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  • 【世界の亀ニュース】約4000万年前の新種ウミガメをカザフスタンで記載 わずかな頭骨が明かした「失われた海」

    【世界の亀ニュース】約4000万年前の新種ウミガメをカザフスタンで記載 わずかな頭骨が明かした「失われた海」

    カザフスタン。

    この国の名前を聞いて、

    ウミガメを思い浮かべる人は、

    あまりいないと思います。

    広大な草原。

    乾燥地帯。

    砂漠。

    大陸の真ん中。

    海から遠く離れた国。

    でも、

    約4000万年前。

    そこには、

    ウミガメが泳いでいました。

    しかも、

    一種類ではありません。

    2026年9月。

    その古代の海から見つかっていた骨を研究した古生物学者たちが、

    これまで知られていなかった新しい種類のウミガメ

    を正式に記載しました。

    名前は、

    Argillochelys foveopalatus。

    約38〜40百万年前、

    始新世中期の海を泳いでいたカメです。Taylor & Francis Online

    今回のニュース

    研究成果が発表されたのは、

    2026年9月10日。

    国際古生物学誌、

    Historical Biology

    に掲載されました。

    研究を行ったのは、

    I. G. Danilov氏、

    E. A. Zvonok氏、

    A. V. Panteleev氏、

    K. M. Akhmedenov氏、

    D. B. Yakupova氏らによる研究チーム。

    ロシア科学アカデミー動物学研究所と、

    カザフスタンのMakhambet Utemisov West Kazakhstan Universityなどの研究者が参加しています。Taylor & Francis Online

    論文のタイトルは、

    “A new species of Argillochelys (Testudines: Pan-Cheloniidae) from the Bartonian of Kazakhstan”

    つまり、

    「カザフスタンのバートニアンから発見されたArgillochelys属の新種」

    です。Taylor & Francis Online

    新種の名前は「Argillochelys foveopalatus」

    今回記載されたのは、

    Argillochelys foveopalatus。

    現在のところ一般的な日本語名はありません。

    だからこの記事では、

    学名をそのまま、

    アルジロケリス・フォヴェオパラトゥス

    と呼ぶことにします。

    分類上は、

    Pan-Cheloniidae

    というグループに含められています。Taylor & Francis Online

    これは、

    現在生きているアオウミガメやアカウミガメなどを含む「ウミガメ科」につながる、

    より広い進化系統を示す分類です。

    つまり、

    「現代のウミガメとまったく同じ種類」

    ではありません。

    かといって、

    ウミガメとは関係のない古代ガメでもない。

    現代のウミガメへ続く巨大な進化の枝の中にいたカメ

    と考えると分かりやすいと思います。

    完全な一匹が見つかったわけではない

    ここが、

    今回の研究の面白いところです。

    発見されたのは、

    完全な骨格ではありません。

    甲羅一枚。

    全身骨格。

    完全な頭骨。

    そういう分かりやすい標本ではない。

    新種記載の中心になったのは、

    部分的な頭骨と、下顎の骨。

    化石は、

    カザフスタン西部のマンギスタウ半島にある、

    KarakeshiとMonataという場所のShorym Formationから得られました。

    さらに、

    マンギスタウ半島の別の産地からも標本があります。Taylor & Francis Online

    つまり、

    研究者が手にしていたのは、

    約4000万年前のカメの、

    頭の一部分。

    それでも、

    新種だと判断できました。

    カメの「口の中」が決め手になった

    僕は今回、

    ここがかなり好きです。

    新種を見分ける大きな手がかりになったのは、

    甲羅の模様でも、

    身体の色でも、

    大きなヒレでもありません。

    口蓋。

    つまり、

    口の中の天井部分です。

    研究チームは、

    このカメの口蓋骨に、

    他のPan-Cheloniidaeでは確認されていない非常に変わった構造を発見しました。

    通常とは異なり、

    口蓋骨が縫合線によって二つの部分へ分かれている。

    この特徴は、

    今回の研究ではPan-Cheloniidaeの中で独特なものとされています。Taylor & Francis Online

    「ほんの少し形が違う」だけではない

    さらに、

    翼状骨と呼ばれる頭蓋骨の部分にも特徴があります。

    一般的な近縁種に見られる、

    腹側中央の隆起がありません。

    この特徴も、

    Pan-Cheloniidaeの中では珍しいものです。Taylor & Francis Online

    そして、

    上顎と下顎の、

    食べ物を噛み合わせる部分。

    これも、

    滑らかな面ではありませんでした。

    凹凸や稜がある咀嚼面

    を持っていたことが報告されています。Taylor & Francis Online

    ただし、

    ここから、

    「このカメは絶対に○○を食べていた」

    とまでは言えません。

    口の形は食性を考える重要な手がかりになりますが、

    今回の研究の主目的は、

    まず、

    この骨がどのカメに属するのかを分類すること

    だからです。

    子どものカメらしき骨も見つかっている

    さらに面白い化石があります。

    Kuyulusという場所から見つかった下顎骨です。

    研究チームは、

    これらを、

    cf. Argillochelys foveopalatus

    としています。

    「cf.」は、

    簡単に言えば、

    この種によく似ており、おそらく同じ種類だが断定まではしない

    という慎重な表現です。

    しかも、

    これらは、

    若い個体だった可能性

    があります。Taylor & Francis Online

    大人だけではない。

    もし本当に同じ種類なら、

    約4000万年前のこの海には、

    若いアルジロケリスも存在していたことになります。

    今のカザフスタンとは、まったく違う世界だった

    現在、

    マンギスタウ半島周辺を見ると、

    乾燥した岩場が広がっています。

    でも、

    この化石が形成された始新世中期には、

    景色はまったく違いました。

    Shorym Formationは、

    主に薄く積み重なった褐色の泥灰岩などで構成され、

    魚類をはじめとした海洋生物の化石を多く含みます。ResearchGate

    つまり、

    現在の乾いた大地の下には、

    かつてそこが海だった時代の記録が、

    地層として残っています。

    今、

    砂と岩の大地を歩く。

    その足元に、

    4000万年前の海底がある。

    そして、

    そこからウミガメの頭骨が出てくる。

    なんだか、

    ものすごい話です。

    その海は「テチス海」につながっていた

    当時、

    現在のヨーロッパから中央アジア周辺には、

    現在とはまったく異なる巨大な海洋環境が広がっていました。

    研究者たちは、

    Argillochelysの分布を、

    Peri-Tethyan region=テチス海周辺地域

    と関連付けています。

    過去のArgillochelysの記録は、

    西ヨーロッパ。

    東ヨーロッパ。

    そして、

    カザフスタン。

    という広い範囲から知られています。ジン

    つまり、

    アルジロケリスたちは、

    現在の国境など存在しない、

    巨大な古代の海を泳いでいた可能性があります。

    Argillochelysは昔から知られていた

    ここも区別しておきたいところです。

    今回、

    「Argillochelysというカメが初めて見つかった」

    わけではありません。

    Argillochelysという属そのものは、

    19世紀から知られていました。

    初期の代表的な化石は、

    イギリスの始新世の地層から知られています。後の研究では、Argillochelysの化石記録は西ヨーロッパだけでなく、東ヨーロッパや中央アジアにも広がることが示されてきました。Copernicus

    今回新しいのは、

    そのArgillochelys属に、新しい一種が加わった

    ということです。

    Argillochelys foveopalatus。

    2026年になって、

    約4000万年前の生物へ、

    ようやく名前が付きました。

    「新種発見」は、生きている動物だけではない

    「新種」

    と聞くと、

    ジャングルへ行く。

    見たことのないカメがいる。

    捕まえる。

    DNAを調べる。

    「新種だ!」

    という場面を想像するかもしれません。

    でも、

    古生物学では違います。

    その生き物は、

    何千万年も前に、

    もう絶滅している。

    残っているのは、

    骨だけ。

    それも、

    全部ではない。

    頭蓋骨の一部分。

    顎。

    甲羅の破片。

    それらを、

    すでに知られている何十種類もの化石と比較する。

    骨の角度を見る。

    縫合線を見る。

    口蓋を見る。

    顎を見る。

    そして、

    「これは、

    どれにも当てはまらない」

    となる。

    そこから、

    絶滅して4000万年経ったあとに、

    人間が初めてその生き物を一つの種として認識する。

    これも、

    新種発見です。

    しかも、この海には別のウミガメもいた

    さらに、

    マンギスタウ半島のShorym Formationから見つかっているウミガメは、

    今回の種類だけではありません。

    ここからは以前、

    Protrachyaspis shorymensis

    という別のPan-Cheloniidaeも記載されています。

    さらに、

    オサガメにつながるDermochelyidaeの化石も見つかっています。ジン

    つまり、

    約4000万年前のカザフスタンの海には、

    一種類のウミガメだけが、

    ぽつんと泳いでいたわけではない。

    形の違う複数のウミガメ類が共存していた。

    そんな海だった可能性があります。

    ウミガメの世界は、今よりずっと違っていた

    現在、

    僕たちが見るウミガメは、

    アオウミガメ。

    アカウミガメ。

    タイマイ。

    ヒメウミガメ。

    ケンプヒメウミガメ。

    ヒラタウミガメ。

    そして、

    オサガメ。

    かなり完成された、

    見慣れた「ウミガメの形」をしています。

    でも、

    4000万年前まで戻ると、

    世界はもっと複雑です。

    現在はいないウミガメの系統が、

    いくつも存在する。

    それぞれ、

    頭骨が違う。

    口の構造も違う。

    甲羅も違う。

    同じ海の中で、

    それぞれ別の生き方をしていたはずです。

    Argillochelys foveopalatusも、

    その失われた世界の一員です。

    でも、まだ全身像は分からない

    ここは、

    ヒーロー画像を作るときにも重要です。

    僕たちは、

    このカメの完全な姿を知りません。

    今回記載された中心的な標本は、

    部分頭骨と下顎です。Taylor & Francis Online

    だから、

    「アルジロケリス・フォヴェオパラトゥスは絶対にこういう姿だった」

    という完全復元図を、

    写真のように断定的に描くのは危険です。

    近縁種から、

    ある程度のウミガメらしい姿を想像することはできる。

    でも、

    頭の色。

    甲羅の色。

    模様。

    細かな身体形状。

    それらは、

    化石には残っていません。

    分からないところは、分からない。

    それも、

    このニュースの大事な部分だと思います。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回、

    僕が一番面白いと思うのは、

    「新種を見つけた場所が、口の中だった」

    というところです。

    4000万年前。

    ウミガメが泳いでいる。

    死ぬ。

    骨が海底へ沈む。

    地層になる。

    海がなくなる。

    大陸の景色が変わる。

    4000万年経つ。

    人間が骨を見る。

    そして、

    口蓋の、

    ほんの小さな縫合線を見る。

    「おかしい。」

    他のカメにはない。

    もう一度見る。

    比較する。

    そして、

    一種類の生き物が、

    4000万年ぶりに、

    世界へ現れる。

    身体はもうない。

    海もない。

    でも、

    骨の形だけで、そのカメがいたことが分かる。

    古生物学って、

    ものすごく面白いです。

    湯川亀吉の一言

    カザフスタンとか、あのへんの国は憧れるな〜

    どんな地域なんだろうな。

    行ってみたいな。

    出典

    Historical Biology

    I. G. Danilov, E. A. Zvonok, A. V. Panteleev, K. M. Akhmedenov, D. B. Yakupova
    “A new species of Argillochelys (Testudines: Pan-Cheloniidae) from the Bartonian of Kazakhstan”
    2026年9月10日公開。Argillochelys foveopalatusの新種記載、標本、診断形質などの原著論文です。Taylor & Francis Online

    原著論文を見る

    Luhansk State Pedagogical University

    マンギスタウ半島の新種化石について、年代を約3800〜4000万年前とし、Shorym Formationの地質やArgillochelysの古地理的分布を紹介しています。Ifvis

    Proceedings of the Zoological Institute RAS

    Shorym Formationから知られる他の古代ウミガメ類や、同地域の始新世ウミガメ相についての研究。

  • 【世界の亀ニュース】頭が2つあるキスイガメ誕生 わずか5.2gの身体で「二つの頭」はどう生きる?

    【世界の亀ニュース】頭が2つあるキスイガメ誕生 わずか5.2gの身体で「二つの頭」はどう生きる?

    カメがいる。

    小さい。

    生まれたばかりの、

    キスイガメ。

    でも、

    何かがおかしい。

    頭が、

    二つある。

    2026年9月。

    アメリカ・マサチューセッツ州ケープコッドのWellfleetで、

    非常に珍しいキスイガメの幼体が見つかりました。

    体重、

    わずか5.2g。

    このカメには、

    二つの頭があります。

    この状態は、

    bicephaly(双頭・二頭症)

    と呼ばれる発生異常です。 CBS News

    今回のニュース

    この幼体が見つかったのは、

    Mass Audubonが管理するWellfleet Bay周辺の、

    保護されたキスイガメの営巣地。

    その後、

    Mass Audubon Wellfleet Bay Wildlife Sanctuaryから、

    BarnstableにあるBirdsey Cape Wildlife Centerへ運ばれました。

    2026年9月22日にも、

    施設で体重測定や観察が続けられている様子が撮影されています。 Reuters Connect

    Cape Wildlife Centerによると、

    同施設が過去5年間に扱った双頭個体は、

    今回とは別に2例。

    つまり、

    今回で少なくとも3例目になります。 Reuters Connect

    それでも、

    施設側は、

    「特に珍しいケース」

    としています。 CBS News

    登場する亀

    今回の主役は、

    キスイガメ。

    学名、

    Malaclemys terrapin。

    英名、

    Diamondback Terrapin。

    日本の経済産業省によるCITES関連資料でも、Malaclemys terrapinには「キスイガメ」という和名が使われています。 経済産業省

    このカメ、

    生態そのものもかなり変わっています。

    北米のカメとしては唯一、

    汽水域に強く依存して暮らす種類です。

    海水と淡水が混ざる、

    河口。

    塩性湿地。

    沿岸の入り江。

    そんな場所で一生の大部分を過ごします。 国立公園局

    皮膚は、

    灰白色。

    そこへ、

    黒い斑点。

    甲羅には、

    名前の由来になった、

    ダイヤモンド状の模様が入ります。

    かなり格好いいカメです。

    でも、今回の個体はさらに特殊だった

    双頭。

    一つの身体に、

    頭が二つ。

    でも、

    ここで注意したいことがあります。

    「頭が二つある」=「身体の内部構造もこうなっている」

    とは、

    まだ言えません。

    脊椎が何本あるのか。

    消化管は一つなのか二つなのか。

    肺はどうなっているのか。

    心臓や血管はどうつながっているのか。

    そして、

    どちらの頭が、

    どの手足を動かしているのか。

    今回の2026年個体について、

    そうした詳細な内部構造は、

    現時点では公表されていません。

    だから写真だけを見て、

    「二匹のカメが一つになっている」

    と断定することもできません。

    Cape Wildlife Centerも現在、

    食欲、成長、行動

    を中心に観察しています。 News Link Live

    二つの頭は、どう一つの身体を動かすのか?

    僕は、

    ここが一番気になります。

    右の頭が、

    右へ行きたい。

    左の頭が、

    左へ行きたい。

    もし、

    そうなったら?

    泳ぐときは?

    餌を見つけたときは?

    どちらが先に食べる?

    片方だけが眠ることはある?

    一つの刺激に、

    二つの頭が違う反応をすることはある?

    現在の研究チームが見ている、

    「behavior=行動」

    という言葉の中には、

    こうした非常に基本的な疑問が含まれているはずです。

    Cape Wildlife CenterのZak Mertz氏によると、

    初期段階ではこの幼体は通常に近い行動を示し、両側とも良好に見えるとされています。 CBS News

    ただし、

    それは長期的な生存を保証するものではありません。

    まだ、

    生まれたばかりです。

    実はケープコッドでは、2021年にも見つかっている

    今回のニュースには、

    興味深い前例があります。

    2021年。

    同じマサチューセッツ州ケープコッドで、

    やはり双頭のキスイガメが見つかりました。

    こちらは、

    さらに不思議な身体をしていました。

    頭が二つ。

    そして、

    脚が6本。

    検査では、

    二つの消化管。

    二つの脊椎。

    そしてその脊椎が身体の後方で一つにつながっている構造が確認されました。

    さらに観察では、

    左右の頭が別々のタイミングで水面へ呼吸に上がり、

    片側が3本の脚、

    もう片側が残り3本の脚を動かしていたと報じられています。 ワシントンポスト

    すごい。

    でも、

    今回の2026年個体も、

    同じ構造だとは限りません。

    ここは絶対に分けて考える必要があります。

    同じ「双頭」でも、

    身体がどの段階まで分かれているかは、

    個体ごとに異なる可能性があります。

    だから、今回のカメを調べる意味がある

    2021年個体を調べたから、

    もう分かった。

    ――ではありません。

    今回の幼体が、

    同じ身体構造をしているとは限らない。

    むしろ、

    違う可能性がある。

    だから、

    新しい個体が見つかるたびに、

    発生。

    神経。

    骨格。

    運動。

    消化。

    呼吸。

    こうした身体の仕組みについて、

    新しい情報が得られる可能性があります。

    Cape Wildlife Centerも、

    双頭個体を診るたびに、

    動物の解剖学や生理学について学ぶ機会になる

    と説明しています。 News Link Live

    なぜ頭が二つになる?

    ここは、

    まだ簡単には説明できません。

    双頭は、

    胚が成長する非常に早い段階で、

    身体の形成が通常とは異なる形で進んだ結果として起こります。

    ただし、

    今回の個体について、

    「この原因だった」

    と特定されたわけではありません。

    2021年のCape Wildlife Centerも、

    遺伝的要因や環境要因などが胚発生へ影響する可能性に触れていましたが、

    具体的な原因までは分かっていませんでした。 WBZ NewsRadio 1030

    つまり、

    今回についても、

    原因を決めつけることはできません。

    そもそも、なぜこんな珍しい個体を見つけられたのか

    ここも重要です。

    ケープコッドでは、

    長年にわたってキスイガメの営巣地が調査されています。

    Mass AudubonのWellfleet Bayでは、

    1980年代から個体識別を行い、

    毎年産卵する雌や巣、

    孵化個体などを継続して記録しています。 Mass Audubon

    キスイガメの雌は、

    初夏に汽水域から陸へ上がり、

    高潮線より上の砂地へ卵を産みます。

    マサチューセッツでは、

    孵化までおよそ59〜116日かかることがあります。 マサチューセッツ州政府

    そして、

    人間が巣を継続的に観察する。

    幼体が出てくる。

    一匹ずつ確認する。

    そこで初めて、

    こんな特殊な個体も発見できます。

    もし誰も見ていなければ、

    この5.2gのカメは、

    誰にも知られないまま湿地へ入っていたかもしれません。

    5.2gという小ささ

    今回、

    写真以上に僕が驚いた数字があります。

    5.2g。

    単三電池より、

    ずっと軽い。

    その小さな身体に、

    目が四つ。

    頭が二つ。

    そして、

    一つの甲羅。

    現在、

    スタッフはこの小さな個体が、

    食べられるか。

    成長するか。

    身体をうまく動かせるか。

    毎日見ています。 News Link Live

    今後、

    身体が十分に成長すれば、

    画像診断などによって内部構造についてさらに分かる可能性があります。

    でも現時点では、

    まだ、

    分からないことの方が多い。

    キスイガメ自体も、マサチューセッツでは珍しい存在

    マサチューセッツ州では、

    キスイガメは州絶滅危惧種法上の、

    Threatened(絶滅危惧・脅威にさらされている種)

    に指定されています。 マサチューセッツ州政府

    そしてケープコッドは、

    この種の分布域の、

    ほぼ北限。

    Mass Audubonによれば、

    Wellfleet周辺には北米でも特に北に位置するキスイガメ個体群があります。 Mass Audubon

    つまり今回の個体は、

    ただ珍しい双頭のカメではない。

    分布北限近くに暮らす、希少なキスイガメ個体群から生まれた一匹。

    でも今回の記事で僕が面白いと思うのは、

    保護活動そのものより、

    やっぱり、

    身体です。

    一つなのか、二つなのか

    一匹。

    でも、

    頭は二つ。

    二匹?

    でも、

    甲羅は一つ。

    僕たちは、

    生き物を見ると、

    自然に、

    「一匹」

    「二匹」

    と数えます。

    でも、

    こういう生き物を見ると、

    その当たり前の境界が少し揺らぎます。

    心臓が一つなら?

    脳が二つなら?

    胃が二つなら?

    脊椎が途中で一つにつながっていたら?

    どこまでが、

    一匹なんだろう。

    これは哲学の話ではなく、

    実際に、

    目の前に存在する生物の話です。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回の記事は何も感じないね。

    なんの感想もない。

    出典

    Birdsey Cape Wildlife Center / 現地報道
    2026年9月にWellfleetの保護営巣地で発見された5.2gの双頭キスイガメ、現在の観察状況について。 CBS News
    CBS Bostonの報道を見る

    USA TODAY Network / Reuters Connect
    2026年9月22日のBirdsey Cape Wildlife Centerでの個体の体重測定・継続観察、過去5年間で3例目の双頭症例であること。 Reuters Connect

    Mass Audubon — Wellfleet Bay Wildlife Sanctuary
    ケープコッドのキスイガメ個体群、営巣、生態、長期モニタリングについて。 Mass Audubon
    Mass Audubonのキスイガメ調査を見る

    Massachusetts Division of Fisheries and Wildlife
    キスイガメの州内分布、Threatened指定、生息環境について。 マサチューセッツ州政府

    2021年の双頭個体記録
    頭2つ・脚6本のキスイガメについて、脊椎・消化器系・運動の観察結果。

  • 【世界の亀ニュース】米西海岸で史上初のウミガメ産卵 ヒメウミガメはなぜカリフォルニアの浜を選んだのか?

    【世界の亀ニュース】米西海岸で史上初のウミガメ産卵 ヒメウミガメはなぜカリフォルニアの浜を選んだのか?

    2026年9月16日。

    アメリカ・カリフォルニア州。

    ロサンゼルスの南にある、

    Seal Beach(シールビーチ)。

    砂浜へ、一匹のウミガメが上がってきました。

    穴を掘る。

    卵を産む。

    砂をかける。

    そして、

    海へ戻っていく。

    世界各地の熱帯の海岸なら、

    珍しくない光景かもしれません。

    でも、

    ここはカリフォルニア。

    しかも、

    アメリカ西海岸です。

    産卵していたのは、

    ヒメウミガメ
    Lepidochelys olivacea
    。

    NOAA Fisheriesによると、

    これは、

    アメリカ西海岸で記録された、あらゆるウミガメを含めて史上初の自然産卵

    だといいます。

    つまり、

    ヒメウミガメだけの初記録ではありません。

    アオウミガメでも、

    アカウミガメでも、

    オサガメでもない。

    「ウミガメがアメリカ西海岸で自然に産卵した」という出来事そのものが初めて確認された。

    かなり大きなニュースです。

    今回のニュース

    最初の産卵が確認されたのは、

    2026年9月16日。

    場所は、

    カリフォルニア州オレンジ郡のシールビーチ周辺。

    雌のヒメウミガメが砂浜へ上陸し、

    巣穴を掘って産卵する様子が確認されました。

    そして、

    その3日後。

    今度は数km離れた、

    Huntington Beach(ハンティントンビーチ)

    でもウミガメが上陸。

    現地報道では、こちらでも産卵が確認されています。

    同じ雌が二度産卵した可能性もありますが、NOAAは少なくとも当初、

    同一個体か別個体かは確定していない

    としていました。

    つまり現在確認されているのは、

    一匹かもしれない。

    二匹かもしれない。

    でも、

    少なくとも二つの産卵地点が現れた。

    ここが重要です。

    どこの国・地域の話か

    国:アメリカ合衆国
    州:カリフォルニア州
    郡:オレンジ郡
    最初の場所:Seal Beach周辺
    最初の確認日:2026年9月16日
    その後の確認:Huntington Beach周辺
    種類:ヒメウミガメ
    学名:Lepidochelys olivacea
    英名:Olive Ridley Sea Turtle
    ニュースの種類:産卵記録・分布・生態・海洋環境

    主役は「ヒメウミガメ」

    今回のカメは、

    ヒメウミガメ。

    学名、

    Lepidochelys olivacea。

    NOAAによると、

    世界のウミガメの中では小型の種類で、

    成体でも体重はおよそ100ポンド、

    約45kgまで。

    甲長は、

    およそ60〜75cmほどです。

    甲羅は名前の通り、

    オリーブ色から灰緑色。

    上から見ると、

    少しハート型に見える甲羅を持っています。

    日本語名の「ヒメ」も、

    比較的小型のウミガメであることから来ています。

    でも、ものすごく遠くまで泳ぐ

    小さいから、

    行動範囲も小さい。

    ――わけではありません。

    ヒメウミガメは、

    熱帯を中心に、

    太平洋。

    インド洋。

    大西洋。

    という、

    非常に広い海域に分布しています。

    外洋性が強く、

    岸から数千km離れた場所で確認されることもあります。

    NOAAは東太平洋での分布を、

    南カリフォルニアからチリ北部

    までとしています。

    つまり、

    カリフォルニア沖にヒメウミガメがいること自体は、

    完全な異常ではありません。

    問題は、

    そこで産卵したこと。

    です。

    海にいることと、卵を産むことは全然違う

    ウミガメは、

    海の中なら広い範囲を移動できます。

    餌を探す。

    海流に乗る。

    水温の高い海域へ移動する。

    だから、

    本来の主要産卵地からかなり離れた場所で見つかることがあります。

    でも、

    産卵となると話が違います。

    雌は、

    砂浜へ上がる。

    穴を掘る。

    卵を産む。

    そして、

    卵は何週間も砂の中で発生しなければなりません。

    つまり産卵地には、

    海だけでなく、

    砂の温度、湿度、地形、波、高潮など、さまざまな条件

    が必要になります。

    だから、

    「泳いできた」

    と、

    「ここで子孫を残そうとした」

    の間には、

    大きな違いがあります。

    普段はどこで産卵している?

    東太平洋のヒメウミガメの主要な産卵地は、

    もっと南にあります。

    メキシコ。

    ニカラグア。

    コスタリカ。

    パナマ。

    特に有名なのが、

    メキシコのLa Escobilla。

    NOAAによれば、

    ここでは推定約45万匹もの雌が産卵に参加します。

    コスタリカの主要産卵地でも、

    大規模な繁殖集団が知られています。

    それに対して、

    カリフォルニア。

    今まで、

    産卵記録はありませんでした。

    NOAAも今回、

    ヒメウミガメは暖かい海流に伴って南カリフォルニアで時折見られるものの、

    アメリカ本土で産卵した記録はこれまでなかった

    と説明しています。

    ヒメウミガメには二つの産卵方法がある

    このカメには、

    面白い特徴があります。

    産卵方法が、

    一つではありません。

    一つは、

    普通のウミガメと同じ、

    単独産卵。

    そしてもう一つが、

    ヒメウミガメで有名な、

    Arribada(アリバダ)。

    スペイン語で、

    「到着」

    という意味です。

    数百。

    数千。

    場所によっては、

    何万匹もの雌が、

    ほぼ同時に砂浜へ押し寄せます。

    夜の砂浜が、

    ウミガメで埋め尽くされる。

    世界でも特に壮観なウミガメの繁殖行動です。

    この集団産卵を行うのは、

    ヒメウミガメとケンプヒメウミガメを含むLepidochelys属だけです。

    今回のカリフォルニア産卵は、

    もちろんアリバダではありません。

    一匹あるいは少数の雌による、

    単独産卵

    です。

    一つの巣にはどれくらい卵がある?

    ヒメウミガメは一般に、

    一度の産卵で、

    およそ100個前後の卵を産みます。

    NOAAは、

    一頭の雌が1シーズンに1〜3回産卵することがあるとしています。

    今回のカリフォルニアの巣については、

    現地報道では、

    一つの巣に推定50〜100個程度

    とされています。

    孵化までの期間は、

    およそ、

    45〜60日。

    だから、

    2026年9月中旬に産まれた卵なら、

    順調に発生すれば、

    10月末から11月ごろに何らかの動きが見られる可能性があります。

    ただし現時点では、

    実際に孵化するかどうかはまだ分かりません。

    ここからが、一番面白い

    なぜ、

    この雌は、

    カリフォルニアを選んだのでしょう。

    これまで産卵記録がなかった場所です。

    間違えたのか。

    海流に運ばれたのか。

    昔から稀に産卵していたけれど、

    人間が見つけていなかっただけなのか。

    それとも、

    海の環境そのものが変わり始めているのか。

    今は、

    分かりません。

    でも、

    ここで一つ、

    非常に気になることがあります。

    2026年のカリフォルニア沖は暖かい

    NOAA Fisheriesは、

    9月3日の時点で、

    南・中央カリフォルニア沖の海水温が異常に高い

    と報告していました。

    ただし、

    ここは重要です。

    NOAAは、

    その高水温について、

    2026年のエルニーニョそのものが直接原因ではなく、

    それ以前から続いている海洋熱波の影響

    だと説明しています。

    同時に、

    2026年6月には熱帯太平洋でエルニーニョが成立しており、

    今後その影響がアメリカ西海岸へ及ぶ可能性をNOAAが監視しています。

    つまり、

    「エルニーニョだからヒメウミガメが産卵した」

    とは、

    現時点では言えません。

    ここを結び付けて断定するのは早すぎます。

    でも、

    普段より暖かい海と、史上初の産卵記録が同じ年に起きた。

    これは、

    今後研究する価値のある現象です。

    暖かければ、北へ産卵地が広がるのか?

    単純に考えると、

    そう思ってしまいます。

    海が暖かくなる。

    南のカメが北へ来る。

    そこで産卵する。

    でも、

    自然はそんなに単純ではありません。

    ウミガメの繁殖には、

    海水温だけでなく、

    砂の温度。

    湿度。

    潮位。

    産卵浜の幅。

    嵐。

    捕食者。

    人工照明。

    そして、

    雌自身の出生地への帰巣行動。

    たくさんの要素が関係します。

    今回一匹が産卵したからといって、

    カリフォルニアが新しい産卵地になった

    とは言えません。

    一匹が産んだだけでも意味がある

    とはいえ、

    こういう偶発的な産卵は、

    長い時間で見ると非常に重要かもしれません。

    NOAAは過去、

    ハワイ・オアフ島で稀なヒメウミガメの産卵が確認された際、

    こうした通常と異なる場所への産卵が、

    将来的に新しい繁殖地が形成される一つの方法になり得る

    と説明しています。

    一匹の雌が、

    いつもと違う浜へ行く。

    卵を産む。

    その子ガメの一部が成長する。

    何十年後。

    その雌たちが、

    同じ浜へ帰ってくる。

    また産む。

    これが何世代も続けば、

    やがて、

    そこが「産卵地」になります。

    もちろん、

    今回のカリフォルニアでそうなるかどうかは、

    誰にも分かりません。

    むしろ現時点では、

    一度きりの非常に珍しい出来事

    として見るべきです。

    だから、この巣は「未来」を含んでいる

    僕は、

    今回のニュースの面白さは、

    卵そのものにもあると思います。

    もし孵化したとしても、

    その子ガメたちが成熟するまでには、

    長い時間がかかります。

    海へ出る。

    広い太平洋を生きる。

    大部分は、

    成熟する前に死ぬ。

    でも、

    もし何匹かが生き残ったら。

    そして、

    雌が、

    生まれた浜へ戻ってきたら。

    今回のニュースの続きは、

    2026年ではなく、

    2040年代、2050年代

    に起こるかもしれません。

    僕たちは、

    答えを見ることができるかもしれない。

    もう一つ気になること――昼間に上陸した

    今回確認された雌は、

    行動にも少し変わった点がありました。

    NOAA関係者は現地メディアに、

    通常は夜間に産卵することが多いヒメウミガメが、

    今回、

    日中から日没近くに上陸した

    と説明しています。

    なぜなのか。

    これも、

    まだ分かりません。

    初めての場所だったからなのか。

    個体差なのか。

    水温や潮のタイミングなのか。

    単なる偶然なのか。

    分からないことが、

    また一つ増えました。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで、

    僕が一番注目したいのは、

    「分布」と「繁殖地」は固定された地図ではない

    ということです。

    図鑑を見る。

    分布図を見る。

    ここまでが生息域。

    ここが産卵地。

    線が引いてある。

    でも、

    カメは、

    その線を知りません。

    海流が変わる。

    水温が変わる。

    一匹の雌が、

    いつもと違う方向へ泳ぐ。

    そして、

    地図の外側へ上がる。

    穴を掘る。

    卵を産む。

    その瞬間、

    人間が作っていた地図に、

    新しい一点

    が加わります。

    自然の分布図は、

    完成した地図ではない。

    今も、

    書き換わっている。

    今回のヒメウミガメは、

    それを見せてくれた気がします。

    湯川亀吉の一言

    ウミガメ飼ってみたいね。

    出典

    NOAA Fisheries — Olive Ridley Turtle
    ヒメウミガメの形態、世界分布、東太平洋の主要産卵地、アリバダ、繁殖などの基本情報。
    NOAA Fisheriesのヒメウミガメ解説を見る

    NOAA Fisheries West Coast発表を基にした報道
    2026年9月16日のSeal Beachでの産卵が、米国西海岸における史上初の自然産卵記録であること、3日後の別の上陸、孵化期間など。

    ABC7 Los Angeles
    二つの産卵地点、日中〜日没付近の上陸、推定卵数などについてNOAA Fisheries関係者に取材。
    ABC7の現地報道を見る

    NOAA Fisheries — West Coast Ocean Conditions
    2026年9月時点の南・中央カリフォルニア沖の異常高水温と、海洋熱波・エルニーニョの関係について。
    NOAAの西海岸海洋環境解説を見る

  • 【世界の亀ニュース】ヒラチズガメは「危険な水」を知っている? エリー湖で藻類ブルーム直前に姿を消す季節移動を確認

    【世界の亀ニュース】ヒラチズガメは「危険な水」を知っている? エリー湖で藻類ブルーム直前に姿を消す季節移動を確認

    夏。

    巨大なエリー湖を、

    一匹の雌のヒラチズガメが泳いでいます。

    6月。

    7月。

    湖の沖合まで出る。

    ところが、

    7月下旬。

    亀たちは、

    湖からいなくなりました。

    そして数km離れた支流を、

    上流へ。

    そこで冬を越し、

    翌春になると、

    また元の産卵場所近くへ戻ってきます。

    そのころエリー湖では、

    ある現象が始まります。

    有害藻類ブルーム。

    しばしば毒素を作る藍藻が、

    夏の終わりに大発生します。

    不思議なのは、

    ヒラチズガメが、

    そのピークを迎える前に、

    湖を離れていたことです。

    今回のニュース

    研究を行ったのは、

    アメリカ・オハイオ州のUniversity of Toledo(トレド大学)。

    研究者のDi’Carlo Jackson氏とJeanine M. Refsnider博士は、2022年にエリー湖西部の産卵地で捕獲した雌のヒラチズガメへ発信器を取り付け、

    音響テレメトリー

    と、

    衛星テレメトリー

    という二つの方法を組み合わせて行動を追跡しました。

    研究成果は2026年、『Journal of Great Lakes Research』に掲載されています。

    登場する亀

    今回の主役は、

    ヒラチズガメ。

    学名、

    Graptemys geographica。

    英名は、

    Northern Map Turtle
    または
    Common Map Turtle。

    日本では「ヒラチズガメ」という名称が使われています。

    北米に生息する、

    チズガメ属の淡水ガメです。

    「map turtle=地図ガメ」という名前の通り、

    甲羅には地図の等高線のような細かな模様が入ります。

    種小名のgeographicaも、

    「地理・地図」を意味する言葉に由来します。

    雌は雄の約2倍まで大きくなる

    ヒラチズガメでは、

    雄と雌の体格差がかなり大きいことが知られています。

    雌は雄のほぼ2倍の大きさまで成長することがあり、

    行動範囲も一般に雌の方が広くなります。

    さらに食べるものにも違いがあります。

    大型の雌は、

    硬い殻を持つ貝類などを主に利用。

    小型の雄は、

    より柔らかい水生無脊椎動物を食べます。

    今回研究者が追跡したのも、

    成体の雌。

    産卵のために岸へ上がってきた個体でした。

    10匹の背中に発信器を付けた

    2022年6月。

    研究者たちは、

    エリー湖西部にあるMagee Marshの砂浜で、

    産卵に訪れた雌10匹を捕獲しました。

    そして甲羅へ発信器を装着。

    その後、

    亀を湖へ戻しました。

    10匹のうち2匹については、発信器が早期に外れたと考えられ、十分な追跡データが得られなかったため解析から除外されています。

    残る個体の動きを、

    研究者は長期間追い続けました。

    「音」と「宇宙」の両方から追跡する

    今回面白いのが、

    追跡方法です。

    まず、

    音響テレメトリー。

    亀の発信器から出る音響信号を、

    湖や川に設置された受信機が拾います。

    水中にいる動物の追跡に向いています。

    一方、

    衛星テレメトリーでは、

    発信器の情報を衛星を使って取得します。

    ただし、

    亀が水中深く潜っていると、

    衛星との通信が難しくなります。

    そこで、

    二つを組み合わせました。

    湖の中では、

    音。

    支流などでは、

    衛星。

    片方だけでは見えなかった亀の一年間を、

    二つの技術でつなぎました。

    Refsnider博士は、この組み合わせについて、

    それぞれが異なる状況でうまく機能したと説明しています。

    すると、想像以上に移動していた

    追跡してみると、

    ヒラチズガメの雌は、

    かなり大きな範囲を移動していました。

    研究論文によると、

    湖と支流のデータを合わせた移動範囲は、

    約10〜22km。

    産卵を終えた後、

    6月から7月には、

    エリー湖の沖合を利用します。

    その後、

    支流へ入る。

    そして、

    さらに上流へ数km進んでいきます。

    僕たちがイメージする、

    「近所の池でずっと暮らしている亀」

    とは、

    かなり違います。

    冬になると支流で姿を消す

    上流へ移動した亀たちは、

    その支流周辺で冬を越したと考えられています。

    そして、

    翌春。

    再び下流へ。

    産卵浜のすぐ近くにある支流の河口へ戻ってきました。

    つまり、

    湖。

    川。

    湿地。

    産卵地。

    越冬場所。

    一匹の亀が、

    一年の中で複数の環境を使い分けていたのです。

    そして研究者が気付いた

    追跡データを見ていて、

    研究者たちは、

    あるタイミングに気付きました。

    ヒラチズガメがエリー湖で確認されたのは、

    7月下旬まで。

    それ以降、

    湖では確認されなくなりました。

    そのころ、

    エリー湖西部では、

    毎年ある現象が強くなります。

    cyanobacterial bloom。

    藍藻、

    つまりシアノバクテリアによる、

    大規模な水の華です。

    夏の終わりに湖が緑になる

    エリー湖西部では、

    夏になると大量の藍藻が増殖することがあります。

    特に、

    8月ごろにピークを迎えることが多い。

    種類によっては、

    microcystin(ミクロシスチン)

    と呼ばれる毒素を作ります。

    この毒素は、

    さまざまな動物の肝臓・消化器・生殖器などへ悪影響を与える可能性があります。

    過去の研究では、

    カメ類でも免疫機能への影響が報告されています。

    ところがヒラチズガメは、もういない

    藻類ブルームが本格化する、

    8月。

    その時点で、

    追跡中のヒラチズガメは、

    すでに湖から移動していました。

    Refsnider博士は、

    7月下旬以降エリー湖では個体が確認されず、

    そのころには支流や周辺湿地へ移動していたため、

    ブルームのピーク時には藻類毒素へ曝露されていなかったと考えられる

    と説明しています。

    ここで、

    ものすごく面白い疑問が出てきます。

    亀は「危険」を察知して逃げているのか?

    もしそうなら、

    すごい。

    水の変化を感じる。

    「ここは危ない」

    と判断する。

    川へ移動する。

    そんな行動を想像したくなります。

    でも研究者は、

    そこまでは言っていません。

    むしろ、

    かなり慎重です。

    Refsnider博士自身、

    亀が藻類ブルームを理由に湖を離れているのか、それとも通常の季節移動とブルームの時期が偶然一致しているだけなのかは分からない

    としています。

    ここは、

    今回の記事で一番重要なところです。

    「避けていた」と「避けるために移動した」は違う

    結果だけを見ると、

    亀は藻類ブルームを避けています。

    でも、

    原因は分からない。

    たとえば、

    水温。

    日照時間。

    水位。

    餌。

    繁殖周期。

    越冬準備。

    季節そのもの。

    こうした別の要因をきっかけに、

    毎年7月ごろ支流へ移動しているのかもしれません。

    その結果として、

    たまたま有毒藻類からも逃れることになる。

    これでも、

    十分面白い。

    生物の行動には、

    「この危険を避けよう」と意識的に進化したわけではなくても、

    別の生活パターンが結果的に危険を回避していることがあります。

    そもそも湖に暮らすヒラチズガメは、よく分かっていなかった

    これまでヒラチズガメについて、

    河川での行動研究は比較的多く行われてきました。

    一方、

    巨大な湖に暮らす個体が、

    一年を通じてどこへ移動するのかについては、

    まだ情報が少なかったと研究チームは説明しています。

    理由の一つが、

    単純に、

    追いかけるのが難しいから。

    川なら、

    移動方向は比較的限られます。

    でも、

    エリー湖は巨大です。

    亀が沖へ泳いだら、

    従来の人間による追跡は一気に難しくなります。

    だから今回、

    衛星と水中の音響受信機を組み合わせた方法が有効でした。

    亀の世界は、人間が思っているよりずっと広い

    10km。

    20km。

    人間なら、

    車ですぐです。

    でも、

    甲羅を背負った淡水ガメです。

    泳ぐ。

    川を上る。

    湖へ出る。

    戻る。

    翌年、

    また同じ場所へ来る。

    しかも、

    これを何年も繰り返している可能性があります。

    一匹のヒラチズガメにとって、

    エリー湖とその支流は、

    別々の場所ではないのかもしれません。

    全部まとめて「自分の生活圏」。

    そう考えると、

    亀を見る目が少し変わります。

    名前は「ヒラチズガメ」

    ちなみにこのカメ、

    日本では、

    ヒラチズガメ

    と呼ばれています。

    チズガメ類の中では比較的、

    甲羅が平たいことが名前の由来です。

    チズガメ属には、

    ニセチズガメ。

    フトマユチズガメ。

    ワモンチズガメ。

    クロコブチズガメ。

    など、

    特徴的な種類がたくさんいます。

    その中でも、

    Graptemys geographicaは、

    チズガメ属を代表する種類の一つです。

    「水の中で暮らす亀」をどう追跡するか

    今回のニュースは、

    亀そのものだけでなく、

    研究方法についても面白いと思います。

    昔なら、

    研究者が、

    双眼鏡で見る。

    捕まえる。

    印を付ける。

    また探す。

    それしかありませんでした。

    今は、

    甲羅に小さな装置を付ける。

    水中の受信機が、

    通過した亀を記録する。

    衛星が、

    別の場所に移動した亀を見つける。

    研究者が寝ている間も、

    亀は動く。

    そして、

    機械は記録する。

    その結果、

    人間が直接追いかけていたら見えなかった、

    一匹の亀の一年間

    が見えてきます。

    亀好きとして注目したいポイント

    僕が今回一番面白いと思うのは、

    「亀が毒を避ける能力を持っている」という話ではない

    ところです。

    むしろ、

    まだ分からない。

    そこがいい。

    7月まで、

    湖にいる。

    8月になる前に、

    いなくなる。

    有毒藻類が増える。

    結果として、

    亀はそこにいない。

    これは事実。

    でも、

    なぜ?

    そこから先は、

    まだ分からない。

    亀自身が水質の変化を感知しているのか。

    季節移動なのか。

    何世代にもわたって身についたタイミングなのか。

    別の環境要因なのか。

    今は、

    答えがありません。

    でも、

    「変なことが起きている」

    ということが分かった。

    科学って、

    そこから始まるんだと思います。

    湯川亀吉の一言

    俺は付き合っちゃいけない人間を察することができるよ

    出典

    University of Toledo
    「UToledo Herpetologist Tracks Turtles Amid Harmful Algal Bloom」
    2026年9月10日。追跡研究、藻類ブルームとの時期関係、音響・衛星テレメトリーについて。
    トレド大学の公式記事を読む

    Journal of Great Lakes Research
    Di’Carlo Jackson & Jeanine M. Refsnider
    「Acoustic and satellite telemetry reveal extensive distances traveled in both lake and tributary habitat by female northern map turtles (Graptemys geographica)」
    2026年。10匹への発信器装着、移動距離10〜22km、季節的な湖・支流利用、藍藻ブルームとの関係を扱った原著論文。
    原著論文を見る

    ITIS
    Graptemys geographicaの分類および英名Northern Map Turtle / Common Map Turtleについて。
    ITISの分類情報を見る

  • 【世界の亀ニュース】DNAが99%読めなくても分かった 博物館の骨から蘇ったガラパゴスゾウガメ2つの絶滅系統

    【世界の亀ニュース】DNAが99%読めなくても分かった 博物館の骨から蘇ったガラパゴスゾウガメ2つの絶滅系統

    今回は、

    生きているカメを探す話ではありません。

    化石でもありません。

    博物館の棚に残されていた、

    古いゾウガメの骨

    の話です。

    骨からDNAを取り出す。

    でも、

    ほとんど壊れている。

    現在の動物なら、

    一個体から膨大なDNA情報を読み取ることができます。

    ところが今回扱われた歴史的標本の一部では、

    読み取れるゲノム情報は1%にも満たないほどでした。

    普通なら、

    「情報が少なすぎる」

    として解析から外されてもおかしくありません。

    でも研究者たちは、

    そのわずかな断片を捨てませんでした。

    残っているDNAを集める。

    現在生きているガラパゴスゾウガメのゲノムと比べる。

    他の博物館標本とも比べる。

    そして、

    巨大な「ゾウガメの家系図」の中へ、

    そのDNAの破片を一つずつ置いていきました。

    すると、

    そこから二つの、

    もう存在しない系統が浮かび上がってきました。

    今回の研究

    研究論文のタイトルは、

    “Integration of ultra-low coverage whole-genome sequences for reconstructing the evolutionary history of Galapagos giant tortoises”

    日本語にすれば、

    「超低カバレッジ全ゲノム配列を統合したガラパゴスゾウガメの進化史の復元」

    というような内容です。

    研究を主導したのはAlexander Ochoa氏らの国際研究チーム。

    Yale University。

    Newcastle University。

    University of California, Berkeley。

    University of Connecticut。

    Woods Hole Oceanographic Institution。

    University of Crete。

    など、複数の研究機関が参加しています。

    対象になったのは、

    ガラパゴス諸島に暮らしてきたChelonoidis属の巨大リクガメたち。

    研究では、

    現生13系統と絶滅4系統

    からなるガラパゴスゾウガメの進化的放散を扱っています。

    どこのカメなのか

    今回特に注目されたのは、

    二つの島です。

    サンクリストバル島。

    そして、

    サンタフェ島。

    どちらもエクアドルのガラパゴス諸島にあります。

    しかし、

    今回調べられたカメたちは、

    もう島を歩いていません。

    どちらも、

    絶滅した系統です。

    サンタフェ島には、かつて巨大なリクガメがいた

    現在のサンタフェ島には、

    在来のゾウガメは残っていません。

    しかし昔の航海記録には、

    島からゾウガメが持ち去られた記録があります。

    さらに、

    California Academy of Sciencesの探検隊が集めた骨片も残されていました。

    これまでの研究から、

    サンタフェ島のゾウガメは、

    他島のゾウガメとは異なる独自の分類群だった可能性が高いことが知られていました。

    しかも、

    完全な標本が残る前に絶滅してしまったため、

    正式な学名すら付いていません。

    名前のない、

    絶滅したゾウガメ。

    今回の研究では、

    その残された骨から得たゲノム断片を使って、

    このサンタフェ系統がガラパゴスゾウガメの進化史の中で、

    独立した系統だったことを改めて確認しました。

    そして、さらに不思議なのがサンクリストバル島

    サンクリストバル島には、

    現在もゾウガメが生きています。

    だから、

    「絶滅したサンクリストバル島のゾウガメ」

    という表現は、

    少し変に聞こえます。

    でも、

    ここには大きな謎があります。

    1906年。

    California Academy of Sciencesの調査隊がサンクリストバル島を訪れました。

    島では一匹の生きたゾウガメが採集されました。

    一方、

    島内の洞窟からは、

    およそ17個体分のゾウガメの骨

    が見つかっています。

    当然、

    同じ島のカメなのだから、

    同じ系統だと思います。

    ところが、

    違いました。

    洞窟のゾウガメと、現在のゾウガメは違った

    2022年。

    研究チームが、

    洞窟から見つかった歴史標本のミトコンドリアDNAを調べました。

    すると、

    驚くことが分かりました。

    洞窟にあった5個体は、

    現在サンクリストバル島に暮らすゾウガメとは、

    大きく異なる遺伝系統

    だったのです。

    一方、

    1906年に生きた状態で採集された一匹は、

    現在のサンクリストバル個体群に近いDNAを持っていました。

    つまり過去のサンクリストバル島には、

    少なくとも遺伝的に大きく異なる、

    二つのゾウガメ系統が同時期に存在していた可能性

    が出てきました。

    現在残っているのは、

    その一方だけ。

    洞窟で見つかった系統は、

    20世紀までに絶滅したと考えられています。

    でも、2022年には大きな問題が残っていた

    2022年の研究には、

    弱点がありました。

    古い骨のDNAが、

    あまりにも壊れていたからです。

    研究者が十分に読み取れたのは、

    主にミトコンドリアDNA。

    ミトコンドリアDNAは、

    系統関係を調べる非常に有用な情報です。

    ただし、

    生物全体の遺伝情報のごく一部しか表していません。

    研究者自身も当時、

    「核DNAがなければ、この二つが本当に独立した進化的存在だったのか断定できない」

    という慎重な結論を出していました。

    そして2026年。

    その続きを、

    ようやく調べることができました。

    読めたDNAは、わずか0.008〜0.139倍

    今回の研究で使われた古いDNAは、

    状態が非常に悪いものでした。

    ゲノム解析では、

    同じ場所を平均何回読めたかを「coverage=カバレッジ」で表します。

    通常、

    信頼性の高い全ゲノム解析では、

    同じ領域を何度も読みます。

    ところが今回の歴史標本は、

    わずか、

    0.008×〜0.139×。

    研究論文では、

    これをultra-low coverage whole-genome sequencing(ulcWGS)

    と呼んでいます。

    ほとんど読めていない。

    でも、

    ゼロではない。

    その「ほとんど何もない」に近いDNAを、

    どう使うか。

    それが今回の研究の核心です。

    DNAの「穴」を勝手に埋めなかった

    ここも面白いところです。

    DNAが足りないと、

    既知のゲノム情報を参考にして、

    欠損部分を統計的に推定する方法があります。

    しかし今回の研究では、

    超低カバレッジ標本について、

    欠損した遺伝型を推定して埋める方法に頼っていません。

    代わりに、

    残っている情報だけを使って、

    複数の解析ツールを組み合わせました。

    研究チームは、

    EPA-ng。

    smartsnp。

    Admixfrog。

    NGSadmix。

    などを使い、

    わずかなDNA断片を、

    高品質なゲノムから作られた系統樹へ配置しました。

    言ってみれば、

    1000ピースのジグソーパズルがある。

    手元に残っているのは、

    10ピースくらい。

    その10ピースだけを見て、

    「これはどの絵の一部なのか」

    を探したようなものです。

    そして、二つの絶滅系統が見えてきた

    結果。

    サンクリストバル島の歴史的系統。

    サンタフェ島の系統。

    どちらも、

    ガラパゴスゾウガメの進化史の中で、

    独立した進化的実体だった

    ことが支持されました。

    つまり、

    「ミトコンドリアDNAが少し違っていただけ」

    ではなかった。

    核ゲノムの断片を使っても、

    別の歴史を持つ集団として認識できたわけです。

    サンクリストバル島の話は、さらにややこしい

    そして、

    ここには分類学上のものすごく面白い問題があります。

    現在、

    サンクリストバル島のゾウガメには、

    Chelonoidis chathamensis

    という学名が使われています。

    ところが、

    この種を最初に定義する基準標本、

    つまりホロタイプになっている個体は――

    現在生きている系統ではありません。

    1906年に洞窟から発見された、

    絶滅した方の系統の標本

    なのです。

    これは、

    かなりすごい話です。

    今生きているカメの名前が変わる可能性がある

    もし将来、

    絶滅した洞窟系統と現在の系統が、

    正式に別種と判断されたとします。

    すると、

    Chelonoidis chathamensisという名前は、

    基準標本が属している

    絶滅系統側

    に残ります。

    そして、

    現在サンクリストバル島に何千匹も生きているゾウガメには、

    新しい学名を付ける必要が出てくる可能性があります。

    ただし、

    現時点で新種として正式に命名されたわけではありません。

    だから、

    「新種発見」

    と書いてしまうのはまだ早い。

    今は、

    分類そのものが揺れている途中

    です。

    100年以上前の骨が、現在の名前を揺らしている

    これが、

    博物館標本の面白いところです。

    1906年。

    研究者が、

    洞窟から骨を拾う。

    標本番号を付ける。

    博物館へ持ち帰る。

    100年以上、

    棚の中にある。

    その当時には、

    DNA解析なんてありません。

    まして、

    全ゲノム解析もない。

    でも標本は、

    捨てられずに残っていた。

    そして2026年。

    その骨から、

    わずかなDNAを取り出す。

    すると、

    現在生きているカメの学名まで再検討しなければならない可能性

    が出てきました。

    標本は、

    死んだ動物を展示するものだけではないんですね。

    未来の技術で、

    もう一度調べることができる、

    時間を保存した資料

    でもあります。

    サンタフェのカメには、完全な標本すらない

    一方、

    サンタフェ島のケースも興味深いです。

    この島のゾウガメは、

    科学者が完全な標本を集める前に絶滅しました。

    残っているのは、

    骨の一部。

    だから、

    独自のゾウガメだったことは遺伝学的に支持されているのに、

    正式な種記載ができるほどの標本がありません。

    つまり、

    存在していた。

    遺伝的にも違う。

    でも、

    名前がない。

    自然界では、

    名前を付ける前に消えてしまう生き物もいる。

    ガラパゴスには「島ごとのカメ」がいる

    なぜ、

    こんなに複雑なのでしょうか。

    ガラパゴスゾウガメの最大の特徴の一つが、

    島ごと、あるいは島の地域ごとに独自の系統へ分かれていること

    です。

    海を隔てて、

    島がある。

    ある島へゾウガメが到達する。

    そこから長い時間、

    別の島の集団とはほとんど交流しない。

    すると、

    それぞれが独自に進化していきます。

    甲羅の形。

    体の大きさ。

    首の長さ。

    そして、

    DNA。

    一つの祖先から始まったゾウガメが、

    島々で枝分かれしていく。

    ガラパゴスは、

    まさに巨大な進化実験場です。

    でも、人間がその地図を混ぜてしまった

    さらに話を複雑にしたのが、

    人間です。

    過去の船乗りたちは、

    ガラパゴスゾウガメを食料として船へ積み込みました。

    ゾウガメは、

    餌や水なしでも比較的長期間生きることができる。

    そのため、

    航海中の食料として利用されました。

    そして、

    別の島へ運ばれた個体の一部が、

    そこで逃げたり、

    捨てられたりした可能性があります。

    別々に進化していた島のカメが、

    人間によって再び出会う。

    そして、

    交雑する。

    絶滅したDNAが、まだ生きているかもしれない

    ここから、

    今回の研究は、

    少し不思議な話になります。

    ある系統そのものは、

    絶滅した。

    でも、

    その系統のカメが過去に他の島へ運ばれ、

    別系統のゾウガメと交雑していたとします。

    すると、

    その子孫には、

    絶滅した系統のDNAが残っている可能性があります。

    生き物としては、

    もう存在しない。

    でも、

    ゲノムの一部分は、

    別のカメの中に生き続けている。

    Ochoa氏らも、

    絶滅系統の遺伝情報が現在の交雑個体の中に残っている可能性を指摘しています。

    僕は、

    ここがものすごく面白い。

    「絶滅」とは、どこまで消えたら絶滅なのだろう

    一匹も純粋な個体がいなくなる。

    それは、

    絶滅です。

    でも、

    DNAの10%が、

    別のカメの中に残っていたら?

    5%なら?

    1%なら?

    生物学的には、

    元の系統が復活したことにはなりません。

    でも、

    その系統が何百万年かけて獲得してきた遺伝情報の一部は、

    まだ世界から完全には消えていない。

    「絶滅」という言葉は、

    個体を見ると明確なのに、

    ゲノムまで見ると、

    少し境界がぼやけます。

    そして今回の方法は、カメだけの話ではない

    研究チームが重要視しているのは、

    ガラパゴスゾウガメだけではありません。

    世界中の博物館には、

    DNAの状態が悪すぎて、

    これまで詳細なゲノム研究に使えなかった標本が大量にあります。

    骨。

    皮。

    歯。

    羽。

    角。

    100年前。

    200年前。

    もっと昔。

    これまで、

    「DNAが少なすぎる」

    として諦められていた標本でも、

    今回のような手法を使えば、

    進化史の中でどこに位置するのか調べられる可能性があります。

    つまり、

    博物館には、

    まだ読まれていない進化史が大量に眠っている。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回、

    僕が一番面白いと思うのは、

    カメそのものはもういないのに、そのカメについて新しいことが今も発見されている

    というところです。

    普通、

    絶滅したら、

    そこで観察は終わると思います。

    もう、

    歩いているところを見られない。

    何を食べるかも調べられない。

    繁殖も見られない。

    でも、

    標本がある。

    DNAがある。

    昔の航海記録がある。

    新しい技術ができる。

    すると、

    絶滅したあとでも、

    その生き物についての情報は増えていく。

    カメは、

    もう増えない。

    でも、

    人間が知っている「そのカメ」は、今も増え続ける。

    これは、

    不思議です。

    湯川亀吉の一言

    ゾウガメって全員が性格良さそうですよね。

    出典

    Yale University
    「Reading the giant tortoise DNA that time forgot」
    2026年8月26日。超低品質の博物館DNAからサンクリストバル島とサンタフェ島の絶滅系統を解析した研究を紹介しています。
    Yale Universityの公式記事を読む

    Proceedings of the Royal Society B / PubMed
    Ochoa, A. et al.
    「Integration of ultra-low coverage whole-genome sequences for reconstructing the evolutionary history of Galapagos giant tortoises」
    2026年。0.008〜0.139×という超低カバレッジゲノムを用いた解析手法と、絶滅2系統の進化的位置について。
    PubMedで論文情報を見る

    Heredity
    「A new lineage of Galapagos giant tortoises identified from museum samples」
    2022年。サンクリストバル島の洞窟標本から、現在の個体群とは異なるミトコンドリア系統が発見された先行研究。
    Heredityの原著論文を見る

    Galápagos Conservancy
    「Giant Tortoise Restoration in the Galápagos Islands」
    サンタフェ島の絶滅ゾウガメが独立した分類群だったこと、完全標本がなく正式な学名がないことなど。
    Galápagos Conservancyの資料を見る

  • 【世界の亀ニュース】世界初の「現生オサガメ化石」を台湾で発見 一本の腕の骨が埋めた進化史の空白

    【世界の亀ニュース】世界初の「現生オサガメ化石」を台湾で発見 一本の腕の骨が埋めた進化史の空白

    今回は、新種でもない。

    珍しい繁殖でもない。

    野生復帰でもありません。

    一個の、

    古い骨

    の話です。

    台湾と澎湖諸島の間。

    現在は海になっている台湾海峡の海底から、一個の大きな骨が引き上げられました。

    骨は、

    左前肢の上腕骨。

    それを台湾大学の研究チームが詳しく調べました。

    すると、

    その形が現在生きているオサガメ、

    Dermochelys coriacea

    の上腕骨と極めてよく一致しました。

    2026年6月17日。

    研究成果が学術誌『Acta Palaeontologica Polonica』に発表。

    そして9月2日、台湾大学がこの発見を、

    「世界で最初に確認された現生オサガメの化石」

    として紹介しました。

    今回のニュース

    研究を行ったのは、

    台湾大学生命科学系の廖翊如(Yi-Lu Liaw)氏と、蔡政修(Cheng-Hsiu Tsai)氏。

    調査対象となった化石には、

    NTUM-VP 250802

    という標本番号が付けられています。

    保存されていたのは、

    一本の左上腕骨。

    つまり、

    オサガメの巨大な前肢を支える骨の一つです。

    完全な甲羅でもない。

    頭骨でもない。

    骨格一式でもない。

    一本の腕の骨です。

    でも研究者たちは、その一本から、

    「これはオサガメだ」

    という結論にたどり着きました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:台湾
    発見場所:台湾海峡・澎湖水道周辺
    研究機関:国立台湾大学
    対象種:オサガメ
    学名:Dermochelys coriacea
    英名:Leatherback Sea Turtle
    化石:左上腕骨
    標本番号:NTUM-VP 250802
    年代:更新世中期〜後期と推定
    論文発表:2026年6月17日
    台湾大学発表:2026年9月2日
    情報の種類:化石・古生物学・進化・ウミガメ

    化石は、台湾本島と澎湖諸島の間にある海域の海底から引き上げられました。

    この地域では底引き漁などによって、海底からさまざまな脊椎動物化石が発見されています。近年話題になったデニソワ人類の化石も、この周辺から得られたものです。

    登場する亀

    今回の主役は、

    オサガメ。

    学名、

    Dermochelys coriacea。

    現存するウミガメの中で最大の種類です。

    そして、

    他のウミガメとはかなり違います。

    アカウミガメ。

    アオウミガメ。

    タイマイ。

    こうしたウミガメには、

    硬い甲羅があります。

    しかしオサガメには、

    一般的なウミガメのような大きな硬い甲板がありません。

    背中は革のような皮膚で覆われ、

    その表面には縦方向に7本の隆起が走っています。

    日本の環境省も、オサガメを「硬い甲らを持たない」ことと7本の隆起を大きな特徴として紹介しています。

    現在生きているオサガメは、世界中を泳いでいる

    オサガメの分布範囲はとても広く、

    インド洋。

    太平洋。

    大西洋。

    熱帯だけでなく、

    かなり高緯度の海域まで移動します。

    日本近海にも低頻度ながら回遊個体が現れます。

    つまり、

    オサガメ自体は、

    未知の生物ではありません。

    では、

    何が「世界初」なのでしょうか。

    「オサガメ科の化石」は以前からあった

    ここはかなり重要です。

    オサガメの祖先に近い、

    オサガメ科(Dermochelyidae)の化石

    そのものは以前から知られていました。

    このグループの歴史は古く、

    古第三紀まで遡ることができます。

    過去には、

    現在とは異なる複数のオサガメ科のカメが存在していました。

    でも、

    現在まで生き残ったのは、

    Dermochelys coriacea

    一種だけです。

    そして奇妙なことに、

    その現生種そのものの化石が一つも確認されていなかった。

    昔の親戚は化石になっている。

    現在のオサガメもいる。

    なのに、

    その間をつなぐ

    Dermochelys coriaceaの化石

    だけが見つからない。

    そこに空白がありました。

    2026年、その空白に一本の骨が入った

    今回の台湾の標本は、

    その空白に初めて入った化石です。

    研究チームは標本を、

    現生オサガメの骨格。

    そして、

    過去に生息していた複数の化石オサガメ類。

    それぞれと比較しました。

    結果、

    台湾の上腕骨は、

    古い絶滅種よりも、

    現在のオサガメの上腕骨に非常によく似ていた。

    そのため研究者は、

    この標本を、

    Dermochelys coriacea

    と同定しました。

    つまり、

    「オサガメに似た古代ガメ」

    ではない。

    今、海を泳いでいるオサガメと同じ種。

    ここが今回の発見の核心です。

    一本の骨で、どうやって分かるのか

    僕はここがかなり面白いと思います。

    カメの骨を一本見て、

    どうして種類まで分かるのか。

    研究では、

    上腕骨のかなり細かな形が比較されています。

    たとえば、

    上腕骨頭の傾き。

    筋肉が付着する隆起の形。

    骨表面にある窪みの深さ。

    骨の端の幅。

    隆起同士の位置関係。

    こうした特徴を、

    現在のオサガメと比較しました。

    特に今回の化石には、

    上腕骨頭の特徴的な傾き、わずかに湾曲する二次三角胸筋稜、深い結節間窩がないこと

    など、現生オサガメと一致する特徴が確認されています。

    人間から見れば、

    「大きな一本の骨」

    にしか見えないかもしれない。

    でも、

    骨にはその動物の構造が残っています。

    化石はかなり大きな成体だった可能性

    研究者は、

    この骨が、

    身体的に成熟した大型個体

    のものだった可能性が高いと判断しています。

    さらに興味深いことに、

    上腕骨のある特徴が現在の雌オサガメに見られる形と似ているため、

    雌だった可能性

    も指摘されています。

    ただし、

    これは確定ではありません。

    研究論文でも、

    「もしこの解釈が正しければ雌の可能性がある」

    という慎重な書き方がされています。

    何年前のオサガメなのか

    この化石は、

    更新世

    のものと考えられています。

    より具体的には、

    研究チームは周辺から見つかる化石などを基に、

    更新世中期〜後期

    という幅広い年代を想定しています。

    ただし、

    「何万年前」

    と正確に言うことはできません。

    なぜなら、

    化石は地層の中から発掘されたものではなく、

    海底から引き上げられたもの

    だからです。

    どの地層に埋まっていたのかという情報が失われています。

    だから、

    正確な年代を決めることは難しい。

    ここも、

    古生物研究の面白いところですね。

    化石が見つかれば、

    すべてが分かるわけではない。

    一つ分かると、

    また別の問いが生まれます。

    今の台湾海峡は、昔から海だったわけではない

    さらに面白いのが、

    発見場所です。

    現在の台湾海峡は、

    平均水深約60〜70m。

    台湾と中国大陸の間には、

    海があります。

    でも、

    更新世には、

    氷期と間氷期によって海面が大きく上下しました。

    研究論文によれば、この地域は時期によって、

    陸地。

    細い水路。

    浅い海峡。

    というように、

    環境そのものが何度も変化していた可能性があります。

    つまり、

    現在の海底から化石が見つかったからといって、

    そのオサガメが現在とまったく同じ台湾海峡を泳いでいた、

    とは限りません。

    海の形そのものが違いました。

    では、このオサガメは台湾で産卵していたのか?

    ここも、

    今回の研究からは言えません。

    現在の台湾周辺は、

    オサガメにとって主要な産卵地ではありません。

    論文でも、

    台湾海峡は現在のオサガメの主要な交尾・産卵場所から離れていると説明されています。

    研究者が注目したのは、

    むしろ、

    移動や採餌です。

    現在の西太平洋個体群も、

    広い海域を移動します。

    研究チームは、この化石の存在から、

    更新世のオサガメもすでに、

    西部北太平洋沿岸を利用していた可能性

    を考えています。

    何十万年前にも、巨大なオサガメがここを泳いでいたかもしれない

    想像すると、

    かなりすごい。

    現在、

    台湾と澎湖の間には、

    船が通ります。

    漁船が出る。

    貨物船が通る。

    その海の下から、

    一本の骨が出てきた。

    その骨の持ち主は、

    まだ人間の都市も国境も存在しなかった時代に、

    同じ西太平洋を泳いでいた可能性があります。

    クラゲを探し、

    広い海を移動し、

    また別の海域へ向かった。

    現在のオサガメと、

    基本的には同じような姿で。

    この化石は「世界分布の起源」の話にもつながる

    さらに研究者は、

    この化石と、

    オサガメのDNA研究との関係にも注目しています。

    分子研究では、

    現在世界中に分布しているオサガメ個体群は、

    過去約100万年以内の更新世に、

    インド太平洋地域から世界各地へ広がった可能性

    が示されていました。

    そして今回、

    そのインド太平洋地域に含まれる台湾から、

    更新世のオサガメ化石が見つかった。

    研究チームは、

    この発見が、

    そうした世界的拡散の仮説と整合的だとしています。

    もちろん、

    一本の骨だけで、

    世界中への移動経路が確定したわけではありません。

    でも、

    DNAから推定していた物語の中に、

    実物の化石が一個置かれた。

    これはかなり大きいと思います。

    なぜ今まで化石がなかったのか

    ここで、

    オサガメという生き物そのものが関係してきます。

    普通のカメなら、

    巨大な甲羅があります。

    甲羅には、

    多くの骨があります。

    つまり、

    化石として残る可能性のある部分がかなり多い。

    でも、

    オサガメは違います。

    硬い甲板がありません。

    甲羅を構成する骨も、

    他のウミガメと比べて大幅に縮小しています。

    つまり、

    そもそも化石として残りにくいカメ

    なんです。

    さらに海洋生物の場合、

    陸上動物と比較して研究できる更新世の地層自体も限られます。

    この二つが重なって、

    現在のオサガメの化石記録が、

    長い間ゼロだった可能性があります。

    甲羅が残らないなら、「腕」を探せばいい

    僕は今回、

    この部分がすごく好きです。

    オサガメには、

    普通のカメのような硬い甲羅がない。

    だから、

    化石になりにくい。

    だったら、

    別の骨を見る。

    腕を見る。

    一本の上腕骨を見る。

    そこから、

    現在のオサガメと比較する。

    生き物の一番目立つ特徴が残らなくても、

    別の部分から、その存在を見つけることができる。

    科学って面白いですね。

    化石そのものを3Dで見ることもできる

    今回の標本は、

    研究者だけが触れるものではありません。

    化石の3Dデータも公開されています。

    Zenodoには、

    NTUM-VP 250802の左上腕骨をスキャンしたSTLデータが登録されています。

    つまり、

    台湾に行かなくても、

    世界中の研究者が、

    同じ骨をデジタル上で調べることができます。

    150年前なら、

    化石そのものを博物館へ見に行く必要があった。

    今は、

    骨そのものをデータとして共有できる。

    これも現代の古生物学なんですね。

    一本の骨で、世界地図が少し変わった

    今回見つかったものは、

    たった一本です。

    頭もない。

    甲羅もない。

    全身骨格もない。

    でも、

    その一本があることで、

    僕たちが描いていたオサガメの歴史は変わりました。

    これまで、

    現在のオサガメについては、

    「今ここにいる」

    という記録しかなかった。

    そこへ、

    「更新世の台湾にもいた」

    という一点が加わりました。

    過去の分布図に、

    一つ、

    点が増えた。

    その一点が、

    世界中を泳ぐ現在のオサガメの起源を考える材料になります。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回僕が特に面白いと思うのは、

    「今も普通に生きている種類にも、知られていない過去がある」

    というところです。

    絶滅した恐竜。

    絶滅した巨大ガメ。

    そういう動物なら、

    化石から歴史を調べるイメージがあります。

    でも、

    オサガメは今もいる。

    海を泳いでいる。

    写真もある。

    GPSまで付けて追跡されている。

    それなのに、

    その種類の過去について、

    こんな大きな空白があった。

    2026年まで、

    誰も、

    確実な化石を持っていなかった。

    現在を詳しく知っていることと、

    過去を知っていることは、

    全然別なんですね。

    湯川亀吉の一言

    オサガメかっこいいよね〜

    出典

    National Taiwan University(国立台湾大学)
    「來自臺灣的全球第一件現生革龜化石」
    2026年9月2日。世界初の現生オサガメ化石、研究者、発見場所、研究の意味について。
    台湾大学の公式発表を見る

    Acta Palaeontologica Polonica
    Yi-Lu Liaw & Cheng-Hsiu Tsai
    「The first fossil of the extant leatherback sea turtle Dermochelys coriacea」
    2026年。化石の形態比較、年代、発見場所、現生オサガメとの同定、進化・分布についての原著論文。
    原著論文のページを見る

    Acta Palaeontologica Polonica 原著論文PDF
    化石と現生オサガメの上腕骨写真・形態比較を掲載。
    論文PDFを見る

    Zenodo
    「The first fossil leatherback sea turtle」
    標本NTUM-VP 250802の3Dデータを公開。
    化石の3Dデータを見る

    環境省
    オサガメ Dermochelys coriacea の日本語名、形態、日本近海への来遊などについて。
    環境省の資料を見る

  • 【世界の亀ニュース】150年前から知られていたカメが「新種」に!? 孤島の Kinosternon mariamadre をめぐる分類論争

    【世界の亀ニュース】150年前から知られていたカメが「新種」に!? 孤島の Kinosternon mariamadre をめぐる分類論争

    今回は、

    「今まで誰も見たことがなかったカメが、ジャングルの奥から発見された」

    というニュースではありません。

    むしろ、

    その逆です。

    人間は、

    このカメを約150年前から知っていました。

    博物館にも標本がある。

    研究者も調べている。

    学術文献にも登場している。

    どこに暮らしているのかも分かっている。

    それなのに2025年、

    研究者たちは、

    「このカメ、今まで考えられていた種類とは違うのではないか」

    と結論しました。

    そして、

    Kinosternon mariamadre

    という新しい学名を付けました。

    でも、

    話はそこで終わりません。

    2026年現在、

    主要な爬虫類データベースでは、

    K. mariamadreを独立種としてではなく、

    Kinosternon integrumの同物異名

    として扱っています。

    新種なのか。

    それとも、

    同じ種類の島嶼個体群なのか。

    今回は、

    カメの「名前」が決まるまでの世界

    を見てみます。

    今回のニュース

    2025年7月3日。

    カメ類専門の学術誌Chelonological Contributionsに、

    「New Species of Mud Turtle (Testudines: Kinosternidae) from the Tres Marías Islands, Nayarit, Mexico」

    という論文が発表されました。

    著者は、

    Mehdi Joseph-Ouni氏、Paul Vander Schouw氏、Jay Frewer氏、Dennis Uhrig氏、William P. McCord氏。

    研究チームは、メキシコ・ナヤリット州沖のトレス・マリアス諸島に生息するドロガメを、

    Kinosternon mariamadre

    という独立した新種として記載しました。

    英語名として論文では、

    Tres Marías Mud Turtle

    が使われています。

    日本語の標準和名は確認できないため、この記事では基本的に、

    Kinosternon mariamadre

    または、

    マリア・マドレ島のドロガメ

    と表記します。

    どこの国・地域の話か

    国:メキシコ
    州:ナヤリット州
    島:Isla María Madre(マリア・マドレ島)
    島嶼群:Islas Tres Marías(トレス・マリアス諸島)
    新種記載:2025年7月3日
    提唱された学名:Kinosternon mariamadre
    科:ドロガメ科 Kinosternidae
    属:ドロガメ属 Kinosternon
    情報の種類:新種記載・分類学・島嶼生物・形態研究

    トレス・マリアス諸島には主要な島が4つあります。

    しかし論文によると、このドロガメが確認されているのは、

    マリア・マドレ島だけ。

    残る主要3島には、このカメが利用できる適切な淡水環境がないとされています。

    つまり、

    もし本当に独立種なら、

    世界でこの一つの島だけに暮らすカメ

    ということになります。

    でも、このカメは2025年に見つかったわけではない

    ここが今回の話の面白いところです。

    新種として記載されたのは、

    2025年。

    でも、

    このカメが初めて人間に知られたのは、

    それよりはるか昔です。

    論文によれば、

    マリア・マドレ島のドロガメ標本は、

    1881年にAlphonse Forrerによって採集されていました。

    その標本をもとに、

    英国の動物学者Albert Güntherが1885年にこの島のドロガメについて記録しています。

    2025年から数えれば、

    およそ144年前。

    つまり、

    「新種を発見した」

    というより、

    「144年前から目の前にいたカメを、新しい目で見直した」

    という方が近いんです。

    1897年にも採集されていた

    さらに、

    1897年。

    Nelson and Goldmanによるメキシコ生物調査の際にも、

    マリア・マドレ島から複数のドロガメが採集されました。

    2025年の新種記載では、

    そのうち4成体と1幼体が、

    新種を定義するためのパラタイプ標本として指定されています。

    つまり、

    100年以上前に博物館へ収められた標本が、

    2025年になって、

    「新種を説明する証拠」

    として再び使われたことになります。

    1925年のカメもいる

    1925年には、

    California Academy of Sciencesの調査隊が、

    マリア・マドレ島のArroyo Hondoで一匹の雄を採集しました。

    その個体は、

    古い切り株の下の泥へ半分埋まった状態で見つかったと記録されています。

    現在、この標本もK. mariamadreのパラタイプとして扱われています。

    正確に測り直された甲長は、

    144.6mm。

    15cmにも満たない、

    小さなドロガメです。

    1957年の一匹が「基準」になった

    そして、

    1957年4月7日。

    Richard G. Zweifel氏が、

    同じくArroyo Hondoで一匹の成体雄を採集しました。

    この個体は、

    2025年に新種が記載された際、

    ホロタイプ

    に指定されました。

    ホロタイプというのは、

    簡単に言えば、

    「この新種とは、まずこの個体を基準に考えてください」

    という基準標本です。

    新種の名前は、

    単なるアイデアではありません。

    世界中の研究者があとから検証できるように、

    実物の標本が残されます。

    生きていたときの色まで記録されていた

    1957年に採集されたホロタイプには、

    生きていたときの色彩記録まで残っています。

    記録では、

    頭頂部。

    甲羅。

    四肢。

    尾。

    これらは、

    ほぼ模様のない暗い黒色。

    一方、

    顎や頭部側面には黄色い斑。

    腹甲は黄色で、

    甲板の境界に沿って濃褐色の模様があったとされています。

    100年近く前の標本だけでは、

    色が退色してしまいます。

    だから、

    こうした古いフィールドノートも、

    分類を考える重要な情報になります。

    ずっと「何ガメなのか」が揺れていた

    この島のカメが、

    今まで研究されていなかったわけではありません。

    むしろ、

    研究されていたのに、分類が定まらなかった。

    論文によると、

    約1世紀にわたって、

    Kinosternon integrum

    なのか、

    Kinosternon hirtipes

    なのか、

    分類上の扱いが揺れ動いてきました。

    つまり研究者たちは、

    ずっと同じカメを見ながら、

    「これはあの種類だ」

    「いや、こっちの種類だ」

    と考え直してきたわけです。

    2025年、「どちらでもない」と考えた研究者たち

    そして2025年。

    Joseph-Ouni氏らは、

    もう一つの可能性を提示しました。

    Kinosternon integrumでも、

    Kinosternon hirtipesでもない。

    島独自の別種ではないか。

    研究チームは、

    甲羅。

    頭部。

    体の比率。

    色彩。

    その他多数の形態的特徴を比較。

    その組み合わせが既知のK. integrumとは異なるとして、

    独立種を提唱しました。

    ここで大事なのは、

    「一か所だけ違うから新種」

    ではないことです。

    一つ一つの差ではなく、

    複数の特徴をまとめて比較する。

    それが分類の材料になります。

    名前は「mariamadre」

    新しく提唱された種小名は、

    mariamadre。

    由来はとてもシンプルです。

    このカメが暮らす、

    María Madre Island。

    島の名前そのものから付けられました。

    だから、

    Kinosternon mariamadre。

    直訳すれば、

    「マリア・マドレのドロガメ」

    というような名前です。

    なぜ島にだけ違うカメがいるのか

    論文では、

    このカメが人間によって島へ持ち込まれた証拠は確認されておらず、

    島が地理的に隔離された歴史の中で独自化した可能性を考えています。

    島は、

    進化を考えるうえで非常に面白い場所です。

    海によって隔離される。

    本土の仲間と交わらなくなる。

    何千年。

    何万年。

    もっと長い時間。

    別々の環境で暮らす。

    その結果、

    同じ祖先から始まっても、

    少しずつ違う特徴を持つようになることがあります。

    でも――「新種記載=分類確定」ではない

    ここからが、

    今回の記事で一番重要です。

    論文が、

    K. mariamadreを新種として記載した。

    だったら、

    今日から世界中で新種として確定。

    ――ではありません。

    分類学では、

    新しい研究が発表されると、

    他の研究者がその証拠を検討します。

    賛成する研究者もいる。

    別の分析をする研究者もいる。

    もっとDNAを調べる必要があると考える人もいる。

    そして、

    結論が変わることもあります。

    2026年現在、独立種として扱わない資料もある

    実際、

    爬虫類分類の主要なデータベースであるThe Reptile Databaseでは、

    2026年現在、

    Kinosternon mariamadreをK. integrumの同物異名

    として扱っています。

    同じ2025年に記載されたK. iversoniも、

    同様にK. integrum側へまとめられています。

    つまり現在、

    二つの見方があります。

    2025年の新種記載論文:

    「マリア・マドレ島の個体群は独立種 K. mariamadre」

    一方、現在の主要分類整理:

    「独立種とするには至らず、K. integrumとして扱う」

    という状況です。

    世界のカメ分類は、まだ動いている

    IUCN SSCのTortoise and Freshwater Turtle Specialist Groupが2025年に公表した、

    Turtles of the World 第10版

    には、

    現生カメ類として364種が掲載されています。

    そして、このチェックリスト自身が、

    近年提唱された分類変更や、

    まだ議論が続いている分類を継続的に整理しています。

    カメの種類数は、

    永久に固定された数字ではありません。

    新種が記載される。

    一つだった種が分かれる。

    逆に、

    二種だと思われていたものが一種へ戻される。

    亜種が種になる。

    種が亜種になる。

    「カメとは何種類いるのか」という問い自体が、現在進行形なんです。

    DNAを読めば全部解決するのか?

    ここも面白いところです。

    今回のK. mariamadreの新種記載は、

    主に、

    形態・計測値・色彩

    を使った分類研究です。

    では、

    DNAを調べれば一発で答えが出るのか。

    必ずしも、

    そう単純でもありません。

    遺伝的にどれだけ離れれば別種なのか。

    形態差はどの程度重要なのか。

    交雑できるか。

    地理的に隔離されているか。

    進化的に独立した系統なのか。

    「種とは何か」そのものに、

    複数の考え方があります。

    だから、

    DNAも、

    形も、

    分布も、

    生態も、

    全部が証拠になります。

    そもそも「種」って何だろう

    普段、

    僕たちは、

    ミシシッピアカミミガメ。

    クサガメ。

    ニホンイシガメ。

    というように、

    種類が最初から決まっているものだと思っています。

    でも、

    自然の中には、

    「ここから先が別種です」

    という線は引かれていません。

    人間が、

    違いを観察する。

    比較する。

    進化の歴史を考える。

    そして、

    名前を付ける。

    分類とは、

    自然界に貼られているラベルを読む仕事ではなく、人間が自然の違いをどう理解するかという仕事

    でもあるんですね。

    新種は「見つける」だけではない

    今回のニュースを見ていると、

    「新種発見」

    という言葉の印象も少し変わります。

    新種と聞くと、

    探検家がジャングルへ入る。

    変なカメが出てくる。

    誰も見たことがない。

    新種だ!

    そんなイメージがあります。

    でも、

    K. mariamadreは違います。

    1881年には、

    標本があった。

    1885年には、

    論文に登場した。

    1897年にも採集された。

    1925年にも。

    1957年にも。

    人間は、

    ずっと知っていました。

    そして、

    2025年。

    知っていたものを見直した結果、「別のものかもしれない」と気付いた。

    新種は、

    必ずしも、

    新しく見つかった生物ではないんですね。

    博物館の標本は「過去」ではない

    僕が今回かなり面白いと思ったのが、

    博物館標本の存在です。

    100年以上前に採集されたカメ。

    普通に考えれば、

    昔の資料です。

    でも、

    分類研究では、

    その標本が2025年になって再び主役になる。

    測り直す。

    別の標本と比較する。

    採集記録を見る。

    生前の色彩記録を読む。

    新しい研究方法で、

    古い標本へもう一度質問する。

    標本は、

    「昔のカメを保存している」

    だけじゃない。

    未来の研究者が、まだ思いついていない質問に答える資料

    でもあるんですね。

    一匹の名前が変わると、地図も変わる

    もし、

    K. mariamadreが独立種として認められるなら、

    世界のカメ分布図にも、

    新しい一点が加わります。

    メキシコ。

    太平洋。

    トレス・マリアス諸島。

    マリア・マドレ島。

    そこだけに、

    一種類のカメがいる。

    一方、

    K. integrumの一地域個体群として扱うなら、

    もっと広く分布する種類の、

    孤立した島嶼個体群になります。

    カメそのものは、

    昨日も今日も同じです。

    でも、

    人間の理解が変わると、

    そのカメが世界の中で占める意味まで変わります。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番面白いと思うのは、

    「まだ答えが決まっていない」

    ことです。

    新種です。

    終わり。

    ではない。

    新種として記載された。

    別の研究者が見る。

    本当に違うのか。

    標本を見る。

    DNAを見る。

    形を見る。

    昔の論文を見る。

    また議論する。

    もしかすると、

    数年後には、

    K. mariamadreが広く独立種として認められているかもしれない。

    逆に、

    K. integrumとして定着しているかもしれない。

    今、

    僕たちは、

    カメの名前が決まっていく途中を見ている。

    それが、

    すごく面白い。

    保護されたカメ。

    放流されたカメ。

    繁殖したカメ。

    それだけじゃない。

    「お前は一体、何というカメなんだ?」

    というニュースも、

    世界にはあるんですね。

    湯川亀吉の一言

    新種見つけてみたいね〜

    出典

    Chelonological Contributions / theTurtleRoom
    Joseph-Ouni, M. et al.
    「New Species of Mud Turtle (Testudines: Kinosternidae) from the Tres Marías Islands, Nayarit, Mexico」
    2025年7月3日。Kinosternon mariamadreの新種記載、標本、分布、命名、分類史について。
    新種記載論文の紹介ページを見る

    Chelonological Contributions 原著論文PDF
    ホロタイプ、パラタイプ、1881年以降の標本記録、María Madre島のみという分布情報など。
    原著論文PDFを見る

    The Reptile Database
    「Kinosternon integrum」
    2026年現在、K. mariamadreとK. iversoniをK. integrumの同物異名として整理。
    現在の分類上の扱いを見る

    IUCN SSC Tortoise and Freshwater Turtle Specialist Group / Turtle Taxonomy Working Group
    「Turtles of the World: Annotated Checklist and Atlas of Taxonomy, Synonymy, Distribution, and Conservation Status, 10th Edition」
    2025年。世界の現生カメ類の最新分類・分類変更・論争を整理したチェックリスト。
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  • 【世界の亀ニュース】8,000万年の系統を絶やすな ベリーズがメキシコカワガメ「ヒカティー」を救う58項目の国家計画を承認

    【世界の亀ニュース】8,000万年の系統を絶やすな ベリーズがメキシコカワガメ「ヒカティー」を救う58項目の国家計画を承認

    今回は、中米ベリーズから、

    一匹のカメを守るために、

    国全体でこれから何をするのかを決めたニュースを紹介します。

    主役は、

    メキシコカワガメ。

    学名は、

    Dermatemys mawii。

    英語では、

    Central American River Turtle。

    そしてベリーズでは、

    Hicatee(ヒカティー)

    という名前で親しまれています。

    2026年8月。

    ベリーズ水産局は、このヒカティーを絶滅から守るための

    Central American River Turtle (Hicatee) Conservation Action Plan 2026

    を正式に承認しました。

    そこに並んでいる具体的な行動は、

    58項目。

    密猟対策。

    法律。

    教育。

    飼育下繁殖。

    野生復帰。

    研究。

    生息地保全。

    それらを一つの計画にまとめ、

    これから実際に動かしていきます。

    今回のニュース

    Turtle Survival Alliance(TSA)が2026年8月31日に発表したところによると、ベリーズのMinistry of Blue Economy & Marine Conservation傘下のFisheries Departmentが、ヒカティーの新しい保全行動計画を承認しました。

    計画作りを中心となって進めたのは、

    Belize Foundation for Research and Environmental Education(BFREE)。

    そこへ、

    Belize Fisheries Department。

    Turtle Survival Alliance。

    Zoo New England。

    研究者。

    大学。

    保全団体。

    行政。

    そして、

    実際にヒカティーを捕ってきた伝統的な漁業地域の人々

    まで参加しました。

    計画づくりそのものは2020年から始まり、オンライン・対面のワークショップや戦略会議を何年も重ねてきました。

    そして2026年8月24日。

    ベリーズのNational Climate Weekで正式に発表。

    ようやく、

    「ヒカティーを守りたい」

    という段階から、

    「誰が、何を、どう進めるのか」

    という実行段階へ移ります。

    どこの国・地域の話か

    国:ベリーズ
    地域:中米
    対象種:メキシコカワガメ
    現地名:Hicatee
    学名:Dermatemys mawii
    英名:Central American River Turtle
    発表:2026年8月24日
    TSA発表:2026年8月31日
    情報の種類:淡水ガメ・国家保全計画・飼育下繁殖・野生復帰・密猟対策・生息地保全

    メキシコカワガメは、

    ベリーズだけのカメではありません。

    現在の自然分布は、

    ベリーズ。

    グアテマラ。

    メキシコ南部。

    この3地域に限られています。

    登場する亀

    今回の主役、

    Dermatemys mawii。

    日本ではメキシコカワガメという名前が使われています。

    そして、このカメには、

    とても大きな特徴があります。

    ものすごく水棲傾向が強い。

    川。

    湖。

    三日月湖。

    冠水林。

    そうした淡水環境の中で生活します。

    さらに、

    大型の淡水ガメでありながら、

    ほぼ完全な植物食。

    水中や川沿いの植物を利用します。

    見た目もかなり独特です。

    甲羅は一般的なカメのようにゴツゴツと高く盛り上がらず、

    比較的滑らか。

    頭は丸みがあり、

    鼻先は少し突き出しています。

    完全に、

    「川を泳ぐためのカメ」

    という感じです。

    この一匹しか残っていない「科」

    ここが、

    僕が今回一番驚いたところです。

    メキシコカワガメが所属するのは、

    Dermatemydidae。

    現在、

    この科に生きている種類は、

    Dermatemys mawiiだけ。

    一種類です。

    WCS Belizeによると、

    その最も近い親戚たちは、

    現在では化石でしか知られていません。

    さらに、

    この系統は他の現生カメ類から、

    およそ8,000万年前に分岐したとされています。

    8,000万年前。

    恐竜がいた時代です。

    つまり、

    メキシコカワガメが絶滅するということは、

    一種類がいなくなるだけではありません。

    8,000万年以上続いてきた一本の系統そのものが、現代で途切れる

    ということになります。

    でも、人間が食べてきたカメでもある

    そして、

    このカメの保全を難しくしている理由があります。

    ヒカティーは、

    ベリーズの人々にとって、

    単なる珍しい野生動物ではありません。

    長い間、

    食文化とも結びついてきたカメです。

    そのため、

    捕獲されてきました。

    そして、

    捕獲量が個体群の回復能力を上回るようになった。

    TSAやBFREEは、

    現在の大きな減少原因として、

    食用目的の過剰捕獲

    を挙げています。

    だから今回の計画も、

    単純に、

    「捕るな」

    だけではありません。

    文化。

    地域住民。

    法律。

    教育。

    研究。

    野生個体群。

    全部を一緒に考えています。

    現在も細かい捕獲規制がある

    ベリーズでは現在、

    ヒカティーの売買は禁止されています。

    さらに、

    所持できる数。

    車両で運べる数。

    雌の捕獲に関するサイズ制限。

    5月1日から31日までの禁漁期。

    などの規制があります。

    ここからも、

    このカメと人間との関係の複雑さが分かります。

    完全に、

    人間から切り離された野生動物ではない。

    でも、

    今までと同じように捕り続ければ、

    いなくなる。

    だから、

    「利用」と「存続」をどう両立させるのか

    まで考えなければなりません。

    58の行動

    今回決められた計画には、

    58の具体的な行動が設定されています。

    大きく分けると、

    法執行。

    法律・規制。

    地域教育。

    飼育個体群管理。

    野生復帰。

    研究。

    野生個体群そのものの保全。

    生息地の回復と保護。

    などです。

    つまり、

    「繁殖させればいい」

    ではありません。

    密猟を減らす。

    子どもたちへ伝える。

    川を残す。

    野生の数を調べる。

    飼育個体の血統を管理する。

    カメを戻す。

    そして、

    戻した場所を守る。

    全部必要です。

    2010年から続いてきた

    もちろん、

    2026年に突然始まった活動ではありません。

    BFREEとTSAが本格的にヒカティー保全へ協力し始めたのは、

    2010年。

    翌2011年には、

    Hicatee Conservation & Research Center

    が設立されました。

    そこで、

    飼育下繁殖。

    ヘッドスタート。

    野生個体群調査。

    生態研究。

    教育。

    再導入。

    さまざまな活動が進められてきました。

    15年以上の実践を経て、

    今回、

    それらを国の正式なロードマップにまとめたわけです。

    1,000匹以上を野生へ

    そして、

    すでに結果も出始めています。

    TSAによると、

    これまでに、

    1,000匹以上のヘッドスタート個体が野生へ放されています。

    つまり、

    飼育施設で増やすだけではない。

    育てる。

    野生で生きられるサイズにする。

    そして、

    川へ戻す。

    すでにそこまで進んでいます。

    30,000エーカーを守った

    さらに2021年。

    TSA、BFREEなどの保全パートナーは、

    約30,000エーカー

    の土地の保全につなげました。

    その中には、

    重要なヒカティー生息地であるCox Lagoonも含まれます。

    Cox Lagoonは、

    Belize Riverとつながる重要な淡水環境です。

    1,000匹カメを育てる。

    でも、

    川がなくなったら意味がない。

    だから、

    カメだけでなく、

    カメが帰る場所そのものを確保する。

    ここでも、

    同じ考え方が出てきます。

    学校でも「ヒカティー」を伝える

    保全活動のもう一つの柱が、

    教育です。

    TSAによると、

    これまでにヒカティーを題材とした教育・普及活動へ、

    数千人のベリーズの子どもたち

    が参加しています。

    学校では、

    ヒカティーをテーマにしたバナーなども作られてきました。

    これは、

    かなり重要だと思います。

    今、

    川にいる大人のカメを守る。

    でも、

    20年後に、

    そのカメを捕るか、

    守るかを決めるのは、

    今の子どもたちかもしれない。

    カメの寿命は、

    人間の政策より長い。

    だから、

    次の世代まで含めて保全する必要があります。

    「ベリーズが最後の希望」

    BFREEのJacob Marlin氏は、

    ヒカティーについて、

    ベリーズがこの種の長期的な存続にとって最後の希望だ

    という強い表現を使っています。

    もちろん、

    メキシコやグアテマラにも本種は残っています。

    でも、

    多くの地域ですでに個体群は大幅に減少し、

    場所によっては姿を消しました。

    だからこそ、

    比較的個体群が残っているベリーズで、

    今止められるかどうかが重要になります。

    「計画を作った」で終わらせない

    そして今回、

    一番大事なのはここです。

    58項目を決めた。

    立派な冊子を作った。

    政府が承認した。

    それだけでは、

    カメは一匹も増えません。

    BFREE自身も、

    保全団体だけではヒカティーを救えない

    と明言しています。

    最終的に、

    ヒカティーがベリーズで十分な数を維持できるかどうかを決めるのは、

    ベリーズの人々です。

    だから今回の発表は、

    完成ではありません。

    むしろ、

    スタートラインです。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番面白いと思うのは、

    やっぱり、

    「一種類を失うことと、一つの進化の枝を失うことは同じではない」

    というところです。

    ヒカティーが絶滅する。

    すると、

    Dermatemys mawiiがいなくなる。

    でも、

    それだけじゃない。

    Dermatemydidaeというグループから、

    生きている動物が、

    一匹もいなくなる。

    何千万年も続いた系統が、

    そこで終わる。

    恐竜が歩いていた頃から、

    祖先が形を変えながら、

    ずっと命をつないできた。

    気候が変わった。

    大陸が変わった。

    他の動物が絶滅した。

    それでも、

    この一本だけは、

    2026年まで来た。

    だったら、

    ここで終わらせたくない。

    今回の58項目は、

    その一本の線を、

    未来へもう少し伸ばすための計画なんだと思います。

    湯川亀吉の一言

    ベリーズって国があるということを知らなかった!

    出典

    Belize Fisheries Department
    「Central American River Turtle (Hicatee) Conservation Action Plan 2026」
    ベリーズ政府が正式に公開している保全行動計画。58の戦略的行動と長期的な保全方針について。
    Belize Fisheries Departmentの公式資料ページを見る

    Turtle Survival Alliance
    「Belize Approves Conservation and Action Plan for Critically Endangered Hicatee」
    2026年8月31日。計画の承認、58項目、15年以上の保全活動、1,000匹以上の野生復帰、30,000エーカーの生息地保全について。
    TSAの記事を読む

    Belize Foundation for Research and Environmental Education(BFREE)
    「Hope for the Hicatee」
    2026年8月24日。計画作成の経緯、地域住民・研究者・行政などの参加、Climate Weekでの発表について。
    BFREEの記事を読む

    Wildlife Conservation Society Belize
    「Central American River Turtle」
    本種がDermatemydidae唯一の現生種であること、約8,000万年前に他の現生カメ類から分岐した非常に古い系統であること、分布・食性・脅威について。
    WCS Belizeの種紹介を見る

    IUCN/SSC Tortoise and Freshwater Turtle Specialist Group
    「Dermatemys mawii – Central American River Turtle」
    分類、分布、生態、植物食、保全状況について。
    TFTSGの種アカウントを見る

  • 【世界の亀ニュース】30年ぶりにガンジス川へ 20匹のニシキセタカガメが始める「失われた個体群」の再建

    【世界の亀ニュース】30年ぶりにガンジス川へ 20匹のニシキセタカガメが始める「失われた個体群」の再建

    今回は、インドを代表する大河川・ガンジス川で始まった、絶滅寸前の淡水ガメを復活させる取り組みを紹介します。

    主役は、

    ニシキセタカガメ。

    学名は、

    Batagur kachuga。

    英語では、

    Red-crowned Roofed Turtle

    と呼ばれています。

    かつてはガンジス川流域の広い範囲に生息していました。

    しかし、成体や卵の捕獲、漁業、砂の採取、ダムによる水位変化、河岸の農地化などによって急減。

    現在、野生でまとまった個体群が残っているのは、ほぼチャンバル川だけになっています。2026年に報じられた最新の整理では、チャンバル川に残る成体は1,000匹未満、そのうち繁殖可能な雌は約500匹と推定されています。

    そして2025年。

    人間は、このカメを、

    「まだ残っている場所で守る」

    だけではなく、

    「消えてしまった川へ戻す」

    段階へ進みました。

    今回のニュース

    2025年4月26日。

    インド・ウッタルプラデシュ州のGarhaita Turtle Conservation Centerで育てられた20匹のニシキセタカガメが、ガンジス川水系のHaiderpur Wetland周辺へ移されました。

    インド政府による公式発表は、この取り組みを、

    ニシキセタカガメを約30年ぶりにガンジス川へ戻す再導入

    として紹介しています。

    20匹には、

    音響発信器(acoustic / sonic transmitter)

    が取り付けられました。

    つまり、放したあとも、

    どこへ泳ぐのか。

    どこに留まるのか。

    生き残れるのか。

    湿地と川をどのように利用するのか。

    その動きを追跡できます。

    調査は今後約2年間続けられる計画です。

    どこの国・地域の話か

    国:インド
    州:ウッタルプラデシュ州
    水系:ガンジス川
    主な放流地域:Haiderpur Wetland Complex周辺
    放流日:2025年4月26日
    対象種:ニシキセタカガメ
    学名:Batagur kachuga
    英名:Red-crowned Roofed Turtle
    情報の種類:淡水ガメ・再導入・ヘッドスタート・テレメトリー・河川保全・絶滅危惧種

    日本の環境省資料でも、Batagur kachugaには**「ニシキセタカガメ」**という和名が使われています。

    登場する亀

    ニシキセタカガメは、イシガメ科バタグールガメ属の大型淡水ガメです。

    大きな雌では甲長50cmを超えることがあり、大河川に適応したかなり立派なカメです。インド政府のガンジス川保全資料では、甲長は最大約56cm、体重は最大約25kgと紹介されています。

    でも、このカメで何より目を引くのは、

    オスの顔です。

    繁殖期になると、成熟したオスの頭部には赤、黄、白、青などの鮮烈な色彩が現れます。

    特に頭頂部が鮮やかな赤色になるため、

    Red-crowned=赤い冠を持つ

    という英名が付いています。

    一方、雌はずっと落ち着いた灰褐色〜オリーブ系の色彩。

    同じ種類とは思えないほど印象が違います。

    今後ヒーロー画像を作るなら、繁殖期の雄を描くか、雌を描くかで全く違う作品になる種類だね。

    かつてはガンジス川のカメだった

    ニシキセタカガメは、もともとガンジス川流域の広い範囲に生息していました。

    インドだけでなく、歴史的にはネパールやバングラデシュにも分布していたとされています。

    2026年のDown To Earthによる整理では、かつての分布域はガンジス川流域の主要河川・支流を含む、約40万平方キロメートル規模に及んでいました。

    つまり、

    もともとは、

    「チャンバル川だけの珍しいカメ」

    ではありませんでした。

    ガンジス川水系を代表する大型淡水ガメの一種だった。

    それが、ほとんどの地域から消えていきました。

    何がカメを消したのか

    原因は一つではありません。

    成体の捕獲。

    卵の採取。

    違法な国際ペット取引。

    漁網への混獲。

    砂の採掘。

    産卵する砂州での農業。

    ダムからの不規則な放水。

    河川環境そのものの変化。

    複数の圧力が重なりました。

    特にこのカメにとって重要なのが、

    砂州です。

    ニシキセタカガメの雌は春になると川から上がり、乾いた砂州へ穴を掘って卵を産みます。

    2026年の報告では、通常15〜20個ほどの卵を産み、約60〜65日の孵化期間を経て子ガメが川へ向かうとされています。

    つまり、

    川の水だけ守っても駄目。

    川の横にある砂まで必要なんです。

    1993年にはいた

    インド政府によると、1993年の調査ではBijnore Barrage周辺でニシキセタカガメが確認されていました。

    ところが、その後の調査では見つからなくなります。

    2020年にはHaiderpur Wetland周辺でカメ類の調査が行われました。

    9種類のカメが確認された。

    でも、

    ニシキセタカガメはいない。

    インド政府は2025年の再導入発表で、ガンジス川本流では約30年間、成体の確実な記録がなかったと説明しています。

    しかし、本当に完全に消えていたわけではなかった

    ここが面白いところです。

    2021年。

    ウッタルプラデシュ州Hapur地区で、

    一匹の成体雌

    が確認されました。

    さらに2023年。

    Bulandshahr地区のAhar村で、

    2つの巣

    が見つかります。

    27個の卵から、

    21匹の子ガメが孵化しました。

    つまり、

    ガンジス川から完全に絶滅していたわけではない可能性が出てきました。

    人間が見つけられないところで、

    わずかな個体が残っていた。

    少なくとも、

    産卵できる雌がいた。

    そして、

    繁殖も起きていた。

    でも、

    それだけで個体群が復活するとは限りません。

    最後の大きな砦はチャンバル川

    現在、このカメの生存を支えているのが、

    チャンバル川です。

    ガンジス川水系の支流で、National Chambal Sanctuaryという河川保護区があります。

    2024年の研究論文では、

    チャンバル川がニシキセタカガメの最後に知られる野生個体群を支えている

    とされています。

    そこでは2006年から、

    かなり大規模な保全活動が続いています。

    巣を探す

    毎年、

    2月から5月。

    保全チームが川沿いを歩きます。

    目的は、

    カメの巣。

    そのままでも安全な場所ならいい。

    でも、

    水位が上がれば沈みそうな巣。

    人に掘られる可能性がある巣。

    ジャッカルや野犬に襲われそうな巣。

    そうした危険な巣は、

    卵を慎重に回収します。

    そして、

    川沿いに設置された保護孵化場へ移します。

    6,500以上の巣

    2006年から2020年までの14繁殖シーズン。

    ニシキセタカガメと近縁のミスジセタカガメを合わせて、

    6,500以上の巣

    が保護されました。

    そして孵化した子ガメの多くは、

    その巣がもともとあった場所へ戻されます。

    2024年の論文によると、このプロジェクトを通じて両種合わせて12万匹以上の子ガメがチャンバル川へ放されています。

    とてつもない数です。

    でも、一部の子ガメだけは川へ戻さない

    孵化した子ガメをすぐ川へ戻す。

    それが基本です。

    でも、

    毎年その中から一部だけを選びます。

    その子たちは、

    すぐには放しません。

    保全施設で育てます。

    これが、

    head-starting=ヘッドスタート

    です。

    小さな子ガメは、

    魚や鳥など多くの捕食者に狙われます。

    そこで、

    ある程度大きくなるまで人間が育てる。

    体が大きくなり、

    捕食されにくくなってから川へ戻す。

    生存率を少しでも上げるための方法です。

    786匹を育てた

    2020年までに、

    この施設でヘッドスタートされたニシキセタカガメは、

    786匹。

    さらに近縁種のBatagur dhongokaも66匹が育てられました。

    2022年には、

    ヘッドスタートされたニシキセタカガメ100匹がチャンバル川へ放流されています。

    つまり、

    卵を守る。

    子ガメを生ませる。

    一部を育てる。

    川へ返す。

    この循環を、

    何年も何年も繰り返しています。

    そして次の段階へ

    ここまでは、

    残っている個体群を増やす保全でした。

    でも、

    2025年の20匹は意味が違います。

    放した場所は、

    最後の砦であるチャンバル川ではありません。

    かつて暮らしていたガンジス川水系。

    つまり、

    個体群を補強するのではなく、

    失われた分布域そのものを取り戻そうとしている。

    2024年の研究論文でも、長期目標としてニシキセタカガメを歴史的分布域へ再導入することが明記されていました。

    翌2025年、

    それが実際に始まりました。

    20匹を二つのグループに分ける

    今回の放流は、

    単純ではありません。

    20匹を、

    10匹ずつ二つのグループ

    へ分けました。

    一方は、

    Haiderpur Wetlandの堰より上流側。

    もう一方は、

    下流側のガンジス川本流。

    さらに報道では、それぞれ雄5匹・雌5匹で構成されたとされています。

    なぜ分けたのか。

    どちらの放流方法・環境のほうが再導入に適しているのかを比較するためです。

    「ソフト」と「ハード」を比べる

    インド政府は今回、

    soft releaseとhard releaseを比較する最初の再導入試験

    と説明しています。

    簡単に言えば、

    新しい環境へ少しずつ慣らしてから自由にする方法と、

    直接野生環境へ放す方法の違いです。

    どちらが良いかは、

    種類によっても、

    場所によっても変わります。

    だから、

    実際のカメを追跡して確かめます。

    20匹全員に発信器

    ここで重要になるのが、

    音響発信器です。

    カメが見えなくなっても、

    発信器から出る信号を追えば、

    移動を確認できます。

    2026年のDown To Earthによれば、初期の追跡では、放流個体について生存と分散に前向きな結果が得られていると報じられています。

    ただし、

    まだ始まったばかりです。

    本当の成功は、

    20匹が生きていることだけではありません。

    最終的には、人間が放さなくても増えること

    再導入されたカメが、

    ガンジス川で餌を見つける。

    生き残る。

    成長する。

    雄と雌が出会う。

    交尾する。

    雌が砂州へ上がる。

    巣を掘る。

    卵を産む。

    そして、

    人間が持ってきたのではない子ガメが、

    ガンジス川へ入る。

    そこまでいけば、

    ようやく、

    個体群の再建が始まった

    と言えるのだと思います。

    20匹を放すことは、

    ゴールではありません。

    本当の目的は、

    いつか、

    21匹目を人間が放さなくてもいい状態を作ることです。

    国際取引からも強く守られるようになった

    ニシキセタカガメは、

    IUCNレッドリストで**Critically Endangered(深刻な危機)**に分類されています。

    さらに2022年のCITES第19回締約国会議では、インドが提出した提案によって、国際取引規制を附属書IIから附属書Iへ強化することが全会一致で承認されました。現在のCITES附属書にもBatagur kachugaは附属書Iとして掲載されています。

    背景には、

    違法なペット取引があります。

    特に繁殖期の雄は、

    その異常なほど鮮やかな色彩から、

    コレクターの対象になってきました。

    実際、過去には複数個体がスーツケースへ詰め込まれ、国外へ運ばれようとして摘発された事件もあります。

    美しいことが、危険になる。

    野生動物では、

    何度も起きている問題です。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番面白いと思うのは、

    「守る場所を増やす」という考え方です。

    チャンバル川に、

    最後の個体群が残っている。

    だったら、

    そこだけを徹底的に守ればいい。

    そう考えることもできます。

    でも、

    一か所だけに全個体群が集中することには危険があります。

    大規模な洪水。

    水質事故。

    感染症。

    ダム。

    開発。

    たった一つの川で何かが起きれば、

    種全体が危険になる。

    だから、

    昔いた場所へ、

    もう一つの個体群を作る。

    さらに、

    もう一つ。

    そうやって、

    絶滅の危険を分散させる。

    僕は、

    今回の20匹は、

    単にカメを放した数字ではなく、

    「ニシキセタカガメの世界を、もう一度広げる最初の20匹」

    なんだと思います。

    湯川亀吉の一言

    ニシキセタカガメ、本当に欲しかったんだよ!

    広いスペースさえあれば買ってたのにな〜!

    ちくちょう!!

    自然界でどんどん増えて、また日本に輸出してくれ!!

    出典

    Government of India / Press Information Bureau・Ministry of Jal Shakti
    「Unique Success of the Namami Gange Mission: The Return of the Red-Crowned Roofed Turtle to the Ganga After Three Decades」
    2025年4月29日。20匹の再導入、音響発信器、2グループによる放流試験、約2年間の追跡について。
    インド政府の公式発表を見る

    Down To Earth
    「Turning turtle」
    2026年3月28日。過去の分布、現在のチャンバル川個体群、2021年の成体雌、2023年の巣、再導入後の状況などを整理。
    Down To Earthの記事を読む

    The Herpetological Bulletin
    「Conservation recovery of Batagur kachuga and Batagur dhongoka turtles in India: Development and operation of a head-starting facility」
    2024年。2006年からの巣保護、孵化場、ヘッドスタート、歴史的分布域への再導入計画についての研究論文。
    研究論文を見る

    India Turtle Conservation Program
    「Batagur Recovery Project along Chambal-Yamuna River」
    チャンバル川での巣保護、孵化、個体群減少、地域との連携について。
    保全プロジェクトを見る

    Turtle Survival Alliance
    「Red-crowned Roofed Turtles Get a Head Start in India」
    ヘッドスタート、巣の移設、孵化・放流と脅威について。
    TSAの記事を読む

    CITES
    2025年2月7日版の附属書。Batagur kachugaはAppendix Iに掲載。
    CITES附属書を見る

    環境省
    日本国内資料でBatagur kachugaの和名「ニシキセタカガメ」を確認。
    環境省資料を見る

  • 【世界の亀ニュース】100年ぶりに再発見されたカメを「未来の湿地」へ 気候変動から救うオーストラリアの移住計画

    【世界の亀ニュース】100年ぶりに再発見されたカメを「未来の湿地」へ 気候変動から救うオーストラリアの移住計画

    今回は、オーストラリア西部に生息する、世界でも特に希少な淡水ガメの保全活動を紹介します。

    学名は、

    Pseudemydura umbrina。

    日本の法令では、

    オーストラリアヌマガメモドキ

    という和名が使われています。

    一方、日本の爬虫類関連資料などでは、

    クビカシゲガメ

    という名前も使われています。

    このカメは、

    一度は絶滅したと思われました。

    再発見された。

    繁殖に成功した。

    1,000匹以上を野生へ戻した。

    普通なら、

    ここまででも大成功です。

    でも、

    問題が一つ残っていました。

    カメが暮らしてきた湿地そのものが、だんだん乾いている。

    そこで研究者たちは、

    過去にこのカメが生息していなかった、

    もっと南の、

    もっと涼しく、

    もっと長く水が残る湿地へ、

    カメを移し始めました。

    今回のニュース

    大きな転換点の一つが、2016年です。

    西オーストラリア州政府、Perth Zoo、University of Western Australiaなどの保全チームは、飼育下で繁殖した24匹のオーストラリアヌマガメモドキを、西オーストラリア州南西部の新しい候補地へ移しました。

    重要なのは、

    そこが単なる「別の放流場所」ではなかったことです。

    本来このカメが知られていた歴史的な分布域よりも、

    さらに南側。

    将来の気候変動を考え、

    より涼しく、

    より湿潤な環境を探して選ばれました。

    この方法は、

    assisted colonisation

    と呼ばれます。

    日本語なら、

    「人為的移住」

    「保全的移住」

    あるいは、

    「分布域外への計画的移送」

    に近い考え方です。

    どこの国・地域の話か

    国:オーストラリア
    州:西オーストラリア州
    従来の主な生息地域:パース近郊・スワン沿岸平野
    新たな移住候補地:西オーストラリア州南西部
    対象種:オーストラリアヌマガメモドキ
    学名:Pseudemydura umbrina
    英名:Western Swamp Tortoise / Western Swamp Turtle
    情報の種類:淡水ガメ・飼育下繁殖・野生復帰・気候変動・保全的移住

    現在、オーストラリア政府も本種の重要な保全策として、気候変動下でも生息可能な場所へ新しい個体群を作ることを挙げています。

    登場する亀

    オーストラリアヌマガメモドキは、

    ヘビクビガメ科に属する非常に小型の淡水ガメです。

    成体でも甲長はおよそ11〜13cm程度。

    体重は300〜450gほど。

    首は短く、

    頭頂部には大きな一枚の鱗板があります。

    足には水かきがあり、

    各足に5本の爪を持ちます。

    見た目は、

    派手ではありません。

    巨大でもない。

    奇抜な模様もない。

    茶色。

    黒。

    泥や湿地に溶け込むような小さなカメです。

    でも、

    進化的には非常に独特な存在です。

    Pseudemydura属で現在生きているのは、この一種だけ。

    オーストラリア政府の回復計画では、近縁のカメとは大きく異なる遺存的な系統であることが紹介されています。

    1839年、一匹だけ見つかった

    このカメの科学的な物語は、

    1839年に始まります。

    オーストリア人の博物学者Ludwig Preissが、西オーストラリアで一匹の標本を採集。

    その標本は、

    ウィーン自然史博物館へ送られました。

    しかし、

    その後が続きません。

    一匹も見つからない。

    何十年経っても、

    見つからない。

    1901年、

    博物館に保存されていた標本をもとに、

    Pseudemydura umbrina

    として正式に記載されます。

    でも、

    生きたカメが見つからない状態は続きました。

    100年以上、誰も見つけられなかった

    1839年から、

    1953年まで。

    114年間。

    新しい標本は確認されませんでした。

    そのため、

    このカメは絶滅したのではないかと考えられていました。

    そして1953年。

    物語が突然動きます。

    見つけたのは少年だった

    西オーストラリア州Upper Swan。

    そこで一匹の小さなカメを見つけたのは、

    Robert Boydという少年でした。

    彼はそのカメを、

    Western Australian Naturalists’ Clubの野生動物展示会へ持っていきます。

    そこで、

    「これは普通のカメではない」

    と気付かれました。

    100年以上、

    科学者にも見つからなかったカメ。

    その再発見のきっかけを作ったのは、

    一人の少年でした。

    探してみると、二つの小さな個体群があった

    再発見後、

    周辺で調査が行われます。

    そして、

    パース北東部に、

    二つの小さな生息地が見つかりました。

    現在の、

    Ellen Brook Nature Reserve。

    Twin Swamps Nature Reserve。

    この二つです。

    1962年には、

    残された生息環境を守るため、

    自然保護区が設けられました。

    一度は絶滅したと思われたカメに、

    ようやく保護区ができました。

    でも、生息地そのものが消えていった

    問題は、

    カメを捕る人だけではありませんでした。

    このカメが暮らしていたスワンバレー周辺は、

    パース都市圏に近い場所です。

    農業。

    宅地開発。

    道路。

    粘土採掘。

    排水。

    かつて湿地だった土地の多くが、

    別の用途へ変わっていきました。

    オーストラリア政府によると、本来利用していた粘土質の湿地の大部分は、現在では都市化・農業利用・粘土採掘などによって失われています。

    1980年代、30匹未満

    保護区まで作った。

    それでも、

    減少は止まりませんでした。

    1980年代。

    野生に残った個体は、

    30匹未満。

    Perth Zooは、

    この時期を本種が絶滅寸前まで追い詰められた時代として紹介しています。

    100年ぶりに見つかった。

    そのわずか30年後、

    今度は本当に消えそうになりました。

    1989年、動物園で繁殖を始める

    そこで、

    Perth Zooを中心とした飼育下繁殖プログラムが本格化します。

    開始は1989年。

    親ガメを繁殖させる。

    卵を見つける。

    掘り出す。

    孵卵器へ移す。

    孵化させる。

    子ガメを育てる。

    そして、

    十分に成長してから野生へ戻す。

    現在、Perth Zooでは、子ガメがおよそ100g、約3歳になった頃を一つの目安として野生復帰させています。

    1,300匹以上が生まれた

    その積み重ねは、

    大きな数字になりました。

    Perth Zooによると、

    1989年以降、

    1,300匹以上のオーストラリアヌマガメモドキが同園で繁殖。

    2024年6月時点で、

    そのうち1,125匹が野生環境へ放されています。

    30匹未満まで減ったカメです。

    そこから、

    1,000匹を超えるカメを、

    再び自然へ送り出せるところまで来ました。

    だったら、もう安心?

    ここまで読むと、

    保全は成功したように見えます。

    でも、

    新しい問題が出てきました。

    雨が減っている。

    このカメは、

    一年中水の中にいるわけではありません。

    冬から春。

    雨によって一時的な湿地に水がたまる。

    カメはそこで活動します。

    餌を食べる。

    成長する。

    繁殖に必要なエネルギーを蓄える。

    そして夏。

    湿地が乾くと、

    地面の穴や深い落ち葉の中へ入り、

    活動を抑えて暑い時期を乗り切ります。

    つまり、

    一定期間、湿地に水が残ること

    が非常に重要です。

    ところが、水のある期間が短くなっている

    気候が暖かく、

    乾燥するようになる。

    雨が減る。

    湿地が早く乾く。

    すると、

    カメが水中で餌を取れる期間が短くなります。

    昔は半年近く使えた湿地でも、

    水が残る期間が数か月まで短くなる可能性がある。

    そうなると、

    カメは十分に食べられません。

    成長できない。

    繁殖できない。

    つまり、

    保護区そのものは残っていても、カメが暮らせなくなる

    可能性があります。

    そこで発想を逆にした

    普通の保全なら、

    「本来の生息地を守ろう」

    と考えます。

    それはもちろん重要です。

    でも、

    本来の場所の気候そのものが変わってしまったら?

    そこで研究者たちは、

    違う問いを立てました。

    カメを守る場所を、もっと南へ作れないか。

    西オーストラリア州南西部。

    パース周辺より、

    涼しい。

    雨が多い。

    湿地に長く水が残る。

    将来、

    現在の生息地が暑く乾燥したとき、

    そこがカメの避難場所になる可能性があります。

    2016年、歴史的分布域の外へ

    2016年。

    24匹の飼育下繁殖個体が、

    Meerup周辺とAugusta東部の保全地域へ試験的に放されました。

    西オーストラリア州政府は当時、この試みを、

    将来の気候変動に備えて脊椎動物を歴史的分布域外へ移す試み

    として紹介しました。

    カメを、

    「昔いた場所」

    へ戻すのではない。

    「未来でも生きられそうな場所」へ移す。

    保全の考え方そのものが変わっています。

    「カメがいなかった場所へ放していいのか」

    でも、

    これは簡単な問題ではありません。

    ある生き物を、

    本来いなかった地域へ持ち込む。

    人間は過去、

    これを何度もやっています。

    そして、

    外来生物問題を起こしてきました。

    だから、

    assisted colonisationには議論があります。

    移したカメが、

    新しい生態系へ悪影響を与えないか。

    他の希少種と競合しないか。

    病気を持ち込まないか。

    新しい場所で本当に繁殖できるか。

    気候だけでは決められません。

    コンピューターまで使って「未来の湿地」を探す

    そこで研究者たちは、

    現在の生息地だけを見ません。

    気温。

    降水量。

    湿地に水が残る期間。

    カメの活動。

    卵の発生。

    将来の気候予測。

    さまざまな条件をモデル化し、

    これから先もカメが暮らせそうな場所

    を探しました。

    University of Western Australiaの研究者たちは、

    この理想的な場所を、

    “Goldilocks wetlands”

    と表現しています。

    暑すぎない。

    寒すぎない。

    乾きすぎない。

    カメにとって、

    「ちょうどいい湿地」です。

    2021年、さらに73匹

    試験は続きます。

    2021年には、

    Perth Zooで繁殖した73匹が、

    西オーストラリア州南西部の二つの場所へ放されました。

    Augusta東部へ16匹。

    Scott National Parkへ57匹。

    このうち48匹には、

    無線発信器やデータロガーが装着されました。

    見るのは、

    単に生死だけではありません。

    どこへ移動するか。

    いつ活動するか。

    体温はどう変化するか。

    どれくらい成長するか。

    新しい環境で、

    カメが本当に「普通に暮らせるか」を調べます。

    2022年、191匹を一度に放流

    翌2022年。

    さらに大きな放流が行われました。

    合計、

    191匹。

    44匹がScott National Park。

    147匹がMoore River Nature Reserve。

    飼育下繁殖プログラム開始以来、

    当時最大規模の放流でした。

    Scott National Parkの個体群は特に、

    気候変動への避難先として新しい個体群を作れるか

    を確かめる重要な試みになっています。

    2024年、さらに20匹

    保全は現在も続いています。

    2024年には、

    Perth ZooとAdelaide Zooで育った20匹が、

    Moore River近郊へ放されました。

    年齢は、

    2歳から13歳。

    放流前には無線発信器が取り付けられ、

    既にその場所で暮らしている個体と行動を比較する研究も始まりました。

    同発表時点で、

    Perth Zooでは1,300匹以上が繁殖し、

    1,145匹が野生へ放された

    とされています。

    「元の場所へ戻す」だけが保全ではなくなった

    これまで、

    野生復帰という言葉には、

    一つの分かりやすい形がありました。

    捕まえられた場所へ戻す。

    昔いた場所へ戻す。

    本来の生息地へ戻す。

    でも、

    気候変動は、

    その考え方を難しくしています。

    場所は残っている。

    保護区にもなっている。

    密猟者もいない。

    それでも、

    気候だけが昔とは違う。

    だったら、

    カメを過去へ戻すのではなく、

    未来へ移す必要があるのかもしれない。

    オーストラリアヌマガメモドキの保全は、

    その難しい問いを、

    実際のカメを使って考えているプロジェクトです。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回の話で僕が一番面白いと思うのは、

    「生息地とは何なのか」

    というところです。

    カメが昔からいた場所。

    それが生息地。

    普通はそう考えます。

    でも、

    気温が変わる。

    雨が減る。

    湿地が乾く。

    すると、

    地図上では同じ場所でも、

    カメにとっては、

    もう同じ場所ではない。

    逆に、

    昔はカメがいなかった南の湿地が、

    50年後には、

    カメにとって一番暮らしやすい場所になるかもしれない。

    保全というのは、

    昔の状態をそのまま保存する仕事だと思っていたけれど、

    このカメを見ていると、

    そうではないのかもしれない。

    変わっていく世界の中で、生き物が生き続けられる場所を探す仕事

    でもあるのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    他人が持っていない亀って、なんで欲しくなるんでしょうね?

    僕の性格が捻くれてるせいかな?

    欲しいなぁ〜オーストラリアヌマガメモドキ

    出典

    Perth Zoo
    「Western Swamp Tortoise Breeding Program」
    再発見、1980年代の個体数、繁殖プログラム、現在の繁殖・放流実績、気候変動に対応した新しい放流地について。
    URL:Perth Zooの保全プログラムを見る

    Western Australia Department of Biodiversity, Conservation and Attractions
    「Record release for critically endangered Western Swamp Tortoise」
    2022年。44匹と147匹、合計191匹の記録的な放流について。
    URL:DBCAの記事を読む

    National Environmental Science Program – Threatened Species Recovery Hub
    「Western swamp tortoises move to a cool new home」
    2016年。気候変動に備えて24匹を歴史的分布域外へ移した初期のassisted colonisationについて。
    URL:2016年の移住計画を見る

    The University of Western Australia
    「Bold plan to find ‘Goldilocks’ wetlands for Western Swamp Tortoise」
    2022年9月7日。気候変動に耐えられる新しい湿地を探す研究について。
    URL:UWAの記事を読む

    Australian Government – DCCEEW
    「Western swamp tortoise」
    本種の脅威と、気候変動避難地への新個体群創出を含む現在の保全方針。
    URL:オーストラリア政府の種情報を見る

    e-Gov 法令検索
    Pseudemydura umbrinaの日本語名「オーストラリアヌマガメモドキ」の確認。
    URL:e-Govの法令情報を見る