タグ: サンタフェ島

  • 【世界の亀ニュース】DNAが99%読めなくても分かった 博物館の骨から蘇ったガラパゴスゾウガメ2つの絶滅系統

    【世界の亀ニュース】DNAが99%読めなくても分かった 博物館の骨から蘇ったガラパゴスゾウガメ2つの絶滅系統

    今回は、

    生きているカメを探す話ではありません。

    化石でもありません。

    博物館の棚に残されていた、

    古いゾウガメの骨

    の話です。

    骨からDNAを取り出す。

    でも、

    ほとんど壊れている。

    現在の動物なら、

    一個体から膨大なDNA情報を読み取ることができます。

    ところが今回扱われた歴史的標本の一部では、

    読み取れるゲノム情報は1%にも満たないほどでした。

    普通なら、

    「情報が少なすぎる」

    として解析から外されてもおかしくありません。

    でも研究者たちは、

    そのわずかな断片を捨てませんでした。

    残っているDNAを集める。

    現在生きているガラパゴスゾウガメのゲノムと比べる。

    他の博物館標本とも比べる。

    そして、

    巨大な「ゾウガメの家系図」の中へ、

    そのDNAの破片を一つずつ置いていきました。

    すると、

    そこから二つの、

    もう存在しない系統が浮かび上がってきました。

    今回の研究

    研究論文のタイトルは、

    “Integration of ultra-low coverage whole-genome sequences for reconstructing the evolutionary history of Galapagos giant tortoises”

    日本語にすれば、

    「超低カバレッジ全ゲノム配列を統合したガラパゴスゾウガメの進化史の復元」

    というような内容です。

    研究を主導したのはAlexander Ochoa氏らの国際研究チーム。

    Yale University。

    Newcastle University。

    University of California, Berkeley。

    University of Connecticut。

    Woods Hole Oceanographic Institution。

    University of Crete。

    など、複数の研究機関が参加しています。

    対象になったのは、

    ガラパゴス諸島に暮らしてきたChelonoidis属の巨大リクガメたち。

    研究では、

    現生13系統と絶滅4系統

    からなるガラパゴスゾウガメの進化的放散を扱っています。

    どこのカメなのか

    今回特に注目されたのは、

    二つの島です。

    サンクリストバル島。

    そして、

    サンタフェ島。

    どちらもエクアドルのガラパゴス諸島にあります。

    しかし、

    今回調べられたカメたちは、

    もう島を歩いていません。

    どちらも、

    絶滅した系統です。

    サンタフェ島には、かつて巨大なリクガメがいた

    現在のサンタフェ島には、

    在来のゾウガメは残っていません。

    しかし昔の航海記録には、

    島からゾウガメが持ち去られた記録があります。

    さらに、

    California Academy of Sciencesの探検隊が集めた骨片も残されていました。

    これまでの研究から、

    サンタフェ島のゾウガメは、

    他島のゾウガメとは異なる独自の分類群だった可能性が高いことが知られていました。

    しかも、

    完全な標本が残る前に絶滅してしまったため、

    正式な学名すら付いていません。

    名前のない、

    絶滅したゾウガメ。

    今回の研究では、

    その残された骨から得たゲノム断片を使って、

    このサンタフェ系統がガラパゴスゾウガメの進化史の中で、

    独立した系統だったことを改めて確認しました。

    そして、さらに不思議なのがサンクリストバル島

    サンクリストバル島には、

    現在もゾウガメが生きています。

    だから、

    「絶滅したサンクリストバル島のゾウガメ」

    という表現は、

    少し変に聞こえます。

    でも、

    ここには大きな謎があります。

    1906年。

    California Academy of Sciencesの調査隊がサンクリストバル島を訪れました。

    島では一匹の生きたゾウガメが採集されました。

    一方、

    島内の洞窟からは、

    およそ17個体分のゾウガメの骨

    が見つかっています。

    当然、

    同じ島のカメなのだから、

    同じ系統だと思います。

    ところが、

    違いました。

    洞窟のゾウガメと、現在のゾウガメは違った

    2022年。

    研究チームが、

    洞窟から見つかった歴史標本のミトコンドリアDNAを調べました。

    すると、

    驚くことが分かりました。

    洞窟にあった5個体は、

    現在サンクリストバル島に暮らすゾウガメとは、

    大きく異なる遺伝系統

    だったのです。

    一方、

    1906年に生きた状態で採集された一匹は、

    現在のサンクリストバル個体群に近いDNAを持っていました。

    つまり過去のサンクリストバル島には、

    少なくとも遺伝的に大きく異なる、

    二つのゾウガメ系統が同時期に存在していた可能性

    が出てきました。

    現在残っているのは、

    その一方だけ。

    洞窟で見つかった系統は、

    20世紀までに絶滅したと考えられています。

    でも、2022年には大きな問題が残っていた

    2022年の研究には、

    弱点がありました。

    古い骨のDNAが、

    あまりにも壊れていたからです。

    研究者が十分に読み取れたのは、

    主にミトコンドリアDNA

    ミトコンドリアDNAは、

    系統関係を調べる非常に有用な情報です。

    ただし、

    生物全体の遺伝情報のごく一部しか表していません。

    研究者自身も当時、

    「核DNAがなければ、この二つが本当に独立した進化的存在だったのか断定できない」

    という慎重な結論を出していました。

    そして2026年。

    その続きを、

    ようやく調べることができました。

    読めたDNAは、わずか0.008〜0.139倍

    今回の研究で使われた古いDNAは、

    状態が非常に悪いものでした。

    ゲノム解析では、

    同じ場所を平均何回読めたかを「coverage=カバレッジ」で表します。

    通常、

    信頼性の高い全ゲノム解析では、

    同じ領域を何度も読みます。

    ところが今回の歴史標本は、

    わずか、

    0.008×〜0.139×。

    研究論文では、

    これをultra-low coverage whole-genome sequencing(ulcWGS)

    と呼んでいます。

    ほとんど読めていない。

    でも、

    ゼロではない。

    その「ほとんど何もない」に近いDNAを、

    どう使うか。

    それが今回の研究の核心です。

    DNAの「穴」を勝手に埋めなかった

    ここも面白いところです。

    DNAが足りないと、

    既知のゲノム情報を参考にして、

    欠損部分を統計的に推定する方法があります。

    しかし今回の研究では、

    超低カバレッジ標本について、

    欠損した遺伝型を推定して埋める方法に頼っていません。

    代わりに、

    残っている情報だけを使って、

    複数の解析ツールを組み合わせました。

    研究チームは、

    EPA-ng。

    smartsnp。

    Admixfrog。

    NGSadmix。

    などを使い、

    わずかなDNA断片を、

    高品質なゲノムから作られた系統樹へ配置しました。

    言ってみれば、

    1000ピースのジグソーパズルがある。

    手元に残っているのは、

    10ピースくらい。

    その10ピースだけを見て、

    「これはどの絵の一部なのか」

    を探したようなものです。

    そして、二つの絶滅系統が見えてきた

    結果。

    サンクリストバル島の歴史的系統。

    サンタフェ島の系統。

    どちらも、

    ガラパゴスゾウガメの進化史の中で、

    独立した進化的実体だった

    ことが支持されました。

    つまり、

    「ミトコンドリアDNAが少し違っていただけ」

    ではなかった。

    核ゲノムの断片を使っても、

    別の歴史を持つ集団として認識できたわけです。

    サンクリストバル島の話は、さらにややこしい

    そして、

    ここには分類学上のものすごく面白い問題があります。

    現在、

    サンクリストバル島のゾウガメには、

    Chelonoidis chathamensis

    という学名が使われています。

    ところが、

    この種を最初に定義する基準標本、

    つまりホロタイプになっている個体は――

    現在生きている系統ではありません。

    1906年に洞窟から発見された、

    絶滅した方の系統の標本

    なのです。

    これは、

    かなりすごい話です。

    今生きているカメの名前が変わる可能性がある

    もし将来、

    絶滅した洞窟系統と現在の系統が、

    正式に別種と判断されたとします。

    すると、

    Chelonoidis chathamensisという名前は、

    基準標本が属している

    絶滅系統側

    に残ります。

    そして、

    現在サンクリストバル島に何千匹も生きているゾウガメには、

    新しい学名を付ける必要が出てくる可能性があります。

    ただし、

    現時点で新種として正式に命名されたわけではありません。

    だから、

    「新種発見」

    と書いてしまうのはまだ早い。

    今は、

    分類そのものが揺れている途中

    です。

    100年以上前の骨が、現在の名前を揺らしている

    これが、

    博物館標本の面白いところです。

    1906年。

    研究者が、

    洞窟から骨を拾う。

    標本番号を付ける。

    博物館へ持ち帰る。

    100年以上、

    棚の中にある。

    その当時には、

    DNA解析なんてありません。

    まして、

    全ゲノム解析もない。

    でも標本は、

    捨てられずに残っていた。

    そして2026年。

    その骨から、

    わずかなDNAを取り出す。

    すると、

    現在生きているカメの学名まで再検討しなければならない可能性

    が出てきました。

    標本は、

    死んだ動物を展示するものだけではないんですね。

    未来の技術で、

    もう一度調べることができる、

    時間を保存した資料

    でもあります。

    サンタフェのカメには、完全な標本すらない

    一方、

    サンタフェ島のケースも興味深いです。

    この島のゾウガメは、

    科学者が完全な標本を集める前に絶滅しました。

    残っているのは、

    骨の一部。

    だから、

    独自のゾウガメだったことは遺伝学的に支持されているのに、

    正式な種記載ができるほどの標本がありません。

    つまり、

    存在していた。

    遺伝的にも違う。

    でも、

    名前がない。

    自然界では、

    名前を付ける前に消えてしまう生き物もいる。

    ガラパゴスには「島ごとのカメ」がいる

    なぜ、

    こんなに複雑なのでしょうか。

    ガラパゴスゾウガメの最大の特徴の一つが、

    島ごと、あるいは島の地域ごとに独自の系統へ分かれていること

    です。

    海を隔てて、

    島がある。

    ある島へゾウガメが到達する。

    そこから長い時間、

    別の島の集団とはほとんど交流しない。

    すると、

    それぞれが独自に進化していきます。

    甲羅の形。

    体の大きさ。

    首の長さ。

    そして、

    DNA。

    一つの祖先から始まったゾウガメが、

    島々で枝分かれしていく。

    ガラパゴスは、

    まさに巨大な進化実験場です。

    でも、人間がその地図を混ぜてしまった

    さらに話を複雑にしたのが、

    人間です。

    過去の船乗りたちは、

    ガラパゴスゾウガメを食料として船へ積み込みました。

    ゾウガメは、

    餌や水なしでも比較的長期間生きることができる。

    そのため、

    航海中の食料として利用されました。

    そして、

    別の島へ運ばれた個体の一部が、

    そこで逃げたり、

    捨てられたりした可能性があります。

    別々に進化していた島のカメが、

    人間によって再び出会う。

    そして、

    交雑する。

    絶滅したDNAが、まだ生きているかもしれない

    ここから、

    今回の研究は、

    少し不思議な話になります。

    ある系統そのものは、

    絶滅した。

    でも、

    その系統のカメが過去に他の島へ運ばれ、

    別系統のゾウガメと交雑していたとします。

    すると、

    その子孫には、

    絶滅した系統のDNAが残っている可能性があります。

    生き物としては、

    もう存在しない。

    でも、

    ゲノムの一部分は、

    別のカメの中に生き続けている。

    Ochoa氏らも、

    絶滅系統の遺伝情報が現在の交雑個体の中に残っている可能性を指摘しています。

    僕は、

    ここがものすごく面白い。

    「絶滅」とは、どこまで消えたら絶滅なのだろう

    一匹も純粋な個体がいなくなる。

    それは、

    絶滅です。

    でも、

    DNAの10%が、

    別のカメの中に残っていたら?

    5%なら?

    1%なら?

    生物学的には、

    元の系統が復活したことにはなりません。

    でも、

    その系統が何百万年かけて獲得してきた遺伝情報の一部は、

    まだ世界から完全には消えていない。

    「絶滅」という言葉は、

    個体を見ると明確なのに、

    ゲノムまで見ると、

    少し境界がぼやけます。

    そして今回の方法は、カメだけの話ではない

    研究チームが重要視しているのは、

    ガラパゴスゾウガメだけではありません。

    世界中の博物館には、

    DNAの状態が悪すぎて、

    これまで詳細なゲノム研究に使えなかった標本が大量にあります。

    骨。

    皮。

    歯。

    羽。

    角。

    100年前。

    200年前。

    もっと昔。

    これまで、

    「DNAが少なすぎる」

    として諦められていた標本でも、

    今回のような手法を使えば、

    進化史の中でどこに位置するのか調べられる可能性があります。

    つまり、

    博物館には、

    まだ読まれていない進化史が大量に眠っている。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回、

    僕が一番面白いと思うのは、

    カメそのものはもういないのに、そのカメについて新しいことが今も発見されている

    というところです。

    普通、

    絶滅したら、

    そこで観察は終わると思います。

    もう、

    歩いているところを見られない。

    何を食べるかも調べられない。

    繁殖も見られない。

    でも、

    標本がある。

    DNAがある。

    昔の航海記録がある。

    新しい技術ができる。

    すると、

    絶滅したあとでも、

    その生き物についての情報は増えていく。

    カメは、

    もう増えない。

    でも、

    人間が知っている「そのカメ」は、今も増え続ける。

    これは、

    不思議です。

    湯川亀吉の一言

    ゾウガメって全員が性格良さそうですよね。

    出典

    Yale University
    「Reading the giant tortoise DNA that time forgot」
    2026年8月26日。超低品質の博物館DNAからサンクリストバル島とサンタフェ島の絶滅系統を解析した研究を紹介しています。
    Yale Universityの公式記事を読む

    Proceedings of the Royal Society B / PubMed
    Ochoa, A. et al.
    「Integration of ultra-low coverage whole-genome sequences for reconstructing the evolutionary history of Galapagos giant tortoises」
    2026年。0.008〜0.139×という超低カバレッジゲノムを用いた解析手法と、絶滅2系統の進化的位置について。
    PubMedで論文情報を見る

    Heredity
    「A new lineage of Galapagos giant tortoises identified from museum samples」
    2022年。サンクリストバル島の洞窟標本から、現在の個体群とは異なるミトコンドリア系統が発見された先行研究。
    Heredityの原著論文を見る

    Galápagos Conservancy
    「Giant Tortoise Restoration in the Galápagos Islands」
    サンタフェ島の絶滅ゾウガメが独立した分類群だったこと、完全標本がなく正式な学名がないことなど。
    Galápagos Conservancyの資料を見る