
今回は、アメリカ・ワシントン州で報じられた、希少な淡水ガメの野生復帰に関するニュースを紹介します。
今回のニュース
2026年7月、アメリカ・ワシントン州で、37匹の若いキタブチイシガメが保護された湿地へ放されました。
この放流は、ワシントン州魚類野生生物局とウッドランドパーク動物園が協力して進める「Western Pond Turtle Recovery Project」の一環です。
プロジェクトは2026年で開始から35年を迎えました。絶滅寸前だったカメを守るため、卵や子ガメを一時的に安全な環境で育て、野生で生き残りやすい大きさになってから湿地へ戻す活動が続けられています。
どこの国・地域の話か
国・地域:アメリカ、ワシントン州
元記事の言語:英語
公開時期:2026年7月10日
情報の種類:新着ニュース・淡水ガメ・野生復帰・保護活動
登場する亀
今回のニュースに登場するのは、キタブチイシガメです。
学名は Actinemys marmorata。英語ではWestern Pond TurtleやNorthern Pacific Pond Turtleと呼ばれています。分類や日本語資料によっては、単に「ブチイシガメ」と表記されることもありますが、この記事ではキタブチイシガメとします。
キタブチイシガメは、池や湿地、流れの緩やかな水辺などに暮らす北米原産の淡水ガメです。
ワシントン州では個体数が激減し、1990年の時点で残っていたのは、二つの個体群に合計約150匹だけでした。絶滅を防ぐため、1991年に動物園と州当局による本格的な回復事業が始まり、1993年には州の絶滅危惧種に指定されました。
ニュースの要約
キタブチイシガメの保護活動では、野生の巣から卵や孵化したばかりの子ガメを集め、ウッドランドパーク動物園やオレゴン動物園で一時的に育てます。
孵化直後の子ガメは、硬貨ほどの小ささです。
そのまま野生へ出ると、外来種のウシガエルをはじめとする捕食者に食べられる危険性が高いため、動物園で冬を越しながら、魚やミミズなどを与えて成長させます。
目標となるのは、体重がおよそ2〜3オンス、約57〜85グラムに達することです。
この大きさまで育つと、子ガメはウシガエルの口に入りにくくなり、野生で生き残れる可能性が高まります。
健康状態を確認した後、カメたちは保護された湿地へ戻されます。放流後も、州の生物学者たちが生存状況や移動を追跡します。
小さなカメに「先行時間」を与える
この方法は、英語で「ヘッドスタート」と呼ばれています。
野生動物を一生飼育するのではなく、最も命を落としやすい幼少期だけを安全な環境で過ごさせ、ある程度成長してから本来の生息地へ戻す方法です。
キタブチイシガメは、性成熟するまでに約10〜12年かかります。孵化した子ガメが成体となり、次の世代を残すまでには、長い時間が必要です。
だからこそ、最初の数か月を生き延びられるかどうかが、何十年後の個体群に大きく影響します。
動物園で過ごす一度の冬は、このカメたちにとって、野生へ帰る前に与えられた「先行時間」なのかもしれません。
35年間で2,300匹以上を野生へ
35年間にわたる共同事業によって、これまでに2,300匹以上のキタブチイシガメがヘッドスタートを経て野生へ戻されました。
その結果、ピュージェット湾地域とコロンビア川峡谷では、再び個体群が形成されています。調査では、ヘッドスタート個体と野生で生まれた個体を合わせ、約800匹が生き残っていると推定されています。
1996年に最初の16匹が放されたワシントン州南部の回復地では、長年の放流によって個体数が200匹を超えるまでに回復した記録もあります。
約150匹まで減ったカメを、何十年もかけて少しずつ増やしてきた。
今回放された37匹も、その長い回復の物語につながる新しい世代です。
回復を脅かす甲羅の病気
保護活動には、大きな課題も残されています。
野生個体群では、甲羅に病変が現れる深刻な病気が広がっており、野生個体の80%以上に影響が確認されていると報告されています。
症状が重くなると、健康状態や生存に影響する可能性があります。現在、シェッド水族館やイリノイ大学の研究者たちが、微生物や環境との関係を含めて病気の原因を調べています。
外来種から子ガメを守り、生息地を整え、野生へ戻す。
それだけでも長い時間がかかります。
さらに、新しく現れた病気にも対応しながら、保護活動を次の世代まで続けなければなりません。
亀好きとして注目したいポイント
このニュースで注目したいのは、亀を守る活動そのものも、亀のようにゆっくり進んでいることです。
1991年に始まった活動が、2026年で35年。
卵を見つけ、孵化させ、冬のあいだ育て、湿地へ戻す。
それを毎年繰り返す。
放した子ガメが成長し、繁殖できるようになるまでには、さらに10年以上かかります。
一度の放流だけで、絶滅危惧種が回復するわけではありません。
今日放された37匹が大人になり、その子どもが生まれ、さらに次の世代へ命がつながるまで、保護する人たちは待ち続けます。
亀は遅い。
でも、亀を守る活動もまた、急ぐことのできない仕事なのだと思います。
湯川亀吉の一言
孵化したばかりの子ガメは、硬貨ほどの大きさしかない。
その小さな甲羅では、ウシガエルの口から逃げることも難しい。
だから人間は、一度だけその命を預かる。
冬のあいだ食べ物を与え、少しだけ大きく育てて、また湿地へ返す。
守り続けるのではない。
野生で生きられるところまで、一緒に時間を進める。
35年間で2,300匹以上。
一匹ずつを見れば、小さなカメだ。
でも、その小さな甲羅を一つずつ湿地へ戻してきた時間は、とても大きい。
亀はゆっくり育つ。
だから、人間も急がずに守り続けなければならない。
今回放された37匹が、いつか泥の岸辺で卵を産む日まで。
この保護活動は、まだ終わらないのだと思います。
出典
Woodland Park Zoo
「Endangered turtles released to the wild」
Washington Department of Fish and Wildlife
「South Puget Sound Wildlife Area Management Plan」
