タグ: パース

  • 【世界の亀ニュース】100年ぶりに再発見されたカメを「未来の湿地」へ 気候変動から救うオーストラリアの移住計画

    【世界の亀ニュース】100年ぶりに再発見されたカメを「未来の湿地」へ 気候変動から救うオーストラリアの移住計画

    今回は、オーストラリア西部に生息する、世界でも特に希少な淡水ガメの保全活動を紹介します。

    学名は、

    Pseudemydura umbrina

    日本の法令では、

    オーストラリアヌマガメモドキ

    という和名が使われています。

    一方、日本の爬虫類関連資料などでは、

    クビカシゲガメ

    という名前も使われています。

    このカメは、

    一度は絶滅したと思われました。

    再発見された。

    繁殖に成功した。

    1,000匹以上を野生へ戻した。

    普通なら、

    ここまででも大成功です。

    でも、

    問題が一つ残っていました。

    カメが暮らしてきた湿地そのものが、だんだん乾いている。

    そこで研究者たちは、

    過去にこのカメが生息していなかった、

    もっと南の、

    もっと涼しく、

    もっと長く水が残る湿地へ、

    カメを移し始めました。

    今回のニュース

    大きな転換点の一つが、2016年です。

    西オーストラリア州政府、Perth Zoo、University of Western Australiaなどの保全チームは、飼育下で繁殖した24匹のオーストラリアヌマガメモドキを、西オーストラリア州南西部の新しい候補地へ移しました。

    重要なのは、

    そこが単なる「別の放流場所」ではなかったことです。

    本来このカメが知られていた歴史的な分布域よりも、

    さらに南側。

    将来の気候変動を考え、

    より涼しく、

    より湿潤な環境を探して選ばれました。

    この方法は、

    assisted colonisation

    と呼ばれます。

    日本語なら、

    「人為的移住」

    「保全的移住」

    あるいは、

    「分布域外への計画的移送」

    に近い考え方です。

    どこの国・地域の話か

    国:オーストラリア
    州:西オーストラリア州
    従来の主な生息地域:パース近郊・スワン沿岸平野
    新たな移住候補地:西オーストラリア州南西部
    対象種:オーストラリアヌマガメモドキ
    学名:Pseudemydura umbrina
    英名:Western Swamp Tortoise / Western Swamp Turtle
    情報の種類:淡水ガメ・飼育下繁殖・野生復帰・気候変動・保全的移住

    現在、オーストラリア政府も本種の重要な保全策として、気候変動下でも生息可能な場所へ新しい個体群を作ることを挙げています。

    登場する亀

    オーストラリアヌマガメモドキは、

    ヘビクビガメ科に属する非常に小型の淡水ガメです。

    成体でも甲長はおよそ11〜13cm程度。

    体重は300〜450gほど。

    首は短く、

    頭頂部には大きな一枚の鱗板があります。

    足には水かきがあり、

    各足に5本の爪を持ちます。

    見た目は、

    派手ではありません。

    巨大でもない。

    奇抜な模様もない。

    茶色。

    黒。

    泥や湿地に溶け込むような小さなカメです。

    でも、

    進化的には非常に独特な存在です。

    Pseudemydura属で現在生きているのは、この一種だけ。

    オーストラリア政府の回復計画では、近縁のカメとは大きく異なる遺存的な系統であることが紹介されています。

    1839年、一匹だけ見つかった

    このカメの科学的な物語は、

    1839年に始まります。

    オーストリア人の博物学者Ludwig Preissが、西オーストラリアで一匹の標本を採集。

    その標本は、

    ウィーン自然史博物館へ送られました。

    しかし、

    その後が続きません。

    一匹も見つからない。

    何十年経っても、

    見つからない。

    1901年、

    博物館に保存されていた標本をもとに、

    Pseudemydura umbrina

    として正式に記載されます。

    でも、

    生きたカメが見つからない状態は続きました。

    100年以上、誰も見つけられなかった

    1839年から、

    1953年まで。

    114年間。

    新しい標本は確認されませんでした。

    そのため、

    このカメは絶滅したのではないかと考えられていました。

    そして1953年。

    物語が突然動きます。

    見つけたのは少年だった

    西オーストラリア州Upper Swan。

    そこで一匹の小さなカメを見つけたのは、

    Robert Boydという少年でした。

    彼はそのカメを、

    Western Australian Naturalists’ Clubの野生動物展示会へ持っていきます。

    そこで、

    「これは普通のカメではない」

    と気付かれました。

    100年以上、

    科学者にも見つからなかったカメ。

    その再発見のきっかけを作ったのは、

    一人の少年でした。

    探してみると、二つの小さな個体群があった

    再発見後、

    周辺で調査が行われます。

    そして、

    パース北東部に、

    二つの小さな生息地が見つかりました。

    現在の、

    Ellen Brook Nature Reserve。

    Twin Swamps Nature Reserve。

    この二つです。

    1962年には、

    残された生息環境を守るため、

    自然保護区が設けられました。

    一度は絶滅したと思われたカメに、

    ようやく保護区ができました。

    でも、生息地そのものが消えていった

    問題は、

    カメを捕る人だけではありませんでした。

    このカメが暮らしていたスワンバレー周辺は、

    パース都市圏に近い場所です。

    農業。

    宅地開発。

    道路。

    粘土採掘。

    排水。

    かつて湿地だった土地の多くが、

    別の用途へ変わっていきました。

    オーストラリア政府によると、本来利用していた粘土質の湿地の大部分は、現在では都市化・農業利用・粘土採掘などによって失われています。

    1980年代、30匹未満

    保護区まで作った。

    それでも、

    減少は止まりませんでした。

    1980年代。

    野生に残った個体は、

    30匹未満。

    Perth Zooは、

    この時期を本種が絶滅寸前まで追い詰められた時代として紹介しています。

    100年ぶりに見つかった。

    そのわずか30年後、

    今度は本当に消えそうになりました。

    1989年、動物園で繁殖を始める

    そこで、

    Perth Zooを中心とした飼育下繁殖プログラムが本格化します。

    開始は1989年。

    親ガメを繁殖させる。

    卵を見つける。

    掘り出す。

    孵卵器へ移す。

    孵化させる。

    子ガメを育てる。

    そして、

    十分に成長してから野生へ戻す。

    現在、Perth Zooでは、子ガメがおよそ100g、約3歳になった頃を一つの目安として野生復帰させています。

    1,300匹以上が生まれた

    その積み重ねは、

    大きな数字になりました。

    Perth Zooによると、

    1989年以降、

    1,300匹以上のオーストラリアヌマガメモドキが同園で繁殖。

    2024年6月時点で、

    そのうち1,125匹が野生環境へ放されています。

    30匹未満まで減ったカメです。

    そこから、

    1,000匹を超えるカメを、

    再び自然へ送り出せるところまで来ました。

    だったら、もう安心?

    ここまで読むと、

    保全は成功したように見えます。

    でも、

    新しい問題が出てきました。

    雨が減っている。

    このカメは、

    一年中水の中にいるわけではありません。

    冬から春。

    雨によって一時的な湿地に水がたまる。

    カメはそこで活動します。

    餌を食べる。

    成長する。

    繁殖に必要なエネルギーを蓄える。

    そして夏。

    湿地が乾くと、

    地面の穴や深い落ち葉の中へ入り、

    活動を抑えて暑い時期を乗り切ります。

    つまり、

    一定期間、湿地に水が残ること

    が非常に重要です。

    ところが、水のある期間が短くなっている

    気候が暖かく、

    乾燥するようになる。

    雨が減る。

    湿地が早く乾く。

    すると、

    カメが水中で餌を取れる期間が短くなります。

    昔は半年近く使えた湿地でも、

    水が残る期間が数か月まで短くなる可能性がある。

    そうなると、

    カメは十分に食べられません。

    成長できない。

    繁殖できない。

    つまり、

    保護区そのものは残っていても、カメが暮らせなくなる

    可能性があります。

    そこで発想を逆にした

    普通の保全なら、

    「本来の生息地を守ろう」

    と考えます。

    それはもちろん重要です。

    でも、

    本来の場所の気候そのものが変わってしまったら?

    そこで研究者たちは、

    違う問いを立てました。

    カメを守る場所を、もっと南へ作れないか。

    西オーストラリア州南西部。

    パース周辺より、

    涼しい。

    雨が多い。

    湿地に長く水が残る。

    将来、

    現在の生息地が暑く乾燥したとき、

    そこがカメの避難場所になる可能性があります。

    2016年、歴史的分布域の外へ

    2016年。

    24匹の飼育下繁殖個体が、

    Meerup周辺とAugusta東部の保全地域へ試験的に放されました。

    西オーストラリア州政府は当時、この試みを、

    将来の気候変動に備えて脊椎動物を歴史的分布域外へ移す試み

    として紹介しました。

    カメを、

    「昔いた場所」

    へ戻すのではない。

    「未来でも生きられそうな場所」へ移す。

    保全の考え方そのものが変わっています。

    「カメがいなかった場所へ放していいのか」

    でも、

    これは簡単な問題ではありません。

    ある生き物を、

    本来いなかった地域へ持ち込む。

    人間は過去、

    これを何度もやっています。

    そして、

    外来生物問題を起こしてきました。

    だから、

    assisted colonisationには議論があります。

    移したカメが、

    新しい生態系へ悪影響を与えないか。

    他の希少種と競合しないか。

    病気を持ち込まないか。

    新しい場所で本当に繁殖できるか。

    気候だけでは決められません。

    コンピューターまで使って「未来の湿地」を探す

    そこで研究者たちは、

    現在の生息地だけを見ません。

    気温。

    降水量。

    湿地に水が残る期間。

    カメの活動。

    卵の発生。

    将来の気候予測。

    さまざまな条件をモデル化し、

    これから先もカメが暮らせそうな場所

    を探しました。

    University of Western Australiaの研究者たちは、

    この理想的な場所を、

    “Goldilocks wetlands”

    と表現しています。

    暑すぎない。

    寒すぎない。

    乾きすぎない。

    カメにとって、

    「ちょうどいい湿地」です。

    2021年、さらに73匹

    試験は続きます。

    2021年には、

    Perth Zooで繁殖した73匹が、

    西オーストラリア州南西部の二つの場所へ放されました。

    Augusta東部へ16匹。

    Scott National Parkへ57匹。

    このうち48匹には、

    無線発信器やデータロガーが装着されました。

    見るのは、

    単に生死だけではありません。

    どこへ移動するか。

    いつ活動するか。

    体温はどう変化するか。

    どれくらい成長するか。

    新しい環境で、

    カメが本当に「普通に暮らせるか」を調べます。

    2022年、191匹を一度に放流

    翌2022年。

    さらに大きな放流が行われました。

    合計、

    191匹。

    44匹がScott National Park。

    147匹がMoore River Nature Reserve。

    飼育下繁殖プログラム開始以来、

    当時最大規模の放流でした。

    Scott National Parkの個体群は特に、

    気候変動への避難先として新しい個体群を作れるか

    を確かめる重要な試みになっています。

    2024年、さらに20匹

    保全は現在も続いています。

    2024年には、

    Perth ZooとAdelaide Zooで育った20匹が、

    Moore River近郊へ放されました。

    年齢は、

    2歳から13歳。

    放流前には無線発信器が取り付けられ、

    既にその場所で暮らしている個体と行動を比較する研究も始まりました。

    同発表時点で、

    Perth Zooでは1,300匹以上が繁殖し、

    1,145匹が野生へ放された

    とされています。

    「元の場所へ戻す」だけが保全ではなくなった

    これまで、

    野生復帰という言葉には、

    一つの分かりやすい形がありました。

    捕まえられた場所へ戻す。

    昔いた場所へ戻す。

    本来の生息地へ戻す。

    でも、

    気候変動は、

    その考え方を難しくしています。

    場所は残っている。

    保護区にもなっている。

    密猟者もいない。

    それでも、

    気候だけが昔とは違う。

    だったら、

    カメを過去へ戻すのではなく、

    未来へ移す必要があるのかもしれない。

    オーストラリアヌマガメモドキの保全は、

    その難しい問いを、

    実際のカメを使って考えているプロジェクトです。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回の話で僕が一番面白いと思うのは、

    「生息地とは何なのか」

    というところです。

    カメが昔からいた場所。

    それが生息地。

    普通はそう考えます。

    でも、

    気温が変わる。

    雨が減る。

    湿地が乾く。

    すると、

    地図上では同じ場所でも、

    カメにとっては、

    もう同じ場所ではない。

    逆に、

    昔はカメがいなかった南の湿地が、

    50年後には、

    カメにとって一番暮らしやすい場所になるかもしれない。

    保全というのは、

    昔の状態をそのまま保存する仕事だと思っていたけれど、

    このカメを見ていると、

    そうではないのかもしれない。

    変わっていく世界の中で、生き物が生き続けられる場所を探す仕事

    でもあるのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    他人が持っていない亀って、なんで欲しくなるんでしょうね?

    僕の性格が捻くれてるせいかな?

    欲しいなぁ〜オーストラリアヌマガメモドキ

    出典

    Perth Zoo
    「Western Swamp Tortoise Breeding Program」
    再発見、1980年代の個体数、繁殖プログラム、現在の繁殖・放流実績、気候変動に対応した新しい放流地について。
    URL:Perth Zooの保全プログラムを見る

    Western Australia Department of Biodiversity, Conservation and Attractions
    「Record release for critically endangered Western Swamp Tortoise」
    2022年。44匹と147匹、合計191匹の記録的な放流について。
    URL:DBCAの記事を読む

    National Environmental Science Program – Threatened Species Recovery Hub
    「Western swamp tortoises move to a cool new home」
    2016年。気候変動に備えて24匹を歴史的分布域外へ移した初期のassisted colonisationについて。
    URL:2016年の移住計画を見る

    The University of Western Australia
    「Bold plan to find ‘Goldilocks’ wetlands for Western Swamp Tortoise」
    2022年9月7日。気候変動に耐えられる新しい湿地を探す研究について。
    URL:UWAの記事を読む

    Australian Government – DCCEEW
    「Western swamp tortoise」
    本種の脅威と、気候変動避難地への新個体群創出を含む現在の保全方針。
    URL:オーストラリア政府の種情報を見る

    e-Gov 法令検索
    Pseudemydura umbrinaの日本語名「オーストラリアヌマガメモドキ」の確認。
    URL:e-Govの法令情報を見る