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  • 【世界の亀ニュース】世界初の「現生オサガメ化石」を台湾で発見 一本の腕の骨が埋めた進化史の空白

    【世界の亀ニュース】世界初の「現生オサガメ化石」を台湾で発見 一本の腕の骨が埋めた進化史の空白

    今回は、新種でもない。

    珍しい繁殖でもない。

    野生復帰でもありません。

    一個の、

    古い骨

    の話です。

    台湾と澎湖諸島の間。

    現在は海になっている台湾海峡の海底から、一個の大きな骨が引き上げられました。

    骨は、

    左前肢の上腕骨

    それを台湾大学の研究チームが詳しく調べました。

    すると、

    その形が現在生きているオサガメ、

    Dermochelys coriacea

    の上腕骨と極めてよく一致しました。

    2026年6月17日。

    研究成果が学術誌『Acta Palaeontologica Polonica』に発表。

    そして9月2日、台湾大学がこの発見を、

    「世界で最初に確認された現生オサガメの化石」

    として紹介しました。

    今回のニュース

    研究を行ったのは、

    台湾大学生命科学系の廖翊如(Yi-Lu Liaw)氏と、蔡政修(Cheng-Hsiu Tsai)氏。

    調査対象となった化石には、

    NTUM-VP 250802

    という標本番号が付けられています。

    保存されていたのは、

    一本の左上腕骨。

    つまり、

    オサガメの巨大な前肢を支える骨の一つです。

    完全な甲羅でもない。

    頭骨でもない。

    骨格一式でもない。

    一本の腕の骨です。

    でも研究者たちは、その一本から、

    「これはオサガメだ」

    という結論にたどり着きました。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:台湾
    発見場所:台湾海峡・澎湖水道周辺
    研究機関:国立台湾大学
    対象種:オサガメ
    学名:Dermochelys coriacea
    英名:Leatherback Sea Turtle
    化石:左上腕骨
    標本番号:NTUM-VP 250802
    年代:更新世中期〜後期と推定
    論文発表:2026年6月17日
    台湾大学発表:2026年9月2日
    情報の種類:化石・古生物学・進化・ウミガメ

    化石は、台湾本島と澎湖諸島の間にある海域の海底から引き上げられました。

    この地域では底引き漁などによって、海底からさまざまな脊椎動物化石が発見されています。近年話題になったデニソワ人類の化石も、この周辺から得られたものです。

    登場する亀

    今回の主役は、

    オサガメ。

    学名、

    Dermochelys coriacea

    現存するウミガメの中で最大の種類です。

    そして、

    他のウミガメとはかなり違います。

    アカウミガメ。

    アオウミガメ。

    タイマイ。

    こうしたウミガメには、

    硬い甲羅があります。

    しかしオサガメには、

    一般的なウミガメのような大きな硬い甲板がありません。

    背中は革のような皮膚で覆われ、

    その表面には縦方向に7本の隆起が走っています。

    日本の環境省も、オサガメを「硬い甲らを持たない」ことと7本の隆起を大きな特徴として紹介しています。

    現在生きているオサガメは、世界中を泳いでいる

    オサガメの分布範囲はとても広く、

    インド洋。

    太平洋。

    大西洋。

    熱帯だけでなく、

    かなり高緯度の海域まで移動します。

    日本近海にも低頻度ながら回遊個体が現れます。

    つまり、

    オサガメ自体は、

    未知の生物ではありません。

    では、

    何が「世界初」なのでしょうか。

    「オサガメ科の化石」は以前からあった

    ここはかなり重要です。

    オサガメの祖先に近い、

    オサガメ科(Dermochelyidae)の化石

    そのものは以前から知られていました。

    このグループの歴史は古く、

    古第三紀まで遡ることができます。

    過去には、

    現在とは異なる複数のオサガメ科のカメが存在していました。

    でも、

    現在まで生き残ったのは、

    Dermochelys coriacea

    一種だけです。

    そして奇妙なことに、

    その現生種そのものの化石が一つも確認されていなかった。

    昔の親戚は化石になっている。

    現在のオサガメもいる。

    なのに、

    その間をつなぐ

    Dermochelys coriaceaの化石

    だけが見つからない。

    そこに空白がありました。

    2026年、その空白に一本の骨が入った

    今回の台湾の標本は、

    その空白に初めて入った化石です。

    研究チームは標本を、

    現生オサガメの骨格。

    そして、

    過去に生息していた複数の化石オサガメ類。

    それぞれと比較しました。

    結果、

    台湾の上腕骨は、

    古い絶滅種よりも、

    現在のオサガメの上腕骨に非常によく似ていた。

    そのため研究者は、

    この標本を、

    Dermochelys coriacea

    と同定しました。

    つまり、

    「オサガメに似た古代ガメ」

    ではない。

    今、海を泳いでいるオサガメと同じ種。

    ここが今回の発見の核心です。

    一本の骨で、どうやって分かるのか

    僕はここがかなり面白いと思います。

    カメの骨を一本見て、

    どうして種類まで分かるのか。

    研究では、

    上腕骨のかなり細かな形が比較されています。

    たとえば、

    上腕骨頭の傾き。

    筋肉が付着する隆起の形。

    骨表面にある窪みの深さ。

    骨の端の幅。

    隆起同士の位置関係。

    こうした特徴を、

    現在のオサガメと比較しました。

    特に今回の化石には、

    上腕骨頭の特徴的な傾き、わずかに湾曲する二次三角胸筋稜、深い結節間窩がないこと

    など、現生オサガメと一致する特徴が確認されています。

    人間から見れば、

    「大きな一本の骨」

    にしか見えないかもしれない。

    でも、

    骨にはその動物の構造が残っています。

    化石はかなり大きな成体だった可能性

    研究者は、

    この骨が、

    身体的に成熟した大型個体

    のものだった可能性が高いと判断しています。

    さらに興味深いことに、

    上腕骨のある特徴が現在の雌オサガメに見られる形と似ているため、

    雌だった可能性

    も指摘されています。

    ただし、

    これは確定ではありません。

    研究論文でも、

    「もしこの解釈が正しければ雌の可能性がある」

    という慎重な書き方がされています。

    何年前のオサガメなのか

    この化石は、

    更新世

    のものと考えられています。

    より具体的には、

    研究チームは周辺から見つかる化石などを基に、

    更新世中期〜後期

    という幅広い年代を想定しています。

    ただし、

    「何万年前」

    と正確に言うことはできません。

    なぜなら、

    化石は地層の中から発掘されたものではなく、

    海底から引き上げられたもの

    だからです。

    どの地層に埋まっていたのかという情報が失われています。

    だから、

    正確な年代を決めることは難しい。

    ここも、

    古生物研究の面白いところですね。

    化石が見つかれば、

    すべてが分かるわけではない。

    一つ分かると、

    また別の問いが生まれます。

    今の台湾海峡は、昔から海だったわけではない

    さらに面白いのが、

    発見場所です。

    現在の台湾海峡は、

    平均水深約60〜70m。

    台湾と中国大陸の間には、

    海があります。

    でも、

    更新世には、

    氷期と間氷期によって海面が大きく上下しました。

    研究論文によれば、この地域は時期によって、

    陸地。

    細い水路。

    浅い海峡。

    というように、

    環境そのものが何度も変化していた可能性があります。

    つまり、

    現在の海底から化石が見つかったからといって、

    そのオサガメが現在とまったく同じ台湾海峡を泳いでいた、

    とは限りません。

    海の形そのものが違いました。

    では、このオサガメは台湾で産卵していたのか?

    ここも、

    今回の研究からは言えません。

    現在の台湾周辺は、

    オサガメにとって主要な産卵地ではありません。

    論文でも、

    台湾海峡は現在のオサガメの主要な交尾・産卵場所から離れていると説明されています。

    研究者が注目したのは、

    むしろ、

    移動や採餌です。

    現在の西太平洋個体群も、

    広い海域を移動します。

    研究チームは、この化石の存在から、

    更新世のオサガメもすでに、

    西部北太平洋沿岸を利用していた可能性

    を考えています。

    何十万年前にも、巨大なオサガメがここを泳いでいたかもしれない

    想像すると、

    かなりすごい。

    現在、

    台湾と澎湖の間には、

    船が通ります。

    漁船が出る。

    貨物船が通る。

    その海の下から、

    一本の骨が出てきた。

    その骨の持ち主は、

    まだ人間の都市も国境も存在しなかった時代に、

    同じ西太平洋を泳いでいた可能性があります。

    クラゲを探し、

    広い海を移動し、

    また別の海域へ向かった。

    現在のオサガメと、

    基本的には同じような姿で。

    この化石は「世界分布の起源」の話にもつながる

    さらに研究者は、

    この化石と、

    オサガメのDNA研究との関係にも注目しています。

    分子研究では、

    現在世界中に分布しているオサガメ個体群は、

    過去約100万年以内の更新世に、

    インド太平洋地域から世界各地へ広がった可能性

    が示されていました。

    そして今回、

    そのインド太平洋地域に含まれる台湾から、

    更新世のオサガメ化石が見つかった。

    研究チームは、

    この発見が、

    そうした世界的拡散の仮説と整合的だとしています。

    もちろん、

    一本の骨だけで、

    世界中への移動経路が確定したわけではありません。

    でも、

    DNAから推定していた物語の中に、

    実物の化石が一個置かれた。

    これはかなり大きいと思います。

    なぜ今まで化石がなかったのか

    ここで、

    オサガメという生き物そのものが関係してきます。

    普通のカメなら、

    巨大な甲羅があります。

    甲羅には、

    多くの骨があります。

    つまり、

    化石として残る可能性のある部分がかなり多い。

    でも、

    オサガメは違います。

    硬い甲板がありません。

    甲羅を構成する骨も、

    他のウミガメと比べて大幅に縮小しています。

    つまり、

    そもそも化石として残りにくいカメ

    なんです。

    さらに海洋生物の場合、

    陸上動物と比較して研究できる更新世の地層自体も限られます。

    この二つが重なって、

    現在のオサガメの化石記録が、

    長い間ゼロだった可能性があります。

    甲羅が残らないなら、「腕」を探せばいい

    僕は今回、

    この部分がすごく好きです。

    オサガメには、

    普通のカメのような硬い甲羅がない。

    だから、

    化石になりにくい。

    だったら、

    別の骨を見る。

    腕を見る。

    一本の上腕骨を見る。

    そこから、

    現在のオサガメと比較する。

    生き物の一番目立つ特徴が残らなくても、

    別の部分から、その存在を見つけることができる。

    科学って面白いですね。

    化石そのものを3Dで見ることもできる

    今回の標本は、

    研究者だけが触れるものではありません。

    化石の3Dデータも公開されています。

    Zenodoには、

    NTUM-VP 250802の左上腕骨をスキャンしたSTLデータが登録されています。

    つまり、

    台湾に行かなくても、

    世界中の研究者が、

    同じ骨をデジタル上で調べることができます。

    150年前なら、

    化石そのものを博物館へ見に行く必要があった。

    今は、

    骨そのものをデータとして共有できる。

    これも現代の古生物学なんですね。

    一本の骨で、世界地図が少し変わった

    今回見つかったものは、

    たった一本です。

    頭もない。

    甲羅もない。

    全身骨格もない。

    でも、

    その一本があることで、

    僕たちが描いていたオサガメの歴史は変わりました。

    これまで、

    現在のオサガメについては、

    「今ここにいる」

    という記録しかなかった。

    そこへ、

    「更新世の台湾にもいた」

    という一点が加わりました。

    過去の分布図に、

    一つ、

    点が増えた。

    その一点が、

    世界中を泳ぐ現在のオサガメの起源を考える材料になります。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回僕が特に面白いと思うのは、

    「今も普通に生きている種類にも、知られていない過去がある」

    というところです。

    絶滅した恐竜。

    絶滅した巨大ガメ。

    そういう動物なら、

    化石から歴史を調べるイメージがあります。

    でも、

    オサガメは今もいる。

    海を泳いでいる。

    写真もある。

    GPSまで付けて追跡されている。

    それなのに、

    その種類の過去について、

    こんな大きな空白があった。

    2026年まで、

    誰も、

    確実な化石を持っていなかった。

    現在を詳しく知っていることと、

    過去を知っていることは、

    全然別なんですね。

    湯川亀吉の一言

    オサガメかっこいいよね〜

    出典

    National Taiwan University(国立台湾大学)
    「來自臺灣的全球第一件現生革龜化石」
    2026年9月2日。世界初の現生オサガメ化石、研究者、発見場所、研究の意味について。
    台湾大学の公式発表を見る

    Acta Palaeontologica Polonica
    Yi-Lu Liaw & Cheng-Hsiu Tsai
    「The first fossil of the extant leatherback sea turtle Dermochelys coriacea
    2026年。化石の形態比較、年代、発見場所、現生オサガメとの同定、進化・分布についての原著論文。
    原著論文のページを見る

    Acta Palaeontologica Polonica 原著論文PDF
    化石と現生オサガメの上腕骨写真・形態比較を掲載。
    論文PDFを見る

    Zenodo
    「The first fossil leatherback sea turtle」
    標本NTUM-VP 250802の3Dデータを公開。
    化石の3Dデータを見る

    環境省
    オサガメ Dermochelys coriacea の日本語名、形態、日本近海への来遊などについて。
    環境省の資料を見る