カテゴリー: 新種・研究

研究発表、新種、分類、生態調査、大学・研究機関の発表。

  • 【世界の亀ニュース】約4000万年前の新種ウミガメをカザフスタンで記載 わずかな頭骨が明かした「失われた海」

    【世界の亀ニュース】約4000万年前の新種ウミガメをカザフスタンで記載 わずかな頭骨が明かした「失われた海」

    カザフスタン。

    この国の名前を聞いて、

    ウミガメを思い浮かべる人は、

    あまりいないと思います。

    広大な草原。

    乾燥地帯。

    砂漠。

    大陸の真ん中。

    海から遠く離れた国。

    でも、

    約4000万年前。

    そこには、

    ウミガメが泳いでいました。

    しかも、

    一種類ではありません。

    2026年9月。

    その古代の海から見つかっていた骨を研究した古生物学者たちが、

    これまで知られていなかった新しい種類のウミガメ

    を正式に記載しました。

    名前は、

    Argillochelys foveopalatus。

    約38〜40百万年前、

    始新世中期の海を泳いでいたカメです。Taylor & Francis Online

    今回のニュース

    研究成果が発表されたのは、

    2026年9月10日。

    国際古生物学誌、

    Historical Biology

    に掲載されました。

    研究を行ったのは、

    I. G. Danilov氏、

    E. A. Zvonok氏、

    A. V. Panteleev氏、

    K. M. Akhmedenov氏、

    D. B. Yakupova氏らによる研究チーム。

    ロシア科学アカデミー動物学研究所と、

    カザフスタンのMakhambet Utemisov West Kazakhstan Universityなどの研究者が参加しています。Taylor & Francis Online

    論文のタイトルは、

    “A new species of Argillochelys (Testudines: Pan-Cheloniidae) from the Bartonian of Kazakhstan”

    つまり、

    「カザフスタンのバートニアンから発見されたArgillochelys属の新種」

    です。Taylor & Francis Online

    新種の名前は「Argillochelys foveopalatus」

    今回記載されたのは、

    Argillochelys foveopalatus。

    現在のところ一般的な日本語名はありません。

    だからこの記事では、

    学名をそのまま、

    アルジロケリス・フォヴェオパラトゥス

    と呼ぶことにします。

    分類上は、

    Pan-Cheloniidae

    というグループに含められています。Taylor & Francis Online

    これは、

    現在生きているアオウミガメやアカウミガメなどを含む「ウミガメ科」につながる、

    より広い進化系統を示す分類です。

    つまり、

    「現代のウミガメとまったく同じ種類」

    ではありません。

    かといって、

    ウミガメとは関係のない古代ガメでもない。

    現代のウミガメへ続く巨大な進化の枝の中にいたカメ

    と考えると分かりやすいと思います。

    完全な一匹が見つかったわけではない

    ここが、

    今回の研究の面白いところです。

    発見されたのは、

    完全な骨格ではありません。

    甲羅一枚。

    全身骨格。

    完全な頭骨。

    そういう分かりやすい標本ではない。

    新種記載の中心になったのは、

    部分的な頭骨と、下顎の骨。

    化石は、

    カザフスタン西部のマンギスタウ半島にある、

    KarakeshiとMonataという場所のShorym Formationから得られました。

    さらに、

    マンギスタウ半島の別の産地からも標本があります。Taylor & Francis Online

    つまり、

    研究者が手にしていたのは、

    約4000万年前のカメの、

    頭の一部分。

    それでも、

    新種だと判断できました。

    カメの「口の中」が決め手になった

    僕は今回、

    ここがかなり好きです。

    新種を見分ける大きな手がかりになったのは、

    甲羅の模様でも、

    身体の色でも、

    大きなヒレでもありません。

    口蓋。

    つまり、

    口の中の天井部分です。

    研究チームは、

    このカメの口蓋骨に、

    他のPan-Cheloniidaeでは確認されていない非常に変わった構造を発見しました。

    通常とは異なり、

    口蓋骨が縫合線によって二つの部分へ分かれている。

    この特徴は、

    今回の研究ではPan-Cheloniidaeの中で独特なものとされています。Taylor & Francis Online

    「ほんの少し形が違う」だけではない

    さらに、

    翼状骨と呼ばれる頭蓋骨の部分にも特徴があります。

    一般的な近縁種に見られる、

    腹側中央の隆起がありません。

    この特徴も、

    Pan-Cheloniidaeの中では珍しいものです。Taylor & Francis Online

    そして、

    上顎と下顎の、

    食べ物を噛み合わせる部分。

    これも、

    滑らかな面ではありませんでした。

    凹凸や稜がある咀嚼面

    を持っていたことが報告されています。Taylor & Francis Online

    ただし、

    ここから、

    「このカメは絶対に○○を食べていた」

    とまでは言えません。

    口の形は食性を考える重要な手がかりになりますが、

    今回の研究の主目的は、

    まず、

    この骨がどのカメに属するのかを分類すること

    だからです。

    子どものカメらしき骨も見つかっている

    さらに面白い化石があります。

    Kuyulusという場所から見つかった下顎骨です。

    研究チームは、

    これらを、

    cf. Argillochelys foveopalatus

    としています。

    「cf.」は、

    簡単に言えば、

    この種によく似ており、おそらく同じ種類だが断定まではしない

    という慎重な表現です。

    しかも、

    これらは、

    若い個体だった可能性

    があります。Taylor & Francis Online

    大人だけではない。

    もし本当に同じ種類なら、

    約4000万年前のこの海には、

    若いアルジロケリスも存在していたことになります。

    今のカザフスタンとは、まったく違う世界だった

    現在、

    マンギスタウ半島周辺を見ると、

    乾燥した岩場が広がっています。

    でも、

    この化石が形成された始新世中期には、

    景色はまったく違いました。

    Shorym Formationは、

    主に薄く積み重なった褐色の泥灰岩などで構成され、

    魚類をはじめとした海洋生物の化石を多く含みます。ResearchGate

    つまり、

    現在の乾いた大地の下には、

    かつてそこが海だった時代の記録が、

    地層として残っています。

    今、

    砂と岩の大地を歩く。

    その足元に、

    4000万年前の海底がある。

    そして、

    そこからウミガメの頭骨が出てくる。

    なんだか、

    ものすごい話です。

    その海は「テチス海」につながっていた

    当時、

    現在のヨーロッパから中央アジア周辺には、

    現在とはまったく異なる巨大な海洋環境が広がっていました。

    研究者たちは、

    Argillochelysの分布を、

    Peri-Tethyan region=テチス海周辺地域

    と関連付けています。

    過去のArgillochelysの記録は、

    西ヨーロッパ。

    東ヨーロッパ。

    そして、

    カザフスタン。

    という広い範囲から知られています。ジン

    つまり、

    アルジロケリスたちは、

    現在の国境など存在しない、

    巨大な古代の海を泳いでいた可能性があります。

    Argillochelysは昔から知られていた

    ここも区別しておきたいところです。

    今回、

    「Argillochelysというカメが初めて見つかった」

    わけではありません。

    Argillochelysという属そのものは、

    19世紀から知られていました。

    初期の代表的な化石は、

    イギリスの始新世の地層から知られています。後の研究では、Argillochelysの化石記録は西ヨーロッパだけでなく、東ヨーロッパや中央アジアにも広がることが示されてきました。Copernicus

    今回新しいのは、

    そのArgillochelys属に、新しい一種が加わった

    ということです。

    Argillochelys foveopalatus。

    2026年になって、

    約4000万年前の生物へ、

    ようやく名前が付きました。

    「新種発見」は、生きている動物だけではない

    「新種」

    と聞くと、

    ジャングルへ行く。

    見たことのないカメがいる。

    捕まえる。

    DNAを調べる。

    「新種だ!」

    という場面を想像するかもしれません。

    でも、

    古生物学では違います。

    その生き物は、

    何千万年も前に、

    もう絶滅している。

    残っているのは、

    骨だけ。

    それも、

    全部ではない。

    頭蓋骨の一部分。

    顎。

    甲羅の破片。

    それらを、

    すでに知られている何十種類もの化石と比較する。

    骨の角度を見る。

    縫合線を見る。

    口蓋を見る。

    顎を見る。

    そして、

    「これは、

    どれにも当てはまらない」

    となる。

    そこから、

    絶滅して4000万年経ったあとに、

    人間が初めてその生き物を一つの種として認識する。

    これも、

    新種発見です。

    しかも、この海には別のウミガメもいた

    さらに、

    マンギスタウ半島のShorym Formationから見つかっているウミガメは、

    今回の種類だけではありません。

    ここからは以前、

    Protrachyaspis shorymensis

    という別のPan-Cheloniidaeも記載されています。

    さらに、

    オサガメにつながるDermochelyidaeの化石も見つかっています。ジン

    つまり、

    約4000万年前のカザフスタンの海には、

    一種類のウミガメだけが、

    ぽつんと泳いでいたわけではない。

    形の違う複数のウミガメ類が共存していた。

    そんな海だった可能性があります。

    ウミガメの世界は、今よりずっと違っていた

    現在、

    僕たちが見るウミガメは、

    アオウミガメ。

    アカウミガメ。

    タイマイ。

    ヒメウミガメ。

    ケンプヒメウミガメ。

    ヒラタウミガメ。

    そして、

    オサガメ。

    かなり完成された、

    見慣れた「ウミガメの形」をしています。

    でも、

    4000万年前まで戻ると、

    世界はもっと複雑です。

    現在はいないウミガメの系統が、

    いくつも存在する。

    それぞれ、

    頭骨が違う。

    口の構造も違う。

    甲羅も違う。

    同じ海の中で、

    それぞれ別の生き方をしていたはずです。

    Argillochelys foveopalatusも、

    その失われた世界の一員です。

    でも、まだ全身像は分からない

    ここは、

    ヒーロー画像を作るときにも重要です。

    僕たちは、

    このカメの完全な姿を知りません。

    今回記載された中心的な標本は、

    部分頭骨と下顎です。Taylor & Francis Online

    だから、

    「アルジロケリス・フォヴェオパラトゥスは絶対にこういう姿だった」

    という完全復元図を、

    写真のように断定的に描くのは危険です。

    近縁種から、

    ある程度のウミガメらしい姿を想像することはできる。

    でも、

    頭の色。

    甲羅の色。

    模様。

    細かな身体形状。

    それらは、

    化石には残っていません。

    分からないところは、分からない。

    それも、

    このニュースの大事な部分だと思います。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回、

    僕が一番面白いと思うのは、

    「新種を見つけた場所が、口の中だった」

    というところです。

    4000万年前。

    ウミガメが泳いでいる。

    死ぬ。

    骨が海底へ沈む。

    地層になる。

    海がなくなる。

    大陸の景色が変わる。

    4000万年経つ。

    人間が骨を見る。

    そして、

    口蓋の、

    ほんの小さな縫合線を見る。

    「おかしい。」

    他のカメにはない。

    もう一度見る。

    比較する。

    そして、

    一種類の生き物が、

    4000万年ぶりに、

    世界へ現れる。

    身体はもうない。

    海もない。

    でも、

    骨の形だけで、そのカメがいたことが分かる。

    古生物学って、

    ものすごく面白いです。

    湯川亀吉の一言

    カザフスタンとか、あのへんの国は憧れるな〜

    どんな地域なんだろうな。

    行ってみたいな。

    出典

    Historical Biology

    I. G. Danilov, E. A. Zvonok, A. V. Panteleev, K. M. Akhmedenov, D. B. Yakupova
    “A new species of Argillochelys (Testudines: Pan-Cheloniidae) from the Bartonian of Kazakhstan”
    2026年9月10日公開。Argillochelys foveopalatusの新種記載、標本、診断形質などの原著論文です。Taylor & Francis Online

    原著論文を見る

    Luhansk State Pedagogical University

    マンギスタウ半島の新種化石について、年代を約3800〜4000万年前とし、Shorym Formationの地質やArgillochelysの古地理的分布を紹介しています。Ifvis

    Proceedings of the Zoological Institute RAS

    Shorym Formationから知られる他の古代ウミガメ類や、同地域の始新世ウミガメ相についての研究。

  • 【世界の亀ニュース】頭が2つあるキスイガメ誕生 わずか5.2gの身体で「二つの頭」はどう生きる?

    【世界の亀ニュース】頭が2つあるキスイガメ誕生 わずか5.2gの身体で「二つの頭」はどう生きる?

    カメがいる。

    小さい。

    生まれたばかりの、

    キスイガメ。

    でも、

    何かがおかしい。

    頭が、

    二つある。

    2026年9月。

    アメリカ・マサチューセッツ州ケープコッドのWellfleetで、

    非常に珍しいキスイガメの幼体が見つかりました。

    体重、

    わずか5.2g。

    このカメには、

    二つの頭があります。

    この状態は、

    bicephaly(双頭・二頭症)

    と呼ばれる発生異常です。 CBS News

    今回のニュース

    この幼体が見つかったのは、

    Mass Audubonが管理するWellfleet Bay周辺の、

    保護されたキスイガメの営巣地。

    その後、

    Mass Audubon Wellfleet Bay Wildlife Sanctuaryから、

    BarnstableにあるBirdsey Cape Wildlife Centerへ運ばれました。

    2026年9月22日にも、

    施設で体重測定や観察が続けられている様子が撮影されています。 Reuters Connect

    Cape Wildlife Centerによると、

    同施設が過去5年間に扱った双頭個体は、

    今回とは別に2例。

    つまり、

    今回で少なくとも3例目になります。 Reuters Connect

    それでも、

    施設側は、

    「特に珍しいケース」

    としています。 CBS News

    登場する亀

    今回の主役は、

    キスイガメ。

    学名、

    Malaclemys terrapin。

    英名、

    Diamondback Terrapin。

    日本の経済産業省によるCITES関連資料でも、Malaclemys terrapinには「キスイガメ」という和名が使われています。 経済産業省

    このカメ、

    生態そのものもかなり変わっています。

    北米のカメとしては唯一、

    汽水域に強く依存して暮らす種類です。

    海水と淡水が混ざる、

    河口。

    塩性湿地。

    沿岸の入り江。

    そんな場所で一生の大部分を過ごします。 国立公園局

    皮膚は、

    灰白色。

    そこへ、

    黒い斑点。

    甲羅には、

    名前の由来になった、

    ダイヤモンド状の模様が入ります。

    かなり格好いいカメです。

    でも、今回の個体はさらに特殊だった

    双頭。

    一つの身体に、

    頭が二つ。

    でも、

    ここで注意したいことがあります。

    「頭が二つある」=「身体の内部構造もこうなっている」

    とは、

    まだ言えません。

    脊椎が何本あるのか。

    消化管は一つなのか二つなのか。

    肺はどうなっているのか。

    心臓や血管はどうつながっているのか。

    そして、

    どちらの頭が、

    どの手足を動かしているのか。

    今回の2026年個体について、

    そうした詳細な内部構造は、

    現時点では公表されていません。

    だから写真だけを見て、

    「二匹のカメが一つになっている」

    と断定することもできません。

    Cape Wildlife Centerも現在、

    食欲、成長、行動

    を中心に観察しています。 News Link Live

    二つの頭は、どう一つの身体を動かすのか?

    僕は、

    ここが一番気になります。

    右の頭が、

    右へ行きたい。

    左の頭が、

    左へ行きたい。

    もし、

    そうなったら?

    泳ぐときは?

    餌を見つけたときは?

    どちらが先に食べる?

    片方だけが眠ることはある?

    一つの刺激に、

    二つの頭が違う反応をすることはある?

    現在の研究チームが見ている、

    「behavior=行動」

    という言葉の中には、

    こうした非常に基本的な疑問が含まれているはずです。

    Cape Wildlife CenterのZak Mertz氏によると、

    初期段階ではこの幼体は通常に近い行動を示し、両側とも良好に見えるとされています。 CBS News

    ただし、

    それは長期的な生存を保証するものではありません。

    まだ、

    生まれたばかりです。

    実はケープコッドでは、2021年にも見つかっている

    今回のニュースには、

    興味深い前例があります。

    2021年。

    同じマサチューセッツ州ケープコッドで、

    やはり双頭のキスイガメが見つかりました。

    こちらは、

    さらに不思議な身体をしていました。

    頭が二つ。

    そして、

    脚が6本。

    検査では、

    二つの消化管。

    二つの脊椎。

    そしてその脊椎が身体の後方で一つにつながっている構造が確認されました。

    さらに観察では、

    左右の頭が別々のタイミングで水面へ呼吸に上がり、

    片側が3本の脚、

    もう片側が残り3本の脚を動かしていたと報じられています。 ワシントンポスト

    すごい。

    でも、

    今回の2026年個体も、

    同じ構造だとは限りません。

    ここは絶対に分けて考える必要があります。

    同じ「双頭」でも、

    身体がどの段階まで分かれているかは、

    個体ごとに異なる可能性があります。

    だから、今回のカメを調べる意味がある

    2021年個体を調べたから、

    もう分かった。

    ――ではありません。

    今回の幼体が、

    同じ身体構造をしているとは限らない。

    むしろ、

    違う可能性がある。

    だから、

    新しい個体が見つかるたびに、

    発生。

    神経。

    骨格。

    運動。

    消化。

    呼吸。

    こうした身体の仕組みについて、

    新しい情報が得られる可能性があります。

    Cape Wildlife Centerも、

    双頭個体を診るたびに、

    動物の解剖学や生理学について学ぶ機会になる

    と説明しています。 News Link Live

    なぜ頭が二つになる?

    ここは、

    まだ簡単には説明できません。

    双頭は、

    胚が成長する非常に早い段階で、

    身体の形成が通常とは異なる形で進んだ結果として起こります。

    ただし、

    今回の個体について、

    「この原因だった」

    と特定されたわけではありません。

    2021年のCape Wildlife Centerも、

    遺伝的要因や環境要因などが胚発生へ影響する可能性に触れていましたが、

    具体的な原因までは分かっていませんでした。 WBZ NewsRadio 1030

    つまり、

    今回についても、

    原因を決めつけることはできません。

    そもそも、なぜこんな珍しい個体を見つけられたのか

    ここも重要です。

    ケープコッドでは、

    長年にわたってキスイガメの営巣地が調査されています。

    Mass AudubonのWellfleet Bayでは、

    1980年代から個体識別を行い、

    毎年産卵する雌や巣、

    孵化個体などを継続して記録しています。 Mass Audubon

    キスイガメの雌は、

    初夏に汽水域から陸へ上がり、

    高潮線より上の砂地へ卵を産みます。

    マサチューセッツでは、

    孵化までおよそ59〜116日かかることがあります。 マサチューセッツ州政府

    そして、

    人間が巣を継続的に観察する。

    幼体が出てくる。

    一匹ずつ確認する。

    そこで初めて、

    こんな特殊な個体も発見できます。

    もし誰も見ていなければ、

    この5.2gのカメは、

    誰にも知られないまま湿地へ入っていたかもしれません。

    5.2gという小ささ

    今回、

    写真以上に僕が驚いた数字があります。

    5.2g。

    単三電池より、

    ずっと軽い。

    その小さな身体に、

    目が四つ。

    頭が二つ。

    そして、

    一つの甲羅。

    現在、

    スタッフはこの小さな個体が、

    食べられるか。

    成長するか。

    身体をうまく動かせるか。

    毎日見ています。 News Link Live

    今後、

    身体が十分に成長すれば、

    画像診断などによって内部構造についてさらに分かる可能性があります。

    でも現時点では、

    まだ、

    分からないことの方が多い。

    キスイガメ自体も、マサチューセッツでは珍しい存在

    マサチューセッツ州では、

    キスイガメは州絶滅危惧種法上の、

    Threatened(絶滅危惧・脅威にさらされている種)

    に指定されています。 マサチューセッツ州政府

    そしてケープコッドは、

    この種の分布域の、

    ほぼ北限。

    Mass Audubonによれば、

    Wellfleet周辺には北米でも特に北に位置するキスイガメ個体群があります。 Mass Audubon

    つまり今回の個体は、

    ただ珍しい双頭のカメではない。

    分布北限近くに暮らす、希少なキスイガメ個体群から生まれた一匹。

    でも今回の記事で僕が面白いと思うのは、

    保護活動そのものより、

    やっぱり、

    身体です。

    一つなのか、二つなのか

    一匹。

    でも、

    頭は二つ。

    二匹?

    でも、

    甲羅は一つ。

    僕たちは、

    生き物を見ると、

    自然に、

    「一匹」

    「二匹」

    と数えます。

    でも、

    こういう生き物を見ると、

    その当たり前の境界が少し揺らぎます。

    心臓が一つなら?

    脳が二つなら?

    胃が二つなら?

    脊椎が途中で一つにつながっていたら?

    どこまでが、

    一匹なんだろう。

    これは哲学の話ではなく、

    実際に、

    目の前に存在する生物の話です。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回の記事は何も感じないね。

    なんの感想もない。

    出典

    Birdsey Cape Wildlife Center / 現地報道
    2026年9月にWellfleetの保護営巣地で発見された5.2gの双頭キスイガメ、現在の観察状況について。 CBS News
    CBS Bostonの報道を見る

    USA TODAY Network / Reuters Connect
    2026年9月22日のBirdsey Cape Wildlife Centerでの個体の体重測定・継続観察、過去5年間で3例目の双頭症例であること。 Reuters Connect

    Mass Audubon — Wellfleet Bay Wildlife Sanctuary
    ケープコッドのキスイガメ個体群、営巣、生態、長期モニタリングについて。 Mass Audubon
    Mass Audubonのキスイガメ調査を見る

    Massachusetts Division of Fisheries and Wildlife
    キスイガメの州内分布、Threatened指定、生息環境について。 マサチューセッツ州政府

    2021年の双頭個体記録
    頭2つ・脚6本のキスイガメについて、脊椎・消化器系・運動の観察結果。

  • 【世界の亀ニュース】ヒラチズガメは「危険な水」を知っている? エリー湖で藻類ブルーム直前に姿を消す季節移動を確認

    【世界の亀ニュース】ヒラチズガメは「危険な水」を知っている? エリー湖で藻類ブルーム直前に姿を消す季節移動を確認

    夏。

    巨大なエリー湖を、

    一匹の雌のヒラチズガメが泳いでいます。

    6月。

    7月。

    湖の沖合まで出る。

    ところが、

    7月下旬。

    亀たちは、

    湖からいなくなりました。

    そして数km離れた支流を、

    上流へ。

    そこで冬を越し、

    翌春になると、

    また元の産卵場所近くへ戻ってきます。

    そのころエリー湖では、

    ある現象が始まります。

    有害藻類ブルーム。

    しばしば毒素を作る藍藻が、

    夏の終わりに大発生します。

    不思議なのは、

    ヒラチズガメが、

    そのピークを迎える前に、

    湖を離れていたことです。

    今回のニュース

    研究を行ったのは、

    アメリカ・オハイオ州のUniversity of Toledo(トレド大学)。

    研究者のDi’Carlo Jackson氏とJeanine M. Refsnider博士は、2022年にエリー湖西部の産卵地で捕獲した雌のヒラチズガメへ発信器を取り付け、

    音響テレメトリー

    と、

    衛星テレメトリー

    という二つの方法を組み合わせて行動を追跡しました。

    研究成果は2026年、『Journal of Great Lakes Research』に掲載されています。

    登場する亀

    今回の主役は、

    ヒラチズガメ。

    学名、

    Graptemys geographica。

    英名は、

    Northern Map Turtle
    または
    Common Map Turtle。

    日本では「ヒラチズガメ」という名称が使われています。

    北米に生息する、

    チズガメ属の淡水ガメです。

    「map turtle=地図ガメ」という名前の通り、

    甲羅には地図の等高線のような細かな模様が入ります。

    種小名のgeographicaも、

    「地理・地図」を意味する言葉に由来します。

    雌は雄の約2倍まで大きくなる

    ヒラチズガメでは、

    雄と雌の体格差がかなり大きいことが知られています。

    雌は雄のほぼ2倍の大きさまで成長することがあり、

    行動範囲も一般に雌の方が広くなります。

    さらに食べるものにも違いがあります。

    大型の雌は、

    硬い殻を持つ貝類などを主に利用。

    小型の雄は、

    より柔らかい水生無脊椎動物を食べます。

    今回研究者が追跡したのも、

    成体の雌。

    産卵のために岸へ上がってきた個体でした。

    10匹の背中に発信器を付けた

    2022年6月。

    研究者たちは、

    エリー湖西部にあるMagee Marshの砂浜で、

    産卵に訪れた雌10匹を捕獲しました。

    そして甲羅へ発信器を装着。

    その後、

    亀を湖へ戻しました。

    10匹のうち2匹については、発信器が早期に外れたと考えられ、十分な追跡データが得られなかったため解析から除外されています。

    残る個体の動きを、

    研究者は長期間追い続けました。

    「音」と「宇宙」の両方から追跡する

    今回面白いのが、

    追跡方法です。

    まず、

    音響テレメトリー。

    亀の発信器から出る音響信号を、

    湖や川に設置された受信機が拾います。

    水中にいる動物の追跡に向いています。

    一方、

    衛星テレメトリーでは、

    発信器の情報を衛星を使って取得します。

    ただし、

    亀が水中深く潜っていると、

    衛星との通信が難しくなります。

    そこで、

    二つを組み合わせました。

    湖の中では、

    音。

    支流などでは、

    衛星。

    片方だけでは見えなかった亀の一年間を、

    二つの技術でつなぎました。

    Refsnider博士は、この組み合わせについて、

    それぞれが異なる状況でうまく機能したと説明しています。

    すると、想像以上に移動していた

    追跡してみると、

    ヒラチズガメの雌は、

    かなり大きな範囲を移動していました。

    研究論文によると、

    湖と支流のデータを合わせた移動範囲は、

    約10〜22km。

    産卵を終えた後、

    6月から7月には、

    エリー湖の沖合を利用します。

    その後、

    支流へ入る。

    そして、

    さらに上流へ数km進んでいきます。

    僕たちがイメージする、

    「近所の池でずっと暮らしている亀」

    とは、

    かなり違います。

    冬になると支流で姿を消す

    上流へ移動した亀たちは、

    その支流周辺で冬を越したと考えられています。

    そして、

    翌春。

    再び下流へ。

    産卵浜のすぐ近くにある支流の河口へ戻ってきました。

    つまり、

    湖。

    川。

    湿地。

    産卵地。

    越冬場所。

    一匹の亀が、

    一年の中で複数の環境を使い分けていたのです。

    そして研究者が気付いた

    追跡データを見ていて、

    研究者たちは、

    あるタイミングに気付きました。

    ヒラチズガメがエリー湖で確認されたのは、

    7月下旬まで。

    それ以降、

    湖では確認されなくなりました。

    そのころ、

    エリー湖西部では、

    毎年ある現象が強くなります。

    cyanobacterial bloom。

    藍藻、

    つまりシアノバクテリアによる、

    大規模な水の華です。

    夏の終わりに湖が緑になる

    エリー湖西部では、

    夏になると大量の藍藻が増殖することがあります。

    特に、

    8月ごろにピークを迎えることが多い。

    種類によっては、

    microcystin(ミクロシスチン)

    と呼ばれる毒素を作ります。

    この毒素は、

    さまざまな動物の肝臓・消化器・生殖器などへ悪影響を与える可能性があります。

    過去の研究では、

    カメ類でも免疫機能への影響が報告されています。

    ところがヒラチズガメは、もういない

    藻類ブルームが本格化する、

    8月。

    その時点で、

    追跡中のヒラチズガメは、

    すでに湖から移動していました。

    Refsnider博士は、

    7月下旬以降エリー湖では個体が確認されず、

    そのころには支流や周辺湿地へ移動していたため、

    ブルームのピーク時には藻類毒素へ曝露されていなかったと考えられる

    と説明しています。

    ここで、

    ものすごく面白い疑問が出てきます。

    亀は「危険」を察知して逃げているのか?

    もしそうなら、

    すごい。

    水の変化を感じる。

    「ここは危ない」

    と判断する。

    川へ移動する。

    そんな行動を想像したくなります。

    でも研究者は、

    そこまでは言っていません。

    むしろ、

    かなり慎重です。

    Refsnider博士自身、

    亀が藻類ブルームを理由に湖を離れているのか、それとも通常の季節移動とブルームの時期が偶然一致しているだけなのかは分からない

    としています。

    ここは、

    今回の記事で一番重要なところです。

    「避けていた」と「避けるために移動した」は違う

    結果だけを見ると、

    亀は藻類ブルームを避けています。

    でも、

    原因は分からない。

    たとえば、

    水温。

    日照時間。

    水位。

    餌。

    繁殖周期。

    越冬準備。

    季節そのもの。

    こうした別の要因をきっかけに、

    毎年7月ごろ支流へ移動しているのかもしれません。

    その結果として、

    たまたま有毒藻類からも逃れることになる。

    これでも、

    十分面白い。

    生物の行動には、

    「この危険を避けよう」と意識的に進化したわけではなくても、

    別の生活パターンが結果的に危険を回避していることがあります。

    そもそも湖に暮らすヒラチズガメは、よく分かっていなかった

    これまでヒラチズガメについて、

    河川での行動研究は比較的多く行われてきました。

    一方、

    巨大な湖に暮らす個体が、

    一年を通じてどこへ移動するのかについては、

    まだ情報が少なかったと研究チームは説明しています。

    理由の一つが、

    単純に、

    追いかけるのが難しいから。

    川なら、

    移動方向は比較的限られます。

    でも、

    エリー湖は巨大です。

    亀が沖へ泳いだら、

    従来の人間による追跡は一気に難しくなります。

    だから今回、

    衛星と水中の音響受信機を組み合わせた方法が有効でした。

    亀の世界は、人間が思っているよりずっと広い

    10km。

    20km。

    人間なら、

    車ですぐです。

    でも、

    甲羅を背負った淡水ガメです。

    泳ぐ。

    川を上る。

    湖へ出る。

    戻る。

    翌年、

    また同じ場所へ来る。

    しかも、

    これを何年も繰り返している可能性があります。

    一匹のヒラチズガメにとって、

    エリー湖とその支流は、

    別々の場所ではないのかもしれません。

    全部まとめて「自分の生活圏」。

    そう考えると、

    亀を見る目が少し変わります。

    名前は「ヒラチズガメ」

    ちなみにこのカメ、

    日本では、

    ヒラチズガメ

    と呼ばれています。

    チズガメ類の中では比較的、

    甲羅が平たいことが名前の由来です。

    チズガメ属には、

    ニセチズガメ。

    フトマユチズガメ。

    ワモンチズガメ。

    クロコブチズガメ。

    など、

    特徴的な種類がたくさんいます。

    その中でも、

    Graptemys geographicaは、

    チズガメ属を代表する種類の一つです。

    「水の中で暮らす亀」をどう追跡するか

    今回のニュースは、

    亀そのものだけでなく、

    研究方法についても面白いと思います。

    昔なら、

    研究者が、

    双眼鏡で見る。

    捕まえる。

    印を付ける。

    また探す。

    それしかありませんでした。

    今は、

    甲羅に小さな装置を付ける。

    水中の受信機が、

    通過した亀を記録する。

    衛星が、

    別の場所に移動した亀を見つける。

    研究者が寝ている間も、

    亀は動く。

    そして、

    機械は記録する。

    その結果、

    人間が直接追いかけていたら見えなかった、

    一匹の亀の一年間

    が見えてきます。

    亀好きとして注目したいポイント

    僕が今回一番面白いと思うのは、

    「亀が毒を避ける能力を持っている」という話ではない

    ところです。

    むしろ、

    まだ分からない。

    そこがいい。

    7月まで、

    湖にいる。

    8月になる前に、

    いなくなる。

    有毒藻類が増える。

    結果として、

    亀はそこにいない。

    これは事実。

    でも、

    なぜ?

    そこから先は、

    まだ分からない。

    亀自身が水質の変化を感知しているのか。

    季節移動なのか。

    何世代にもわたって身についたタイミングなのか。

    別の環境要因なのか。

    今は、

    答えがありません。

    でも、

    「変なことが起きている」

    ということが分かった。

    科学って、

    そこから始まるんだと思います。

    湯川亀吉の一言

    俺は付き合っちゃいけない人間を察することができるよ

    出典

    University of Toledo
    「UToledo Herpetologist Tracks Turtles Amid Harmful Algal Bloom」
    2026年9月10日。追跡研究、藻類ブルームとの時期関係、音響・衛星テレメトリーについて。
    トレド大学の公式記事を読む

    Journal of Great Lakes Research
    Di’Carlo Jackson & Jeanine M. Refsnider
    「Acoustic and satellite telemetry reveal extensive distances traveled in both lake and tributary habitat by female northern map turtles (Graptemys geographica)」
    2026年。10匹への発信器装着、移動距離10〜22km、季節的な湖・支流利用、藍藻ブルームとの関係を扱った原著論文。
    原著論文を見る

    ITIS
    Graptemys geographicaの分類および英名Northern Map Turtle / Common Map Turtleについて。
    ITISの分類情報を見る

  • 【世界の亀ニュース】DNAが99%読めなくても分かった 博物館の骨から蘇ったガラパゴスゾウガメ2つの絶滅系統

    【世界の亀ニュース】DNAが99%読めなくても分かった 博物館の骨から蘇ったガラパゴスゾウガメ2つの絶滅系統

    今回は、

    生きているカメを探す話ではありません。

    化石でもありません。

    博物館の棚に残されていた、

    古いゾウガメの骨

    の話です。

    骨からDNAを取り出す。

    でも、

    ほとんど壊れている。

    現在の動物なら、

    一個体から膨大なDNA情報を読み取ることができます。

    ところが今回扱われた歴史的標本の一部では、

    読み取れるゲノム情報は1%にも満たないほどでした。

    普通なら、

    「情報が少なすぎる」

    として解析から外されてもおかしくありません。

    でも研究者たちは、

    そのわずかな断片を捨てませんでした。

    残っているDNAを集める。

    現在生きているガラパゴスゾウガメのゲノムと比べる。

    他の博物館標本とも比べる。

    そして、

    巨大な「ゾウガメの家系図」の中へ、

    そのDNAの破片を一つずつ置いていきました。

    すると、

    そこから二つの、

    もう存在しない系統が浮かび上がってきました。

    今回の研究

    研究論文のタイトルは、

    “Integration of ultra-low coverage whole-genome sequences for reconstructing the evolutionary history of Galapagos giant tortoises”

    日本語にすれば、

    「超低カバレッジ全ゲノム配列を統合したガラパゴスゾウガメの進化史の復元」

    というような内容です。

    研究を主導したのはAlexander Ochoa氏らの国際研究チーム。

    Yale University。

    Newcastle University。

    University of California, Berkeley。

    University of Connecticut。

    Woods Hole Oceanographic Institution。

    University of Crete。

    など、複数の研究機関が参加しています。

    対象になったのは、

    ガラパゴス諸島に暮らしてきたChelonoidis属の巨大リクガメたち。

    研究では、

    現生13系統と絶滅4系統

    からなるガラパゴスゾウガメの進化的放散を扱っています。

    どこのカメなのか

    今回特に注目されたのは、

    二つの島です。

    サンクリストバル島。

    そして、

    サンタフェ島。

    どちらもエクアドルのガラパゴス諸島にあります。

    しかし、

    今回調べられたカメたちは、

    もう島を歩いていません。

    どちらも、

    絶滅した系統です。

    サンタフェ島には、かつて巨大なリクガメがいた

    現在のサンタフェ島には、

    在来のゾウガメは残っていません。

    しかし昔の航海記録には、

    島からゾウガメが持ち去られた記録があります。

    さらに、

    California Academy of Sciencesの探検隊が集めた骨片も残されていました。

    これまでの研究から、

    サンタフェ島のゾウガメは、

    他島のゾウガメとは異なる独自の分類群だった可能性が高いことが知られていました。

    しかも、

    完全な標本が残る前に絶滅してしまったため、

    正式な学名すら付いていません。

    名前のない、

    絶滅したゾウガメ。

    今回の研究では、

    その残された骨から得たゲノム断片を使って、

    このサンタフェ系統がガラパゴスゾウガメの進化史の中で、

    独立した系統だったことを改めて確認しました。

    そして、さらに不思議なのがサンクリストバル島

    サンクリストバル島には、

    現在もゾウガメが生きています。

    だから、

    「絶滅したサンクリストバル島のゾウガメ」

    という表現は、

    少し変に聞こえます。

    でも、

    ここには大きな謎があります。

    1906年。

    California Academy of Sciencesの調査隊がサンクリストバル島を訪れました。

    島では一匹の生きたゾウガメが採集されました。

    一方、

    島内の洞窟からは、

    およそ17個体分のゾウガメの骨

    が見つかっています。

    当然、

    同じ島のカメなのだから、

    同じ系統だと思います。

    ところが、

    違いました。

    洞窟のゾウガメと、現在のゾウガメは違った

    2022年。

    研究チームが、

    洞窟から見つかった歴史標本のミトコンドリアDNAを調べました。

    すると、

    驚くことが分かりました。

    洞窟にあった5個体は、

    現在サンクリストバル島に暮らすゾウガメとは、

    大きく異なる遺伝系統

    だったのです。

    一方、

    1906年に生きた状態で採集された一匹は、

    現在のサンクリストバル個体群に近いDNAを持っていました。

    つまり過去のサンクリストバル島には、

    少なくとも遺伝的に大きく異なる、

    二つのゾウガメ系統が同時期に存在していた可能性

    が出てきました。

    現在残っているのは、

    その一方だけ。

    洞窟で見つかった系統は、

    20世紀までに絶滅したと考えられています。

    でも、2022年には大きな問題が残っていた

    2022年の研究には、

    弱点がありました。

    古い骨のDNAが、

    あまりにも壊れていたからです。

    研究者が十分に読み取れたのは、

    主にミトコンドリアDNA。

    ミトコンドリアDNAは、

    系統関係を調べる非常に有用な情報です。

    ただし、

    生物全体の遺伝情報のごく一部しか表していません。

    研究者自身も当時、

    「核DNAがなければ、この二つが本当に独立した進化的存在だったのか断定できない」

    という慎重な結論を出していました。

    そして2026年。

    その続きを、

    ようやく調べることができました。

    読めたDNAは、わずか0.008〜0.139倍

    今回の研究で使われた古いDNAは、

    状態が非常に悪いものでした。

    ゲノム解析では、

    同じ場所を平均何回読めたかを「coverage=カバレッジ」で表します。

    通常、

    信頼性の高い全ゲノム解析では、

    同じ領域を何度も読みます。

    ところが今回の歴史標本は、

    わずか、

    0.008×〜0.139×。

    研究論文では、

    これをultra-low coverage whole-genome sequencing(ulcWGS)

    と呼んでいます。

    ほとんど読めていない。

    でも、

    ゼロではない。

    その「ほとんど何もない」に近いDNAを、

    どう使うか。

    それが今回の研究の核心です。

    DNAの「穴」を勝手に埋めなかった

    ここも面白いところです。

    DNAが足りないと、

    既知のゲノム情報を参考にして、

    欠損部分を統計的に推定する方法があります。

    しかし今回の研究では、

    超低カバレッジ標本について、

    欠損した遺伝型を推定して埋める方法に頼っていません。

    代わりに、

    残っている情報だけを使って、

    複数の解析ツールを組み合わせました。

    研究チームは、

    EPA-ng。

    smartsnp。

    Admixfrog。

    NGSadmix。

    などを使い、

    わずかなDNA断片を、

    高品質なゲノムから作られた系統樹へ配置しました。

    言ってみれば、

    1000ピースのジグソーパズルがある。

    手元に残っているのは、

    10ピースくらい。

    その10ピースだけを見て、

    「これはどの絵の一部なのか」

    を探したようなものです。

    そして、二つの絶滅系統が見えてきた

    結果。

    サンクリストバル島の歴史的系統。

    サンタフェ島の系統。

    どちらも、

    ガラパゴスゾウガメの進化史の中で、

    独立した進化的実体だった

    ことが支持されました。

    つまり、

    「ミトコンドリアDNAが少し違っていただけ」

    ではなかった。

    核ゲノムの断片を使っても、

    別の歴史を持つ集団として認識できたわけです。

    サンクリストバル島の話は、さらにややこしい

    そして、

    ここには分類学上のものすごく面白い問題があります。

    現在、

    サンクリストバル島のゾウガメには、

    Chelonoidis chathamensis

    という学名が使われています。

    ところが、

    この種を最初に定義する基準標本、

    つまりホロタイプになっている個体は――

    現在生きている系統ではありません。

    1906年に洞窟から発見された、

    絶滅した方の系統の標本

    なのです。

    これは、

    かなりすごい話です。

    今生きているカメの名前が変わる可能性がある

    もし将来、

    絶滅した洞窟系統と現在の系統が、

    正式に別種と判断されたとします。

    すると、

    Chelonoidis chathamensisという名前は、

    基準標本が属している

    絶滅系統側

    に残ります。

    そして、

    現在サンクリストバル島に何千匹も生きているゾウガメには、

    新しい学名を付ける必要が出てくる可能性があります。

    ただし、

    現時点で新種として正式に命名されたわけではありません。

    だから、

    「新種発見」

    と書いてしまうのはまだ早い。

    今は、

    分類そのものが揺れている途中

    です。

    100年以上前の骨が、現在の名前を揺らしている

    これが、

    博物館標本の面白いところです。

    1906年。

    研究者が、

    洞窟から骨を拾う。

    標本番号を付ける。

    博物館へ持ち帰る。

    100年以上、

    棚の中にある。

    その当時には、

    DNA解析なんてありません。

    まして、

    全ゲノム解析もない。

    でも標本は、

    捨てられずに残っていた。

    そして2026年。

    その骨から、

    わずかなDNAを取り出す。

    すると、

    現在生きているカメの学名まで再検討しなければならない可能性

    が出てきました。

    標本は、

    死んだ動物を展示するものだけではないんですね。

    未来の技術で、

    もう一度調べることができる、

    時間を保存した資料

    でもあります。

    サンタフェのカメには、完全な標本すらない

    一方、

    サンタフェ島のケースも興味深いです。

    この島のゾウガメは、

    科学者が完全な標本を集める前に絶滅しました。

    残っているのは、

    骨の一部。

    だから、

    独自のゾウガメだったことは遺伝学的に支持されているのに、

    正式な種記載ができるほどの標本がありません。

    つまり、

    存在していた。

    遺伝的にも違う。

    でも、

    名前がない。

    自然界では、

    名前を付ける前に消えてしまう生き物もいる。

    ガラパゴスには「島ごとのカメ」がいる

    なぜ、

    こんなに複雑なのでしょうか。

    ガラパゴスゾウガメの最大の特徴の一つが、

    島ごと、あるいは島の地域ごとに独自の系統へ分かれていること

    です。

    海を隔てて、

    島がある。

    ある島へゾウガメが到達する。

    そこから長い時間、

    別の島の集団とはほとんど交流しない。

    すると、

    それぞれが独自に進化していきます。

    甲羅の形。

    体の大きさ。

    首の長さ。

    そして、

    DNA。

    一つの祖先から始まったゾウガメが、

    島々で枝分かれしていく。

    ガラパゴスは、

    まさに巨大な進化実験場です。

    でも、人間がその地図を混ぜてしまった

    さらに話を複雑にしたのが、

    人間です。

    過去の船乗りたちは、

    ガラパゴスゾウガメを食料として船へ積み込みました。

    ゾウガメは、

    餌や水なしでも比較的長期間生きることができる。

    そのため、

    航海中の食料として利用されました。

    そして、

    別の島へ運ばれた個体の一部が、

    そこで逃げたり、

    捨てられたりした可能性があります。

    別々に進化していた島のカメが、

    人間によって再び出会う。

    そして、

    交雑する。

    絶滅したDNAが、まだ生きているかもしれない

    ここから、

    今回の研究は、

    少し不思議な話になります。

    ある系統そのものは、

    絶滅した。

    でも、

    その系統のカメが過去に他の島へ運ばれ、

    別系統のゾウガメと交雑していたとします。

    すると、

    その子孫には、

    絶滅した系統のDNAが残っている可能性があります。

    生き物としては、

    もう存在しない。

    でも、

    ゲノムの一部分は、

    別のカメの中に生き続けている。

    Ochoa氏らも、

    絶滅系統の遺伝情報が現在の交雑個体の中に残っている可能性を指摘しています。

    僕は、

    ここがものすごく面白い。

    「絶滅」とは、どこまで消えたら絶滅なのだろう

    一匹も純粋な個体がいなくなる。

    それは、

    絶滅です。

    でも、

    DNAの10%が、

    別のカメの中に残っていたら?

    5%なら?

    1%なら?

    生物学的には、

    元の系統が復活したことにはなりません。

    でも、

    その系統が何百万年かけて獲得してきた遺伝情報の一部は、

    まだ世界から完全には消えていない。

    「絶滅」という言葉は、

    個体を見ると明確なのに、

    ゲノムまで見ると、

    少し境界がぼやけます。

    そして今回の方法は、カメだけの話ではない

    研究チームが重要視しているのは、

    ガラパゴスゾウガメだけではありません。

    世界中の博物館には、

    DNAの状態が悪すぎて、

    これまで詳細なゲノム研究に使えなかった標本が大量にあります。

    骨。

    皮。

    歯。

    羽。

    角。

    100年前。

    200年前。

    もっと昔。

    これまで、

    「DNAが少なすぎる」

    として諦められていた標本でも、

    今回のような手法を使えば、

    進化史の中でどこに位置するのか調べられる可能性があります。

    つまり、

    博物館には、

    まだ読まれていない進化史が大量に眠っている。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回、

    僕が一番面白いと思うのは、

    カメそのものはもういないのに、そのカメについて新しいことが今も発見されている

    というところです。

    普通、

    絶滅したら、

    そこで観察は終わると思います。

    もう、

    歩いているところを見られない。

    何を食べるかも調べられない。

    繁殖も見られない。

    でも、

    標本がある。

    DNAがある。

    昔の航海記録がある。

    新しい技術ができる。

    すると、

    絶滅したあとでも、

    その生き物についての情報は増えていく。

    カメは、

    もう増えない。

    でも、

    人間が知っている「そのカメ」は、今も増え続ける。

    これは、

    不思議です。

    湯川亀吉の一言

    ゾウガメって全員が性格良さそうですよね。

    出典

    Yale University
    「Reading the giant tortoise DNA that time forgot」
    2026年8月26日。超低品質の博物館DNAからサンクリストバル島とサンタフェ島の絶滅系統を解析した研究を紹介しています。
    Yale Universityの公式記事を読む

    Proceedings of the Royal Society B / PubMed
    Ochoa, A. et al.
    「Integration of ultra-low coverage whole-genome sequences for reconstructing the evolutionary history of Galapagos giant tortoises」
    2026年。0.008〜0.139×という超低カバレッジゲノムを用いた解析手法と、絶滅2系統の進化的位置について。
    PubMedで論文情報を見る

    Heredity
    「A new lineage of Galapagos giant tortoises identified from museum samples」
    2022年。サンクリストバル島の洞窟標本から、現在の個体群とは異なるミトコンドリア系統が発見された先行研究。
    Heredityの原著論文を見る

    Galápagos Conservancy
    「Giant Tortoise Restoration in the Galápagos Islands」
    サンタフェ島の絶滅ゾウガメが独立した分類群だったこと、完全標本がなく正式な学名がないことなど。
    Galápagos Conservancyの資料を見る

  • 【世界の亀ニュース】世界初の「現生オサガメ化石」を台湾で発見 一本の腕の骨が埋めた進化史の空白

    【世界の亀ニュース】世界初の「現生オサガメ化石」を台湾で発見 一本の腕の骨が埋めた進化史の空白

    今回は、新種でもない。

    珍しい繁殖でもない。

    野生復帰でもありません。

    一個の、

    古い骨

    の話です。

    台湾と澎湖諸島の間。

    現在は海になっている台湾海峡の海底から、一個の大きな骨が引き上げられました。

    骨は、

    左前肢の上腕骨。

    それを台湾大学の研究チームが詳しく調べました。

    すると、

    その形が現在生きているオサガメ、

    Dermochelys coriacea

    の上腕骨と極めてよく一致しました。

    2026年6月17日。

    研究成果が学術誌『Acta Palaeontologica Polonica』に発表。

    そして9月2日、台湾大学がこの発見を、

    「世界で最初に確認された現生オサガメの化石」

    として紹介しました。

    今回のニュース

    研究を行ったのは、

    台湾大学生命科学系の廖翊如(Yi-Lu Liaw)氏と、蔡政修(Cheng-Hsiu Tsai)氏。

    調査対象となった化石には、

    NTUM-VP 250802

    という標本番号が付けられています。

    保存されていたのは、

    一本の左上腕骨。

    つまり、

    オサガメの巨大な前肢を支える骨の一つです。

    完全な甲羅でもない。

    頭骨でもない。

    骨格一式でもない。

    一本の腕の骨です。

    でも研究者たちは、その一本から、

    「これはオサガメだ」

    という結論にたどり着きました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:台湾
    発見場所:台湾海峡・澎湖水道周辺
    研究機関:国立台湾大学
    対象種:オサガメ
    学名:Dermochelys coriacea
    英名:Leatherback Sea Turtle
    化石:左上腕骨
    標本番号:NTUM-VP 250802
    年代:更新世中期〜後期と推定
    論文発表:2026年6月17日
    台湾大学発表:2026年9月2日
    情報の種類:化石・古生物学・進化・ウミガメ

    化石は、台湾本島と澎湖諸島の間にある海域の海底から引き上げられました。

    この地域では底引き漁などによって、海底からさまざまな脊椎動物化石が発見されています。近年話題になったデニソワ人類の化石も、この周辺から得られたものです。

    登場する亀

    今回の主役は、

    オサガメ。

    学名、

    Dermochelys coriacea。

    現存するウミガメの中で最大の種類です。

    そして、

    他のウミガメとはかなり違います。

    アカウミガメ。

    アオウミガメ。

    タイマイ。

    こうしたウミガメには、

    硬い甲羅があります。

    しかしオサガメには、

    一般的なウミガメのような大きな硬い甲板がありません。

    背中は革のような皮膚で覆われ、

    その表面には縦方向に7本の隆起が走っています。

    日本の環境省も、オサガメを「硬い甲らを持たない」ことと7本の隆起を大きな特徴として紹介しています。

    現在生きているオサガメは、世界中を泳いでいる

    オサガメの分布範囲はとても広く、

    インド洋。

    太平洋。

    大西洋。

    熱帯だけでなく、

    かなり高緯度の海域まで移動します。

    日本近海にも低頻度ながら回遊個体が現れます。

    つまり、

    オサガメ自体は、

    未知の生物ではありません。

    では、

    何が「世界初」なのでしょうか。

    「オサガメ科の化石」は以前からあった

    ここはかなり重要です。

    オサガメの祖先に近い、

    オサガメ科(Dermochelyidae)の化石

    そのものは以前から知られていました。

    このグループの歴史は古く、

    古第三紀まで遡ることができます。

    過去には、

    現在とは異なる複数のオサガメ科のカメが存在していました。

    でも、

    現在まで生き残ったのは、

    Dermochelys coriacea

    一種だけです。

    そして奇妙なことに、

    その現生種そのものの化石が一つも確認されていなかった。

    昔の親戚は化石になっている。

    現在のオサガメもいる。

    なのに、

    その間をつなぐ

    Dermochelys coriaceaの化石

    だけが見つからない。

    そこに空白がありました。

    2026年、その空白に一本の骨が入った

    今回の台湾の標本は、

    その空白に初めて入った化石です。

    研究チームは標本を、

    現生オサガメの骨格。

    そして、

    過去に生息していた複数の化石オサガメ類。

    それぞれと比較しました。

    結果、

    台湾の上腕骨は、

    古い絶滅種よりも、

    現在のオサガメの上腕骨に非常によく似ていた。

    そのため研究者は、

    この標本を、

    Dermochelys coriacea

    と同定しました。

    つまり、

    「オサガメに似た古代ガメ」

    ではない。

    今、海を泳いでいるオサガメと同じ種。

    ここが今回の発見の核心です。

    一本の骨で、どうやって分かるのか

    僕はここがかなり面白いと思います。

    カメの骨を一本見て、

    どうして種類まで分かるのか。

    研究では、

    上腕骨のかなり細かな形が比較されています。

    たとえば、

    上腕骨頭の傾き。

    筋肉が付着する隆起の形。

    骨表面にある窪みの深さ。

    骨の端の幅。

    隆起同士の位置関係。

    こうした特徴を、

    現在のオサガメと比較しました。

    特に今回の化石には、

    上腕骨頭の特徴的な傾き、わずかに湾曲する二次三角胸筋稜、深い結節間窩がないこと

    など、現生オサガメと一致する特徴が確認されています。

    人間から見れば、

    「大きな一本の骨」

    にしか見えないかもしれない。

    でも、

    骨にはその動物の構造が残っています。

    化石はかなり大きな成体だった可能性

    研究者は、

    この骨が、

    身体的に成熟した大型個体

    のものだった可能性が高いと判断しています。

    さらに興味深いことに、

    上腕骨のある特徴が現在の雌オサガメに見られる形と似ているため、

    雌だった可能性

    も指摘されています。

    ただし、

    これは確定ではありません。

    研究論文でも、

    「もしこの解釈が正しければ雌の可能性がある」

    という慎重な書き方がされています。

    何年前のオサガメなのか

    この化石は、

    更新世

    のものと考えられています。

    より具体的には、

    研究チームは周辺から見つかる化石などを基に、

    更新世中期〜後期

    という幅広い年代を想定しています。

    ただし、

    「何万年前」

    と正確に言うことはできません。

    なぜなら、

    化石は地層の中から発掘されたものではなく、

    海底から引き上げられたもの

    だからです。

    どの地層に埋まっていたのかという情報が失われています。

    だから、

    正確な年代を決めることは難しい。

    ここも、

    古生物研究の面白いところですね。

    化石が見つかれば、

    すべてが分かるわけではない。

    一つ分かると、

    また別の問いが生まれます。

    今の台湾海峡は、昔から海だったわけではない

    さらに面白いのが、

    発見場所です。

    現在の台湾海峡は、

    平均水深約60〜70m。

    台湾と中国大陸の間には、

    海があります。

    でも、

    更新世には、

    氷期と間氷期によって海面が大きく上下しました。

    研究論文によれば、この地域は時期によって、

    陸地。

    細い水路。

    浅い海峡。

    というように、

    環境そのものが何度も変化していた可能性があります。

    つまり、

    現在の海底から化石が見つかったからといって、

    そのオサガメが現在とまったく同じ台湾海峡を泳いでいた、

    とは限りません。

    海の形そのものが違いました。

    では、このオサガメは台湾で産卵していたのか?

    ここも、

    今回の研究からは言えません。

    現在の台湾周辺は、

    オサガメにとって主要な産卵地ではありません。

    論文でも、

    台湾海峡は現在のオサガメの主要な交尾・産卵場所から離れていると説明されています。

    研究者が注目したのは、

    むしろ、

    移動や採餌です。

    現在の西太平洋個体群も、

    広い海域を移動します。

    研究チームは、この化石の存在から、

    更新世のオサガメもすでに、

    西部北太平洋沿岸を利用していた可能性

    を考えています。

    何十万年前にも、巨大なオサガメがここを泳いでいたかもしれない

    想像すると、

    かなりすごい。

    現在、

    台湾と澎湖の間には、

    船が通ります。

    漁船が出る。

    貨物船が通る。

    その海の下から、

    一本の骨が出てきた。

    その骨の持ち主は、

    まだ人間の都市も国境も存在しなかった時代に、

    同じ西太平洋を泳いでいた可能性があります。

    クラゲを探し、

    広い海を移動し、

    また別の海域へ向かった。

    現在のオサガメと、

    基本的には同じような姿で。

    この化石は「世界分布の起源」の話にもつながる

    さらに研究者は、

    この化石と、

    オサガメのDNA研究との関係にも注目しています。

    分子研究では、

    現在世界中に分布しているオサガメ個体群は、

    過去約100万年以内の更新世に、

    インド太平洋地域から世界各地へ広がった可能性

    が示されていました。

    そして今回、

    そのインド太平洋地域に含まれる台湾から、

    更新世のオサガメ化石が見つかった。

    研究チームは、

    この発見が、

    そうした世界的拡散の仮説と整合的だとしています。

    もちろん、

    一本の骨だけで、

    世界中への移動経路が確定したわけではありません。

    でも、

    DNAから推定していた物語の中に、

    実物の化石が一個置かれた。

    これはかなり大きいと思います。

    なぜ今まで化石がなかったのか

    ここで、

    オサガメという生き物そのものが関係してきます。

    普通のカメなら、

    巨大な甲羅があります。

    甲羅には、

    多くの骨があります。

    つまり、

    化石として残る可能性のある部分がかなり多い。

    でも、

    オサガメは違います。

    硬い甲板がありません。

    甲羅を構成する骨も、

    他のウミガメと比べて大幅に縮小しています。

    つまり、

    そもそも化石として残りにくいカメ

    なんです。

    さらに海洋生物の場合、

    陸上動物と比較して研究できる更新世の地層自体も限られます。

    この二つが重なって、

    現在のオサガメの化石記録が、

    長い間ゼロだった可能性があります。

    甲羅が残らないなら、「腕」を探せばいい

    僕は今回、

    この部分がすごく好きです。

    オサガメには、

    普通のカメのような硬い甲羅がない。

    だから、

    化石になりにくい。

    だったら、

    別の骨を見る。

    腕を見る。

    一本の上腕骨を見る。

    そこから、

    現在のオサガメと比較する。

    生き物の一番目立つ特徴が残らなくても、

    別の部分から、その存在を見つけることができる。

    科学って面白いですね。

    化石そのものを3Dで見ることもできる

    今回の標本は、

    研究者だけが触れるものではありません。

    化石の3Dデータも公開されています。

    Zenodoには、

    NTUM-VP 250802の左上腕骨をスキャンしたSTLデータが登録されています。

    つまり、

    台湾に行かなくても、

    世界中の研究者が、

    同じ骨をデジタル上で調べることができます。

    150年前なら、

    化石そのものを博物館へ見に行く必要があった。

    今は、

    骨そのものをデータとして共有できる。

    これも現代の古生物学なんですね。

    一本の骨で、世界地図が少し変わった

    今回見つかったものは、

    たった一本です。

    頭もない。

    甲羅もない。

    全身骨格もない。

    でも、

    その一本があることで、

    僕たちが描いていたオサガメの歴史は変わりました。

    これまで、

    現在のオサガメについては、

    「今ここにいる」

    という記録しかなかった。

    そこへ、

    「更新世の台湾にもいた」

    という一点が加わりました。

    過去の分布図に、

    一つ、

    点が増えた。

    その一点が、

    世界中を泳ぐ現在のオサガメの起源を考える材料になります。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回僕が特に面白いと思うのは、

    「今も普通に生きている種類にも、知られていない過去がある」

    というところです。

    絶滅した恐竜。

    絶滅した巨大ガメ。

    そういう動物なら、

    化石から歴史を調べるイメージがあります。

    でも、

    オサガメは今もいる。

    海を泳いでいる。

    写真もある。

    GPSまで付けて追跡されている。

    それなのに、

    その種類の過去について、

    こんな大きな空白があった。

    2026年まで、

    誰も、

    確実な化石を持っていなかった。

    現在を詳しく知っていることと、

    過去を知っていることは、

    全然別なんですね。

    湯川亀吉の一言

    オサガメかっこいいよね〜

    出典

    National Taiwan University(国立台湾大学)
    「來自臺灣的全球第一件現生革龜化石」
    2026年9月2日。世界初の現生オサガメ化石、研究者、発見場所、研究の意味について。
    台湾大学の公式発表を見る

    Acta Palaeontologica Polonica
    Yi-Lu Liaw & Cheng-Hsiu Tsai
    「The first fossil of the extant leatherback sea turtle Dermochelys coriacea」
    2026年。化石の形態比較、年代、発見場所、現生オサガメとの同定、進化・分布についての原著論文。
    原著論文のページを見る

    Acta Palaeontologica Polonica 原著論文PDF
    化石と現生オサガメの上腕骨写真・形態比較を掲載。
    論文PDFを見る

    Zenodo
    「The first fossil leatherback sea turtle」
    標本NTUM-VP 250802の3Dデータを公開。
    化石の3Dデータを見る

    環境省
    オサガメ Dermochelys coriacea の日本語名、形態、日本近海への来遊などについて。
    環境省の資料を見る

  • 【世界の亀ニュース】150年前から知られていたカメが「新種」に!? 孤島の Kinosternon mariamadre をめぐる分類論争

    【世界の亀ニュース】150年前から知られていたカメが「新種」に!? 孤島の Kinosternon mariamadre をめぐる分類論争

    今回は、

    「今まで誰も見たことがなかったカメが、ジャングルの奥から発見された」

    というニュースではありません。

    むしろ、

    その逆です。

    人間は、

    このカメを約150年前から知っていました。

    博物館にも標本がある。

    研究者も調べている。

    学術文献にも登場している。

    どこに暮らしているのかも分かっている。

    それなのに2025年、

    研究者たちは、

    「このカメ、今まで考えられていた種類とは違うのではないか」

    と結論しました。

    そして、

    Kinosternon mariamadre

    という新しい学名を付けました。

    でも、

    話はそこで終わりません。

    2026年現在、

    主要な爬虫類データベースでは、

    K. mariamadreを独立種としてではなく、

    Kinosternon integrumの同物異名

    として扱っています。

    新種なのか。

    それとも、

    同じ種類の島嶼個体群なのか。

    今回は、

    カメの「名前」が決まるまでの世界

    を見てみます。

    今回のニュース

    2025年7月3日。

    カメ類専門の学術誌Chelonological Contributionsに、

    「New Species of Mud Turtle (Testudines: Kinosternidae) from the Tres Marías Islands, Nayarit, Mexico」

    という論文が発表されました。

    著者は、

    Mehdi Joseph-Ouni氏、Paul Vander Schouw氏、Jay Frewer氏、Dennis Uhrig氏、William P. McCord氏。

    研究チームは、メキシコ・ナヤリット州沖のトレス・マリアス諸島に生息するドロガメを、

    Kinosternon mariamadre

    という独立した新種として記載しました。

    英語名として論文では、

    Tres Marías Mud Turtle

    が使われています。

    日本語の標準和名は確認できないため、この記事では基本的に、

    Kinosternon mariamadre

    または、

    マリア・マドレ島のドロガメ

    と表記します。

    どこの国・地域の話か

    国:メキシコ
    州:ナヤリット州
    島:Isla María Madre(マリア・マドレ島)
    島嶼群:Islas Tres Marías(トレス・マリアス諸島)
    新種記載:2025年7月3日
    提唱された学名:Kinosternon mariamadre
    科:ドロガメ科 Kinosternidae
    属:ドロガメ属 Kinosternon
    情報の種類:新種記載・分類学・島嶼生物・形態研究

    トレス・マリアス諸島には主要な島が4つあります。

    しかし論文によると、このドロガメが確認されているのは、

    マリア・マドレ島だけ。

    残る主要3島には、このカメが利用できる適切な淡水環境がないとされています。

    つまり、

    もし本当に独立種なら、

    世界でこの一つの島だけに暮らすカメ

    ということになります。

    でも、このカメは2025年に見つかったわけではない

    ここが今回の話の面白いところです。

    新種として記載されたのは、

    2025年。

    でも、

    このカメが初めて人間に知られたのは、

    それよりはるか昔です。

    論文によれば、

    マリア・マドレ島のドロガメ標本は、

    1881年にAlphonse Forrerによって採集されていました。

    その標本をもとに、

    英国の動物学者Albert Güntherが1885年にこの島のドロガメについて記録しています。

    2025年から数えれば、

    およそ144年前。

    つまり、

    「新種を発見した」

    というより、

    「144年前から目の前にいたカメを、新しい目で見直した」

    という方が近いんです。

    1897年にも採集されていた

    さらに、

    1897年。

    Nelson and Goldmanによるメキシコ生物調査の際にも、

    マリア・マドレ島から複数のドロガメが採集されました。

    2025年の新種記載では、

    そのうち4成体と1幼体が、

    新種を定義するためのパラタイプ標本として指定されています。

    つまり、

    100年以上前に博物館へ収められた標本が、

    2025年になって、

    「新種を説明する証拠」

    として再び使われたことになります。

    1925年のカメもいる

    1925年には、

    California Academy of Sciencesの調査隊が、

    マリア・マドレ島のArroyo Hondoで一匹の雄を採集しました。

    その個体は、

    古い切り株の下の泥へ半分埋まった状態で見つかったと記録されています。

    現在、この標本もK. mariamadreのパラタイプとして扱われています。

    正確に測り直された甲長は、

    144.6mm。

    15cmにも満たない、

    小さなドロガメです。

    1957年の一匹が「基準」になった

    そして、

    1957年4月7日。

    Richard G. Zweifel氏が、

    同じくArroyo Hondoで一匹の成体雄を採集しました。

    この個体は、

    2025年に新種が記載された際、

    ホロタイプ

    に指定されました。

    ホロタイプというのは、

    簡単に言えば、

    「この新種とは、まずこの個体を基準に考えてください」

    という基準標本です。

    新種の名前は、

    単なるアイデアではありません。

    世界中の研究者があとから検証できるように、

    実物の標本が残されます。

    生きていたときの色まで記録されていた

    1957年に採集されたホロタイプには、

    生きていたときの色彩記録まで残っています。

    記録では、

    頭頂部。

    甲羅。

    四肢。

    尾。

    これらは、

    ほぼ模様のない暗い黒色。

    一方、

    顎や頭部側面には黄色い斑。

    腹甲は黄色で、

    甲板の境界に沿って濃褐色の模様があったとされています。

    100年近く前の標本だけでは、

    色が退色してしまいます。

    だから、

    こうした古いフィールドノートも、

    分類を考える重要な情報になります。

    ずっと「何ガメなのか」が揺れていた

    この島のカメが、

    今まで研究されていなかったわけではありません。

    むしろ、

    研究されていたのに、分類が定まらなかった。

    論文によると、

    約1世紀にわたって、

    Kinosternon integrum

    なのか、

    Kinosternon hirtipes

    なのか、

    分類上の扱いが揺れ動いてきました。

    つまり研究者たちは、

    ずっと同じカメを見ながら、

    「これはあの種類だ」

    「いや、こっちの種類だ」

    と考え直してきたわけです。

    2025年、「どちらでもない」と考えた研究者たち

    そして2025年。

    Joseph-Ouni氏らは、

    もう一つの可能性を提示しました。

    Kinosternon integrumでも、

    Kinosternon hirtipesでもない。

    島独自の別種ではないか。

    研究チームは、

    甲羅。

    頭部。

    体の比率。

    色彩。

    その他多数の形態的特徴を比較。

    その組み合わせが既知のK. integrumとは異なるとして、

    独立種を提唱しました。

    ここで大事なのは、

    「一か所だけ違うから新種」

    ではないことです。

    一つ一つの差ではなく、

    複数の特徴をまとめて比較する。

    それが分類の材料になります。

    名前は「mariamadre」

    新しく提唱された種小名は、

    mariamadre。

    由来はとてもシンプルです。

    このカメが暮らす、

    María Madre Island。

    島の名前そのものから付けられました。

    だから、

    Kinosternon mariamadre。

    直訳すれば、

    「マリア・マドレのドロガメ」

    というような名前です。

    なぜ島にだけ違うカメがいるのか

    論文では、

    このカメが人間によって島へ持ち込まれた証拠は確認されておらず、

    島が地理的に隔離された歴史の中で独自化した可能性を考えています。

    島は、

    進化を考えるうえで非常に面白い場所です。

    海によって隔離される。

    本土の仲間と交わらなくなる。

    何千年。

    何万年。

    もっと長い時間。

    別々の環境で暮らす。

    その結果、

    同じ祖先から始まっても、

    少しずつ違う特徴を持つようになることがあります。

    でも――「新種記載=分類確定」ではない

    ここからが、

    今回の記事で一番重要です。

    論文が、

    K. mariamadreを新種として記載した。

    だったら、

    今日から世界中で新種として確定。

    ――ではありません。

    分類学では、

    新しい研究が発表されると、

    他の研究者がその証拠を検討します。

    賛成する研究者もいる。

    別の分析をする研究者もいる。

    もっとDNAを調べる必要があると考える人もいる。

    そして、

    結論が変わることもあります。

    2026年現在、独立種として扱わない資料もある

    実際、

    爬虫類分類の主要なデータベースであるThe Reptile Databaseでは、

    2026年現在、

    Kinosternon mariamadreをK. integrumの同物異名

    として扱っています。

    同じ2025年に記載されたK. iversoniも、

    同様にK. integrum側へまとめられています。

    つまり現在、

    二つの見方があります。

    2025年の新種記載論文:

    「マリア・マドレ島の個体群は独立種 K. mariamadre」

    一方、現在の主要分類整理:

    「独立種とするには至らず、K. integrumとして扱う」

    という状況です。

    世界のカメ分類は、まだ動いている

    IUCN SSCのTortoise and Freshwater Turtle Specialist Groupが2025年に公表した、

    Turtles of the World 第10版

    には、

    現生カメ類として364種が掲載されています。

    そして、このチェックリスト自身が、

    近年提唱された分類変更や、

    まだ議論が続いている分類を継続的に整理しています。

    カメの種類数は、

    永久に固定された数字ではありません。

    新種が記載される。

    一つだった種が分かれる。

    逆に、

    二種だと思われていたものが一種へ戻される。

    亜種が種になる。

    種が亜種になる。

    「カメとは何種類いるのか」という問い自体が、現在進行形なんです。

    DNAを読めば全部解決するのか?

    ここも面白いところです。

    今回のK. mariamadreの新種記載は、

    主に、

    形態・計測値・色彩

    を使った分類研究です。

    では、

    DNAを調べれば一発で答えが出るのか。

    必ずしも、

    そう単純でもありません。

    遺伝的にどれだけ離れれば別種なのか。

    形態差はどの程度重要なのか。

    交雑できるか。

    地理的に隔離されているか。

    進化的に独立した系統なのか。

    「種とは何か」そのものに、

    複数の考え方があります。

    だから、

    DNAも、

    形も、

    分布も、

    生態も、

    全部が証拠になります。

    そもそも「種」って何だろう

    普段、

    僕たちは、

    ミシシッピアカミミガメ。

    クサガメ。

    ニホンイシガメ。

    というように、

    種類が最初から決まっているものだと思っています。

    でも、

    自然の中には、

    「ここから先が別種です」

    という線は引かれていません。

    人間が、

    違いを観察する。

    比較する。

    進化の歴史を考える。

    そして、

    名前を付ける。

    分類とは、

    自然界に貼られているラベルを読む仕事ではなく、人間が自然の違いをどう理解するかという仕事

    でもあるんですね。

    新種は「見つける」だけではない

    今回のニュースを見ていると、

    「新種発見」

    という言葉の印象も少し変わります。

    新種と聞くと、

    探検家がジャングルへ入る。

    変なカメが出てくる。

    誰も見たことがない。

    新種だ!

    そんなイメージがあります。

    でも、

    K. mariamadreは違います。

    1881年には、

    標本があった。

    1885年には、

    論文に登場した。

    1897年にも採集された。

    1925年にも。

    1957年にも。

    人間は、

    ずっと知っていました。

    そして、

    2025年。

    知っていたものを見直した結果、「別のものかもしれない」と気付いた。

    新種は、

    必ずしも、

    新しく見つかった生物ではないんですね。

    博物館の標本は「過去」ではない

    僕が今回かなり面白いと思ったのが、

    博物館標本の存在です。

    100年以上前に採集されたカメ。

    普通に考えれば、

    昔の資料です。

    でも、

    分類研究では、

    その標本が2025年になって再び主役になる。

    測り直す。

    別の標本と比較する。

    採集記録を見る。

    生前の色彩記録を読む。

    新しい研究方法で、

    古い標本へもう一度質問する。

    標本は、

    「昔のカメを保存している」

    だけじゃない。

    未来の研究者が、まだ思いついていない質問に答える資料

    でもあるんですね。

    一匹の名前が変わると、地図も変わる

    もし、

    K. mariamadreが独立種として認められるなら、

    世界のカメ分布図にも、

    新しい一点が加わります。

    メキシコ。

    太平洋。

    トレス・マリアス諸島。

    マリア・マドレ島。

    そこだけに、

    一種類のカメがいる。

    一方、

    K. integrumの一地域個体群として扱うなら、

    もっと広く分布する種類の、

    孤立した島嶼個体群になります。

    カメそのものは、

    昨日も今日も同じです。

    でも、

    人間の理解が変わると、

    そのカメが世界の中で占める意味まで変わります。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番面白いと思うのは、

    「まだ答えが決まっていない」

    ことです。

    新種です。

    終わり。

    ではない。

    新種として記載された。

    別の研究者が見る。

    本当に違うのか。

    標本を見る。

    DNAを見る。

    形を見る。

    昔の論文を見る。

    また議論する。

    もしかすると、

    数年後には、

    K. mariamadreが広く独立種として認められているかもしれない。

    逆に、

    K. integrumとして定着しているかもしれない。

    今、

    僕たちは、

    カメの名前が決まっていく途中を見ている。

    それが、

    すごく面白い。

    保護されたカメ。

    放流されたカメ。

    繁殖したカメ。

    それだけじゃない。

    「お前は一体、何というカメなんだ?」

    というニュースも、

    世界にはあるんですね。

    湯川亀吉の一言

    新種見つけてみたいね〜

    出典

    Chelonological Contributions / theTurtleRoom
    Joseph-Ouni, M. et al.
    「New Species of Mud Turtle (Testudines: Kinosternidae) from the Tres Marías Islands, Nayarit, Mexico」
    2025年7月3日。Kinosternon mariamadreの新種記載、標本、分布、命名、分類史について。
    新種記載論文の紹介ページを見る

    Chelonological Contributions 原著論文PDF
    ホロタイプ、パラタイプ、1881年以降の標本記録、María Madre島のみという分布情報など。
    原著論文PDFを見る

    The Reptile Database
    「Kinosternon integrum」
    2026年現在、K. mariamadreとK. iversoniをK. integrumの同物異名として整理。
    現在の分類上の扱いを見る

    IUCN SSC Tortoise and Freshwater Turtle Specialist Group / Turtle Taxonomy Working Group
    「Turtles of the World: Annotated Checklist and Atlas of Taxonomy, Synonymy, Distribution, and Conservation Status, 10th Edition」
    2025年。世界の現生カメ類の最新分類・分類変更・論争を整理したチェックリスト。
    Turtles of the World 第10版を見る

  • 【世界の亀ニュース】ウェールズから8,000km ケンプヒメウミガメ「Rhossi」が2年8か月かけてテキサスへ

    【世界の亀ニュース】ウェールズから8,000km ケンプヒメウミガメ「Rhossi」が2年8か月かけてテキサスへ

    今回は、本来の生息地から約8,000kmも離れたイギリス・ウェールズの海岸で発見されたケンプヒメウミガメが、約2年8か月の治療を経てアメリカ・テキサス州まで戻ってきたニュースを紹介します。

    名前は、

    Rhossi(ロッシ)。

    メキシコ湾へ帰るまで、あと少し。

    しかし最後の健康診断で、もう一つ乗り越えなければならない問題が見つかりました。

    今回のニュース

    2026年8月10日、ケンプヒメウミガメのRhossiが、イギリス・ウェールズからアメリカ・テキサス州へ到着しました。

    Rhossiが発見されたのは2023年12月。

    場所はウェールズ北西部、アングルシー島のRhosneigr周辺の海岸です。

    本来ケンプヒメウミガメが主に暮らすメキシコ湾から、およそ5,000マイル、約8,000km離れた場所でした。

    発見時のRhossiは、冷たい海水によって体の機能が低下する**「コールドスタン(cold-stunning)」**の状態でした。

    体重はわずか約2ポンド、約0.9kg。

    その後、Anglesey Sea Zooで長期間の治療とリハビリを受け、2026年には約46ポンド、約21kgまで成長しました。

    そして約2年8か月後。

    Rhossiはついに大西洋を渡り、メキシコ湾への野生復帰を目指してテキサスへ戻ってきました。

    どこの国・地域の話か

    発見地:イギリス・ウェールズ、アングルシー島
    保護施設:Anglesey Sea Zoo
    移送先:アメリカ合衆国・テキサス州、Houston Zoo
    到着日:2026年8月10日
    Houston Zoo発表:2026年8月14日
    対象種:ケンプヒメウミガメ
    情報の種類:ウミガメ・救助・リハビリ・国際移送・野生復帰

    今回の移送には、Anglesey Sea Zoo、Houston Zoo、Texas State Aquarium、NOAA、U.S. Fish & Wildlife Serviceなど、イギリスとアメリカの複数の機関が関わっています。

    一匹のカメを野生へ戻すために、二つの国と複数の組織が動きました。

    登場する亀

    今回の主役は、ケンプヒメウミガメです。

    学名は Lepidochelys kempii。

    英語ではKemp’s Ridley Sea Turtleと呼ばれます。

    NOAA Fisheriesによると、ケンプヒメウミガメは世界で最も小型のウミガメです。

    成体でも甲長はおよそ2フィート、約60cm。

    体重はおよそ70〜100ポンド、約32〜45kgです。

    成体の甲羅は灰緑色を帯び、腹側は淡い黄色。

    頭部は三角形に近く、少し鉤状になった嘴を持っています。

    ケンプヒメウミガメの中心はメキシコ湾

    ケンプヒメウミガメの主な生息地はメキシコ湾です。

    特に繁殖地はメキシコ北東部へ集中しています。

    NOAAによると、世界のケンプヒメウミガメの産卵の約95%がメキシコ・タマウリパス州で確認されています。

    Rancho Nuevo。

    Tepehuajes。

    Barra del Tordo。

    こうした海岸が、世界に残るケンプヒメウミガメにとって極めて重要な場所になっています。

    テキサスでも産卵は確認されますが、中心となる繁殖地はメキシコ側です。

    それなのに、なぜウェールズにいたのか

    ケンプヒメウミガメの幼体は、メキシコ湾だけで一生を過ごすわけではありません。

    孵化した子ガメの一部は海流に乗り、フロリダ周辺から大西洋へ出ます。

    若い個体はアメリカ東海岸を北上することがあり、カナダのノバスコシア付近まで確認されています。

    さらに少数ですが、アゾレス諸島、イギリス周辺、地中海など、大西洋東部まで到達した記録もあります。

    つまり、

    ウェールズで見つかったこと自体は、

    「絶対にあり得ない」

    というわけではありません。

    問題は、その海の温度です。

    冷たい海で動けなくなる「コールドスタン」

    ウミガメは外部の温度によって体温が大きく左右されます。

    水温が急激に低下すると、体の働きも低下します。

    泳げなくなる。

    餌を食べられなくなる。

    水面へ呼吸に上がることさえ難しくなる。

    こうした状態が「コールドスタン」です。

    Anglesey Sea Zooは、冷たい海に入り込んだウミガメでは代謝機能が低下し、そのまま海流に流され、海岸へ打ち上げられることがあると説明しています。

    Rhossiも、まさにその状態で見つかりました。

    見つけたのは、一匹の犬だった

    2023年12月。

    アングルシー島の海岸で、Rhossiを最初に発見したのは地元の人と一緒に歩いていた犬でした。

    海岸へ打ち上げられた小さなウミガメ。

    体重は約0.9kg。

    冷たい北大西洋の海水によって衰弱していました。

    もし誰にも見つからなければ、

    そのまま波打ち際に残されていたかもしれません。

    でも、一匹の犬が立ち止まった。

    そこからRhossiの帰還計画が始まりました。

    体温は急に上げればいいわけではない

    冷え切ったカメを見つけると、

    すぐ暖かくしてあげたくなります。

    しかし、Anglesey Sea Zooによれば、コールドスタンしたウミガメの体温を急激に上げることには危険があります。

    体への負担を避けるため、

    少しずつ。

    慎重に。

    状態を確認しながら体温を戻していく必要があります。

    食べられるようになるまで体を回復させる。

    泳げるようにする。

    体力を戻す。

    それを何日、何週間、何か月と続ける。

    Rhossiはそのままウェールズで約2年8か月を過ごしました。

    0.9kgから21kgへ

    発見時は約0.9kgだったRhossi。

    2026年にテキサスへ渡る頃には、約21kgまで成長していました。

    海岸で犬に発見された小さな幼体から、

    両手で簡単には抱えられない大きさへ。

    治療だけではありません。

    食べる。

    泳ぐ。

    成長する。

    毎日その状態を確認する。

    Anglesey Sea Zooで過ごした時間そのものが、Rhossiの成長期でもありました。

    でも、イギリスの海へは放せない

    元気になった。

    泳げるようになった。

    だからウェールズの海へ戻そう。

    とはいきません。

    ケンプヒメウミガメが本来暮らす中心的な環境は、暖かいメキシコ湾です。

    Rhossiがウェールズへ到達したのは、

    そこで暮らすためではありません。

    海流によって、本来の生活圏から遠く離れた場所まで運ばれた結果です。

    だから野生復帰させるなら、

    ただ海へ放すのではなく、

    そのカメが生きていける海へ戻さなければならない。

    ここから問題になるのが、国境です。

    カメ一匹が国境を越える

    野生動物を国から国へ移動させることは、

    航空券を買って乗せれば終わり、

    という話ではありません。

    ケンプヒメウミガメは保護対象の野生動物です。

    輸送。

    輸出入。

    野生復帰。

    それぞれに許可と調整が必要になります。

    Anglesey Sea Zooは過去にも、同じケンプヒメウミガメの「Tally」をウェールズからテキサスへ戻しています。

    そのときは救助から放流まで20か月を要しました。

    Rhossiについても、帰還のための許可と体制が整うまで長い時間が必要になりました。

    ヘリコプターから大西洋横断便へ

    2026年8月。

    ついにRhossiの移送が始まりました。

    ウェールズからロンドン・ヒースロー空港まではヘリコプター。

    そこから航空機で大西洋を横断。

    そしてテキサスへ。

    総移動距離はおよそ5,000マイル、約8,000kmです。

    海流に流されて何千kmも移動したカメが、

    今度は人間の手によって、

    空を飛んで元の海へ近づいていきました。

    8月10日、テキサスへ到着

    8月10日。

    Rhossiはテキサスへ到着しました。

    空港ではHouston Zooのウミガメ担当スタッフと獣医師が健康状態を確認。

    その後、Houston Zooへ移動し、深い水槽へ入れられました。

    長時間の輸送直後です。

    すぐに放すのではなく、

    まず泳ぎ方。

    呼吸。

    反応。

    食欲。

    新しい環境への適応。

    そうした状態を観察します。

    最後の健康診断

    そして、野生復帰前の詳しい健康診断が行われました。

    担当したのはHouston Zooの獣医チーム。

    検査では、

    臓器。

    眼。

    口。

    甲羅。

    ヒレ。

    などを確認。

    さらにX線撮影とCTスキャンを行い、肺の状態まで調べました。

    外から見れば、

    Rhossiは元気でした。

    活発に動く。

    泳ぐ。

    反応する。

    Houston Zooも「healthy, active and vigorous」と表現しています。

    しかし、

    CT画像には別のものが写っていました。

    肺炎の痕跡

    Rhossiの肺には、

    まだ肺炎が残っている可能性を示す所見

    が確認されました。

    海へ帰る寸前でした。

    2年以上治療した。

    8,000km飛んできた。

    テキサスまで戻った。

    あと少し。

    それでも、

    放さなかった。

    Houston Zooは追加の観察と必要な治療を続けることを決めました。

    「元気そう」と「野生へ戻せる」は違う

    今回のニュースで、とても重要なのがここだと思います。

    Rhossiは、

    見た目には元気です。

    泳げる。

    食べられる。

    大きくなった。

    でも、

    野生へ戻せるかどうかは、それだけでは決められない。

    飼育施設なら、

    具合が悪くなれば人間が気づけます。

    餌もあります。

    治療もできます。

    ところが海へ入れば、

    そこから先はカメ自身です。

    泳ぐ。

    餌を捕る。

    潮流に逆らう。

    長距離を移動する。

    一度海へ返したあと、

    「やっぱり肺炎が悪化したから捕まえよう」

    ということは簡単にはできません。

    だから、

    最後の最後で立ち止まりました。

    放流延期は「失敗」ではない

    Houston Zooは、Rhossiのメキシコ湾への帰還について、

    当初想定していたより少し時間がかかるとしています。

    でも、

    これは失敗ではありません。

    むしろ、

    野生復帰を成功させるための判断です。

    海へ返したというニュースを早く作ることより、

    海へ返したあと、そのカメが生きられること

    のほうが重要です。

    世界最小のウミガメ

    Rhossiが属するケンプヒメウミガメには、もう一つ大きな特徴があります。

    世界で最も小型のウミガメです。

    成体でも甲長約60cm。

    大きなオサガメなどと比べれば、かなり小柄です。

    しかし、その生活史は壮大です。

    子ガメは海へ入り、

    海流へ乗り、

    何年も海を移動し、

    およそ13歳で成熟すると考えられています。

    そして雌は、

    自分たちの重要な繁殖地へ戻ってきます。

    昼間に集団産卵する珍しいウミガメ

    ケンプヒメウミガメは、

    「アリバダ」と呼ばれる集団産卵を行うことで知られています。

    多数の雌が同じ時期に海岸へ集まり、

    一斉に産卵します。

    さらにケンプヒメウミガメは、ウミガメの中でも珍しく主に昼間に産卵する種です。

    何百、何千という雌が砂浜へ上がる。

    卵を産む。

    数週間後、

    大量の子ガメが海へ向かう。

    その巨大な生命の流れの一匹が、

    海流に乗って大西洋を渡り、

    ウェールズまで到達した。

    それがRhossiです。

    一度は大きく減少したケンプヒメウミガメ

    現在、ケンプヒメウミガメはアメリカのEndangered Species Actで絶滅危惧種として保護されています。

    1947年にはメキシコのRancho Nuevoで、一日に数万匹規模の雌が産卵する様子が記録されていました。

    しかし20世紀後半に個体数は急減。

    1985年には年間702巣まで落ち込みました。

    その後、産卵地保護や漁業対策などによって回復が進みましたが、2010年以降は増加傾向が止まり、巣数は変動しています。

    だからこそ、

    一匹を野生へ返す意味も小さくありません。

    一匹を返すために、国を越えて人がつながった

    今回Rhossiに関わったのは、一つの水族館だけではありません。

    Anglesey Sea Zoo。

    Houston Zoo。

    Texas State Aquarium。

    NOAA。

    U.S. Fish & Wildlife Service。

    そのほか複数の関係者。

    二つの大陸にまたがる協力によって、Rhossiはテキサスまで戻ってきました。

    一匹のカメが、

    人間の組織を国境の向こう側までつなげたことになります。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番注目したいのは、

    「あと少しなのに、放さなかった」

    というところです。

    2年以上育てた。

    許可も取った。

    飛行機も飛ばした。

    8,000km運んだ。

    メキシコ湾はもう目の前。

    普通なら、

    ここまで来たら海へ返したくなる。

    物語としても、

    「ついに故郷の海へ!」

    で終わったほうがきれいです。

    でも、

    CTを撮った。

    肺を見た。

    まだ心配がある。

    だから止めた。

    ニュースとしてきれいに終わることより、

    一匹のカメが生きることを優先した。

    僕は、

    そこが今回の保護活動で一番大事なところだと思います。

    湯川亀吉の一言

    亀はけっこう肺炎になるんだよね〜。

    僕も、昔飼ってた亀が肺炎にかかってしまって、治療費が10万円くらいかかったよ。

    出典

    Houston Zoo
    「Rhossi’s Road Home: One More Step Toward the Gulf」
    2026年8月14日。

    Anglesey Sea Zoo
    「Turtle Rescue & Rehab – Rhossi the Kemp’s Ridley」
    Rhossiの救助・リハビリ・帰還計画について。

    NOAA Fisheries
    「Kemp’s Ridley Turtle」
    ケンプヒメウミガメの分布、生態、繁殖、個体群、保全状況について。

    The Guardian
    「Rhossi, a rare sea turtle, recovers after 5,000-mile trek from Wales to Texas」
    2026年8月17日。

  • 【世界の亀ニュース】アカウミガメの巣4,100個超 米ジョージア州で過去最多を更新

    【世界の亀ニュース】アカウミガメの巣4,100個超 米ジョージア州で過去最多を更新

    今回は、アメリカ・ジョージア州の海岸で、アカウミガメの巣が過去最多を更新したニュースを紹介します。

    今回のニュース

    2026年、アメリカ・ジョージア州で確認されたアカウミガメの巣が、これまでの記録を上回りました。

    ジョージア州自然資源局が参加するウミガメ巣穴監視システムによると、8月2日時点で州内の海岸から報告されたウミガメの巣は暫定4,169個。そのうち、4,107個がアカウミガメの巣です。

    これまでの最多記録は、2022年に確認された4,071個でした。2026年の産卵シーズンはまだ完全には終わっておらず、最終的な数はさらに増える可能性があります。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:アメリカ合衆国、ジョージア州
    主な地域:大西洋沿岸の島々と砂浜
    元記事の言語:英語
    集計時期:2026年8月2日時点
    情報の種類:新着ニュース・ウミガメ・産卵・繁殖・保護活動

    ジョージア州では、カンバーランド島、オサボー島、セントキャサリンズ島、ジキル島、タイビー島など、多数の海岸でウミガメの産卵調査が行われています。

    州の沿岸約150キロを対象に、ボランティア、研究者、行政職員らが巣を探し、保護し、孵化状況を記録しています。

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、アカウミガメです。

    学名は Caretta caretta。英語ではLoggerhead Sea Turtleと呼ばれます。

    名前のとおり、ほかのウミガメと比べて大きく頑丈な頭を持っています。強い顎でカニや貝などの硬い獲物をかみ砕き、大西洋、太平洋、インド洋などの広い海域を移動します。

    アメリカのジョージア州では、海岸へ産卵に来るウミガメの大部分をアカウミガメが占めています。アメリカでは保護対象となっており、ジョージア州のウミガメ保護活動でも中心となる種です。

    ニュースの要約

    2026年の産卵シーズンに、ジョージア州で最初のアカウミガメの巣が確認されたのは5月5日でした。

    それから約3か月の間に、州内の各地で次々と巣が発見されました。

    8月2日時点の暫定集計では、アカウミガメの巣が4,107個、アオウミガメの巣が5個、ケンプヒメウミガメの巣が4個、種を確定できていない巣が53個確認されています。

    産み落とされた卵の推定数は、すでに16万個を超えています。

    一部の巣では孵化も始まり、同日の集計では約5万6,800匹の子ガメが巣から出たと記録されています。ただし、これらは産卵・孵化シーズン途中の暫定値であり、今後も更新されます。

    2022年の記録を超えた

    ジョージア州では、1989年に州内の主要な海岸を対象とした本格的な調査が始まりました。

    それ以降の最多記録は、2022年の4,071個でした。2022年には、26万匹を超えるアカウミガメの子どもが海へ向かったとされています。

    2026年は、産卵シーズンが始まる前から、巣の多い年になると予測されていました。

    6月22日の時点ですでに2,366個の巣が確認され、その後も急速に数が増えました。そして8月初め、アカウミガメだけで4,100個を超え、2022年の記録を更新しました。

    なぜ今年は巣が多いのか

    アカウミガメの雌は、毎年必ず産卵するわけではありません。

    一度の産卵シーズンに複数回の巣を作ったあと、次の産卵まで2年から3年ほど間を空ける個体もいます。

    そのため、巣の数は毎年一定ではなく、数年おきに大きく増えることがあります。ジョージア州の研究者たちは、2026年がそうした「多くの雌が同じ年に戻ってくる年」になると予測していました。

    ただし、2026年には、例年より多くの雌が同じ時期に集中して産卵する「波」のような動きも確認されています。

    なぜ産卵の時期がこれほど重なったのかは、まだ完全には分かっていません。研究者たちは卵から採取したDNAや産卵記録を調べ、その原因を探っています。

    タイビー島でも島の記録を更新

    観光地として知られるタイビー島でも、2026年は過去最多の産卵シーズンとなりました。

    これまでの島の最多記録は2022年の35個でしたが、7月15日の時点ですでに49個へ到達。その後も増え続け、8月2日時点の監視記録では、53個のアカウミガメの巣が報告されています。

    タイビー島では毎朝、訓練を受けたボランティアが海岸を歩き、前夜に残された母ガメの足跡を探しています。

    巣が見つかると場所を特定し、印を付けて保護します。高潮による浸水の危険が高い場所では、許可を受けた担当者が卵を安全な位置へ移すこともあります。

    数が増えても、すべての卵が孵化するわけではない

    巣の数が過去最多になったことは、大きな希望です。

    しかし、産み落とされた卵がすべて子ガメになるわけではありません。

    高潮や嵐で巣が浸水することもあります。捕食者に卵を食べられることもあります。砂浜に残された深い穴や椅子、テント、ゴミが、母ガメや子ガメの進路を塞ぐこともあります。

    さらに、海岸沿いの人工照明は、子ガメが進む方向を狂わせます。子ガメは本来、暗い砂浜から海側の明るい地平線へ向かいますが、建物や道路の光に引き寄せられると、海とは反対側へ進んでしまうことがあります。

    タイビー島の保護関係者は、海岸を「平らに、きれいに、暗く」保つよう呼びかけています。

    砂の穴を埋める。
    砂の城を崩す。
    ゴミや道具を持ち帰る。
    夜は海岸に向けた照明を消す。

    一つひとつは小さな行動ですが、母ガメが巣を作り、子ガメが海へ向かうためには重要なことです。

    長い保護活動が数字になって現れた

    ジョージア州では、1990年代初めにウミガメ保護活動が本格化して以降、アカウミガメの巣が平均して年間約4%ずつ増加してきたとされています。

    毎朝、海岸を歩く。

    足跡を見つける。

    砂の下の卵を確認する。

    巣を囲い、嵐や捕食者、人間の活動から守る。

    そして、子ガメが海へ向かったあと、巣を調査して結果を記録する。

    2026年の4,100個を超える巣は、突然現れた数字ではありません。

    何十年も前から続けられてきた調査と保護の結果が、長い時間を経て現れ始めたものだと考えられます。

    記録更新でも、保護は終わらない

    巣が過去最多になったからといって、アカウミガメが完全に安全になったわけではありません。

    アカウミガメは現在も保護対象であり、海岸の開発、人工照明、漁業による混獲、海洋ごみ、生息環境の変化など、さまざまな危険にさらされています。

    また、巣が増えたことと、海で暮らすアカウミガメ全体の個体数が同じ割合で回復したことは、必ずしも同じではありません。

    子ガメが海へ入り、成長し、再び産卵できる年齢になるまでには長い時間がかかります。

    2026年に生まれた子ガメたちが、いつか同じ砂浜へ戻ってくる。その未来まで保護が続いて、初めて今回の記録が次の世代へつながるのだと思います。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、4,100個を超える巣の一つひとつに、一匹の母ガメの移動があることです。

    海の中から砂浜へ上がる。

    重い体を前肢で引きずりながら、波の届きにくい場所まで進む。

    砂を掘り、卵を産み、穴を埋める。

    そして、再び大西洋へ帰っていく。

    人間が記録するのは「巣の数」です。

    でも、その数字の中には、夜の砂浜を進んだ母ガメたちの時間が積み重なっています。

    4,107という数字は、4,107個の穴があったというだけではない。

    何千回もの上陸と産卵が、同じ海岸で繰り返されたということです。

    湯川亀吉の一言

    良かったね。

    出典

    Georgia DNR Sea Turtle Conservation Program
    「Sea Turtle Nest Monitoring System」

    Georgia Public Broadcasting
    「Georgia is on track for a record-high turtle nesting season. What’s behind the good news」

    Tybee Island Marine Science Center
    「Sea Turtle Nesting Season Updates」

    NOAA Fisheries
    「Loggerhead Turtle: Science」

  • 【世界の亀ニュース】アフリカの巨大リクガメが掘る穴は、生態系を動かしているのかもしれない

    【世界の亀ニュース】アフリカの巨大リクガメが掘る穴は、生態系を動かしているのかもしれない

    今回は、アフリカのサハラ砂漠南縁からサヘル地域に暮らす、ケヅメリクガメに関するニュースを紹介します。

    今回のニュース

    アフリカ大陸最大のリクガメとして知られるケヅメリクガメが掘る巣穴が、生態系に大きな役割を持っている可能性があると報じられました。

    Times of Indiaの記事では、ケヅメリクガメが暑さを避けるために掘る深い巣穴が、単なる避難場所ではなく、土壌や周囲の環境に影響を与える「生態系エンジニア」としての働きを持つ可能性があると紹介されています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:サハラ砂漠南縁・サヘル地域
    元記事の言語:英語
    公開時期:2026年7月
    情報の種類:新着ニュース・研究/生態系ニュース

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、ケヅメリクガメです。

    ケヅメリクガメは、アフリカ大陸最大のリクガメで、世界でもガラパゴスゾウガメ、アルダブラゾウガメに次いで大きいリクガメとして知られています。記事では、サハラ砂漠とサヘルの厳しい暑さの中で、ケヅメリクガメが深い巣穴を掘って暑さをしのいでいることが紹介されています。

    ニュースの要約

    ケヅメリクガメは、厳しい乾燥地帯で生きるために巣穴を掘ります。

    これまでは、その巣穴は主に「暑さや乾燥から身を守るための場所」として見られてきました。
    しかし、研究者たちは、こうした巣穴が土壌の状態や周囲の小さな生き物たちに影響を与えている可能性にも注目し始めています。

    記事では、ケヅメリクガメが「生態系エンジニア」として見られ始めていることが紹介されています。
    生態系エンジニアとは、自分の行動によって周囲の環境そのものを変えてしまう生き物のことです。たとえば巣穴を掘ることで、土の状態、湿度、他の生き物の隠れ場所、植物の生え方などに影響を与える可能性があります。

    一方で、ケヅメリクガメは絶滅危惧種とされており、もし個体数が減れば、その巣穴が持っていた生態系への働きも失われてしまうかもしれません。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、リクガメが“ただ歩いている生き物”ではなく、環境そのものを動かしているかもしれないという点です。

    亀は動きが遅い。
    だから、人間の目には「何もしていない」ように見えることがあります。

    でも、長い時間で見ると違う。

    のっし、のっしと大地を歩き、硬い土を掘り、巣穴を残し、そこに湿度や影が生まれる。
    その穴を他の生き物が使い、植物が変わり、土が変わる。

    亀の一歩や、亀が掘った穴は、人間が思うよりもずっと大きな意味を持っているのかもしれません。

    湯川亀吉の一言

    ケヅメリクガメはけっこうでかいね。

    出典

    元記事:Times of India「For thousands of years, this giant tortoise has been digging burrows across the Sahara, and scientists now think those tunnels may play a bigger ecological role than anyone realised」

  • 【世界の亀ニュース】オーストラリアで珍しいハイブリッドのウミガメが孵化

    【世界の亀ニュース】オーストラリアで珍しいハイブリッドのウミガメが孵化

    今回は、オーストラリア・クイーンズランド州で報じられた、珍しいハイブリッドのウミガメの赤ちゃんに関するニュースを紹介します。

    今回のニュース

    オーストラリア・クイーンズランド州のモンレポスで、アカウミガメとアオウミガメのハイブリッドとみられる赤ちゃんガメが発見されました。

    クイーンズランド州政府の発表によると、この赤ちゃんガメは、モンレポスの海岸で見つかったアカウミガメ × アオウミガメのハイブリッド個体で、研究のために2匹がゴールドコーストのSea Worldへ安全に運ばれたとされています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:オーストラリア、クイーンズランド州、モンレポス
    元記事の言語:英語
    公開時期:2026年5月23日
    情報の種類:新着ニュース・孵化・研究ニュース

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、アカウミガメとアオウミガメのハイブリッドとみられる赤ちゃんガメです。

    クイーンズランド州には、世界にいる7種のウミガメのうち6種が生息しており、その中には絶滅危惧種のアカウミガメやアオウミガメも含まれています。また、モンレポス保護公園は、オーストラリア東海岸本土で最も多くのウミガメが産卵する場所として紹介されています。

    ニュースの要約

    今回、クイーンズランド州の環境・観光・科学・イノベーション省は、モンレポスの海岸でアカウミガメとアオウミガメのハイブリッドとみられる赤ちゃんガメの卵塊を確認しました。

    そのうち2匹はSea Worldへ運ばれ、健康状態、食事、成長の様子などを観察しながら研究される予定です。州政府の担当者は、ウミガメ同士のハイブリッド化は珍しいものの、すべてのウミガメ種で記録されたことがあると説明しています。

    また、クイーンズランド州では2014年以降、共同で行われている「Nest to Turtle Protection program」により、4万以上の巣が監視され、推定250万匹の赤ちゃんガメが安全に海へ向かったと紹介されています。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、ハイブリッドの赤ちゃんガメが、ただ珍しい存在として扱われているだけではないという点です。

    見た目の珍しさだけで終わる話ではなく、研究者たちは、その成長や体の特徴、生殖できる可能性などを慎重に観察しようとしています。

    ウミガメは、海を越えて長い距離を移動し、同じ海岸へ戻ってくる生き物です。
    その長い時間と移動の中で、異なる種類同士が出会い、まれにこうした存在が生まれる。

    亀の世界は、僕たちが思っているよりもずっと広く、複雑で、まだわからないことが多いのかもしれません。

    湯川亀吉の一言

    ハイブリッドのウミガメか〜!!
    オラ、わくわくすっぞ!!

    出典

    元記事:Queensland Government Department of the Environment, Tourism, Science and Innovation「Rare hybrid turtles hatched at Mon Repos」