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  • 【世界の亀ニュース】エロンガータリクガメ201匹が誕生 カンボジアの保全繁殖で過去最高記録

    【世界の亀ニュース】エロンガータリクガメ201匹が誕生 カンボジアの保全繁殖で過去最高記録

    今回は、カンボジアで絶滅の危機にあるエロンガータリクガメの子どもが、2026年だけで201匹誕生したニュースを紹介します。

    今回のニュース

    2026年8月、カンボジアのアンコール生物多様性保全センター(Angkor Centre for Conservation of Biodiversity:ACCB)は、今年の繁殖シーズンにエロンガータリクガメ201匹の孵化に成功したと発表しました。

    これは、ACCBが行ってきたエロンガータリクガメの保全繁殖プログラムとして過去最高の記録です。

    これまでの最高記録は2024年の169匹。

    2026年は8月時点ですでに201匹に達し、前回の記録を約19%上回りました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:カンボジア
    施設:アンコール生物多様性保全センター(ACCB)
    地域:シェムリアップ州
    発表:2026年8月8日
    報道:2026年8月10日
    情報の種類:リクガメ・飼育下繁殖・孵化・野生復帰・絶滅危惧種

    ACCBはカンボジアの絶滅危惧動物を対象に、救護、飼育下繁殖、野生復帰、放逐後の追跡などを行う保全施設です。

    登場する亀

    今回の主役は、エロンガータリクガメです。

    学名は Indotestudo elongata

    英語ではElongated Tortoiseと呼ばれています。

    日本の動物園でも「エロンガータリクガメ」という和名が使われています。背甲はやや扁平で、上から見ると前後に細長い形をしています。最大甲長は30センチ前後から、大型個体では約36センチに達します。

    インド北東部からネパール、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、カンボジア、ラオス、ベトナム、マレー半島、中国南部など、南アジアから東南アジアにかけて分布しています。

    201匹という新記録

    ACCBでは、2026年に入ってから201匹のエロンガータリクガメが孵化しました。

    2024年の年間記録169匹を、8月の段階ですでに超えています。

    ACCBは2026年を、この繁殖プログラムにとってこれまでで最も成功した年としています。

    201匹の子ガメたちは現在、ACCBの施設内で育てられています。

    すぐに野生へ放すわけではありません。

    捕食者に簡単に襲われない大きさまで成長させ、その後、条件が整った個体から野生復帰を目指します。

    世界最大規模の飼育個体群

    ACCBは、エロンガータリクガメについて世界最大の飼育下個体群を維持する施設としています。

    2025年にACCBの担当者が紹介した内容では、同センターでは約600匹のエロンガータリクガメが飼育されていました。

    これは単に「たくさん飼っている」という意味ではありません。

    野生個体群が大きく減少している種類について、遺伝的な多様性をできるだけ維持しながら繁殖させ、将来的に野生個体群を補強するための個体群です。

    こうした個体群は、野生で何か大きな問題が起きたときに種そのものが失われることを防ぐ、いわば保険のような役割も持っています。

    90年間で80%以上減少

    エロンガータリクガメは、広い範囲に分布しているカメです。

    しかし、

    「広く分布している=安全」

    ではありません。

    ACCBによる保全活動の紹介では、違法な食用捕獲、国際的な野生生物取引、生息地の劣化と分断などによって、過去約90年間で個体数が少なくとも80%減少したとされています。

    現在はIUCNレッドリストで「Critically Endangered」、つまり「深刻な危機」に分類されています。

    一見すると普通に見える中型のリクガメが、実際には世界的な絶滅危惧種になっています。

    森の中で暮らすリクガメ

    エロンガータリクガメは、乾燥した砂漠を歩くタイプのリクガメではありません。

    東南アジアの落葉広葉樹林など、比較的湿度のある森林環境を利用します。

    植物の葉。

    果実。

    花。

    キノコ。

    タケノコ。

    そして、ときにはカタツムリなどの小動物や動物の死骸も利用する、植物食傾向の強い雑食性のカメです。

    森の中で落ちた果実を食べ、別の場所へ移動し、糞と一緒に種子を運びます。

    ACCBの保全担当者は、エロンガータリクガメが種子散布に関わり、森林の再生にも役割を持つと説明しています。

    リクガメを戻すことは、森の機能を戻すこと

    リクガメが一匹いなくなる。

    それだけを見ると、生態系への影響は分かりにくいかもしれません。

    しかし、森の中で果実を食べる大型の動物が減れば、植物の種が運ばれる距離も変わります。

    土を掘る動物が減れば、地面の状態も変わります。

    ACCBは、エロンガータリクガメが種子を運ぶだけでなく、土を掘る行動によって土壌へ空気を送り込み、小さな生物が利用する環境を作ることにもつながると説明しています。

    つまり、リクガメを森へ戻すことは、

    「カメの数を増やす」

    だけの活動ではありません。

    森の中から失われつつある機能を、一つずつ戻す活動でもあります。

    すでに100匹を森へ戻す計画が始まっている

    ACCBでは繁殖だけでなく、実際の野生復帰も進めています。

    2023年4月、飼育下で育てられた100匹のエロンガータリクガメが、カンボジア北部の保護地域へ移されました。

    しかし、到着したその日に放されたわけではありません。

    まず約1ヘクタールの順応用エリアへ入れられ、野生の気温、植物、地面、雨、餌などに慣れる期間が設けられました。

    そして約8か月後。

    2024年1月12日、囲いが開放されました。

    100匹のリクガメは、そこから自分の意思で森の中へ散らばっていきました。

    「放して終わり」ではない

    野生復帰で難しいのは、

    カメを森へ置くことではありません。

    そのあと、本当に生きていけるのかを確かめることです。

    ACCBでは放された個体の一部に、GPSとVHF発信器を取り付けています。

    どこへ移動するのか。

    どんな場所で休むのか。

    どれくらい広い範囲を利用するのか。

    健康状態は維持できているのか。

    そうした情報を収集しています。

    放したカメが森の中へ消えてしまえば、

    「野生復帰成功」

    と考えたくなります。

    でも、本当の答えはその先にあります。

    森を歩く「Tortoise Guardians」

    放されたカメを追跡するために、現地では3人のTortoise Guardians=リクガメの守り手が訓練されました。

    彼らは実際にその森で暮らしている地域住民です。

    発信器の信号を追い、

    カメの位置を確認し、

    行動や環境データを集めます。

    ACCBのスタッフも定期的に森へ入り、GPSデータを回収したり、発信器を交換したりしています。

    さらに半年ごとに獣医師が健康状態を確認します。

    飼育施設で生まれたカメが、

    森へ入る。

    人間の視界から消える。

    でも遠くから、その生活を少しだけ見守る。

    繁殖施設と野生の森が、そこでつながっています。

    201匹は、まだ「成果の途中」

    201匹が孵化した。

    それだけでも大きなニュースです。

    でも、保全という視点では、この201匹はまだスタート地点に立ったばかりです。

    成長する。

    健康を維持する。

    野生へ戻せる大きさになる。

    新しい環境へ慣れる。

    森へ放される。

    野生の餌を見つける。

    雨季と乾季を越える。

    そして何年も生き、成長し、最終的には自分たちで繁殖する。

    そこまで到達して初めて、人間が育てた一世代が、野生の個体群へ本当に加わったと言えるのだと思います。

    飼育下繁殖はゴールではない

    動物園や保全施設で絶滅危惧種がたくさん生まれると、

    「もう大丈夫なのでは?」

    と思うことがあります。

    しかし、野生の森そのものが失われれば、帰る場所はありません。

    エロンガータリクガメが減少してきた背景には、捕獲だけではなく、森林の劣化や分断もあります。

    だからACCBでは、

    飼育下繁殖。

    野生復帰。

    放逐後の追跡。

    地域住民との協力。

    生息地の保全。

    それらを一つの流れとして進めています。

    201匹の子ガメを育てることと、

    その201匹が帰れる森を残すこと。

    どちらか一方だけでは成立しません。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が特に注目したいのは、

    「たくさん生まれた」というニュースの先に、森があることです。

    201匹。

    数字として見ると、とても分かりやすい成果です。

    でも、本当に重要なのは、

    その201匹を水槽の中で増やし続けることではない。

    いつか、

    人間が餌を与えなくても、

    人間が温度を管理しなくても、

    人間が毎日姿を確認しなくても、

    森の中で勝手に生きていること。

    そして、

    そのカメ自身が次の卵を産むこと。

    飼育下繁殖が成功するほど、

    次に問われるのは、

    「帰る場所を残せているか」

    なのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    エロンガータかっこいいよね!

    家にスペースがあったら飼育してみたいな〜

    出典

    Angkor Centre for Conservation of Biodiversity(ACCB)
    2026年エロンガータリクガメ繁殖記録。

    Cambodianess
    「Over 200 Hatchlings of Tortoises Show Successful Breeding Year」
    2026年8月10日。

    British and Irish Association of Zoos and Aquariums(BIAZA)
    「The Long (but Slow) Walk Home – Restoring Elongated Tortoise Populations in Cambodia’s Forests」

    京都市動物園
    「エロンガータリクガメ/Elongated Tortoise」

  • 【世界の亀ニュース】180年ぶりにゾウガメがフロレアナ島へ 失われた血統を受け継ぐ158匹が帰還

    【世界の亀ニュース】180年ぶりにゾウガメがフロレアナ島へ 失われた血統を受け継ぐ158匹が帰還

    今回は、ガラパゴス諸島のフロレアナ島に、約180年ぶりにゾウガメが戻った歴史的なニュースを紹介します。

    今回のニュース

    2026年2月20日、エクアドルのガラパゴス諸島にあるフロレアナ島へ、フロレアナゾウガメの血統を受け継ぐ若いゾウガメ158匹が放されました。

    フロレアナ島では、19世紀半ばに固有のゾウガメが姿を消して以来、約180年間にわたってゾウガメが生息していませんでした。

    今回の放逐によって、失われていたゾウガメの生態的な役割が、島へ戻り始めることになります。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:エクアドル共和国
    場所:ガラパゴス諸島・フロレアナ島
    元記事の言語:英語・スペイン語
    放逐日:2026年2月20日
    情報の種類:リクガメ・野生復帰・遺伝子研究・生態系再生・保護活動

    フロレアナ島は、ガラパゴス諸島の中でも早い時期から人間が暮らし始めた島です。現在は約160人が生活しており、自然環境の再生と島民の暮らしを両立させる大規模な復元事業が進められています。

    登場する亀

    このニュースの中心となるのは、フロレアナゾウガメの血統を受け継ぐゾウガメです。

    フロレアナ島にかつて生息していたゾウガメの学名は、Chelonoidis niger nigerです。

    ただし、今回島へ放された158匹を、かつてのフロレアナゾウガメと完全に同じ純粋な個体として扱うことはできません。

    現在、純粋なフロレアナゾウガメとして確認されている生存個体はいません。今回放されたのは、絶滅したフロレアナゾウガメと、イサベラ島のウォルフ火山に生息するゾウガメの血を受け継ぐ交雑個体の子孫です。

    ニュースの要約

    今回放された158匹は、サンタクルス島にある繁殖施設で育てられた、12歳から14歳の若いゾウガメです。

    一般的に、ガラパゴスゾウガメは5歳から7歳ほどまで成長すると、外来動物などの危険に耐えられる可能性が高くなるとされています。今回の個体たちはその年齢を十分に超え、野生で暮らせる大きさになるまで慎重に育てられました。

    放逐は、フロレアナ島で植物が豊富になり、季節的な水場も現れる雨季に合わせて行われました。

    島へ戻った直後から食物や水を確保しやすくすることで、新しい環境へ定着できる可能性を高めています。

    絶滅したはずの血統は、別の島に残っていた

    フロレアナゾウガメは、捕鯨船や航海者による大量捕獲、そして人間が持ち込んだ外来生物などの影響を受け、19世紀半ばまでにフロレアナ島から姿を消しました。

    長い間、その血統は完全に失われたと考えられていました。

    しかし2000年、フロレアナ島から離れたイサベラ島のウォルフ火山で、周囲の個体とは甲羅の形が異なるゾウガメが発見されました。

    遺伝子を調べた結果、その個体たちはフロレアナゾウガメの血統を受け継いだ交雑個体であることが分かりました。

    かつて捕鯨船の乗組員たちは、食料としてゾウガメを船へ積み込み、航海の都合によって別の島へ置いていくことがありました。

    フロレアナ島から運び出されたゾウガメの一部がイサベラ島に残され、現地のゾウガメと交雑したことで、その遺伝的な血統が約180年間残った可能性があります。

    遺伝子から血統をつなぎ直す

    研究者とガラパゴス国立公園のスタッフは、フロレアナゾウガメの血を濃く受け継ぐ個体をウォルフ火山から選び出し、繁殖施設へ移しました。

    2015年と2020年には、繁殖計画に使用する成体が新たに施設へ運ばれ、遺伝子情報をもとに交配の組み合わせが検討されました。

    目的は、絶滅したフロレアナゾウガメを完全に再現することではありません。

    それは不可能だと、計画を進める研究者自身が説明しています。

    目指しているのは、残された遺伝的な血統をできるだけ多く受け継ぎ、かつてフロレアナゾウガメが島で果たしていた生態的な役割を、再び担うことのできる個体群を作ることです。

    158匹すべてをGPSで追跡

    フロレアナ島へ放された158匹には、軽量のGPS発信器が取り付けられています。

    研究チームは、ゾウガメが島のどこを歩き、どの場所で餌を食べ、どの環境を好んで利用するのかを継続的に記録します。異常な移動や健康上の問題が見つかった場合には、早い段階で対応することもできます。

    繁殖に使われている成体は、今後も施設に残ります。

    新しい世代が十分な大きさへ成長するたびに、年間およそ25匹から100匹をフロレアナ島へ追加放逐し、何十年もかけて自立した個体群を形成する計画です。

    ゾウガメは、島を作り変える存在

    ゾウガメは、ただ島の植物を食べて暮らすだけの動物ではありません。

    植物を食べながら島内を移動し、糞と一緒に種を遠くへ運びます。

    大きな体で草や低木の間を進むことで道を作り、地面を踏み、植物が密集しすぎない開けた環境を維持します。水や泥のある場所では、ほかの生き物も利用できる小さなくぼみを作ることがあります。

    こうした働きから、ゾウガメは「生態系エンジニア」や「キーストーン種」と呼ばれます。

    フロレアナ島からゾウガメが姿を消したことで、植物の広がり方や種子の移動、開けた生息環境の維持といった働きも失われました。

    158匹の帰還は、ゾウガメという一種類を戻すだけではなく、約180年間止まっていた島の仕組みを、再び動かし始める試みです。

    12種類の生き物を島へ戻す計画

    今回のゾウガメは、フロレアナ島へ戻される予定の12種類の生き物の第一段階です。

    将来的には、現在フロレアナ島本島では見られなくなっているフロレアナマネシツグミや、固有のヘビ、フィンチ類などについても、環境が整い次第、再導入が検討されます。

    そのためには、ネズミや野生化したネコなどの外来哺乳類を減らし、島の植物や生息環境を回復させなければなりません。

    ゾウガメの帰還は、フロレアナ島全体を再生する長期計画の始まりでもあります。

    「絶滅種が復活した」とは言い切れない

    今回のニュースは、「絶滅したフロレアナゾウガメが復活した」と紹介されることがあります。

    しかし、正確には少し違います。

    かつてフロレアナ島に生息していた純粋なゾウガメと、まったく同じ遺伝子を持つ個体が復活したわけではありません。

    今回戻ったのは、絶滅した血統の一部を受け継ぐ交雑個体の子孫です。

    それでも、その価値が小さくなるわけではありません。

    かつて島から運び出されたゾウガメが、別の島で血統を残していた。

    人間はその遺伝的な痕跡を見つけ、何十年もかけて子孫を育て、再び祖先の島へ戻した。

    完全に失われたものを元通りにすることはできなくても、残されているものから、新しい未来を作ることはできます。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、人間が運び出したゾウガメの血統を、人間が再び故郷へ運んだことです。

    約200年前、ゾウガメは食料として島から連れ出されました。

    船の都合で別の島へ置き去りにされ、その場所でほかのゾウガメと交雑した。

    当時の人間に、その血統を未来へ残そうという意思はなかったはずです。

    それでも、ゾウガメは生きた。

    子孫を残し、体の中にフロレアナ島へつながる遺伝子を持ち続けた。

    そして現代の人間が、その小さな痕跡を見つけました。

    今回の158匹は、絶滅した過去をそのまま再現した存在ではありません。

    でも、失われた血統と、これから再生していく島をつなぐ、新しいゾウガメなのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    偉いね。

    出典

    Galápagos National Park Directorate
    「Un regreso a casa para Floreana」

    Galápagos Conservancy
    「A Homecoming for Floreana」

    Galápagos Conservancy
    「From the Desk of Dr. James Gibbs: On the Return of the Floreana Giant Tortoise」

    Charles Darwin Foundation
    「158 Endangered Tortoises Released onto Floreana Island, Galápagos for First Time in over 180 Years」

  • 【世界の亀ニュース】一軒の家から10,976匹 密輸から救われたホウシャガメを、もう一度マダガスカルの森へ

    【世界の亀ニュース】一軒の家から10,976匹 密輸から救われたホウシャガメを、もう一度マダガスカルの森へ

    今回は、マダガスカルにしか生息しない美しいリクガメ、ホウシャガメをめぐる大規模な救護と野生復帰のニュースを紹介します。

    2018年4月。

    マダガスカル南西部のトゥリアラで、一軒の民家から発見されたホウシャガメは、

    10,976匹。

    数十匹でも、

    数百匹でもありません。

    一万匹を超えるカメが、一つの建物に集められていました。

    そこから始まったのは、

    カメを押収して終わる保護活動ではありませんでした。

    救護する。

    健康を取り戻す。

    何年も育てる。

    野生へ戻せる個体を選ぶ。

    帰る森を確保する。

    地域住民と一緒にその場所を守る。

    そして、

    もう一度、人間の手から離す。

    長い時間をかけた「密輸から野生復帰へ」の計画です。

    今回のニュース

    2018年4月10日、マダガスカル南西部の都市トゥリアラで、警察と環境当局が一軒の住宅を捜索しました。

    そこで確認されたのが、

    10,976匹のホウシャガメでした。

    発見されたカメの多くは若い個体で、十分な水や餌を得られない状態に置かれていました。

    Turtle Survival Alliance(TSA)を中心に、マダガスカル国内外の動物園、獣医師、飼育スタッフなどが救護に参加。

    生き残った個体は、トゥリアラから北へ約29km離れたIfatyの保護施設へ移され、健康確認や水分補給、治療、個体識別などが進められました。

    この事件は、

    TSAがそれまで経験した中でも最大規模のリクガメ救護の一つとなりました。

    どこの国・地域の話か

    国:マダガスカル
    最初の大量押収:トゥリアラ周辺
    発見日:2018年4月10日
    対象種:ホウシャガメ
    学名:Astrochelys radiata
    英名:Radiated Tortoise
    情報の種類:リクガメ・密輸・違法取引・救護・野生復帰・地域保全

    ホウシャガメは、マダガスカル南部から南西部にのみ自然分布する固有種です。

    乾燥した低木林、トゲの多いスパイニーフォレストなどに暮らしています。

    登場する亀

    今回の主役は、

    ホウシャガメ

    学名は、

    Astrochelys radiata

    英語ではRadiated Tortoiseと呼ばれます。

    京都市動物園でも「ホウシャガメ」という和名が使われており、最大甲長は約40cmと紹介されています。

    名前の由来は、

    甲羅です。

    黒っぽい甲板の中心から、

    黄色い線が外側へ向かって伸びる。

    まるで光が放射しているように見えます。

    Smithsonian’s National Zooは、この放射模様について、インドホシガメなど他の星模様を持つリクガメよりも細かく複雑であることを特徴として挙げています。

    世界で最も美しいカメの一つ

    ホウシャガメは、その甲羅の美しさから、

    「世界で最も美しいリクガメの一つ」

    として紹介されることがあります。

    美しい。

    珍しい。

    欲しい。

    その評価が、

    このカメを追い詰める理由にもなりました。

    野生個体は国際的なペット取引のために捕獲され、さらにマダガスカル国内では食用目的の捕獲も続いてきました。

    生息地そのものも、農地化や炭づくりなどによって失われています。

    昔は「触ってはいけないカメ」だった

    マダガスカル南部の一部地域には、

    ホウシャガメを傷つけたり食べたりすることを禁じる伝統的な**「fady(ファディ)」**があります。

    祖先と結び付けて考えられる地域もあり、

    長い間、

    文化そのものがホウシャガメを守ってきました。

    しかし、

    地域外から人が入る。

    価値の高いカメとして売買される。

    伝統的な禁忌を共有しない人が捕る。

    その結果、

    文化だけでは個体群を守れなくなっていきました。

    2018年4月、一軒の家に10,976匹

    そして2018年4月10日。

    トゥリアラの住宅で、

    10,976匹。

    とてつもない数のホウシャガメが発見されました。

    普通に考えれば、

    一日や二日で集められる数ではありません。

    一匹。

    また一匹。

    別の場所からも一匹。

    それが積み重なって、

    一万匹を超えた。

    その数だけ、

    野生の森からホウシャガメが消えていたことになります。

    そして半年後、また数千匹

    さらに同じ2018年10月にも、大規模な押収が発生しました。

    TSAによると、2018年だけで保護下へ入ったホウシャガメは17,000匹を超えました。

    つまり、

    4月の事件は、

    一度だけ起きた異常な出来事ではありませんでした。

    それだけ大規模な捕獲と違法取引が、

    このカメを取り巻いていたということです。

    保護した瞬間から、別の問題が始まる

    密輸されるカメを見つけた。

    押収した。

    助かった。

    そう思いたくなります。

    でも、

    一万匹を保護した瞬間、

    今度は人間が一万匹を生かさなければなりません。

    水。

    餌。

    飼育場所。

    病気の確認。

    衛生管理。

    個体識別。

    獣医療。

    スタッフ。

    そして、

    何年間も続く費用。

    TSAはマダガスカルに複数の保全施設を整備し、押収されたホウシャガメの大規模な飼育体制を作りました。現在のTSAのマダガスカル事業でも、違法取引から救出したホウシャガメの救護、長期飼育、野生復帰が主要活動になっています。

    でも、ずっと飼うことが目的ではない

    何万匹も保護している。

    だったら、

    大きな保護施設を作って、

    そこで一生飼えばいい。

    そう考えることもできます。

    でも、

    ホウシャガメは本来、

    飼育施設にいる動物ではありません。

    マダガスカル南部の森を歩くリクガメです。

    そこでTSAは、

    Confiscation to Reintroduction Strategy

    という考え方を進めました。

    日本語にすると、

    「押収から再導入へ」。

    密輸から救出したカメを、

    可能な限り、

    もう一度野生へ戻していく計画です。

    ただ森へ置けばいいわけではない

    一度長期間飼育したカメを、

    空いている森へ置けばいい。

    そんな単純な話でもありません。

    その地域に病気を持ち込まないか。

    健康状態は十分か。

    野生で餌を取れるか。

    その森に十分な食物があるか。

    再び密猟されないか。

    地域の人々が保護に協力してくれるか。

    一つずつ確認する必要があります。

    そのため、放流候補となった個体には獣医師による健康検査が行われています。

    感染症検査も含め、

    「放しても大丈夫なカメか」

    を確認します。

    2021年、最初の1,000匹

    そして2021年。

    大きな転換点が来ます。

    TSAは、

    1,000匹のホウシャガメを、マダガスカル南部の地域住民が保護する森林へ移しました。

    違法取引から救出され、

    何年間も人間の管理下で暮らしてきたカメたちです。

    ただし、

    いきなり森全体へ自由にしたわけではありません。

    まず約6ヘクタールの順応エリアに入り、

    その土地で生活する期間が設けられました。

    そして2022年3月、

    囲いが開かれ、

    カメたちは周囲のスパイニーフォレストへ自由に移動できるようになりました。

    「ソフトリリース」という考え方

    これは、

    soft release(ソフトリリース)

    と呼ばれる方法です。

    人間の管理下から、

    いきなり完全な野生へ移すのではない。

    まず、

    これから暮らす場所に慣れてもらう。

    気温。

    植物。

    地面。

    匂い。

    雨。

    その土地そのものを覚える。

    そして、

    囲いを開ける。

    カメは、

    自分の意思で外へ歩いていきます。

    カメに発信器を付ける

    放したら、

    それで終わりではありません。

    再導入個体の一部には、

    VHF無線発信器やGPSロガーが装着されました。

    どこへ歩くのか。

    どのくらい移動するのか。

    生き残っているのか。

    どの環境を利用するのか。

    そうした情報を調べます。

    人間の視界から消える。

    でも、

    完全には見失わない。

    それが、

    次に何千匹ものカメを戻すためのデータになります。

    2024年、さらに1,000匹

    取り組みは、

    最初の1,000匹で終わりませんでした。

    2024年5月23日。

    World Turtle Day。

    TSAは、

    さらに1,000匹のホウシャガメを、マダガスカル南西部の地域保護林へ放しました。

    この個体たちも、放流前に健康評価を受け、

    6か月間の隔離期間を経ています。

    2018年に押収された膨大な数のカメたちが、

    少しずつ、

    森へ帰り始めています。

    最終目標は2万匹以上

    TSAは、

    保護下にいるホウシャガメのうち、

    2万匹以上を将来的に野生へ戻す

    という大規模な計画を掲げています。

    2万匹。

    想像するのも難しい数です。

    でも、

    そもそもそれほど多くのカメが、

    人間によって森から持ち出されました。

    だから、

    今度は逆の流れを作ろうとしています。

    森から人間へ。

    ではなく、

    人間から森へ。

    カメだけ戻しても意味がない

    ただし、

    森が安全でなければ、

    2万匹戻しても意味がありません。

    もう一度捕られるかもしれない。

    生息地が失われるかもしれない。

    だから再導入地は、

    地域住民自身が管理する保護林

    として整備されています。

    カメを運ぶだけではない。

    森を守る。

    地域住民と話す。

    監視する人を育てる。

    地域の暮らしと保全を両立させる。

    そこまで作ってから、

    カメを戻します。

    人間がいるから減った。でも、人間がいるから戻せる

    今回のニュースには、

    少し不思議なところがあります。

    ホウシャガメを減らした大きな原因の一つは、

    人間です。

    人間が捕った。

    人間が売った。

    人間が森を変えた。

    でも、

    今ホウシャガメを戻しているのも、

    人間です。

    警察。

    獣医師。

    飼育スタッフ。

    研究者。

    地域住民。

    政府。

    動物園。

    世界中の人が関わっています。

    人間が原因だから、

    人間は何もしないほうがいい。

    ではない。

    壊した側だからこそ、戻す仕事もできる。

    そんな例だと思います。

    京都市動物園にも「密輸から救われたホウシャガメ」がいる

    この話は、

    遠いマダガスカルだけの話でもありません。

    京都市動物園が飼育しているホウシャガメの中にも、

    日本へ密輸される途中、空港で摘発されて保護された個体がいます。

    日本にも、

    違法取引の終着点になった歴史があります。

    「珍しいカメを飼いたい」

    という需要は、

    地球の反対側の野生個体群につながっています。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番注目したいのは、

    保護されたカメを、ずっと「保護されたカメ」のままにしないことです。

    10,976匹。

    押収する。

    助ける。

    それだけでも、

    とてつもない仕事です。

    でも、

    そこで終わらなかった。

    何年も育てる。

    健康を戻す。

    森を探す。

    地域住民と一緒に守る仕組みを作る。

    順応させる。

    囲いを開ける。

    そして、

    一匹ずつ歩いていく。

    人間から遠ざかっていく。

    僕は、

    そこがすごくいいと思います。

    カメを救った証拠は、

    人間の飼育施設に何万匹いることではない。

    人間がどこにいるのか分からなくなるくらい、森へ散らばっていくこと。

    それが最終的な成功なんじゃないかな。

    湯川亀吉の一言

    人間はクズってことだな。
    密猟するやつも、保護するやつも、同じクズだ。

    出典

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「Radiated Tortoise Press Release 2018」
    2018年4月の10,976匹の大量押収と救護活動について。
    URL:
    https://shop.turtlesurvival.org/blogs/news/radiated-tortoise-press-release-2018/

    San Diego Zoo Wildlife Alliance
    「Turtle Survival Alliance Leads Rescue Mission to Save 10,976 Critically Endangered Radiated Tortoises Discovered in Massive Poaching Bust」
    2018年4月19日。
    URL:
    https://sandiegozoowildlifealliance.org/story-hub/2018/04/19/turtle-survival-alliance-leads-rescue-mission-to-save-10976-critically

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「1,000 Radiated Tortoises Return to the Wild」
    2021年8月9日。最初の大規模野生復帰計画について。
    URL:
    https://shop.turtlesurvival.org/blogs/news/1000-radiated-tortoises-return-to-the-wild

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「1,000 Radiated Tortoises Released on World Turtle Day®」
    2024年6月4日。2回目の1,000匹規模の放流について。
    URL:
    https://turtlesurvival.org/1000-radiated-tortoises-released-on-world-turtle-day/

    Turtle Survival Alliance(TSA)
    「Species Spotlight: Radiated Tortoise」
    大量押収、保全繁殖、野生復帰について。
    URL:
    https://turtlesurvival.org/turtleoftheweek-radiated-tortoise/

    Smithsonian’s National Zoo and Conservation Biology Institute
    「Radiated tortoise」
    形態、生息地、食性、保全状況について。
    URL:
    https://nationalzoo.si.edu/animals/radiated-tortoise

    京都市動物園
    「ホウシャガメ/Radiated Tortoise」
    和名、分布、形態について。
    URL:
    https://zoo.city.kyoto.lg.jp/zoo/animals/g_radiata