しており、フロリダ州の砂浜は世界的にも非常に重要な産卵地です。
フロリダ州魚類野生生物保護委員会(FWC)によると、北西大西洋のアカウミガメ繁殖集団は世界最大規模とされ、その巣のおよそ90%がフロリダ州に集中しています。
一匹の母ガメが何度も砂浜へ戻る
922巣あるからといって、922匹の母ガメが来たという意味ではありません。
一匹の雌は同じ繁殖シーズンに何度も産卵します。
FWCによると、アカウミガメの雌は繁殖年に約4〜7回巣を作り、およそ14日間隔で再び砂浜へ上陸します。ひとつの巣には約100〜126個の卵が入り、孵化までには約60日かかります。
つまり砂浜で数えられている「巣」は、
母ガメが海から上がり、
砂を掘り、
卵を産み、
再び海へ戻った、
一回一回の繁殖行動の記録です。
1959年から見続けてきた砂浜
サニベル島のウミガメ調査は1959年に始まりました。
当初は研究者Charles LeBuffとCaretta Researchが調査を行い、1992年からSCCFが引き継いでいます。
2026年の922巣は、67年近く続く記録の中で最も多いアカウミガメの巣数です。
一つのシーズンだけを見れば、
「今年は多かった」
で終わります。
しかし、半世紀以上同じ砂浜を見続けているからこそ、
昔と比べて増えたのか。
減ったのか。
どの場所へ産卵するようになったのか。
何が変化しているのか。
ということが分かります。
過去最高なのに、安心できない
2026年の巣数は記録的です。
しかしSCCFは、巣の数だけを見て今シーズンを成功と判断することには慎重です。
理由が、コヨーテによる卵の捕食です。
サニベル島では211巣。
キャプティバ島では82巣。
合計293巣が被害を受けています。
SCCFが引用している連邦政府のアカウミガメ回復計画では、捕食被害率10%が管理上の一つの目安とされています。
ところがサニベル島では22.6%。
キャプティバ島では33.7%。
サニベル島西端のFar West地区では、**42.6%**に達しました。
ほぼ2巣に1巣です。
コヨーテが悪いのか
この話を見ると、
「コヨーテがウミガメを襲っている」
と考えてしまいます。
でも、野生動物の世界を単純に善悪で分けることはできません。
コヨーテも生きるために餌を探しています。
砂浜に大量の卵が埋まっていれば、それを見つける個体が現れること自体は不思議ではありません。
問題なのは、
現在の捕食圧が、ウミガメ個体群にとって許容できる範囲を超えている可能性があること
です。
そこでSCCFでは、一部の巣へ金網状の保護スクリーンを設置し、コヨーテなどが掘り返すことを防ぎながら、孵化した子ガメ自身は網目から外へ出られる仕組みを使っています。
巣が多くても、子ガメが多いとは限らない
ここが今回のニュースで、とても重要なところです。
922巣。
これは間違いなく大きな記録です。
でも、
巣の数と、海へ到達する子ガメの数は同じではありません。
卵が捕食される。
高潮で巣が流される。
孵化しない卵がある。
生まれても砂から出られない個体がいる。
人工照明によって海とは反対方向へ進んでしまう場合もあります。
SCCFも、2026年シーズンの本当の結果は、残っている巣がすべて孵化または失敗し、最終的な子ガメの脱出数が集計されるまで分からないとしています。
2023年にも同じことが起きていた
実は、これは初めて起きた問題ではありません。
2023年も、サニベル島とキャプティバ島ではアカウミガメの巣が過去最高水準を記録しました。
しかし同時に、両島では約43%の巣が捕食被害を受けました。
その結果、その年に砂浜から出てきた子ガメの数は、当時として2016年以来最も少なくなりました。
つまり、
母ガメがたくさん産卵した。
だから安心。
とは言えません。
卵が孵化して、
子ガメが砂から出て、
海へ入って、
初めて次の段階へ進みます。
アカウミガメは大人になるまで約35年
海へ入った子ガメが、すぐ次の世代を作るわけでもありません。
FWCによると、アカウミガメが性成熟するまでには、およそ35年かかります。
2026年にサニベル島から海へ入る子ガメが、
大西洋を泳ぎ、
成長し、
さまざまな危険を越え、
繁殖できる母ガメとなるのは、
2060年前後になる可能性があります。
そして雌は、成熟すると自分が生まれた地域に近い砂浜へ戻り、次の卵を産みます。
今砂浜で見えている母ガメたちは、何十年も前の保護活動の結果でもあります。
922巣は「今年だけ」の数字ではない
SCCFは、近年の巣数増加について、過去に行われてきた保全活動の成果が現れている可能性を指摘しています。
海亀の保護には時間がかかります。
今日卵を守る。
明日結果が出る。
というものではありません。
数十年前に守られた子ガメが大人になり、
今、
砂浜へ戻っている。
2026年の922巣には、そんな長い時間が含まれています。
フロリダは世界最大級の産卵地
フロリダ州は、アカウミガメにとって世界でも特に重要な場所です。
FWCによると、北西大西洋の繁殖集団のおよそ90%の巣がフロリダ州にあります。
つまり、フロリダの一つの砂浜で起きていることは、
その地域だけの話ではありません。
大西洋を回遊するアカウミガメ個体群全体につながっています。
人間にもできることがある
SCCFは、観光客や住民に対して、産卵シーズン中の砂浜でいくつかの行動を呼びかけています。
夜間は照明を落とす。
砂浜に掘った穴を埋める。
ビーチチェアやテント、玩具を夜まで残さない。
ゴミや釣り糸を放置しない。
産卵中の母ガメへ近づかない。
保護用のスクリーンへ触らない。
どれも巨大な保護施設を作るような活動ではありません。
でも、一匹の母ガメが安心して卵を産み、
一匹の子ガメが海まで歩くためには、
そういう小さなことが重要になります。
亀好きとして注目したいポイント
今回のニュースで僕が一番面白いと思うのは、
「過去最多」という数字の先を見なければならないことです。
922巣。
ニュースのタイトルとしては、とても分かりやすい。
記録更新。
保護活動成功。
アカウミガメ復活。
そう書きたくなる。
でも砂を掘ってみれば、
卵がない巣がある。
コヨーテに食べられた巣がある。
水に流された巣がある。
まだ孵化していない巣がある。
一つの数字だけでは、生き物の状態は分からない。
たくさん産んだのか。
何匹生まれたのか。
何匹海へ入ったのか。
何匹大人になったのか。
全部違う数字です。
だから、
922という数字を喜びながら、
その先も見続ける必要がある。
今回のニュースは、
「増えた」ということと、「守れた」ということは同じではない
と教えてくれている気がします。
湯川亀吉の一言
ウミガメって、意外とでかいよね。
出典
Sanibel-Captiva Conservation Foundation(SCCF)
「Record-Breaking Loggerhead Nesting on Sanibel Continues to Rise」
2026年8月12日
https://sccf.org/2026/08/12/record-breaking-loggerhead-nesting-on-sanibel-continues-to-rise/
Sanibel-Captiva Conservation Foundation(SCCF)
「Record-Breaking Loggerhead Nesting Season on Sanibel」
2026年7月29日
https://sccf.org/2026/07/29/record-breaking-loggerhead-nesting-season-on-sanibel/
Florida Fish and Wildlife Conservation Commission(FWC)
「Loggerhead Nesting in Florida」
https://myfwc.com/research/wildlife/sea-turtles/nesting/loggerhead/
Florida Fish and Wildlife Conservation Commission(FWC)
「Loggerhead Sea Turtle」
https://myfwc.com/wildlifehabitats/profiles/reptiles/sea-turtles/loggerhead-turtle/
NOAA Fisheries
「Loggerhead Turtle」
https://www.fisheries.noaa.gov/species/loggerhead-turtle





