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  • 【世界の亀ニュース】100年ぶりに再発見されたカメを「未来の湿地」へ 気候変動から救うオーストラリアの移住計画

    【世界の亀ニュース】100年ぶりに再発見されたカメを「未来の湿地」へ 気候変動から救うオーストラリアの移住計画

    今回は、オーストラリア西部に生息する、世界でも特に希少な淡水ガメの保全活動を紹介します。

    学名は、

    Pseudemydura umbrina

    日本の法令では、

    オーストラリアヌマガメモドキ

    という和名が使われています。

    一方、日本の爬虫類関連資料などでは、

    クビカシゲガメ

    という名前も使われています。

    このカメは、

    一度は絶滅したと思われました。

    再発見された。

    繁殖に成功した。

    1,000匹以上を野生へ戻した。

    普通なら、

    ここまででも大成功です。

    でも、

    問題が一つ残っていました。

    カメが暮らしてきた湿地そのものが、だんだん乾いている。

    そこで研究者たちは、

    過去にこのカメが生息していなかった、

    もっと南の、

    もっと涼しく、

    もっと長く水が残る湿地へ、

    カメを移し始めました。

    今回のニュース

    大きな転換点の一つが、2016年です。

    西オーストラリア州政府、Perth Zoo、University of Western Australiaなどの保全チームは、飼育下で繁殖した24匹のオーストラリアヌマガメモドキを、西オーストラリア州南西部の新しい候補地へ移しました。

    重要なのは、

    そこが単なる「別の放流場所」ではなかったことです。

    本来このカメが知られていた歴史的な分布域よりも、

    さらに南側。

    将来の気候変動を考え、

    より涼しく、

    より湿潤な環境を探して選ばれました。

    この方法は、

    assisted colonisation

    と呼ばれます。

    日本語なら、

    「人為的移住」

    「保全的移住」

    あるいは、

    「分布域外への計画的移送」

    に近い考え方です。

    どこの国・地域の話か

    国:オーストラリア
    州:西オーストラリア州
    従来の主な生息地域:パース近郊・スワン沿岸平野
    新たな移住候補地:西オーストラリア州南西部
    対象種:オーストラリアヌマガメモドキ
    学名:Pseudemydura umbrina
    英名:Western Swamp Tortoise / Western Swamp Turtle
    情報の種類:淡水ガメ・飼育下繁殖・野生復帰・気候変動・保全的移住

    現在、オーストラリア政府も本種の重要な保全策として、気候変動下でも生息可能な場所へ新しい個体群を作ることを挙げています。

    登場する亀

    オーストラリアヌマガメモドキは、

    ヘビクビガメ科に属する非常に小型の淡水ガメです。

    成体でも甲長はおよそ11〜13cm程度。

    体重は300〜450gほど。

    首は短く、

    頭頂部には大きな一枚の鱗板があります。

    足には水かきがあり、

    各足に5本の爪を持ちます。

    見た目は、

    派手ではありません。

    巨大でもない。

    奇抜な模様もない。

    茶色。

    黒。

    泥や湿地に溶け込むような小さなカメです。

    でも、

    進化的には非常に独特な存在です。

    Pseudemydura属で現在生きているのは、この一種だけ。

    オーストラリア政府の回復計画では、近縁のカメとは大きく異なる遺存的な系統であることが紹介されています。

    1839年、一匹だけ見つかった

    このカメの科学的な物語は、

    1839年に始まります。

    オーストリア人の博物学者Ludwig Preissが、西オーストラリアで一匹の標本を採集。

    その標本は、

    ウィーン自然史博物館へ送られました。

    しかし、

    その後が続きません。

    一匹も見つからない。

    何十年経っても、

    見つからない。

    1901年、

    博物館に保存されていた標本をもとに、

    Pseudemydura umbrina

    として正式に記載されます。

    でも、

    生きたカメが見つからない状態は続きました。

    100年以上、誰も見つけられなかった

    1839年から、

    1953年まで。

    114年間。

    新しい標本は確認されませんでした。

    そのため、

    このカメは絶滅したのではないかと考えられていました。

    そして1953年。

    物語が突然動きます。

    見つけたのは少年だった

    西オーストラリア州Upper Swan。

    そこで一匹の小さなカメを見つけたのは、

    Robert Boydという少年でした。

    彼はそのカメを、

    Western Australian Naturalists’ Clubの野生動物展示会へ持っていきます。

    そこで、

    「これは普通のカメではない」

    と気付かれました。

    100年以上、

    科学者にも見つからなかったカメ。

    その再発見のきっかけを作ったのは、

    一人の少年でした。

    探してみると、二つの小さな個体群があった

    再発見後、

    周辺で調査が行われます。

    そして、

    パース北東部に、

    二つの小さな生息地が見つかりました。

    現在の、

    Ellen Brook Nature Reserve。

    Twin Swamps Nature Reserve。

    この二つです。

    1962年には、

    残された生息環境を守るため、

    自然保護区が設けられました。

    一度は絶滅したと思われたカメに、

    ようやく保護区ができました。

    でも、生息地そのものが消えていった

    問題は、

    カメを捕る人だけではありませんでした。

    このカメが暮らしていたスワンバレー周辺は、

    パース都市圏に近い場所です。

    農業。

    宅地開発。

    道路。

    粘土採掘。

    排水。

    かつて湿地だった土地の多くが、

    別の用途へ変わっていきました。

    オーストラリア政府によると、本来利用していた粘土質の湿地の大部分は、現在では都市化・農業利用・粘土採掘などによって失われています。

    1980年代、30匹未満

    保護区まで作った。

    それでも、

    減少は止まりませんでした。

    1980年代。

    野生に残った個体は、

    30匹未満。

    Perth Zooは、

    この時期を本種が絶滅寸前まで追い詰められた時代として紹介しています。

    100年ぶりに見つかった。

    そのわずか30年後、

    今度は本当に消えそうになりました。

    1989年、動物園で繁殖を始める

    そこで、

    Perth Zooを中心とした飼育下繁殖プログラムが本格化します。

    開始は1989年。

    親ガメを繁殖させる。

    卵を見つける。

    掘り出す。

    孵卵器へ移す。

    孵化させる。

    子ガメを育てる。

    そして、

    十分に成長してから野生へ戻す。

    現在、Perth Zooでは、子ガメがおよそ100g、約3歳になった頃を一つの目安として野生復帰させています。

    1,300匹以上が生まれた

    その積み重ねは、

    大きな数字になりました。

    Perth Zooによると、

    1989年以降、

    1,300匹以上のオーストラリアヌマガメモドキが同園で繁殖。

    2024年6月時点で、

    そのうち1,125匹が野生環境へ放されています。

    30匹未満まで減ったカメです。

    そこから、

    1,000匹を超えるカメを、

    再び自然へ送り出せるところまで来ました。

    だったら、もう安心?

    ここまで読むと、

    保全は成功したように見えます。

    でも、

    新しい問題が出てきました。

    雨が減っている。

    このカメは、

    一年中水の中にいるわけではありません。

    冬から春。

    雨によって一時的な湿地に水がたまる。

    カメはそこで活動します。

    餌を食べる。

    成長する。

    繁殖に必要なエネルギーを蓄える。

    そして夏。

    湿地が乾くと、

    地面の穴や深い落ち葉の中へ入り、

    活動を抑えて暑い時期を乗り切ります。

    つまり、

    一定期間、湿地に水が残ること

    が非常に重要です。

    ところが、水のある期間が短くなっている

    気候が暖かく、

    乾燥するようになる。

    雨が減る。

    湿地が早く乾く。

    すると、

    カメが水中で餌を取れる期間が短くなります。

    昔は半年近く使えた湿地でも、

    水が残る期間が数か月まで短くなる可能性がある。

    そうなると、

    カメは十分に食べられません。

    成長できない。

    繁殖できない。

    つまり、

    保護区そのものは残っていても、カメが暮らせなくなる

    可能性があります。

    そこで発想を逆にした

    普通の保全なら、

    「本来の生息地を守ろう」

    と考えます。

    それはもちろん重要です。

    でも、

    本来の場所の気候そのものが変わってしまったら?

    そこで研究者たちは、

    違う問いを立てました。

    カメを守る場所を、もっと南へ作れないか。

    西オーストラリア州南西部。

    パース周辺より、

    涼しい。

    雨が多い。

    湿地に長く水が残る。

    将来、

    現在の生息地が暑く乾燥したとき、

    そこがカメの避難場所になる可能性があります。

    2016年、歴史的分布域の外へ

    2016年。

    24匹の飼育下繁殖個体が、

    Meerup周辺とAugusta東部の保全地域へ試験的に放されました。

    西オーストラリア州政府は当時、この試みを、

    将来の気候変動に備えて脊椎動物を歴史的分布域外へ移す試み

    として紹介しました。

    カメを、

    「昔いた場所」

    へ戻すのではない。

    「未来でも生きられそうな場所」へ移す。

    保全の考え方そのものが変わっています。

    「カメがいなかった場所へ放していいのか」

    でも、

    これは簡単な問題ではありません。

    ある生き物を、

    本来いなかった地域へ持ち込む。

    人間は過去、

    これを何度もやっています。

    そして、

    外来生物問題を起こしてきました。

    だから、

    assisted colonisationには議論があります。

    移したカメが、

    新しい生態系へ悪影響を与えないか。

    他の希少種と競合しないか。

    病気を持ち込まないか。

    新しい場所で本当に繁殖できるか。

    気候だけでは決められません。

    コンピューターまで使って「未来の湿地」を探す

    そこで研究者たちは、

    現在の生息地だけを見ません。

    気温。

    降水量。

    湿地に水が残る期間。

    カメの活動。

    卵の発生。

    将来の気候予測。

    さまざまな条件をモデル化し、

    これから先もカメが暮らせそうな場所

    を探しました。

    University of Western Australiaの研究者たちは、

    この理想的な場所を、

    “Goldilocks wetlands”

    と表現しています。

    暑すぎない。

    寒すぎない。

    乾きすぎない。

    カメにとって、

    「ちょうどいい湿地」です。

    2021年、さらに73匹

    試験は続きます。

    2021年には、

    Perth Zooで繁殖した73匹が、

    西オーストラリア州南西部の二つの場所へ放されました。

    Augusta東部へ16匹。

    Scott National Parkへ57匹。

    このうち48匹には、

    無線発信器やデータロガーが装着されました。

    見るのは、

    単に生死だけではありません。

    どこへ移動するか。

    いつ活動するか。

    体温はどう変化するか。

    どれくらい成長するか。

    新しい環境で、

    カメが本当に「普通に暮らせるか」を調べます。

    2022年、191匹を一度に放流

    翌2022年。

    さらに大きな放流が行われました。

    合計、

    191匹。

    44匹がScott National Park。

    147匹がMoore River Nature Reserve。

    飼育下繁殖プログラム開始以来、

    当時最大規模の放流でした。

    Scott National Parkの個体群は特に、

    気候変動への避難先として新しい個体群を作れるか

    を確かめる重要な試みになっています。

    2024年、さらに20匹

    保全は現在も続いています。

    2024年には、

    Perth ZooとAdelaide Zooで育った20匹が、

    Moore River近郊へ放されました。

    年齢は、

    2歳から13歳。

    放流前には無線発信器が取り付けられ、

    既にその場所で暮らしている個体と行動を比較する研究も始まりました。

    同発表時点で、

    Perth Zooでは1,300匹以上が繁殖し、

    1,145匹が野生へ放された

    とされています。

    「元の場所へ戻す」だけが保全ではなくなった

    これまで、

    野生復帰という言葉には、

    一つの分かりやすい形がありました。

    捕まえられた場所へ戻す。

    昔いた場所へ戻す。

    本来の生息地へ戻す。

    でも、

    気候変動は、

    その考え方を難しくしています。

    場所は残っている。

    保護区にもなっている。

    密猟者もいない。

    それでも、

    気候だけが昔とは違う。

    だったら、

    カメを過去へ戻すのではなく、

    未来へ移す必要があるのかもしれない。

    オーストラリアヌマガメモドキの保全は、

    その難しい問いを、

    実際のカメを使って考えているプロジェクトです。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回の話で僕が一番面白いと思うのは、

    「生息地とは何なのか」

    というところです。

    カメが昔からいた場所。

    それが生息地。

    普通はそう考えます。

    でも、

    気温が変わる。

    雨が減る。

    湿地が乾く。

    すると、

    地図上では同じ場所でも、

    カメにとっては、

    もう同じ場所ではない。

    逆に、

    昔はカメがいなかった南の湿地が、

    50年後には、

    カメにとって一番暮らしやすい場所になるかもしれない。

    保全というのは、

    昔の状態をそのまま保存する仕事だと思っていたけれど、

    このカメを見ていると、

    そうではないのかもしれない。

    変わっていく世界の中で、生き物が生き続けられる場所を探す仕事

    でもあるのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    他人が持っていない亀って、なんで欲しくなるんでしょうね?

    僕の性格が捻くれてるせいかな?

    欲しいなぁ〜オーストラリアヌマガメモドキ

    出典

    Perth Zoo
    「Western Swamp Tortoise Breeding Program」
    再発見、1980年代の個体数、繁殖プログラム、現在の繁殖・放流実績、気候変動に対応した新しい放流地について。
    URL:Perth Zooの保全プログラムを見る

    Western Australia Department of Biodiversity, Conservation and Attractions
    「Record release for critically endangered Western Swamp Tortoise」
    2022年。44匹と147匹、合計191匹の記録的な放流について。
    URL:DBCAの記事を読む

    National Environmental Science Program – Threatened Species Recovery Hub
    「Western swamp tortoises move to a cool new home」
    2016年。気候変動に備えて24匹を歴史的分布域外へ移した初期のassisted colonisationについて。
    URL:2016年の移住計画を見る

    The University of Western Australia
    「Bold plan to find ‘Goldilocks’ wetlands for Western Swamp Tortoise」
    2022年9月7日。気候変動に耐えられる新しい湿地を探す研究について。
    URL:UWAの記事を読む

    Australian Government – DCCEEW
    「Western swamp tortoise」
    本種の脅威と、気候変動避難地への新個体群創出を含む現在の保全方針。
    URL:オーストラリア政府の種情報を見る

    e-Gov 法令検索
    Pseudemydura umbrinaの日本語名「オーストラリアヌマガメモドキ」の確認。
    URL:e-Govの法令情報を見る

  • 【世界の亀ニュース】オーストラリアで9,100匹以上のアオウミガメの赤ちゃんが海へ

    【世界の亀ニュース】オーストラリアで9,100匹以上のアオウミガメの赤ちゃんが海へ

    今回は、オーストラリアで報じられた、アオウミガメの卵移動プロジェクトに関するニュースを紹介します。

    今回のニュース

    オーストラリア北部、グレートバリアリーフ北部のアオウミガメに関するニュースです。

    ABC Newsによると、レイン島からサー・チャールズ・ハーディ島へ移されたアオウミガメの卵から、9,100匹以上の赤ちゃんガメが海へ向かったと報じられています。移された卵のうち、約82%が孵化して海へたどり着いたとされています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:オーストラリア、グレートバリアリーフ北部
    元記事の言語:英語
    公開時期:2026年6月1日
    情報の種類:新着ニュース・保護活動・繁殖/孵化

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、アオウミガメです。

    舞台になったレイン島は、アオウミガメにとって非常に重要な産卵地として知られています。記事では、この地域のアオウミガメが気候変動や海面上昇、砂浜の温度上昇などの影響を受けていることも紹介されています。

    ニュースの要約

    今回の取り組みでは、アオウミガメの卵がレイン島からサー・チャールズ・ハーディ島へ移されました。

    目的のひとつは、孵化数を増やすことだけではありません。
    砂の温度が高くなりすぎると、アオウミガメの赤ちゃんはメスに偏りやすくなるため、より涼しい環境へ卵を移すことで、オスの赤ちゃんが生まれる可能性を高める狙いもあります。今回、移された卵は約9,000個にのぼり、約82%が孵化して海へ向かったと報じられています。

    また、記事では、この取り組みが10年以上続くレイン島回復プロジェクトの一部であることも紹介されています。伝統的所有者と研究者が協力し、アオウミガメの未来を守ろうとしている点も大切なポイントです。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、ただ「たくさん孵化した」という話ではないところです。

    亀の保護というと、卵を守る、赤ちゃんを海へ帰す、という場面に目が行きます。
    でも今回のニュースでは、砂浜の温度、性別の偏り、海面上昇、産卵地の地形、そしてその土地の人々の文化まで関わっています。

    一匹の赤ちゃんガメが海へ向かう背景には、島の形、気候、研究者、伝統的所有者、そして長く続く保護活動があります。

    亀を守るということは、亀だけを見ることではなく、亀が生まれる場所ごと見つめることなのかもしれません。

    湯川亀吉の一言

    偉いね。

    出典

    元記事:ABC News「Thousands of baby green sea turtles head to sea after successful egg relocation」

  • 【世界の亀ニュース】6週間で90%の個体が消えた川 16匹から始まったベリンジャーリバータートル復活計画

    【世界の亀ニュース】6週間で90%の個体が消えた川 16匹から始まったベリンジャーリバータートル復活計画

    今回は、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の一本の川だけに生息する希少な淡水ガメを紹介します。

    学名は、

    Myuchelys georgesi

    英語では、

    Bellinger River Snapping Turtle
    または
    Bellinger River Saw-shelled Turtle

    と呼ばれています。

    日本語で広く定着した標準和名は確認できなかったため、この記事では英名をもとに、

    ベリンジャーリバータートル

    と表記します。

    2015年。

    このカメが暮らす川で、突然カメが死に始めました。

    原因は、それまで科学に知られていなかったウイルス。

    わずか6週間。

    その間に、

    野生個体群のおよそ90%が失われました。

    種そのものが、

    一本の川から消える寸前まで追い込まれました。

    今回のニュース

    今回取り上げるのは、一つの出来事というより、

    2015年から現在まで続いている復活計画そのもの

    です。

    2015年の大量死を受け、ニューサウスウェールズ州政府とTaronga Zooなどは緊急対応を開始。

    病気の影響を受けていない健康なカメを探し、

    16匹を保全繁殖の基礎個体として確保しました。

    そこから繁殖が始まります。

    現在、Taronga Zooでは10回の繁殖シーズンを通じて、

    500匹を超える子ガメが孵化。

    その子孫を使って5回の野生復帰が実施され、

    197匹の若いカメがベリンジャー川へ戻された

    と報告されています。

    16匹。

    そこから、

    500匹以上。

    そして、

    再び川へ。

    でも、

    この物語はまだ終わっていません。

    どこの国・地域の話か

    国:オーストラリア
    州:ニューサウスウェールズ州
    地域:ニューサウスウェールズ州北部
    河川:Bellinger River(ベリンジャー川)
    対象種:Myuchelys georgesi
    英名:Bellinger River Snapping Turtle / Bellinger River Saw-shelled Turtle
    情報の種類:淡水ガメ・感染症・飼育下繁殖・野生復帰・河川保全

    このカメの大きな特徴は、

    世界中を探しても、ほぼこの川にしかいない

    ということです。

    オーストラリア政府によると、生息域はニューサウスウェールズ州北部のベリンジャー川流域に限られています。

    つまり、

    この一本の川で何か起きれば、

    世界中の個体群が同時に危険になります。

    登場する亀

    ベリンジャーリバータートルは、

    ヘビクビガメ科に属する短い首の淡水ガメです。

    成体の背甲は楕円形で暗褐色。

    雌は甲長約25cm、

    雄は約18cmまで成長します。

    顎から首にかけて淡い黄色の線が入る個体が多く、

    顎の下には、

    2本の小さな肉質突起=バーベル

    を持つ個体もいます。

    岩のある澄んだ川を好む

    このカメは、

    泥の多い沼を主な生活場所にするタイプではありません。

    好むのは、

    流れのある透明な川。

    特に、

    深さのある淵。

    岩。

    礫。

    小石。

    そうしたものが川底にある場所を利用します。

    オーストラリア政府は、2mを超える深い淵で確認されることも多いとしています。

    水底では、

    水生昆虫などの大型無脊椎動物。

    植物。

    果実。

    などを食べる雑食性です。

    2015年2月、川で異変が起きた

    2015年2月。

    ベリンジャー川の岸で、

    カメが次々と見つかるようになります。

    しかし、

    普通ではありませんでした。

    病気になっている。

    衰弱している。

    そして、

    死んでいく。

    当初、

    原因は分かりませんでした。

    水質汚染なのか。

    毒物なのか。

    細菌なのか。

    未知の感染症なのか。

    調査が始まります。

    そして後に、この大量死と強く関連すると考えられる新しいウイルスが特定されました。

    現在、

    Bellinger River Virus

    と呼ばれています。

    6週間

    数字だけ見ると、

    この事件の異常さが分かります。

    大量死が起こる前、

    野生個体群はおよそ4,000匹だったと推定されています。

    ところが、

    わずか6週間で約90%が死亡。

    2015年末には、

    推定約400匹。

    さらに2019年頃には、

    約150匹まで減少した可能性があります。

    数千匹いたカメが、

    一つの季節の中で、

    ほとんどいなくなりました。

    カメの「パンデミック」

    Taronga Zooは、この出来事を紹介する際、

    Turtle pandemic

    という表現を使っています。

    まさに、

    カメだけのパンデミックです。

    しかも、

    このカメには逃げ場がありません。

    広いオーストラリア大陸のあちこちに生息しているなら、

    一つの川で病気が起きても、

    別の地域の個体群が残る可能性があります。

    でも、

    ベリンジャーリバータートルは違う。

    ほぼ一本の川だけ。

    病気がその川を進めば、

    種そのものを巻き込む可能性がある。

    そこで16匹を川から出した

    大量死が続く中、

    保全チームは一つの決断をします。

    健康なカメを、

    川から避難させる。

    16匹。

    この個体たちが、

    将来の保全繁殖の基礎になりました。

    これは、

    ある意味では非常に怖い選択だったと思います。

    野生動物を自然から取り上げる。

    でも、

    そのまま川に置いておけば、

    ウイルスに感染して死ぬ可能性もある。

    捕まえるリスクと、

    残すリスク。

    その中で、

    種全体を失わないために、

    人間の管理下へ移しました。

    「保険」としての16匹

    この16匹は、

    ただ救助されたカメではありません。

    もし川の個体群が完全に消えてしまっても、

    種そのものを残すための、

    insurance population=保険個体群

    です。

    つまり、

    世界からこのカメがいなくなるかもしれない状況で、

    最後のバックアップを作ったことになります。

    Taronga Zooで繁殖計画が始まり、

    2017年にはSymbio Wildlife Parkにも第二の繁殖個体群が作られました。

    一か所だけではない。

    もし一つの施設で事故や感染症が起きても、

    別の場所に個体群を残す。

    ここにも、

    「種を失わないための保険」

    という考え方があります。

    そして卵を産んだ

    保全施設へ移されたカメたちは、

    繁殖を始めました。

    最初の繁殖成功時には、

    複数の雌が卵を産み、

    小さな子ガメが孵化しました。

    孵化直後の体重は、

    わずか4〜5グラム程度

    ほぼコインほどの大きさです。

    2018年には、

    その年だけで31匹が孵化。

    前年の22匹と合わせ、

    飼育下個体群が急速に増え始めました。

    現在までに500匹以上が孵化

    そして現在。

    Taronga Zooの保全プログラムでは、

    10回連続の繁殖シーズンで、500匹以上が孵化しました。

    2015年。

    16匹を保護する。

    そこから、

    卵。

    子ガメ。

    また卵。

    また子ガメ。

    何世代もつなぐ。

    一度、

    数百匹規模まで落ちた種を、

    もう一度増やそうとしています。

    でも飼育施設で増やすだけでは意味がない

    この「世界の亀ニュース」で何度も出てくる話だけど、

    ここでも同じです。

    動物園で500匹生まれた。

    それは、

    ものすごい成果です。

    でも、

    ベリンジャーリバータートルは、

    動物園のカメではありません。

    ベリンジャー川のカメです。

    だから、

    最終的には川へ戻さなければなりません。

    2018年、最初の10匹

    最初の試験的な野生復帰は、

    2018年。

    飼育下で生まれ育った若いカメ10匹が、

    ベリンジャー川へ放されました。

    初期の追跡では、

    10匹のうち8匹が生存確認され、

    もう1匹も生きている可能性が高いとされました。

    つまり、

    動物園で生まれたカメでも、川で生活できた。

    この結果が、

    次の放流につながります。

    97匹を一度に川へ

    そして2024年。

    それまでで最大規模となる放流が実施されます。

    数は、

    97匹。

    飼育施設で育てられた若いベリンジャーリバータートルが、

    一度に川へ戻りました。

    この放流によって、

    2018年以降に野生へ戻された数は、

    当時合計179匹になりました。

    その後もプログラムは続き、

    Taronga Zooの現在の情報では、

    197匹が川へ戻された

    とされています。

    放したカメを追いかける

    カメを川へ入れる。

    写真を撮る。

    拍手する。

    それで終わりではありません。

    放流された個体は、

    その後も追跡されます。

    生きているか。

    どこへ移動したか。

    どんな水深を使うか。

    病気になっていないか。

    どんな場所に定着するか。

    そうした情報を集めます。

    野生復帰で本当に知りたいのは、

    「放せたか」ではなく、「放したあと生きられたか」

    だからです。

    そして最大の問題は、まだ川にウイルスがいるかもしれないこと

    ここが、

    この保全プロジェクトの難しいところです。

    原因となったウイルスに対して、

    現在も確立した治療法はありません。

    さらに、

    ウイルスがどのように伝播するのか。

    どこに残っているのか。

    再び大規模な流行が起こる可能性はあるのか。

    完全には解明されていません。

    つまり、

    カメを増やして、

    元の川へ戻す。

    でも、

    その川こそが、かつて大量死が起きた場所。

    そこへ戻さなければ、

    野生復帰にはならない。

    でも、

    戻せば病気に遭遇する可能性がある。

    非常に難しい問題です。

    ワクチンまで研究対象になっている

    オーストラリア政府が挙げている将来の重要な保全策の一つには、

    ニドウイルスに対するワクチン開発

    まで含まれています。

    亀の保全というと、

    巣を守る。

    密猟を防ぐ。

    森を残す。

    そんな活動を想像します。

    でも、

    このカメの場合は、

    ウイルス学。

    獣医学。

    免疫。

    ワクチン。

    そうした分野まで必要になります。

    川そのものを監視する

    さらに、

    病気だけ調べればいいわけではありません。

    水質。

    水生昆虫。

    川岸の植物。

    外来種。

    流域の土地利用。

    全部が、

    カメの生活につながります。

    現在もベリンジャー川では水質調査や大型無脊椎動物の調査が続き、2024〜2025年には病気の監視のため30匹以上のカメが健康診断を受けています。

    河岸では、

    17ヘクタール以上の外来植物除去。

    家畜が川岸へ入り込むのを防ぐ約700mのフェンス設置。

    なども進められています。

    カメを守るというより、

    カメが生きている川全体を診察している

    ようなプロジェクトです。

    卵にも敵がいる

    さらに野生へ戻ったあとには、

    感染症以外の危険もあります。

    雌は晩春になると川岸へ上がり、

    砂や礫のある場所へ、

    10〜15個程度の卵を産みます。

    ところが、

    その卵は、

    キツネ。

    オオトカゲ類。

    などに捕食されます。

    そのため、

    重要な産卵地を守ることも、

    現在の保全計画に含まれています。

    一つ問題を解決すると、

    次の問題が出てきます。

    病気から救う。

    繁殖させる。

    川へ戻す。

    卵を守る。

    川を守る。

    亀一種を守るために、一本の川を見る

    僕は、

    このニュースの面白いところはここだと思います。

    最初は、

    「カメが死んでいる」

    という事件でした。

    だから、

    カメを調べる。

    でも、

    だんだん範囲が広がる。

    ウイルスを調べる。

    水を調べる。

    川底を調べる。

    植物を見る。

    外来種を見る。

    農地を見る。

    人間の暮らしを見る。

    最後には、

    一本の川そのものを理解しなければ、カメを守れない

    というところまで行きます。

    小さなカメ一種から、

    川全体が見えてきます。

    亀好きとして注目したいポイント

    今回のニュースで僕が一番注目したいのは、

    16匹という数字です。

    500匹以上生まれた。

    197匹戻った。

    97匹を一度に放した。

    どれも大きな数字です。

    でも、

    そのすべての始まりは、

    16匹だった。

    ウイルスが川を進んでいる。

    カメが次々死ぬ。

    残っている健康な個体を探す。

    見つける。

    捕まえる。

    隔離する。

    その16匹が、

    今の個体群の未来につながっている。

    もし、

    「あまりにも少ないから意味がない」

    と諦めていたら、

    現在の500匹は存在していなかったかもしれません。

    16匹でも、

    始める。

    僕は、

    そこが一番すごいと思います。

    湯川亀吉の一言

    この亀初めてみた!!

    かっこいいなぁ!!

    出典

    Taronga Conservation Society Australia
    「Bellinger River Turtle」
    現在の繁殖状況、生態、500匹以上の孵化、197匹の野生復帰について。
    Taronga Zoo「Bellinger River Turtle」

    Australian Government – Department of Climate Change, Energy, the Environment and Water
    「Bellinger River snapping turtle」
    分布、形態、2015年の大量死、個体数推定、脅威、現在の保全策について。2026年5月26日更新。
    オーストラリア政府の種情報

    NSW Government / Saving our Species
    「From crisis to conservation: almost 100 Bellinger River snapping turtles in largest release yet」
    2024年4月8日。97匹の放流と2015年以降の回復計画について。
    NSW Governmentの記事

    Taronga Conservation Society Australia
    「From crisis to conservation: almost 100 Bellinger River snapping turtles in largest release yet」
    2024年4月5日。
    Taronga Zooの記事

    NSW Government – North Coast Local Land Services
    「Bellinger River snapping turtle conservation」
    2024〜2025年の水質調査、疾病監視、河岸環境の回復活動について。
    現在の河川保全プロジェクト

  • 【世界の亀ニュース】オーストラリアで珍しいハイブリッドのウミガメが孵化

    【世界の亀ニュース】オーストラリアで珍しいハイブリッドのウミガメが孵化

    今回は、オーストラリア・クイーンズランド州で報じられた、珍しいハイブリッドのウミガメの赤ちゃんに関するニュースを紹介します。

    今回のニュース

    オーストラリア・クイーンズランド州のモンレポスで、アカウミガメとアオウミガメのハイブリッドとみられる赤ちゃんガメが発見されました。

    クイーンズランド州政府の発表によると、この赤ちゃんガメは、モンレポスの海岸で見つかったアカウミガメ × アオウミガメのハイブリッド個体で、研究のために2匹がゴールドコーストのSea Worldへ安全に運ばれたとされています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:オーストラリア、クイーンズランド州、モンレポス
    元記事の言語:英語
    公開時期:2026年5月23日
    情報の種類:新着ニュース・孵化・研究ニュース

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、アカウミガメとアオウミガメのハイブリッドとみられる赤ちゃんガメです。

    クイーンズランド州には、世界にいる7種のウミガメのうち6種が生息しており、その中には絶滅危惧種のアカウミガメやアオウミガメも含まれています。また、モンレポス保護公園は、オーストラリア東海岸本土で最も多くのウミガメが産卵する場所として紹介されています。

    ニュースの要約

    今回、クイーンズランド州の環境・観光・科学・イノベーション省は、モンレポスの海岸でアカウミガメとアオウミガメのハイブリッドとみられる赤ちゃんガメの卵塊を確認しました。

    そのうち2匹はSea Worldへ運ばれ、健康状態、食事、成長の様子などを観察しながら研究される予定です。州政府の担当者は、ウミガメ同士のハイブリッド化は珍しいものの、すべてのウミガメ種で記録されたことがあると説明しています。

    また、クイーンズランド州では2014年以降、共同で行われている「Nest to Turtle Protection program」により、4万以上の巣が監視され、推定250万匹の赤ちゃんガメが安全に海へ向かったと紹介されています。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、ハイブリッドの赤ちゃんガメが、ただ珍しい存在として扱われているだけではないという点です。

    見た目の珍しさだけで終わる話ではなく、研究者たちは、その成長や体の特徴、生殖できる可能性などを慎重に観察しようとしています。

    ウミガメは、海を越えて長い距離を移動し、同じ海岸へ戻ってくる生き物です。
    その長い時間と移動の中で、異なる種類同士が出会い、まれにこうした存在が生まれる。

    亀の世界は、僕たちが思っているよりもずっと広く、複雑で、まだわからないことが多いのかもしれません。

    湯川亀吉の一言

    ハイブリッドのウミガメか〜!!
    オラ、わくわくすっぞ!!

    出典

    元記事:Queensland Government Department of the Environment, Tourism, Science and Innovation「Rare hybrid turtles hatched at Mon Repos」

  • 【亀ニュースアーカイブ】オーストラリアの不思議な淡水ガメ、洪水で繁殖地に大きな打撃

    【亀ニュースアーカイブ】オーストラリアの不思議な淡水ガメ、洪水で繁殖地に大きな打撃

    今回のニュース

    2025年、オーストラリア・クイーンズランド州に生息するメアリーリバータートルが、洪水によって厳しい繁殖シーズンを迎えていると報じられました。

    The Guardianの記事によると、2024年12月の洪水により、メアリーリバータートルの重要な繁殖地であるティアロ周辺では、そのシーズンの巣の約半分が失われたとされています。

    どこの国・地域の話か

    国・地域:オーストラリア、クイーンズランド州、メアリー川流域
    元記事の言語:英語
    元記事の公開時期:2025年4月
    情報の種類:過去アーカイブ・淡水ガメ・保護活動・繁殖地被害

    登場する亀

    今回のニュースに登場するのは、メアリーリバータートルです。

    メアリーリバータートルは、オーストラリア南東クイーンズランドのメアリー川に生息する淡水ガメです。記事では、総排出腔付近の構造を通じて水中の酸素を取り込むことができる、非常に特殊な淡水ガメとして紹介されています。

    ニュースの要約

    メアリーリバータートルは、すでに厳しい状況に置かれている絶滅危惧の淡水ガメです。

    The Guardianの記事では、この種の野生個体数は推定約10,000匹で、1960年代以降に個体数が約80%減少したと紹介されています。さらに、2024年12月の洪水では川の水位が大きく上がり、ティアロの重要な繁殖地で、そのシーズンの巣の約半分が失われたとされています。

    地域のボランティアたちは、20年以上にわたってメアリーリバータートルの保護に関わってきました。洪水の際には、一部の巣をより高い場所へ移すなどして、少しでも卵を守ろうとしたと報じられています。

    しかし、巣を守る活動だけで問題が解決するわけではありません。

    記事では、繁殖成績の悪化、生息地への影響、捕食、気候変動、そして若い個体が十分に成長していない可能性など、複数の課題が重なっていることも紹介されています。

    なぜ今、このニュースを紹介するのか

    このニュースは2025年の記事ですが、淡水ガメの保護を考えるうえで、とても重要な記録だと思います。

    ウミガメの保護では、砂浜や海岸が注目されることが多い。
    でも、淡水ガメにもまた、卵を産む場所があり、川の流れがあり、増水や洪水に左右される繁殖の時間があります。

    メアリーリバータートルは、川の中で静かに生きているカメです。
    でもその静かな暮らしは、気候や水位、人間の保護活動、地域のボランティアの努力と深くつながっています。

    亀好きとして注目したいポイント

    このニュースで注目したいのは、淡水ガメの繁殖地が、思っている以上に繊細だということです。

    川に暮らすカメは、ただ水の中にいればいいわけではありません。
    産卵できる場所があり、卵が流されない高さがあり、子ガメが孵化して川へ向かえる環境が必要です。

    洪水は自然の一部です。
    でも、もともと個体数が減っている種類にとって、ひとつの繁殖シーズンを失うことは大きな痛手になります。

    記事の中では、保護関係者が「毎年が重要だ」という趣旨の危機感を示しています。
    亀は長生きする生き物だけど、だからといって繁殖の失敗を何年も積み重ねていいわけではない。

    長く生きるからこそ、次の世代へつなぐ一回一回の繁殖が重いのだと思います。

    湯川亀吉の一言

    メアリーリバータートル。

    一度野生の個体を見てみたいぜ。

    オーストラリアから固有種の輸出を許可する未来が訪れますように。

    オーストラリアの亀をもっと知りたいよ〜

    出典

    元記事:The Guardian「‘Every year matters’: Queensland’s critically endangered ‘bum-breathing’ turtle battles the odds」